40話 再越境のために
「州都に来るのは久しぶりなので緊張します」
「アズハは前にも州都に来たことあるの?」
「はい!数年に1回くらいではあるんですけど、何回かは来たことがありますよ!流石にあの村から出たことのないような人の方があの村では珍しいですよ。あの場所は田舎ではありますけど、あそこより田舎の人たちと同じに見られるのはちょっと不服です!」
アズハはそう言って腕を組み、フンスと鼻息を立てていた。
自分たちは再び「州都」にやってきていた。
今度は新しい旅の仲間となった、アズハを連れて。
ここでの目的は、以前来たときとは変わらず、道中で歩きやすく、行先が分かりやすい場所を通るためであるのと、情報収集をするためだ。
前に来た時には、この国についてと、この国……もといこの「グロム州」を取り巻く情勢の情報を聞いた。
だけど今回はこの国のことについては別に聞かなくてもいいので、情勢についてだけ聞くことにした。
前回来た時に様々な情報を聞かせてくれた騎士みたいな人のいた詰め所に寄ってみたところ、あの人はいなかった。
異動があったのか、それとも単に非番なのか。
そのどちらかなのかは聞くことはなかった……、というか、名前も聞いてなかったので、聞きようもなかったというのはあるけど……。
ともかく、あのときとは別の人が対応してくれたが、その人はあまりお喋りな人ではなかったので、真新しい情報は仕入れられなかった。
だけど、「なにやら『イズムルド』との国境が更に緊張した状態になっている」との話は伺えた。
再越境をするために、今の自分たちにはその情報があるだけで十分だった。
●
「というわけで、これから山を越えるための計画について、色々と会議をしようと思います」
科若さんが粛々とした態度で話し始めた。
自分たちは州都のとある大衆食堂で、会議を開いていた。
流石に堂々と公の場で「密出国」とも言えないのはもちろんのこと、それに繋がりうる話題として「越境」の語を使うのも躊躇われたので、「山越え」ということにした。
一応、声もある程度抑えて話し合うつもりだ。
「どうやって越えるつもりなんですか?その、空を飛んで、って話は聞いたんですけど私、一人で空が飛べるほど魔法を使えませんよ?」
アズハは不安そうな顔をして訊いた。
「それについての詳しい話も含めての話もするから、まずは概要だけ、説明させてね」
「はい……」
科若さんが話し始めたから、司会進行は自然と科若さんになっていた。
「まず初めに、私たちが最初に『山越え』したときの話をすると……」
そうしてアズハに対しての説明と、自分たちの再確認のために最初の越境のときの話について、話を戻して続けた。
帝国に密入国する前に、越境する道が2つ予定されていたこと。
自分たち密入国したときの越境にはグライダーを使ったこと。
グライダーは一応4人まで対応可能で、アズハの魔法の能力的に大丈夫そうであるということ。
州都で情報収集した限りでは、グライダーが帝国の軍に見つかっている可能性があること。
そして、最初から比較的安全で遠回りの道を選ぶのか、それともグライダーが見つかっていないことを祈って、グライダーがある方向を目指すのかが、今の主だった議題であることなど。
「なるほど……私にはその『ぐらいだー』……?について、あまり想像がつかないですけど……」
「それはグライダーの方向に行くって決めたら……いや、実際に行くことになって、見てみてから説明した方がいいと思うから、そのときで良いと思っているけどね」
科若さんは微笑んだ。
「それでみんなは、どっちがいいと思う?個人的に私は遠回りの道かなって思うけど……」
「僕は、一度グライダーを見に行ってから、大丈夫そうならその道でいいかなって思っているけど……。ここで聞いた話はあくまで現場の話が端折られたり、尾ひれがついた話になったりしている部分もあると思うから、必ずしもグライダーの話で国境が忙しなくなっているってわけではないだろうし」
「俺も大体同じ意見だ。同じ道で行けたら道への慣れもあるし、何より短時間の道を使えるのなら、使わない理由はないからな」
ミハルさんは自分が意見を言った後、すぐにその意見に同調していた。
「私は……その、1回目の『山越え』のときにいたわけじゃないですから、詳しいことは分からないですけど、私もそこまで旅に慣れているわけでもないので、一度遠回りの道を使って、長旅に慣れた方がいいんじゃないかって……思います」
アズハも仲間に加わって旅する期間も短いけれど、しっかり意見を言ってくれた。
「綺麗に意見が2-2に分かれたね……」
「うーん……」
科若さんは組んでいた腕の右手の拳を頭あたりに上げ、額に親指と人差し指を当てて唸りながら考えていた。
暫くして、
「よしっ……」
科若さんは彼女の中で、何かを決したようだった。
「今回は、桜木君とミハルの意見で行こうと思う」
「そのこころは?」
「意見を言ってもらって申し訳ないけど、アズハちゃんはまだ旅して慣れてないと思うし、グライダーについてはよく知らないと思うから、アズハちゃんの意見を少し重みの比率を軽くして判断したって感じかな?ごめんね、アズハちゃん……」
「わ、私は大丈夫です……まだ、旅して短いですし、一番経験がないと思いますから」
謝った科若さんに対して、アズハは目を丸くして胸の前で手をブンブンと振って否定していた。
「ありがとう、アズハちゃん。取り敢えず、グライダーのある場所まで行って見て、そこで考えるってことでいい?まぁ、その前の村の、『クライ・ラヴニニィ』で話を聞いて、緊張している理由がどうやらグライダーみたいってなったらまたそこで考えることになると思うけど……」
「うん、問題ないと思うよ」
「ああ。俺もそう思う」
「勿論私もです!」
「じゃあ、そういうことで」
こうして、「イズムルド」に越境する方針が決まり、再び旅を続けるのであった。
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