46話 道すがら
「んぁ?上の2人さ、少し馬の足を遅めらぁ。気ぃ付けぁ」
グランさんが言った言葉に少し動揺し、足に力を入れて留まった。
「どうしたんですか?」
幌の前の方にいたアズハがグランさんに聞いてきた。
「軍……帝国のんが検問しちょるき。止めっからさ」
「分かりました」
ついに軍の検問か。
それも、ボルカン帝国の。
速度を落としていく馬車の幌の上から見える帝国軍の検問所は、道の脇に土の魔法で道の脇から通れないように、多少のバリケードをしているようだった。
検問をしている兵士は、グライダーを使う方の道で襲ってきた兵士たちとほぼ同じ装備をしていた。
もし、自分たちの特徴が知られていたら、ここでグランさんを含んで襲われてしまうかもしれない。
流石にいきなり襲われはしなくても、最低尋問なりを受けるのは間違いないだろう。
「はい、止まれー」
そう考えていると、軍の兵士が気だるそうに止まるよう呼び掛けていた。
「俺が別の馬車とすれ違うとき聞きゃした検問かぇ?」
「ああ、多分そうだな」
「なんあったすか?」
「あー……これは軍の機密でな。聞かせられん。さ、人と荷物を見せろ」
「あいさ」
グランさんには一応ことを軽くではあるけど、ボルカン帝国軍に襲われたことを説明している。
そのことを知ったうえで、グランさんはなにごともないかのように兵士に対応している。
「お前らも地面に降りるんだ」
「はい、分かりました」
「……」
自分とアズハは兵士の言葉に従い、馬車の幌の上から地面へと降りた。
自分はなるべく自然に対応したけど、アズハは緊張しているのか、息を呑んで、無言で降りていた。
罠を張っているのか、それとも顔の情報と合っていないからなのか、兵士たちがすぐに襲ってくるということはなさそうだ。
「情報では4人だったから違うか……しかしな……」
兵士の1人がブツブツ言っているのが聞こえてくる。
その言葉から読み取ると、どうやら顔について、バレてはいないようだ。
「お前らは1人の行商人と4人の護衛か?……護衛にしては多くないか?」
当然の疑問を兵士が投げかけてきた。
「コイツらぁ、『向こう』ん国さ修行でててよ、帰ってくんときと俺の来るときが同いから、いつもは1人で来んぎゃ、なんか軍が出てる噂聞きゃして護衛を頼んだんだ」
「ほぅ……そうか」
それについてもグランさんが平然と対応していた。
一応、『向こう』の国とボカし、ミハルさんが修行目的で出ていたということについて、嘘はついてはいない。
もちろん詭弁であるということは流石に分かっているが、勝手に勘違いするのは、向こうの方だ。
怪しいと感じて詳しく聞かれたら、流石にグランさんも上手く応えられるかどうか……。
「護衛具に替えの服……携帯食料に薬草か……」
兵士の1人が自分の服と荷物を調べている。
他の皆も色々と調べられていたけど、自分も含めて何か変なことを聞かれたりはしなかったし、挙動不審な動きを見せてはいなかった。
「あわわわわ……」
「君、五月蠅いよ……。もう少し大人しくしてくれんか?」
……いや、アズハは少し緊張しているようには見えたけど。
「……」
自分たちの服装と荷物を確認していた兵士たちは、互いに目配せをしていた。
その状況に、自分も思わず息を呑んでしまった。
「隊長ー!服装と荷物の検査、終わりましたー!怪しい所持品は見つかりませんでしたー!」
「馬車の荷台にも特に異常はありませんでしたー!」
自分に対応していた兵士がグランさんと話していた、隊長と呼ばれた兵士に異常なしの報告をし、荷台の中を確認していた兵士も呼応するように報告のために声を上げていた。
「応!……ご協力、感謝する」
「ま、俺らぁ関係無ぃもんでも、お国は大変なことがあるんは分かってらぁ。気ぃしんさ。それに、こかぁ一応、帝国通ってるもんさ、関所やらの面倒ごとに比べたぁ、検問くらい楽ぅもんだ」
「いや、ここについては『イズムルド』の中だからな。我が軍がいることもそこまで大っぴらに出来るもんでもないから、別にいい」
グランさんは何事でもないようにカラカラと笑って対応し、隊長らしき兵士は頭に手を当て、ほんの少し申し訳なさそうに応えた。
「あー……それと、お前たちに関係があることを言っておく」
「あい?」
「このあたりは少し物騒なことが起こってな。こちらの国の中での話なんだが、国境付近でうちの兵士が襲われた話も出ている。もしかしたら、あんたらにも遭遇するかもしれない。気を付けてくれ」
「分かりゃした」
「また、この情報が洩れると、こちらを襲った奴らに情報が流れて、捕らえられないかもしれないから、この情報は内密にしてくれ。この情報を渡すのはあくまで私たちの検問に協力的だったためだ。分かったな?」
「あいあい」
「護衛の君らも、いいね?」
「はい」
「分かりました」
「ああ」
「はーい!」
兵士の確認に、自分たちはそれぞれの個性が見える応え方をしていた。
「じゃあ、行っていい」
そしてその後は、この検問の前と同じように、何事もなかったように馬車での移動を再開していたのだった。
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