10話 黒曜石の街
あの村を朝出て、一夜野宿し、また移動して夕方というにはまだ早い昼過ぎ時、イズムルド連合のとある地方都市、「黒曜石の街」に着いた。
イドリス村長が言っていた施設に着くにはあと少し掛かるらしいが、とにかくここが「黒曜石の街」らしい。
「黒曜石の街」はイズムルドが王政を掲げたときと同じかその少し前くらいのとき、原住民が山々を切り開いて黒曜石を掘り出し、それを価値のあるものとして物々交換、そして売買をして人々が集まり、ある程度黒曜石の採掘量が減少していった際には黒曜石の加工で盛り上がってきた街である。
馬車の中から見えるのは、職人の街、それがこの街の印象だ。
黒曜石の石工の店は勿論、この街には他にも職人は多い。
より高品質のものはこの国の首都、「連合の府」にも存在するが、ここでは使えるものをすべて使いその「連合の府」での高級店でもこの街の商品が取り扱われているらしい。
そして「黒曜石の街」の通り、黒曜石の加工品質ではこの国の中で勝る街は他にないとのことだ。
●
昼のときにはこの街に着きそうだったので、街に入った今、これからが遅めの昼飯時だ。
馬車の主は店の店主と商談をしながらの食事とのことなので、自分たちとは別の場所で食事をとるらしい。
と、いうわけで、自分は科若さんと一緒にテーブル席に着いた。
自分はクリームがかかったカルボナーラのようなパスタ、科若さんは薬味と香辛料の効いたペペロンチーノのようなパスタを頼んだ。
なんて書いてあるかは分かったけれど、内容は分からなかったので店員さんに聞いてから頼んだ。
店員さんには田舎者を見るような目で見られてしまった。
それほど街では知れた料理なんだろう。
「不思議な街だね」
料理が出てくるまでの待ち時間、そう言ったのは科若さんだった。
「そう?」
「そうだよ、石造りの街で外国の古い街って感じだけど……」
「だけど?」
「何と言ったらいいか……」
「それはこの世界に魔法があるから、その道具か何かが目に入って違和感があるって感じじゃない?」
「そうなのかな?何かこう……違う気がする」
そんなことを話していると、料理が出てきた。
「お、美味し」
「本当だ」
自分たちの世界のカルボナーラとはクリームも具も麺もまた違う感じがするけど、結構美味しかった。
科若さんの感想も似たような感じだった。
馬車の主が戻ってくるまでの、店での待機時間。
「やっぱり違和感あるなぁ……」
「その違和感はどこから来るものなんだろう……」
そう再び考え始めて、うんうんと唸って数分後。
「あ」
「どうしたの?」
「違和感の正体が分かった気がする」
街を眺めて考えていたらしい科若さんが気づいたらしい。
「街灯だ」
「街灯?」
「この街、自動車とかは走ってないし、信号機もないけど街灯だけはあるから」
「そっか……ん?でもそれって、そこまでおかしいことかな?」
「少なくとも私はそこが違和感の正体だと思うけど……」
「こっちの世界でガス灯が出来たときも、自動車とか信号機はあんまりなくて、その光景自体はあんまり珍しくなくて、想像自体はできると思うけど……」
「うーん……。なるほどなぁ……」
と、そこで。
「お前ぇさんら、アレは電灯だよ」
隣の席で軽食を食べていたおじさんが話しかけてきた。
それにしても、電灯。
この世界にも電気はちゃんとあって、電灯もあるのか。
「お前ぇさんらは変な格好しているから他の街から来たんだと思うが、違ったか?」
「いえ、少し、遠くから」
「だろう?ありゃ魔法灯じゃなくて、この街にしかない電灯っていう、世にも珍しい電気の力で光る街灯なんだよ」
この説明からするに、この世界の街灯は多くは魔法灯と呼ばれるもので、この街にあるのは電灯、それも「世にも珍しい」ときた。
魔法灯についても知りたいけど……聞いたら変かな。
それなら、電灯を聞いて、ついでに聞いてしまおうか。
「魔法灯と電灯って、どう違うんですか?」
この聞き方ならどうだ……?
「魔力灯ってのは普通、人が光の魔法をかけて光らせる。大体は光らせて数時間程度したら消えちまう。けど、電灯は『発電所』で電気を生み出している限り、光り続けることができる」
魔力灯の説明からしてくれた、これはラッキー。
「『発電所』が電気を生み出している限りってことは、消えるときもあるんですか?」
「一週間に一度、週の真ん中の日、小点検とかなんだって、早めに消える日があって、その日は夜の10時には消えてるな。その日以外なら朝、明るくなるまで点いてるけどよ」
「なるほど」
週の真ん中の日には早めに消える……と。
「で、月末に一度、大点検とかだって、一日中点かない日がある。この街の魔力灯は病院と役所と警備隊の近くにしかないから、月末近くになると夜、出歩く魔法の使えない連中がろうそくを買っていくんだ。そして、ろうそく売ってるお香の店やらが繁盛するってわけだ」
「お香の店は思わぬ幸運でしたでしょうね」
「ハハハ、そうだな」
にしても発電所と電灯か……これも前の「流れ者」の仕業かな?
「その『発電所』ってどこにあるんですか?」
「ここから、もう少し東に行って、少しのところだ。名前は『イズムルド電力研究所』ってんだ」
「ありがとうございます。時間があれば、見学してみたいと思います」
「ま、見て楽しいもんでもないと思うが、他の街にはないからな。少しの暇つぶしになるかどうかってとこだ。あんまり煌びやかな想像してると、ガッカリするぜ?」
「ご忠告、ありがとうございます」
自分たちの世界でも発電所というのはあまり観光そのものには向かない地味な見た目が多かったので、あまり期待はしていない。
「おい、食事は終わったか?」
隣の席のおじさんと話し終えると、馬車の主の商談と食事が終わったらしく、イドリス村長の言っていた目的地に向けて、出発することになった。
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