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第65話 魏の武人達の戦い

ツッコみだしたらキリがないのは分かっているんですが、やはりツッコまずにはいられないですよね。

布団乾燥機だとか。萌将伝にはありましたけど、この時点で水着なんかあったのだろうか……?

とある日の朝方の事。

いつものように窓から日の光が差し込み、外からは小鳥のさえずり声が聞こえ、部屋の主である零治に朝の時間が告げられたので、零治はベッドから気怠そうにムクリと上体を起こし、右手で両眼をゴシゴシと擦りながら身体を解すように大きく伸びをした。



「んん……っ。ふわぁ~……あぁ、よく寝た。さて、起きるか」



零治はベッドから両脚を床に下ろし、脇に置いていた靴下と革靴を履き、その場から立ちあがって首を数回グルグルと回し、続いて両肩を解すように回して身体を慣らし、机に置いてある左手用のグローブをしっかりと着用し、次にポールハンガーにかけてあるロングコートを手に取り、袖を通して左腕の袖についてあるBDを拘束するためのベルトをちゃんと固定し、ベッドのそばの壁にある窓を開け放って部屋の換気を行い、窓枠に両手をつきながら身を乗り出して空を見上げた。



「おお。昨日は朝から土砂降りの雨だったのに、今日は嘘のように晴れてるじゃないか。これなら今日の昼からやるアレは問題無く行えそうだな」


「零治。私です。入っても良いですか?」



部屋の扉が二回コンコンとノックされ、向こう側から声が聞こえた。

声の主は亜弥だった。



「ああ。入れよ」


「失礼しますよ」


「邪魔するよ。零治、おはよ~」


「ああ。おはよう」



部屋の戸が開け放たれ、亜弥、それと恭佳が中へと入って来る。

左腕の件はBDのおかげで既に解決しているのでもう様子見の必要性は無いのだが、今日はそういう訳にもいかなかった。

それには零治が先程言っていた、昼から開催されるある行事が関係しているのだ。



「零治。腕の方はどうですか?」


「もう大丈夫さ。まあ、まだたまに繋ぎ目が疼くけどな」


「ふむ。……で、本当に参加する気なんですか。昼からやる武道大会」


「当たり前だろ」


「私は正直賛成できないんですがねぇ……」



そう。亜弥が懸念しているのはこの事である。

今日は昼から首脳陣達同士による武道大会が城内で開催されるのだ。

因みに会場は城の中庭である。主催者である華琳曰く、大会自体に深い意味はないが、この先に待ち受ける戦に備えた士気向上、及び個々の持つ武の鍛錬を兼ねた催し物だそうだ。

なお、名目上大会という言葉を使用しているので、参加者のやる気を向上させる意味合いも兼ねて大金とまではいかないが賞金も用意されている。そのため参加者は全員やる気満々なのだ。



「何をそう不安そうにしているんだ。ただの大会じゃないか。殺し合いをする訳じゃないだろ?」


「それはそうですけど……首脳陣はほぼ全員参加してますし、何よりこの大会が原因で貴方の左腕の事が露呈するんじゃないかと思って心配でならないんですよ」


「大丈夫さ。そんな事にはならねぇって。お前は心配性だな」


「だといいんですが……」



零治は心配無いといつもの様子で亜弥に言い聞かせるが、亜弥の胸の内の不安は一向に晴れない。

確かにこういう大会では、殺し合いをする訳ではないので使う得物は刃を潰した物だが、それでも危険である事に変わりはない。

何かの拍子でもしも零治の纏っているコートの袖が破れたり、グローブが破損したりなどすれば隠している左腕が露わになってしまう恐れがある。

そうなれば華琳達に真実を話す事になってしまうし、内容が内容なだけに、事実を知った華琳達が自分達に対してどういう態度を取って来るかも不安なのだ。場合によっては魏を出て行かねばならない事になりかねない可能性も否定できないだろう。だから亜弥は未だに不安なのだ。



