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第83話 呉の敗北

久々に間が開いてしまいましたね。お待たせいたしました。呉との戦いはこれで決着。

残すは蜀のみですが、蜀との戦い、終わらせるのにどれぐらいかかるんだろ?

正直想像もしたくないですね……。

赤壁で大敗を喫した蜀と呉の連合軍。大軍勢である魏軍を撃退するための苦肉の策の火計は失敗に終わり、蜀と呉はお互いに大きな痛手を負わされ撤退を余儀なくされた。本来なら魏から追撃を受けてもおかしくなかったのだが、赤壁が零治と黒狼の激戦の舞台と化した上、向こうも全くの無傷ではなく態勢を立て直さねばならなかったので、追撃を受けずに本国まで無事に戻れたのは不幸中の幸いと言えるだろう。

だが喜んでばかりもいられない。魏に対して大打撃を与える事すらできず、呉の首都である建業への進軍を許してしまったのだ。こちらも数日で無事に戻る事が出来たとはいえ、時間は無い。今こうして軍議を行っている間も華琳の軍勢は進軍を続けているのだから。



「……そう。曹操が建業に来るのね」


「ええ。こちらの計画が成功すれば、兵の半分は減らせるはずだったのだけれど……予定の半分ほども減らせていない。苦戦は免れないわね……」


「……申し訳ござらん。儂が曹操に策を見破られていなければこのような事にはならなかっただろうに」


「祭。貴方は良くやってくれたわ。ただ、それよりも曹操が一枚も二枚も上手だった……悔しいけどね」


「公謹殿。あの曹操という輩、一体何者なのですか? まるでこちらの作戦を、初めから見抜いていたかのような……」



甘寧の言葉に周瑜は渋面を作る。彼女は用意周到に作戦を練っていた。備えも万全だった。万が一に備えてあの策に関する情報が外に漏れないように対策もしていた。だが、赤壁での戦いの結果は見ての通りだ。華琳に火計だけでなく鎖の件まで全て見抜かれ、対策を取られていたのだ。信じたくはないが、これだけの状況証拠が揃っていては流石の周瑜もそう思わざるを得なかった。



「……そうかもしれない。いや、そうとしか思えない所がいくつもあったわ……」


「何ですって? 冥琳、どういう事なの」


「けれど、そんな事はあり得ないはずなのよ。今回の計画の全貌は、誰も知らなかったのだから」


「あの……どういう意味ですか? よく分からないのですが……」


「冥琳と祭の諍いが、二人の演技だった事は聞いたが……その後の事まで見抜かれたと?」



周泰と孫権は周瑜が言っている事が今一つ理解出来ないという風に首を傾げた。周瑜にとって今回の計画の全貌を誰も知らない、ここが一番重要なのだ。途中で策が見抜かれたのならまだ分かる。相手が同じように知恵の働く軍師が居るなり、総大将がそうならばそういう事もあり得なくはない。だがそれは情報がどこからか漏れて相手に知られた場合に起こる事だ。周瑜は今回の策に失敗は許されないからこそ、情報が一切漏れないように対策を取っていたのだ。その事について説明するべく、彼女は重い口を開いた。



「あの時、私と祭殿はあの諍いの打ち合わせをしていなかった。この時期に急に変わる風向きは、私も祭殿も知っていたけれど……同じ火計を考えていたのは、全くの偶然」


「……じゃあ、祭が誰かに連れられて軍を出て行ったってあれは?」


「上手く祭殿が出て行けるように兵の数を少なくしていたのは確かです。しかし、諸葛亮の手引きが入ったのは私の計算の外だった」


「あの船の鎖も公謹殿ではなかったのか……」


「あれも諸葛亮の入れ知恵だろう。だから私はその工作は知らなかったし、祭殿はそもそも呉と蜀が同盟を組んだこと自体知らなかったはず」


「うむ。儂がその事実を知ったのは、魏に潜り込んで向こうの軍議に参加していた時じゃったからな」


「そんな行き当たりばったりの作戦だったの?」



孫尚香の表情は信じられないと言いたげだった。周瑜と黄蓋が付き合いの長い仲だという事は、呉の関係者なら知らない人間は居ない。付き合いが長いからこそ、このような行き当たりばったりな作戦も実行に移せたのだ。なのに、なのにだ、呉の人間。ましてや作戦の中心人物である周瑜と黄蓋も知らない不確定要素が複雑に絡み合った作戦を、最初から最後まで完全に見抜かれていたのだ。普通なら考えられない事である。



「勿論、火計に至るまでの道筋は幾つも考えていました。誰か一人の計に乗るだけでは曹操に見抜かれる可能性がありましたからね。だから敢えて誰にも相談せず、祭殿や諸葛亮の動きに合わせていたの」


「それで、誰も全貌を知らない作戦だと……」


「そう。誰も読めないこの策が、曹操と互角に戦うための切り札だった……」


「その綱渡りの計略を、曹操は全て見抜いていたというの?」


「そんな事が出来るのは、神仙か悪霊のどちらかしか居ないと思いたいが……」


「ふむ……」


「ん? 祭。どうかしたの?」


「いや。……冥琳。その事について、儂も気になる事があったのじゃよ……」


「何ですって?」



黄蓋の言葉を耳にし、首脳陣達の視線が彼女に集中した。確かに黄蓋には今回の事について、気になる出来事はあった。しかもその内の一つはかなり具体的な内容なのだ。黄蓋は当時の事を振り返りながら渋面を作り、呉の面々を見回して重い口を開いた。



「まず最初に、曹操に船を鎖で繋ぐ事を提案した時の事じゃった。話を持ちかけた当時、奴の天幕には御遣いの音無と神威の二人がおってな」


「祭殿、まさかその時にその二人にも話を聞かせたのですか?」


「馬鹿を言うでない。無論、人払いの名目で去ってもらったさ。じゃが、音無の奴は儂の事を全く信用していなかったのでな。見張りと称して一匹の巨大な狼を残していったわ」


「巨大な狼? 何それ?」


「雪蓮殿。重要なのはそこではない。問題は音無が狼を残して天幕から出て行こうとした時じゃ」


「祭殿、もったいぶらないでください。その時に何があったのです」


「うむ。奴が連れてきた狼が儂を威嚇しおってな。その時に音無にこう言われたのじゃよ。……『そいつは人の嘘の臭いを嗅ぎつける』、とな……」


「何ですって?」


「冥琳。儂の話はまだ終わりではないぞ。まだ続きがあるのだ。それは連中の船を繋ぐための鎖が魏の野営地に運ばれてきた時じゃよ」



そう。この時こそが黄蓋が一番気になる事が起きた時間軸である。金狼がまだからすに変装していた時の事。翠、蒲公英と共に鳳統を蜀へ送り返させようとした時だった。彼だけは蜀への帰還を拒否し、自分がやるべき事のために残ると言い出したのだ。つまり亜弥を殺すために。

当時はやむを得ず、彼の言い分を聞き入れるしかなかった。そしてその時、金狼は黄蓋に意味深な言葉を残したのだ。



「当時はその時に色々とあってな。金狼がまだ鴉に変装していた時の事だ。奴はやるべき事があると言い、魏軍に残ると言い出したのだよ」


「金狼がやるべき事……あの神威って女を殺す事よね」


「そうじゃろうな。で、奴の言い分を認めた時の事だ。金狼にも妙な事を言われてな……」


「妙な事? 祭殿、それは一体……」


「……どうせ儂らの策は失敗に終わる。考え直すなら今の内だ、と言われたんじゃよ」


「何ですって!?」



黄蓋から聞かされた話に、呉の首脳陣達にはどよめきが走る。今の内容から推察するに、金狼は赤壁で実行する策が失敗する事を始めから知っていたという事になる。それはつまり、赤壁で呉軍が蜀と共闘して魏にどのような策を講じるかも知っていた事に結びつくからだ。



「姉様。まさかあの金狼という男、魏と内通していたのでは!?」


「確かに今の話が本当ならあり得なくはないけど……でも彼は魏の御遣いの一人、神威って女を殺すのが目的だったんでしょ? となると魏と繋がっていたとは考えにくいわ」


「蓮華様。雪蓮の言う通りです。仮に蜀が魏と同盟を結んでいたとしても、御遣い同士とはいえそのような事をしては同盟自体が成り立ちませんからね」


「……それはそうだけど。ならば、あの男はなぜ祭にそんな事を」


「そこまでは分かりませぬ。ただ、あやつはその時にもう一つ気になる事を言っていましてな」


「まだ何かあるというのですか。祭殿……」


「うむ。実はこれが一番気になっていてな。……儂の前から去る時にこう言ったんじゃ。彼らは全てを知っている、と……」


「……祭。彼らって誰の事? 随分と曖昧な言い回しね」


「祭殿。もしやその彼らとは……音無達の事を言っていたのでは」


「かもしれん。奴はこの言葉を残した時、自分の事も含めて言っていたからな」


「……ま、その話は非常に気になるけど、今はそこを考えても何の意味も無いわ」



確かにこの話は気になる所ではある。赤壁での策が魏に見破られていた件についても、零治達が深く関わっていたのは事実だ。だが、その事を孫策達には知る術が無いし、今の彼女達にとって重要なのはそこではない。華琳率いる魏の軍勢がここ、呉の本国である建業に来る事である。もう後が無い。この戦で敗北してしまえば、それは孫策達が祖国を失う事に繋がる。それだけは何が何でも避けなくてはならないのだ。



