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第80話 再戦!白狼VS金狼

三羽烏は魏のメンツの中でも一番動かしやすいから、やはりストーリーパートでも比較的登場回数が多い気がする。別に他のメンバーが嫌いという訳ではないのではないんですけどね。どうしても動かしやすいキャラを出してしまう傾向にあるようだ。

二隻の小型船を鎖で左右に連結させた特殊船は漕ぎ手も居ないのにゆっくりと、ただひたすらにゆっくりとまるで河の流れに従う笹舟のように静かに船体を揺らしながら前進していた。一方の船には亜弥が、もう一方の船には金狼が乗船していて、二人は船体の縁に背を預けながら互いの動きを注視し、船が止まるのを無言で待っていた。



「…………」


「ねえ、白狼」


「…………」



何気なく金狼が声をかけてくるが、亜弥は一切口を利かない。いや、そもそも彼女から言わせれば因縁の相手である金狼と話す事など無いし、話す必要性すら感じていない。確かに普段の亜弥は温和な性格だが、戦闘時は別だし博愛主義でもない。彼女も人間である以上は嫌いな相手は嫌いだし、それ相応の態度を取る。相手が金狼となれば尚更だ。



「もしもーし? 白狼、聞こえてるんだろ」


「…………」


「頼むから無視しないでくれないか?」


「無視して何がいけないんです。まさか敵である貴方とお茶でも飲みながら雑談でもしろと……?」


「いや、そこまでしろとは言わないよ。ただ君に訊きたい事があってね」


「訊きたい事? 敵の質問に答える必要性があるとは思えませんがねぇ……」


「そう邪険にするなよ。大した事じゃないから頼むよ」


「……良いでしょう。ただし、答えるかどうかは質問の内容次第ですよ」


「悪いねぇ。なら訊くけどさ、白狼……定軍山で影狼の身に何が起きたんだい?」


「…………」



金狼がいま最も知りたい事はこれだ。零治の身に起きた変化。それは言うまでも無くBD……つまり血の魔導書ブラッド・ディクテイターを手に入れた事に関する内容である。

金狼は今でも頭の隅で引っかかっているのだ。定軍山で零治は確かに一度死んでいる。だが現在も普通に生きているのだ。あの出来事の目撃者である以上、やはり気になるのだ。黒狼には問いただしても真実は聞き出せなかった。だからこそ金狼は問うべき相手を黒狼から零治に親しい人間である亜弥に切り替えたのだろう。



「今の奴はどう考えても異常だ。定軍山で一度死んでいるにもかかわらず未だに生きている」


「…………」


「あの時からアイツは変だった。当時はコートの左腕の袖にベルトが五重に巻きつけられ、装甲板で固められた手袋を左手だけに着けていたが、今はそれが悪趣味なガントレットに変わってる。あれには何の意味があるんだ? 利き腕を護るためじゃないだろ? だってアイツは右利きなんだから……」


「相手に恐怖心でも与えたいのでは? あの悪趣味なガントレットなら、一般兵は見ただけで怯むでしょう……?」


「この世界じゃアイツは存在自体が恐怖だ。その線は無いね。白狼、誤魔化すんならもう少しマシな言い訳を考えた方がいいよ……」


「誤魔化す? なぜ私がそんな事をしなきゃならないんです。私は貴方の質問に対して意見を述べたにすぎませんよ……」


「ふむ。なら質問を変えようか。白狼、僕は影狼の異変に関して、ある人物が深く関わってると思っている。恐らく君も同じ事を考えているはずだ」


「…………」


「その人物とは黒狼さ。あんな異常事態に関わってる奴なんて、あの男以外に考えられない。白狼、君もそう考えているんだろう……?」


「……ええ。それは否定しませんよ」


「そうか。なら訊かせてもらおうか、白狼。あの場に……定軍山に黒狼が現れたのか……?」


「いいえ。仮に奴が現れていたのなら、私達全員が揃ってこの場に居る可能性が限りなく低いはずでしょう……?」


「……確かにその通りだね」



その時である。亜弥と金狼が乗っている船が不意に停止をした。もしやと思い、亜弥は前方に視線を向けると数百メートル先に無数の灯りと船の影が点在しており、彼女の考えは確信へと変わる。

前方の船団は華琳が率いる本隊。零治はこの船を本隊の付近まで移動させると言っていた。つまり、この船がこれ以上進む事は無いはず。亜弥としてはありがたい事である。これ以上金狼と話をしたくないし、零治の事で探りを入れられても困るのだから。



「金狼、話は終わりです。船が止まりましたのでね……」


「やれやれ。タイミングが悪いなぁ。僕としてはもう少し話がしたいんだけど」


「私はこれ以上話す事などありませんし、貴方と話をしたいとも思わない。零治の事も、仮に真実を知っていたとしても、貴方に話す事など絶対にあり得ません……」


「へぇ~。そうかい。なら、君をギリギリまで痛めつけて吐かせてやろうか……」


「やれるものならやってみなさいよ……」



亜弥は眼鏡を外して木製のケースにそれを仕舞い、コートの下に忍ばせて腰の左右に下げている鞘から双龍を引き抜いて臨戦態勢に入り、金狼もそれに応じるように右手に持つゲイボルクを上空に掲げて片手でクルクルと回転させながらブンッと力強く振りおろし、亜弥に鋭い眼光を向けた。