「心配しすぎだ。お前が考えているような事は起こらないし、オレが起こさせやしない。それに……」


「ん?」


「オレが参加を放棄したら、春蘭や桂花から何を言われるか分からなんからな。だからオレは絶対に参加するぞ」


「やれやれ。そんなの無視すればいいじゃないですか」


「何と言われようがオレは参加するぞ。これは譲れん」


「はぁ。分かりましたよ。ですがくれぐれも注意はしてくださいよ」


「分かってる」


「あ~あ。アタシも参加したかったなぁ」



それまで無言で横で話を聞いていた恭佳は両手を頭の後ろに組みながら残念そうに呟いた。

そう。恭佳は大会への参加を零治から禁止されているのだ。と言うのも。



「無茶言うなよ。ここには姉さんとまともに闘える奴なんか一人も居ないだろ?」



理由はこれである。

恭佳の肉体は既に存在しておらず、ここにあるのは生前の姿を具現化した存在なため、今の恭佳は半ば幽霊みたいなものなのだ。つまり、物理的攻撃が通用しない存在。

まあ、本体である神器にダメージを与えれば問題は無いのだが、この世界の武器ではそれは難しい。

春蘭や凪あたりなら気合でどうにかしそうな気がしなくもないが。

因みに樺憐も参加を禁じられている。理由は言わずもがな、樺憐本人が強すぎるからに他ならない。

樺憐は零治ですら勝つのが難しい人物、つまりバランスブレイカーなのだ。

そんな存在を大会に参加させたら大会その物が破綻しかねないから零治は参加を禁止したのだ。

まあ、バランスブレイカーに関しては大会に参加している零治に亜弥、奈々瑠と臥々瑠も該当しなくもないが。



「だったらアンタらにだけ当たる様にすればいい話じゃん」


「シード権でも与えろってのか? 無茶言うな。姉さんは樺憐と一緒に観客席で大人しくしてるんだな」


「はぁ。折角のイベントなのに観戦組とはね。……だったら零治、客席で食う物用意してよ」


「おい。映画鑑賞じゃねぇんだぞ。それにんな事したら全員分用意するハメになるだろうが……」


「そこを何とかさぁ」


「嫌だ」


「ならせめて酒だけでも」


「水か茶でも飲んでろ」


「ケチぃっ!」


「はいはい。言い争いはその辺にしてください。そろそろ食事もしないと。午前中だけとはいえ、私と零治は仕事があるんですからね」



もう見慣れた光景だが、零治と恭佳は言い争いを始めると中々収拾がつかないのだ。

午前だけとはいえ仕事もある身。朝食もまだ食べてないのでこれ以上無駄な時間を割く訳にはいかない。

亜弥はパンパンと手を叩いて二人の間に割って入り、喧嘩の仲裁をした。

零治はこれに素直に従ったが、恭佳はまだ納得のいかない表情をしている。



「…………」


「そんな眼で見てもダメなもんはダメだからな」


「全く。別にアタシはいいと思うんだけどねぇ……」


「せめて大会が終わるまでは我慢してろ」


「分かったわよ……」


「さて、姉さんも納得したようだし、そろそろ行こうぜ。早いとこ朝飯を食って仕事を終わらせないとな」


「ええ」



話の方は恭佳が譲歩するという形でようやく纏まったので、三人は零治の部屋を後にし、朝食を食べるために城内の食堂へと足を運んでいく。

零治と亜弥は食事を早々に済ませて午前中の仕事に取りかかり、街の巡回に報告書の作成などの書類仕事を素早く終わらせて時間はあっという間に過ぎて行った。


………


……



大会開催の時刻となった昼時。

澄み渡った青空には雲一つ無く、太陽の光が燦々と降り注いでいた。

城の中庭には簡素な物ではあるが闘技場も用意されており、その正面には舞台が見渡せるように華琳や大会に参加していな軍師勢、恭佳、樺憐、その他一般兵達用の大きな観戦席が用意されており、中央の椅子には華琳が優雅に腰かけていた。



「いやぁ、昨夜は土砂降りの雨だったが晴れて良かったな。華琳」


「そうね。見事な試合日和だわ」


「当然でしょう? 何と言っても、華琳様が主催される御前試合だもの。あんたが心配しなくても晴れるに決まっているわ! ……ねぇ、華琳様」



華琳の隣の席をちゃっかり陣取っている桂花が零治の言葉に対して毒づき、それからすぐにコロッと表情を変えて甘えた声を出しながら華琳にじゃれ付き始める。その姿はもはや猫意外に表現のしようがない。



(ったく。いちいちオレの言う事に突っかかってきやがって……)


「風、起きなさい。試合が始まるわよ」


「ふあぁぁ……お日様ぽかぽかで眠いです~」



試合を始める合図の笛の音が鳴り響いたので、稟は隣でユラユラと頭を揺らしながら半ば眠りかけている風の肩を揺すって起こそうとするが、当の本人は寝惚けた口調で眠気を訴え、半開きの眼で明後日の方向を見つめていた。



「第一試合は、于禁対李典よ。見なくていいの」


「うぅ~~ん……」


「はぁ~……折角の大会なのに参加できないなんて……」


「またその話かよ。姉さん、もう諦めろよ」


「はいはい。……樺憐、酒持ってない?」


「はい? いえ、そのような物は用意しておりませんがぁ」


「か~っ! 樺憐。こういうイベントは参加しないなら酒ぐらいは用意しとくもんなんだよ」


「そうなのですかぁ。なら今から持ってきましょうかぁ?」


「樺憐。その必要は無い。……姉さん。そんなに酔っ払いたいんなら消毒薬でも飲んでろよ。そこに居る衛生兵に頼んだらくれると思うぜ?」


「……零治。アンタはアタシを殺す気? メタノールは飲むと中毒起こして最悪の場合は死ぬのよ」


「心配すんな。消毒薬に使われているのは主にエタノールだ。メタノールと違ってちょっとくらいなら飲んでも死にやしねぇよ。それ以前に姉さんはもう死んでるんだから別にメタノールを飲んでも平気だろ?」