「建業は孫呉の聖地と言うべき場所。相手が何者であれ、ここを渡すわけにはいかないわ。良いわね、みんな!」


「はいっ! 赤壁での雪辱、必ず果たして見せます!」


「お供いたします、雪蓮様。……我が命、尽き果てるまで」



赤壁では大敗を喫していた上、周泰や甘寧、他の者もそうだが殆ど何も出来なかったのだ。だが今回はそうはいかない。祖国であるこの建業の地を何が何でも護り抜く。例え命を散らす事となっても、祖国である呉のために死ねるのなら本望である。周泰と甘寧は来たる戦いに備え、気合を入れて己を奮い立たせる。無論、他の者達も同様だ。



「蓮華、小蓮。貴方達も良いわね?」


「当然! そんなの聞くまでも無いでしょ!」


「その通りです。母様との想い出がある建業を、むざむざ曹操などに渡すわけにはいきません」


「祭……」


「雪蓮殿。みなまで言うな。赤壁では死を覚悟した身じゃが、儂はまだ死ぬわけにはいかぬからな。この戦で、曹操どもに一泡吹かせてやるわ」


「ありがとう。……ならばみんなの命、私が預からせてもらうわ」



状況は絶望的だが、指揮官である首脳陣達の士気は充分に高い。士気の高さは兵達にも伝わり、それは強さへと結びつく。しかし、それでも兵力の差が縮まる訳ではない。今の状況では数の暴力に晒されるのは必然だ。だがそれでもどうにかせねばならない。この絶望的状況を覆せるような作戦を編み出し、彼女達を支えるのが周瑜や陸遜などといった軍師の務めだ。



「……穏。分かっているな」


「我が命に代えても」


「頼む」


「冥琳様もご無事で」


「お互い様だ。……気を付けてな」


「……はい」


「冥琳! 出撃準備をしておいて」


「……分かった。次こそは赤壁の二の舞にならないような作戦を立てて見せよう」


………


……



「やはり陸路は良いな! 二本の脚で歩けるというのは良い! とても良いものだ!」


「そうですねー! ゆらゆらしない地面がこんなに良いものだって、初めて知りました!」



場所は変わってこちらは呉の首都である建業へと続く荒野の街道沿い。魏の第一陣である部隊を率いるは春蘭と季衣は船での移動時とは打って変わり、意気揚々とした様子で兵を率いて道を歩いていた。

船に慣れていない二人から言わせれば、今はまさに天国と言っても過言ではない。この世界では現代と違い酔い止めの薬など存在していない。そのため船酔いしない方法は船に慣れるしかないのだ。だからこの世界では船の好き嫌いが極端に分かれる。今の春蘭と季衣はその典型と言える姿だ。



「船の上じゃ、青い顔しとったもんなぁ……」


「なにおぅ! そういう霞だって……!」


「ウチ、船の上平気やもん」


「……むぅ」


「つーか、ゆらゆら揺れるなら馬の上かて似たようなもんやろ?」


「え、全然違いますよぅ……」


「季衣の言う通りだ。あんな所で平気な顔をしていられる方がおかしいのだ!」


「おかしいなぁ……。そういや、零治達も馬には慣れたが、船の上の方が楽とか言いよったな」


「おーい。偵察から戻りましたよ」



そこへ来たのは亜弥と樺憐の二人。彼女達も春蘭達が率いる第一陣に同行し、先行して偵察に出ていてようやく戻ってきたのだ。何を偵察していたかは言うまでもない。呉軍の動向、それを知る事だ。いつもならこういう役目は零治が率先して行っていたのだが、彼は赤壁での黒狼との闘いで負傷している身なので後方に下がっているのだ。だから今回は視力が異常発達している亜弥、そして獣の五感を持ち、尚且つ呂布をも圧倒できるほどの戦闘力を持つ樺憐が出張っていた。この二人なら、些細な見落としなどするはずが無いのだから。



「噂をすれば……どないやった?」


「呉はこの先の平地に布陣していましたよ。牙門旗も一通り立っていましたから、恐らく総力戦を挑むつもりでしょうね」


「なるほど。そこを過ぎれば建業やから……どうしても城は見せたくないんやろな」


「……そうか」


「ん? 春蘭、どうかしたんですか?」


「連中は最後の一兵まで死力を尽くす気だろう。我々はここで一旦停止。後続の華琳様と合流し、連中を総力で迎え撃つ」


「了解~。じゃあ全軍停止ーっ!」



季衣の号令に従い、一糸乱れぬ動きで前進していた兵達はその場に一斉に停止し、隊形を整えてビシッと姿勢を正した。眼前に続く果てしない荒野の先には、横長に続いている小さな影があり、その所々には風になびいている旗らしき物も複数確認できた。間違い無く孫策率いる呉軍だろう。

向こうは全軍を率いているのに、こちらは第一陣のみだ。今の状況でここに停止するのは愚策としか思えないのが亜弥の正直な気持ちである。



「……春蘭。こんな所で停まるなんてどういうつもりなんですか?」


「連中の今の立場を曹魏に置き換えてみただけだ。私とて、孫策や劉備に侵略されたら、都の城壁を見せたくは無いからな」


「……あんまり相手に感情移入すると、死ぬで?」


「……そこまではせん。我が身体は華琳様の身体、我が意志は華琳様の意志だ。それが変わる事など未来永劫あるものか」


「ならええけど……」


「……ふ~む」



春蘭の言葉を耳にした亜弥は、右手を顎に添えながら眼前に展開する呉軍の影を睨み付けながら思考を巡らせた。確かに彼女の言いたい事は亜弥も分かる。春蘭のこの行動は彼女なりに武人として呉に対し敬意を払っての行動なのだ。だが、相手はもう後が無く、追いつめられている立場にあるのだ。兵力にも圧倒的な差があるため、死に物狂いで戦いを挑んで来るだろう。それは言い換えると、手段を選ばない可能性が充分にあるという事なのだ。



「樺憐……」


「はい。何でしょう?」


「私は予定通り後方へ下がりますが……貴方はこの場に留まってくれますか。出来るだけ目立つ所に居てください。華琳には私から事情を説明しておきますので」


「はぁ。それは構いませんが。一体どうしたのですか?」


「……この状況で私が向こうの立場なら、手段を選ばず痛撃を与えるでしょうね」


「あぁ、なるほど。わたくしに抑止力になってほしいと。そういう事ですわね?」


「その通りです。呉軍は赤壁で貴方の強さを嫌と言うほど思い知っている。貴方が居る事を知れば、奴らも下手に手出しはしてこないはず。ですが万が一という事も考えられます。その時は……」


「分かっています。その時は容赦無く、全ての敵を葬ってさしあげますわ……」


「頼みますよ」


………


……



「そう。曹操の第一陣がこの先に……」


「はっ。どうやら後続の本隊と合流して、こちらを迎え撃つ気のようです」


「この数の相手なら、ひと当てすれば痛撃を与えられるわね……」



確かに周瑜の言う通り、こちらは全兵力を集結させた軍勢。対して向こうは第一陣だけと一部の兵しか揃っていないのだ。現時点では数ではこちらが圧倒的に有利である。今の内にひと当てして相手に痛撃を与えれれば、僅かとはいえ少ない勝率が上がるには上がる。だが、総大将である孫策はまだ気になる事があり、この情報を報告してきた甘寧に、その事を尋ねてみた。



「敵の将は?」


「夏候惇です」


「夏候惇が……? やめておきましょう」


「どうしたのじゃ、策殿。官渡の事でも思い出したのか?」


「官渡の事は終わった事よ。それよりも、夏候惇ほどの猛将が、わざわざこちらの動きを待っているなんて……誘っているとしか思えない」


「……伏兵の可能性か? 夏侯淵や張遼の部隊なら分からなくもないけれど……逆にそれが不気味という事?」


「ここまで来て曹操がそんな事をするとも思えないけどね。ただ、ここでむざむざ相手の罠にはまりに行くのも愚かしいわ」


「ふむ……」


「ただし、夏候惇が後退を始めたら全力で追撃を掛けるわよ。……監視を怠らないでね」


「御意。その事も踏まえ、現在明命に更に詳しく調べさせています。そろそろ戻って来ると思いますが」


「……雪蓮様」



噂をすれば影とはこの事だろ。まさに話題に出たそのタイミングで周泰が偵察から戻って来たのだ。これで向こうに伏兵が居るのか否かで状況は大きく変化する。もしも居ないのであれば、春蘭が後退するタイミングに合わせて攻撃を仕掛ければ、相手に大きな打撃を与える事が出来るだろう。

だが、そう都合よくはいかない。その事を読んでいた亜弥が、最強の護衛を残しているのだから。



「おかえりなさい。明命、何か分かった?」


「はっ。夏候惇の部隊の周囲に伏兵らしき部隊は存在していませんでした。ただ……」


「何。どうしたの?」


「夏候惇の部隊を護るように、前方に突出して待機している部隊が一つだけありました」


「指揮官は誰?」


「名前は分かりませんが……赤壁でこちらの船に乗り込んできた、例の女の御遣いです」


「……あの女が。でもどうしてそんな目立つような事を。冥琳、どう思う?」


「挑発……いや、警告なのかもしれんな。手を出せば赤壁と同じ目に遭わせてやるという……」


「儂も冥琳に同意見じゃな。奴の強さは呂布にも匹敵する。聞いた話によれば、呂布は黄巾の乱の時期に三万もの黄巾党の大部隊を単騎で壊滅させたという噂がある。あの女……樺憐がその事実を知っているのかは不明じゃが、奴もその気になればそれぐらいの事をやってのけるなど造作も無い事だろうな……」


「全く。あちらさん、嫌な配置をしてくれるわね。これじゃ動きたくても動けないじゃないの……」


………


……



「よくもまあ、こんな所に居て無事だったわね」



本隊を率いて、春蘭が指揮している第一陣に合流した華琳の開口一番はこれだ。春蘭と顔を合わせるなり、華琳は心底呆れ果ては表情をしている。華琳から言わせれば、春蘭の取った行動は愚の骨頂である。全兵力をかき集めている敵部隊を前にして、先遣隊だけで待機をするなど敵に叩き潰してくれと言っているようなものなのだ。



