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第57話 悲劇の再会

皆さん、お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。

いかんせん仕事の方が多忙なためなかなか書く時間が取れなくて。

因みに今回の話は前回よりかなり長いです。

零治が銀狼と接敵してから同時刻の出来事だ。

亜弥は大木のてっぺんで劉備軍の動向を監視しながら零治と念話で通信を行っていたのだが、その時に突如として敵が襲撃。

いきなり自分に向かって蹴りかかってくる一つの人影が見えたので、亜弥は通信をやむを得ず中断し、咄嗟に地面へと飛び降りた。

襲来してきた人影は勢いを収める事無く一直線に飛来し、大木のてっぺんをいとも簡単に蹴り砕き、折られた大木の一部は宙をクルクルと回転しながら地面に一直線に落下して大地を揺るがし、轟音を辺りに轟かせ、周囲には激しい砂煙が巻き上がった。



「はぁ、はぁ……っ! あ、危なかった……」


「亜弥! 大丈夫っ!?」


「ええ。私は大丈夫です」


「姉さん! 何なんですか今のはっ!?」


「見ての通り敵の襲撃ですね。しかも……相手は『こちら側』の人間です……」


「こっちの人間って……。っ!? 姉さん! まさか黒狼なのっ!?」


「いいえ。恐らく違います。ですが……私は以前、こんな芸当を平然とやってのける人物と闘った経験があります」


「……あぁ、アイツの事だね。亜弥」


「ええ。……っ!? みんな気を付けて! 来ましたよっ!」



亜弥の言葉を聞くや否や、全員が纏っているギリースーツを一気に脱ぎ捨て、各々の武器を構えて戦闘態勢に入り、警戒の眼差しで未だに巻き上がっている砂煙を見つめる。

それからしばらくして、砂煙の中から一つの人影がぼんやりと浮かび上がり、ゆっくりとした足取りでこちらへと近づき、やがてそこから一人の人物が姿を現した。



「…………」



砂煙の中から姿を現したのは正体不明の戦闘獣人バイオロイドの樺憐だった。

樺憐は以前と変わらず、奈々瑠達と同じ衣服を身に纏い、カラスのくちばしのような形状をした黒い仮面を身に着け、白銀に輝く手甲と具足の神器を装備し、無言のまま棒立ちの姿勢で亜弥達を正面から見据えている。



「やっぱりコイツか。こりゃまた厄介なのが来ちゃったねぇ。どうする、亜弥……」


「どうするもこうするも、私達だけで闘うしか選択肢はありませんよ、恭佳……」


「私達だけでって……姉さん、あの戦闘獣人はかなりの強敵ですよ。ここは下がって兄さんと合流した方が……」


「それはダメです。零治との通信の内容を聞いた限りでは、恐らく彼の所にも誰かが向かっているはず。この状況で零治と合流するのは得策ではありません……」


「でも……それでもだよ姉さん! こういう時は数で圧倒した方が……っ!」


「臥々瑠。アレは数の暴力でどうこう出来る相手ではありません。今の状況で零治と合流しても焼け石に水。それどころか、零治の所にも向かった『こちら側』の誰かを同時に相手をしなければならなくなる……」



亜弥の言う事は尤もだ。この状況で後退すれば樺憐は間違いなく追撃してくる。

バラバラに逃げて樺憐を撹乱するのも手だが、そんな事をすればハズレを引いた人物は下手をすれば一人で樺憐と闘う事になりかねないのだ。

残った誰かが上手く零治と合流できて、零治と共に助けに向かうにしても今度は零治が相手をしている人物に追われる事となり、状況はより最悪なものとなるだろう。



「いいですね。何が何でもアレは私達の力で何とかするしかないんです。全員、覚悟を決めてくださいよ……」


「フッ。アタシは最初から覚悟は決めているさ。ここでケリをつけてやるわよ……」


「……分かりました。私もここで死ぬつもりなんかありません。全力を尽くしますっ!」


「アタシだって! あの時はいいようにあしらわれたけど、今度はそうはいかないよっ!」



亜弥達は樺憐と闘う覚悟を決め、各々の武器を構えていつでも迎え撃てるように対峙する。

それに呼応するように、樺憐も構えを取り、戦闘態勢に移行した。

双方無言で睨み合いながら一歩も動こうとせず、辺りは緊迫に満ちた空気が張り詰める。

その様はさながら映画のワンシーンのような雰囲気である。だがこれは現実だ。

映画とは違う。実際の命の奪い合い。一歩間違えれば自分が、あるいは別の誰かが死ぬかもしれない本物の殺し合いなのだ。一瞬たりとも気が抜けない。どちらが先に動くかで、戦局は大きく変わるだろう。

先に動いたものが優位に立てるか、あるいは不利になるか。それは誰にも分からない。

その刹那、ついに事態が動いた。今まで微動だにしていなかった樺憐が先に動いたのだ。



「目標捕捉……排除……する……」



以前よりも更に機械的な口調に拍車がかかっており、樺憐は抑揚の無い声で必要最低限の言葉を途切れ途切れのように間を置いて、まるで機械のように目的を呟き、亜弥に狙いを定めて突撃してきた。