「今日のアンタってホントにアタシに対する扱いが酷いよね。あぁ……昔の可愛らしかった零治はどこに行っちゃったのよ……」


「はいはい。姉弟喧嘩はその辺になさい。試合が始まるわよ」


「ああ」


「はいよ」



零治と恭佳の軽い言い争いを見かねた華琳がパンパンと手を叩いて仲裁を行い、闘技場に眼を向けるように促したので、二人は軽く頷いて正面へと視線を向けた。

最初に試合は沙和と真桜の組み合わせ。二人の上官である零治と亜弥はやはり勝敗の行方が気になる所である。



「第一試合は真桜と沙和ですか。華琳、貴方はこの試合どう見ますか?」


「そうね……きちんと試合の形になれば、万々歳ね」


「おいおい。アイツらも仮にも魏の将軍だぜ? 実力は充分に備えているだろ」


「あら、あの子達の力は認めているわよ? 私が選んだ子達ですもの。当然でしょう? ただ……」


「ただ?」


「……自分の欲望に忠実すぎる所があるのよね」


「…………」



華琳が口にした意味深な言葉。

それが試合にどう関係してくるのか、二人の事をよく知っている零治と亜弥は何とな~くだがある程度の予想図が頭に浮かび上がる。

とはいえ、それでもまともな試合を繰り広げる事が出来れば充分に立派と言えるが果たしてどうなる事か。その時にもう一度笛の音が大きくその場に鳴り響いた。



「始まるわ」


「ああ」



闘技場にそれぞれの得物を手にした真桜と沙和が現れたので、零治と亜弥もそちらに眼を向け、観客達からは大きな歓声が上がる。



「へっへー。真桜ちゃん。いくら真桜ちゃんでも手加減しないよぉー」


「あったりきしゃりきや! ウチかて手ぇ抜くつもりはあらへん」


「ふむ。見た所、二人とも気合は充分のようですね」


「そうだな。現時点ではまともな試合が見れそうだが……」


「零治、亜弥。何がそんなに気になるさ? アイツらはアンタ達の部下だろ。そんなに二人が信用できないの?」


「まあ……見てれば分かるさ」



丁度その時に審判が二人の間に進み出てきて、間もなく試合が始まるので全員の視線は闘技場に立つ真桜と沙和の二人に集中する。



「それでは、両者前へ」


「はい」


「おう」


「双方構え……始めっ!」



審判は右腕を素早く上空に上げて試合開始の合図を力強く発し、真桜と沙和の二人は手に持つ武器を大きく振りかぶりながら突進を繰り出す。



「てやああああっ! 社練しゃれん缶盆当都かんぼんとーとー~っ! 香水~! 髪飾り~っ!!」


「たあああーっ! 高級工具一式いぃっ! 手動鋸! 新色塗料~っ!」



二人はその場にはあまりにも不釣り合いな言葉を叫びながら、沙和は双剣の二天を交差させながら素早く振りおろすも、真桜も負けじと螺旋槍のドリルを唸らせながら沙和の放った一撃の中心点に突きを打ち込み受け止めると同時にそのまま押し返そうと両脚に力を入れて踏み止まり、双方の武器の接触面からは激しい火花が散る。

互いの競り合いは拮抗を保ったままだったので、真桜と沙和は一度仕切り直すために、同時にバックステップをして間合いを広げ、双方共に睨み合いをする。



「っく……真桜ちゃんてば中々やるのぉ~」


「この試合で上位に入れば、特別賞与が支給されるんやからな……っと!!」



沙和に先手は打たせまいと今度は真桜が攻め手に回り、再度突撃を行いながら螺旋槍を唸らせ、高速の突きを放った。



「絡繰りっ! 限定品の絡繰り人形はウチのもんや!!」


「絡繰りはどうでもいいけど、靴地ぐっちの新型のお洋服は渡さないのぉ~っ!」



しかし沙和も負けじと二天の刃を寝かせて交差させながらその一撃を難なく受け止め、更にはそのまま一気に上空に振り上げて真桜の螺旋槍を打ち上げて真桜の体勢を崩し、その一瞬の隙を突くかのように間合いを詰めて攻勢に転じてきた。



「ふりふりおぱんつっ! 曳似びきにの水着ーっ!!」


「捻子式くるみ割り人形っ! 布団乾燥機-っ!」



真桜も沙和も間断なく鋭い攻撃を繰り出し、それと同時に互いに相手の動きも読みながら攻撃を躱してもいる。

少なくとも二人のある問題発言を除けば試合としてはちゃんと成り立ってはいた。



「まあ~。真桜ちゃんも沙和ちゃんも良い動きをなさっていますわねぇ」


「ええ。私もその点は同感ですよ。ただ……」


「ああ。スゲェ物欲まみれだな。アイツら……上官であるオレ達が見ているというのに、恥をかかせる気かよ……」


「言ったでしょう。欲望を抑えきれない子達だと……あっ」


「ぐふぅっ!!」


「ぼへぁっ!!」



勝負を決めようと真桜と沙和の二人は最大級の攻撃を放ったが、同時に放った点が災いしてしまい、二人の攻撃は見事に双方にクリーンヒットしてしまい、真桜と沙和は互いに情けない声を出して崩れ落ちてしまい、試合は綺麗なダブルKOとなってしまった。



「あ~あ。やっちまったな……」


「はぁ……何とも情けない試合でしたね……」



零治と亜弥は二人の情けない試合ぶりに右手で顔を覆いながら俯き、やれやれと言わんばかりに頭を左右に数回振った。

互いに持つ実力を最大限まで発揮して終わらせたのならこれも悪くない結末と言えるが、この二人の場合は動機があまりにも不純すぎる上に物欲にまみれた不穏当の発言を叫びながら試合を行い、このような結末となってしまったのだ。

おかげで二人の上官である零治と亜弥は穴があったら入りたい気分になっていた。



「あれじゃ仕方ないわね。真桜も沙和も、欲望が先走りすぎよ……全く」



華琳は肩を竦めながらやれやれと溜息を吐く。

口では文句は言っているものの、その顔には笑みが浮かんでおり何だかんだで二人の試合を楽しめたという現れなのだろう。



「はらほろひれはらほろ~……」


「……算駄留さんだる……不宇津ぶーつ……」


「アーッハハハハ! 真桜~。沙和~。今の受けたよ~。いやぁ、最高の見世物だったねぇ、お疲れさ~ん。って、聞こえてないか。アハハハハハっ!」



二人のダブルKOがよほど受けたのか、恭佳は未だにその場に倒れ込んでいる真桜と沙和を指さしながら腹を抱えて大爆笑し、その眼には涙まで浮かんでいる。

いくらなんでも笑いすぎな気がしなくもないが、他の観客達も可笑しかったのか、恭佳ほどの爆笑とまではいかないが周りからはクスクスと笑い声が聞こえ、零治と亜弥は自分の事みたいにますます恥ずかしくなってしまった。



「華琳様の御前で、一体何を考えているのかしら。……見苦しいからさっさと医務室に連れて行きなさい!」


「はっ」



気絶している真桜と沙和の二人は桂花の指示を受けた救護班の手によって運ばれていく。

言い方はきついが、これは桂花なりの優しさと言えるだろう。



「はぁ……見るに堪えん試合だったな。稟、次は誰だ?」


「えっと……許緒対楽進です」


「ほぉ。次の試合は期待できそうですね」


「種類は違えど、双方突進型だわね」



真桜と沙和が運び出されている間も次の試合の準備は進んでいたらしく、合図の笛の音が鳴り響き、観客達はその眼に期待の色を浮かべながら闘技場へと視線を向ける。



「両者、前へっ!」


「へへー。ボク、凪ちゃんとの真剣勝負、一度やってみたかったんだー!」


「それは光栄です」



ライン上で腰を落としながら構えを取る季衣と凪。

凪は根っからなの真面目人間だし、季衣も書類仕事関連は春蘭に似てアレだが、こういう勝負事となれば真剣に取り組む人物だ。

少なくとも真桜と沙和が見せた先程の試合と違い、今度はガチの勝負が見れるだろうと零治と亜弥も期待の眼差しで闘技場に立つ二人を見ている。



「……始めっ!」


「はあああぁぁぁぁっ!!」



審判の合図と共に季衣が凪よりも素早く動いて先手を取り、自分の身の丈ほどのサイズをした巨大な鉄球付きのけん玉、岩打武反魔を軽々と振りまわし、凪に向かって強力な一撃を放った。