「孫策も最後の決戦を挑む気でしょうから。先遣部隊を全力で叩き潰すような真似はしないかと」


「逆になりふり構わず……という考えもあるわよ」


「お……?」



桂花の指摘に春蘭は不思議そうに首を傾げた。確かに春蘭の言いたい事も分からなくはない。彼女は武人として孫策の気概を重んじ、部隊を停止させたのだ。だがこんな状況だ。相手が自分のプライドを優先して誇れるような戦いを必ずしもするとは限らない。人間とは、追いつめられると何をするか分からない生き物なのだから。



「考えていなかったわね……。全く。亜弥に感謝しなさい。彼女が樺憐をこの場に残していなかったら、今頃どうなっていた事か」


「も……申し訳ありません」


「まあ、樺憐のおかげもあって無事だったから良いわ。この失態は、この後の決戦で返上してちょうだい」


「それは無論です! お任せください!」


「華琳様。部隊の布陣、完了しました。いつでも出られます」


「そう。……今日は寄せ手なのだから、こちらから挨拶に出向くのが礼儀でしょうね」


「はっ。お気を付けて」



稟からの報告を受け、華琳は孫策に対して挨拶も兼ねた舌戦を交わすため、呉軍が待ち受けている荒野の先へゆっくりと歩きだす。ここから先はいつも通りだ。やる事は何一つ変わらない。万全を期して眼前の敵を全て叩き潰す。それだけなのだから。


………


……



「……こうして顔を合わせるのは久しいわね」


「そうね。先刻の戦いは黄蓋の奇襲、それに零治達の激闘で、それどころでは無かったから……反董卓連合以来かしら?」


「もうそんなになるのね……そうか、官渡では夏候惇、それにそちらの御遣い君にしか会っていなかったのよね……」



非常に緊迫した場面なのだが、孫策は昔を懐かしむようにフッと笑みを浮かべ、遠い眼をして空を見上げる。黄巾の乱が起きていたあの頃、成り行きで春蘭に貸しを作る事になり、それが結果的に祖国を袁術から取り戻す事に繋がったのだ。あの出来事が無ければ、今の孫策はこの場に居なかったかもしれないだろう。



「あの時、我が方の将が少し多めに貸してしまったようだから……その分を返してもらいに来たわ」


「その件については感謝してもしきれないけど、それでこの江東全てというのは、いくらなんでも暴利すぎるわね」


「あら。格安よ。……まあ、このまま私に降ってくれれば、貴方達の命は助けてあげても良いと思っているけれど?」


「残念ながら、その取立てに応じる訳にはいかないわね。この江東は我が父祖より伝わる大事な聖地。命惜しさに差し出したとなれば、我が母孫堅、太祖孫武に合わせる顔が無いわ」


「けれど、こちらにもこちらの都合があるの。大陸を一つに統べ、民に本当の平安を与えるため……貴方達の国、討ち滅ぼさせてもらうわ」


「そんな暴論を掲げて大陸全土に戦火を広げる事が、本当の大儀なのかしら? 北方を燃やし、涼州を滅ぼし……天の御遣い達の力も利用し、力で全てを支配するような輩に屈する訳にはいかないわね」


「ふふ。言ってくれるじゃない。でも、孫策。仮に貴方の元にも、私と同じように彼らが降り立っていたら、きっと利用価値を見出して同じ事をしていたはずよ」


「…………」



華琳のこの言葉には、流石の孫策も否定する事は出来なかった。今はこうして孫呉の地である江東を治めている立場にあるが、それ以前は袁術に支配権を握られていて、孫策達も彼女の配下という立場に置かれ屈辱の日々を送る事を余儀なくされていたのだ。

もしもそんな時に零治達が、あるいは彼らと同等の力を持つ天の御遣いが現れていたならば、華琳の指摘通りその実力と知識を使い、袁術から江東の地の奪還、及びこの戦乱の世を生き残るために利用していた事だろう。なぜなら、この群雄割拠の時代は力無くしては生き残れない弱肉強食の世界なのだから。



「使える物は全て利用する。それが私のやり方よ。私のやり方が気に入らないと言うのであれば……貴方の全ての力を出し、私を討ち取って見せなさい。この曹孟徳と覇を競うに相応しい相手として」


「いいでしょう。ならば我が勇気、我が智謀、我が誇りの全てを賭けて、貴方達を退けて見せるわ」


「ならば、我ら曹魏も全力を持って孫呉を制圧して見せましょう。江東にその名を轟かせる小覇王と周公謹の戦いぶり、愉しませてもらうわ」


「孫呉の勇者達よ! この戦、呉の命運を決める大決戦となる! ここで元凶曹魏を打ち破り、大陸に本当の平和をもたらすのだ!」


「曹魏の勇者達よ! この戦、我らが覇業の大きな前進のための戦となる! その血と命を以って、大陸の真の平安の礎とせよ!」


「「全軍! 突撃!」」



華琳と孫策、双方の突撃の大号令を皮切りに、魏と呉の大軍勢は雄叫びを上げながら武器を振り上げ、一斉に突撃を開始した。辺りに巻き上がる大量の砂煙、地鳴りにも似た無数の足音。響き渡る剣戟が奏でる不協和音。果てしなく続く荒野は一瞬にして激戦地と化し、兵と将達が激しくぶつかり合っている。

上空から見れば、双方の兵達の塊はまるで蛇か何かの生き物のように地面をのたくり、暴れているようにさえ見えた。互いに退かぬ攻防戦が繰り広げられていたが、その時、呉軍の陣形に巨大な刃が通ったかのように一筋に赤い閃光が走り、呉軍の兵達を吹き飛ばして大きな亀裂が入り、多数の兵士がその命を散らしたのだ。魏軍でこのような芸当が出来る人間は限られている。そこに当たってしまった者は不運としか言えないだろう。



「ふむ。使うのはこれで二度目ですが、やはりこの矢は凄まじい威力がありますね」


「亜弥、何だい今の矢は……? 初めて見たんだけど……」


「あぁ、これは赤壁で金狼のゲイボルクのスキルをコピーして創り上げた矢ですよ」


「……あぁ~。そういやアンタの双龍にはそんな能力もあったね」


「恭佳。もしかしなくても完全に忘れてましたね」


「しょうがないじゃん。アンタがあのスキルを使う姿なんて、試しに使ってた時ぐらいだから、片手で数えれる程度しか見てないもん」


「まあ、確かにそうですね」


「所でさ、いま使った矢って名前はあるの?」


「……そういえば考えて無かったですね」


「おいおい。名は体を表すって言うだろ? それだけじゃなく名前には『力』が宿る。折角なんだから名前ぐらい付けてやれよ」


「それはこの戦いが終わってから考えますよ」


「随分と派手にやってくれているではないか。神威よ……」


「ん? ……フッ。黄蓋、貴方が来ましたか」



亜弥達の前に現れたのは黄蓋だ。赤壁で直接闘った訳ではないが、魏に潜入した際に得た情報で亜弥が弓の使い手だという事は彼女も既に知っている。ここへ来たのは亜弥を止めるためというのもあるが、同じ弓使いとして勝負してみたいという想いがあるからだ。例え相手がどれほど危険な実力者だとしてもだ。



「貴方が私の相手をしてくれると?」


「無論じゃ。同じ弓使いとして、お主の実力がどれ程のものかこの眼で見てみたいのでな……」


「ふむ。……恭佳、プランBに移行します。貴方は他の相手を捜してください」


「はいよ。亜弥、負けるんじゃないよ」


「分かってます」



黄蓋は自分との勝負を望んでいるのだ。まあ、恭佳には手出しをさせずこの場に護衛として残すのもありではあるが、見た所他の武将は見当たらないので、味方の兵が居れば護衛としては事足りる。ならばここは相手に合わせてあげるのが礼儀というもの。

ついさっきまで亜弥達が取るべき道は二つあったのだが、黄蓋がこの場に現れた事で一つに絞られた。後は彼女を倒す。それだけの話である。



「ほお~。儂と一騎打ちをするというのか?」


「それが貴方の望みでしょう。黄蓋……」


「ふむ。まあ確かにな。それに、お主に訊きたい事もあるのでな」


「訊きたい事? まあ私に何を訊こうがそれは貴方の勝手ですが、質問に答えられるかは内容次第ですよ?」


「そこまで難しい質問ではない。訊きたいのはお主と金狼の関係じゃよ」


「…………」


「奴が赤壁でお主に対して見せたあの執念、並大抵のものではない。余程の確執がなければあそこまで固執はせぬだろう? 神威よ。お主、金狼に何をしたというのじゃ」


「別に何も。私から言わせれば、金狼のアレはただの逆恨み。それ以上でもそれ以下でもありませんよ……」


「ふむ」


「黄蓋。貴方が金狼に対してどう思っているのかは知りませんし、私からすればどうでもいい事だ。ですが、一つだけ忠告をしてあげましょう」


「ほお。言ってみろ」


「蜀と呉が同盟を組んでいるとはいえ、金狼を味方とは思わない事ですね。貴方も赤壁で見たでしょう? アレが彼の本性ですよ……」


「…………」


「信じるも信じないもそちらの自由。では、お喋りはこの辺でやめにしましょうか。今の私達がやるべき事は貴方と語らう事ではない……」



そう。今の彼女達がやるべき事は、互いに仕える主君の国の進退を、命を懸けた戦いである。そのために今この地に立っているのだ。魏は赤壁で大きな勝利を手にし勢い付いている。この勢いに乗じて、呉を一気に陥としてしまえば残すは蜀のみ。そしてその蜀も倒せれば、この大陸に渦巻く戦乱の世にも終止符を打つ事が出来るのだ。

