第72話 動き出す三国 後編
すみません。久々に随分待たせてしまいましたね。
それでもこんな作品を見放さずに待っていてくださった読者の皆様方には感謝感激です。
華琳達が呉へ進軍を開始し、途中で野営を行い一夜を明かした翌日の朝方。
魏が進軍を開始したとの報は呉へも伝わり、華琳達の進軍先である城には孫尚香率いる呉の首脳陣が一部詰めており、魏の軍勢を迎え撃つべく戦の準備が城内では着々と進められている。
城内では各部隊の武器装備の点検、指揮系統の再確認などなどとやる事は山積みで兵士達が慌ただしく動き回っている。
そして全ての準備が整い、一人の兵士からその報告を受け、城内に詰めている呉の軍勢の全権を任されている孫尚香に周泰が姿勢を正して力強く声を発してその事を報告した。
「小蓮様! 兵の準備、完了しました!」
「よーっし! なら、このシャオ様が曹操なんかやっつけちゃうんだからー!」
「小蓮様……」
「あのー、小蓮様。冥琳様の作戦は……」
もうすぐ戦が始まるというのに、普段と何一つ変わらない孫尚香の様子に補佐役として就いている甘寧と陸遜が不安げな様子で声をかけた。
それもそのはず、孫尚香はこれまで兵を率いた戦の経験が一切無く、これが彼女の初陣なのだ。もちろんその事も考慮し、周瑜が事前に作戦を孫尚香に伝え、どのようにして魏の軍勢を迎え撃つかについては問題は無いはず。
だが問題は孫尚香本人にある。戦の経験が全く無いのもそうだが、彼女は孫策や孫権と比較すると、肉体的にも精神的にもまだ幼い子供である。戦場では何が起こるか分からないのが常。指揮官とはいかなる事態にもうろたえる事なく冷静に状況を分析し、臨機応変に対処できる能力が必要とされる。
孫尚香にその能力があるのかと問われれば、彼女もいずれは孫家の後を継ぐ事を自覚はしているから無いとは言い切れないだろうが、かと言ってあるとも断言はできない。
先程も述べたように、孫尚香はまだ幼い子供である。些細な事でムキになり、怒りっぽく負けず嫌いな面があるため、甘寧と陸遜は不安なのだ。
ましてや今回の戦の相手は華琳率いる魏の大軍勢。規模の小さな野盗や盗賊のチンピラ集団を相手にするのとはわけが違うのだ。
「もう。ちゃーんと分かってるってば! やっつけるって言わないとこう、勢いが出ないでしょ! 分かるわよね、思春も」
「……は、はぁ」
「んもぅ……明命は!」
「分かります! 一撃必殺ですねっ!」
「そう! 一撃必殺! 当たって砕けろよ!」
「……当たって砕けちゃダメなんですよぅ」
「だから言葉のあやだってば。とにかく、祭が頼りにならないんだから、シャオ達が頑張るのよ! ここで曹操達に江東の兵の恐ろしさ、たっぷり教えちゃいましょ! 明命!」
「はいっ! 全軍、出撃っ!」
最後の最後で余計な事を言ってしまったため、甘寧と陸遜はますます不安を感じてしまう。
だがここまで来た以上はやるしかない。華琳の軍勢との接敵ももう間もなくである。周泰の号令と共に、後方に控えている呉の兵士達は剣を、槍を、弓を天に掲げながら己を鼓舞するように雄叫びを上げる。
魏と呉の戦、第一戦目開始の時は刻一刻と近づいていた。
………
……
…
「……黄蓋と周瑜が?」
「はい。どうも、降伏するか否かで揉めた後、黄蓋は軍議を退場。それから周瑜に公衆の面前で懲罰を受けたとか……」
「そう……。その割には、向こうの連中はやる気充分なようね。督戦を受けているようにも見えないけれど……」
と、放っていた斥候が持ち帰った情報を秋蘭から聞かされ、華琳は怪訝な表情になる。
そしてその内容は、数日前に呉の首脳陣達による軍議中に周瑜と黄蓋が言い争いをしたアレの事である。
自軍内で育て上げた斥候を華琳も信用はしているが、この情報は半信半疑といった所である。呉の内情、仕える将達の関係については華琳も良く理解しており、周瑜と黄蓋が厚い信頼関係を持っているのも知っている。だからこそこの情報は確かなのかと判断しかねているのだ。
「恐らく、その報が届いてはいないのでしょう。初戦から最前線で兵に恐怖を与えても、無駄な死兵になるだけでしょうし」
「なるほど……呉の司令官は周瑜ね」
「はい」
春蘭の言葉に、華琳は我が事得たりと頷いた。呉のあの軍議に関しては首脳陣達しか知らないし、黄蓋の懲罰などに関しても首脳陣、及び周瑜の側近に当たる兵達しか知らない。
圧倒的軍事力を誇る魏との戦を目前に控えている中で、一般の兵達にまで教えても余計な動揺を誘い、開戦すれば無駄な死者が出るだけの結果にしかならない。
ただでさえ勝機の薄い戦なのだ。向こうだってわざわざ自分から低い勝率を更に低くする真似など普通はしないだろう。西涼進軍以来の久しき強者との戦を前にし、華琳は楽しげな笑みを浮かべながら攻略すべき城の城壁を見上げた。
「相当な切れ者ね。流石だわ。……孫策といい周瑜といい、早く戦ってみたいわね」
「華琳様ー。敵の将が出てきたようですが、どうなさいますかー?」
「旗は?」
「桃地に孫。恐らく、孫家の末娘ちゃんでしょうねー」
「孫策ではない、か。突出してきたという事は、舌戦を交わしたいという事でしょうけど……」
相手が孫策ではない事にいささか不満ではあるが、相手が孫家の人間である事に変わりはない。
それに華琳は孫家の末娘、つまり孫尚香の事は全く知らないため、舌戦を受けて立つのと同時に孫尚香がどのような人物なのかをこの眼で確かめるべく、乾いた風が吹き付ける荒野の中を練り歩いていった。
………
……
…
「…………」
「…………」
で、いざその場に辿り着いてみれば、互いに舌戦を交わすつもりで前に出てきたというのに、華琳も孫尚香も一言も喋らず、ただ無言で睨み合っているだけである。
まるで互いの何かを見比べあうように双方とも睨み合い、華琳は右手を顎に添えながら孫尚香の足のつま先から頭のてっぺんまで舐め回すように観察し、しばらくして不敵な笑みを浮かべ、孫尚香に見下すような視線を向けた。
「…………ふっ」
「な、何よ! 今、シャオのこと鼻で笑ったわね!」
「まずは名を名乗ってもらえるかしら? 私の名は知っているだろうけれど、私は貴方の名を知らないの。真名で呼んで良いのなら、そのまま呼ぶけれど」
「だ……っ! 誰があんたなんかに真名を呼ばせるもんですか! 我が名は孫尚香! 江東の虎、孫策の妹が一人!」
「そう……孫策の妹」
「そうよっ! この江東に攻め入ってきた事、後悔させてあげるんだから!」
「まあ、貴方達が、我ら曹魏の兵に抗った事を後悔する方が早いでしょうけれど……」
「むきーっ! 何よ、偉そうに! 背だっておっぱいだって、シャオよりぺったんこのくせにっ!」
「な……っ! あ……貴方も似たようなものでしょう!」
「へっへーん! シャオはこれからばいんばいんになるんだから、今はこの可愛らしい身体を満喫してあげてるのよっ。可愛い服もたくさん着られるし!」
「そ……っ、そんな保証は……!」
双方共に一歩も退かない様子で舌戦を繰り広げている。それは問題無いのだが、話の趣旨が変わっている上に、その内容はあまりにも幼稚である。これでは子供同士の口喧嘩と大差ない。
普段の華琳ならこんな幼稚な言い争いに付き合うはずがないし、耳も貸さないだろう。ではなぜ華琳はここまで過剰に反応しているのか。その理由は至極単純。日頃から表にこそ出してはいないが、華琳は何気に自分の胸の大きさを気にしているのである。
知っての通り、今の魏には大小さまざまな胸を持った女性が何人も居るのだ。華琳の胸は奈々瑠や臥々瑠みたいにペタンコではないが、かと言って亜弥や樺憐みたいに巨乳とも言えない。
言ってしまえば華琳の胸は大きいわけでもなければ小さいわけでもない。どっちつかずの中途半端な大きさをしているので、その事を指摘され華琳はワナワナと怒りで身体を震わせ、その様子を眼にした孫尚香は勝ち誇ったように胸を張った。
「雪蓮姉様も蓮華姉様も母様も、あんなに凄いんだもん。シャオのおっぱいが大きくなるのは、孫家の血筋的にも保証済みなのよっ!」
「…………たまに例外って居るわよね」
「むっかあああああ! なんですってぇ!」
「知らないの? 足の速い馬から、常に足の速い馬が生まれるわけではないって……」
「なら、あんただって同じ事よね! そのまんまおっぱいも小さいまんまかもよ!」
「……それがどうしたの?」
「…………!」
今度は孫尚香の挑発的な言葉を華琳は涼しげに受け流し、冷え切った射るような視線を向ける。その眼は先程までの胸の大きさを気にしていた華琳という一人の女の子の物ではなく、曹孟徳という王、この乱世にて覇道を歩む覇王の眼をしていた。
先程の様子とは打って変わった華琳の姿を前に、孫尚香は身の毛もよだつ様な寒気を感じ、冷や汗を顔に浮かべながら数歩後ろに後ずさってしまった。
「胸の大きさなど、支配者の度量とは関係ないものだわ。むしろ、大きい方が邪魔になるくらいでしょうよ」