「……っく!」



人間の限界を超えているバカ力によって放たれた鉄球を凪は身に着けている手甲、閻王に自身の氣を纏わせてガッシリと掴み取りはしたが、あまりにも重い一撃を前にして大きく後ろへと押されてしまい、危うく場外負けを取られそうになったが凪は両脚に力を入れて何とか踏み止まった。



「やるなぁ、凪ちゃん! よく受け止めたね」


「この程度、大した事ではありません。……では、今度はこちらから…………はっ!」



凪は掴み取っている鉄球から両手を離し、具足に氣を纏わせてまるでサッカーボールでも蹴るかのように鉄の塊の鉄球を難なく蹴り上げてみせる。

鉄球は弾かれたように宙を舞い、凪はその隙を突くかのように両手、両足に氣を纏わせた状態で季衣との間合いを一気に詰め、右手で正拳突き、そこから前に踏み込んでいた左脚を軸にして身体を素早く回転させながら右脚で中段回し蹴り、更には右脚を地につけて両手を組んだ状態で後ろに素早く引き、右肘を使った肘鉄と一瞬にして三連続の連撃を放ってみせたのだ。

だが季衣は身の軽さを駆使して凪の攻撃を全て躱し、凪の攻撃は虚しく空振りするだけに終わった。



「……中々すばしこいですね」


「ボクはこう見えて、身軽なのも売りなんだよー」



そこから更に双方の猛攻は続き、周囲の観客達は白熱する試合に見入っていた。

季衣が攻めれば凪が逃げ、凪が反撃すれば季衣が躱す。

季衣の鉄球により闘技場の周りには凄まじい破壊痕が残され、凪も負けじとお得意の氣を使った攻撃を駆使して反撃するが季衣には当たらず、放たれた氣の塊は周囲の庭木や壁に直撃し、辺りには凄まじい轟音が鳴り響き、あちこちに破壊痕が次々と作り上げられていった。

まさに眼を離せない試合だったが、突然華琳が観客席から立ち上がり、大きく右手を上げて声を張り上げて試合を中断させたのだ。



「そこまで!」



華琳の一声で季衣と凪は試合の手を止め、観客達の視線も何事かと華琳に集中し、辺りは静寂に包まれた。

華琳が試合を止めたという事は何か二人の間に不正行為でもあったのかと会場の人間全員が思ったが、華琳が口にした言葉は思いもよらぬものだった。



「楽進、許猪。二人でじゃんけんをしなさい」


「はっ? 華琳。いきなり何を言って……」


「その勝敗をこの試合の結果とします。……でないと、このままじゃ城が壊れるわ」


「ん~……? あぁ~……確かにこりゃ酷いな」



華琳がやれやれと言わんばかりに両手を上げ、視線を城庭に示した。

周りを改めて見てみると、庭の状況は凄まじい事になっており、闘技場の周りは穴だらけ。

おまけに凪の放った氣弾のせいで壁にも穴が開いており、薙ぎ倒された庭木も一本や二本どころではない。

確かにこのまま二人の試合を継続したら間違いなく城が崩壊してしまうだろう。仮に城がそうならなくても城庭が只の荒れ地と化してしまうのは眼に見えて分かる。

周りの惨状を見て、観客達からは華琳の言い分に頷く声が出始めた。



「えーっ!! そんなの酷いですー。せっかく久しぶりに本気で戦ってたのにー」


「華琳様。私も流石にそれは……」


「駄目よ」



しかし、ようやく身体が温まってきた季衣と凪からすればこの流れは納得など出来やしない。

ここまで来てこの采配は生殺しとしか言えない。もっと戦いたいという想いを華琳に伝えて食い下がろうとするが、華琳は有無を言わさないように厳しい口調でピシャリと言い放ったが、その表情はすぐに優しい笑みへと変わる。



「二人の武芸、そして二人の強さは充分に魅せてもらったわ。ありがとう」


「……はーい……」


「……仕方ありませんね」



ここまで言われては季衣も凪も食い下がる事は出来ない。二人は渋々ではあるが華琳の采配に納得し、大人しく引き下がる事にした。



「いやぁ、相変わらず華琳は凄いねぇ。アタシだったら絶対に怒ってるわ」


「流石は魏の覇王、と言うべきなのでしょうねぇ。素晴らしいお方ですわぁ」


「しかし、こんな形で試合が終わったのは少々残念だな」


「そうですね。……稟、次の試合は誰ですか?」


「次は……夏侯淵対典韋です。この試合も激しい物になりそうですよ」


「……お城……大変ね~……」



風の言う通り、城は本当に大変な事になってはいるが、こうなってしまった以上はもう仕方ない。

大会が終わり次第、街の大工に依頼して修復してもらい、庭も園庭を総動員して直すしか道は無いだろう。

そのためにもまずは、この大会を進めるのが先だ。次の試合を始めるべく、合図の笛の音が鳴らされ、審判が力強く声を発して次の対戦者に闘技場に上がるように促した。



「両者、前へ!」


「えへへ……秋蘭様と戦えるなんて夢のようです。……私、本気で戦っていいですか?」


「先刻の試合を見れば、そこで『はい』とは言わぬ方が良いのかもしれぬが……」



慕っている秋蘭と手合わせが出来るなど、流琉にとってこれ程嬉しい事など無いだろう。

が、対する秋蘭の反応は流琉とは完全に真逆だ。

流琉も季衣と同様に馬鹿でかい得物を使用したパワーファイターなのだ。その流琉が本気を出したりすれば、只でさえ酷い事になっている城と中庭はますます被害をこうむる事になるだろう。

