35話 治癒魔法
少女の名前は、アズハ・ミーシンと言った。
年齢は16で、母1人、娘2人、息子1人の4人家族の中、長女を務めているらしい。
アズハという少女は妹と共に家事を行い、弟と共に農作業を行っている。
今、妹は買い物に、弟は農作業をしているらしく、家にはいなかった。
そしてその母はというと、とある病に伏せていた。
病について、話の半分くらいしか分からなかった……、というか、少女もその病について、詳しいことを知っているわけでは無いようだった。
だが、症状としては、足腰が弱くなるような病気らしく、それが理由で少女の母は今、寝室で寝ているとのこと。
症状としてはそれだけだが、それによる他の健康被害で寿命が極端に短くなってしまうらしい。
その病を治す薬となる薬草は、この帝国内では採れず、他国からは一応輸入もされているらしいが、希少価値が高いため、帝都でしか売買は基本行われていないらしい。
帝都に行けたとしても、その薬草は高すぎて少女の家の資産では購入することはできない。
そんな折、自分たちに出会った。
もっと言うと、「エクスヒーリング」を使える科若さんに、だ。
魔法全体そのものもそうだが、回復魔法、そしてその上位魔法である治癒魔法は原理など詳しいことは分かっていない。
どうやら外傷優先で治し、次に血行や多少の体調不良を治し、最後に病気などを治すことができるらしい。
が、病気を治す基準というのも分かってはいない。
兎にも角にも少女の母は命に関わる病気を患っていたので、どうにかしようとは思っていたが、村には回復魔法「エンハンスヒーリング」を使える者までしかいなかった。
C種2の魔法は基本的に病気を治すことはできない。
一応「エンハンスヒーリング」が使える村の人に頼み込んで一度、試してはみたそうだが、結果は病状が鈍行するという具合に留まった。
C種3の魔法である「エクスヒーリング」は一応病気を治せるので、少女を治したときに使ったその魔法に興味が湧いたらしい。
一度襲われ、何なら一度盗賊と間違われたので、それを頼むのは無理かと考えていたらしいが、「できることならする」という旨を聞かされ、先の頼みをした、という訳のようだ。
……。
「なるほど……。では、あなたのお母さんに『エクスヒーリング』を掛けたらいいんですね?」
「はい。今から母に話をするので、母への説明が終わったら……ええと」
「科若、胡桃です。それなら、そのときに」
「助かります」
そうして少女は母がいるのであろう部屋に入っていった。
「はぁ~……一時はどうなるかと思った」
「確かに。私はまださっきのことを考えたら、血の気が……」
「……」
言って、再び青ざめていた科若さんを余所に、ミハルさんはどこかソワソワしていた。
「どうかしましたか?ミハルさん」
「いや……、なんでもない」
盗賊と決めつけてしまった少女を傷つけ、その少女の家に招かれたのでそのことを気にしているのかもしれないが……。
もしかしてと思って、少女のことを特に気を向けているのかとも思ったが、この素振りはそういうものでもないように思える。
「うんん……?」
「???」
唸っていると科若さんに変な目で見られたので、その考えを打ち切った。
ま、ミハルさんがどのような考えをしようが、なんでもないというのなら、彼が何かを言い出すまでは見守っているのが正解だろう。
「では、こちらです」
考えを打ち切ったとほぼ同時に、少女アズハが戻ってきて、科若さんを連れて行った。
……。
「終わりました」
特にすることもなく、窓から村の様子を見て、今日の泊まれる場所がありそうか考えながら見ていると、科若さんとアズハが再び戻ってきた。
「どうでした?」
すると科若さんは首を横に振った。
ダメだったらしい。
「多分、前に掛けた『エンハンスヒーリング』のときとほぼほぼ同じで、症状の進行が遅くなっただけだと思う。若しくは症状としては改善してたとしても、またすぐに戻るのかも」
「『エクスキュア』も?」
「うん。変わったようには見えなかった」
キュア系の魔法は状態異常を治す魔法だ。
特にその上位魔法である「エクスキュア」では、上位の状態異常魔法やある程度の病気などを治せる魔法だ。
だが、それに治せるものの限界はあるようで、今回の病気は治らなかったらしい。
それなりに希少な薬草でしか治せない病気らしいので、それなりに難病なのだろう。
「治せず、すみませんでした」
「いえ、もともと一か八かみたいな気持ちだったので……。確実に治る方法を今用意できなかったのはそもそも仕方のないことなので、別にいいですよ……」
「いやいや、アズハさんの頼みは『アズハさんの母親を助ける』ことだったので、それをかなえられなかったのはこちらの落ち度です。アズハさんを盗賊と間違えて襲ってしまったことを償えないのは申し訳なくて……」
「そんな……」
「いえいえ……」
これ以上は謝り合戦になりそうだったので、ここで一石を投じることにした。
「そういえば、その薬草って、どういうものなんですか?」
そして、少女はその薬草の名前を口にした。
「ええと……それは確か、『月見草』っていう名前の薬草です」
……この国に入って、一体何度目の驚きだったのだろうか。
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