ここから先はやる事は一つだけ。互いの命を懸け、この闘いに勝ち、生き残るための殺し合い。それだけである。零治を相手にこれまで何度も、それこそ元居た世界に居た頃どころかこちらに来てからもずっと近接戦の訓練を積んできたのだ。少なくとも、昔よりは間違いなく実力は上がっている。だがそれでも油断できる相手ではないのも事実だ。金狼と直接闘うのは前回の劉備軍の襲来以来なのだから。



「…………」


「…………」



双方無言で睨み合いながら一歩も動こうとせず、互いの動きを監視し合っている。こういう状況では先に動いた方が負けとよく言われているが、だからといっていつまで経っても動かずに睨み合いを続ける訳にはいかないのも事実である。こんな状況であろうとも否が応でもどちらかが先に動かねば、事態は永遠に先に進む事は無いのだ。

まるで長い時間が経過しているように感じるが、実際にはまだ数分も経過していない。辺りが静まり返ってる中、ついに事態が動いた。先に動いたのは……金狼である。



「フンっ!」



水面に浮かんでいる船はユラユラと上下に小刻みに揺れ動き足場が不安定だというのに、金狼はその程度の障害などものともせず、甲板を一気に駆け抜けて縁に脚をかけて亜弥が乗船している方の船まで一気に跳躍し、空中でゲイボルクの穂先を下に向けながら両手で思いっ切り振り上げ、着地と同時にそれを瞬時に振りおろして突き立てたのだ。



「おっと!」



だが、対する亜弥も慌てる事無く冷静に対処し、軽く横にサイドステップしてその一撃を難なく躱し、金狼のゲイボルクは甲板の床板に深々と突き刺さるだけに終わった。

金狼は忌々しげに亜弥を睨み付け、次の攻撃に移ろうと両腕に力を入れてゲイボルクを引き抜こうとするが、亜弥に対する憎悪が必要以上の力を加えてしまっていたため穂先の刃が甲板の板に食い込んでしまい、中々引き抜けなかったのだ。この僅かな隙を亜弥は見逃さず、すかさず身を低くしながら双龍の刃を前方で交差させて金狼に向かって突進した。



「闘いとは冷静さを欠いた者が負けるのですよ、金狼っ!」


「生意気言うな!」



亜弥は金狼の懐に飛び込み、交差させている双龍を一気に振り抜いたがそれより一瞬早く金狼がゲイボルクを甲板から引き抜き、よろめく動作を利用しながら後ろに下がりつつ、ゲイボルクを振り上げて亜弥の一撃を弾き返し、そのまま間合いを一度開いて体勢を立て直した。



「最弱の分際で僕に近接戦を挑むつもりとはね……」


「金狼。私はあの時も言いましたよね。いつまでも私を昔のままだと思わない方が良いと……」


「少し腕を上げたぐらいで……つけあがるなぁ!」


「貴方こそ! その人を見下す態度! いい加減に改めなさいっ!」



双方一斉に突撃をし、亜弥を間合いに捉えた金狼はお得意の高速の連続突きを放つが、亜弥はその攻撃が届く寸前に甲板から軽く跳躍して空中で身体を横に倒し、両腕を限界まで伸ばして双龍を突き出しながら独楽のように全身を回転させて金狼の一撃を全て受け流し、そのまま彼に迫り来る。亜弥の今の姿はまるで芝刈り機の回転刃のようだ。



「チィ!」



金狼は忌々しげに舌打ちをして右にサイドステップをして迫り来る凶刃を躱し、亜弥はグルグルと回転しつつ高度を落として甲板の上に華麗に着地をし、回転の勢いを利用して金狼に素早く向きを変えて体勢を立て直した。

しかし金狼もやられっぱなしのままでいるはずがない。これ以上亜弥に攻撃の機会を与えぬようにゲイボルクを水平に構えながら突撃をし、亜弥との間合いが中間に差し掛かった所でゲイボルクの穂先を甲板の板に突き立て、まるで棒高跳びの選手のように跳躍して空中で一回転して両手に持つゲイボルクを亜弥に叩き付けるように大きく振り上げたのだ。



「その頭ぁ! スイカみたいに叩き割ってやる!」


「そんな大振りの攻撃が私に当たると思ってるんですか!」



しかし、大振りの攻撃な上に軌道が直線的なため亜弥に当たるはずが無く、彼女は軽く身体を横にずらして安全圏に退避し、金狼が振り下ろしたゲイボルクは甲板に叩き付けられ板を叩き割るに留まった。

ゲイボルクを叩き付けると同時に着地した金狼はゆっくりと顔を上げて亜弥を睨み付け、忌々しげに歯ぎしりをしていた。



「白狼ぉ……っ!」


「おやおやぁ? いつもの嫌味ったらしい笑みが消えましたねぇ。そんなにカリカリしてると高血圧で早死にしますよ? 金狼、もっと心にゆとりを持たないと」


「殺すっ!」



亜弥との闘いに長い空白期間がある上、今の今まで五色狼最弱と見下していた相手にここまで言われては流石の金狼も黙ってはいられない。彼は内に抱える本性と殺意を剥き出しにし、鬼のような形相で吠えてゲイボルクを両手で水平に持ちながら突撃し、亜弥もその動き呼応して双龍を連結させて薙刀のような形態して甲板上を駆け抜けて金狼と激突する。

双方が一閃、また一閃と振るう神器の刃は激しい金属音を鳴り響かせながらぶつかり合い、火花を散らして一進一退の攻防戦が続く中、二人の闘いのリングと化している船の横を華琳が率いる本隊の船団が素通りし、その際に起こった水面の揺れが船に伝わりグラグラと船体を揺れ動かし、亜弥と金狼の二人は闘いの手を止めて両脚でしっかりと地面を踏み締めてバランスを保った。するとその時である。二人が乗船している船がゆっくりと方向転換をしてそのまま前進を始め、華琳達の本隊について行くように後を追い始めたのだ。