「ふんっ。大きくならないからって、苦し紛れにそんな事……! それに、支配者の幸せと女の幸せくらい両立できるに決まってるでしょ?」
「覇者としての幸せの前では、女の幸せなど小さなものよ。それに、そんなものに……興味は無いわ」
「あらあら。そんな人生の十割を損してる相手に、このシャオ様が負ける訳にはいかないわね」
「そう。なら、こんな言い合いは時間の無駄ね。戦う気があるのなら戦ってあげても良いわよ。さっさと決着をつけましょう?」
「ええ。江東の兵の恐ろしさ……たっぷり教えてあげるんだから!」
………
……
…
「お帰りなさいませ、華琳様」
「零治は居るっ!」
舌戦を終え、陣に戻ってきた華琳を春蘭が出迎えたが、その華琳は春蘭には目もくれず、鬼のような形相をしながら金切声をあげて零治をその場に呼びつけたのだ。
華琳の様子に零治は何があったのだと疑問を感じたが、それはひとまず置いておき、あまり待たせては華琳の怒りの炎に油を注いでしまう上、どんな小言を言われるか分かったものじゃない。
零治はキビキビとした様子で足を進め、華琳の前に立った。
「何だよ急に?」
「…………」
「…………」
「…………」
「……華琳?」
呼びつけたにもかかわらず、華琳は何も言わずに小刻みに身体を震わせ、零治の事を無言で睨み付けていた。いつまで経っても華琳は何も言うとしないので零治は怪訝な表情で首を傾げた。
が、次の瞬間、華琳は零治に対してとんでもない事をした。右手に持っていた絶をいきなり振りかぶり、そのまま勢いよく振り抜いて柄の部分を利用し、彼の左腕を思いっきり殴りつけたのだ。
殴られた左腕からは金属同士がガツンとぶつかる重く鈍い音が鳴り響き、その衝撃は装甲越しの零治の左腕にもしっかりと伝わった。
いくら装甲に覆われているとはいえ、零治の左腕はまだ時々痛むのだ。おまけに殴りつけてきた相手は華琳である。彼女も春蘭や秋蘭を相手に日頃から鍛錬を積んでいるため力は充分に備えているし、金属で出来た得物で殴られたのだ。当然左腕の繋ぎ目には激痛が走り、零治は悲痛な叫び声を上げながら右手で左腕を押え、地面に片膝をついた。
「だあおおおおおおおっ! ……か、華琳。いきなり何しやがる……っ!」
「…………ふんっ!」
「ど、どうなさいましたか? 華琳様」
華琳の突然の意味不明な行動に、春蘭は怪訝な表情で首を傾げた。
その華琳はというと、痛みに耐えながら身体を小刻みに震わせている零治に一瞥くれてやった後、忌々しげに鼻を鳴らして春蘭に向き直り、不意ににゅっと春蘭の胸元に両手を伸ばしたのだ。
「ひゃふっ!? か、華琳様っ? い、いや、こんな所では……ちょっと、胸は……っ」
「……春蘭」
「……あ、はぁ……。な、なん……ですか……?」
絶妙な指使いで豊満な胸を揉みしだかれ、春蘭の顔はほんのりと赤らんでいる。
なぜ華琳がこのような事をしたのかはもはや言うまでもないだろう。先程の舌戦で孫尚香にああは言ったものの、やはり華琳は気にしているのだ。まあ、女である以上は気にする気持ちは理解できなくはない。
華琳も王である前に一人の女の子なのだから。ただ、八つ当たりは褒められた行動ではないが。
「……やっぱり零治も、胸が大きい方が……」
「あ? オレがどうしたって?」
「……何でもないわ。総員、攻撃準備! 江東の連中は戦って散る気充分なようだから、遠慮なく叩き潰してやりなさい!」
戦の前にいきなり理解しがたい奇妙な行動を取ったので、零治や春蘭だけでなく他の首脳陣達からも、まるで奇妙な物を見るような視線を向けられていたので、華琳はその場を誤魔化すように後方に控えている兵達に向き直り、開戦の合図である力強い大号令を発した。
華琳の先程の行動は気になるが、今はそれよりも優先してやるべき事が目の前にある。零治達は武器を掲げ、雄叫びを上げながら砂煙を巻き上げて突撃をする兵達に続き、一斉に行動を開始した。
それと同時に眼前の城門が開け放たれ、中からは呉の象徴ともいえる赤色が基調となった軽甲や鎧に身を包んだ呉軍兵士達が一斉に飛び出し、曹魏の軍勢を迎え撃って出た。
本来ならばこの場合、籠城戦を決め込むのがセオリーなのだが、呉軍はあえてそれはせず、城外に飛び出して打って出たのだ。魏の首脳陣達は呉の戦法に一瞬面食らったがこちらとしてはその方が好都合ではあった。
「零治。なんで呉の連中、籠城戦に持ち込まなかったんだろうね?」
「さあな。何かの作戦か、向こうの指揮官がアホかのどっちかだろ?」
と、零治は恭佳が抱く疑問に対し、相手である呉の出方について呆れ果てた口調で答えた。
確かにこの場合、呉は籠城を決め込んだ方が、兵同士を直接ぶつけあう乱戦よりは少なくとも勝率は上がる。籠城の最大の利点は少ない兵力でも大軍勢を相手に充分な抵抗戦が出来る点である。もしも呉軍が籠城を行えば攻略側、つまりこの場合、魏は相手側の兵力よりも三倍の兵力を投入しなければ城を陥とす事は出来ないのだ。もちろん華琳も今回攻略すべき城の情報は事前に入手し、呉が籠城を選択した場合の事も考慮して充分な兵は引き連れてある。
だがそれでも籠城が安全策なのは考えるまでもない。ここは呉の領土なのだ。つまり呉軍は援軍を投入する事が可能。対する魏は遠征軍なので武器装備、糧食や兵力などには限りがある。もちろんこちらも援軍を要請すれば問題は無いが、それでは余計な時間がかかるし、何より呉と蜀が同盟を結び、蜀までもが援軍に到来したら魏も苦戦を余儀なくされてしまう。そうなれば流石の華琳達も撤退も視野に入れる必要性が出てくるのだ。にもかかわらず、呉はあえて籠城はせず直接対決を選択したので、恭佳はその事について疑問を感じているのだ。
「ん~。これはやっぱ呉軍の指揮官がアホなのかね?」
「まあ、向こうには周瑜が居るからな。何らかの作戦の可能性も否定はできないな」
「ふ~ん。まっ、この際どっちでもいいさ。アタシらは目の前の敵をブッ倒すのが仕事なんだからね」
「フッ。確かにな。……いっつぅ……っ!」
恭佳と共に敵味方入り乱れる荒野の戦場を駆け抜ける最中、左腕の繋ぎ目にズキンと鋭い痛みが一瞬走ったので、零治は忌々しげに右手でBDと腕の繋ぎ目を押え付けた。
そしてそれと同時に、本陣で待機している華琳に対して若干の怒りを覚えた。この痛みの原因は間違いなく出撃前に華琳に喰らわされた一撃にあるのだ。
「どうしたの? また腕が痛むの?」
「ああ。出撃前にどういう訳か、華琳の奴にいきなり絶の柄の部分で左腕をぶん殴られたんだよ……」
「ま~たなんか余計な事でも言ったんじゃないの?」
「オレは何も言ってないぞ。ったく。この恨みはいつか必ず晴らしてやる……」
「おいおい。そんな事したら倍返しされるのがオチだよ?」
「いや、アイツの場合は倍どころか十倍……百倍返ししてくるかもな」
「それが分かってんならやめときなって。後、今は目の前の仕事に集中しなよ」
「言われなくても分かってら」
戦場のあちこちから敵味方の兵士の悲鳴と雄叫び、鳴り止む事の無い金属音に、双方の兵達が駆ける事で辺りに響き渡る轟音のような無数の足音。それらの騒音が鳴り響く戦場を零治と恭佳は城を目指して駆けながら障害となる呉の兵士達を次々と斬り伏せていき、二人が通った後には無数の遺体がそこら中に転がる。
無論、この二人だけでなく、亜弥も零治達とは別行動をして戦闘を行っているのだ。因みに樺憐、奈々瑠、臥々瑠の三人は立場上、華琳の親衛隊の所属であるため本陣に待機している。
だがそれでも、魏に降り立った天の御遣いが三人も前線に投入されているのだ。ただでさえ呉は勝率の低い戦を強いられているのに、この状況では敗北は誰が見ても明らかである。
しかし、呉の兵士達はそれに臆する事無く奮起し、例え敵わぬ相手であろうとも背を向けて逃げ出そうとはせず、己が役目を果たそうと次々と零治と恭佳に挑んでくるのだ。
「居たぞっ! 音無だ! 何としても奴を食い止めろ!」
「ほぉ~。呉にはなかなか骨のある連中が居るようだが……貴様ら如きでオレを止められると思ってるのか……?」
「ここで奴を討ち取れば恩賞は思いのままだぞ! 呉の勇敢なる将兵達よ! 死を恐れるな! 総員かかれーーーっ!!」
「「「うおおおおおおおっ!!」」」
零治を前にして尻込みしていた呉の兵士達だったが、部隊長が褒美をチラつかせた事で一気に気合いを充実させ、雄叫びを上げながら一斉に零治に向かって突撃を開始した。その光景は嵐で荒れ狂う海が巻き起こす大波のようにも見えた。
この場に集う兵士達は皆、祖国を護りたいという強い想いから戦場に立っている。が、人間である以上は欲望だって人並みに兼ね備えている。ここで手柄を立て、思いのままの恩賞を手にしたいという野心から兵士達の中からは零治に対する恐怖心は完全に消え失せていた。無論、部隊長も例外ではない。
そして相手はたったの二人。数の暴力に物を言わせれば、零治といえど敵ではない。彼らはそう考えていた。だが、それこそが彼らの誤算であり、愚策でもあった。彼らは恩賞に眼が眩むあまり零治に対する恐怖心だけでなく、重要な情報も頭から抜け落ちていたのだ。
