42話 脱出
自分と科若さんは、緑色の安らぐような光に包まれた。
「桜木君……これって……」
光がおさまって科若さんの方を見てみると、血自体は割とベッタリと服に残ってしまっていたけど、科若さんの鎖骨下の部分はかすり傷に見える程度には回復出来ていたみたいだった。
「それはともかく、今はここを抜けて、村に戻ります!」
「分かった」
「降ろします」
科若さんを下ろして、前方に向き直った。
前には帝国軍の兵士とミハルさんが戦い続けていた。
その状況はというと、ミハルさんが押されているように見える。
それもそうだ、ミハルさんは剣が上手いとはいえ、プロの兵士と比べてしまうと劣ってしまうのは仕方のないこと。
「『ブラスト』!」
「うわっ……チィッ、後ろのガキの魔法か……」
風の魔法でミハルさんと戦っている兵士に牽制した。
「オラァッ!」
「クッ、しゃらくせぇ……」
それで兵士は一度体勢を崩し、それに合わせてミハルさんが追撃したが、兵士は易々とその剣を受け流した。
「ミハルさん!無理やりにでも戻ります!『ウォーターボール』!」
「ああ!」
「させるかァ!」
兵士は自分の魔法の牽制とミハルさんの剣を相手にしても、それでもそれらを振り払い、足止めをしているようだった。
「う、後ろからも来ました!」
「後ろは私が援護します!」
牽制のため、後ろに乱雑に魔法を撃っていたアズハが、敵の姿に動揺していたが、科若さんがそれに加勢していった。
「このままじゃ持たないな……」
「無理やりにでも戻る」とは言ってみたものの、時間が経つにつれ、自分たちが不利になっていくのが実感させられていく。
さっきはなんとか「エンハンスヒーリング」を使えて切り抜けたけど、奇跡がそう何度もおこるとは思えない。
「方法は選んでいられないか……」
あまりこの方法は自分たちに対しても危ないうえ、地元の林業で食っている人などに申し訳ないからしたくはなかったけど、自分たちの命が掛かっているとなると、そうも言ってはいられなくなってきていた。
「科若さん!アズハ!火の魔法を使って森を燃やしてください!」
「い、いいの?そんなことして!?」
自分が出した指示に、科若さんは驚きを隠せないでいるようだった。
「山火事よりもこれ以上戦いに不利になる方が問題です!お願いします!」
そして、山の森に火を放った。
「『ブレイズバースト』!」
「『ファイアボール』!」
アズハは上位の火の魔法で森の中に火をつけ、科若さんは牽制も含めて「ファイアボール」を放った。
「『ウィンドストリーム』!」
自分は彼女らの魔法に続いて、より炎が燃え広がるように風の魔法を唱えた。
「お前ら……帝国の森になんてことをっ……!!!」
「こちらも、生きるためなんでなぁっ……!!!」
ミハルさんは動揺する兵士に踏み込んでみるも、それでも力は拮抗しているか、やや押されているような感じだ。
「ミハルさん!」
「分かった!」
「『アイスニードル』!」
ミハルさんと名前を呼び合うだけで呼吸を合わせ、攻撃を仕掛けた。
「グッ……!?」
牽制のつもりで氷の魔法を撃ったつもりだったけど、運良く兵士の腕に当たった。
「そこだっ!」
そしてそのときに出来た隙を、ミハルさんは見逃さなかった。
ミハルさんは鎧の脇の部分にある隙間に剣を突き刺した。
「グガァ……!」
兵士は鎧の中にチェーンを装備していなかったのか、チェーンの開いている部分にミハルさんの剣が入ったのか、はたまたミハルさんがいつの間にか自己強化魔法を掛けていて、それでチェーンを突き破ったのかは分からないけど、兵士の脇からは大量の血が出ていた。
そしてミハルさんが剣を引き抜くと、更に大量の血が流れ、兵士は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちていた。
「行くぞ!」
ミハルさんが促し、自分たちはそれに続いたのだった。
「……」
気絶しているだけなのか、まだ生きているだけなのか、それとも……なのか、動かない2人の兵士をひと時だけ目を配り、後ろに火の魔法を時折撃ちながら逃げるのだった。
……。
「ここまで来れば少しは……」
「ああ、森もここからでも見えるくらいには煙が出ているから、帝国軍も消火活動に重きを置いて、こちらに割ける力もそんなにはないだろうな……。それでも、すぐにでもこの村を出た方がいいだろうが……」
村の入り口くらいにまで戻ってきたが、それでも自分たちに残された時間は潤沢とは言えなかった。
兵士の方も自分たちが向かっただいたいの方向くらいは分かるだろうし、心落ち着くことのできる時間はまだまだ先になりそうだ。
「これからどうします……?」
アズハは不安そうな顔をしていた。
「ともかく、『長い方の道』の方に行ってみましょう。詳しい道は地図を改めて見ないと分からないけど、村からの道は分かるから、そっちの道までは歩いて行きましょう。歩いている最中に地図を見て確認って感じで」
科若さんの言葉に全員頷いて、一旦止めていた足を再び動かして、歩き始めていたのだった。
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