秋蘭はその点を危惧しているためこのような事を言ったのだが、その言葉を耳にした流琉の表情は浮かないものへと変わる。



「……それって、駄目って事ですか?」


「いや、武人としてそのような勿体ない事は出来ん。無論、本気で行かせてもらおう……私も手加減はせんぞ?」


「当然ですっ!」



だが、このような機会は早々来るものではない。流琉の期待に応えるべく、秋蘭も本気で戦うつもりでいるのだ。

秋蘭が本気を出してくれる事に流琉は安堵し、気合を充実させて季衣の岩打武反魔にも勝るとも劣らない巨大なヨーヨー型の得物、伝磁葉々を構え、秋蘭も愛用している弓、餓狼爪に矢を番えて戦闘態勢に入った。



「では……始めっ!」


「じゃあ……行きますよ!!」



審判の合図と共に、流琉は持ち前の怪力を遺憾なく発揮し、伝磁葉々を大きく振り抜き、放たれた巨大な円盤はしゅるるると音を立てながら高速回転をし、秋蘭に向かって一直線に飛来してきた。



「はっ」



だがその重量感を全く感じさせない攻撃を、秋蘭はそれを上回るスピードでいとも簡単に躱し、放たれた円盤は凄まじい轟音を立てて秋蘭が先程まで立っていた場所に直撃し、その場に巨大な破壊痕を残すだけに終わった。



「フッ……そのような単調な攻撃では、私を仕留める事は出来ぬぞ」


「むーっ……言いましたね~!」


「どれ、私が手本を見せてやろう」



秋蘭は余裕の笑みを浮かべながら流琉の攻撃をヒラリ、ヒラリと舞でも舞うかのように軽やかなステップで躱し、そしてその一瞬の隙を突くように弓で一発、二発、三発と立て続けに速射を行いながら反撃を行う。

得物による不利さを全く感じさせない秋蘭の立ち回りは見事な物だったが、流琉も負けてはいなかった。



「へへーん! こんなの私には効きませんよー!」


「ふむ……思った以上にやるではないか」



今の秋蘭の立ち回りも凄いが、流琉が見せた芸当はもっと凄かった。

何と飛来してくる秋蘭の矢を全て素手ではたき落したのだ。

この世界の武将達は充分に人間離れしていると零治達は実感していたが、今の光景を前にしてその事を改めて思い知らされた。



「凄いですね。秋蘭の矢を素手ではたき落すなんて」


「……なあ。アイツらが神器使いになったらオレら以上に強くなるんじゃね?」


「やめてよ零治。想像しただけで背筋が凍りつくじゃないか……」


「はっ! 隙あり! ですー!」



秋蘭が見せた一瞬の隙を見逃す事無く、流琉は再度伝磁葉々を振り抜き、巨大な円盤は空を斬りながら秋蘭に向かって一直線に飛来してきた。



「くっ……!」



今度はその一撃を秋蘭は躱す事が出来ず、やむなく鋼鉄製の弓を使って何とか受け止めはしたがその衝撃は凄まじく、大きく後ろへと押されてしまう。

しかし秋蘭も負けじと速射を行いながら反撃を行い、勝負の行くへは分からなくなる。だが……。



「はい、そこまで」


「華琳。またかよ……」


「これを見ればそうせざるを得ないでしょう」



またもや華琳のストップがかかってしまい、試合は中断されてしまったのだ。

ここでまた試合を止めたという事は、やはりその理由も前回の試合と同じなのだろう。



「城が壊れるわ……全く。ウチの子達は皆、力の加減というものを知らないのだから」


「あらぁ。確かにこれは酷いですわねぇ」



周りに視線をやれば、闘技場の周りの穴は流琉の放ったヨーヨーのせいで更に数が増えており、秋蘭の矢もあちこちに突き刺さっているため、その様はハリネズミのようである。

おまけに被害は石造りの城壁にまでおよび、ひび割れを起こしている所もあった。



「さあ、貴方達もじゃんけんをなさい。異論は……無いわよね?」


「むぅぅー……」


「フッ……流琉。今度、日を改めて城の外で仕合うとしよう。今日の所は痛み分けだ」


「……はーい」



納得のいかない様子の流琉は口をへの字にして唸るので、秋蘭が苦笑しながら宥めたおかげもあってようやく流琉は華琳の采配に納得し、二人は退場していく。

ここまで三試合行ったが、現時点ではまともに決着がついた試合は一つも無い。

初戦を除けば試合自体は決して悪いものではないのだが、大会なのだからいい加減まともな試合を見たいのが零治の正直な本音であった。



「うーむ……戦闘力が人並み外れているってのも、時には考え物なのかもな」


「ふふっ。そうね。でも面白いし良いんじゃないかしら」


「でも折角の大会なんだし、アタシとしてはそろそろまともな試合が見たいわね。こちとら参加すら出来てない身なんだから。……稟、次の組み合わせは誰なの?」


「次は……これは面白い組み合わせですね。期待していいと思いますよ」


「ほぉ~。誰なんですか?」


「奈々瑠対臥々瑠ですよ」


「ふむ。これは期待できそうね。ようやくまともな試合が見れそうよ、零治」


「……オレは不安だぞ」


「そうですねぇ。あの二人には前科がありますし……」



観客達は期待の眼差しを次の試合に向けるが、零治と亜弥は不安しかない。

何しろ奈々瑠と臥々瑠の二人はいつぞやの零治との模擬戦でテンションが上がりまくったせいで城の庭を破壊している前科があるのだ。まあ、一部は零治本人にも責任はあったが。

零治と亜弥は、また前みたいな事になるのではないかという不安があったが、今の二人にできる事はそうならないように祈るぐらいしかない。

そして試合を始める合図の笛の音が鳴り、審判は力強い声を発して奈々瑠と臥々瑠に会場に上がるように促した。



「それでは両者、前へ!」


「はい」


「は~い」



奈々瑠と臥々瑠の二人は普段と変わらぬ様子で会場に上がり、奈々瑠は手足を軽くぶらつかせながら身体を解きほぐし、首の骨をコキコキと鳴らし、対する臥々瑠も右肩に左手を当てながら右腕をグルグルと回したり軽い屈伸運動をして身体を解して互いに対峙をした。