零治に数の暴力など無意味だという事を。そして、零治はもう誰にも殺す事の出来ない存在だという事を、彼らは知らなかったのだ。
「フッ。愚かな連中だな。死ね……」
「がっ!? くが……っ! がっ……がはっ!」
零治は自分に向かっていち早く突撃してきた先頭に立つ一人の兵士の喉元に狙いを定め、左腕のガントレットの鉤爪のように鋭く尖った指先の装甲板を利用し、素早く振り抜いて喉を斬り裂いたのだ。
喉を深々と斬り裂かれた兵士の首からは、切れ込みの入ったホースから水が噴き出すように勢い良く鮮血が噴き出し、兵士は右手に持っていた剣を地面に落とし、両手で喉を押えながら呻き声を漏らしてヨロヨロとふらつきながら地面にうつ伏せに倒れ、その場に血の池を作りながら痙攣を起こして息絶えた。
いきなり出鼻をくじかれ、兵士達は突撃の足を止めて唖然としてしまい、零治と息絶えた兵士を交互に見やった。
「こういう言葉を知ってるか? 欲は身を滅ぼすってな……」
「くっ……! ひ、怯むなぁ! 敵はたったの二人だ! 恐れずに突き進めーーっ!」
「貴様らには叢雲を使う必要も無い。来いよ。このガントレットみたいにその身体を貴様らの血で紅く染め上げてやる……」
零治は右手で前髪を掻き上げながら顎を引き、その表情に影を落としながら口に端を吊り上げて立ちはだかる呉の兵士達を睨み付ける。いや、今の零治にとっては兵士と呼称するよりも雑兵と言った方が正しいのかもしれない。
兵士達の間には先程までの勢いは無くなり、零治が一歩前へと足を踏み出すたびに兵士達は一歩後方へと下がり、次第に逃げ腰になり始めた。
その姿を前にし、呉の兵士達だけでなく、零治と行動を共にしている恭佳も恐怖していた。今の零治の姿はある人物と重なる部分があるのだ。
「零治、今のアンタ……怖いんだけど。それにまさかとは思うけど……」
「心配すんなよ、姉さん。呉との戦はまだ始まったばかりなんだ。ここで目立つような事はしないさ。それに仮にやっても、こいつら全員を殺せば何の問題も無い……」
「いや、それはそうだけど……少しは加減しときなよ。今のアンタ、黒狼みたいな顔してるよ……」
「……出来る限り努力はするさ」
恭佳にこう言われては零治も自制心を今まで以上に働かさざるを得ない。昔の自分なら恭佳の言葉に喜んでいた事だろう。かつての零治にとって黒狼は憧れの存在だった。彼のようになりたい、黒狼のように強くなりたいと常に思っていた。だがそれは昔の話であり今は違う。元いた世界でのあの時、黒狼とは決別したのだ。今の零治にとって、黒狼は倒すべき敵以外の何者でもないのだ。それはこの世界でも変わる事は無い。
零治は気持ちを切り替えるように頭を左右に振り、忌々しい昔の自分の姿を追い払い、改めて呉軍の兵士達に向き直った。
「さて……次は誰だ? 腕に自信のある奴、命が惜しくない奴は遠慮せずにかかって来いよ……」
「舐めるなぁ! 調子に乗るなよ、音無っ!」
零治の挑発的な言葉を耳にし、一人の兵士が怒りに身を任せながら槍を水平に持って突撃を仕掛けた。
傍から見れば果敢に挑んでいるように見えるが、冷静さを欠いたただの突撃など愚の骨頂。そんな攻撃が零治に通じるはずも無かった。
「バカが。……フンっ!」
「がはっ!?」
零治は素早く右手をコートの下に突っ込み、中から自作のバタフライナイフを一本取りだして逆手に持ち、向かってきた兵士の首筋に狙いを定め、フックを打ち込むように振り抜いて斬り裂いたのだ。
頸動脈を深々と斬り裂かれたため、兵士の首の右側からは血が溢れ出ており、兵士は何が起こったのか理解できないまま槍を落とし、傷口を右手で押さえてフラフラとよろめいている。頸動脈を斬り裂かれた以上、これは致命傷なのでこのまま放っておいてもこの者は時期に死ぬだろう。だが零治はこの男の死を待つ気など毛頭無かった。
「オラァ!」
「ぐがっ!? ぐふ……ごぶ……っ!」
零治は右手に持っているナイフを左側に一度引き、兵士の首筋に右側面から深々と突き立てたのだ。
刃は兵士の首を貫通し、零治は素早くナイフを引き抜き、付着している血を振り落して瞬時に折り畳んでコートの下に仕舞い込んだ。
ナイフを引き抜かれた事で兵士の首の刺し傷口からは大量の血が溢れだし、兵士は地面に両膝を突き、ゆっくりとした動作で地面にうつ伏せに倒れてそのまま息絶えた。
「次はどいつだ……」
「ひっ……!」
零治の鮮やかな手際で二人の兵士が一瞬にして殺され、眼前に展開する呉の部隊は零治の鋭い視線に気圧され、更に後方へと退いていく。
部隊長から聞かされた思いのままの恩賞。彼らは確かにこれを手にしたい気持ちはあるが、それは零治をこの手で倒し、尚且つこの戦を生き抜いて初めて手にする事が出来る物なのだ。だが死んでしまえば元も子もない。加えて言えば、彼らは国に仕えている兵士だ。故に少なくとも食うのに困る事は無い人並みの生活は送れている。そのせいもあって、彼らは零治に対して本能的な危機を察知し、金よりも命を優先する気持ちが勝り、またもや逃げ腰になりだしたが兵達を率いている部隊長が怒鳴り散らしながら部下達を叱咤した。
「えぇい! 怯むんじゃない! 我らに逃げる事は許されんのだ! 戦え! 我らのこの孫呉の地を曹操なんぞに蹂躙させてはならんぞぉ!」
「「「おおおおおおおおっ!!」」」
部隊長の一声で部隊が息を吹き返し、兵士達は力強い雄叫びを上げた。
確かに生活がある以上は、金のために戦っているのは事実だ。だがそれ以上に、自分達は仕えている孫策のために、何より生まれ育った祖国である呉にために戦っているのだと再認識し、改めて零治と戦う意志を示した。
対する零治は、目の前で雄叫びを上げている兵士達を忌々しげに睨み付け、予定が狂ってしまった事に腹を立てるように舌打ちをしていた。
「チッ! そのまま逃げてくれりゃよかったのによ……」
「ん? 零治、こいつらに逃げてほしかったの?」
「まあな」
「どういう心境の変化? ひょっとして戦うのが嫌になったとか?」
「んな訳あるか。こいつら……ざっと見ても千人ぐらいで編成された部隊だ。全員をオレと姉さんの二人で相手をするのが面倒なだけだよ」
「要するに楽をしたいって訳ね。やれやれシ水関では派手に暴れてたって話じゃないの」
「悪いか? オレだって人並みに怠け癖は持ち合わせてるぞ」
「いや、だからっていま怠けなくてもいいじゃん。そんなに楽したけりゃアンタは後ろで黙って見てな。アタシが代わりを務めてやるよ」
「ならそうさせてもらうよ。頼むぜ、姉さん」
「ん? おい見ろよ! 音無の奴、姉の後ろに隠れてやがるぜ!」
「ははっ! 本当だ! どうした音無! さっきまでの威勢の良さはどうした? ひょっとして俺達に恐れをなしたのかぁ?」
「あぁ……?」
零治と恭佳の会話を耳にし、先程の意趣返しの意味も兼ねて一部の兵士が零治に向かって挑発的な言葉を口にしたのだ。普段の零治ならこんな安っぽい挑発に乗ったりはしないのだが、格下に言われた事が気に障ったのか、表情に影を落とし、挑発してきた兵士を睨み付ける。
その反応が図星を突かれたからと思い込んだのか、二人の兵士は更に調子に乗り始めた。
「おっ? 見ろよ。音無の奴、怒ってるぜ! やっぱり図星なんだな」
「ああ! 音無! そんなに俺達が怖いんなら本陣まで逃げ帰れよ! その間に魏を撃退し、お前の首も頂戴してやるからな!」
「どうやらシ水関の事を忘れてるか知らないバカが居るようだな。ならば今一度思い出させて……」
「おい、コラァ……」
「ッ!? ぐっ……が……っ!」
零治が動こうとしたのだが、それよりも早くに恭佳が音も無く零治を挑発した兵士の前まで突き進み、左手を素早く伸ばして首をガッシリと掴み、そのままギリギリと締め上げながら片腕で大の男を軽々と持ち上げた。とても女性とは思えない怪力である。
恭佳に首を締め上げられてる兵士は剣を取り落としてしまい宙ぶらりんの状態で足をバタつかせ、恭佳の左腕を両手の拳で殴りつけて振り解こうとしたが恭佳は表情一つ変えず、鋭い視線を兵士に向けながら更に左手に力を加えた。
「死ぬ前によ~く聞きな、雑魚野郎。アタシはな、弟をバカにする奴が大嫌いなんだよ。相手が敵なら尚更ね……」
「うぐぅ……っ! がかっ!」
「例え神が弟をバカにする事を許しても……このアタシは許さねぇ! 死にな雑魚がっ!」
「がはぁ!?」
恭佳は鬼のような形相で喚き散らして左手の力を更に強め、とうとうその凶悪な握力に耐えきれなくなった兵士の首の骨は握り潰され、内部で粉砕骨折してしまい、その場に骨が砕ける鈍い嫌な音が響いた。
息絶えた兵士は四肢をダラリと下げ、首も不自然な方向に曲がり白目を剥いている。恭佳は兵士の屍に侮蔑の視線を向けた後、零治を挑発していたもう一人の兵士をギロリと睨み付け、くびり殺した兵士の死体をその者に思いっきり投げつけたのだ。
「うらぁ!」
