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19話 三つ巴

目の前のオオカミが遠吠えをし、火球を上空に放った。


その絶望とともに、さらなる絶望が襲い掛かってきた。


川沿いの崖から数匹、更にオオカミが降りてきた。


更に来たオオカミは既に居たオオカミの後ろに2匹、クマの後ろに3匹。


計6匹だ。


「グルルルル……」


オオカミ達の唸り声と川のせせらぎのみがこの場に流れており、場は再び静止した。


圧倒的なほど危機的状況。


最初に集めるものを取りに行く場面としてはかなりハードルが高いものなのではないだろうか。


一体どうすればいいのか。


クマが1体に、オオカミが6匹。


それに対して、こちらは本格的な戦闘を経験したことない2人。


クマとオオカミは仲間ではないが、こちらの敵であるということは間違いなく、場合によってはその全てと対峙しなければならないだろう。


どうしようかと考え、動けないでいると、状況は動き出した。


動いたのはクマ後ろのオオカミだった。


どのように動いたのかは分からなかったが、どうなったのかは大体わかった。


何故分かったのかというと、1匹のオオカミが横を血まみれで吹っ飛んで行ったからだ。


その躰には、クマのものと思われる傷跡があった。


「走れ!」


考えがまとまる前にそう叫び、前のオオカミ達の群れに突っ込んでいった。


「『ファイアボール』!」


「……ッ!」


自分は火の攻撃魔法の基本魔法で牽制をして、科若さんも矢を放っていた。


「キャゥン!」


自分の牽制弾こそ当たらなかったが、科若さんが放った矢は1匹のオオカミの下半身に刺さり、走れなくなっていた。


「―――ッ」


「グルルァッ!」


前にいる残るオオカミの1匹は最初から居たオオカミで、再び「ファイアボール」をこちらに放つ準備をし、もう1匹は噛みつこうと科若さんの方へ吠えながら走った。


「『ウォーターボール』!」


「『ファイアボール』!」


自分は相殺するために水の攻撃魔法「ウォーターボール」を、科若さんは矢を出す時間を惜しんでか牽制程度に使える「ファイアボール」を唱えた。


今度は自分の魔法は命中して相殺したが、科若さんの魔法は外れた。


自分の方は兎も角、科若さんにとってそれは致命的だった。


「きゃあっ!」


噛みついてくるオオカミは科若さんの「ファイアボール」を避けると同時に距離を詰め、科若さんの右腕に噛みついた。


「っらぁ!」


ある程度こうなるかも知れないとは思っていたので、持っていた棍棒でそのオオカミの腹を思いっきり殴った。


「ガァッ!?」


最初に科若さんが掛けた強化魔法の効果がまだ続いていたのか、思った以上の距離をオオカミが吹っ飛んでいった。


魔法を使っていたオオカミがそれを見ていたのかどうなのか、こちらに興味を失って、クマに対峙している方に加勢しにいった。


……。


「早くこの谷を出て回復魔法を掛けよう」


「うん……」


そう言って早足で谷を降りようとした。


「痛っ!?」


突然左足首に痛みが走った。


「グルルルル……」


見ると、下半身に矢の刺さったオオカミが一矢報いるためかと、噛みついていた。


「……」


「キュウン!?」


先ほどのように強化魔法が解けてない状態で、普通に蹴ったと思ったらそれ以上の力で蹴ってしまうということになってしまうと思って、ゆっくり蹴ったと思ったがそれでも強かったらしく、矢の刺さったオオカミは宙を舞った。


「……行こう」


「足、治さなくていい?」


「……『ブラックロッツ』でいいかな?」


「『ブラックロッツ』は血を止めるだけで、治癒力は高められないから、『ヒーリング』の方がいいと思う。感染症に罹っちゃうかもしれないし」


「分かった……『ヒーリング』」


「私もしとこ……『ヒーリング』」


オオカミの咬み傷ともなると『ヒーリング』程度じゃ完治はしないけど、何もしないよりもいいだろう。


そして「静谷」を一刻でも早く出るために早足でずっと歩き続けた。



「やっと出れた……」


「はぁ……」


二人とも満身創痍で、景色も大分と暗くなりながらもなんとか今日中に「静谷」を出ることができた。


「一応、あのオオカミかクマが付いてくるかもしれないから、今日は火が沈んでも暫く歩いておこう」


「分かった」


そうして早足ではなくなったけど、「静谷」を出て暫くしても歩き続けたのだった。



「静谷」を出て数時間後、つまり完全に日が沈んでしばらくしてのこと。


「あ、ここ……」


「ここは……」


ここは、来るときには素通りした野宿のためにある程度切り拓かれたような場所だった。


とはいえ、このあたりに切り株があって、寝る場所と言えるような場所も、焚火しているような場所もなかったけど。


「ここでいっか」


「分かった。今日は私が起きとく」


「ありがとう……」


彼女も腕をオオカミに噛まれて大変だったろうに、それでも気を遣ってくれる。


「あ、そうだ」


科若さんが呟いた。


「何?」


「噛まれたところ、見せて?」


「は、はい……」


いつもなら何故かを問うたけど、今は疲れていたので二度目の質問をすることは諦め、素直に応えた。


「……『エンハンスヒーリング』」


彼女は自分の噛まれた足に回復してくれた。


この「エンハンスヒーリング」、「ヒーリング」の上位魔法だが、彼女がこの魔法を使ったのは訳がある。


「ヒーリング」は自分に対してのみ使える魔法で、「エンハンスヒーリング」以上の「ヒーリング」系の魔法でしか他人には回復できないからだ。


しかしながら、他人に対して回復魔法を使うと回復量が落ちるという欠点もあるけど……。


因みに自分は使えない。


「重ね重ねありがとうございます……」


「良いって。近接戦ができるのは桜木君だけなんだし。今は安心して寝てて」


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて……おやすみ」


「おやすみなさい」


必要以上に魔法を使わないように、そして万が一オオカミやクマに見つからないために、寝床をつくることも火をつけることもせず、切り株に腰掛けて意識を手放した。

良ければ是非ともご評価・ご感想を頂ければと思います!

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