ここまでは普通だったのだが、この二人には一部に熱狂的なファンが存在しており、奈々瑠と臥々瑠が闘技場に姿を現すなり今まで以上の歓声が響き渡った。



「さて、零治、亜弥。二人はこの勝負の行方、どう予測する?」


「正直分からんな。あの二人は常に一緒に戦ってきた仲だ。だからお互いの事をよく理解している」


「なら勝率は五分五分という事なのかしら?」


「それは二人の戦い方次第ですね。奈々瑠は素早さに特化していますが臥々瑠と違って力では一歩劣りますし、打たれ弱いという欠点があります。対する臥々瑠はその逆。力は奈々瑠より上ですし打たれ強いですが、素早さは奈々瑠には劣ります」


「なるほど。つまり互いの持ち味をどう生かすかが勝敗を決める鍵という訳ね」


「ああ。持ち前の素早さを生かし、臥々瑠を翻弄しながら長期戦に持ち込めば奈々瑠の勝ちだろうな」


「逆に臥々瑠はそれに惑わされる事なく、正確に必殺の一撃を叩き込めれば奈々瑠に勝てる、という訳です」


「そう。では、二人のお手並みを拝見させてもらうとしましょうか」



魏では奈々瑠と臥々瑠も天の御遣いとして扱われているのだ。

それ故にこの二人が直接対決をする姿など滅多に見れるものではない。そのためか、観客達の期待感は今まで以上に高まり、特に一部の熱狂的なファンは高ぶる気持ちを抑えきれずに本来なら胸の内に留めておいた方がいいであろう言葉を発してしまう始末だ。



「奈々瑠ちゃーん! こっち向いてくれーっ!」


「臥々瑠ちゃーん! 試合に勝ったら美味しい物ご馳走してあげるぞーっ!」


「……アイツらは一度制裁を与えた方がいいのかもしれんな」


「零治。顔が怖いよ……」


「あらあらぁ。困りましたわねぇ。わたくしの娘達にはもう未来のお婿さんが居ますのに……」


「樺憐。眼が笑ってませんよ……」



奈々瑠と臥々瑠の熱狂的なファンの反応が気に食わないのか、零治は横の客席で騒いでいるファンに殺気の籠った視線を、樺憐も顔こそ笑ってはいるが、眼が完全に据わっていて見る者の背筋を凍りつかすような眼つきをしていたので、恭佳と亜弥は思わず距離を取ってしまう。



「フッフッフ。奈々瑠、悪いけどこの試合は勝たせてもらうよ。賞金はどうでもいいけど、兄さんとお母さんにはいいとこを見せたいからね」


「臥々瑠。残念だけどそれは無いわね。私にも姉としての威厳ってものがあるのよ。悪いけどアンタにはここで恥をかいてもらうからね」


「双方構え……始めっ!」


「行くよ~、奈々瑠。でりゃああぁぁぁっ!」



審判が試合開始の合図をし、それと同時に臥々瑠が先手を取り、裂帛の気合いと共に一気に奈々瑠の懐まで飛び込んで間合いを詰め、目前まで距離が縮まった所で豪速の鉄拳を放ったのだ。



「フッ……甘いわね!」



しかし、奈々瑠もそれに慌てる事無く冷静に対処し、前方に大きく跳躍して弧を描きながら体操選手のように空中でクルンと一回転して華麗に着地し、臥々瑠の一撃は奈々瑠の立っていた位置に直撃し、辺りに轟音を鳴り響かせて闘技場の一部を粉砕し、大きな破壊痕を残すだけに終わった。



「あぁ~……さっそくやらかしやがったな。臥々瑠の奴、闘技場の一部をブチ壊しやがったぞ……」


「不安ですねぇ。またじゃんけんオチにならないといいのですが……」


「そうなるかどうかは今後の二人次第ね。それに勝負はまだ始まったばかり。結論を出すのはまだ早いわよ」


「全く。そんな直線的な攻撃が私に当たると思っているの?」


「むぅ~……」


「やれやれ。ここは姉としてアンタに手本を見せてやるべきかしらね…………ハッ!」



今度は奈々瑠が反撃に転じ、持ち前のスピードを生かして臥々瑠よりも素早く距離を詰め、左腕を使ってまずは肘鉄を放った。



「おっと!?」



反応が一瞬遅れたため、臥々瑠はその一撃を躱す事が出来ないと判断し、両腕を交差させてガードを行い奈々瑠の肘鉄を受け止める事に成功した。

だが、奈々瑠は余裕の笑みを浮かべていた。この肘鉄はあくまでも臥々瑠の動きを止めるための牽制。

つまり本命の攻撃はまだしていないのだ。奈々瑠はここぞとばかりに身体を捻りながら予め後ろに引いていた右手で臥々瑠の交差させている腕の中心点に掌底を上空に向かって打ち込み、ガードの崩しにかかったのだ。奈々瑠にいきなり掌底を打ち込まれたため、臥々瑠は両腕を大きく跳ね上げられてしまい、無防備な姿を晒してしまう。



「あっ!」


「悪いわね、臥々瑠……もらったわよ!」



このチャンスをものにするべく、奈々瑠は右腕を内側に軽く折り曲げながら右肩を前部に出すように強調して身体を半回転捻り、左腕も上空に掲げながら軽く折り曲げてくの字を描きつつ、そして瞬時に身体を前進させて臥々瑠に向かって体当たりをブチかました。