だが対する呉もこのまま黙ってやられるつもりは無い。この建業は孫呉の聖地。相手がどれ程の強国であろうともみすみす明け渡す訳にはいかないのだ。双方睨み合う中、亜弥は右手に一本の通常の矢を創り出し、双龍の弦に番えた。その姿を眼にし、黄蓋は初めて気づいた。亜弥の弓矢が弓であると同時に剣でもある事に。



「その剣……なるほどな。弓使いと言われていながらなぜ剣しか装備していないのか疑問には思っておったが、そういう事か。それがお主の弓なのだな」


「その通り。この双龍は剣であると同時に弓であり、これが本来の姿という訳です。そしてこのまま剣として使う事も可能」


「状況に合わせて即座に戦法を切り替えれるという訳か。なるほどなるほど。……しかし、この儂を前にしてそう巧く立ち回れると思うでないぞ、小娘が」


「……黄蓋。貴方は自分の物差しだけで物事を計る悪癖があるようですね」


「何じゃと……」


「確かに貴方は強い。それは否定しません。戦場で踏んだ場数も、恐らく私より上でしょう」



この点は亜弥も認めざるを得ない。黄蓋は今は亡き孫堅の代から仕えてきた宿将だ。孫三姉妹の今の姿を見れば、彼女がどれ程の年月、孫呉に仕えてきたのかは容易に想像がつく。ましてやこの時代。こうして現在も現役で前線に居るのだ。今日この日まで、黄蓋がどれだけの戦を経験してきたのかはある程度は予想できる。だが、亜弥にも黄蓋に勝るとも劣らない経験ならあるのだ。



「戦場で踏んだ場数は貴方には勝てないでしょう。ですが……私が経験している戦場の『質』は貴方より上だ。今から貴方に教えてあげますよ。私が元居た世界で経験した戦争がどれ程過酷だったかを。そして、その過酷な環境で生き残るために身に付けた私の戦闘術をね!」


「面白い! 来るがいい! 神威よ!」



赤壁の時と同様、黄蓋の中に流れる武人としての血がまたしても騒ぎ出した。零治ほど目立った活躍はあまりしていないが、亜弥も魏に降り立った天の御遣いの一人に数えられている人物だ。それと同時に弓による射撃戦を得意としている。相手にとって不足は無い。曹魏の亜弥、孫呉の黄蓋。ここに二国の戦士が、互いに仕える国の進退を懸けて激突する。


………


……



「さーて。アタシの相手は誰がしてくれるのかね……?」


「奴は魏の御遣いの一人だ! この戦に勝つために何としてでも討ち取るのだっ!」


「「「おおおおおおおおっ!!」」」



この世界で見慣れない服装をしていれば嫌でも目立つ。孫呉の勇猛果敢な兵士達は相手が常識外れな強さを誇る天の御遣いの一人であろうと恐れる事無く、この戦に勝つために地面に落ちた食べ物に群がる蟻のように恭佳に向かって突撃を繰り出した。いかに強者でも数の暴力に晒されれば勝てる可能性は確かにあるかもしれない。戦力の集中は戦術の基本である。しかし、それが通じるのは相手がこの世界の常識に当てはまる人間ならばの話である。



「おーおー。一般兵にしては骨のある連中だねぇ。まあ、その度胸は買ってやるけどさぁ……お前ら如きでこのアタシを止められると思うんじゃねぇよ!」



恭佳は両手で予め大きく後ろに振りかぶっていたソウルイーターを一気に振り抜いてグルンと一回転しながら円を描き、その巨大な鎌の刃で兵士達の身体を一文字に斬り裂き、あっという間に十数人の兵達を一撃で仕留めて見せた。

呉軍の兵達は改めて天の御遣いに数えられている人物の強さを目の当たりにし、先程まであった勢いを失い、攻勢に出る事が出来ず突撃の脚を止めてしまう。



「おいおい。さっきまでの勢いはどこ行ったんだい? 呉の兵士達は腰抜けぞろいだねぇ」


「随分と言ってくれるじゃない。我が軍の精兵達を腰抜け呼ばわりするなんて……」


「あん?」



恭佳の前に現れたのは、孫策と周泰の二人である。直接顔を合わせるのはこれが初めてになるが、恭佳には死神の頃だった記憶もあるため、間接的には孫策の顔は見ているのだ。

この出会いが実力に大差のある人間なら貧乏くじだが、恭佳にとっては大当たりである。呉軍の大将という大物が釣れたのだから。



「はっはぁ! 孫策か。大物が来てくれたじゃないかぁ!」


「魏の御遣いに喜んでもらえるなんて、光栄の極みね。……あら?」


「……あんだよ? 人の顔ジロジロ見て」


「貴方……どことなく顔が黒き閃光さんに似てない?」


「黒き閃光? あぁ、零治の事か。似てるのは当然さ。アタシはアイツの姉なんでね」


「へぇ~。祭から話には聞いていたけど、貴方が噂の。それにしても、反董卓連合時には居なかったのに、なぜ今頃になって表舞台に出てきたの?」


「んな事アンタには関係ないだろうが。いま重要なのは……大将であるアンタがアタシの前に現れた事なんだよ……」


「そりゃそれだけ目立つように暴れてたら来るしかないでしょう」



孫策が恭佳の前に現れたのは偶然だが、彼女は魏軍の御遣いの一人、特に零治との闘いを望んでいた。それ自体は叶わなかったが、その零治の姉である恭佳と刃を交える事が出来るのだ。魏の御遣い最強と謳われている零治の姉との闘い。孫策の中に流れる戦狂いとしての血が騒がないはずが無かった。



「ふふ。あの黒き閃光さんの姉と手合せが出来るなんて、嬉しい話じゃないの……」


「それはこっちも同じさ。アンタみたいな危険人物がアタシに釣られてくれたんだからね……」


「何ですって?」


「まっ、別に教えても良いか。今更お前らにはどうする事も出来ない。……アタシらはウチの大将にこう命じられてね。『前線で目立つように暴れろ』と……」


「……それがどうしたと言うの」


「ここからが重要さ。アタシらの役目は二通りあった。一つは兵の数を減らす事。もう一つは……アンタら将兵を釣り上げる事さ」


「…………」


「これで解ったか? お前らがアタシらを無視するんならそっちの手足である兵の数をひたすらに減らせばいい。お前らが食いついたならば、雑魚は華琳達に任せてアタシらは指揮官の相手をするって事さ……」


「曹操め。やってくれるじゃないの……」


「今さら言っても手遅れさ。さあ、孫策! 戦狂いと称されるその実力でアタシを倒してみな! 出来るもんならなぁ!」


「いいわよ! 二度と経験する事の出来ない最高の殺し合いをしてあげようじゃないの!」



これこそが恭佳達の役目だった。敵の将兵が来ない場合は手足となる兵力を削ぎ、全てを華琳達に任せる事。もう一つはその逆。将兵の相手を恭佳達が引き受け、兵力を削ぐ役割が華琳達に回る。

魏軍の作戦の流れは見ての通り後者になっている。これだけ目立つように暴れられては、流石の孫策達も無視はできない。相手の術中にまんまと嵌ってしまったが、ここまで来た以上はやるしかない。祖国を護るためならば、どんな強者が相手でも退く事は許されないのだ。

孫策は南海覇王を片手に恭佳に突撃を繰り出し、闘いを挑んだ。祖国である建業を護るために。赤壁で受けた雪辱を果たすために。


………


……



「まったく。なぜわたくしが前線に出張らなければなりませんの……」



場所は変わり、こちらは樺憐が担当している前線区域。彼女は口を尖らせて不満を一人でブツブツと洩らしながらも迫り来る呉軍の兵士を一人、また一人と殴っては蹴って殴っては蹴って、肉の壁である人垣に突っ込んで、次から次へと兵達を薙ぎ倒しながら前進していた。

この世界の人間では樺憐を止められる人物など居ないと言っても過言ではないだろう。今回の作戦の概要、彼女の実力を考えればこれは適材適所と言える。ならなぜ樺憐は不満を漏らしているのか。その理由は言うまでも無く零治の事である。数日前の赤壁の戦いで彼は重傷を負い、左眼も失っている身なのだ。

まあ、身体の傷も左眼もBDの力で治るには治るが、眼の方はいつ治るのかは分からない。そんな零治の姿を前にして樺憐は気が気ではなく、本陣で待機すると言い出したのだ。だがそれをやれば一番派手に暴れられる人物が不在になってしまうのでこれは華琳に却下され、零治にもこう命じられた。

オレの事は気にせず前線で暴れて来い、と。零治に絶対的な忠誠を誓っている以上、こう言われては従うしかないが、やはりそれでも樺憐の不満は収まらず、その鬱憤を目の前の兵達に彼女はぶつけていた。呉軍兵士達から言わせれば迷惑な話である。



「早い所こんな戦いなど終わらせなくては。そして一刻も早く本陣へ帰還し、我が愛しき飼い主様の看病をしてあげなくてはなりませんわ」



全てにおいてという訳ではないが、樺憐は何をするにしても零治の事を基準にして考えて行動する。まあ、彼女は零治に対して奈々瑠と臥々瑠の面倒を見てくれた恩から、絶対的な忠誠を誓っているのだ。だからこそ負傷している彼の傍に居たいのが樺憐の本音だ。

しかし零治から前線で暴れるように命じられているので従う他ない。だから樺憐はこう考えて行動しているのだ。少しでも早くこの戦を終わらせるために敵を殲滅し、零治の下へ帰還しようと。戦う動機としては不純ではないし、何にしても樺憐がやる気を出してくれているのは事実なので、赤壁での零治の負傷は結果的に良い方向に働いていると言えるだろう。