「っ!? 全員散開っ!!」



亜弥は恭佳達に散開するように指示を飛ばし、全員は一斉に散り散りに跳躍してその場から離れる。

それと入れ替わるように、樺憐は亜弥が立っていた地面に向かって右の拳を叩き付けて轟音を辺りに轟かせ、激しい砂煙が巻き上がる中をゆっくりと立ち上がり、宙に視線を向けて散って行った亜弥達を捜す。

その間に亜弥は基本行動方針の考えを纏め、他のメンバーに指示を飛ばした。



「恭佳! アレの相手、貴方にお願いします!」


「あいよ! 接近戦なら任せときなっ!」


「私は後方から射撃をして奴の動きを封じます! 奈々瑠と臥々瑠は恭佳のサポートを!」


「はい! 任せてください!」


「ラジャー!」



亜弥達は即座に陣形を整え、亜弥はその辺に生えている樹の枝の上を陣取り、眼鏡を外して射撃体勢を取り、恭佳はソウルイーターのチェーンソーモードを起動して樺憐の正面に立ちはだかり、奈々瑠と臥々瑠は恭佳の両脇に控えて迎撃態勢を取った。

標的を捕捉した樺憐は再び構えを取り、姿勢を低くして突撃の体勢に入る。



「目標……再補足。攻撃を……再開……する」



樺憐は亜弥に狙いを定め、再び突撃をする。

しかし眼前には恭佳達が行く手を阻んでいるが、樺憐は無視して横を素通りしようとしたが。



「ちょっと、ちょ~っとぉ? な~に前みたいに無視しようとしてんのさぁ。アンタの相手はアタシがしてやるよ……」



恭佳がチェーンソーを唸らせながらソウルイーターを振り上げて行く手を遮って来たので、樺憐は咄嗟に両腕をクロスさせて身に着けている手甲を使ってその凶刃を受け止める。

辺りにはチェーンソーの唸り音と鋸刃がガリガリと手甲の装甲板削り取ろうとする嫌な音が響き、接触面からは激しい火花が散る。

樺憐の動きが止まった今こそが好機。亜弥は素早く狙いを定め、樺憐に向かって一本の矢を放った。



「敵の攻撃を確認。回避行動に移る……」



樺憐は抑揚の無い声で目的を呟き、両腕を跳ね上げて恭佳のソウルイーターを弾き飛ばし、そのまま素早く後方へと跳躍して飛来してきた矢を躱し、亜弥達から一度距離を取り、構えを維持したまま無言で亜弥達に視線を向ける。



「チッ! そう都合良くは行かないか……」


「恭佳。ぼやかないでください。今の所、私達の勝負は互角。このまま巧く奴の動きを封じつつ攻めていきますよ」


「分かってるわよ。……奈々瑠、臥々瑠。いざという時は頼むわよ」


「はい!」


「任せといて!」


「…………!?」



樺憐が亜弥達に再度突撃をしようとしたその時だった。

樺憐は何かに反応してピクリと身体を一瞬だけ震わせて動きを止め、前に見せた時と同じように苦しそうな呻き声を漏らしながら頭を抱えて小刻みに身体を振るわせ始めた。



「っ!? クゥゥゥ……っ! あぁっ!!」


「ん? 一体どうしたんでしょうか?」


「これは……あの時と同じ!?」


「恭佳。あの時とは?」


「あぁ、アンタはあの時気絶して城に運ばれたんだっけね。原因は分からないけどあの戦闘獣人、以前黒狼達と攻め込んできた時にもあんな風に突然苦しみだしたんだ」


「ふむ」


「で、最終的には気絶。まあ、そのおかげであの時は余計な邪魔もされずに済んだから助かったけどさ」


「なら今回もそうなる可能性が?」


「どうだろ? 世の中そんなに甘くないしねぇ……。ほら」



恭佳が顎をしゃくって樺憐を見るように促すので亜弥達は視線を向ける。

樺憐は未だに苦しそうな呻き声を漏らしながら身体を震わせ、頭を抱えながら俯いていたが、しばらくしてそれは収まり、何かを振り払うように頭を軽く左右に振って正面い視線を向け直し、右手は肘を曲げて顎の下まで持ってきて軽く拳を握り、左手は腹の位置まで落として軽く手を開き、少し肘を曲げて構えを取って改めて亜弥達に対峙する。



「そのようですね」


「まっ、アレの相手はアタシに任せな。亜弥。アンタは引き続きアタシらの援護を頼むよ」


「任せてください」


「奈々瑠、臥々瑠。いざって時は頼むよ」


「分かってます!」


「うん!」


「オッケー。なら…………行くよっ!!」



恭佳は裂帛の気合いを放ち、ソウルイーターを大きく後ろに振りかぶった大勢のまま低姿勢で樺憐に突撃して攻勢に出る。

対する樺憐は構えを維持したまま無言で恭佳を見据え、微動だにしない。

樺憐との距離が目と鼻の先まで縮まった瞬間、恭佳はソウルイーターの鋸刃を唸らせながら樺憐の首筋に目掛けて一気に振り下した。



「オラァァァァァァっ!!」


「…………」



樺憐は無言のまま両腕をクロスさせて防御の構えを取り、恭佳の凶刃を受け止める。

接触面からは激しく火花が散り、辺りにはソウルイーターのチェーンソーの唸り音が響き渡り、双方一歩も退かないままで戦局は膠着状態となる。が、しばらくして、樺憐が反撃に出てきた。



