49話 3度目の街道
「黒曜石の街」、もとい「イズムルド電力研究所」を出て数日、街道を歩いていたときだった。
「馬車が来る、道の端に寄った方がいい」
ミハルさんが後ろから来る馬車に気づき、皆に声を掛けた。
その言葉に従い、全員道の端に寄って、その馬車が過ぎるまで一列になって、後ろを気にしながら歩いていると、その馬車が止まった。
この周りには特に店や宿があるわけではないので、その馬車が自分たちに何か用があって止まったようだった。
そのことに皆気づき、全員歩みを止めて、馬車の方を見ていた。
馬車はなんというか……グランさんが乗っていたような、普通の商用のような雰囲気を纏っているものではなく、少しばかり装飾があり、扉も横に前席用と後席用の分があり、多少お金を持っている人が乗っていそうな感じのするものだった。
……特に多くの馬車を見たわけではないけど、一目見ただけでこの馬車が他のものより比較的高価であることが分かるって、結構こちらの価値観に染まってきた気がする。
閑話休題。
そして、馬車の前側の扉が開き、ある程度年齢を重ねていそうな、そしてこの世界において、使用人のような服装をした男性が出てきた。
その男性はこちらに目もくれることもなく、後席の扉を開けた。
そしてその開かれた扉から、使用人のような人よりかは若そうな、しかし壮年くらいの印象を受ける男性が出てきた。
その男性は少し太った感じで、また馬車と雰囲気の似た装飾のある服を着ていた。
「そこのチミたち、なぜ余の馬車が来たというのに、完全に止まらなかったのだね?」
「……?」
自分と科若さん、そしてアズハは頭の上にハテナを浮かべ、首を傾げた。
そうして応えられない3人を置いて、ミハルさんが口を開いた。
「もうこの国は王国ではないし、旧領主ももはや言葉一つで人を裁けるような発言権はないはずだったが?」
どうやらこの太った人はこの国に於ける、昔貴族だが領主だかの家を継いでいる人なのだろう。
この国のそういった歴史や制度に疎いミハルさん以外の3人は、口を出せるほどの知識もないので、この場はミハルさんに任せることとなった。
「そういうのは体裁だけだろう?今でもある程度の発言権くらいはあるとは分からないか?」
「だとしても、それは元領主の旧領地の邸宅付近だったり、旧領地の行政に少しばかり話が通りやすいという話で、こんな田舎道で威張り散らすことのできるほどのものでもないだろう」
威張り散らす男を前に、ミハルさんの対応は堂々としたものだった。
呼吸一つ乱れていない。
「貴様、この私に口答えするつもりか?」
「生憎、ここにはそれをしても咎めるような者もお前以外に居そうにないし、裁けるような用心棒もいないみたいだが?」
「フフン。領主というのは『領地の政に長ける者』が就いていた場所も多いが、中には『魔法に長けた者』が就いていたということもある。そして私がその『魔法に長けた者』が治めていた地の領家の現当主ということだ」
「だからなんだというんだ?」
「この私が直々に裁いてやろう、ということだ」
「はぁ……。俺たちの中で俺以外は攻撃魔法を使えるし、俺もある程度剣に覚えはあるからな?対してお前らは、お前と、使用人と、馬車引きの3人だろ?どうやって裁くんだ?」
ミハルさんがアイコンタクトを取ってきたので、3人ともすぐに戦闘態勢に移行できるように、尚且つ敵意をあまり出さないように、少しだけ構えた。
「それこそなんだというんだね?この私は攻撃魔法の水準を3まで扱えるのだ。お前らなど、私の『ストームエッジ』で狙いを定めなくとも鎧袖一触なのだ!」
「それは普通に犯罪だろう……」
ミハルさんは再び溜め息を吐いていた。
「ふん、領主が行う当然の行為だ。それに、分からなければ犯罪ではないのだ」
「犯罪だってこと、暗に理解してないか?」
「ングッ……!」
ミハルさんにそう返されて、領主を自称する男は苦々しい顔をしていた。
会話中に自分の棍棒をコッソリ構え、周りをチラ見すると、科若さんは弓矢をいつの間にか取り出していた。
「ええいっ!黙れっ!『ストームエッ……」
ヒュンッ……!
男が魔法を唱える前に、男の首筋を放たれた矢が掠った。
「なっ……!?」
「次は当てます」
そう言ったのは、次の1本を取り出し、再び構えていた科若さんだった。
その声は今まで聞いた中でもっとも冷たい印象と、攻撃性を感じた。
そして彼女の目は、正しく「敵意」や「殺意」というものを放っていた。
……また、それを見たアズハはドン引きしていた。
「私が矢を放つのと、あなたが魔法を唱えるの、どちらが早いかはさっきので分かっていますよね?」
「グゥゥ……お、憶えていろ!貴様らがこのカラムジン家の当主を愚弄したこと、い、いつか後悔させてやるからなっ……!!!」
男はそう言って馬車に逃げるように飛び乗り、すぐに馬車を出して去っていくのだった。
……というか、「憶えていろ」なんて生きていて自然に使われるのなんて初めて聞いたな。
「はぁ……変なのに絡まれたね」
科若さんが弓矢を直し、やれやれといった感じで言葉を吐いた。
確かに、変な人だった。
この街道を通るときは、なにか変なことが起きないと済まないのだろうか?
「黒曜石の街」に居たときも、「銀の街」に居たときも、この街道について変な逸話は聞いたことはなかったけど……。
「『カラムジン家』か……。このあたりの元領主でもなかったのにな……」
どうやらミハルさんはその家について、知っていることがあるようだ。
明日は10話投稿しようと思います。
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