(ん? また船が動き出した。BDの術はまだ継続しているというのか……)


「白狼っ! これで貴様も終わりだぁ!!」


「っ!」



金狼が放った高速の突きの一撃を亜弥は双龍の刃を寝かせながら腹に左手を添えて受け止め、そのまま軌道を横に逸らして間一髪の所で躱してみせた。金狼は両腕に力を入れてゲイボルクの軌道を元にも戻そうとするが亜弥も負けてはいない。双方の神器は小刻みに震えながらギリギリと金属がすれる音を鳴らせ、まるで鍔迫り合いをしているかのような光景である。



「なに受け止めてるんだ! そいつを今すぐ退けろ! そして死ねぇ!」


「そこで私が、『はい、そうですか』と言うと思ってるんですか!」


「そっちの事情など知った事か! いいから死ぬんだよ!」


「言ってる事が滅茶苦茶すぎですよ! いよいよ貴方も化けの皮が剥がれてきましたね!」



亜弥と金狼が押し問答している最中も船は前進し続け、やがて二人が使用している船は魏、蜀と呉の連合軍が激突している戦場へと辿り着き、魏軍本隊付近で船はようやく停止をした。

どうもBDがこの船に使用した術は、あくまでも魏軍の本隊付近まで移動するという項目を律儀に守っているからここまで移動したのかもしれない。



(全く。BDの魔法は変な所で律儀なんですねぇ。ですがまあ、本隊の付近へ常に移動してくれるのはありがたい。味方を巻き込む危険性もありますが、これなら場所の移動には困らない)


「死ねぇ! 白狼!」


「そのセリフは聞き飽きましたよっ!」



完全に頭に血が昇りきっている金狼だが、攻撃の手には単調性が見受けられず、身体を一回転させながらゲイボルクを振り上げ、こちらに向き直ると同時に頭に向かって振り下ろしてきたので亜弥は数歩後ろに下がって難なくその一撃を躱すが、金狼はゲイボルクを甲板に叩き付けながらその場にしゃがみ込み、両手でゲイボルクをグンッと前に押し出して足元に突きを放ちながら穂先を上空に振り上げて弧を描き、鋭く尖った先端で顔を斬りつけようとしたのだ。

亜弥は咄嗟に上体を後ろに逸らしてそれも何とか躱せたが、穂先が前髪をかすめて白金に輝く銀色の髪の毛を数本空中に舞い散らせた。



(くっ! 腐っても五色狼の一人! あんなに怒り狂っていても攻撃のキレはいつも通りって事ですか……っ!)


「そうやって逃げ回っていられるのも今の内だぞ。今度こそ串刺しにしてやるっ!」


(今の私でも金狼相手に近接戦はまだ危険か。それにあの様子……やはり射撃戦に持ち込むしかありませんね)



亜弥の得意戦はあくまでも射撃戦だ。この世界に来てからも、零治は勿論の事、魏の首脳陣たる英傑の一人である季衣や流琉を相手に近接戦の訓練は積んできているが、金狼も今まで何もしていないという訳ではないのだ。見ての通り彼の攻撃には昔以上のキレがあり、狙いも正確である上、激情に駆られて手数は激しさも増している。これ以上いまの金狼相手に接近戦は危険だろう。悔しくはあるが、この場は変な意地を張るよりも自分の得意戦法に切り替え、少しでも勝率と生存確率を上げるのが賢い者のする事である。亜弥は双龍の連結を解除してもう一度繋ぎ直し、弓形態ボーゲン・フォルムへと変更した。



「お得意の射撃戦に持ち込む気か? 僕が君にそんな余裕を与えると思っているのかっ!」


「そこまで楽天家ではありません。余裕が無いのなら……その状況を作ればいいだけの事!」



亜弥はいま現在使用している船を放棄し、周囲に点在している魏軍の船団内の一隻の船に向かって大きく跳躍して一度距離を取り、金狼も亜弥を逃すまいと彼女の後を追うようにその場から跳躍して追撃した。

亜弥は空中でクルリと反転して後方へ向きを変えて双龍に一本の青白く発行する矢を番え、同じく空中に居る金狼に狙いを定める。空を飛ぶ能力も無い人間にとって空中は逃げ場の無い空間。射撃を得意とする亜弥に言わせれば今の金狼は格好の的なのだ。矢から指を離し、双龍から放たれ矢は空を斬りながら金狼に一直線に飛来してきたが、彼はゲイボルクを右手で水平に持ちながら前方にかざし、ヘリのローターのように高速回転させてその矢を弾き飛ばした。



「甘いね! 空中に居れば有利だと思うなよ!」


「今のはほんの小手調べ! 勝負はこれからです!」



移動先に選んだ魏軍の船に落下していく亜弥は空中でもう一度身体を反転させ、船の甲板に視線を向けながら四肢を大きく広げ、まるでスカイダイビングをするかのような体勢で落下していき、船との距離が目前まで縮まった所で脚から着地してその場で前転をしながら衝撃を逃がし、素早く立ち上がって体勢を整えた。

いきなり自分達の船に亜弥が空中から落下してきたので、乗船している兵達はギョッとした様子で亜弥に視線を向けていた。そしてそれは兵達を指揮している音無警備隊三羽烏である、凪、真桜、沙和も同様だ。



