59話 笑う男
「いやいや~すまなかったねぇ~、巻き込んで~」
荒事を起こしていた男たちが去るのを見送ると、笑っている男が振り返りながら言った。
「い、いえ……」
なんとなくではあるけど、なんか苦手だ……、この人……。
いや、いい人ってのは、なんとなく分かるんだけど……。
「お詫びと言っちゃなんだけど、この店の料理を奢るよ!君たち、ここでご飯を食べるつもりだったんだろ?」
「は、はぁ……」
ミハルさんの方を見ると、目を細めて頬をポリポリと掻きながら、おずおずと肯定した。
……ミハルさんも、この人のことが苦手らしい。
「あっ!」
その提案を受け入れようとしたところ、笑っている男は驚いた顔をして、手元の何かを見て素っ頓狂な声を上げた。
「たは~……。そういえば、さっきお金殆ど使ったんだった……」
「どうやってこのお店の代金払うつもりだったんですか……」
「い、いや~、私はこのお店の常連で、ツケることが出来るから、お金がなくても来ちゃうんだよね」
「おいおい、またツケるつもりだったのかよ」
自分たちの会話に、店主と思われる男が入ってきた。
「いやいや、僕がツケを返さなかったことがあるかい……?」
「こないだの分、まだ払ってもらってなかったような気がするんだけどな?」
「あ……」
この男、こんな調子で生きてきたのだろうか……。
それで上手くやれているのなら自分が口出しすべきではないんだろうけど、奢られることを良しとしてしまったので、何かしらの責任でも負わされたら面倒だな……。
「取り敢えず、ちょっと待って!お金取りに戻ってくるから!……あ、今から昼ご飯を食べるんだったよね!?じゃあご飯食べてて!その間にお金を取りに戻るから!」
そう男は捲し立てて、走ってその場から去って行ってしまうのだった。
「……」
「……」
「……ご飯、取り敢えず食べましょうか」
「……そうだな」
「2名ご案内で~す!」
時間が潤沢にあるわけでもないので、自分たちは店に入り、昼飯を食べることにしたのだった。
……。
「値段の割に美味しかったですね」
「そうだな。昨日食べたところと負けず劣らず、美味しかったな」
「まあ、奢られるんで、値段はあんまり気にしなかったけど……」
「……いないな」
自分たちに奢ると言っていた男は、食べ終わってからしばらく経っても現れなかった。
「お客さん、あんまり長く居座られると……」
「……出ます。お会計、お願いします」
店主に促され、会計をして、店を出たときだった。
「おおっと!もう食べ終わってしまったのかい!ご飯はあまり早く食べ過ぎると体に悪いよ!」
男は明らかに今言うべきではないことを言い放ちながら現れた。
「っと、今はそんなことを言ってる場合じゃなかったね!奢るつもりだったけど……、払ったお金って覚えてる?」
「いやぁ……」
首を傾げて思い出そうとしたが、思い出さなかった。
先ほどのこととはいえ、急かされて出たということもあり、適当に払ってお釣りをもらったので、詳しい金額については覚えていない。
「じゃぁぁぁぁ……どうしようかぁぁぁぁ……」
男は笑ったような顔をして、頭を書いて俯いて考えたようだった。
「あ、そうだ!」
少しして男は何かを思いついたようだった。
「君たち何かしたいことってない?」
「し、したいこと、ですか……?」
「そ。この国で出来ることの大半は私が手配できるからね!」
「そう……、ですか」
「色々あって、顔が利くんだ!」
特に何が、という訳ではないけれど、どことなく胡散臭い感じがして、あまり頼み事はしたくないような感じがするけど……。
「じゃあ、『風の飛竜の巣』に行く船を手配することはできるか?」
男を訝しんでいるとミハルさんが話を進めてしまっていた。
確かにそれが出来るなら、目標を達成するために交渉とかをする必要はなくなるけれど……。
「ああ!分かったよ!そんなことで良いのかい!?」
出来てしまうのか……。
口だけではないのだろうか……?
「ああ。今の俺たちに必要なのは、そこへ行くための手段と帰ってくるための手段だからな」
そうだけど……。
「ミハルさん、ミハルさん」
「どうした?」
小声でミハルさんを呼び、ミハルさんが耳を傾けてきた。
「あの人、信用できるんですか……?」
「どういうことだ?」
「こういうのもなんですけど、あの人、何か胡散臭くないですか?」
「そういうことか。……これはあくまで俺の勘だが、あの男は裏切ることは基本的にしない男だ」
「どこを見てそんなことが……」
「どこがどうと、詳しくは言葉で上手く表せないが、あの男は自分と同格の敵意を持った者以外にはそう強く興味を持っていないように感じる」
「言わんとしていることは分かります。それがどう繋がってくるんですか?」
「簡単に言うと、興味を持たない存在には、騙したりする労力を割きはしないだろう、ということだ」
「そうでしょうけど……」
「とにかく、この男について行けば、港のそういうことに詳しい人間がいる場所に行けるだろう。多少のことについて、騙されたとして、それが俺たちにとって大きく損になるようなことはないような気はする」
そういうものかなぁ……。
ミハルさんの勘は割と当たっていることが多いし、今までの旅でも色々とそれで助かったこともあったけど、どうしようか……。
まあ、いいか。
「分かりました」
「そうか」
取り敢えず、問題があればそのときに解決するだけだ。
ミハルさんの言う通り、港のそういう場所には行けそうではあるし。
「???」
男は笑いながら首を傾げていた。
「話し合いはもう大丈夫?」
「ああ、今終わったところだ」
「じゃあ、今から連れて行くよ!……そうだ!まだ自己紹介をしていなかったね!私の名前は……、あー……、ボリス・ビリビンっていうんだ!よろしく!」
「桜木尚人です」
「ミハル・マサリクだ。……ん?」
ミハルさんが自己紹介をした後、何かに気を留めたようだった。
「どうしました?」
「いつか……ビリビンっていう姓に聞き覚えが……。いや、すまない。気のせいだ」
「そうですか……?」
ミハルさんがそう言ったので、その後は聞かないことにした。
……だけど、ミハルさんが「気のせい」と言った時には、大抵「気のせい」では無かったことがあるから、多少、不安は残るなぁ……。
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