79話 4対6
数で負け、更にその中の1人は自分たち個々の魔法の技能よりも上。
最後の最後で、こんなに面倒なことになってしまうとは。
後ろに退いて、「銀の街」のどこかから抜けることも考えたけど、相手の数が多いので、おそらく上手く逃げ切ることはできないだろう。
「へっへっへ……」
男らはジリジリと、下衆た笑みを浮かべながら近づいてくる。
「『エリアヘイスト』……、『エリアストレングスアップ』……」
そして胡桃はただ静かに、範囲強化魔法を掛けた。
強化魔法の効果は時間が経つにつれて薄くなっていく。
つまり、長期戦になるたびにこちらが不利になる。
また、後手になれば数で負けている分、不利にはなるだろう。
「……!」
「!」
なのでアイコンタクトを取り、こちらから仕掛けることにした。
「「『サイクロンカッター』!!!」」
まず初めに、自分とアズハが風魔法の攻撃魔法を行う。
この魔法であるなら範囲に対して攻撃ができ、少数対多数でも効果的に攻撃できる。
「『ウィンドカッター』!」
「『エリアマジカルガード』!」
「『クロスマジカルガード』」
「ぐぅあぁ……!!!」
男2人が「ウィンドカッター」と「エリアマジカルガード」を、パーヴェルが「クロスマジカルガード」を使い、防御を行った。
しかし「エリアマジカルガード」の範囲内に入っていなかった魔法が使えなかったであろう男が風の刃をもろに受け、その腹から血が出ていた。
「貴様ら……卑怯な!」
「多数で押し寄せといて、何が卑怯だっ!」
こいつらは正義ごっこなのか何なのか、遊びのつもりでやっているらしいが、こちらからしたら生死を分ける戦いだ。
対人だからといって、相手を痛めつけないようになんて、手加減できるはずもない。
「おらぁッ!!!」
「なっ……!?クッ……」
ミハルは「エリアマジカルガード」を使った男に切りかかる。
男は驚いてはいたが、それをすぐさま回避し、腰に付けていた短剣を構えた。
キンッカァンッ……!!!
「テメェッ!!!」
そしてまた別の男が加わり、2人の男とミハルは剣と剣での戦いになっていった。
「『ウィンドカッター』!」
先ほど「ウィンドカッター」で「サイクロンカッター」を相殺した男が同じ技で自分を攻撃してくる。
「サイクロンカッター」で力押しすることも可能だったが、ミハルが前に出てしまい、巻き込まないためにその技は使えなかった。
「『ブラスト』!」
その為、別の技で対応する。
「しゃらくせぇっ!『サイクロンカッ……」
ヒュンッ!!!
「うがぁっ!?」
「させない」
また別の男が男の仲間らを巻き込んでもと、「サイクロンカッター」を使おうと腕を上げて唱えようとしたとき、胡桃がその矢で腕を貫き防いだ。
「オラァッ!!!」
「クソ……」
2対1で男らの剣を捌いていたミハルが疲れを見せてしまい、相手をしていた片割れに切り裂かれそうになった。
「『アイスニードル』!」
「ぐぃっ……、あっ」
ドサッ……。
カランカランカラン……。
そのとき、剣を振り下ろそうとした男はアズハが唱えた魔法を避けようとして、倒れ、剣が手から離れてしまった。
「くっそがぁ……」
「『アイスニードル』!」
「!?」
カランッカランッ!
男がその剣を取り戻そうとし、その剣を自分が弾き飛ばした。
「止まれ!」
これでいいだろうと、大声を出し、敵味方に制止を促した。
「どうした?」
パーヴェルは未だ、尊大な態度を崩してはいなかった。
「貴方を含めて6対4で戦って、そちらの2人を完全に無力化、更にもう1人もほぼ無力化した。こちらは誰も失っていない。もうどちらが有利か、決まったようなもの。こう言われて、まだ気づかない訳じゃないだろう?」
「ふむ……。それで、無駄な戦いを止めよう……、と?」
「ああ」
周りを見ると、「サイクロンカッター」を受けた男は喘息が如くコヒューコヒューと息を弱らせ、矢に腕を貫かれた男は小さく唸り声を上げていた。
剣を弾き飛ばされた男は、地面に這いつくばりながら、悔しそうにこちらを睨みつけていた。
「まあ、確かにそうだな。貴様らは無傷、それに対し、余の用心棒どもは半数が地に伏せている。だから、余も今回ばかりは引こう……」
パーヴェルは伸びた口ひげを撫でながら言う。
「……と、言うとでも思ったか?」
パチンッ!
そしてパーヴェルは嫌らしく嗤い、指を鳴らした。
「―――ッ……!!!」
声にならない悲鳴を上げたのは、胡桃だった。
「ゲヘゲヘゲヘッ……」
後ろには男が彼女の首にナイフをあてがい、下品な声で笑っていた。
「くっ……このっ……!」
胡桃は抵抗を試みたが抜け出せないでいる。
彼女もまだ「エリアストレングスアップ」の効果が残っているはずだが、拘束している男も「ストレングスアップ」の力を使ったのか、男自身はそこまで筋肉が付いているようには見えないが余裕の表情をしていた。
「動くな。余の方が明らかに優勢であろう?」
「何がお前をそこまでさせるんだ……」
「余を愚弄したのが貴様らの運の尽きというやつだ」
そう言い、パーヴェルはクククと笑った。
「何をすれば、いい……?」
「貴様らと最初に会った時に言ったはずだ。『裁く』、と。貴様らをここで余の手によって手を下すことによって、この世は治まるのだ」
なんて自己中心的な……。
そして周りの男らも、先ほどの不服そうな顔はどこへやら、傷ついた仲間など無視して、ニヤニヤと笑っている。
周りを見ると、ミハルは男らを睨みつけ、胡桃とアズハは青ざめている。
ミハルは家族を喪い、これからその後悔と悲しみを埋めるため、生きていくべきだ。
アズハは、母の病を治すため、こんなところで死ぬわけにはいかないだろう。
胡桃は……、前の世界では、彼女自身あらゆる努力が彼女自身に帰ってくることは少なく、どの世界線でも生きていたルートはなかった。
だから彼女には改めて、ただ、生きていて欲しい。
それに対して、自分、自分は……。
「話が、ある」
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