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62話 船旅

今日は、遂に「風の飛竜の巣」に向け、船で出航する日だ。


……昨日のことについては、ボリスさんの別宅に驚き続け、あの宅で何が起こったのか、あまり覚えていなかった。


ただ、最後に寝る場所として紹介された部屋のベッドについては覚えている。


それだけは逆に驚きは少なく、ある程度冷静になれたおかげだ。


と、いうのも、あのベッドは確かに今まで使っていた安めの宿のベッドよりかはいいベッドではあったけど、臨時用のものであったためか、正直のところ、自分のいた世界の、一人暮らしをしていた家の布団の方が寝心地がいいなと思えたからだ。


閑話休題。


「昨日は色々と、お世話になりました……」


「いやいや良いって、お詫びのつもりに送っていこうとしたけど、私も考えなしで、急なやり方だったからね!これにお返ししようとか考えなくてもホントにいいからね!迷惑を掛けたお詫びをする途中で、更に迷惑をかけてしまったそのお詫びとでも思っておいてよ!」


「いえいえ、こちらこそ……」


「おいお前ら!乗らなくていいのか!」


「は、はい!すみません!乗ります!」


「いってらっしゃ~い」


ボリスさんに昨日の礼を言い、ベルクさんに急かされ、船に飛び乗ったのであった。


……。


ボリスさんが船長を務めるこの船は、結構大型の帆船だった。


船員さんたちの使う魔法の助力もあって、昨日の今日で出航することができた。


また、魔法の力は抜錨してからすぐ、風を捕らえ、沖に出るまで推進するためにも使われていた。


風を使われた後、魔法による推進を止めたのは、様々な動物を迎撃するために魔力を残しておくためらしい。


極端な例を挙げると、炎の飛竜などから。


また他にも、魚を獲るのに魔法を使ったりもするらしい。


自分の世界の帆船での船旅とは違い、かなり色々と楽ができるらしかった。


……帆船に乗ったことなどなく、あくまで想像ではあるけど、楽はできているだろう。


まあ、こんなに楽が出来るのも、昨日の昼、荒事に巻き込まれて、ボリスさんと出会えたおかげだ。


あの血の気の多かった輩にも、一応心の中で感謝しておこう。


そんな優雅な帆船で感じる潮風の中に、異臭が感じられた。


「オロロロロロロロロ……」


……ミハルさんが隣で、海に向かって吐いていた。


「大丈夫ですか、ミハルさん?」


「うぇぷ……ああ、全く問題な……オロロロロロロロロ……」


「全然、大丈夫じゃなさそうですけど……」


ミハルさんは、どうやら船酔いするタイプの人だったらしい。


因みに自分は大丈夫なタイプだった。


バスでも酔わないし、中学の修学旅行で乗った飛行機でも気圧差での頭痛以外は怒らなかったし、自分は乗り物酔いとかはあまりしない方なのだろうか。


「……そういえば、ミハルさん」


「んぉ?オロロロロロロロロ……」


ミハルさんの背中をさすりながら訊いた。


「グライダーにも乗れませんでしたよね?」


「そ、それが、どうし……オェップ……」


「もしかして、乗り物全般に弱い人なんですか……?」


「そんなことは、考えたこともオロロロロロロロロ……。ップフゥ……あぁ、だが、もしかしたら、そうなのかもな……うぇぇ……」


まあこの世界では乗り物に乗ることの方が少ないか、旅でもしない限り。


「あ、でも、グランさんの馬車でこっちに帰って来た時は、別段酔ってたりはしなかったですよね?」


「ああそれは……、ふぅ……、子供のときに、乗ることが結構あってな……それで……うぅ……、慣れた……んうっふ……」


「昔は馬車でも酔ってたんですか?」


「ああ……、ここまでは酷くは、無かった気はするが……」


そういうことだったのか。


「じゃあ、今回もどうにか慣れるしかなさそうですね……ハハハ」


「笑いことじゃな……オロロロロロロロロ……」


「でも、こういうのって慣れない人もいるらしいですから、慣れる可能性があるだけマシかもしれませんよ?」


「そうか……」


相槌を返すミハルさんの顔はグロッキーだった。


「あー……『エンハンスヒーリング』、掛けます?」


「いや……いざというときのために……魔力を温存……うぇ……」


「そんなこと言ったって、いざというときにミハルさん、今その状態で動けます?」


「……ふぅぅ……」


ミハルさんは顔を青くしながら、彼なりに考えているらしかった。


「それに、僕も練習したいんですよ。魔法って、練習すると魔力を抑えられたり、効力が上がったり、魔法の出が早くなったりするみたいで」


「……」


「あ、吐きたいなら吐いてもいいですよ」


「す、すまん……。オロロロロロロロロ……」


無言になって、不審に思って言ったら、どうやらその読みは当たったらしい。


「とにかく、今その状態ならどちらにしろ、いざというときの対応なんてできないと思うので、掛けますよ?魔力の温存をするために、1日1回、それでも魔力の温存をするのに不安があるなら、2日に1回にしますけどね」


「エンハンスヒーリング」自体、1回使う分には消費量はそんなに多くはない。


「本当、申し訳ない……」


そうして、幸先が不安になるような船旅が始まった。

ここからは最終章(章?)ですね。


良ければ是非ともご評価・ご感想を頂ければと思います!

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