69話 因縁
書けたので投稿いたします。
「親父……の……」
そう言ったミハルさんの目は、とても正気であるようには見えなかった。
「……」
ミハルさんは再び黙り込み、しゃがんでその剣を手に取った。
その剣を覗き込んだミハルさんは黙ったままだったが、ギリギリという音が聞こえそうなほど、口元を食いしばっていた。
そしてユラリと立ち上がり、炎の飛竜の方へと向いた。
「シャァァァ……」
炎の飛竜は「ファイアボール」を撃とうとした際、自分の放った「ウォーターボール」が命中したのか、鬱陶しそうに首元を振りながら唸っていた。
そして炎の飛竜は再び、突進の構えを取った。
炎の飛竜はミハルさんの方を向いている。
「『アイスジャベリン』!」
すぐさま牽制。
氷の柱は高速で飛竜の身体へぶつかるが、刺さることなく砕け散り、炎の飛竜はそのまま怯むことなく突進をし始めた。
「……」
ミハルさんが何かを呟いたようだったが、何かは聞こえなかった。
その後に、炎の飛竜はミハルさんに衝突した。
「ミハルさん……!!!」
思わず叫んでしまう。
脳裏に最悪の想定。
しかし自分が思った結末と違う光景が、そこにはあった。
「キシャァァァアアア!!!」
炎の飛竜は怯み、ミハルさんは立ったままだった。
ただミハルさんはその片腕から、強烈な光の壁を生み出していた。
「そ、そういえば……」
ミハルさんは確か、D種の魔法の水準が1から2に上がっていたんだっけ。
そういうことなら今、使った魔法は「ロバストガード」、か。
「ロバストガード」は狭範囲物理防御魔法、「クロスフィジカルガード」の上位魔法だ。
広範囲物理防御魔法、「エリアフィジカルガード」の魔力を全て、自分の周囲のみに圧縮して展開できる防御魔法だ。
炎の飛竜が突進と衝突によって巻き起こした土埃が収まり、ミハルさんの表情が見える。
精悍な目つきをして、飛竜に相対している。
「グシャアアアアアアァァァァァァアアアアアア!!!!!!」
炎の飛竜も、ミハルさんの展開した防御魔法に対して多少イラつきを感じたのか、軽く咆哮した。
しかしそれにはミハルさんは動じず、持っていた剣と今、手にした剣を二刀流にして構えて振りかぶる。
どちらも両手剣であり、通常の状態ならまともに持てるものでもないが、それを可能にしているのは強化魔法であるのか、それとも執念なのか。
「ギシャアアアァァァアアアアアア!!!!!!」
炎の飛竜が哭く。
気づいた時にはミハルさんは、二筋の閃を放ち終わっていた。
一本は胴か首か、その曖昧なところを。
もう一筋は翼の膜を。
ミハルさんの腕を動かすのは十中八九、強化魔法によるものと考えられるが、それでも執念によって動かされていることも、あながち間違いではないのではないかと感じるほどの太刀筋だった。
深く切り裂いたのか、鮮血が飛び散っていた。
「グルルルルルァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
その痛みに対し、明確に怒りを露わにしたのか、炎の飛竜は踏ん張り、思い切りその尾を振り抜いた。
衝撃の音は飛竜の咆哮にかき消えていた。
ヒュッ……ドッ……。
こちらからでも聞こえたのは、ミハルさんが宙を舞う風切り音と、岩の壁にぶち当たった音だった。
「クッソ……『アイススピア』!」
放ったのは「アイスニードル」の上位魔法の1つ、「アイススピア」。
速度と飛距離に重きを置いた「アイスジャベリン」とは異なり、威力に重きを置いた魔法だ。
多少「アイスジャベリン」より遅くとも、炎の飛竜が攻撃した後であり、命中精度と速度に拘らないのなら、威力の方が重要だ。
ザァンッ……!
威力を高めた氷の柱は翼を掠る。
「グルルアアアァァァ……」
放った氷の柱が掠った場所は、既にミハルさんが一閃したところに近かったのか、炎の飛竜は仰け反り唸った。
そしてすぐにこちらに注意を向けた。
炎の飛竜は「ファイアボール」の用意をする。
「くっ……『エンハンスガード』!」
D種2の魔法である、強固な魔法障壁を展開する。
これは「クロスマジカルガード」の上位魔法であり、堅牢な物理障壁を展開する、「ロバストガード」に対応する魔法だ。
ドガアアアァァァン……!!!!!!
炎の飛竜の放った「ファイアボール」は魔法障壁の前で轟音と共に爆散し、消滅する。
その後に見たのは、こちらへ突進してくる炎の飛竜の姿だった。
「『フラッシュ』!」
魔法で閃光を放ち、すぐさま回避する。
「はぁ……はぁ……ミハル、さ……」
ミハルさんのところに駆け寄る。
「ぐぅ……ふっ……」
どうやら、息はあるようだった。
「回復、させますね……、『エンハンスヒーリング』……」
息があるなら、することはこれしかなかった。
ミハルさんの身体が光に包まれた。
「大丈夫ですか……?」
「……はぁ、あ、あぁ、なんとかな。助かった……」
「ミハルさん……もう、逃げて帰りましょう。今ならまだアイツは、目が眩んで混乱してますから」
「俺は……、残る」
「残って、どうするっていうんですか」
聞く意味のない質問を投げかける。
「勿論、戦うさ。俺は……、俺はアイツを……。ここの群れが、俺の……だから……」
予想通りの返答。
「はぁ……」
あまりにも予想通り過ぎて、嫌になって溜め息も出てしまう。
「……分かりました。僕も手伝いますよ」
「ナオトは、逃げてもいいんだぞ」
「こんなところでミハルさんを見捨てたとなったら、2人に言うことも、合わす顔も無いですよ」
「そうか……」
「……それに、もうヤツの目が元に戻り始めてます」
「それは、すまないな……」
「謝るのは、僕が死んでからにしてください」
「笑えないな」
「なら、笑い話にしてください。帰り道のときにでも」
「……分かった」
そして自分たちは、再び炎の飛竜と相対すのであった。
明日から少し多めに投稿して、最終回まで駆け足で行こうと思います。
水曜日4回、その他の日2回投稿とは何だったのか。
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