「ええっ!? あ、亜弥様! どうして空中から……?」


「ん? あぁ、凪。それに真桜に沙和も。いや、すみませんねぇ。手近にある船がこれだったもので」


「いや、そんな事より姉さん。なんでいきなり空から落ちてきたん?」


「うんうん。亜弥様の船、沙和達が通り過ぎてそのまま後ろに居たはずだよねー?」


「まあこれには色々と事情が。……っ! 全員下がってくださいっ!」



亜弥の鋭い声にハッとして凪達は身構えながら彼女の指示に従い、素早く亜弥から身を離した。

それからすぐに金狼が船の甲板上に着地してゆっくりと立ち上がりながら表情に影を落とし、亜弥に鋭い視線を向けたのだ。



「白狼ぉ……僕から逃げられると思うなよなぁ」


「別に逃げたつもりはありません。ただ場所を変えただけですよ」


「亜弥様っ! まさかこの男は……っ!」


「凪! 手を出してはいけません! 貴方達も! 全員、私と金狼の闘いに割り込んではいけませんよ!」



亜弥と同じ服装をしている上に、彼女と同様に空中から飛来してくる常識外れの身体能力。分からないはずが無い。直接姿を見るのはこれが初めて、中には見た者も居るかもしれないだろう。この人物は蜀の天の御遣いの一人なのだと、誰もがすぐに分かったのだ。



「ククク。白狼の言う通りだ。僕達の闘いの邪魔なんかしてみろ。次の瞬間に串刺しにしてやるぞ……」



金狼がいま浮かべている笑みは、いつも相手を適当にあしらうための嫌味ったらしい物ではない。殺気と狂気の籠った氷のように冷たい笑みだ。おまけに彼も亜弥同様にこの大陸に降り立った天の御遣いの一人に数えられている人物。その事を知らない人間はほぼ居ない。その人物の宣言を前にしては、魏の兵士達は勿論、凪、真桜、沙和の三人も足がすくんで動く事も出来ない。

だが亜弥としてはその状況の方が好ましい。下手に横槍を入れられて金狼の怒りを買い、味方に被害が及ばなくて済むのだから。



(ふむ。まさか金狼の本性が役立つ日が来るとは。彼の歪んだ性格に感謝ですね)


「……白狼。いま物凄く失礼な事を考えてただろ」


「はて。何の事を言ってるのですかな?」


「フンっ! まあいいさ。どっちでもいい事だ。君を殺して全てを終わらせる。それで僕の心はスッキリするんだからね。白狼、事が済んだら君の死体は河に沈めて水葬してやるよ……」


「残念ですがそれは無いですね。この赤壁の河に沈むのは金狼、貴方の方ですよ……」


「面白い。やってみなよ。最弱風情が……」



亜弥と金狼の間で火花を散らしながらぶつかる互いの殺気は、常人では耐えられるような物ではなかった。

事の成り行きを見守っている周りの兵達はその殺気に当てられ、腰を抜かしたり卒倒して気絶したり、挙句の果てには恐怖に耐えきれず失禁してしまう者まで現れていた。まあ、彼らの場合、逃げ出さないだけでも良くやってる方だと言える。それに比べて凪、真桜、沙和の三人は仮にも兵達を指揮する立場にある指揮者だ。兵達の前で無様な格好は晒せないので腹に力を入れて何とか踏ん張ってはいるが、彼女達も耐えるのが精一杯の状況だった。



「くぅっ! なんて殺気だ……っ! 耐えるだけで……精一杯だ……っ!」


「ホンマやで……っ! ってかこれ、人が放てる殺気なんか……っ!?」


「沙和……もう限界かも……っ!」


(これ以上ここに長居するのは良くないでしょうね。仕方ない。極力その場に長居せず、場所を移しながら闘うしかありませんね)



味方の船に移動しても互いが放つ殺気のおかげで、こちらの闘いに横槍を入れられて巻き添えを喰らわせる心配は無さそうだが、その殺気のせいで味方の戦意を喪失させて使い物にならなくしては本末転倒だ。

自分達が知る歴史の情報を華琳に教え、事前策を打っていたおかげで蜀と呉の策を阻止する事こそ出来てはいるが、まだこちらが完全に勝つと確定しているとは言えない。何しろ目の前に金狼が居るし、彼が居るのなら銀狼と黒狼がこの場に居ても何ら不思議は無い。ただ、亜弥は定軍山の件から銀狼の右眼の事情がどうなっているか知らないため、彼はこの場に居ないものと判断しているが。

まあ、仮に銀狼が居たとしても彼は間違い無く零治を優先的に、というより零治以外を狙う可能性は極めて低い。例え鉢合わせしてしまったとしても自分に危険が及ぶ事はまず無いだろう。今やるべき事は、目の前の脅威である金狼を倒す事、それだけである。



(とにかく今は場所を変えなくては。……ですがその前にっ!)