「うわっ!?」
同胞の屍をぶつけられ、尻餅をつくように兵士は地面の上に転び、身体に覆い被さっていた仲間の死体と眼が合うなり恐怖に慄き、死体を素早く押し退けてズリズリと腰を抜かしたまま後ずさり、零治達とある程度距離が離れた所でようやく立ち上がり、仲間の背に隠れるように体勢を立て直した。
先程までは、まだ逃げる事で生きてこの戦場を脱する可能性もわずかながらあったが、それももう不可能である。己が力量も弁えず、いたずらに零治の事を挑発し、更に恭佳の事も怒らせてしまったのだ。彼らの結末は死あるのみである。
「さ~て、雑魚ども。覚悟はできてんだろうねぇ? このアタシを怒らせただけじゃなく零治の事をバカにしやがったんだ。楽には死なせないよ……」
「姉さん、気が変わった。オレも一緒にやるよ。こいつら全員、この場で殺してやる……」
『おい、相棒』
『あ? 何だよ?』
『そんなに楽をしたいんなら、俺様が良いアイディアを提供してやるぜ』
『ほぉ~。言ってみろよ』
『な~に、そう難しい事じゃない。まずはお前がなぁ……』
いざ動こうとしたのに、BDが念話を通して零治に何かを語りかけてきた。もちろん内容は目の前の敵をどう殺すかについてである。
そして、目の前の部隊を一瞬にして殲滅するというその方法は、この世界の人間からは考えらえれない、というより、この世界の技術力では到底実現できない、つまり零治達の世界での殺害方法なのである。
「なるほど。それは面白い。採用だ」
『おっ、流石は相棒。やっぱ分かってくれると思ってたぜ』
「ん? 零治、どうしたの?」
「姉さん、やる気を出してくれた所を悪いが後ろに下がってくれ。BDが面白い作戦を思いついたからな」
「おいおい。ならアタシのこの怒りはどうすればいいのさ?」
「他の敵を捜してそいつにぶつけろよ。とにかく下がってくれ。下手をしたら姉さんまで巻き込んじまうかもしれないからな」
「はいはい。分かったわよ……」
どこか納得のいかない様子の恭佳だが、零治の真剣な表情から、今からやる事はそれだけ危険な行為という事を意味しているのだろう。
内にある怒りを目の前の敵部隊にぶつける事が出来ないのは恭佳は悔しいが、弟の邪魔をするのは本意ではない。渋々ながらも言われた通り後ろに下がり、零治の動向を見守りながら、一体どんな方法で目の前の敵部隊を叩き潰すのかという期待を胸に抱いた。
「さて、殺るぞ。BD……」
『おうよ。……拘束術式、一から一〇〇までを開放。血ノ鎧……創造』
普通の人間からは何の変化も見受けられないが、恭佳はすぐに分かった。BDが自らの力を抑え付けている拘束術を一部開放した事で零治の全身は血のように紅いオーラに覆われ、それはユラユラと炎のように揺らめいていたのだ。
そこから零治に更なる異変が起こり、彼の周辺から紅く小さな無数の金属片が出現し、それらは全て零治の周りに集まり、金属片同士は互いに繋がり、零治の身体を次第に覆い隠し、彼の全身は深紅の鎧で包まれたのである。
しかしその外見は実に悪趣味で、まるで敵の返り血を浴びたように全身は真っ赤で、頭部を守っている兜には鬼を連想させるような反り返った角が二本、額の部分に生えている。まさに零治の左腕に纏っているガントレットに合わせたデザインの鎧としか言いようが無かった。
「フッ。相変わらず悪趣味なデザインだな……」
『ケケケ。そう言ってる割には、お前も随分と楽しそうじゃねぇか』
「何アレ? 見た所鎧みたいだけど……あんな物を纏ってどうしようっていうの?」
「ひっ!? な、何だあれ!? 何も無い所からいきなり鎧が……っ!」
「ええいっ! うろたえるな! 音無が怪しげな術を使う事は知っているだろっ! それにあれはただの鎧にすぎん! 恐れるなぁ!」
「ククク。コイツをただの鎧とは思わない事だな……」
全身に鎧を身に纏った零治は、鎧の重量など感じさせない様子でその場から軽々と跳躍し、目の前に展開する呉軍の部隊のど真ん中に着地したのだ。
自分達が纏っている防具よりも遥かに紅く、まるで鬼を彷彿とさせる顔のデザインをした兜のせいで零治の表情は完全に分からないが、兜の奥から覗く二つの深紅の瞳が一人の兵士の心を射抜き、その禍々しい姿を前にして兵士は恐怖に慄き、一歩も動く事が出来なかった。その者は、零治を挑発したもう一人の兵士である。
「…………」
「ひぃっ!?」
「どうした。さっきまでの強気な態度はどこに行ったんだ……?」
「うわああああ! 来るなぁ! この化物めーっ!」
恐怖心に負けた兵士は悲鳴のような雄叫びを上げながら剣を振り上げながら零治に突撃し、あらん限りの力を振り絞ってその一太刀を零治に浴びせる。
兵士のこの行動を前に、零治は内心ほくそ笑んでいた。これこそが零治の狙いであり、目の前の呉軍の部隊を抹殺する手段なのだ。兵士の放った一撃は零治の胸部に命中するが、頑丈な装甲で覆われているので零治は全くの無傷。普通ならここで終わりなのだろうがそうはならなかった。
「ぎゃあああああ!」
「っ!? な、何だ! 何が起こった!?」
零治に斬りかかった兵士の一撃は零治の胸部に直撃し、鈍い金属音が鳴り響いたのだが、その次の瞬間に零治と兵士との間で突然爆発が起きたのだ。ほぼゼロ距離からの爆発を真正面からもろに受けてしまったため、風に吹かれた枯葉のように吹っ飛ばされた兵士は当然ながら即死し、呉軍の兵士達がひしめいている陣形内に飛び込んで地面に横たわった。
ただでさえ何が起こったのか理解できないというのに、いきなり自分達の目の前に仲間の死体が飛び込んできたため、その亡骸と眼を合わせてしまった兵士達の間には動揺が走り、恐怖に慄いてズリズリと後方へ後ずさってしまうが、部隊長が叱咤したおかげで何とか逃走者が出るという最悪の事態だけは避ける事が出来た。
「くぅ……っ! 音無の奴、爆弾を隠し持っていたのか……」
確かにいま起こった出来事の状況を見た限りでは、零治がどこかに爆弾を隠し持ち、兵士の目の前で起爆し、その爆発により先程の兵士は殺された。誰もがそう思うであろう。
だが恭佳は、恭佳だけは違った。彼女も先程の光景を後ろで見ていたが、あの時零治は何もしていない。そもそも爆弾など隠し持ってはいないし、仮に持っていたとしても取り出すようなそぶりも見せていない。ただ棒立ちをし、兵士の剣が鎧に直撃した瞬間に爆発が起きた。それだけである。
(いや。零治は爆弾を使ったんじゃない。今の爆発は零治の纏っている鎧から起きた。つまり、鎧の装甲板その物が爆発したんだ)
恭佳の出した結論はこれだ。今の爆発を引き起こした物の正体は爆弾ではなく、零治が纏っている鎧、つまり鎧の装甲板その物である。装甲その物が爆発するなどこの世界の常識では考えられないし、この世界の住人が考え付くはずもない。だが恭佳は、零治が纏っている鎧が爆発した出来事に思い当たる節があった。
(あの鎧……ERAを使ってるのか。何ともえげつない手を……)
ERA。正式名称はExplosive Reactive Armourという。つまりは爆発反応装甲の事である。
この爆発反応装甲は戦車に使われる補助装甲の一種で非常に単純な構造をしており、二枚の鋼板の間に爆薬を挟み込み、敵弾が着弾するとその衝撃を感知し、装甲を内部から爆破してその衝撃で弾を弾き飛ばす代物である。特にHEAT弾のメタルジェットを横合いから殴りつけることによりその侵徹を阻害する事で防御を行うのだが、装甲その物を爆破しているためその防御力が発揮できるのは一回こっきりという欠点もある。
また、敵の機関銃など素の装甲で耐えられる程度の弱い攻撃で爆発していたら面倒極まりないので一定以上の圧力でしか爆発しない様にもなっている。
補助装甲としては非常に優秀ではあるが、これはあくまでも戦車に使う代物であり、生身の人間が着用する鎧に使用する物ではない。そんな事をすれば身に付けている人間自身が爆発した時にただでは済まないし、おまけに零治はこれを防御目的にではなく殺傷目的で使用しているのだ。常識外れもいいとこである。
「さて……このままダラダラと時間をかける気は無い。これで終わりにしてやる」
鬼のような形状の兜から覗く深紅の瞳が一瞬だけ発光し、零治はその場から軽く跳躍して敵陣のど真ん中に着地し、呉の兵士達は慌てながら円形に広がるがそのまま陣形を整え、包囲の輪を固めた。
だがそんな事をしても無意味。全ては零治の掌の上で動いているにすぎないのだ。
「自ら敵陣のど真ん中に突っ込むとは……愚かな事を」
「…………」
「音無! そのような鎧で身を固めた所で我らが恐れると思うな!」
「そんな安っぽいセリフが遺言でいいのか……?」
「減らず口を! 音無っ! その首、貰い受ける! 総員、音無を討ち取れーっ!」
「「「おおおおおおおっ!!」」」
部隊長の掛け声に呼応し、呉の兵士達は包囲の輪を一気に狭めながら各々が持つ得物を掲げ、零治に向かって一直線に突撃を仕掛けた。無論、部隊長も例外無くだ。
