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53話 その府の前で

「この街道には、少しばかりは服屋もある。そこで、服だけでも変えてみるのはどうだろうか?」


皆が唸りながら考えてから少しもしないうちに、ミハルさんがそう言い出した。


「街道でなら、『連合の府』で服を買うよりも安く買えるから、服を変えるなら今が丁度いいとは思う」


そう続けていった通り、確かにそうした方がいいと思う。


「分かりました。少しお金とかは確かに気になりますけど、『連合の府』に入ってから問題になるよりかはマシでしょうからね」


という訳で、「連合の府」を前にして、服を買うことになったのだった。



「ところで、僕と科若さんは服を買う意味はあるかな?」


服屋が見えたところで、そんなことを口に出した。


「そう?」


「僕と科若さんはこれとは別の服があるから、それに着替えてみたらいいんじゃないかなと思ってさ」


今の自分と科若さんは、以前買った「動きやすい服」を着ているけれど、これとは別に同じ時に買った「街で浮かないような服」、そして「こちらの世界に来るときに着ていた服」がある。


ま、「こちらの世界に来るときに着ていた服」は浮いて目立ってしまいそうだから、着ようとは思わないけど……。


自分も科若さんも、その服は宿で泊まるときに寝間着代わりに着ているだけだ。


それはともかく。


「どうかな?出来るだけ節約したいし、思えばもう持っている服はこの国に戻ってから一度も着てなかったから、『連合の府』で噂されていても、ある程度その服で印象は変わると思うから……」


「そう……ですね。もし帝国に来る前に誰かに見られて憶えられていたとしても、もうお二人のことをある程度知っている人でしょうし、たとえあの『カラムジン家の男』が前から知っていて見られても、どの道別の服を着ていても、結局バレると思いますからね」


「ああ、俺もそう思う」


提案すると、アズハとミハルさんは同意してくれた。


「じゃあ、今回服を買う主軸となるのはアズハとミハルさんってことで」


そう言ったところで、服屋の入り口の前に来ていた。


……。


「こんな服とかどうですか?」


「いや、僕はあんまり女の子の服とか分からないし……」


「えー?でも私、帝国の方の、それも田舎の感性しか持ってないので、ナオトの意見も聞きたいなって思って」


「あの僕、そもそもこの国の生まれじゃないよ……?」


「でも私よりも『イズムルド』に居た時間が長いじゃないですかー」


「そんなこと言われても……。科若さんに聞いた方がいいんじゃない?」


「私、男の人の意見も聞きたいと思ってるんでー」


「じゃあもともとこの国に住んでたミハルさんもいるだろ?」


「ミハルはナオトよりも年上で少し話し辛いから?」


「その言い方はミハルさんが傷つくよ……?」


服屋に来ると、アズハが何故か自分に対して服の意見を求めてきた。


自分はもともとオシャレなどにも興味の薄かった陰キャ野郎だ。


勿論、センスなどあるとも思っていない。


だから誰かに助けを求めてみたかったけど、科若さんもミハルさんも、少し離れたところで服を見ていたので、店に迷惑が掛かりそうなほど大声を出す勇気なども出なかったので、こんな感じでじっとりと逃げようとしていた。


ミハルさんは自分の服を選んでいたし、同じ女の子である科若さんに話を聞きやすいように、科若さんの方を目指して少しずつ後退っていった。


科若さん、助け船出してくれないかな……。


「あ」


「?……」


そう思って科若さんの方を見ると、目が合った。


しかし、一度目が合っただけで、科若さん自身ウィンドウショッピングを楽しんでいたのだろうか、科若さんには目を逸らされてしまった。


「し、科若さ~ん……」


「……」


呼びかけても聞こえていないのか、それとも面倒事に巻き込まれたくないとか考えて、無視をされているのか、どちらにせよ、科若さんは無反応だった。


というか、この距離なら聞こえているはずだよね?


まるでイヤホンとか付けて無視しているようなほどの無反応だ。


勿論イヤホンなんて無いけど。


「ナオトー、意見聞かせてよー!」


「だから僕はこの国の服についても、女の子の服についても分からないんだってばー!」


暫くはぐらかしていると、アズハも意地になって聞こうと、ダル絡みが如く肩とか持たれて再度意見を求められた。


「分からないってー……」


「アズハちゃん?」


「あ、クルミー!」


そうしていると、科若さんが気づいてくれたのか、それとも助ける気になったのか、助け船を出してくれた。


「んー……、その服だと私はこっちの方があってる気がするなー。色味とか?」


「そうなんだー!ありがと!」


「……今、俺の方の服選びは終わったんだが……、そっちはどうだ?」


そうこうしている間に、ミハルさんは自身の服選びを終えたらしかった。


「ミハルはどっちの服がいいと思う?」


「……右か?」


「なら、そうするー!」


そうして、色々と気疲れのした服選びを終え、いよいよ数日後には「連合の府」に入ることになる。


この国の首都にして、最大の街。


少し、緊張するな……。

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