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87話 白の間

「ん?んん……」


転送魔法の白い光に包まれて、思わず瞑ってしまった目をおそるおそる開けた。


「おー、帰ってきよったか」


そこは全てが白い空間であり、そこにはどこかで聞いたような声をした、初老から高年くらいの見た目をした男性がいた。


「あなたは……?」


「憶えてないかー……。仕方ないよねぇ、会ったのは1回だけじゃし、顔も合わせてなかったからねぇ。君があの世界に転移するときに聞いた声、思い出せない?こんな感じの白い世界でさ」


高年そうな男性は、そんなことを訊いてきた。


「白い世界……男の人の声……?」


胡桃も、男性の声を反芻して思い出そうとしていた。


「あ、君は憶えてないと思うよ?会ったことないからね」


ふむ、胡桃は会ったことがないと。


あ。


「転移したときの……アレ?」


「そうだね。やっと思い出してくれたか」


それはいいんだけど。


「それで、あなたは一体……?」


「んー……。言って信じてくれるかどうかは分からないのじゃけれど、君たちが言うところの、神だとか、上位存在だとか、そんな感じかの?ま、そんな大層なものでもないけどねぇ」


「はぁ……。その上位存在とやらが、何の御用で?」


「用と言う用は無いのじゃけれどねぇ。別に君たちを元の世界に戻さなくてもいいし。いや、戻しはするけどね?」


なんなんだ、一体?


「それで、これまでのことの説明もいるだろうからその説明と、これから元の世界に戻るときに何が必要かの確認じゃ」


「それはしてくれるんですね」


「する理由は無いけど、しなかったら暇じゃからね」


「神みたいな存在が暇なんですか?」


羨ましい。


「緊急事態みたいなときしか基本することなんて無いからねぇ。それ以外は基本待機状態だよ。10年くらいに1回動いて、それ以外は待機。酷いときは百年単位で待機状態だから、暇なんてもんじゃないよ」


……確かにそれは暇そうだし、何か出来ることがあればやりたくなるかもしれない。


「これからのことを説明する前に、今回の事について説明するからね。あ、別にメモとかはしないでいいよ。ここで知ったことが元の世界で役に立たないと思うし。簡単に言うと儂の暇つぶしと君たちの納得感を得るためのことじゃから」


なるほど。


「まず、今回の転移はかなり異質じゃったのだよねぇ」


「異質?」


「全く別の世界から来ること自体、かなり珍しいことじゃった」


「それは……なんとなく分かりますけど……」


「それもただ別の世界からやって来たとかならともかく、片方の世界から観測できる世界というのも異質。あとは、そうだね。桜木尚人君、君の転移も結構異質だったんじゃよ」


「僕の?」


「うむ。君は本来、あそこでトラックに轢かれるような運命ではなかった」


「……と、いいますと?」


「君があの世界であのゲームをして、多少心身に影響があったとして、本来ならば特に何もなく、買い物に出かけることができたのじゃよ」


「なら、なぜ?」


「そこの……科若胡桃君の世界が原因じゃ」


「私の……元の世界が?」


「世界の因果が複数あり、そしてある種の特異点とも言うべきか、科若胡桃という存在はある特定の時点で死んでしまう……というのは、おそらくじゃが、知っておるな?」


「まあ、はい……」


「その世界における複数の科若胡桃の生きたいという意思と世界そのものの意思が衝突し、外部の宇宙に放出された」


話が見えない……どういうことだ?


「その放出された意思の力は、ある男の心に作用したのじゃ」


「もしかして、それって……」


「そうじゃ。桜木尚人の心に影響を出し、トラックに轢かれる可能性を生み出した。そして、儂が無理やり介入せざるを得ない状況を作り出したのじゃろう。そうして、あの瞬間に、君たちが転移した世界へ転移させたのじゃ」


「じゃあ、私は何故、あの世界に?」


「それは、儂にも分からん」


「どうしてですか?」


「儂はあの世界の担当ではないのでな、先説明したアレ以上の事柄は分からんかった」


「よく分かりませんが……」


「世界はおおよそ似た歴史を歩むものじゃが、儂が見ておるのは桜木尚人の世界と、その世界に近似した世界だけじゃ。じゃから、科若胡桃の世界について、何が起こったのかは分からないのじゃ」


「なんか、大変ですね」


「多少分かっていることを言えば、科若胡桃はあのまま戻っておれば、トラックに轢かれていた可能性は高かったじゃろうな」


「……」


……怖。


胡桃をこっちの世界に来ることに折れて良かった。


「特に他の世界で何が起こっとるのか、儂も全く以って把握しておらんからの。他の世界で起きた異常が原因ともなれば、ああいった急な対応になったのは、君たちには済まんが、あれが限界じゃったのじゃ。その代わり、あの世界に連れていくことができた」


「……それは、どういう?」


「考えてもみい。既に『帰還用転送魔法』なるものが出来ている世界に降り立ったのは、運が良かったとは思わんかったか?」


「それは、そうですが……」


「あの世界は、もともと普通の世界ではあったが、外宇宙の流れの偏りによって出来た、特殊な宇宙でな。他の儂みたいな存在も、あの世界に人を送れることが出来るのじゃ。ま、ここみたいなところに戻ってくるのは本人の努力が必要じゃがな」


「他の……もっと、戻りやすい世界とかはなかったんですか?」


「戻りやすい世界はあったかもしれんが、それは偶然に任せる要素が強くなる。もし儂が間違って送ってしまったら、帰ってくるような魔法もない、酸素が濃くて、巨大な肉食恐竜が闊歩する世界に着くかもしれなかったんじゃぞ?」


「……ありがとうございます」


そうはならなくて良かった。

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