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73話 海帰路

次の日。


朝陽が出る前の少し前の時間帯。


自分とミハルさんは起き、どう「向日葵」を回収するか、思案していた。


というのも、帰るための転送魔法に使う「向日葵」は、切って採ればいいというものではない。


ちゃんと生えた状態で、持ち帰らなければならない。


転送魔法ではその状態ではないといけないらしい。


「どうします?」


「といっても、根の末端まで調べて、周りを掘って取り出すしかないんじゃないか?」


「やっぱり、それしかないでしょうかねぇ……」


2人でウンウン唸って考えていると、風の飛竜が起きて、こちらへとやってきた。


「『向日葵』を掘り出す方法を考えておるのか?」


「はい……。『向日葵』を生えたまま、綺麗に取り出すのが少し難しくって」


「ふむ。少し下がっておれ」


「はい……?」


「掘り出してやろう。なに、お前と似たようなことをしようとした者を我は知っておる。勿論、掘り出したこともある」


「いいんですか……?」


「美しさの一部を持ち去るのということを憶えておけとは言ったが、掘り出すことを手伝わないと伝えた覚えはない」


そう言って、風の飛竜は自分たちが「向日葵」から離れたのを見て、魔法を掛けたようだ。


ズボッ!


「これでよいか?」


「あの~……、申し上げにくいんですが……、もう1……、いや2本、お願いします」


風の飛竜は「向日葵」を1本だけ掘り出してくれたが、必要なのは2本だ。


ではなぜ、計3本も貰うことにしたのかというと、それは自分が不安症なので、予備として貰うことにした、ということだ。


「うむ、分かった。あと2本だな」


風の飛竜は自分が言い淀んだことなど気にも留めず、更にもう2本、「向日葵」を掘り出してくれた。


……。


「これでいいな」


「ありがとうございます」


掘り起こした「向日葵」の根を、土の魔法によって纏めて持ちやすいようにして担ぎ、風の飛竜に礼を言う。


「このくらい、礼などいらぬ」


風の飛竜は既に自分たちに興味を失ったと言わんばかりに呆けるように遠くを眺め、言葉の対応も、粗雑なものになっていた。


「知っているかも知れんが、『向日葵』は寒さに弱い。火の魔法などで暖めておけ。直接暖める魔法は『向日葵』にとってあまり良くないのでな」


最後に風の飛竜はそれだけ言うと、朝焼けの空に飛んで行ってしまった。


「それじゃあ、ベルクさんを呼びますか」


「そうだな」


「ふぅ……『ファイアボール』!」


手から出た火炎弾は、空高くまで打ち上がって消えた。


そして、2人は下の停泊所まで「ヘイスト」を使って降りることにした。


……。


停泊所に来て、十数分が経った。


「もう一度、『ファイアボール』を打ち上げた方がいいですかね……?」


「いや、その必要はなさそうだ。ほら、あれを見ろ」


ミハルさんが指差す方には、小さな点があった。


その点は少しずつ、こちらに向かって、大きくなってきていた。


暫くすると、それが来るときに乗ってきていた船と同一のものであると確認できた。


「よう!なんか怪我しているみたいだが、取り敢えず生きてるみたいだな!」


更に船が近づき、その船の主が大声を出して呼びかけてきた。


「はい!なんとか生きてます!」


「大丈夫だ……!」


ミハルさんは低い声ではあったが、戦闘中以外ではもっとも大きな声で、そして動かせるほうの腕を上げて応えていた。


「ほいだら、とっとと乗れ!すぐに帰るぞ!」


そう言われ、船に飛び乗った。


……。


「ふぅ~……。『風の飛竜の巣』の周りの天気が怪しかったからな、急かしてすまんかったな!それにしても、早ぅ出れて良かったな。あの中に居たら船が、潰れよったかもしれん」


ベルクさんが顎で船の後方を示す。


見ると、「風の飛竜の巣」の周りには、暗い積乱雲のような雲が立ち込めていた。


「まああの雲と風のおかげで、多少は早く帰れるかも知れんけどな!」


船の帆はその風を目一杯に受けて張り、船はかなりの速さで進んでいる。


「ところで大丈夫か、お前……?」


「オロロロロロロロロロ……」


横では、行きの始めを思わせるように、ミハルさんが吐いていた。


「『エンハンスヒーリング』……。まあ、大丈夫じゃないですかね……?行きのときも、案外すぐに慣れていたような気もしますし、この大風が作る波の揺れのせいでしょうし、風が止めば元に戻ると思います」


「オロロロロロロロロロロロロ……。……ぉえっぷ」


「本当に大丈夫かぁ……?」


……そう願うばかりだ。



「風の飛竜の巣」を出て、1週間くらい経った。


「オロロロロロロロロロ……」


「全然大丈夫じゃねぇじゃねぇか!」


「あははは……、そうですね。……ミハルさん、『エンハンスヒーリング』、掛けます?」


「頼む……。うぅえぇ……」


「分かりました。……『エンハンスヒーリング』」


結局のところ、この大風、大波とその揺れが止むことは一度もなく、ミハルさんがこの揺れに慣れることもなかった。


「ミハルさん、あともうすぐで、本土に帰れますよ!」


「……うぅえぅっぷ……」


しかしながら、行きは2週間掛かったのに対し、帰りは1週間で帰れることになった。


もしかしたら、あの積乱雲と風は、あの風の飛竜が起こしたものかもしれない。


「風を使って帰してやる」と言っていたし。


やり方ってものもあるだろうに……。


本土の大陸が見えるさなか、風の飛竜は災害並みの魔法も使えるのかと、戦慄するのであった。

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