「奴をこれ以上先に進ませてはならん! 総員、周りを取り囲んで一斉にかかるのだ!」


「「「おおおおおおおっ!!」」」



呉軍の兵達は部隊長の指示に従い、樺憐を取り囲むように円陣を組んで逃げ道を無くし、各々が持つ剣や槍を構えながらジリジリと詰め寄っていく。相手が常人ならば、この戦法に間違いは無い。どんな強者でも周囲を取り囲み、逃げ場を無くして数の暴力に晒されてはひとたまりもない。



「これで逃げ場は無いぞ! 覚悟するがいい!」


「…………」


「総員、突撃ーーーーっ!!」



兵達は雄叫びを上げながら得物を振り上げ、樺憐に向かって一斉に突撃を繰り出した。どこを向いても鬼のような形相で武器を振りかざして砂埃を舞い上げながら駆け抜け、大地を鳴り響かせる兵達ばかり。

樺憐との距離ももう目前まで迫り来ている。多少なりとも犠牲は出るだろうが、これならば彼女を確実に倒せる。部隊長はそう睨んでいた。しかし、その考えはすぐに覆されてしまう。



「まあ、戦法としては悪くありませんし、間違ってもいませんわ。ですが……わたくしの前ではただの子供騙しでしかありませんわよっ!」



余裕の笑みを浮かべていた樺憐は右の拳を力強く握り締めながら大きく振り上げ、一気に振り下ろして自分の足元の地面を殴りつけた。その衝撃は樺憐の立ち位置を中心点に周囲に伝わり、地面は大きく爆発を起こして大量の砂煙を巻き上げた。足元から吹き上げるように飛び出した衝撃波は周囲に群がっていた兵達をいとも簡単に吹き飛ばす。

その様は地面に埋められていた地雷を踏んで爆発し、吹き飛ぶかのような光景である。周囲に巻き起こっていた砂煙は風に吹かれて吹き飛び、樺憐の足元には大きなクレーターが出来上がっており、先程の彼女の一撃が以下に凄まじいかを物語っていて、辺りには樺憐が引き起こした爆発のせいで吹き飛んだ兵達の遺体が散乱しており、彼女はゆっくりと立ち上がって周囲を見渡した。



「フフ。他愛も無いですわね」


「随分と派手にやってくれるな……」


「ん? ……あら。また貴方ですの?」



樺憐が前線で暴れた事で、釣り上がった将は孫権と甘寧の二人。ただし、孫権は戦の経験が少ないため前線に出張っているとはいえ、実質主に戦うのは護衛である甘寧の役目になるだろう。しかも闘う相手が樺憐となれば尚更だ。



「赤壁であれだけ叩きのめしてあげましたのに……もう一度わたくしにぶちのめされたいのですか?」


「次はあの時のようにいくと思うな。ここを貴様の墓場にしてくれる……」


「……つまらない冗談ですわね。もう少しマシな事は言えませんの?」


「何だと……?」


「貴方程度の実力でわたくしを倒せると本気度思ってらっしゃいますの? もしそうなのでしたら……その思い上がり、貴方の死を以って叩き直してさしあげましょか……」


「っ!?」



樺憐が放つ殺気でその場の空気は一変する。辺りに張り詰める息が詰まりそうな空気は常人どころか、百戦錬磨の武人ですら気絶してしまいそうなほどで、甘寧も立っているのがやっとの状態だ。

この空気を前にして、甘寧はチラリと傍らに立っている孫権に視線を向けた。彼女も樺憐の放つ殺気を前にして何とか気丈に振る舞ってはいるが、それが強がりである事は甘寧にはすぐに分かった。護衛として孫権の傍についているとはいえこの状況、それに相手が相手だ。流石の彼女も孫権を護りながら闘える自信など無い。ならば護衛としてどうするべきか。そんな事など考えるまでも無かった。



「蓮華様。貴方は兵を引きつれて本陣まで後退してください」


「なっ!? 思春! いきなり何を言い出すのっ!」


「この状況です。流石の私も、あの女を相手にしながら蓮華様をお護りする自信はありません。蓮華様に万が一のような事があってはならないのです」


「…………」


「ご心配無く。私は必ず戻って参ります。ですから……」


「……分かったわ。思春、必ず戻って来るのよ!」


「はっ! 必ずあの女の首級を上げ、持ち帰って見せましょう!」



祖国の危機を前にして敵に背中を見せるのは悔しいが、甘寧にの言う事は尤もだ。いま目の前に立つ樺憐は孫策と呂布、更に黄蓋の三人を同時に相手を平然とやってのけるほどの実力者なのだ。戦の経験だけでなく、一対一による将との闘いにも不慣れな孫権が挑んでもどんな結果になるかなど考えるまでも無い。

ならばどうするべきか。ここは忠臣である甘寧の言葉を信じてこの場を彼女に託し、自分は後方へ退くのが賢明だろう。孫権は胸の内に抱えている不安を表に出さぬよう気丈に振る舞いながら兵を引き連れ、本陣へと後退していった。残されたのは樺憐、甘寧と彼女が引きつれている部隊の兵達のみだ。



「ふむ。忠臣の鏡ですわね。ですが、出来ない約束などするものではないですわよ」


「何の事だ」


「わたくしの首を持ち帰るなどと大それた考えを抱くとは。貴方は高い授業料を支払う事になりそうですわね……」


「面白い。やってみるがいい。今度は赤壁の時のようにはいかんぞ!」


「口だけではなく、闘って証明してごらんなさいな。本当にわたくしを倒せるのかどうかをね……」



甘寧は赤壁の戦いでは地の利を生かす事すら出来ず、不覚を取って一撃でのされてしまったが今回はそんな後れを取るつもりなど無かった。水上戦が最も得意なのだが、だからといって陸地での戦いが苦手という訳ではない。こちらはもう後が無いのだ。この戦、どんな事をしてでも勝たねばならない。例え己の命を落とす事になったとしてもだ。

甘寧はそういった想いを胸に秘めながら愛刀の鈴音を片手に荒野を駆けだし、眼前に立ちはだかる樺憐に無謀ともいえる闘いを挑んだのだった。


………


……



場所は変わってこちらは魏軍本陣。陣内では前線との連絡のやり取りをするための伝令兵が何度も行ったり来たりと忙しなく動き回っているが、今の所はこちらが大きな被害を受けたなどの危機的状況になるような報告は上がっていない。現時点での戦の流れはこちらに分があり、事は華琳の望むように順調に進んでいた。



「今の所は順調そうだな」


「そうですね。この様子なら兄さんが前線に出張る事も無さそうですね」


「どうせならアタシも前で暴れたかったのに。何で本陣で待機なのさ……」


「お前は華琳の護衛としてこの場に居るんだろうが。この世界に来て何ヶ月経つと思ってんだ? いい加減、自分の役目に自覚を持て」



臥々瑠は好戦的な性格をしている訳ではないのだが、元来戦う事を好むため、こうして後方での待機を命じられると決まって口を尖らせて文句をブー垂れている。彼女にとって戦いとは遊びという訳ではないが、スポーツなどで身体を動かす事を好む人が居るように、臥々瑠の場合それが戦いに置き換わっているのだ。

これが良い事なのか悪い事なのかは分からないが、少なくとも人殺しを愉しんでいる訳ではないからまだマシなのかもしれない。



「別にアタシ一人が抜けても問題無いじゃん」


「アンタねぇ……戦時は基本的に私と一緒に行動するのを忘れてない?」


「なら奈々瑠も一緒に来れば済む話じゃん」


「なら華琳さんの護衛は誰がするのよ?」


「兄さんが居るじゃん」


「おい。お前はオレが赤壁で負傷してるからここに居る事を忘れたのか……」


「じゃあ季衣と流琉を呼び戻せばいいじゃん」


「アンタ、何が何でも前線に出て暴れたいようね。呆れて物も言えないわ……」



ここまで来るとただのストレス発散のために出撃をしたいとしか思えない。仮に臥々瑠の提案した内容を実行するにしても、零治は負傷している身だ。まあ、本人もいざそういう場面に出くわしたら華琳を護るために身体を張って戦うつもりでは居るが、出来ればそういう事態になってほしくないのが零治の本音だ。

なら季衣と流琉をこの場に呼び戻せば済むのではないかと言われれば、それもそう都合よくはいかない。まずは連絡までのタイムラグだ。この世界には携帯電話も通信機も無ければ、零治達みたいに魔法による通信、念話が使える人間が居る訳でもない。前線に出張っている二人を本陣に呼び戻すとなれば、頼りになるのは伝令兵だけ。伝令がこの話を無事に季衣と流琉に伝えられたとしても、そうすぐに戻って来れる訳でもないし、状況によっては戻れない可能性もあるのだ。やはり臥々瑠の言い分は無理難題でしかないだろう。



「今回は諦めろ。どうせもうじきカタもつく。そうなったら出番も来るだろうから、お前はそれまで本陣で大人しくしてるんだな」


「ブー。つまんないの……」


「戦いなんて基本的につまらないものよ。そもそも楽しい戦いなんかこの世にある訳ないじゃない」


「奈々瑠、臥々瑠」


「あっ、華琳さん。私達に何か用ですか?」


「ええ。今しがた、亜弥から送られた伝令からの連絡でね。彼女達が第二の行動方針に移行したそうよ」


「ん? って事はさ、華琳。姉さん達が大物を釣り上げたって事だよね?」


「そうよ。亜弥、恭佳、樺憐の三人が敵の将を引きつけている間に春蘭達が呉の兵力を削ぐ。敵の前線が崩れたら一気に本陣まで乗り込むわよ。奈々瑠と臥々瑠も出撃の準備を整えておきなさい」