「ふぎゃっ!」



力が劣っているとはいえ、臥々瑠は無防備の状態からいきなり体当たりを喰らってしまったのだ。

全身にその衝撃が走り、臥々瑠は一気に闘技場の端ギリギリまで吹っ飛ばされてしまったが両脚に力を入れて勢いを殺し、何とか踏み止まった事で場外負けは免れる事が出来た。



「いったぁ。……奈々瑠。よくもやったね!」


「やれやれ。そのまま落ちちゃえば私も楽が出来たのに」


「おい、亜弥。奈々瑠がいま使った技って……鉄山靠てつざんこうじゃねぇのか」


「ですね。私も実際に見たのは初めてですが」



鉄山靠とは八極拳の技の一つで、簡単に言うと背中を使って相手を吹っ飛ばす体当たりである。

この技は日本では鉄山靠と呼ばれているが、実は正式名称は貼山靠てんざんこうなのである。

なぜ呼称が違うのかはいくつか説があるが、その内の一つが全く違う技があるという説。そしてもう一つが発音による混同。中国語では『鉄』と『貼』は声調こそ違いはあるが、読み方が完全に同じなためその結果混同して鉄山靠という呼称が根付いたとの事らしいが、真実の方は定かではない。



「アイツ、どこであんな技を覚えたんだ?」


「樺憐。もしかしてアンタが教えたの?」


「いえ。わたくしの格闘術は我流ですので」


「なら自分で学んだんじゃないんでしょうか。鉄山靠は八極拳の技の中では基本中の基本ですし」


「……亜弥、この時代に八極拳って使われてたか?」


「いいえ。八極拳の起源はだいぶ先ですね。複数説がありますが、一番はっきりしている説でも十八世紀ごろの話ですし」


「って事は元居た世界で身に着けたのか」


「恐らく。彼女、昔から私と同じようによく本を読んでましたしね」


「へぇ~。奈々瑠はあんな格闘術も使えたのね。中々面白くなってきたじゃないの」



華琳は感心したように言い、目の前の試合の展開に期待を膨らませるが、それは他の観客達も同じである。

先程臥々瑠が見せた力任せの一撃で力に関しては奈々瑠を圧倒していると観客達は思っていたが、奈々瑠はそんな差など感じさせる事も無く、見事に臥々瑠と対等に渡り合っている。

先の展開が分からなくなったこの試合に観客達は息を飲み、食い入るように見つめていた。



「…………」


「…………」



互いに構えを取りながら無言で睨みある奈々瑠と臥々瑠。

奈々瑠はこの間もずっと思考を巡らせていた。どうすれば臥々瑠に勝てるかと。

実際の所、奈々瑠は力では臥々瑠には劣っている。それは本人も自覚している。正面から力勝負に来られたら勝ち目は無い。だからこそ奈々瑠はこの大会の開催を聞かされた時、誰とも……特に力で劣っている相手とぶつかった時にどう対処して勝負に勝つかを寝る間も惜しんで考え続けた。

僅かな期間で筋トレをしても力が格段的に上がったりはしない。ならばどうするべきか。奈々瑠が出した結論は至極単純。力で勝てないのなら、その差は技術でカバーすればいい。

それが奈々瑠がいま披露した拳法、八極拳という訳だ。とは言っても、奈々瑠も本格的に出来る訳ではない。昔読んだ本で得た知識の記憶を掘り返し、短期間の練習で何とか身に着けた付け焼刃にすぎない。

零治は華琳に長期戦に持ち込めれば勝てると説明していたが、本人はそんな気など毛頭ない。奈々瑠は臥々瑠が次に仕掛けて来た時、カウンターを決めて勝負をつけるつもりでいるのだ。



「さっきは油断したけど、もう同じ手は通用しないよ。次で決めるからね!」


「能書きはいいから早くかかって来なさいよ。お望み通り、次で終わりにしてあげるから」


「言ったなぁ! だったらこれを受けてみなよ! とうっ!」



奈々瑠の挑発的な言葉に臥々瑠は過剰に反応し、その場から軽やかに跳躍して空中でクルンと一回転をして、右脚を突出して落下の勢いに身を任せた蹴り技を披露し、奈々瑠に向かって一直線に飛来してきたのだ。



「だから攻撃が直線的だって言ってるで……しょっ!」



しかしそんな分かりきった攻撃が奈々瑠に当たる訳も無く、奈々瑠は余裕を見せながら後方に跳躍してその一撃を躱し、闘技場の端ギリギリの所に着地して距離を取り、臥々瑠の蹴りは奈々瑠が先程まで立っていた位置に直撃し、またしても辺りに轟音を轟かせながら闘技場の一部を粉砕したのだ。



「またブチ壊しやがって、アイツはぁ……」


「まあそれは置いといて……あぁ、あの位置はまずいですね。巧く臥々瑠の攻撃は避けましたが、逆に端に追い詰められてしまいましたね。あれでは逃げ場がありませんよ」


「そのようね。ここで奈々瑠がどう切り返すか、それが勝負の決め所となりそうね」


「フッフッフ。追い詰めたよ、奈々瑠」


「…………」


「悪いけど……この勝負はアタシの勝ちだぁ!!」



臥々瑠は右腕を振りかぶりながら奈々瑠に向かって一直線に突撃し、目前まで距離が縮まった所でその鉄拳を放った。しかし……。



「甘いっ!」



奈々瑠は自分の身体をコマのように回転させながら臥々瑠の側面へ移動し、そのまま背後に回り込んで見事にその一撃を躱してみせた。

臥々瑠は勢い余って危うく場外へ落ちそうになったが何とか踏み止まり、そのまま身体を回転させて裏拳を放つが、奈々瑠は軽く上体を後ろに反らしてそれもヒラリと避けてみせる。



「うぅ……ちょこまかと動いて。……これでどうだっ!」


(来た! これで決めるっ!)



