33話 山の麓
「州都」で生まれた不安を残しつつ、なんとかトラブルに見舞われることとなく、「秋華滝」があるという山が見える場所にきた。
「この山が『ゴラ』……なんだっけ?」
「『ゴラ・ゴスポディナ』ね。話の中からどういう意味なのか探ってみたけど、どういう意味かは分からなかったよ。ミハルさんは知ってる?」
「確か……『領主の山』とか、そんな意味だったような気がする。詳しい理由は分からないし、『イズムルド』にいるときに知った話だから、合っているかも分からないけどね」
州の整備する街道にも坂はあったけど、ここからの坂道は「山道」の色が出てくる。
まだ山道ではないけど、道の感じがくたびれた感じになってきて、道に生える雑草もぽつぽつと頭を出してきている。
山の見えてきた場所からしばらく歩いて、とある看板が見えてきた。
「『こちら、ゴラ・ゴスポディナ山道入り口。ザ・ゴロイ村へお越しの方もこちらから』……ここか。」
国境を越えてから、問題という問題もなく、ここまで来られたのは運がいい。
街の中を来たから、帰り道も特に問題が起こるようにも思えないからだ。
「ここまで来たら、村へは大体半日くらいで着くらしいって言ってたよね?」
「そうだね。今からなら日が沈む前に着きそうだ」
科若さんの言葉に、自分も頷きながら応えた。
「二人とも、ここからは本格的に山道だ。一応、街道から出て普通の村に着く道だが、もしかしたら山賊みたいな連中が襲い掛かってくるかもしれない。今までも気をつけていたと思うけど、これからはもっと気を引き締めていこう」
「は、はい……」
「えぇ……」
ミハルさんの言葉に、二人とも顔を少し強張らせて応えた。
半日ほどの道ではあるが、村から離れた場所で襲われては助けも呼べず、ひとたまりもないだろう。
街道はある程度人通りはあるけど、田舎の村へ向かう街道に用事や興味がある者は少ないだろうし。
「すぅぅ……ふぅ……はぁ。……っし」
もしものことなどを考えてから、深呼吸をして気を引き締めていた。
……。
「……いる」
ミハルさんの言葉にギョッとした。
「攻撃の用意をしますか……?」
「クルミの弓はまだいい。ナオト、魔法はいつでも撃てるようにしておけ」
弓をすぐに構え、矢の用意をするか聞いた科若さんにミハルさんは低い声で指示していた。
「分かった。相手は何人です……?」
「一人か……多くても二人だ。」
流石に自分たちより旅をしている時間が違う。
ミハルさんは時折抜けたようなところがあるが、こういうときは冷静に判断してくれる。
「村人だったら話が分かるかもしれないが……手練れの野盗が二人だとすると拙いな……」
その言葉に、思わず息を呑む。
「野盗だとして、逃げられたら仲間に報告されるかもしれないしな……ともかく、声掛けをしてみるか」
そう言ってミハルさんは、大きく息を吸い込み……
「この山に用事があって来た者だ!あなた方がこちらに注意を向けているのは知っている!出てきてもらえないだろうか!」
大声で叫ぶように言った。
するとガサガサと何かが遠ざかる音……。
「追え!盗賊かも知れない!」
そう言われて、自分はすぐに、そして科若さんは矢を用意してから走り始めた。
少し走ってから分かったのは、逃げる相手はこの周辺のことをよく知っていて、体力もそこそこあるから、もしかしたら逃げられてしまうかもしれないということだった。
もし、相手が本当に盗賊だったら後々危険に晒されてしまう。
なら、ここで多少の魔力の消費は仕方のないと割り切って、使ってしまおう。
「くっ……『セルフヘイスト』!」
ヒュンッ!
自分が「ヘイスト」を唱えると、重なる風音。
自分に「ヘイスト」が掛かったことによる速度の上昇からくる風音と、もう一つは科若さんが恐らく牽制で放った矢の音だった。
放たれた矢は逃げる者のすぐ近くの木に刺さった。
逃げる者がその矢を確認できるような位置の木に。
彼女の持つ精度の自信からくる狙いだろう。
ヘイストを掛けた自分と、元から速いミハルさん、矢で牽制して逃げる者の行先を制限していく科若さん。
これでどうにか追い詰めることができる。
……。
しばらく追って気が付いたが、逃げる相手は一人だけだ。
もっと先も確認しているが、どうやら仲間はいないらしい。
このまま追ってもスタミナが切れ、科若さんの矢もより多くなくなってしまうだけだ。
逃げる相手はこの場所についてよく分かっているらしいし、隠れて逃げやすい場所から逃げられると困る。
「あそこで先回りして回り込むか……」
「ヘイスト」も時間で効果が薄くなるから、効果が無いのと同じになってしまうくらい薄まる前に、もう追い詰めておきたい。
「ミハルさん!このまま真っ直ぐ行って逆の右側から追い詰めます!」
「分かった!」
今は逃げる者の左側に位置しているから、右側から現れたら相手も驚いて少し足を止めてしまうだろう。
了承したミハルさんを確認し、更に速く走った。
「ふっ……ふっ……ここだ!」
「!?」
逃げている相手は驚き、逆の方向に進もうとしたときだった。
―――グサァッ!!!
科若さんの牽制射がその相手の太ももを貫き、相手はそのまま倒れて血を流していた。
「そん……な……」
自分がその言葉を発したのは、相手の姿を詳しく見てしまったからだ。
科若さんが射抜いた太ももの持ち主は、ただの村人のような、それも自分たちよりも少し若いくらいの少女だった。
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