「はい!」


「待ってましたーっ!」



呉軍にとって一番の痛手は赤壁での策が失敗してしまった事だ。あそこでの火計が成功していれば、華琳率いる魏軍との兵力差も覆す事が出来ていた。だが結果は見ての通りだ。赤壁で策が失敗しただけではなく、そこから魏軍に反撃を受け、甚大な被害をこうむったので兵力差を縮めるどころか逆に大きく開いてしまい、このような数の暴力による力押しの作戦にも対処しきれていないのだ。

いかに天才軍師である周瑜が向こうに居るといっても、奇跡でも起きない限りこの状況では呉軍に逆転できる要素などありはしないのだ。


………


……



「喰らえいっ!」



剣戟と兵達の怒号が響きあう戦場の中、黄蓋は二本の矢を多幻双弓に番え、弦を一気に引き絞りながら亜弥に瞬時に狙いを定め、その二本の矢を同時に放った。これで相手が並みの将兵ならば確実に捉え、その身体を射抜いて仕留めていた事だろう。だが、今回の相手は並みの将兵ではない。天の御遣いの一人に数えられている亜弥なのだ。いくら優れた弓の腕前を持つ黄蓋といえど、彼女にそう易々と矢を命中させる事など出来るはずがない。



「フッ。当たりませんよ」



案の定、亜弥は余裕の笑みを浮かべながら身体を横にずらし、黄蓋が放った矢をヒラリと躱してみせる。

黄蓋の放った矢は空を斬りながら遥か彼方へと飛んで行き、あっという間に見えなくなってしまった。相手が並大抵の人物ではないという事は黄蓋もとうに知っているが、こうも容易く自分の矢が躱されてしまうと流石に悔しい想いが表に出てしまい、彼女は忌々しげに歯ぎしりをした。



「くぅぅ……っ!」


「自分の物差しだけで物事を計るからこういう事になるんですよ。黄蓋、もう終わりにさせてもらいます。赤壁での借りも返したいのでね……」


「黄蓋様! 周瑜様から伝令です! もはや戦線の維持は不可! 退却せよとの事です!」


「くっ! やむを得んか……! 神威よ! この勝負、一度預ける! 次はこうは行かぬぞ! 総員、退却せよっ!」


「はっ!」



この戦、最初から逆転できる要素などありはしなかったのだ。あるとしたならばそれは今ではなく、この前の戦い、赤壁にあった。だがそれらは全て零治達の手によって断ち切られてしまい、現在に至っているのだ。ここで敵に建業を明け渡して背を向けるのは確かに悔しい。しかし、ここで命を散らしてしまえば再起を図り、建業を取り戻す機会すらも失ってしまうだろう。それだけは何が何でも避けねばならない。

ならばここは、今回の戦の敗北に耐え忍び、次の機会を待つのが良い選択。黄蓋は兵達を引き連れ退却を開始するが、亜弥もそれを黙って見過ごすほど甘くはない。



「逃がしませんよ、黄蓋。赤壁の借りもまだ返していないんだ。申し訳ありませんが、貴方にはここで死んでもらいますよ……」



亜弥が左手に魔力を集中して創り上げたオレンジ色に光り輝く一本の大きな矢は、久々に姿を見せた殺人蜂だ。敵は複数、それも大勢居る。亜弥は通常の矢を使った早撃ちも得意だが、それでは効率が悪すぎるし、仕留められる敵の数もたかが知れている。だからこそこの矢を使うのだ。一発で纏まった数の相手を仕留められるこの矢を。



「射殺せ……殺人蜂の矢Ⅰプファイル・キラー・ビーネン・アインス!」



亜弥は双龍に番えた殺人蜂の矢を上空に向かって撃ち、放たれた矢は放物線を描きながら空を斬り裂き、退却をしている黄蓋の部隊に向かって一直線に飛来していく。ある程度距離が縮まった所で矢には細かいヒビがピシピシと音を立てながら走り、空中内で弾け飛びながら扇状に広がって雨あられの如く降り注ぎながら黄蓋の部下達に襲いかかってきた。



「ぎゃっ!」


「ぐわっ!?」


「ぐえっ!」


「なっ!? 黄蓋様っ!」


「止まるな! 走れぇ! 今は耐えるのじゃ! この借りを返す日は必ず訪れる! だから今は逃げ延びる事だけを考えよっ!」


「はっ!」



たった一人の人間に、大勢の仲間を一瞬にして殺された。生き残った黄蓋の部下達は一瞬反転して亜弥に反撃しようかと考えたが、彼女の叱咤のおかげで何とか思い留まってくれた。仲間を殺され、祖国も奪われる事が確定してしまった。兵達だけでなく黄蓋自身も悔しいに決まっている。しかしだからこそ、感情的にはならず冷静に行動し、今は生き延びる事を考えねばならないのだ。

僅かに残った兵達と共に逃げていく黄蓋に向かって亜弥は通常の矢を双龍に番え、弦を引き絞って狙いを定めたが、すぐに双龍を下ろして逃げ行く彼女達の背を見つめた。



「フンっ。運が良い。ギリギリの所で蜂の射程圏内から逃れていたか。まあいいでしょう。今回は見逃してあげますよ、黄蓋……。当初の目的は達成できたのですからね」


………


……



「はあああああっ!」


「ふむふむ。良い動きをなさいますが、まだまだですわね」



甘寧は姿勢を思いっきり低くしながら地面を駆け抜けて樺憐との距離を詰め、逆手に持つ鈴音を素早く二回振るって連続の斬撃を浴びせようとしたが、樺憐は曲芸師の様に一回、二回と軽やかな動きでバックステップをして甘寧の攻撃を躱し、余裕の笑みを浮かべながら彼女の動きを観察するだけに留めていた。



「貴様ぁ! 私を馬鹿にしているのか! なぜ攻撃をしないっ!」


「あら。そんな事をしては折角の勝負もあっという間に終わってしまいますわよ? わたくしが気を遣って貴方に汚名返上の機会を与えてあげてますのに、勝負を終わらせてもよろしいのですか?」



樺憐はこう言ってはいるが、これは真っ赤な嘘だ。本当の理由は甘寧の実力がどれ程のものなのかを見極めるのと、彼女を挑発するのが目的である。今の甘寧の様子なら安っぽい挑発に乗って冷静さを欠いて行動するかもしれないと樺憐は睨んでいるのだ。そして案の定、甘寧は彼女の言葉に過剰に反応し、怒りでワナワナと身体を震わせていた。



「貴様ぁ……私を見くびるなぁ!」


「やれやれ。この程度の挑発にまたしても乗るとは。こちらとしては楽が出来ますが、これでは呉の将兵の質もたかが知れていますわね」



我を忘れた甘寧は赤壁の時と同様、怒りに身を任せるかのように樺憐に向かってもう一度一直線に突撃を繰り出した。相手が並みの将兵ならばこれでも充分に勝機はあるだろう。だが相手は樺憐だ。冷静さを欠いていては勝つどころか、まともに闘える事すらできないだろう。



「全く。随分と短気なお方ですわね。カルシウムが不足しているのではありませんか? そんな単調な動きでは、わたくしの相手は務まりませんわよっ!」


「っ!?」



樺憐は向かってくる甘寧の脳天に狙いを定めながら右脚を大きく振り上げ、そのまま一気に振り下ろして踵落としを放つ。甘寧は咄嗟に両脚で地面を踏み締めながら身体にブレーキをかけて止まり、素早く後方へとバックステップをして樺憐から距離を取った。

樺憐の放った踵落としは空を斬ったが、脚が地面に激突すると大地を揺るがし、その場に凄まじい砂煙を巻き上げる。おまけに彼女はそのまま両脚を百八十度開脚して地面に座り込んでみせたのだ。体操選手も顔負けの見事な股割りである。



「隙を見せたな! 今度こそその首、叩き落としてくれるっ!」


「あらあら。これが隙に見えるとは……まだまだ観察眼が未熟ですわねっ!」



樺憐のこの開脚座りは決して隙などではない。相手を誘うための罠。つまりワザとやったのだ。樺憐は甘寧が突撃するタイミングに合わせて右足で地面を踏み締めながら全身を持ち上げ、右脚の力だけで前に踏み込みながら身体を前進させ、後ろに引いていた左脚を思いっ切り振り上げて強力な蹴りを放った。



「っ! くぅ……っ!」



甘寧は咄嗟に鈴音の刃を寝かせて左手を腹に添えながら正面にかざし、樺憐の蹴りを防ぐ事は出来たがその衝撃は両腕から全身へと駆け巡り、甘寧は後ろへと大きく押し返されてしまった。

だがこの程度で済んだのは幸運と言えるだろう。愛刀も破壊されずに済んだし、何よりあのまま防御せずに突っ込んでいたら樺憐の蹴りが顎に直撃し、骨が砕けるだけでなくファングの具足に付いている三本の鋭く尖った爪が顎の下に突き刺さり、そのまま息絶えていた事だろう。甘寧は樺憐の驚異的な実力を改めて目の当たりにし、全身から冷や汗が噴き出した。



「ふむ。よく防ぎましたわね。あのまま闇雲に突っ込んでいたら、今頃貴方は顎の下から血を吹き出して地面に転がっていた所でしてよ」


(この女……やはり強い! 私一人で止めるのは不可能か……っ!)