臥々瑠は忌々しげにまたもや右ストレートの拳を放ってきたが、奈々瑠はこれを待っていたのだ。

奈々瑠は臥々瑠の放った拳の手首に素早く右手を伸ばし、手の甲を使って押し退けながら回すように振り払い、そのまま手首を掴んで前に引っ張りながら臥々瑠の右腕を利用して視界を遮りつつ踏み込み、がら空きになっている脇に左腕を潜り込ませ、そして肘打ちを打ち込んで臥々瑠を場外へと吹っ飛ばしたのだ。



「うわっ!?」


「場外! それまで! 勝者、奈々瑠っ!」



一瞬の攻防戦で見事に勝負が決まり、審判が右手を素早く上げて声高らかに奈々瑠の勝利を宣言。

辺りはたちまち歓声に包まれ、双方の素晴らしかった戦いぶりを称えるかのように拍手喝采となる。

見事勝利を収めた奈々瑠は何とか姉としての威厳を保つ事ができ、観客達に自分の姿をアピールしようと右手を軽く上げてヒラヒラと振りながら満足げな笑みを浮かべる。

しかし、それとは対照的に試合に負けた臥々瑠は悔しそうに口を尖らせて地面に座り込んでいた。



「ぶ~。負けちゃったよ。悔し~!」


「ふふ。良い線は行っていたけど、残念ながら今回は私の勝ちね、臥々瑠。……ほら、掴まりなさい」


「うん」



未だに悔しげに地面の上に座り込んでいる臥々瑠の姿に、奈々瑠は苦笑しながら右手を差し出した。

臥々瑠は奈々瑠が差し出している手に右手を伸ばして掴み、そのままグイッと引っ張り上げられて立ち上がり、服に付いた砂埃をパンパンと奈々瑠がはたき落してあげた。

その美しい姉妹の姿を眼にしたファン達はまたしても興奮し、声を張りげてきたのだ。



「うおおおおおっ! 奈々瑠ちゃん! 君は何て優しいんだーっ! まさに姉の鏡だーっ!」


「臥々瑠ちゃーん! 負けたからって気にするなー! 俺達はそんな事で君を見離したりはしないぞー!」


「樺憐。今からあそこへ殴り込みに行くぞ……」


「いい考えですわねぇ。ご一緒させてもらいますわ……」


「二人ともやめなさい」



華琳は眼が完全にマジになっている零治と樺憐を何とか抑え、腰かけている椅子からゆっくりと立ち上がり、軽く両手を上げて観客達に静まるように促し、辺りは静寂へと包まれた。

場が静かになり、華琳は奈々瑠と臥々瑠に視線を移し、拍手をして両者の健闘を称えた。



「奈々瑠、臥々瑠。素晴らしい試合だったわ。私は貴方達と共に戦えている事を誇りに思うわ。ありがとう」


「あ、ありがとうございます」


「ど、どうも~」



奈々瑠と臥々瑠は照れ臭そうに後頭部をポリポリと掻きながら頭を軽く下げて礼の言葉を述べ、次の試合のために早々にその場から退場していった。

少々やりすぎな所はあったかもしれないが、この試合が今までの中で一番まともな終わり方をしたのは誰が見ても間違いないだろう。



「ふぅ~。最初はどうなるかと思ったが、今までの試合で一番まともな終わり方をしてくれたな」


「そうね。私もその点は同感よ。……さて、稟。次の試合の対戦者は誰なのかしら?」


「お待ちください。次の試合は……ほぉ~。どうやら真打登場のようですね」


「真打? 誰だよ?」


「ふふ。零治殿、亜弥殿。貴方達お二人ですよ」


「はっ?」


「……つまり、次の試合は私と零治という事ですか?」


「おおっ! これは見所満載の試合になりそうですねー。お兄さん、お姉さん。頑張ってくださいねー」


「マジかよ。いきなり亜弥と当たるなんてな……」


「ほら。二人とも早く準備をなさい。皆、貴方達の試合を待ち望んでいるのよ。無論、私も含めてね」


「やれやれ。仕方ない。行くとしましょうかね、零治」


「だな」



こうなってしまった以上はもうどうしようもないだろう。

試合の組み合わせは予め決められているのだ。今更変更など出来る訳がない。

零治と亜弥は諦めたように観客席から立ち上がり、闘技場の方へと足を運んでいく。



「零治~。亜弥~。折角会場がここまで盛り上がってるんだ。ちゃんとアタシの事を楽しませるんだよ」


「ったく。姉さんの奴。他人事だと思って呑気な事を……」


「両者、前へ!」


「ああ」


「はい」



審判の声に従い、零治と亜弥の二人は闘技場へと足を踏み入れてゆっくりとライン上まで歩み、手前で立ち止まり双方共に対峙する。

天の御遣い同士による試合が立て続けに行われるだけでなく、次の試合の対戦カードは亜弥、そして魏に降り立った天の御遣いの筆頭でもある零治なのだ。

観客達は勿論の事、華琳を始めとした魏のメンツも期待感は第四試合以上に高まり、全員が息を飲んで間もなく始まるであろう第五試合の行方を見守る。

だがこの後、二人の試合がきっかけで恐ろしい騒ぎが引き起こされるなどとは誰も知る由など無かったのだった。

零治「で、肝心のアレは?」


作者「すみません。まだです……」


亜弥「まあ、いつもの事ですね」


恭佳「さて、次は零治と亜弥の試合の話みたいだけど」


奈々瑠「あれ? 原作だと春蘭さんと霞さんの試合があったはずですが」


作者「春蘭と霞には悪いが、二人の出番は無いぞ」


臥々瑠「なんで?」


作者「何でって……そりゃお前、原作だと霞が勝ってその後は一刀とナニをするからに決まってるじゃないか」


臥々瑠「ナニって何さ?」


作者「いや、それはそのぉ……樺憐さん、助けて」


樺憐「やれやれ。しょうがないですわねぇ。……臥々瑠、この方が言った意味はねぇ……」


臥々瑠「うんうん」


零治「お、おい樺憐!? まさかとは思うが……」


樺憐「デートをするって事なのよ」


臥々瑠「デート?」


亜弥「あぁ~。その答えも間違いではないですね」


恭佳「家庭用板だと実際そうだったしね」


奈々瑠「デートかぁ。いいなぁ……」


作者「羨ましいんならオレが何とかしてやるぞ?」


奈々瑠「ホントですか!?」


零治「おい! 新しい話のネタを考えるのも大事だが、まずは修正作業を終わらせろよな!」

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