しかし、これこそが零治の狙い。彼らは零治の術中にまんまとハマってしまったのだ。零治は両腕を交差させながら頭上に掲げ、兵士との距離が充分に縮まった所でその両腕を一気に振り抜いた。
「エクスプロージオンっ!」
零治の全身を覆っている深紅の鎧がバネ仕掛けのように四方八方に弾き飛び、眩い光を放ちながら一気に大爆発を起こした。零治の立ち位置を中心点に爆風は円形に広がり、周囲に群がっていた呉軍の兵士達は瞬く間に吹き飛ばされ、辺りに轟音を轟かせながらその場に巨大なキノコ状の黒煙が吹き上がった。
………
……
…
それは零治が大爆発を引き起こす数分前。場所は変わってこちらは魏軍の本陣内である。
本陣内には華琳を始めとし、魏の頭脳である三軍師、親衛隊である季衣、流琉、奈々瑠、臥々瑠、樺憐。それに後詰として秋蘭が控えている。
本陣内では前線の状況を報せるための伝令兵が行ったり来たりし、その情報を副官が首脳陣達に報告したりと、こちらはこちらで別の意味で戦場になっていた。そしてつい先程、戦場に大きな進展があったらしく、その報告を受けた桂花がその事を華琳に報告した。
「華琳様。呉が撤退を開始したとの事ですが……いかがいたしますか?」
「無論、叩き潰すまで。秋蘭、樺憐。最後の駄目押しにかかりなさい」
「御意」
「承知しましたぁ」
秋蘭と樺憐が兵達を引き連れ、最後の駄目押しの一手を打つべく出撃しようとしたその時だった。
前線で大きな爆発が起こり、その爆音と衝撃波は本陣内まで届き、周囲の空気をビリビリと震わせ、凄まじい爆風が吹き付けてきたので本陣に詰めている華琳達や兵士達は顔の前に手をかざし、砂が眼に入らないように眼を細めながら前方に視線をやった。
その視線の先には先程の爆発の衝撃を物語るかのように、巨大なキノコ状の黒煙がモウモウと立ち上っていたのだ。突然の常識外れの出来事を前にし、兵士達には動揺が走るが、秋蘭が兵達を一喝して大きな混乱になる事はなかった。
「落ち着け! 状況を確認せよ!」
「秋蘭。状況の確認など必要ないわ。目の前で大規模な爆発が起きた。分かり切ってる事じゃない」
「はっ。……もしや、呉の連中の仕業でしょうか」
「いいえ。その可能性は無いですわね」
「樺憐、貴方は分かるの? あの爆発を引き起こしたのが誰なのか」
「はい。まず始めに、あのキノコ状の黒煙ですが、あれほどの物を作り上げる爆発をこの世界で起こすとなると、相当の量の爆薬が必要とされますわ」
「でしょうね」
「ですがここは何も無い荒野のど真ん中。ましてや最前線にそんな大量の爆薬を仕掛けていて目立たないはずがありませんし、爆破すれば当然敵だけでなく味方も確実に巻き込んでしまいますわ。戦に勝ちたいのならそんな危険は冒さないはず」
「ええ。私もそう考えているわ」
「地面に埋めるという手もありますが、それだと今度は着火の問題が生じてしまいます。それに本当にアレが呉の仕業だというのなら、こちらの本陣を潰さなければ意味が無い。ならば、あの爆発はこちら側の人間が起こしたと考えるのが妥当。そして、それを可能に出来るのは……」
「零治以外に考えられないわね」
「そういう事ですわ」
「全く。彼が戦場に立つと本当に退屈しないわね。……樺憐」
「はい」
「貴方は状況の確認のため、零治の所に向かいなさい。秋蘭は当初の予定通り、呉の連中を完膚なきまでに叩きのめすように」
「分かりましたわ」
「はっ!」
………
……
…
「フッ。他愛無い……」
周辺に無造作に転がるは、零治を取り囲んでいた呉軍の兵士達。当然ながら全員が先程の大爆発を真正面から受けてしまったため、その身の全身は黒く焼け焦げており、辺りには人の肉が焼ける不快な臭いが漂っていた。そして、零治が立っている場所の地面は大きく抉れてクレーター状になっており、彼が引き起こした爆発の衝撃がいかに凄まじかったのかを物語っていた。
「零治。アンタこれは流石にやりすぎだろ。一緒に居たのがアタシだったからよかったものの、他の連中だったら間違いなく巻き添え喰らって死んでるよ……」
「ああ。そこを理解している上でやったのさ」
「にしたって度が過ぎるよ。鎧にERAを使うとか……しかも使い方が完全に真逆だし」
「別に良いじゃねぇか。そもそもこの世界にERAの概念は無いんだからよ」
「何ですか今の爆発はっ!? ……っ! これは……っ!?」
その場に駆け付けたのは、前線での異常を察知した呉の将兵である周泰だ。
目の前の光景に周泰は言葉を失った。大きく抉れた地面。そしてその周囲には全身を黒焦げにされた味方である呉の兵士達の遺体がそこら中に転がっているのだ。それと同時に彼女は即座に理解した。目の前に立つ人物である零治こそが、この騒ぎを引き起こした張本人なのだと。
「ほぉ~。今ので大物が釣れたみたいだぜ、姉さん……」
(っ!? 全身黒ずくめの服装、それにあの赤い頭髪。間違い無い。この男が噂の黒き閃光……っ!)
「丁度いい。今の内に指揮官を一人でも多く減らしておけば、この先の戦いもこちらが有利になるはず。ついでに貴様も始末してやる……」
「待ちなよ、零治。こいつはアタシに殺らせな。アンタばかりに美味しい所は持ってかせないよ」
「フッ。好きにしな」
(来るっ! 私一人でこの二人を止められるかどうか……。いいえ! 退くわけにはいかない! 何としても小蓮様達が撤退するための時間を稼がなくてはっ!)
周泰は己が役目を果たすべく、背中に背負っている自身の身長と同じくらいの長さをした愛刀である魂切の柄に手を伸ばして抜刀し、零治達と闘う意志を示す。
細身ながらも鋭い輝きを放つその刃を眼にし、零治と恭佳は違和感を感じた。この時代の中国で作られた刀剣とは思えない外観をしていたのである。
「ん? おい、零治。アイツが持ってる剣……」
「ああ。まるでオレの叢雲みたいだな。この時代であんな刀剣が作れるものなのか?」
「まっ、この際そんな事はどうでもいいさ。いま重要なのは、コイツを倒す事。……さぁて、お嬢さん。せいぜい退屈させないでくれよ」
「……っ!」
恭佳がソウルイーターを肩に担ぎ、ゆらりと身体を揺らしながら一歩、また一歩とゆっくり歩を進め、周泰に向かって近づいていく。
周泰は内に湧き出る恐怖心を押し殺し、命を投げ出す事になってでも役目を全うしようと魂切の柄を握り締め、恭佳を迎え撃とうとした時である。事態は思わぬ方向へと動いたのだ。
「周泰様っ! 孫尚香様、甘寧様及び陸遜様の隊、撤退が完了したとの事です!」
「分かりました! ならば皆さんもすぐに撤退してください! この場は私が引き受けますっ!」
「いえ、周泰様もすぐに撤退なさってください! この場は我らが引き受けます!」
状況の報告に来た数十名の呉軍の生き残りの兵士達が恭佳と周泰の間に割って入り、各々が持つ武器を構えて立ちはだかり戦う意志を示した。
彼らは周泰をこの場から無事に逃がすために、自らの命を投げ出す覚悟でこの場に居るのだ。戦う相手が何者なのかも理解している上で。
「なっ!? 無茶です! 相手はあの黒き閃光なのですよ! 貴方達が束になってかかっても敵う相手では……っ!」
「我らもそのくらい百も承知ですっ! ですが周泰様……貴方様は呉に必要なお方! このような所で死んではならないのですっ!」
「し、しかし……っ!」
「周泰様、我らの事はお気になさらないでください。例えここで死んだとしても、呉の未来のために、そして貴方様のお役立てるのなら本望! ですから周泰様っ!」
「……すみません。貴方達の想い、決して無駄にはしません!」
兵士達を残し、この場を逃れるのは忍びないが、周泰はここに留まって戦いたい気持ちをグッと堪え、同胞達から託された想いを胸に秘め、兵士達に一礼して素早く踵を返し、その場を走り去っていく。
本来ならこの場で逃す事無く追撃するべき所なのだろうが、零治と恭佳は周泰の事は無視し、目の前の兵士達に視線を移していた。確かにこの先の戦いをより有利に進めるなら、この場で少しでも多くの指揮官を排除しておくべきなのだろうが、いま最優先にするべき事は指揮官の排除ではなく前線基地の確保である。
それに零治と恭佳から言わせれば、周泰一人を逃がした所で大した問題ではない。今この場で殺すか、のちの戦いで殺すか、その程度の違いでしかないのだから。
「おいおい。姉さん、みすみす敵を逃がしていいのか?」
「いいさ。今のアタシらの仕事は前線基地の確保だ。それに、あのおチビちゃん一人をこの場で殺した程度でこの先の戦いに極端な影響は与えれないさ。なら、指揮官の手足となる兵士の数を削いだ方がずっと現実的だろ?」
「確かに。いま殺すか後で殺すか、オレ達にとってはそれだけの違いでしかないもんな」
「そういう事さ。……さ~て、勇敢な兵士諸君。死ぬ覚悟はよろしいかい?」
「舐めるなぁ! 我ら孫呉の兵達は死など恐れぬ! 総員、突撃ーーっ!!」
「「「おおおおおおおおっ!」」」
