12話 買い物
今回はいつもよりやや長めです。
と、いう訳で「黒曜石の街」に来た次の日、この街の最大の大通りに買い物をしにやってきた。
買うものは主に三つ。
一つ目は、服。
これは昨日言っていた「動きやすい服」と「街の中で目立ちにくい服」の2セットだ。
二つ目は携帯食料。
旅の中でいざというときのために干し肉とかを買おうと思っている。
街中では大衆食堂、自然の中では現地調達をしてそこで食べるつもりではあるけど。
三つ目はカバン。
自分も科若さんもカバンは持っているけど、上二つのものを入れるのには流石に中の容量が足りそうではない。
特に、科若さんのカバンは学生カバンであり、一応背負うことのできるタイプではあるけど、容量は自分のショルダーバッグよりも少ないし、背負いにくい。
二人とも持ち運びのしやすいナップサックタイプのカバンを買うつもりだ。
以上の三つを買うつもりだけど、買う順番は逆に、カバン→携帯食料→服の順に買おうと思う。
まず持ち運びやすくそれでいてなるべく容量のあるカバンを買って、何日か分の携帯食料を入れるか決める。
そして服はどうしてもかさばってしまうから最後に2セットの服を入れる、という訳だ。
さて、時間はあるけどのんびりしていても元の世界に帰るのが遅くなるだけなので、早速買い物だ。
●
街に出て午前中にはそれぞれカバンと携帯食料は買ったけど、お昼時になったので昼食だ。
そういえば、この街はよくある中世ヨーロッパみたいな感じの街並みだけど、ご飯は一日三食だな。
……「よくある中世ヨーロッパみたいな感じ」って、直接は見たことはないけど、アニメとかで見る、あんな感じだ。
多くの国は近代になるまで一日二食が普通だとか本で見たけど、これも「流れ者」の仕業かな?
エジソンが如くそうして飲食系で大儲けでもしたのか、それとも単に一日に三食食べなければ満足しなかっただけなのか。
「服って、どんなのを買うつもりなの?」
そんなことを考えていると、科若さんが野菜の多く入ったパスタを食べながら尋ねてきた。
「どんなって……店員さんの勧めてきたやつでも買ったらいいかなって」
「無頓着だねぇ……」
ファッションもアウトドアに適した服というのも前の世界ではあまり通じてなかったので、こんな異世界に来てしまったのだから分からないのも仕方ない。
ので、そのあたりは店員さんにでも見繕ってもらえばいいだろう。
「科若さんはどんな服買う?」
適当に会話のラリーを返す。
「前の世界で休日着てたような感じの服があればそれにしようかな。ま、無かったら私の感性にあったやつを買うつもり」
ま、そんなもんだよね。
「へー、思うのがあるといいね」
……あれ?
科若さんで、服……いや、私服か。
何か、忘れているような……んー?
ま、いっか。
結局着るのは科若さんだし。
頭を悩ませているといつの間にか二人とも昼食を食べ終わっていたので、再び街に繰り出したのだった。
●
自分の服と科若さんの「動きやすい服」について、それほど時間は掛からず選び終わった。
そして科若さんの「街の中でも目立たない服」選びで少し時間が掛かってしまった。
まぁ、女の子だもんね。
全体的に急ぐ旅とはいえ、一日の内の数十分から数時間の遅れを咎めるほど今は切羽詰まってはいない。
少し掛かったとはいえ、日が暮れるほどではなかったし。
問題なのは時間ではなかった。
というかこれは問題……なのだろうか?
「どうかな?」
そう言って科若さんはさっき買った服を見せてきた。
まあ自分たちの服がこの世界では異質なんだから、というのもあるんだろうけど。
「うーん……かわいい……よ?」
確かに可愛かった。
可愛くはあったんだけど……なんだろう、この違和感……違和感とも違うか?
「なんでそんなに納得いってない感じの褒め方なの……?」
と言われましても……本当になんだろう、なんでなんだろう。
「いや、本当に可愛いと思うよ?」
「『本当に』とか付けといて疑問形!?」
う~ん……。
思わず首を傾げて唸ってしまう。
この感じ……いつか感じたような……?
「っあー……」
「どうしたの?」
そうか。
分かった。
というか、思い出した。
アレだ。
この感じは、「モモウィグ」のキャラクター紹介ページの科若胡桃の枠で、初めて私服が公開されたのを見たときの感情と似ている。
「いやぁ、違和感というか、なんというか。その正体に気づいたというか……」
「なんだったの?」
「それは言いにくいなぁ……ハハハハハ」
だって、“アレ”、だもんなぁ……。
「どうして言いにくいの?」
「怒られそうなのが一番の理由かなぁ……」
「怒らないから言ってみてよー?」
えぇー……。
「その言葉を言った人が怒らなかった試しがないと思うんだけど……」
「怒らないって。不愉快にはなるかもしれないけど、二人での旅すら大変だと思うのに、一人で旅することになったら想像もつかないから怒って気まずくしても仕方ないし」
「わざわざ怒らせるようなことも言いたくはないよ……」
「じゃ、気になるような言い方をした方が悪いってことで、罰として言ってみてっ!」
今ウィンクとかされても。
はぁ……。
怒らないとか言っていたけど、怒られることを覚悟して言ってしまおう。
そうして、説明した。
……彼女の格好の得も言われぬ印象を出来るだけマイルドな言葉にしてみるとなると、「男子ウケのいい服」で表すのが適切だろうか。
つまり、「女子ウケの悪そうな服」ということだ。
地味目の服ではあるが、決して野暮ったいわけではなく、どことなく清楚な感じはする。
しかしながら彼女のスタイルの良さをも引き立たせ、出るところは出て、引き締まるところは引き締まっている、とでも言ったらいいのか。
彼女の私服のビジュアルが公開されたときは、ネットのあらゆるコメントで、ファンからは「童〇を〇す服」、アンチからは「清楚〇ッチ」などと呼ばれていたのを見たことがある。
以上のことを更にマイルドに表現して言ってみたはいいものの……。
「へぇ~……なるほどね」
科若さんは、笑顔で口元をヒクヒクさせていた。
そして目は笑っていなかった。
「桜木君も、そんなこと思ってたんだ……」
「いや、そんなことは……」
「でも、この服を見て連想したってことは、“そういうこと”、なんだよね?」
「アッハイ」
どうしよう、いらぬ墓穴を掘ってしまった。
「フフフフフ……」
明らかに怒ってる、コレ。
確か科若さんは、元弓道部だったはず。
腕と肩を引っ張られたら脱臼くらいはしそうだ。
どうにかして怒りを収める方法はないか……。
「えーっと……アンチの方々のコメントとか覚えてるけど……、聞く?」
「え、ぇえ?あ、ぃ、いや、いいです……はぁ……」
どうにか怒りは収まったみたいだけど、今度は落ち込んでしまったらしい。
「はぁ……」
結局その落ち込みを励ますことはできなくて、落ち込んだまま「黒曜石の街」を出発し、「銀の街」を目指すことになった。
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