30話 越境
本日は10話ほど投稿いたします。
明日からは水曜日4回、それ以外2回の投稿に戻ります。
「うわあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!飛んでるううううううううぅぅぅぅぅぅぅうううううううう!!!!!!!」
「「うるさい!」です!」
ひとたび飛ぶとミハルさんが今までのテンションとは違う感じで思いっきり叫んでいた。
「下手したら兵士とかに気づかれるかも知れませんから!」
「う、うう、す、すまない!」
「とりあえずあそこに一旦着陸します!」
そういう訳で空から見かけた、開いている場所に一旦着陸することにした。
……。
そういえばミハルさん最初に街道で出会ったときはイラついてはいたけど、今より明るくて茶目っ気のある性格だった気がする。
今までのように落ち着いていたのは、ご家族のことでアンニュイになっていたからかもしれない。
「俺自身が思っていたより、高い場所が苦手だったんだ……」
ミハルさんは高所恐怖症だった。
話を聞くと、子供のころの木登りでも、街の高めの建物などでもそこまで恐怖などは感じなかったらしい。
とはいえ、木登りはある程度の年齢からはしなくなったらしいし、高い建物はグライダーほど直接高さを感じ取れるものでもない。
「昨日も言いましたが、慣れるしかないと思います。僕も高所恐怖症でしたから、最初のその怖さは分かります。正直今でも恐怖を感じていますが、飛んでいる最中はあまり考えないようにして、真下は見ないようにして、なるべく前をみるようにしています」
「なるほど……」
自分のアドバイスによって、ミハルさんは大きく頷いていた。
「うーむ……」
対して、高所恐怖症ではない科若さんは、目を伏せて腕を組み、首を傾げながら唸っていた。
呆れているのか、高所恐怖症が分からないなりに、なにか考えようとしてくれているのか。
「とにかく一度休憩して、一定の間隔で飛んで降りてを繰り返して、だんだん高度を上げていって、慣れていきましょう」
「ああ……」
これでミハルさんが恐怖して、離陸するのに再び練習を要したが、昼前には再び飛ぶことができた。
●
越境場所近くの別の場所。
「―――?……なぁ、何か今、聞こえなかったか?」
「あー?なんだよ、どうせ動物か何かだろ?」
「いや、人が叫んでいるような声が……」
「盗賊やらの犯罪者の諍いだろうよ。俺たち栄えある『ボルカン帝国陸軍』の“木っ端見習い”が対応するようなことじゃねえよ」
「この巡回、見習いの演習とはいえ一応、『実践』だぞ?なにかあったら“コト”だ」
「そうかあ?報告して何もなくて、叱責食らうなんてヤだぜ?俺は」
「そりゃ何も無けりゃ多少の叱責はされるだろうが、なにかがあって、それが『イズムルド連合軍』のクソ共だったとしたら、俺たちは叱責どころか、『イズムルド』の内通者だと疑われて、尋問や降格、減給、免職、下手すりゃ拷問すらもあり得るかもしれないぞ?」
「それは流石に嫌だな……」
「それに、ここいらで十数年に一度ある、『未確認の空中存在』は『イズムルド連合軍』の新兵器なんて噂があるくらいだ。逆にそれをみつけりゃ昇格昇給も夢じゃ……ん?」
「ん?どした?」
「おい、アレを見ろ」
「どこだ?」
「声を落とせ……。アレだよアレ、あそこの山の近くの……」
「アレって……」
「噂をすれば……ってヤツかもな」
「『未確認の空中存在』……」
「今から報告しにいくのもいいけど……」
「千載一遇の一攫千金の機会を逃す訳ゃぁ、ないよなぁ……?」
「そう来ないとなぁ?」
そう言って二人の兵士はニヤリといやらしく笑い、なるべく気配を消して、だが『未確認の空中存在』に遅れて見逃さないように、足早に「それ」を追うのであった。
●
午前中にミハルさんの騒動があったので、自分たちがグライダーで山々の谷間を抜けて越境している間に日は沈み、残された夕焼けの色も失いつつある時間になっていた。
夜の航行は危険だ。
山には街灯などの光はないし、グライダーには飛行機のような地上接近警報装置もないから、ちゃんと進んでいるのかどうかとかいう問題ではなく、安全に航行、着陸すらできず、即死する危険性は無視できるものではなく、寧ろ高確率であるのはいうまでもない。
そうして、夜は歩き、日が昇れば飛びを繰り返し数日。
兎に角、安全に越境はできた。
最後のフライトの終わりで、村の近くになるので、日が沈む前に着陸して、グライダーを地面に埋めたときだった。
「二人とも、何かいる」
ミハルさんの言葉に、薪と晩御飯の準備をしようとしていた自分と科若さんは警戒態勢に入った。
「相手は?」
「分からない……盗賊かもしれないし、動物かもしれない」
「グライダー、埋めちゃいましたね……掘り起こして、場所を変えますか?」
コモリ所長は『見つかったり壊れたりしたらしょうがないから、そうなったらそれらを捨てて帰ってきた方がいい。グライダーはまた作れるけど、命は戻ってこないからね』とは言っていたけど、なるべく持って帰った方がいいだろう。
「いや、動物ならその間に襲ってくる。人なら後を付けられて、次の拠点で襲われるかもしれない」
ミハルさんがグライダーが怖いからこんなことを言っているのでは?とか、心のほんの一分くらいは思わないでもないけど、こういった場で、ミハルさんがふざけたり、自分の私情を強く出すことはないからなるべく冷静に判断したんだろう。
「そうですか……じゃあ、グライダーはこのままにして、別の場所に移った方がいいですかね?」
「そうだな……移った後の夜の見張りも、一人じゃなく、二人が起きて警戒した方がいいと思う」
「分かりました。では、すぐに移動しましょう」
こうして越境は様々なトラブルに見舞われ、思っていた以上に疲れるものとなっていた。
新たな野営地では人にも動物にも襲われることはなく、なんとか無駄な戦闘などをすることなく越境できたのは不幸中の幸いだったのか。
ともかく、自分たちは「ボルカン帝国」への密入国しに成功し、ようやく次なる目的地、「秋華滝」の位置をより詳しく知っていき、目指すことになる。
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