場所を変えなければならないのは最優先事項だが、このまま何もせずにただ移動するというのも癪な話である。亜弥は右脚を前に突き出しながら左脚を軸にして体重をかけて全身を支え、姿勢を低くして双龍を水平に構えながら三本の矢を番え、それらを金狼に向かって同時に発射したのだ。



「そんな物が僕に当たるかよっ!」



だが明らかに射撃をするのが見え見えだったので、命中する訳も無かった。金狼はゲイボルクを右手で横に大きく振り抜いて空を薙ぎ払い、飛来してきた三本の矢を全て叩き落としたのだ。

もちろん亜弥もこうなる事は予測済み。これはあくまでも金狼を足止めするための時間稼ぎなのだ。亜弥は射撃と同時に素早く身体を反転させ、両脚に力を溜めてバネのようにグンッと伸ばして大きく跳躍し、再び空中へと移動した。



「逃がすと思ってるのかぁ! 白狼! その息の根を止めるまで、僕はどこまでも追い続けてやるぞ!」



続いて金狼もゲイボルクを肩に担ぎながら甲板上を走って助走をつけ、船の縁との距離が目前まで縮まった所で片足を縁の上にかけて踏み台代わりにし、亜弥と同様に空中へと大きく跳躍して再度追撃を開始した。

自分達が狙われていたわけではないが、危険人物が去ってくれたおかげで船内には安堵感が生まれ、その場に居る全員が大きく息を吐き、凪、真桜、沙和の三人は亜弥達が跳んで行った方角に眼を向けた。



「はぁ~……これ程の恐怖を感じたのは生まれて初めてだ」


「ホンマやで。あのままおったら息が詰まって窒息するかと思ったわ」


「沙和なんかもう少しで気絶する所だったのー……」


「こうして改めて目の当たりにすると……私達って、とんでもない方達と一緒に戦っているんだな」


「せやな。隊長達だけは絶対に敵に回したくないな。ウチらが隊長達を相手に闘ってる姿なんか……想像しただけで背筋が凍り付きそうやわ」


「真桜ちゃん。そういう不吉な事は言わないでほしいのー」


………


……



「いつまでそうやって逃げ回るつもりでいるんだっ!」


「貴方が死ぬまでですよっ!」



出来るだけ金狼の接近を許さぬよう、亜弥は空中で狙いを定めながら矢を速射して弾幕を張るが、ことごとくその矢は全て叩き落とされてしまう。今の所は自分が不利な状況という訳でもないが、かといって有利とも言えない。現状はあくまでも自分が得意な戦法に持ち込めてるだけにすぎず、決定打に欠けているのだ。

亜弥も負けるつもりはないが、このままではジリ貧である。彼女の矢も無限に撃てるという訳でもない。亜弥は金狼と移動しながら闘い、尚且つ思考をフル回転させていた。どうやってこの状況を打破するべきなのかを。そんなこんなな内に次の移動先である船が見えてきた。しかもその船はよりにもよって魏の旗艦。つまり華琳が乗船している船だった。



「っとぉ!」


「えっ!? 亜弥! どうして貴方がここに?」


「華琳っ!? すみませんが話は後にしてください! 先を急いでいるので!」


「あっ! ちょっと!?」



華琳が呼び止める間も無く、亜弥は甲板上を一直線に駆け抜けながら助走をつけてジャンプし、これ以上味方を巻き込まぬように今度は前方に展開する船団、つまり蜀と呉の連合軍の船に向かって跳んで行ったのだ。



「一体どうしたというの……?」


「白狼! 待つんだぁ!」


「なっ!?」



少し遅れて船に着地した金狼は凄まじい剣幕で亜弥が跳んで行った方角を睨み付けながら喚き散らし、華琳達には眼もくれずに甲板上を駆け抜けて跳躍し、亜弥を執拗なまでに追跡を続ける。突然の来客を前にし、華琳達は思わず身構えたが、その来客である金狼は亜弥の事以外全く眼中に入っていないため、幸いな事に彼女達に被害が及ぶ事は無かったが、いきなりにしてあっという間の出来事に、華琳達はポカンとした表情で亜弥と金狼の後姿を見つめている事しか出来なかった。



「っととっ!? ……参りましたね。手近の着地ポイントがよりによって撃沈された船の残骸とは」



亜弥が次に移動した先は撃沈されて水面にプカプカと浮かびながら漂っていた蜀の船の残骸。当然ながら破壊した張本人は恭佳である。残骸は粉々に大破している訳ではなく、船体が中央から縦に真っ二つに折れた状態で転覆して浮かんでいるのだが、足場として有用かと言われれば決して有用とは言えない。

転覆しているという事は水面上に浮かんでいるのは船底になるのだ。船底は丸みを帯びて水で濡れているため非常に滑りやすい。おまけに周りに遮蔽物は無いし、足場その物も狭い上に全体的に揺れやすくなっていてとても不安定な場所なのだ。少なくとも射撃の場としてうってつけとは言えない。



「ククク。追いつめたぞ、白狼……」


「…………」


「場所選びを誤ったな。こんな不安定な場所で僕と闘うつもりか……?」



真っ二つに折れたもう一方の船体に着地をした金狼は乾いた笑みを浮かべながら亜弥を睨み付ける。彼の言う通り、この場所は闘うのに向いている場所とは言い難い。水の上で揺られていて非常に不安定なこの場所では射撃をしようにも狙いが定めにくいし、かと言って近接戦の場所にも向いているとは言えない。なら場所を変えれば済む話なのだが、これ以上金狼に下手な動きを見せるのも危険な行為だ。先に跳躍してしまえば空中で追いつかれる心配は無いかもしれないが、全く隙が無い訳ではないのだ。あまりワンパターンな行動を繰り返していては何をしてくるか分からない。危険な賭けにはなるが、亜弥は敢えてこの場で金狼を迎え撃つべく、左手に一本の矢を創り出し、双龍の弦に番えていつでも撃てるように体勢を整えたのだ。