周泰の背後から味方の兵達の雄叫び、辺りを揺るがせるような轟音にも似た足音、そこから続いて無数の剣戟の音と兵士の断末魔が彼女に耳に届いた。一人、また一人とその命を散らし、この世に未練を残すかのように断末魔と共に鮮血を吹き出しながら次々に地面の上に崩れ落ちていく。しかし、彼らは敵わぬ相手だと分かっていても戦う事をやめない。彼らは自らの命を周泰をこの場から逃がすために捧げるのだと決意を固めているのだから。
そしてそれは周泰も同じ。本当は今すぐに引き返し、同胞達と共に戦いたい。それが今の彼女の本音だが、そんな事をしては己の身を投げ出してまで時間を稼いでくれている兵士達の想いを無駄にしてしまう。周泰はそんな気持ちを抑えつけるかのように下唇を強く噛み、溢れ出そうな涙をグッと堪えながら味方が待っている合流地点まで駆け抜けていった。
そしてこれを皮切りに、呉の前線は一気に崩壊。魏と呉の初戦は魏の圧勝で終わったのだった。
………
……
…
数の暴力のおかげで前線は瞬く間に崩壊し、呉軍が撤退したので城の制圧をすべく、多数の兵、及び凪、真桜、亜弥、樺憐を率いて零治が先行部隊として城内に突入し、伏兵の存在や罠の類などが無いかをくまなくチェックし、手際よく城の制圧を進めていく。
「伏兵の存在に気を付けろ! 周辺を警戒しつつ、城内の制圧を急げ!」
「隊長~。姉さ~ん。一通り見てきたけど、罠らしき仕掛けは無かったで。ただの空城や」
「ふむ。なら空城の計の線は無さそうですね」
「多分な。後で細かい所ももうちっと見とくけど……大丈夫やと思うわ」
「ああ。そうしてくれ。……そういや、あれから華琳と話をしたんだろ? どうだった?」
「うん……華琳様、凄く優しかったで」
「……そうか」
「ウチ、華琳様のためなら頑張れそうや。だから隊長も協力してぇな」
「いや、そりゃ協力は惜しまんが……」
真桜今の様子を見る限りでは、恐らく季衣の方も大丈夫だろうし、二人が抱えている悩みの問題も無事に解決できたと判断して間違いないだろう。それは別に良いのだ。むしろそうなってくれなければ困る。
真桜の今のセリフから考察するに、別に華琳に厳しい事を言われた訳ではなさそうである。だからこそ零治は疑問に思っているのだ。華琳は真桜と季衣の二人に何を言ったのかを。
「真桜。罠は無かった?」
「はい。特にそれらしいもんは」
「そう。なら、予定通りここは前線基地として使わせてもらいましょう。輜重隊は荷を解くようにと指示を出しておきなさい」
「御意。沙和に言うて、救護と食事の準備もさせときますわ」
華琳からの指示を受け、真桜はいつもと変わらぬ様子を見せながら一礼し、沙和にいま受けた指示を伝えるべくその場を後にした。
予定通り前線基地の確保には成功したが、それは即ちこの先の呉との戦がより激しさを増す事も意味している。別に零治達はその事は気にはしていない。初めから分かっていた事である。むしろ分からないのは今回の呉の戦いぶりである。この戦で陥とした城は呉にとってあまり戦略的価値は無いかもしれないが、勝敗が決まるのがあまりにも呆気無さ過ぎたのだ。城に詰めていた兵士達も決して多くはなかったが、籠城するには充分な兵数でもあった。なのに呉は籠城はせず、敢えて城外の戦闘を選んだ。こちらの兵力が圧倒的に数で勝っているにもかかわらずだ。だからこそ零治達は疑問に思っているのだ。呉の動きについて。
なので、亜弥はその事への疑問を華琳に投げかけてみた。
「華琳。孫策がここの城を私達に取らせた意味は何だと思います?」
「意味? ふむ……零治、亜弥。二人はどう考えてる?」
「そうですねぇ……城に入れた後、火を放てるような罠を仕掛けるとか」
「後はオレ達が城に入っている間に本国に攻め込むとかぐらいか?」
「今回は蜀の動きもあるから、本国にも充分な兵は残してあるわ。だから零治の話の可能性は低いわね」
「でしょうね。罠の方も完全に空振りでしたし」
「……ふんっ。罠っつっても、この世界じゃせいぜい放火するぐらいが限度だろ? なら問題無いさ。火を点けられたんなら消せば済む話だ。その時はオレがやってやるよ」
「零治。縁起でもないこと言わないでくださいよ……」
「まっ、そっちの方も心配無いだろ? 今も樺憐が城内を調べている。内部に発火性のある物が仕掛けられていたら、アイツの鼻が探知してくれるさ」
「まあ、その話は置いておくとして。……後は考えられる可能性としては、やはりこちらの実力を推し計りたいって所じゃないでしょうか? こちらが拠点を得れば、ある程度は動きを限定する事も出来ますからね」
「でしょうね。ここから孫策と、彼女を支える周瑜がどんな手を打ってくるのか……分かる? いま私、とてもドキドキしているのよ?」
「まぁたいつもの悪い癖が……って、おい……っ!」
「…………」
一体何を思ったのか、華琳は零治の右手をそっと手に取り、そのまま引き寄せて自分の胸元へ押し当ててきたのだ。零治の右手は左手と違い、全体を覆うような防具の類などは一切着用していない。なので零治の右手には華琳の体温が直に伝わり、彼女の心臓の鼓動も伝わってきた。
華琳の突然の大胆行動に零治と亜弥は眼を丸くして言葉を失って硬直し、零治も自分の体温が上昇するのが分かり、動悸も激しくなっているのが分かった。
「……どう? ドキドキ、してるでしょう……?」
「……あ、あぁ……」
確かに零治の右手から伝わってくる華琳の心臓の鼓動は脈動の間隔が短いので、彼女が今ドキドキしている事は理解できる。が、零治としてはこの状況から一刻も早く解放されたいのが正直な本音である。
いつまでもこの状況が続いていたら、自分の動悸が激しくなってる事が華琳に伝わってしまうかもしれないし、亜弥からも何を言われるか分かったものじゃない。
「やっぱり零治も……」
「……あ? 何だって?」
「……小さいより大きい方が……?」
「……いやぁ、別に女の価値は胸の大きさで決まるものではないかと」
「…………馬鹿」
「えっ、あ、いや、おい、華琳……?」
「……ふんっ!」
もっと気の利いた台詞を期待していたのか、零治の口から出てきた微妙な台詞に、華琳は不機嫌そうに手を振り払い、忌々しげに鼻を鳴らしてさっさとどこかへと行ってしまった。
筋金入りの鈍感である零治は華琳の行動が理解できず、彼女の背を呆然と見送る事しか出来なかった。
「何だったんだよ……?」
「いやぁ、華琳も随分と大胆な事をしますねぇ」
「亜弥。何で止めてくれなかったんだよ……」
「いやいや。華琳も王である前に一人の女性なのですから、邪魔をしては悪いじゃないですか」
「そういう問題か。だいたい、もし樺憐にでも見られていたりしたら……」
「わたくしがどうかしたのですか?」
「だあぁ!? か、樺憐っ!? なんでここに……っ!」
「何でと言われましても、城内の捜索が終了しましたのでその報告に参ったのですがぁ」
「あ、あぁ、そ、そうか。……で、城内の方に異常は……」
「特に問題はありませんわ。罠の類も、内部に可燃性物質が仕掛けられてる痕跡もありませんでしたわ」
「そ、そうか。……所でぇ、樺憐? まさかとは思うがさっきの……」
「はい。一部始終、見させてもらいましたわよ?」
「…………」
零治の不安は現実のものとなり、案の定華琳との一部始終を樺憐に目撃されてしまう。今は下手に言い訳をしない方が賢明だろう。
樺憐は零治に対して絶対的な忠誠を誓っているので流石に殴るような事はしないだろうが、奈々瑠と臥々瑠の事を考えれば安心はできない。樺憐は零治が二人と結婚する事を期待しているし、母親として娘達の幸せを切に願っているのだ。そんな人物が今の華琳との光景を眼にして良い気分がするのかと言われれば、するわけがないだろう。
零治は非常に居心地の悪い空気に耐えるように身を縮め、樺憐が次に発する言葉を待っていたのだが、いつまで経っても何も言ってこないので、零治は勇気を振り絞って恐る恐る口を開いた。
「あ、あのな、樺憐。さっきのは……」
「零治さん。何も仰る必要などありませんわ。華琳さんも一人の女性。ならば彼女の行動も理解はできますわ」
「あ、そう……」
「ですが、その鈍感さは時として罪となりますわよ? そういった男性を好む女性も確かに居ますが、もう少し積極的になった方がよろしいかと」
(無茶言うな……)
「後は娘達との事もありますし、やはりその性格は改善するようにすべきですわね。わたくしの期待、裏切らないでくださいね?」
「…………」
「では、わたくしはこれで失礼いたしますわ。愛しき飼い主様」
「ちょっ!?」
よりによって亜弥が居るこの場でその呼称を使用するとは。樺憐は驚愕している零治を尻目にさっさとその場を立ち去ってしまった。
横からチクチクと刺さるような嫌な視線を感じたので、零治はロボットのようにカクカクとした動作で首を横に動かしてみれば、その先にはジト眼でこちらを非難するような視線を向けている亜弥の姿があった。
「零治。貴方が樺憐の飼い主って……貴方は彼女をペット扱いしているんですか……」
