64話 風の飛竜の巣
いつもより長めかもです。
「風の飛竜の巣」に降り立って、道なりに進んでいる。
船を降りる前に、ベルクさんに向日葵が島のどこにあるか聞いたところ、島から出ている道を辿ると着くらしい。
道と行っても、「獣の森」のときと同様に、ほぼほぼけもの道のようなものらしいが。
「案外、道は綺麗ですね」
「そうだな。歩きやすくて助かる」
自分が想像していたのは、「流れ者」が数年、十数年に一度来るくらいだから、かなり草木が道を自然に戻そうとしているのかと思っていたけど、そうでもなかった。
そういえば、ここには観光客が来るなどとも言っていたっけ。
この島には、この国にとっては希少な花、向日葵が自生している。
その花を研究用か観賞用か、採りに来るために人が訪れているのかもしれないな。
「この島、静かですね」
「ああ、そうだな」
この静けさは、これまた「獣の森」……その奥の谷、「静谷」を彷彿とさせる。
感じるのは風が木々を擦る音と、遠くで感じるさざ波の音だけで、鳥や原生生物の鳴き声、小動物が大地を掛ける音などは全く聞こえない。
「静谷」のような殺気のような、生きた動物から感じられる緊張感は無いものの、自然の雄大さというか、荘厳さのような、動物から感じられるそれとはまた違った緊張感が感じられた。
「2人っきりだね……」
「は?」
「なんでもないです、すいません……」
唐突にありきたりなボケをしてみたが、ミハルさんはノってくるわけでも、ツッコんでくるわけでもなかったので、ミハルさんの声に対して反射的に謝ってしまった。
「……」
「……」
2人とも、普段から無口であるのも相まって、場を静寂が支配する。
時折強く吹く風が、少し鬱陶しく感じられた。
この道というのも、両側に崖がある……というか、ここは窪地に生えている木々の真ん中あたりに道がある、と言った方が正しいか。
ビル風や谷風のような具合で、突風が吹くのだろうか。
道は緩やかな登りの坂道で、うねる様に左右に曲がったりしている。
長い道ではないようで、道も険しくはないが、じりじりと体力が少しずつ減っていく気がする。
「そういえば、ミハルさん」
「?」
このまま無言で歩き続けるのも気疲れしそうなので、以前気になったこと、それも、2人きりでなら聞けそうなことを聞いてみることにした。
「ミハルさんは、アズハのこと、どう思っているんですか?」
「……どういうことだ?」
ミハルさんは怪訝な表情を浮かべた。
「別に、冷やかそうって訳じゃなく、純粋に以前から疑問に感じていたことだったんですけど……」
そういうと、ミハルさんはその怪訝な表情を緩めた。
「アズハと初めてあって、彼女の家に行ったとき、かなり、その……、動揺していたような気がして」
「……」
そう続けるが、ミハルさんは黙ったままだった。
「それに、アズハを見ている目が、何でもない他人をみるような目でも、……こういうとなんですが、惚れているような目でもなかったような気がしたので……」
「そうか……。分かっていたか……」
「分かっていた、って程でもないですけど……」
言って、ミハルさんは一息吐いて、話し始めた。
「まあ、ナオトならいいだろう。……アズハは、俺の妹に似ているんだ」
「妹さんって……」
「そうだ。俺が家出をした後に……」
ミハルさんは少しだけ目を瞑ってからまた目を開け、話し続けた。
「その妹にな……。髪や顔だちは全くと言っていいほど似てないが、性格や仕草が見ていて思い出すんだ。あとは、声の感じも、少し似ていると感じることがあるくらいだな」
「そういうことだったんですか……。その後ミハルさんは、アズハが旅に同行する話になったとき、肯定的だった気がするんですけど、それはなにか、思うところがあって?」
「さぁな。俺自身、よく分からん。妹のような少女と居たかったのかもしれないし、そんな少女の願いを叶えることで、少しでも贖罪になればとでも思ったのかもしれない」
彼の芯にはかなり複雑な葛藤があって、アズハが旅に参加することを自分たちに考えさせたのだろう。
「今でも、その気持ちは同じですか?」
「それも、よく分からん。ただ、多少は変わっているんだろうな、と思える節はあるが……。その気持ちが何なのか、大きく変わっているのか、あまり変わっていないのかは、本当に分からん」
「そう、ですか……」
この話で、ミハルさんやアズハに対して、大きく対応を変えるということはないだろう。
しかし、もし何か、デリケートな話になりそうなことがあれば、フォローしよう。
彼にとって、この話を打ち明けるのは、あまり気持ちのいいことではないはずだし、その対価……ってことになるかは分からないけど。
こういう話をしていると、木々の隙間から、黄色い色味が感じられるようになってきた。
「もうすぐ、ですね」
「ああ、確認したら、そこで昼飯を食べて、折返そう。折返して港あたりで野宿して、朝になってから『炎の飛竜の巣』に行った方が良いと思う。今から『炎の飛竜の巣』に行くことを考えると、日のない時間帯の船旅になりかねん」
「そうですね」
今後の話をしていると、ふと、違和感―――
「!……ナオト、避けろ!」
ミハルさんの声に反応し、考えるより先に体が動いて避けた。
ヒュウウウゥゥゥゥォォォォォオオオオ……。
避けて、「何か」が来た方を見ると、落ち葉が巻き上がって、風の塊のような渦が出来て、すぐに消えてしまった。
「なんだったんだ……?」
「気のせい……ではないか。こうして、落ち葉は巻き上がっている」
「そこまで危険なものでもなかったかもしれませんが……」
「……とにかく、前に進もう。目的地はすぐだ」
木々が減り、周囲の構造は、溝のような状態から、歪んだ円形のような窪地を形成していた。
そして、「窪地」というより、岩の壁が周りにあるような感じになっていた。
「おお、向日葵がたくさんありますね」
この島は比較的暖かいとはいえ、冬場に向日葵が咲いているという光景は、なんとも幻想的なものだった。
これも魔力のおかげなのだろうか。
「本土では見られない光景だな。しかと目に焼き付けておこう」
場所を覚えるというほど道が分かれているわけではなく、ほぼ一本道であった。
「さ、昼飯にしましょ……!?」
昼飯にしましょう、と言いかけたところで、大きな風に揉まれた。
風は止み、思わず閉じていた目を開けると、目に前には大きな影があった。
ミハルさんはその陰に対して、警戒心むき出しで剣を引き抜いていた。
大きな影を、次第に認識していく。
その大きな影とは、緑の鱗を纏い、四本の足と大きな翼を持った、人の身長の数倍はある、一般に、危険とされている存在。
風の飛竜だった。
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