25話 黒曜石の街での再会
本日は10話ほど投稿いたします。
明日からは水曜日4回、それ以外2回の投稿に戻ります。
「銀の街」から「黒曜石の街」への道のりは行きと同様、特に何があるわけでもなく、安全なものだった。
そして自分たちは「ボルカン帝国」を越境する道と方法の詳細を聞くためにここ、「イズムルド電力研究所」に再び訪れていた。
「あー……越境方法ね~……」
コモリ所長は頬をポリポリと掻きながら天を仰いだ。
「安全だけど時間が掛かる道と、時間はあまり掛からないけど疲れて、最近は危険になってきた道の二つがある」
しばらく間をおいて言われたのはその言葉だった。
コモリ所長は机に広げられていた地図を指して更に詳しい説明を始めた。
「あんまり魔法が得意ではない人たちが行くのは安全だけど時間の掛かる道だけど、君たちみたいな比較的魔法の得意な人たちは基本的に時間があまり掛からないけど疲れる道だったんだよね」
「だった?」
「『最近危険になってきた』ってとこの話。それについては後で説明するよ」
所長は水を一口だけ口にして、軽く息を吐いて説明を再開した。
「『安全な道』っていうのは、色々な意味で安全なんだ。人、動物、道。少なくともこれらにおいて、ね」
「人、動物、道……」
「まず人。盗賊だとか、若しくは軍隊だとかがいない道なんだよ。この道は『イズムルド連合』が少しだけ『ボルカン帝国』を経由して、その奥の国々と貿易するために商人たちがよく使う道なんだ。だから国境警備隊や軍隊自体はこの道にはいないんだよ。ここにそれらをおいても維持費の方が高いし、『ボルカン帝国』は『イズムルド連合』との戦争になった場合のことを考えて、平時にはここを生かしておいて貿易の一部をここに依存させるようにして、有事のときにはここに軍隊とかを派遣して経済制裁や貿易航路の破壊をするために見逃しているんだよ。でも近くの街を犯罪者から守るために、警備や自警団がいるから犯罪者も少ないことが特徴かな」
そういうことか。
そして所長はまた水を一口。
「次に動物。これはまぁ、普通に危険な動物が少ないってことかな」
それは想像できた。
「最後に道。途中までは整備された道だし、直接越境する場所も比較的なだらかな峠になっているから、落ちたりするのがないから安全なんだよ」
最初の話は話をされて理解したけど、残り二つは最初から大体想像はついていた。
「それで、もう一つの道って―――」
「それも説明するよ」
溜め息を吐いてからまた水を飲んでからコモリ所長は。
「時間が掛からないっていうのは、さっきの道と比べて3分の1くらいの日数で行けるんだよ」
「それは早いですね」
科若さんもその情報に興味を示していた。
「で、疲れるっていうのは、途中で魔法を使って越境するからなんだ」
「魔法を使って……?」
「そう。……ところで、グライダーっていう滑空する道具、知ってる?」
「知ってます」
……っていうか、あるの?
「そのグライダーで越境するんだよ。魔法で風を起こして推進するから、わざわざ高い場所に上る必要もないし、片道だけしか行けないなんてこともないんだよ。魔法を使うから、これが『疲れる』理由だね」
確かにグライダーで滑空して行くなら、時間もかなり短縮して行けるだろう。
「この道、動物は安全な道よりも少し狂暴なヤツが多いみたいで、道も険しい道なんだけど、大体が滑空して行くから殆ど関係ないんだよ。それで、人の方については寧ろ、前までは安全な道よりも人が少なかったらしいんだけど……はぁ……」
コモリ所長は今日一大きなため息を吐いた。
「この道、今までの『流れ者』のせいか、前よりも監視が厳しくなっているみたいなんだよ」
「……どう、厳しくなっているんですか?」
科若さんも身を乗り出して聞いている。
……揺れ動くものを見てしまうのは動物としての本能だ、仕方ない。
と、自分に言い聞かせておく。
「時折軍隊が巡回してくるみたいなんだ。僕も直接見に行ったわけじゃないけど、旅人だったり、偵察しているこっちの国の兵士だったりからもその話が聞けるから、信ぴょう性は高いと踏んでいるよ」
コモリ所長は真剣な眼差しでこちらを見て頷いた。
……あ、今所長、胸の方に目線が。
「そういう訳だから、どちらで行くか決めたら言ってくれ。時間が短い方で行くならグライダーは僕たちが用意するから」
コモリ所長は、少しくらいは待ってくれる姿勢でいてくれた。
「……」
「……」
科若さんとアイコンタクトを取った。
どちらで行くのかはもう決まっている。
自分たちには時間がない。
「短い方で行きたいので、グライダーの用意をお願いします!」
即決。
科若さんも不満はなさそうだった。
●
コモリ所長は今実験中のものを提供してくれるらしい。
実験中というのは少し怖いけど、「飛ぶ」ことは保証されているらしい。
用は「実際に使ってみて扱いやすいかどうか」についての検証がなされていないため、その研究の一環でくれるらしい。
「貸してもらえる」ではなく「貰える」のは、旅の途中で壊れる可能性も考慮してのことらしい。
そして、そのグライダーを使えるか再検査するために少し時間を空けてくれ、とも言われた。
そのくらいなら勿論いいので了承し、科若さんと一緒に街に昼食を食べに行った。
昼食は、以前「黒曜石の街」を発つ少し前に食べた店だった。
「お客様、本日は他のお客様も多いので相席でよろしいでしょうか?」
どうやら繁盛しているらしい。
「ええ、構いませんよ」
そして案内された席には、一人の同年代くらいの男が居た。
「……」
男は黙って静かに食べていたが、こちらに気づく様子はなく、そして明らかにイラついたような、しかしその中に悲しさを纏うような陰のある雰囲気があった。
「あー……あっ」
目線を合わせて一礼だけしようと声を出したときに、相手がたと目が合って、思い出した。
「あ」
相手もこちらに気づいたらしい。
「この間は、どうも……」
その相手は、「黒曜石の街」から「銀の街」に行く途中、肩がぶつかってきて絡んできた男だった。
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