「違う。これには訳が……訳があるんだよ……」
………
……
…
「大丈夫か。皆、怪我は無いか?」
魏の執拗な追撃の手からも何とか逃れる事ができ、安全地帯まで走り詰だったので呉の兵士達はもう限界である。ようやく足を止めて休む事が出来るので殿を務めていた甘寧が振り返り、全員の安否を確認した。
先の戦闘で多くの死傷者は出てしまったが、これも想定の範囲内である。呉の首脳陣には脱落者が一人も出ていないのがせめてもの救いであった。
「はい、大丈夫ですよー」
「もぅ~。もうちょっと戦えていれば、曹操なんかケチョンケチョンに出来たのに……!」
「小蓮様ぁ……どう考えても負けてましたよぅ」
「負けてないっ! だって、これが冥琳の作戦なんでしょ? 作戦通りに行ったのなら、シャオ達の勝ちだもん! 勝ちなの!」
「はいはい」
孫尚香は陸遜の控えめなツッコみにこう反論しているが、自分達は撤退している上に城まで取られたのだ。周瑜の考えた作戦とはいえ、誰がどう見てもこちらが敗北しているのは明らかである。今回の戦は撤退するのが作戦の内だったから良かったものの、これがもしも敗北の許されない戦ならどうなっていた事か。
孫尚香の性格と、先程の状況を見ていないかのような台詞。これらを照らし合わせて考えると最悪の事態も起こりかねないので、甘寧を始めとした幹部達にとってはあまり考えたくない事である。
「小蓮様。呂蒙隊が合流しました! 脱落者は無いそうです!」
「よかった! なら、このまま一気に建業まで戻りましょ! 次の作戦に備えないと……」
「はーい!」
「小蓮様! 前方に騎影が!」
出撃していた幹部が全員無事に揃い、いざ首都である建業に移動を始めようとしたその時だった。
前方に大量の砂塵を舞い上げながら接近してくる騎馬部隊の姿を周泰が確認し、鋭い声を上げたので全員に緊張が走った。前方から来たのなら少なくとも敵ではないはずだが、それでも今の状況を考えれば安心はできない。まず優先すべきは相手の正体の確認である。
「誰? 旗は見える?」
「少しお待ちください……あれは……蓮華様です!」
「姉様が?」
前方から来た騎馬隊を率いていたのは孫権だった。敵ではないので安心だが、それでも分からない点があり、孫尚香は不思議そうに首を傾げながら前方の騎馬隊を見つめていた。
それもそのはず、予定では孫権がこちらへ合流する手はずではなかったのだ。彼女は別働隊として姉の孫策と行動を共にしていたのだ。孫尚香は何のためにここまで来たのかとあれやこれやと考えを巡らせていたが、そうこうしている内に孫権が合流し、手綱を後ろに引き絞って馬の足を止めた。
「小蓮! みな無事か!」
「姉様! どうしてこんな所にまで?」
「ああ。予定が思ったより早く進んだのと、小蓮達がこちらの考えていた以上に時間を稼いでくれたからな。皆、建業に戻らず、そちらへ向かってくれ」
「そっか。なら総員、移動を開始するわよっ!」
………
……
…
「雪蓮。小蓮様の部隊が蓮華様と合流したらしい。すぐこちらに来るそうだ」
「そう。今の所は予定通りね」
「ええ。……どうかした?」
「冥琳……祭は本当に私達を曹操に投降させたかったのかしら?」
「……どうして私に訊くの?」
「さぁ?」
周瑜の質問にも孫策は演技がかったすっとぼけた態度を取り、適当に受け流した。
数日前の軍議での周瑜と黄蓋の諍いに、呉の首脳陣達は一体どうしたのかと今でも疑問を感じていた。そしてそれは孫策も例外ではない。だが彼女は、彼女だけは別の意味で疑問を感じているのだ。もともと切れ者でもある孫策の眼を完全に誤魔化す事などできやしないことぐらい周瑜も百も承知である。そうでなければ孫策が周りから江東の小覇王などと謳われるわけもない。
だがそれでも、今はまだ真実を話すわけにはいかないのだ。話とはどこから漏れるか分からない。周瑜の考えたこの策には呉の未来がかかっているのだから。だからこそ、今は当たり障りのない自分らしい答えを出し、その場をやり過ごす事にする。
「……今となっては知る由も無し。今は戦力にならない味方より、敵が思い通りに動いてくれる事を期待するだけだ」
「あ、そう。……ふーん」
「……何か言いたい事があるのか?」
「ううん。もう無くなったわ。……色々と分かった事があるから」
「そう。……良かったわね」
「ん。良かったわ」
「それより……本当にこの案に曹操は乗ってくる、と考えているのか?」
周瑜は傍らに控えている、今でいう所のベレー帽のような形をし、大きな緑のリボンを飾りとしてあしらった帽子を被っている小さな少女に尋ねた。今回実行している策には周瑜だけでなく、この少女も一役買っているのだ。少女は周瑜の疑問に、確信に満ちた表情で力強く頷き、短く答えた。
「はい。必ず」
………
……
…
「むぅ……」
場所は変わってこちらは呉の首都である建業に建てられた本城内にある黄蓋の自室である。
あの軍議以降、黄蓋は自室での謹慎処分を下されており、行動にもかなりの制限がかけられている。そのため黄蓋は両腕を組んで難しい顔をして唸りながら、退屈そうに自室内を何度も行ったり来たりとしきりにウロウロとしていた。
部屋の扉は閉められているが、当然ながら扉の向こうには見張りの兵士が控えている。ましてやこの時代だ。防音機能など備えている訳もない。なので黄蓋は扉の向こうに居るであろう見張りの兵士に声をかけた。
「……のお」
「はっ。何でしょうか」
「少し庭を見たいんじゃが……」
「申し訳ありません、黄蓋様。周瑜様より、黄蓋様をお部屋から出す事はまかりならんときつく言いつかっておりまして……」
「そうか。……やれやれ。飯は持ってきてくれるのだろうな」
「はい。お好みの料理があれば、言っていただければ準備できますが……お酒はご遠慮ください」
「むしろそちらが呑みたいのだがな~。厠はどうすればよいのじゃ?」
「それは、備え付けの物をお使いください」
「書は?」
「言っていただければお持ちします」
「大層な身分だな」
確かに大層な身分だ。謹慎という点を除けば至れり尽くせりの状況かもしれないが、部屋から出る事は禁じられてるし、トイレも備え付けの物を使用しなければならないときている。これでは牢にぶち込まれた囚人と同じ扱いである。
いっその事ここで大人しくしていた方が楽なのかもしれないだろうが、黄蓋はいつまでもここでジッとしている気など毛頭無い。今の彼女は何としてでも部屋から脱出しなければならないと考えており、思考を今も巡らせていた。だが部屋の窓は板で塞がれているためそちらからは出られないし、力ずくで破ればその物音で兵士に気付かれてしまう。となると脱出口は正面の扉、つまり部屋の出入り口しかないのだが、そのためには見張りの兵士を何とかする必要があった。
「おいお主」
「はっ」
「ちょっと部屋に入ってこんか? 退屈だ。碁の相手でもしてもらいたいのだが」
「申し訳ありません。お部屋に立ち入る事も禁じられておりまして。孫策様の棋譜は書庫にあったはずですから、それならお持ちできますが」
「つまらんな。……痛……っ」
「ど、どうかなさいましたか?」
「先程打たれた傷が、少々な……。すまんが、薬を持ってきてくれんか?」
「はい。おい、黄蓋様に効く薬を」
「はっ」
(複数居たか……さすが周公謹、厳しい事よのぉ……)
だがよくよく考えれば当然の措置だ。味方とはいえ、軍議の場で孫策に魏への降伏を進言した身。ましてや処分を下した相手はあの周瑜である。彼女から言わせれば、今の黄蓋は味方ではなくある意味では敵と変わらない。ならば見張りの兵士も複数充てるのも頷ける。こうなってくると脱出も容易ではない。相手が歴戦の猛者となれば尚更だ。しかし、言い方は悪いが見張りに就いている兵士は下っ端だろう。ならば攻略も難しくはないはず。黄蓋には力とは別物の武器があるのだ。女だからこそ持てる武器が。
「なあ。そこのお前」
「はっ」
「薬が届いたら、塗るのを手伝ってほしいのじゃが……」
「申し訳ありません。ですから、お部屋に入るのは……」
「このままでは痛くて眠れそうにないんじゃよ。手の届かぬ背中や、尻の傷口に塗ってくれるだけでも良いのじゃが……」
「し、尻……」
その言葉に兵士の心は揺れ動いた。黄蓋は妙齢の人物だが身体のスタイルは抜群の部類に入る。胸の大きさも、呉の首脳陣の中ではトップクラスになるし、兵士達の間でも彼女の事を女性として支持する者も少なくないし、黄蓋本人も自分の身体には自信を持っていた。
そんな人物の怪我の傷口にただ薬を塗るだけなら大した事は無いかもしれないが、その場所が背中や尻となれば話は別だ。スケベ心のある男性なら断る事の出来ない魅力的な話であるだろう。見張りの心が揺れ動いている事を即座に感じ取った黄蓋は更に言葉を続け、兵士の籠絡を継続した。
「傷口は見えんくせに、座っているだけでも響くのだ……全く、ここまでせずとも良いのにな……。頼めんか?」
「は、はぁ……」