「甘寧様! 周瑜様より伝令! 撤退せよとの事ですっ!」


「くっ! もはやこれまでか! やむを得ん! 総員、撤退せよっ!」



呉軍は華琳の仕掛けた策にまんまとはまってしまい、魏の御使いという目立つ存在に釣られただけでなく、華琳達の手によって掻き集めた兵力まで削がれているのだ。ただでさえ勝てる可能性が皆無の戦にこの状況、もはや勝利など不可能である。ならばどうするべきか。再起の機会を窺うために生き延びる事を優先し、今はこの場から撤退する以外に選択肢は無いのだ。



「逃げましたか。いつもなら追撃をしている所ですが、今日はこの辺で勘弁してあげましょうか。当初の目的は達成できたのですからね。さて、後の事は春蘭さん達に任せ、わたくしは本陣に戻らせてもらいましょう。我が愛しき飼い主様の看病をしてあげねばなりませんもの」



普通ならこの場で追撃を掛けるのが定石だが、樺憐はそれらを春蘭達に任せ、自分はさっさと本陣へ帰投する事にしたのだ。普通の将兵なら褒められた事ではないが、一人で敵部隊に大打撃を与え、甘寧を仕留めるまでには至らなくとも華琳達が敵兵力を削ぐための時間を充分に稼いだ。これだけの戦果を挙げたのだ。少しくらい我儘を言っても誰も文句は言うまい。この戦、魏軍の勝利は確定したも同然なのだから。


………


……



「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」


「お~いおい。どうしたんだい? 戦狂いさんよぉ。息が上がってるじゃないか。もう限界なのかい……?」


(ちょっと! 何なんなのよこの女! どうしてこっちの攻撃が当たらないの!? それに私を相手にして息一つ乱さないなんて……こいつ本当に人間なのっ!?)



恭佳と対峙している孫策は肩で激しく息をしているというのに、対する恭佳はソウルイーターを肩に担ぎながら余裕の姿をし、息一つ乱してはいない。それもそのはず、二人の闘いは孫策が一方的に恭佳を攻撃する形で進んでいた。そして恭佳は孫策の攻撃は初めは躱すだけに留まり、次第に彼女の太刀筋に鋭さが増してきたので、ソウルイーターで弾いたりしてあしらう程度。恭佳本人は一切手を出していないのだ。

そんな状況が続く中、ようやく孫策の一太刀が恭佳に届いたかと思えば、その攻撃は彼女の身体をすり抜け、傷一つ付ける事すら叶わない。その現象に驚きはしたが孫策はそれでも恭佳に攻撃を続けたがやはり当たらない。そんな事がずっと続いていたため、彼女は酷く体力を消耗してしまったという訳だ。



「貴方……どういう身体してるのよ。私を相手にして息一つ乱さないなんて、私以上に底無しの体力の持ち主じゃないの」


「あぁ……そりゃそうさ。なんせアタシは文字通り人間じゃないんでね」


「……その言葉、こっちの攻撃が全く当たらない事とも関係ありそうね」


「フフフ。その通りさ。知りたいんなら教えてやるよ。知った所でお前らにどうこうできる訳もないんだしね」


「言ってくれるじゃない。ならば聞かせてもらおうかしら。貴方の秘密とやらを……」


「いいともさ。……率直に言うとね、この場に居るアタシには『肉体』が存在していない。今のアタシは『魂』だけの存在なのさ。この姿も、生前の姿を具現化しているだけなんだよ」


「……ちょっと。もう少し分かりやすく説明してよ。魂だけの存在とか意味が分からないわよ」


「じゃあこう言えば分かるか? アタシはな……この世界の人間に分かりやすく言うと幽霊になるんだよ。だからアンタの攻撃も当らないのさ。既に死んでる奴を殺す事なんか出来やしないんだからね……」


「はっ? 幽霊って……ますます訳が分からないわよ」



流石の孫策も、こんな突拍子もない話を聞かされては首を傾げざるを得ない。今でこそ恭佳もこの大陸に降り立った天の御遣いの一人として数えられているが、それだけでも充分に突拍子もない話なのに、更に自身は幽霊だと聞かされては尚更だ。まともな思考回路をした人間なら笑い飛ばすか、疑惑の視線を向けるなりしてまともに取り合おうとはしないだろう。

しかし、人を見る眼は確かな孫策は恭佳の表情を窺うと、彼女の表情は嘘を言っているようには見えない。となると、今の話も本当なのではないかと内心では考えていた。



「訳わからないと言われてもこれが事実なんでね。それ以外に説明のしようが無いんだよ」


「貴方の話を信用している訳じゃないけれど、その姿をこの世に具現化しているのなら媒材となる憑代があるはずよね」


「へぇ~。詳しいじゃないか。孫策」


「霊媒師とかそういう類の人間から色々と話を聞いていたからね。つまり、その憑代さえ破壊すれば貴方を倒せるって事になるんじゃない?」


「その通りだが、そんなの不可能だね。アタシの憑代が何なのか教える程お人好しじゃないし、憑代もこの世界の武器で破壊できるほどヤワじゃないんだよ」


(まっ、そりゃそうよね。でも、あの女の憑代が何なのかはおおよその見当はついてるわ)



恭佳と刃を交え、その間も孫策は何もしていなかったわけじゃない。現状では手も足も出せてはいないが、彼女はずっと恭佳の事を観察していた。確かに恭佳自身に刃は届かない。実体を持たない魂だけの存在なのだから。だが、ただ一つだけ刃が届く物があった。それが恭佳の持つソウルイーターである。

恭佳と刃を交えている間も、彼女の持つソウルイーターにだけはこちらの攻撃も当っていたのだ。だからこそ孫策もアレが恭佳の憑代なのではないかと考えている訳だ。



(奴が持っているあの大鎌。あれにだけはこっちの攻撃も当る。という事は、あれが憑代の可能性は高いわ。あれさえ破壊してしまえば……)


(フッ。孫策のあの眼つき……アタシのソウルイーターが憑代だと見抜いてるな。だが、そんなちゃちな剣で破壊できないって事をすぐに思い知らせてやるさ)



華琳が愛用している絶の様にドクロの装飾を施したりしている訳ではないが、絶より一回り以上大きいし、自身には攻撃は当たらないのにソウルイーターには当たるのだ。これだけの判断材料があれば目立つし、勘の良い相手ならこれが憑代だと気づくだろう。当然孫策の鋭い観察眼もすぐにそれを見抜き、恭佳のソウルイーターに狙いを定め、両手に持つ南海覇王を後ろに引きながら腰を落として突撃の体勢を取っていた。



「…………」


「フフ。ほら。かかって来なよ、孫策……」


「そう。なら……遠慮無く行くわよっ!」



王でありながら華琳以上に武闘派の孫策は裂帛の気合いを放ちながら地面を蹴って低姿勢でダッシュし、恭佳に反撃の機会すら与えない程の速度で突撃を繰り出す。恭佳の武器であるソウルイーターには欠点があった。それは間合いの関係である。彼女の得物は剣ではなく大鎌。それも槍と同等のリーチを誇るサイズをしている。この場合、懐に潜り込まれると小回りが利かないため咄嗟の対応が剣と違ってしにくいのだ。

しかも大鎌となると攻撃手段も薙ぎ払いや振り上げ、振り下ろしなどといった動きが大振りなものになる。槍と違って突く事は出来ない。孫策の動きはまさにその欠点と突いた行動。しかし、恭佳もその動きに慌てる程未熟ではない。



「ははぁ。お生憎様だね。そんな攻撃がアタシに届くかよっ!」



ソウルイーターの柄の中心部に狙いを定め、振り上げられた孫策の南海覇王の刃を恭佳はバックステップをして孫策との間合いを開くと同時にその一撃を躱してみせた。確かに得物の長さの関係上、歴戦の猛者にいきなり間合いを詰められたら流石の恭佳も対処に困るかもしれない。だが、相手の狙いが分かっていれば話は別だ。狙いがソウルイーターなら、危険に晒さないように安全圏に退避すればいいだけの話なのだから。



「あらら。躱されちゃったか」


「当たり前だろ。そんな見え見えの攻撃がアタシに当たると思ってんのか?」


「ふむ。よっぽどその大鎌に傷をつけられたくないみたいね。そんなに大事な物なのかしら……?」


「……まあ、大事なもんには違いないね」


「そう。……なら、それを壊したら貴方がどうなるのか、この眼で確かめさせてもらうわよ!」


「ほぉ~。面白くない冗談だねぇ。壊せるもんなら壊してみやがれっ! 喰らいなぁ!」


「なっ!?」



恭佳は両手でソウルイーターを後ろに振りかぶりながら上半身を捻り、身体を正面に向け直すと同時に勢いをつけながら両腕を振り抜き、孫策に向かってソウルイーターを投げつけたのだ。

恭佳の手を離れ、投げ放たれたソウルイーターはブーメランのように水平に高速回転しながら空を斬り、孫策に襲い掛かって来るが、彼女は南海覇王を咄嗟に正面にかざして刃を寝かせながらそれを受け止めて難を逃れるが、刃の接触面からは凄まじい火花が散り、軽快な金属音を打ち鳴らして衝撃が全身を駆け巡り、その衝撃と共に孫策は後ろに大きく押されてしまった。

軌道が逸れたソウルイーターはまるで意思があるかのように円の軌道を描きながら恭佳の方へと戻ってきて、彼女は右手を伸ばしてクルクルと回転しながら戻ってきたソウルイーターを軽々とキャッチしてみせて肩に担ぎ、余裕の笑みを浮かべながら今の孫策の姿を見つめた。



「ほらほら、どうしたぁ? 戦狂いさんよぉ。アタシの得物を壊すんじゃなかったのか~い?」


「雪蓮様っ! 私も手伝います!」


「駄目よ明命! 貴方の身にもしもの事があったら誰が蓮華と小蓮を護るのっ!」


「しかし雪蓮様! こやつを雪蓮様お一人で相手するのは危険すぎますっ!」


「それぐらい百も承知よ。けど、ここまでやられて黙って引き下がるわけにもいかないわ。せめてこの女一人ぐらいは仕留めてやらないとね。私の我儘に貴方まで付き合う必要は無いのよ、明命……」


