73話小話10
小話です。
「香り花の山と月見草」
「香り花の山」、そこは、「連合の府」に最も近いとされている山。
様々な花が咲き乱れ、春になるとその山から花の香りが漂うとも言われるほどらしい。
山に住み着く動物という意味では、危険のない山だと言える。
しかし、山の険しさは、比較的に険しい方だと言われている。
少なくとも、登山初心者には勧められない程度には。
致命的なほどの危険の宿る場所は崖など、一部のみに限られるが、怪我をして、帰還することを推奨されるほどの深い傷を負うことはあり得るらしい。
山には3日掛けて登りきると言われるような、比較的長距離である山道の存在する山だ。
それほどの危険度の強調をされてしまうのも頷ける。
そんな山の頂上付近に、私とアズハちゃんは来ていた。
「遂に、辿り着いたね……」
「クルミが落ち着いてあと数日遅らせていたら、2日目に雪に降られることもなかったんだけどね」
「ハハハ……」
言う子だなぁ……。
男子2人の前では「元気っ子」って感じだったけど、私と2人でいると、砕けて来たのか、素が出ているのか、アズハちゃんのある一面は、「結構言うこと言う」子というイメージが付いてきた。
……。
「これが、『月見草』……」
薄紫の花を咲かす「月見草」を見つけたアズハちゃんは、感嘆の声を上げていた。
私の世界の「月見草」といえば、夏場に1日だけ咲くという花だった気がする。
しかし、この世界の「月見草」は、一年中、毎日ずっと咲き続ける花らしい。
「この花があれば……母は……」
アズハちゃんの目には、熱い思いがこもっていた。
私や桜木君も、この花があれば帰ることが出来る。
「帰る」……か。
「秋華滝」でした話、私は一体、心のどの部分で桜木君に話したんだろう。
桜木君の話からするに、私は桜木君の世界に行った方が生き残る確率は高いと思う。
私はかなりの確率で、あの世界では死んでしまうらしいし。
でも本当は、
本当は……。
この一年弱の旅を通して、さまざまな経験をした。
訳も分からず平原に現れて、桜木君に会って、助けてもらって。
宿屋で働いて、旅に出て、獣の森に行って、死にかけて。
国境を越えて、いろんな話をして、帰り道でまた死にかけて。
「月見草」。
花言葉は、「無言の愛情」と「移り気」。
私のこの気持ちは、そのどちらなんだろう。
真の心か、ただの吊り橋効果か。
私の「帰り道」は、この心を入れて考えるべきか、そうでないのか。
「私はもう採ったよ。クルミは?」
「私も大丈夫。土の魔法で根も固めたし」
「そっか。じゃ、帰ろ」
桜木君と会うまで、最低帰る転送魔法を使うまでには、ちゃんと考えておかないと。
今朝開けた、桜木君に貰ったカイロが、まだ暖かいままだった。
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