「薬をお持ちしました」
「よ、よし……黄蓋様、よければ薬をお塗いたしましょうか……?」
「おお、塗ってくれるか。それはありがたい」
「おい。周瑜様からは部屋に入るなと……」
「尻と背中の傷口が見えんのだそうだ。それを塗るのを手伝ったらすぐ戻るから、お前は誰か来ないか見張っていてくれ」
「し、尻……! なら、次に塗るのは俺だからな!」
「分かった分かった。では、失礼いたします」
男とは実に愚かな生き物、こう言われても仕方のない光景だろう。塗り薬を片手に、見張りの一人が部屋の扉を軽く開け、一礼して中に入ってきた。ここまでは計算通りだ。黄蓋の思惑通り、兵士は軽い気持ちで周瑜からの命令を破ってはくれたが、まだ脱出が確実のモノとなった訳ではない。
まずは部屋に入ってきたこの兵士を黙らせる必要があり、そこから続けざまに扉の向こうで待機しているもう一人の兵士も騒ぎになる前に素早く無力化する必要があるのだ。しかし、焦りは禁物だ。まずは目の前の兵士を油断させる必要がある。黄蓋は落ち着いた様子で兵士から塗り薬を受け取った。
「うむ。薬、確かに」
「どうしましょう……」
「まあ待て。先に見える所を塗るから……」
黄蓋は逸る兵士を手で制止し、背を向けてチャイナドレス風の衣服を軽くはだけ、脇腹にある鞭で打たれて出来た、内出血を起こして表面が赤く滲んでいる傷口に薬を塗り始めた。
内出血だけならまだマシなのだろうが、鞭とは扱い方一つで相手の身体に切り傷をつける事も可能な代物である。この時代なら拷問にはうってつけの道具と言えるだろう。
「…………くっ」
「…………」
身体を少し動かすだけで傷口に響き、その痛みは黄蓋の全身を駆け巡った。痛みに表情を歪め、身を捩るその姿はどこか妖しげな色気があり、部屋に足を踏み入れた兵士は自分に与えらえた役目など完全に忘れてしまい、傷に薬を塗るのに悪戦苦闘している黄蓋の姿に思わず見とれてしまっていた。
「……ん? どうした。そんなにじろじろと」
「い、いいえ……っ!」
「気になるか?」
「そんな事は……!」
図星を突かれたのか、兵士は顔を赤くして力一杯に首を横に振って黄蓋の言葉を否定した。
口ではこう言っているが、こんなうろたえ方をしていては否定する意味が無い。本心がダダ漏れである。だが黄蓋としては好都合である。今の自分に興味があるという事は、心に隙が生まれている証拠なのだから。
「それはそれで傷つくのだぞ? 女として」
「は、はぁ……」
「さて。なら、まずは背中を塗ってもらおうかの」
「は……はいっ」
「お、おい、貴様、何奴……ぐはっ!」
「どうした。何かあったか?」
「っ!」
扉の向こう側で見張りをしていた兵士が何やら騒がしかったので、室内に居るもう一人の兵士が何事かと扉の方に振り返り、黄蓋に背を向ける形を取った。そして、黄蓋はこの一瞬の好機を見逃しはしなかった。完全に無防備な姿を晒しているので、彼女は兵士の首筋に向かって手刀を打ち込み、その鋭い一撃は見事に兵士の首筋を捉えた。
「ぐはっ!」
「……すまんのぉ。お主はあまり儂の好みではないのでな」
鋭い一撃を受け、床の上に卒倒して気絶してしまった兵士に何とも残酷な言葉を言い放つ黄蓋である。まあ、完全に気を失っているため聞こえはしないだろうが。
まあそれはさて置き、状況から判断するに、部屋の外の見張りも同じように気絶しているだろうと黄蓋は考えていた。つまり、何者かが城内に侵入して兵士を無力化した。現時点では敵なのか味方なのかも判断はできないが、その侵入者は今も扉の向こう側に居るのだろう。今なら窓を破って脱出する事も可能だろうが、黄蓋はそれよも扉の向こう側の侵入者に興味があり、彼女は敢えてその来訪者を自室に招き入れたのだ。
「開いているぞ」
「失礼いたします。黄蓋殿とお見受けいたしますが、よろしいですか?」
扉が開け放たれ、中に足を踏み入れてきたのは何と翠である。それともう一人、何やらおとぎ話などによく出てくる魔女が被っているようなデザインをし、大きな緑色のリボンを飾りとしてあしらった帽子を被り、薄っすらと青みがかっているツインテールの髪型をした頭髪が特徴的で、背丈は諸葛亮と同じぐらいの幼げな少女が姿を見せた。翠と一緒に居るという事は彼女も蜀の関係者なのだろう。
「如何にも、儂が黄蓋だが……貴公らは? 冥琳の手の者か?」
「い、いえ……」
「ならば何者か。名を名乗れ!」
「ひ……っ!」
「おい、しっかりしろって」
黄蓋の放つ迫力の前に、少女はビクリと肩を震わせて縮こまってしまった。おまけにどこかオドオドした様子もある。どうも人見知りな性格なのかもしれない。
同伴者である翠はまたかよと言わんばかりに天を仰ぎ、少女を叱咤した。翠の言葉のおかげもあり、少女は一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、改めて黄蓋に向き直り口を開いた。
「……私は鳳雛。貴方の意志を貫くため、お手伝いをしに参った者です」
「誰の差し金だ。冥琳か? それとも御大将か」
「それは……申し訳ありません。口にするなと」
「この儂を前にして名乗れんと言うか。……面白い。儂も所用があるのでな。貴様らに付き合ってやろう」
「はい。では参りましょう。黄蓋様!」
「じゃがその前に、まだそ奴の名を聞いておらんかったな」
「…………」
黄蓋が視線を向けたもう一人の人物。その者は実に妙な服装をしており、所々がボロボロに破れた黒色の布地をしたローブのような物を身に纏って全身を覆い隠し、頭にはフードを被り、顔も深紅のレンズが取り付けられたカラスのくちばしのような形状をした漆黒の仮面を被って隠している者が居たのだ。その姿はかつて黒狼に洗脳されていた樺憐の姿を連想させる。
その者は黄蓋の視線を全く気にする様子も無く、翠と鳳雛の後ろに控えるように直立不動の姿勢を維持しながら沈黙を保っていた。
「お主、何者じゃ。名を名乗れ」
「私が何者かなどどうでもいいかと思うのですが……まあいいでしょう。今は鴉と名乗っています……」
鴉と名乗った人物から発せられた声は男とも女とも取れる中性的な声だった。だがその声は何か違和感があり、肉声にしては機械的な印象を受ける合成音声のような声をしていたのだ。おまけに服装のせいもあり、これでは男なのか女なのかさえも判別できないだろう。
「本名……ではなさそうじゃな」
「私は世捨て人ですので。私にとって名前など無意味な物。ただ、何かしらの呼称がありませんと周りが不便ですのでね……」
「なるほど。顔を隠しているのもそのためか」
「如何にも……」
「…………」
「そんな事より、早い所ここから退散しませんか。いつまでもここに居ては他の兵士達が来るかもしれませんよ? 私、戦闘は苦手ですのでさっさとこの場を立ち去りたいのですが……」
「……そうじゃな。では行くとしようか」
黄蓋は翠、鳳雛、鴉に付き従い部屋から退散していく。その間、彼女は本人に気取られぬように鴉の背に疑惑の視線を向けていた。彼、あるいは彼女か。鴉は戦闘が苦手と言ってはいたが、黄蓋はそれが嘘だとすぐに見抜いた。先程の佇まいから相当の手練れだという事は見て取れたのだから。
鴉の正体は気になる所ではあるが、黄蓋はひとまずそれは頭の片隅に置いておく事にした。今の彼女にはそれよりもやるべき事があるのだから。
零治「何だぁ、最後に登場したあの妙な輩は」
作者「鴉の事か?」
亜弥「まさかまた新キャラですか?」
作者「それは今後のお話までお待ちを」
恭佳「あ、そう。で、次はどうすんのさ?」
作者「ん~、拠点パートを二話ぐらい投稿する予定なんだが……」
奈々瑠「何です? 何を悩んでるんですか?」
臥々瑠「また話のネタに困ってんの?」
作者「まあ、それも確かにあるが……個人的には早いとこ次のメインパートが書きたい気持ちがあってな」
樺憐「あら。それはなぜですのぉ?」
作者「次のストーリーパートだと、祭が魏の陣営に殴り込んで首脳陣達が良いようにあしらわれてただろ?」
零治「ああ」
作者「オレはなぁ……あのシーンの祭の態度がどうしても気に入らなくてな」
亜弥「ふむふむ」
作者「だからオレは考えたんだよ。あのシーンの祭の鼻っ柱をへし折ってやろうと!」
恭佳「そんなにムカついたの?」
作者「ああ! ムカついたね! 確かに祭は年長者だし戦の経験も長いだろうから言いたい事はオレも理解できる。だが……それでも魏のメンツ達を見下したようなあのセリフ! オレは今でもあれは許せんっ!」
奈々瑠「……まさかそれだけのために次のストーリーパートを早く書きたいんですか?」
作者「それだけとは何だ!? オレがいかに魏のキャラ達を愛しているのかが分からんのか!」
臥々瑠「一番好きなのは蜀のメンバーじゃなかったの?」
樺憐「それに貴方、桂花さんの事は嫌っているじゃないですかぁ」
作者「それはそれ! これはこれだ!」
零治「……久しぶりにお前の事をキモいと思ったぞ」




