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61話 別宅

明日の朝、船で「風の飛竜の巣」に行くことになったが、それまで今日知り合った人の宅で泊まることになった。


そして日が沈み、空の赤みが残る頃に、その人、ボリスさんの宅が見えるところまで来た。


「かなり、大きいな……」


「そうなんですか?」


自分はこの世界の家の大きさはどのくらいのモノか、あまりよく分かっていない。


「確かに、田舎とかじゃこの大きさの家はそこそこあるが、ここ『連合の府』の、それも王城と港の間にある場所なら、話は別だ」


そういうこと?


「地価……ですか……?」


「そうだ。普通この場所なら、普通の市民……、とはいっても、ここに住めるのは田舎の普通の住民と比べてそこそこ稼いでいるが……。そういう人たちの多くは集合住宅の賃貸で、持ち家の人なんてごく一部、それもこんな大きさの家なら、この家の持ち主はかなりの金持ちだぞ……」


そんな家が別宅なんて。


「なんか、凄そうですね……」


「凄いなんてモノじゃない。おそらくこの人は、有力な政治家の家族の人か、1つの土地を牛耳っているような豪商か何かなんじゃないか?」


「へ、へぇ~……」


「『へぇ~……』って……」


ミハルさんにそう言われても、自分はこの土地の凄さはよく分からないので、そんな返ししかできなかった。


「着いたね!さ、入って入って!ここはこの辺りで仕事が連日あるときに泊まる用だから、人を持て成すような作りになってないのもあって、人に上がってもらうにはかなり地味な感じだけど、許してね!」


「そ、そうですか……。じゃ、お言葉に甘えて……」


「失礼する。……っ!?」


そう言われて入って、ミハルさんは驚いていた。


自分にとってはあまり広いとも感じ取れないし、豪華絢爛、と言った感じでもないので分からないが、ミハルさんにとって珍しい何かを見つけたのだろうか?


あ、玄関の電灯……いや、魔力灯の造形が凝ってて煌びやかだな。


「この魔力灯……」


「ん?どうしたんだい?」


「もしかしてこれ、低魔力消費型の、それも蓄魔装置付きか……?」


低魔力……なんて言ったんだ?


筑摩がどうとか聞こえたような気もしたけど。


「そだよ~。ここはたまにしか使わないし、緊急で、それもそのとき魔力が枯渇しているようなときにも使うこともあるから、普通の魔力灯じゃないんだ~」


「なっ……!?」


ボリスさんは何でもないように言ったが、それに対してミハルさんは再び驚いた。


「どうしたんです?」


「分からないのか!?」


ここまでミハルさんが落ち着きを失った顔をしているのも珍しい。


「は、はぁ……。1年くらい前までは、魔法そのものについてすら知らなかったもので……。魔道具とかにも疎くて……」


「そ、そういえばそうだったな……」


ミハルさんはその興奮を抑えて、一息ついてから説明してくれた。


「魔力灯について、1度使えば数時間は持ち、それだけ経てば自然と光が消えることは知っているか?」


「は、はい……。以前どこかでそんな話を聞いて気がします……」


「ならいい。それで、その魔力灯についてなんだが、魔力灯は数時間、どんなに長くても数十時間くらいまでの持続時間で、それより長いものは低魔力消費型と言って、一回使えるのは数百時間くらい使えるものなんだが、それは未だ研究段階であるっていうのと、量産には適していないとされて、かなり高価なものなんだ」


「どれくらい高いんですか?」


「詳しくは知らないが、1つで、普通の市民の家くらいなら建つくらいだと聞いたことがある。なにせ1つ1つ個別に造られていて、『相場』なんてものがないらしいからな」


そんなにするのか……。


「それに、魔力を蓄えて、装置の入切を切り替える、蓄魔装置付きだ……。これも同じくらいするらしい……」


……家が建つようなものが2つ、それも土地の相場からして、かなりの高額になるであろう別宅に。


「ハハハ……」


「……そういうことだ」


ミハルさんはそう言って、真剣な眼差しでこちらを深く見て、頷いた。


「あの~……、話はもう終わった?」


玄関から続く短い廊下の先にある扉の取っ手を掴んだボリスさんが、苦笑いしながらそちらに来るのを暗に促していた。


「す、すぐ行きます」


この人は胡散臭いところが色々とあるけど、実はかなり凄い人なんじゃないだろうか?


「そう言えばボリスさんはお昼、食べたんですか?」


「いや~、実はあのあと色々あったから忘れててね、これからの晩御飯がそれも兼ねてるんだよ~。あ、君たちの分も勿論私が作るから椅子に座って楽にしてていいよ~」


そう言って扉を開かれた先には普通の家のようなリビングダイニングを思わせる2部屋が繋がったような部屋と、品出しが出来るキッチンカウンターが付いた部屋だった。


というか、リビングダイニングと台所だった。


台所にはガラス戸のついた食器棚と中がよく分からない棚があり、リビングと見られる方の部屋には小さなシャンデリアがあった。


シャンデリアには火がついていないため、これもおそらく先ほど言っていた「蓄魔装置付き低魔力消費型の魔力灯」なのだろう。


ろうそくを模した部分1つ1つがそれならこれはどれほどの値段がするのだろうか……。


考えただけでも恐ろしくなってくるな。


見なくても、隣にいるミハルさんの顔が強張っているのが分かる。


「そういえば、食べ物とかは買ってきていませんよね?」


「あ~大丈夫大丈夫。この棚、冷凍保存ができる食糧棚になってるから。この中に入っているのを使うよ~」


そう言ってボリスさんは台所の中がよく分からなかった棚を開いて見せた。


あれもおそらく魔力で動いているのだろうが、冷凍庫もあるのか……。


そしてあの冷凍庫も高いんだろうな、と思い、ミハルさんの方を見てみると、


「……」


ミハルさんは、驚愕の顔を浮かべたまま、硬直していたのだった。

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