13話 街道
「黒曜石の街」から「銀の街」までは主要都市間ということもあり、街道が整備されていて、距離自体は結構あるらしいというものの、距離に比べて早く着くらしい。
とはいえ、「黒の森の東の村」と「黒曜石の街」の移動よりも時間は掛かるらしく、歩いてとなると2週間くらいは必要とのこと。
馬車だともう少し早く移動できるらしいけれど、今回は前回のようなコネはないので乗合馬車はそのままの料金が掛かってしまい、結構高くついてしまう。
街道の食堂や宿屋は、元の世界の学生街の飲食店みたいに支払いは食器洗いや掃除で免除・減額がされるようなので、街道を過ぎる旅が長くなってもそこまで問題ではない。
まあ、街道に限った話ではなく、旅人の行き交う道や街ではよくあることらしいけど。
馬車自体はそこまで早くはないので乗るのは時間に対する金額というよりは疲労感をなくすために対して支払われると考えた方がいいだろう。
しかも馬車はろくな揺れ対策などないのでかなり揺れる。
高級な馬車には「流れ者」が流通させたとされるスプリングである程度揺れが軽減されているらしいが更に高いお金を払わなくてはならないため、自分たちには必要はないと思う。
旅の最後にお金がタンマリ貯まっていたら使ってみるのはいいかもしれない。
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さて、そんな街道での道すがら。
「おっと、すみません」
街道は街の大通りほどではないけど、そこそこ広いのでぶつかることは少ない。
しかし、周りの景色や注意の不足で目測を誤って不用意に近寄ってしまったり、ぶつかったりしまうことはある。
そんな時は大抵互いに謝って通り過ぎるのが普通だ。
相手がよっぽど喧嘩っ早いか、犯罪者の類でもない限りそこでトラブルが起こることはない。
こんな移動すること以外にすることがない場所で油を売っても仕方がないためだ。
ここは主要な街道で、犯罪をしようにもアシが付くのでしようともしないだろう。
なので、自分の肩が当たってしまった人からは「こちらこそすみません」みたいな言葉が返ってくると思っていたけど……。
「あァ?テメェ、どこに目を付けて歩いてんだ、舐めてんのか?」
今回は運が悪かったらしい。
何か急いでいるような、イラついた感じのする若者の男だ。
「すみません、注意不足でした。そういうことで、急ぐので」
こういうのは素直に謝って、すぐにあとにする。
トラブル回避の基本だ。
……と、何かのまとめサイトに書いてあった気がする。
「おい待て、それで良いと思ってのか?」
その声の主に肩をグイと捕まれ、無理やり相対す形になってしまった。
ドスの効いた声で怖いなぁなんて思い、どうやって振りほどこうかと目線を下にやり、相手方の姿勢を確認しようとしたとき、気がついた。
帯剣している。
流石に帯剣している相手への対処法は、あのサイトには書いてなかったなぁ……。
なんて現実逃避をしながら科若さんの方を確認する。
彼女は立ち竦んで、動けないでいる。
帯剣している男だと認識して、逃げも出来ず、かといって何ができるということもないので、顔を固まらせて戸惑っているといった感じ。
「お金なら多少は出しますので、どうかお目こぼししていただければ……」
自分に出来ることなどこの程度。
土下座や靴舐めを求められたらしよう。
五体満足である前には安いものだ。
攻撃魔法も使えはするが、相手が帯剣しているからといって、魔法が使えないとも限らない。
自分と同じだけ使えるとしたら、相手は剣を扱えるだけ自分の方が不利だ。
可愛い女の子を前に多少なりとも格好をつけたいという気持ちもなくはないけど、死の危険を前には男のプライドなどは豚の餌にもならない。
「……」
「……」
男色の趣味はないので、こんな不毛な見つめあいはとっとと止めたい。
見つめあいなんて色のある言い方をしたけど、第三者目線でみたらきっと蛇に睨まれた蛙の図だろう。
「……ック、フハハハハ!」
「!?」
男は突然笑い出した。
その声に驚き、思わず身構えてしまった。
「冗談だよ。いや、さっきまでイラついていたのは本当だったけど」
若い男は笑顔でそう言ってきた。
「二人とも、旅は初めてだろう?」
「は、はぁ……」
緊張が解け、思わず気の抜けた声が出てしまった。
科若さんも驚いた顔をしていた。
「やっぱりな。二人とも馬車に乗ってるわけでもないに、護身の武器も持ってないからさ」
男はそう言ってカラカラと笑う。
「なんでもいいから護身具を買うといいよ。この街道は……ろくなものは売ってないけど、『銀の街』だったら、それなりのものはある程度揃ってるから、そこで買ったらいいよ。武器類は安物だと、いざというときに役に立たなくなるから、一定以上高い武器じゃないと、後で痛い目を見るのは自分だからな」
男は続けた。
「まあ、武器とか使ったことがないなら棍棒とかナイフとか?森とかで食材を調達するなら弓矢……は、慣れた人向けか。吹き矢とかを買えばいい。で、なるべく見えるように装備することだな。今回みたいに持ってないと調子に乗ったやつに、集られたりするからな」
「なるほど……」
「言いたいことはそれだけだけど……あー、さっきは、脅かして悪かった」
男は突然謝った。
「嫌なことがあって、こういうことをしてみたくなったんだ」
「そうですか……」
「じゃあこれで、気を付けて旅しろよ」
「はい、ご忠告、ありがとうございました」
「脅かした詫びだよ、気にすんな」
そうして若い男は会釈して、過ぎ去っていった。
「銀の街」に着いたら道だけ聞いて、すぐに出発しようと思っていたけど、やることができたな。
……。
「……科若さん?」
「え?」
再び歩こうと思ったけど、科若さんは先ほど驚いたまま、突っ立っていたままだった。
「いや、また歩こうと思ったけど、どうかした」
「な、なんでもない……」
「驚いて疲れたんなら、少し休む?」
「いや、大丈夫」
そう言って、科若さんは何かを考えたような顔で再び歩き出した。
何か思うところでもあったんだろうか?
兎に角、「銀の街」に着いたら、護身用になる武器か何かを買おう。
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