58話 王城近くにて
宿を出て数時間後、自分とミハルさんは王城前にまで来ていた。
「街の中で、ですけど、やっと折り返しですね」
「そうだな」
王城は「連合の府」の沿岸の端から内陸の境の中で、おおよそ真ん中くらいの位置にある。
だから内陸側の境の近くにあった宿屋からここまで来たから、「連合の府」の半分くらいにまで来た計算になる。
「それにしても、綺麗な建物ですね」
「連合の府」の中央にそびえるその建物は、なんというか、こう……荘厳さ?のようなものがにじみ出ている。
えんじ色のような暗めの朱色は重厚感があるというか。
「……あまり王城をジロジロ見ない方がいい」
王城を見て話していると、ミハルさんが忠告してきた。
「どうしてですか?」
「理由は色々あるんだが……、主な理由として、田舎者だと思われて、軽く見られたりぼったくりに遭ったりするのが1つ、あとは単に不審者に見られてしまうというのがあるな」
「不審者に……?」
「王城は、今は連合の議会の場として運営されていることは前に言ったな?」
「は、はい……」
「王制と議会制、それぞれの代表的な意味を持った建物でもあるからな。今も王制に戻したがっている人たちも一定数いるんだ。だから、王城を見ていると、そういう連中に間違われて不審者に思われたり、また逆に、王制復古派に対して厳しい目を向けて過激なことをしようとしている連中に間違われたりするかもしれないからな」
「で、でも、僕はこの国の人のような容姿とはまるで違う感じですけど……」
「それでも外国のスパイやら何やらだと疑う人間もいるからな」
そういうこともあるのか。
「じゃあ、僕たちの目的のこともありますし、とっとと急ぐとしましょうか」
「ああ、それが一番良い」
そう言って、そそくさと王城の前を通り過ぎて行くのだった。
……。
「は~……お腹空きましたね」
「昼飯にするか?」
「そうですね、お昼にしましょう」
王城を通り過ぎてしばらくして、昼飯時になったので、飯屋に入って昼食をとることにした。
「『連合の府』のお店って、やっぱり値段が高いお店が多いんですか?」
「そこまで変わらないが、少しはやはり高くなっている気はするな」
出費をなるべく抑えたいから、やはり値段のことが気になってしまった。
「心配するな、高い店かどうかは分かる。そういう店に入らなければいいだけだ」
「それもそうですね」
そうして、安い店を探し、見つけて入ろうとしたときだった。
「あぁん?テメェ、舐めてんのかァ!?」
……選んだのは安い店だ。
こういうこともあるのだろう、仕方のないことだ。
店には、ガラの悪そうな男が数人、店員とみられる女の子に絡んでいた。
周りを見ても、料理や飲み物を溢したようでもないので、値段や味のことで揉めているのだろうか?
「ミハルさん……」
「黙って中に入るぞ」
ミハルさんのした選択は、「ここ以外に安い店も見つけられないだろうから、揉め事には関わらず、黙って入店する」ということだった。
自分はその選択に多少の不満を感じたが、自分たちの今の目的は世直しでも、喧嘩の仲裁でもない。
「……分かりました」
その不満を飲み込んで、入店しようとしたときだった。
「いや~ははは。失敬、失敬」
自分たちの前にいたある男が、へらへらと笑いながらガラの悪そうな男と店員であろう女の子の間に割り込んだ。
「なんだ、お前?」
「いやいや私はただ、この店で気持ちよく食事がしたいと思っているだけの市民でありますよ~。何か問題があったのなら、その解決に私も手を貸したいな、なんて思いましてね?」
へらへら笑っている男は笑顔を崩さぬまま捲し立てた。
……脳裏に「オタク特有の早口」と出たのは何故だろうか?
まあ、この笑っている男はオタクのような風ではなく、なかなか整った爽やかな顔立ちをしていたが。
「コッチはコッチの話がアンだよ。関係のない奴が割り込んで来んな」
ガラの悪い男はドスの効いた低い声で威嚇するように言った。
「まあま、この店には贔屓にしてもらっていますから、私も解決に協力したいのですよ。あなたもすぐに問題が解決するならそっちの方がいいですよね?」
「うるせェ!割り込んで来るなって言ってんだろォ!」
……因みに自分とミハルさんは黙ってこの状況を眺めていた。
黙って入店しようとしていたけれど、へらへら笑っている男が場に割り込んでしまったことで、店の入り口全体が事態の場と化してしまっているからだ。
「……店、変えるか?」
「……そうですね」
この件は長くなりそうで、店にも入れなさそうであるため、店を変えることにしたのだけど……。
「オラァ!」
「おっと」
ガラの悪い男が笑っている男に殴りかかろうとして、笑っている男は襲い掛かった男を軽く往なした。
そして往なした先には自分たちがいたのだ。
「痛った!?」
「痛つつ……。テメェ、邪魔だ!」
ガラの悪い男に当たってしまったのは自分の方で、男は謝るどころか、こちらにまで敵意を向けてきたのだ。
男は自分に向けて怒鳴りつけ、襟元をつかんでいた。
「え?え、え?ちょちょちょ……なんで!?」
「そこにいたお前が悪い!」
そうしてガラの悪い男は襟元を投げるようにして振りかぶった。
「おぉっと!」
「す、すいません……」
投げられた先にはへらへら笑った男が受け止めていた。
「いやいや、ここまで問題が広まってしまったのは私の責任だからね。こちらの方こそすまないね」
そう言って笑う男は謝りながら、自分の服に着いた土や埃を叩いて払ってくれた。
「テメェ逃げんじゃねェ!」
「ハハハ、逃げてないんだけど……。それより、君、周りをみたらどうだい?」
笑う男は襲う男にそう促した。
襲ってきた男は周りを見て、自分もついでに周りを見渡してしまった。
周りには、荒れ事を野次馬しに来た民衆と、怯える店員と他の客たち、そして睨みつけてくる店主と見られる男と、これまた睨んできているミハルさんの姿だった。
「こうなってしまえば、騎士が来るのも時間の問題だと思うけど?暴力で解決しようったって、君たちの周りには敵しかいないと思うけどね」
男はまだ笑っている顔をしていたけど、目の温度は冬の寒さを強めるかと思えるほど冷えたものだった。
「お、おい……流石にこれは……」
「チッ……。今日はこのくらいにしておいてやるよ。だが次会った時は覚悟しておくんだな」
そう捨て台詞を吐き、男たちは去っていったのだった。
良ければ是非ともご評価・ご感想を頂ければと思います!
ブックマークもお願いします!
書く気力に繋がります!




