82話 紋所
「き、貴様、その家名を騙って、許されるとでも思っているのか?」
「騙ってないから大丈夫だね!だって本当だしね!」
一体、どういうことなんだろう。
「その家名がどのような方にのみ許されるかも、知っていてか?」
「勿論!」
いや、今までの話の流れを考えると……。
「私は旧『イズムルド王国』の最後の王朝、ドンスコイ朝の王家の、現当主だよ!」
ということは……。
「つまりアレだね。私が今の王様だね!統治なんて全くしてないし、なんなら共和化した今となっては、ただの一般市民だけどね!」
えぇ……。
「言うことなら誰でもできるぞ!そんな戯言、誰が信じるっ!」
確かに、パーヴェルの言う通り、言うだけなら誰でもできる。
「う~ん……じゃあ、これならどうかな?」
ボリスさんはそう言って、何かを懐から取り出した。
「なっ!?こ、これは……!!?」
ボリスさんが持っているそれは……ハンコ?
金色の素材に何か宝石のようなモノが埋め込まれている。
「黄金に、この大きさの翠玉……。偽物などではない……。き、貴様どこでこれを……!?」
「だから、これ私のなんだって」
ボリスさんは肩を竦め、口を尖らせながら苦笑いをしていた。
「まだそんなことを口にするか……王を騙る無礼者め!余が成敗してくれる!『アイスランス』!」
「『ツァルスキィ・インペラートル』」
ボリスさんの唱えた魔法がパーヴェルの「アイスランス」はまだ凝固する途中であったためか、生成されかけた氷はバラバラに砕け散った。
氷の柱を生み出すはずだったそれは、こちらから見える、荘厳な太陽柱を生み出していた。
「あ……あ……」
「『アイスランス』で氷を固めた後なら『マジカルドレイン』が発動する前に撃てると踏んだようだけど、さっきの、見てなかったの?ま、その前に私の魔法が発動していたから、『マジカルドレイン』でも良かったかも知れないけどね。それと、少なくともこの国の中じゃ、私に正面から戦って、勝てる人はいないと思うんだけど。……あ、そうだ」
呆然と立ち尽くすパーヴェルに、ボリスさんは飄々と続けた。
「この『ツァルスキィ・インペラートル』っていう魔法、これも私が王家であるという証明になると思うよ?この魔法は王の血を引き継いでいる者にしか使えない、特殊な魔法だし」
「そんな……馬鹿な……」
「この国の魔術魔法技能省の、王室魔術管理局に問い合わせてみるといいよ!この魔法についても多少は教えてくれるはずだよ!」
ここまで言ってようやく、疑心暗鬼な表情を浮かべていた周りの男達も、途端に青ざめてきていた。
「つまり、君が言っていたような論理に照らし合わせて見ると、君は……所謂『不敬』ってヤツ、かな?」
「グググギ……」
パーヴェルの歯ぎしりはもはや、彼自身の歯茎を傷つけていそうなほどであった。
「まあ、今回、私が直接関わったのはこの1回だけだし、今なら見逃してあげなくもないけど?あと、そろそろ血を流している彼らを治してあげないと、拙いかも……」
「ええい五月蠅いっ!もういいっ!王家など知ったことか!ここで貴様を葬れば何も問題は無いのだ!」
「はぁ、王家への忠誠だとか、正義がどうとか言ってる人たちに限ってコレだよ……タハハ」
冷静さなどを失った怒れるパーヴェルに対して、ボリスさんはヤレヤレといった風に笑った。
「消え失せろ!『ストームエッ……」
「『アサルトスパウト』」
パーヴェルの急襲に、ボリスさんは何でもないように対応した。
「マジカルドレイン」や「ツァルスキィ・インペラートル」のような特殊な魔法ではなく、相殺させるための、通常魔法。
……この人、さらっとやってのけたけど、「アサルトスパウト」は水準4の攻撃魔法だ。
風の飛竜のものほどではなかったけど、かなり威力のある魔法だった。
パーヴェルは断末魔を上げることすらなく、体中に小さな切り傷を刻み、その傷から血飛沫を飛ばして、横にきりもみしながら吹っ飛んで行った。
「『エンハンスヒーリング』……っと、他の人にも一応掛けておこうかな」
ボリスさんはパーヴェルに回復魔法を掛けたあと、傷ついていた2人の男に同じ魔法を掛けていった。
「もうこんなことするなよ~」
「ヒィッ……」
男たちはボリスさんに怯え、無様な走り方をして逃げ去ってしまった。
「で、君のことなんだけど」
「クソ……」
そしてボリスさんはパーヴェルに向き直った。
「今が王制時代なら即死刑でもおかしくなかったけど、今は違うからね。然るべきところに連れて行って、裁いてもらうことにするよ。ま、今が王制じゃないだけで、王室に歯向かったんだから、タダでは済まないかもしれないけどね。そして最後にもう一つ」
「何だ……」
「君がここの騎士や自警団を脅した上、賄賂を渡してこの現場に来させないようにしていたことも勿論分かっていたから、それも改めて言っておくね!」
「なぁっ……!?」
「分からないとでも思ったかい?彼らの中に、ちょっとした知り合いがいるんだ。たまたまこの街に用事があって来たら、その人にそんなことを伝えられてね」
「ボリスの旦那~!」
そう言うと同時に、ボリスさんの後ろから、この国の騎士と見られる人たちが来た。
そしてその人たちはパーヴェルを連行していったのだった。
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