55話 役割
「それじゃあ、これからどの道順で、どの組み合わせ行くか、宿で決める?」
その言葉に返したのは、ミハルさんだった。
「いや、宿はあまり広くはない。それを決めるのは、宿に部屋をとってから、周りの飯屋に行ってからでも遅くはないだろう」
「そう?」
という訳で、今から宿に部屋をとりに行き、その後に大衆食堂でこれからのことについて話し合うことになった。
……。
「これからどうするのか、って話なんだけど……」
部屋をとった後、大衆食堂に入って料理を注文し、待つ間にその話をすることになった。
「ここから『香り花の山』ってところと、『飛竜の巣』ってところに行くんだよね」
「そう。で、ここから行くとなると、その2つはだいたい真逆の方向になるんだよね。『香り花の山』っていうのはここから『銀の街』へ行く街道の脇にあるから、ここから少し戻る感じになるね。『飛竜の巣』は海を越えた島々にあるから、結構遠い道のりになるな」
道のりについて、改めて軽く説明すると、それに科若さんが補足してくれた。
「『香り花の山』の方は、『月見草』をとって来るだけで、あんまり大変ではないかもしれないね。まあ、今は冬だから、もう少し温かくなるのを待って、行くのも無くはないかな。道のり自体は片道3日くらいだし、もし二手に分かれるなら、ある程度遅らせても大丈夫かも。『飛竜の巣』に行くなら、『風の飛竜の巣』で『向日葵』を取りに行くのと、『炎の飛竜の巣』で『炎の飛竜の鱗』を取る必要があるね。ま、飛竜と戦う必要性はないですけど、大変そうですよね」
科若さんが「炎の飛竜」について話すと、ミハルさんの眉がやや吊り上がった気がした。
「ミハルさん……、大丈夫ですか?」
「……何の話だ?」
「いや、大丈夫ならいいんですが……」
ミハルさんはきっと、自身の眉を吊り上げてしまったのは、無自覚だったのだろう。
表層意識では問題はないと感じていても、無意識下では何か感じるモノがあるかもしれない。
もし、ミハルさんの疲れがいつの間にか溜まっているようなら、何かリフレッシュさせるようなことを考えなければならないかもしれないな。
「問題はやっぱり、『月見草』と『向日葵』ですよね。これらは枯れないように持っていかなければならないですけど、片方に行ってからもう片方に行ってしまうと、枯れないように帰ることができるか間に合うかどうかは分かりませんからね」
「アズハを旅路に加えるときに考えていたみたいに、2-2で分かれて行くのが良いかもしれないね。片方は『炎の飛竜の巣』に行って鱗をとってから、『風の飛竜の巣』に行って『向日葵』を取ってきて、もう片方は少し暖かくなるまで待って、登山にある程度適した気温になったら、『香り花の山』に『月見草』を取りに行くのが良いかもしれない」
「俺も、それでいいと思う」
科若さんが言った言葉に便乗するように、元の話題に自分とミハルさんは復帰した。
「アズハも、それでいいと思う?」
「そうですね、採る草花のことがありますし、それでいいと思いますよ」
アズハも別の意見はないようだった。
「じゃあ、あとはその2つに、どの組み合わせでどっちに行くかだけど……」
そう言うと、それぞれはそれぞれを見合っていた。
「おそらく、『香り花の山』の方が、『飛竜の巣』より楽だとは思うけど、どうします?」
「俺は、『飛竜の巣』に行く方を選びたい」
「そ、そうですか……」
どうすると言ってすぐに、ミハルさんが食い気味に言い出したので、少し引いて応えてしまった。
「私は『香り花の山』の方にしたいです……。私は皆さんの中で、一番旅の経験が少ないですし、私はもともと『月見草』を取りに来たので、そっちのほうが良いかなって思いまして……」
次にアズハが意見を出した。
自分も今までの経験やら何やらを加味して、それに意見はしなかった。
「じゃあ後は、僕と科若さんだけど……、どうする?攻撃魔法では僕の方が少し有利ではあるけど、回復魔法なら科若さんの方が使えるから……」
「私は……う~ん……」
科若さんは何かを言いだそうとしていたけれど、言うのを止め、腕を組んで唸りだした。
「クルミは、アズハと一緒に行った方が良いと思う」
「ど、どうしてですか?」
突然のミハルさんの言葉に、科若さんが思わず聞き返していた。
自分も、言葉にはできなかったけど、その疑問は当然のもののように思えた。
「今まで、飛竜についての本を見て調べてきたんだが、それらの多くには、『攻撃魔法の方が、弓矢などの武器よりも効果的』と書かれていたんだ。」
「でも、科若さんは自己強化魔法で弓の威力を高めることが出来ると思いますけど……?」
「それでも、鱗に掠った程度では攻撃が当たったことにはならない程度には、飛竜の鱗は強い。それに、飛竜の空中での機動力は高いから、より直感的に放てる、攻撃魔法の方が当てやすいんだ。弓で狙って落としたり、牽制したりするのは、小さい目を射抜くか、動き続ける翼膜の薄い部分に命中させなければならないからな」
ミハルさんの説明の中で生まれた疑問を投げかけると、それに対してもミハルさんは丁寧に答えてくれた。
確かにそうか。
「飛竜の巣」に行って、おそらくこそこそと落ちた鱗を探すことになるとは思うが、思いがけず戦闘になるなら、それに適した方を選ぶだろう。
それなら、自分も疑問や意見もないと思った。
……まあ、ある程度長旅になるんだ、男女に分かれてやや気まずい空気にならずに済んだと思うところも少なからずあるんだけど。
「じゃあ僕は『飛竜の巣』へ行って、科若さんは『香り花の山』に行く、ってことでいいですね?」
「うん。それでそれぞれの役割というか、目的も果たせそうだし」
という訳で、二手に分かれて、どの組み合わせで行くかというのが決まった。
「お待たせしましたー、料理でーす」
そしてタイミングよく、晩御飯である頼んでいた料理が運ばれてきたのだった。
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