「ほぉ~。ここで僕と殺り合うつもりなのかい……」


「ええ。これ以上体力を無駄に消耗したくはありませんのでね……」


「良いだろう。これ以上ないくらいの惨めな死をプレゼントしてやるよ……」



亜弥と金狼が睨み合い、その場に一触即発の空気が張り詰める。周囲に人は居ないのでその空気に当てられる者は居ないが、だからと言って自分から進んで近寄りたいとも思わない。それに、この二人の間に割って入るのは例え神が許しても金狼は絶対に許しはしないだろう。彼にとって亜弥との一騎打ちは特別な意味を持つ聖戦のような物なのだ。どんな理由であろうとも、割り込んで来た者が味方であろうとも金狼はこの闘いを穢す事は許さない。だが、なんとその事態が起きてしまったのだ。今まさに亜弥と金狼の二人が動こうとしたその瞬間、どこからか空を斬る音が鳴り渡り、その音の正体である無数の弓矢が放物線を描きながら亜弥に向かって降り注いできたのだ。



「なっ!? くぅ……っ!」


「っ! 誰だぁ。僕の闘いの邪魔なんかするのは……っ!」



亜弥は降り注いでくる矢を、咄嗟に双龍を上空に掲げて両手でグルグルと高速回転させながら全て弾き飛ばして難を逃れる。その様子を傍観していた金狼は忌々しげに歯ぎしりをしながら矢が飛来してきた方角、金狼から見て左斜め前方に視線を向け、その周辺を観察した。するとその視線の先にぼんやりとした火の光が四つほど点在しており、その光に照らし出されて映るは小さな舟。舟に乗船している人影の数は全部で六。

その舟はゆっくりとこちらに近づいてきており、周囲に点在している魏、蜀、呉の船に使用されている篝火かがりびの光で舟が照らし出され、二人の闘いに横槍を入れてきた人物の正体が明らかになった。それは五人の部下を引き連れた黄蓋である。



「金狼! 無事じゃったか!」


「黄蓋……お前の仕業かぁ……っ!」


「者ども! もう一度あの女に矢を射かけるのだ!」


「はっ!」



黄蓋の指示に従い五人の兵達は弓に矢を番えて素早く亜弥に狙いを定め、引き絞っていた弦を指から離し、放たれた五本の矢は一直線に飛来してきたが、亜弥は双龍を振るい矢を全て的確に叩き落としてその攻撃を凌いだ。亜弥のその姿を傍観している金狼は身体をワナワナと震わせながらゲイボルクを握る右手の力が強まり、ギリギリと繰り返している歯ぎしりにもますます力が加えられる。



「やめろ……っ!」


「流石は御遣いの一人。やりおるわ。者ども! もう一度だ! 次は儂も協力するぞっ!」


「はっ!」


(全くっ! 嫌なタイミングで厄介な人が来てくれますねっ! 流石に場所を変えないとマズイか。しかし、黄蓋を前にして空中に逃げるのは危険……いや、この場に留まるよりはマシでしょうっ!)


「神威! お主の命運もこれまでじゃ! 覚悟せいっ!」



黄蓋が兵達と共に、今まさに亜弥に向かって矢を射かけようとしたその時だった。金狼が持つゲイボルクが、内に沸き立つ怒りと憎悪に呼応するかのように心臓の鼓動のように一度脈打ち、禍々しく深紅に発光しながら辺りに普通の人間でも視認できるほどの魔力を溢れさせ、金狼の全身を包み込んだ。

金狼が内に抱えている亜弥に対する憎悪、それと彼女との一騎打ちに横槍を入れてきた黄蓋達に対する怒りが彼のゲイボルクを覚醒させ、新たな力を生み出したのだ。



「黄蓋! 邪魔をするなぁ! 刺し穿つゲイ……血染めの魔槍ボルクーーーーっ!!」


「なっ!?」



槍投げ選手のように大きく右手を振りかぶり、金狼は向かって一番左側に立っている兵に向かってゲイボルクを投げつけた。投擲されたゲイボルクは禍々しい深紅の光を放ちながら一直線に飛来し、音速の壁をブチ破って激しい水しぶきを巻き上げながら兵の胸部を一瞬で穿ち、貫通して大きな風穴を開けたのだ。



「がはぁ!?」



胸部を穿たれた兵士は一瞬で息絶え、ゲイボルクが飛来中に放っている衝撃と共に船外へ吹っ飛ばされ、そのまま赤壁の河へと沈んでいき、水面を血で紅く染め上げた。

兵を刺し貫いて一撃で絶命させたゲイボルクはそのまま遥か彼方の地平線まで飛んで行くのかと思いきや、まるで意志があるかのように黄蓋達が使用している舟の数メートル先で停止し、空中で停滞したのだ。紅い魔力のオーラを纏わせながら。



「金狼! 何をする! 儂らは味方だぞっ!」


「黙れぇ! 僕と白狼の闘いの邪魔をする奴は誰であろうと敵だぁ! 邪魔をすればどうなるか……その身を以って思い知れぇ!!」



金狼は右手を開きながら前方で空中浮遊しているゲイボルクに向かって突出し、ゲイボルクは金狼の憎悪に呼応するようにクルンと一回転して穂先の向きをこちらに変え、先程殺した兵士の隣に立っていた兵の背中に狙いを定め、金狼に引き寄せられるように超高速で飛来してきた。



「ぐわぁ!」



背後から兵に襲いかかったゲイボルクは先程の兵と同様に一瞬で身体を貫通して胸部に風穴を開け、水しぶきを巻き上げながら金狼に向かって一直線に飛来し、金狼はそれを右手で掴み取ると同時に衝撃を全身で受け止めながら身体を回転させてブレーキをかけ、黄蓋達が使用している舟に向き直って肩で激しく息をしながら睨み付けた。



