41話 ボーダーライン
さて、「イズムルド連合」と「ボルカン帝国」の国境を有する「グロム州」の村、「クライ・ラヴニニィ」に到着した。
州都の大衆食堂で決めた通り、グライダーを回収する道につく前に、するべきことがある。
村での調査だ。
村に着く前にすれ違う人々に話を聞いたり、村では行きのときに泊まった宿で聞いてみたりした。
しかしながら、聞けたのは州都で聞けた話とほぼ変わらず、「国境沿いで軍が緊張感を発している」という内容だった。
そしてそれらの情報から考えて皆で相談してみたところ、グライダーを回収する道に行くという結論でまとまった。
「うーん……。今のところ、特別何か変な感じはしませんよね」
「そうだな」
アズハの言葉にミハルさんが頷く。
越境までの道は森の中だ。
彼女の言葉のように、普通の森よりも多少鬱蒼としてはいるけど、特に変わった点は見られなかった。
「もうそろそろ、グライダーを埋めた場所の近くだよな……」
「ああ、軍が活発になっているという話の割に、この辺りは静かだ……。少なくとも、グライダーについて軍が調査しているとなると、この辺りに兵士を配置して立入禁止にすると思うから、もしかしたら軍が活発になっている理由は別にあるかも知れないな。若しくは調査をし終わったか」
ミハルさんは冷静に話しながら、一応のことも考えて、警戒は怠っていない。
「遂にここまで来たね……」
科若さんは弓を構えながら、感慨深そうに言った。
「桜木君」
「分かった」
ここへ来る前に決めていたことを科若さんに促され、了承した。
「『サイクロンカッター』!」
唱えた魔法で風の刃が生まれ、木や草を切り払った。
「……」
もし帝国軍がここで待ち伏せしていたなら、この行為で何かを仕掛けてきてもおかしくはない。
だけど、それによって何かが変わるでもなく、ただ驚いた鳥が羽ばたいていっただけで、それ以外の音はほぼなく、静かなものだった。
「大丈夫そうか……?」
暫く待っても特に状況が変わらなかったので、ミハルさんが呟いた。
「じゃあ、掘り起こす?」
誰が応えるでもなく、科若さんが次の判断を提示した。
「僕が掘り起こします。皆、一応警戒を続けておいてください」
「うん」
「分かった」
「分かりました」
そうして、自分が土の魔法を使って、グライダーを掘り起こそうとしたときだった。
「危ないっ!」
科若さんが叫んで、アズハの前に飛び出てその矢を放った。
彼女が矢を放った時、弓矢の音以外の音が科若さんの方から聞こえた。
思わずそちらを見ると、科若さんの右鎖骨下に、氷の柱が刺さっていた。
「科若さん!」
「『エリアヘイスト』……」
科若さんは顔をしかめながら、どうにか魔法の呪文を喉から絞り出し、膝から崩れた。
「撤退します!」
倒れる科若さんを支えながら指示を出す。
彼女が唱えた魔法の意味を即座に理解し、2人が逃げ出し始めたのを確認して、自分も科若さんを担いで走り出した。
「!?」
「『アイスジャベリン』!」
後ろから何かが来るのを察知はできたが、対応ができず、振り返ることしかできなかったが、アズハが即座に対応し、何かを打ち落として再び走り出した。
「お前ら早く!」
ミハルさんの言葉に発破を掛けられて、自分も走り出した。
「うぅ……ゲホッゲホッ!」
走り出して少しして、科若さんがむせた。
科若さんの方を見ると、いつの間にか科若さんに刺さっていた氷の柱は抜け落ちていたようで、血がダラダラと流れ、彼女の口からも血が流れていた。
「か、回復魔法は……!?」
掛けたのかと問おうとしたけど、気づいて言葉が止まった。
科若さんが氷の柱を受けていたのは鎖骨の下。
つまり肺に刺さっていたということ。
肺に刺されば魔法を唱えることはできないし、科若さん……というか、ここにいる全員無詠唱魔法は使えない。
そして科若さん以外の3人は他人に対して回復魔法を使えない。
どうすれば……。
「前に敵!」
科若さんのことで焦っていると、ミハルさんの言葉で周囲に再び注意を向けた。
前には2人、今まで見たことはなかったけど、話には聞いていたボルカン帝国陸軍の兵士の姿。
「『アイススピア』!」
その内の1人に、今まで後ろに時折魔法で牽制していたアズハが狙いを定めて魔法を放った。
「このガキャァ……!」
「くっ……!」
そしてもう1人にはミハルさんが剣で対応していた。
前には兵士が1人、後ろには何人いるか分からない追手、そして仲間にはかなり状態の悪い仲間が。
前と後ろはミハルさんとアズハが対応してくれているけど、科若さんはかなり緊急性の高い状態にある。
それに、ミハルさんとアズハがいつまで保つか分からない。
だから今は、「出来る」、「出来ない」ではなく、「やる」か「やらない」かのどちらかだ。
魔法というのは「努力」と「才能」、どちらの要素も含まれているらしい。
だというなら今、その「努力」で「才能」を引き出すしかない。
せめて止血さえ出来ればいい。
そして、科若さんに向けて、魔法を唱えた。
「『エンハンスヒーリング』!」
しかし何も起こらない。
「……『エンハンスヒーリング』!」
もう一度唱えても、やはり何も起こらない。
それにやや絶望仕掛けるも、ここで諦めたなら科若さんだけでなく、皆が死んでしまうかもしれない。
だから出来なければならない。
「……」
そうして息を整え、自らの意識を集中させた。
「『エンハンスヒーリング』……!」
そう言った時、周りは光に包まれた。
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