57話 海と山
「連合の府」を訪れて宿を取り、食堂で計画を立てた次の日。
自分たち男二人組はすぐさまこの街を出て「飛竜の巣」へ向かうため、今日この日が山に向かう二人組とは1から2か月くらいになるのか、それくらい離れ離れになってしまう。
そのため今日この朝が、その一旦の別れの挨拶をしようということになった。
「また会えるのは1か月……、長ければ2か月くらい先ですね」
「そう……ですね」
……話の切り出し方を間違えてしまったのか、話の応えをした科若さんはややしんみりとしてしまっていた。
「またここに戻ってくる予定なんですから、そんなに暗くならなくったっていいんじゃないですかー?」
そうなってしまった空気を、アズハが明るくしてくれた。
アズハは旅の途中でも明るかったが、特にこういった場面ではありがたい存在だな。
初めてアズハと出会った時は、それぞれの思い違いやらから不幸な出会い方をして、その顔は恐怖に青ざめた顔をして、殆ど黙っていたけど、そのときとは比べ物にならないくらい、元の性格は明るい少女だった。
「それもそうですね。また会うんですから」
「それじゃあまた、この宿に戻ってきますよ。科若さんたち2人はしばらくここにいるんですか?」
「うん。『香り花の山』へ上るのは、往復1週間くらいだから、もう少し温かくなってから行くことにしますよ。2、3週間後くらいに行くことにしたから」
「そっか。そっちも頑張って」
「……うん」
「はい!」
「ミハルさんは、2人に言っておくこととかはありませんか?」
「そうだな……2人とも、怪我なく生きて帰って来い。俺たちもなるべく怪我がないように帰ってくるようにする」
「そう……、ですね。分かりました」
「ミハルはまたそうやって暗いコト言うー」
「……まあ、取り敢えず元気で」
ミハルさんは相も変わらずだった。
そういえば、初めて会った時のミハルさんは、家出してからしばらく経ってないくらいで、茶目っ気と少しのイライラした感じが汲み取れた性格・感情をしていたけど、炎の飛竜が起こした街と家のことから、かなり性格が変わったように感じられた。
ミハルさんは家族と喧嘩して家を出たと言っていたけど、その後に会わずして家族との別れを経験したミハルさんの心中は、どのような感じだったのだろうか。
……会った時の印象が違うのはアズハとミハルさんの共通することで、その印象自体のことと、印象が変わった理由などは対象的だったな。
ともかく、この飛竜に会いに行く旅でも、性格や他にも変わってしまうこともあるかも知れないけれど、ミハルさんが言った通り、怪我なく元気に帰って来られることを最重要課題の1つとして行動しよう。
「じゃあ、僕たちはそろそろ……、あ」
「どうしたの?」
「そっちは山に登って、寒くなるって言ってたね」
「そうだけど……」
思い出して、ショルダーバッグからあるものを取り出した。
「それって……」
「それはなんですか?」
自分が取り出したのは、フィルムに包まれた2つの袋状のモノだった。
「これは、『カイロ』……この外側の袋を破くと熱が生まれて寒い場所で少しは過ごしやすくするためのもの……かな?」
これはこちらの世界に来た時に自分のショルダーバッグに最初から入っていたものだった。
「いいんですか?こんな魔道具……ナオトの方も海だから寒くなるんじゃないの?」
アズハは目を見開いて尋ねてきた。
「大丈夫。こっちは海だって言っても、結構そっちよりかは暖かい場所らしいしから。あと、それ、魔道具じゃないよ」
「そうなんですか……」
「桜木君……いいの?」
「科若さんまで……、良いって。あ、多分分解とかはしないと思うから、外側の袋は使うときはその場に捨てずに持って帰ってきてほしいんだけど……」
ここには「流れ者」以外、こういったものを作り出せる人はいないし、外側のフィルムが分解しないとは言ったけど、時間さえ掛ければ分解するだろう。
しかしながら、ここでそれを許してしまえば、もしこの世界にそういったものが出てきてしまったときに、割れ窓効果でポイ捨てが増えてしまうかもしれないし。
あんまりそういったことに下手に寄与することはしたくない。
……因みに、カイロ自体は「イズムルド電力研究所」で初歩的なモノ自体はできているらしい。
作れるのはあの研究所内部だけらしいけど。
また、使った後のカイロも研究所のサンプルとして引き渡すつもりなので、内部の袋も持ち帰ってほしい旨も伝えた。
「分かった。なら、私がこの袋をちゃんと持ち帰ったことを確認するために、ちゃんとこの街に帰ってきてね」
「了解。じゃあ改めて。……行ってきます」
「……行ってくる」
「……はい」
「うん!いってらっしゃい!」
やっぱり少し、しんみりとしてしまった。
こうして、2人に挨拶をして、宿を出て歩き出す男二人であった。
「……じゃあ私たちも、繋ぎの働き場所と、山への行き方を調べましょうか」
「そうだね!」
男二人を見送った少女たちも、各々がすべきことを改めて確認して、作業に取り掛かるのであった。
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