「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」


(ゲイボルクにあんな力があったとは。まるで遠隔コントロール攻撃ユニットみたいですね……)


「金狼! 一体どういうつもりじゃ! なぜ味方である儂らを攻撃するのだっ!」


「味方だと……? ふざけるなぁ! 僕がいつ助けを頼んだっ! 誰が白狼との闘いに手を出して良いと許可したぁ! 僕と白狼の闘いを邪魔するのならば、僕にとっては敵以外の何者でもないんだよ!」


「金狼! お主の考え方は危険すぎる! 私怨に囚われていては勝てる闘いも勝てなく……」


「それを決めるのはお前じゃない! 僕が決める事だ! 余計なお世話なんだよ!」


「金狼……」


「黄蓋。お前はそこで黙って見ていろ。もう一度手を出したら……次はお前を殺すっ!」



金狼の恐怖の宣言。今の彼なら間違い無く本気でやるだろう。先程の行動、今の金狼の眼つきを見れば誰でも分かる。黄蓋達は今の金狼の姿を前にし、まるで蛇に睨まれた蛙のように動く事が出来なくなり、黙って弓を下ろして見ている事しか出来なかった。亜弥はこれこそが金狼の本性だという事を知っているのでそこまで驚きはしなかったが、ここまで怒り狂った姿を見たのは初めてだ。今の彼はまさに爆発寸前の爆弾と同じ。ふとした拍子に大爆発を起こして味方にさえ被害を及ぼす危険な存在と言えるだろう。



「さて……待たせたね、白狼。続きと行こうじゃないか……」


「それが貴方の本性ですか。やはり……貴方は銀狼と同類ですね」


「ククク。それは僕に限った話じゃない。白狼、君もそうさ。いや、君だけじゃない。この世界に生きる人間全てに当てはまる事さ……」


「…………」


「この世の人間全てが清廉潔白な訳が無い。もしも本当にそうならそもそもこの世に戦争自体が無いんだからね。『人』ってのは周りや自分が思っている以上に汚い生き物だ。誰しもが大なり小なり心の中に様々な闇を抱え込んでいる。でなきゃ君だって神器を扱える訳が無いだろ……?」


「ええ。そこは否定しませんよ……」


「フフフ。君は正直だね。そこが劉備や北郷と違う所だ。アイツらは現実をあまりにも……っと、あの二人の話なんてどうでもいい事か。いま重要なのは……僕達の闘いに決着をつける事だ」


「…………」



亜弥と金狼が睨み合う事でまたもやその場に一触即発の空気が張り詰め、辺りには緊張が走る。

今の状況から考えて、金狼が新たに身に付けたスキルを使わないはずが無い。その威力に関しては今しがた既に証明されている。加えてこの至近距離。いくら亜弥の身体能力でも躱すのは困難だろう。



「クックック。黄蓋に余計な邪魔をされて腹は立ったが、感謝もしている。おかげでゲイボルクの新たなスキルを発動できたんだからね……」


(やれやれ。まさかこんな事態になるとは。この至近距離でアレを躱すのは厳しいですね……)


「白狼。この至近距離だ。躱せると思うなよっ!」


(……躱すのが無理なら受け止めるしかない。アレを使うのは久々ですから危険かもしれませんが……ここは賭けるしかないっ!)


「白狼! これで終わりだぁ! 刺し穿つ……血染めの魔槍!」


(来たっ! チャンスは一度っきり。失敗は出来ない!)



槍投げ選手のように金狼が投擲したゲイボルクは禍々しく深紅に発光しながら一直線に飛来してくる。しかもこの距離だ。もう目と鼻の先まで迫り来ている。失敗は許されない。失敗すれば待っているのは敗北、即ち己の死だ。だが亜弥も負けるつもりなど初めから無い。なぜならば、勝つためにここに居るのだから。亜弥は双龍の柄を分離させて弓形態から剣形態シュヴェーアト・フォルムにもう一度切り替え、己の魔力が枯渇するのも躊躇わずに注ぎ込み、刃を交差させながら盾のように正面にかざした。



盗賊の守護パトロン・デァ・ディープっ!」


「何っ!?」



双龍が展開した完全無敵の防御壁にゲイボルクの穂先は直撃し、間にまるで電流のように激しくほとばしる白と紅の魔力光が辺りを照らし、凄まじい風を巻き起こした。その突風は亜弥と金狼が纏っているコートをバサバサとなびかせ、黄蓋達が乗船している舟も激しく揺らされて転覆してしまうのではないかと思うほどである。



「くぅ……っ! でやぁ!」


「なっ!?」



亜弥は渾身の力を込めて両手に持つ双龍を振り上げてゲイボルクを弾き飛ばし、弾かれたゲイボルクは空中でクルクルと縦に回転しながら飛んで行き、金狼は右手を伸ばしてそれをキャッチする。

横で事の成り行きを見守っていた黄蓋達は全くついて行けず、何が起こったのか理解不能である。パッと見ただけでは亜弥が金狼が投げつけたゲイボルクを双龍の刃で受け止め、それを弾き返した風にしか見えないが、実際は違う。亜弥の先程の行動には特別な意味があるのだ。



「白狼……貴様、いま何をした……」


「ん? あぁ、そうか。貴方は知らないんでしたね。私の持つ双龍のもう一つの力を」


「何だと……?」


(昔の私ならアレを一度使っただけで魔力が枯渇していた所ですが、今ならコピーした矢を一発だけなら撃てそうですね。試してみますか……)