「雪蓮様……」



孫策がここまで恭佳との一騎打ちに固執するのは個人的な理由でしかない。大局を見据えて判断するならば、呉軍にはもう勝ち目などありはしない。普通に考えればこの場を放棄して退却するのが妥当である。

赤壁で大きな痛手を負わされた中で辛うじて態勢を立て直したが、掻き集めた少ない兵力も失っているし、逆転の秘策がある訳でもない。だがそれでも、例え無様だと罵られようが孫策は退きたくはなかった。ここまで一方的にやられて敵に背を向けるなど、彼女の王としての、武人としての誇りが認めなかったのだ。



「やれやれ。聡明な王様かと思ったら、とんだ猪だね。つまらない意地と誇りで命を投げ捨てるつもりなのか?」


「流石にそこまで愚かじゃないわよ。言ったでしょう? 貴方一人ぐらいは仕留めてやるってね……」


「ほぉ~。『ただの人間』如きが、死者であるアタシをどうやってもう一度殺そうっていうんだ? 孫策。いかに優れた王といえど、人である以上はこの世の理である事象を歪める芸当など出来やしない。それを今から教えてやるよ……」



恭佳はまさにこの世の理に反する存在。この世界だけでなく、元居た世界でも該当する事だ。確かに憑代である神器、ソウルイーターが傷つけば恭佳自身もダメージを受ける。それは定軍山の戦いで樺憐が証明している。だがそんな事が出来る人間は限られるだろうし、ましてやこの世界でそんな芸当が出来る人間が居るとも思えない。しかしそれでも孫策は退くつもりはない。本人は不可能と言っているが、それが真実かどうかをまだこの眼で確かめた訳ではない。ならば孫策の中ではまだ可能性はゼロではないという事になる。

ただし、この理屈はあくまでも孫策の中でしか存在しないもの。実際には可能性はゼロだ。絶望的な状況の中緊迫した空気が張り詰め、無言で睨み合う恭佳と孫策がまさに動こうとしたその瞬間、一人の女性が辺りを支配していた沈黙の空気を打ち破ったのだ。



「雪蓮! 待ちなさいっ!」


「冥琳! 貴方、どうしてここにっ!」


「決まってるでしょう。貴方を連れ戻すためよ」


「連れ戻すって……何? 城に逃げて籠城でもするつもりなの?」


「残念だがそれは無理だ。既に曹操の軍勢が建業への退路にも回り込んでいる。この戦……もはやこちらに勝ち目は無い以上、逃げる以外に選択肢は無い」


「冥琳、貴方……私に孫呉を捨てろと言うの? 袁術の手からようやく取り戻したこの聖地を捨て、また屈辱の日々を私に過ごせと言うの!?」



孫呉にとって聖地であるこの建業を袁術の手から取り戻すのは悲願だった。その悲願もようやく成就し、この群雄割拠の時代に名を轟かせて天下を手にするための夢に向かって邁進していたのに、その夢に暗雲が立ち込めただけでなく、またしても建業を失う寸前まで追い込まれているのだ。

いま周瑜が提言した内容を実行すれば、生き延びる事は出来ても建業を護る事は出来ない。華琳にこの地を明け渡し、自分は逃げ延びて生き恥を晒すくらいなら死んだ方がマシとさえ思える。そんな孫策の心境を読み取るかのように、周瑜は彼女に冷静さを取り戻させる話を聞かせた。



「そうは言ってない。……雪蓮、蜀に向かうわよ」


「……え?」


「もともと劉備は我々の事を迎えてくれる気のようだったし……既に穏を先行させているわ」


「まさか……負けると分かっていて?」


「状況に応じて、蜀と二面作戦を取れる可能性もあったからな。こうなる事も、案の中には入っていた。蓮華様や小蓮様、祭殿と思春、亞莎は後退させ兵を纏めさせている。後はお前たちだけだ、雪蓮」


「全く。そういう事は事前に言っておいてよね」


「ふっ。敵を欺くにはまず味方から。これは策の常識だぞ?」


「はいはい。……ならば冥琳! 敵陣の薄い箇所を狙って、一点突破で敵の包囲網を突き破るわよ!」


「御意!」



この戦、建業を華琳に明け渡す形で敗北を喫してしまったが、まだ本当の意味で負けた訳ではない。自分達が生きていれば再起の機会はいくらでもある。どれ程の時間を要するのかは分からないし、もしかしたらまたしても途方もない道を歩む事になるかもしれない。だがこの聖地を取り戻せる機会を得られるのならば、どんな棘の道も歩いてみせようと孫策は自分に言い聞かせた。一度は歩いた道なのだ。ならばもう一度だって歩けるはず。なぜなら、人はそうやって強くなっていくのだから。


………


……



「華琳様ー。先行していた秋蘭ちゃんと沙和ちゃんが、建業に取り付いたとの事です」


「そう。孫策達の包囲は?」


「……申し訳ありません。突破されたと春蘭ちゃんから報告が。霞ちゃんと凪ちゃんが追撃に入っていますが、沼で馬の機動力も生かせませんし、追いつくのは厳しいと思いますー」


「撤退戦に関しては、地の利のある方が圧倒的に有利か。まあ、追いつければ儲け物ね」


「……奴らが逃げたとすれば、行先は蜀だな」


「でしょうね。風、秋蘭と沙和は時間が掛かりそう?」


「呉の主力はこちらに出ていましたから、そう時間はかからないかと思いますがー」


「……なんならオレが出てやるぞ。今まで楽をしてたんだ。最後の仕事ぐらいしてやるさ」


「駄目よ。貴方はここで待機していなさい」


「左眼の事なら気にするほどじゃないぞ。春蘭だって片眼で戦ってるじゃないか」


「貴方が何と言おうと許可はしないわよ。それに怪我はその左眼だけじゃないでしょう」



確かに今の零治が負ってる傷は左眼だけではない。胸にも大きな刀傷があるのだ。まあ、その傷もBDの治癒能力のおかげで既に治り始めているが、完治した訳ではない。小さな傷ならすぐに治るが今回は傷口が大きいためどうしても時間が掛かるのだ。現に傷口からはまだ痛みが身体に駆け巡っている。これでも少しはマシになったので、最後ぐらい仕事をしてやろうと零治は思っていたのだが、この様子では華琳は首を縦には振ってくれないだろう。



「お兄さん。心配しなくてもこの後は稟ちゃんや残りの皆も攻城戦に加わるでしょうから、お兄さんは大人しくここで待機していてくださいねー?」


「分かったよ」


「風。建業の制圧が終わり次第、地方に軍を放って江東と江南の制圧作業に入りなさい」


「分かりましたー。都から文官を呼ぶように手配しましたから、その人達に各地の調査をしてもらいますねー」


「それでいいわ。情報が集まり次第、統治方針を決めましょう」


「兵はどうしましょう。一度都に戻しますか?」


「時間が惜しいわね。蜀との国境辺りに良さそうな場所はある?」


「調査させてみますー」


「そこに、江南の制圧が終わった部隊から集結させなさい。終わり次第、蜀への侵攻を開始するわ」


「では、風達は統治方針を固めるのと並行して、蜀の地形情報と戦術の研究に入りますねー」


「そうしてちょうだい」


「ついに劉備達との決戦か……」



ここまでの道のりは長かったが、まだ全てに決着がついたわけではない。戦乱の世の終結は目前まで来ているが、そこへ辿り着くの決して容易ではないだろう。蜀に加え呉の軍勢も流れ込み、黒狼達も居るのだ。激戦になる事は必至。乗り越えるのが困難な大きな壁として立ちはだかる事だろう。だが、やる事は今までと変わらない。どんな難局も全て打ち破り勝ち進む。その先にある平和を勝ち取るために。



「ええ。乱世の終着はすぐそこよ。そこを過ぎれば……」


「平和が訪れる、か。だが、その後も大変だな」


「ええ。各地の安定に治安維持の強化。開墾と流通にも手を入れたいし……その前に、街道も整備しないとね」


「ああ。戦争に勝ち残ってそれで全てが終わる訳じゃない。いや、寧ろそこから始まるんだ。新たな世を作る一歩を踏み出してな」


「その通りよ。戦で明け暮れていた頃の方が、暇で懐かしく思えるくらいに忙しくなるでしょうね」



華琳は口ではこう言ってるが、そんな日が訪れる時が来る事を楽しみにもしていた。この乱世の世に終止符を打ち、新たなる世を、平和な大陸を統治する日が来る事を。

魏、蜀、呉と三国がぶつかり合うこの乱世の舞台にて、呉がついに脱落。残すは蜀のみ。群雄割拠の時代に終焉が訪れる日は、刻一刻と迫っていた。

零治「久々に間が開いたな」


作者「仕事がある以上こればっかりはどうにもならん」


恭佳「時間が無いんなら作ればいいじゃん」


亜弥「ふむ。確かにそれしか方法は無いでしょうね」


作者「例えば?」


奈々瑠「一番簡単なのは睡眠時間を削るとか」


作者「それは仕事が休みの日しか出来ん。平日にやったら確実に遅刻できる自信があるわ」


臥々瑠「じゃあ仕事を変えるってのは? もっと時間にゆとりが持てる奴とかに」


作者「時間は得られるかもしれんが、それをやると今度は金が稼げなくなる」


樺憐「ならば仕事を辞めてしまえばいいのですわぁ」


作者「うん。それをやったらただのニートになるし生活できないからね? どうせならもっとまともな案を出してよ」

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