表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/105

65話 風の飛竜

「……」


「……」


風の飛竜が目の前で滞空しているが、その翼から出ている風以上の強めの風が、この竜が引き起こしているのか、ずっと吹き続けている。


2人とも、緊張の中、臨戦態勢を維持したまま、じっと風の飛竜を見ている。


こちらから動き出せば、確実に負けると本能的に感じられた。


そのときは、たった数秒だったのか、それとも数十分だったのか、自分にもよく分からなかったが、この場の緊張感に押し潰されそうになっていた。


「ふむ……悪くない」


どこからか聞こえた声。


顔自体は風の飛竜に向けたまま、目線だけを動かし、その声の主を探そうとしたけど、ここには自分とミハルさん、そして風の飛竜だけしかいなかった。


「ああ、我だ。貴様らが『風の飛竜』と呼ぶ、目の前の存在こそが、この声を発しているのだ」


目線を風の飛竜に戻すと、風の飛竜は頷いた。


「どうやって、声を……」


「うむ。知能の高い存在は、魔法を使える。我もその存在の中にいる、ということだ。魔法で思念を伝えるということは、我々にとって、造作もないことなのだ」


風の飛竜はそう、思念を伝え、ゆっくりと地に足を付けた。


自分でも、何故初めにそんなことを訊いたのかは分からない。


気でも動転していたのだろうか。


しかし、その質問と、その返答のおかげか、2人がしていた押し潰されそうな緊張は、解けたような気がする。


いや、今から風の飛竜が何をするのかは分からないので、最低限の緊張こそしてはいる。


「人里に現れることが比較的に多い、人間どもが『炎の飛竜』と呼ぶ奴らは、そこまで怜悧さを持ち合わせてなどおらぬが、な」


が、この飛竜の対応からして、すぐさま戦闘に移るということはなさそうだ。


「して、要件はなんだ?ただ偶然現れただけ、というわけでもないだろう?」


今度はミハルさんが風の飛竜に対して尋ねた。


「ふむ、いつも人間は急かしよるな」


飛竜はそっぽを向くように向日葵の花々を眺め、そう伝えた。


飛竜は向き直り、続けた。


「まあよい。1つ、聞きたいことがある」


「なんだ?」


「貴様ら、これから人間どもが『炎の飛竜の巣』と呼ぶ島に行くつもりか?」


「ああ」


ミハルさんは短く返した。


この風の飛竜は何故、こんなことを訊くのだろうか。


意図が読めない。


「ならば1つ、頼みたいことがある」


「頼みたいこと……」


「そこに行くというのなら、貴様らが『炎の飛竜』と呼ぶ奴らの、間引きをして欲しい」


「間引き?」


「奴らは年々その数を増やし、近年、この島を脅かすことも多くなってきたのだ」


それで、その数を減らすのを手伝えということか。


でも……


「それなら、あなたがやった方が早いのでは?」


浮かぶ当然の疑問を口にした。


「使えそうな者がいるなら頼む。普通のことであろう?それに、やって来るのを迎え撃ち、そのときに倒すという意味では、既にやっておる。また、我は風を操るのに長けておるが、奴らは炎を使い、そして群れる。数の少ない我らとは、あまり相性がいいとは言えんのだ」


まあ、そんなもんか。


「俺たちがやる意味は?」


ミハルさんも、彼が思ったことを訊いたらしい。


「貴様らは恐らく、この地の花を欲しているのだろう?」


「そうだが……」


「それを我が邪魔をし、貴様らを追い返すか、その息を絶つと言えば?」


「……」


「……」


その言葉に2人とも息を呑み、自然と風の飛竜を睨みつけていた。


「まあそんな顔をするな。だが、他にも貴様らには良いことがあるやもしれん」


「それは……?」


「最近、奴らが大陸の方へ飛んでいくのを見た。おそらく、人里でも襲ったのであろう。普通の動物の他に、人間が使う装飾のようなものや、建材も見られた。島の中の巣にでも使うのだろうな。奴らを間引けば、そのようなことも減るやも知れんぞ?」


「そう、ですか……」


「……」


ミハルさんの顔に少しだけ、苦いものを味わったような色が出たような気がした。


「そういえば貴様ら、船で来ておったが、奴らを間引けば、その帰り道に風を起こし、帰りを少しばかり助けるのもやぶさかではない」


飛竜の方も、決して条件を提示しない、というわけでもなかったようだ。


「とはいえ、間引くといっても……どうすれば?炎の飛竜と戦うとなると、僕たちでは流石に太刀打ちはできないと思いますが」


ついでにこういうことも聞いておこう。


「ふむ。別に貴様らには飛べる奴らと戦え、などとは言ってはおらぬ。間引いてほしいのは、卵だ。連中は島に暮らしており、その島には敵という敵はおらぬ。だから、外で活動する昼に見張り役のようなものもおらぬ。その時に行き、壊せばいい。当然、我が卵を壊そうと行けば、この図体では気づかれるのでな」


そのための自分たちか……。


「しかし、僕たちが行っているときに偶然、炎の飛竜が戻ってくることはあり得ますよね?」


「その時は我が足止めをしよう。まあ、あまりに多ければ捌ききれぬかもしれぬが……な。悪いとは思ったが、いざというときに帰って来られるかどうかを知るため、先ほど、風の脅かしで試させてもらった」


あの風はそういうことだったのか……。


「しかして、全ての卵を壊せ、などとも言わん。時が許す限りで良い。あとはそうさな……、確認としては、卵の殻を持ってくればよい」


「……分かりました。その代わり、向日葵と帰りの風はお願いします」


「ああ、我らが誇りに誓って」


「いいですよね、ミハルさん」


「問題ない」


こうして、この旅の行うべきことが1つ、増えてしまったのであった。

良ければ是非ともご評価・ご感想を頂ければと思います!

ブックマークもお願いします!


書く気力に繋がります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