亜弥は左手に全神経を集中し、金狼のゲイボルクのスキルを元にコピーした矢を創り上げる。彼女の左手に創り出された矢は、長さはいつも使用している矢と変わらないが、太さは金狼が使用しているゲイボルクと同じぐらいで色も青白ではなく深紅に発光しているのだ。



「白狼ぉ! その矢は一体なんだ! さっき何をしたんだぁ!?」


「フッ。冥土の土産に教えてあげましょうか。さっきのアレは、私の双龍のもう一つの能力。絶対無敵の障壁を張り、受け止めた他の神器のスキルをコピーして創り上げる矢に反映したんですよ」


「何だと!? ならその矢は……っ!」


「そう。貴方のゲイボルクの力が籠められた矢という事ですよ。今しがた貴方が使ったスキルの力がね……」


「…………」


「その威力……受けて確かめなさいっ!」



亜弥は素早く紅い矢を双龍に番えて金狼に狙いを定め、速射した。放たれた深紅の矢は金狼のゲイボルク同様に音速の壁を破りながら彼の胸部目がけて一直線に超高速で飛来し、二人の間である中間の距離に差し掛かったその時だった。命中まであと少しの所で禍々しく深紅に発光する三日月状の魔力光の斬撃が四つ飛んできて、恭佳が新たに創り上げ、付近を航行していた四隻のガレー船を真っ二つにして沈め、その一つの斬撃が二人の間まで飛来し、亜弥が放った矢を真っ二つに斬り裂いたのだ。しかし矢は勢いを失い軌道も下にずれてしまったがそのまま飛んで行きながら金狼の左脚の太ももに深々と突き刺さった。左脚に走る激痛は全身を駆け巡り、傷口からは血が溢れだし、金狼は思わず片膝を突いてゲイボルクを杖代わりにしながら身体を支え、左手でももを押えながら天を仰ぎ、悲痛な叫び声をあげた。



「ぐああああああ!!」


「やれやれ。折角威力を確かめたかったのにとんだ邪魔が入ってしまいましたね」


「白狼……貴様ぁぁぁぁぁぁ……っ!」


「私を見くびるからそういう事になるのですよ、金狼。まあ、死なずに済んだから、授業料としては安い方でしょうね」


「き、貴様ぁ……こ、殺してやる……っ!」


「その脚でですか? 無理をすると二度と歩けなくなるかもしれませんよ? それに、私はこれ以上貴方に付き合うつもりもありません。今日の所はここまでとしましょう。では、失礼しますよ。金狼」



亜弥は金狼に背を向けて辺りを見回して一隻だけ残っているガレー船を見つけ、ついでに恭佳達の姿も確認できた。亜弥は恭佳がなぜか海賊のコスプレ姿をしているので一瞬怪訝な表情になるが、いま重要なのはそこではない。まずは安全地帯まで後退する事だ。今の彼女は様々な要因が重なり命拾いこそしているが、魔力が殆ど枯渇しているためこれ以上の戦闘は厳しいのだ。亜弥は両脚に力を溜めて跳躍し、恭佳が指揮する船まで一気に跳んで行った。

その後ろ姿を見ながら金狼も後を追跡しようとして無理に立ち上がろうとするが、左脚に走る激痛のせいでバランスを崩してうつ伏せに倒れ込んで無様な姿を晒し、自身の血で紅く染めあがった左手を伸ばしながら呟き続けた。



「白狼……っ! 白狼っ! 戻って来い……勝負は……まだ着いていないぞ……っ!」


「金狼! そのままじっとしておれ! いま助けるぞっ! おいっ! 船を近づけろ!」


「は、はっ!」


「白狼……白狼……っ! くぅぅぅっ! 白狼ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」



黄蓋が救出のため舟を近づけている間も、金狼は亜弥が向かったその先だけ、ただ一点を見つめながら左手を伸ばし、うわ言のように呟き、そして最後には亜弥のコードネームを大声で叫んだ。憎むべき相手である亜弥を倒す事が出来ず逃げられたどころか、逆に痛手を負わされてしまう。金狼にとってこれは屈辱以外の何物でもなかった。

零治「オレの時もそうだったが、お前オリキャラ同士の決着のつけ方が毎回こうだな」


作者「いいだろ。まだまだ引っ張るつもりなんだからな」


亜弥「それは分かりますけど、原作ストーリーもほぼ終盤ですよ?」


恭佳「だねぇ。どこまで引っ張るつもりなのさ?」


作者「ちゃんと相応しい舞台は考えてあるから心配無用! ……ではここでちょっとした没案を聞かせましょうかね」


奈々瑠「唐突ですね。というか、没案なんてあったんですか?」


臥々瑠「うん。そんな話聞いた事ないよ?」


作者「まあ、大した内容じゃないがね。没案ってのは金狼と銀狼の事さ」


樺憐「あのお二人がどうかしたのですかぁ?」


作者「当初、というかリメイク前の予定では、銀狼は定軍山で殺す予定だったんだ」


零治「ん? そうだったのか?」


作者「ああ。で、金狼はこの話で死んでもらう予定でした」


亜弥「なぜそんな素晴らしい案を没にするんですか。私としては変質者から解放されてありがたい話だと思うんですがね」


作者「いや、それは貴方の個人的な理由じゃんか……。それに敵サイドと言えど折角のオリキャラをこんなに早く殺すのは惜しいじゃん」


奈々瑠「……早いですか?」


臥々瑠「だねぇ。もう八十話まで書いてるのに」


樺憐「ええ。ストーリーも終盤ですのに」


作者「いいや! オリキャラ同士の決着をつけるのはまだ早いんだぁ!」

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