20話 追手
「桜木君、交代いける?」
座って寝たのに昨日は余程疲れていたのか、全く夢を見ずに起きた。
「うん……ありがとう。今度は自分が起きときます」
「じゃ、よろしく」
そして科若さんは自分の座っていた切り株に腰掛けて、前かがみになって寝てしまった。
風で草木が擦れる音。
「!」
ただそれだけなのに、体は反応してしまう。
先ほどまであれほどぐっすり寝ていたというのに、起きたら周りの環境に対して敏感になってしまっている。
回復魔法である程度治したとはいえ、噛まれた跡が見て分かる程度には残っている。
苦しいというほどではないけど、何もしていなくてもジンジンとした痛みが左足首にまとわりついている。
「はぁ……。あっつ……気持ち悪ぅ……」
草木を揺らした生温い夏風が、痛みの残る傷跡に舐めて得も言われぬ不快感を与えている。
山側とはいえ内陸ではなく海からこの森までは山がないらしく、湿気のこもった海風が届いている。
嗚呼、朝までこの生温く息苦しい湿った風、左足首の痛みと共に、クマやオオカミが追ってこないか注意しなければならないのか。
気が滅入りそうだ。
●
夜が明けた。
「朝ごはん……食べようか」
「そうだね……」
昨日から食べているのは、保存食の干し肉だ。
詳しく言えばあの「静谷」を抜けてからだ。
そして今日もそうだった。
昨日の遭遇戦から狩りをする気力などはなく、また肉を炙ったら煙が出て、その煙によってクマやオオカミに見つかってしまう可能性があるからだ。
干し肉は歩きながら食べられるので、勿論歩きながら食べた。
……。
今日は昼まで歩き続けても、クマやオオカミに出会うようなことはなかった。
「日が傾いてきたな……『ヘイスト』使おうか」
「分かった」
基本強化魔法、「セルフヘイスト」。
これは「ヘイスト」とも略され、自身の身体の速度を上げる魔法だ。
昼過ぎまで問題なく歩き続け、昼食も保存食を食べたので魔法も使うことはなかった。
だから一日がもうすぐ終わりそうなこの時間帯に使うことにした。
この時に使えば体力的にも魔法を使う気力的にも少なくなる……ように思えたためだ。
「「『セルフヘイスト』!」」
ともあれ二人とも魔法を唱え、早足で今は見えない動物たちから逃げるように森の中を進んだ。
●
「今日は大分進んだ……というか、戻ったね?」
今日の野宿する場所を決め、保存食を食べながら今日のことを話した。
「そうだね。明日からはずっと『ヘイスト』を掛けながら戻るのはどう?今日は一日動物と遭わなかったし」
そして科若さんからの提案。
これは今、自分も思っていたことだった。
「アリ……だね。帰り道も大体分かっているからどれくらいの時間配分で帰れるかが分かるし、帰りはある程度体力とか魔力を温存しなくても早く帰れた方がいいしね」
特に問題点も見当たらないので科若さんに同意した。
「じゃ、明日はそういうことで」
「ん。じゃあ私は先に……うん?」
「どうしたの?」
科若さんが何かに気づいたのか、自分の後ろの方を見た。
自分もそれにつられて振り向いて確認する。
「いや……何もなかった。じゃあ……改めて、おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
今日はある程度草を刈って寝場所を作り、そこで科若さんが先に眠った。
●
次の日。
「「『セルフヘイスト』!」」
朝、顔を魔法で洗い、「ヘイスト」を使った。
朝食の保存食は「ヘイスト」を使った状態で歩きながらの食べ歩きだった。
……。
そして夜になった。
今日は朝から「ヘイスト」を使ったから、昨日よりもかなり早く歩いていけた。
そして余裕が出てきたのもあって、途中狩りをして、昼と晩のご飯となる鳥などを仕留めた。
「とはいえ、疲れた……」
「ハハハ……本当にね」
二人とも疲労を声に出して、晩御飯と寝場所の用意を始めた。
すると―――。
ガサガサガサァ……!
周りの草木が突然に揺れた。
「何だ……?」
見回すと、揺れていたのは一か所ではなく、あらゆる場所の木々草々からだった。
「警戒」
科若さんはそう言って、矢筒から矢を取り出して弓につがえていた。
自分も棍棒を手にし、周囲に注意を払った。
ガサガサ、ガサガサッ!
あらゆる場所で草が揺れ、音を出している。
どこに注意を向けたらいいのか分からず、取り敢えず科若さんの隙になりそうな方向に警戒の目を向けていた。
ガサガサガサガサァ!!!
そして彼らは、姿を現した。
暗いので詳しい数は分からなかったが、大体6、7匹……程度だった。
そして彼らは、オオカミだった。
「まずい……」
思わず口からそんな言葉が出てしまった。
今は昨日以上に疲れていて、夜であってオオカミの方が夜目が効くだろう。
薪をしていて光源がこちらにあって、こちらの方が不利だが消したら消したで見えなくなるから薪の火を消すこともできない。
そのうえ魔物は自らの力で火を使うものとその群れの集団は火を恐れなくなる。
あの日、あの中の一匹は「ファイアボール」を使っていた。
また、数で負けている。
あのとき致命傷だった1匹を引いた数よりも明らかに多いので、応援を呼んできたのだろう。
あのときはクマがオオカミと対峙していたため逃げ切ることはできたが、今はそのような存在はいない。
オオカミ達の興味を失う理由もなく、また戦力を削がれる存在もない。
これは所謂……絶体絶命という奴だ。
土曜日は2話、投稿できそうです。
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