68話 遂行
「炎の飛竜の鱗」は割とそこら中に転がっていたので、比較的綺麗な数枚を採り、カバンに入れた。
「取り敢えずこれで自分の目標は達成しました。あとは風の飛竜から頼まれた、出来るだけ卵を壊すってことをすれば……」
そのときだった。
―――――……!!!!!!!
遠くで竜の咆哮が聞こえた。
その声は1頭分のものではなく、複数の竜が咆えているような感じだった。
「……気づかれたな」
「卵を巣、1つ分だけ壊してすぐに帰りましょう。洞窟なら土地特性から、ある程度持ちこたえられそうですし、夜まで持ちこたえたら竜の数は減るでしょうし」
「そうだな。風の飛竜も時間稼ぎをしてくれていることだろうしな」
そうと決まれば、自分たちがすることは1つだけだ。
……。
グシャァッ!
「これで、ここにある卵は最後ですね」
近場にあった巣の中にあった複数の卵を壊し、その殻をカバンの中に入れた。
「ああ。それじゃあ、とっとと帰―――」
「人間ども、『風の飛竜』だ」
「「!?」」
唐突な声に、周りを見渡してその姿を探してみても、風の飛竜の姿はなかった。
「思念を飛ばしているのだ、貴様らからは我が見えんだろう。そして我は貴様らの声が聞こえはせんということを、先に伝えておく」
風の飛竜はそんなこともできるのか……。
「時間がないから用件だけ伝えるが、貴様らが『炎の飛竜』と呼ぶ奴らが戻ってきた。我が足止めしていたが、1匹取り逃し、もうすぐそちらに着くだろう。どうにかしろ」
「どうにかしろって……」
風の飛竜の言葉にゲンナリとしていると、バサッバサッという風音が聞こえてきた。
「……来たぞ、構えろ」
「本当にすぐだったな……」
そしてその竜はドスンという音を立て、その場に着地した。
「シャァァァアアア……グルルルル……!!!」
そのあと、軽く威嚇するかのような声を出した。
ミハルさんが構えろと言ったのは、飛竜の着地した場所が帰り道を塞ぐ位置だったためだ。
「ミハルさん」
「ああ。怯ませて、その隙に脱出する。そうだろ?」
「はい!」
ミハルさんは冷静だった。
既に目的のモノは全て採集し終わり、あとは帰るだけ。
それに、目の前にいる炎の飛竜が実際にミハルさんの故郷と家族を襲った竜と同一の竜かどうかは分からない。
更に言えば、1頭だけだとはいえ、飛竜と人間では圧倒的に戦力に差がある。
そういった事実が案外、ミハルさんを冷静でいさせているのかもしれない。
「来るぞ!避けろ!」
「くっ……!」
ドガアアアァァァン……!!!!!!
避けた後ろの壁には、炎の飛竜が口から出した「ファイアボール」が着弾し、爆発した跡が残っていた。
「『アイスジャベリン』!」
ヒュンッ……!
パリィィィン……。
「当たらないか……」
自分が放った氷の槍は、炎の飛竜の頭の横を通り抜け、壁に当たって砕け散った。
炎の飛竜は動じることなどなく、ゆっくりと「ファイアボール」を撃った姿勢から戻った。
「動けなかった」のではなく、「動かなかった」。
最初から自分の「アイスジャベリン」が当たらないと思っていたのだろう。
クソ……。
一応当たれば、とは思っていたし、何なら頭、いや目に当たればいいかな、なんて楽観視していたが、炎の飛竜からすれば、何も気にすることでもないようだった、ということだ。
「スゥゥ……ッグシャアアアアアアァァァァァァアアアアアア!!!!!!」
「「……ッ!」」
炎の飛竜は息を吸い、衝撃波を伴ったような爆音の咆哮をあげた。
自分もミハルさんも耳を塞いで、耐衝撃の姿勢をとった。
嗚呼、鼓膜が破れそうだ。
「グルルルァァァァ!!!」
炎の飛竜は咆哮した後、姿勢を低くした。
「突進してくる!」
そう叫んだ時には既に、炎の飛竜はこちらにドスンドスンという音を立ててこちらへ走ってきていた。
飛竜は翼のある動物で、足も四本ではなく二本であり、陸を走るのは得意ではないと、「風の飛竜」は言っていた。
しかし、それでも大きな体を持った動物。
普通の人間からすれば、その速さは途轍もないほどのもの。
「走るのが苦手」なのは、四足歩行である風の飛竜などの大型動物と比べての話だ。
こちらが普通に走って避けようにも、間に合わないだろう。
なら、「セルフヘイスト」を使うか?
しかしそれでも間に合うかは分からない。
ならば他の方法で、この状況をどうにかするしかないだろう。
「『エリアフィジカルガード』……!」
なるべくミハルさんの場所まで届くように範囲を考え、その魔法を唱えた。
ド、ン……!!!
「くぅ……」
「うぅ……」
防御魔法で物理障壁を張ってはいたけど、その限界値を少し超えてしまったのか、2人ともノックバックをしてしまった。
「おらぁっ……!!!」
ミハルさんが飛竜の翼に切りかかり、その脇へ抜けた。
「アイスニードル!」
自分も氷の棘で牽制をしながらミハルさんとは逆の方向へ逃げた。
「ガァ……!」
炎の飛竜は2人の攻撃を受け、唸り声を上げる。
そして逆方向に逃げた2人はそのまま、広場状の窪地から溝状の道へと走った。
バリバリバリ……。
走っている後ろから、木かなにかが割れる音がする。
「……なっ!?」
何か嫌な予感がして、振り向くと、その炎の飛竜は瓦礫をくわえ、その首を大きく振りかぶった。
「ミハル、左に避けろ!」
思わず敬称を付けずに叫んでしまった。
ドガァァァアアアン……!!!
その瓦礫の塊は外へ出る道の上、トンネルの天井部分になっているところに当たった。
バラバラバラバラ……パラ…パラパラ……。
そしてその瓦礫はトンネルの天井部分の崩落に伴って、土埃を巻き上げながら落ちていき、更にその土埃が視界を遮った。
しかしその中に、立つ人影の姿。
どうやらミハルさんは敬称を抜いて叫んだ甲斐があってか、瓦礫には当たってはいなかったらしかった。
「ケホッケホッ……。そう簡単には、ケフッ……返してはくれないようですね……」
土煙に咽ながら、ミハルさんがまだいる安心感を隠すようにある種の軽口を言った。
「……」
しかしこの軽口に返すこともせず、ミハルさんは地面の何かを見つめていた。
「……チッ、『ウォーターボール』!」
これは拙いと思い、炎の飛竜の方へ向け、魔法を放った。
これでミハルさんに呼びかける時間はできるだろう。
「ミハルさん!?」
「……」
呼びかけても、ミハルさんは地面のものを黙って見続けていた。
「これは……」
土煙が晴れて、地面にあるものの姿が見えた。
それは、炎の飛竜が集めたにしてはまだ綺麗に残っている感じのする、煤を被っている剣だった。
そして、ミハルさんはポツリと呟いた。
「親父……の……」
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