「フッ……」


「なっ!?」



樺憐はクロスさせていた両腕を一気に振り抜いてソウルイーターの刃を弾き返し、その反動で恭佳は体勢を崩してよろけてしまう。

そして樺憐はその一瞬の隙を突くように右の拳を後ろに引いたまま瞬時に間合いを詰めて、恭佳が持つソウルイーターの刃に向かって鉄拳を放った。



「くぅ……っ!」



恭佳は何とか樺憐の鉄拳を受け止めはしたものの、殴られた部位からはガツンと鈍い音が鳴り、恭佳自身も大きく後ろへと押し返されてしまう。

樺憐はここぞとばかりに、更なる追い打ちをかけようと恭佳へと突撃を仕掛けた。



「させませんっ!」



恭佳の後方で射撃体勢を維持していた亜弥はすかさず連続射撃をして複数本の矢を放ち、樺憐の動きを牽制する。

樺憐は突撃の脚を即座に止め、体操選手のように無駄の無いバク転を行い、亜弥の矢を回避して綺麗に地面の上に着地する。

が、亜弥達の攻撃はまだ終わってなどいない。いくら身体能力が優れた者でも、地面に着地して即座に別の行動に移るなど不可能だ。一瞬とはいえ、動きを止めざるを得ない。

その一瞬の隙を突くべく、奈々瑠と臥々瑠がすかさず追い打ちをかけてきたのだ。



「その隙は逃しませんっ!」


「これでも……喰らえーーっ!!」


「がっ!?」



奈々瑠と臥々瑠は樺憐との距離を一気に詰めて、その無防備になっている腹に向かって同時に蹴りを叩き込み、更に後方へと押し返して恭佳の安全を確保し、そこから後方へと跳躍して恭佳の両脇へと控える。



「恭佳さん! 大丈夫ですかっ!?」


「ええ。二人ともありがとね」



恭佳は安堵の笑みを浮かべ、奈々瑠と臥々瑠に礼の言葉を述べる。

その時だった。先ほど殴られた衝撃でなのか、ソウルイーターの鋸刃が一本ポッキリと折れて地面の上に転がり落ちて、それと同時に恭佳の左頬に一筋の切り傷が走って傷口から血がにじみ出てきたのだ。



「あれ? 恭佳姉さん。頬から血が……」


「ん……?」



臥々瑠が顔の傷を指摘してきたので、恭佳は自分の左頬を左手で軽くなぞって指先を見てみれば、血で赤く染めあがっていたので、恭佳は無言のまま手に持っているソウルイーターの刃に訝しげな視線を向けて、鋸刃が一本欠けている事を確認した。



「チッ! ホント厄介な相手ね。コイツ……」


「恭佳! どうかしたんですか!?」


「どうもこうもないわよ。この女……アタシのソウルイーターの鋸刃を折りやがったのよ。おかげでほら……」



恭佳は後ろに振り返り、自分の左頬をちょんちょんと指差す。

亜弥は凝らして恭佳の左頬を見つめ、そこに走る一筋の切り傷を確認した。



「どういう事です。恭佳、貴方自身には物理的攻撃は効かないはずでは……?」


「確かにここに居るアタシには効かないよ。でも、ソウルイーターコイツは別。今のアタシの本体はコイツ自身だから、ソウルイーターが傷つけばアタシにもダメージは通るわ……」


「なるほど。しかし変ですね。確か神器はそう簡単には破壊出来ないはずでは……? 仮に破壊するにしてもそのためには……」


「ええ。神器使い同士がそれぞれの神器の力を最大限まで引き出し、全力で戦えば完全に破壊する事も可能と言われている。だけどそんな事をすれば天災レベルの大参事が起こりかねない」


「ええ。その通りです」


「でも、叡智の城ヴァイスハイトのデータベースに記されていたのよ」


「何をです?」


「『神器を破壊する』ための神器が存在しているとね……」


「……それが奴の持っている神器だと?」


「恐らくね」


「一体なぜそんな物が……」


「さあね。そもそも神器がどういう経緯で創られたのか、誰が創ったのか、その辺の記録が全く無いからアタシにも分からないわ。まあ無いのではなく、消されたって可能性もあるけどね……」


「…………」


「あの……姉さん。恭佳さん。話の腰を折って悪いのですが、今はそれよりもあの戦闘獣人を倒す事に専念しませんか……」


「そうだよ。難しい話なんか後ですりゃいいじゃん……」


「おっとそうだったね。悪い悪い」



神器に関する疑問は確かにあるが、今はその事を議論するような場合ではない。

今やるべき事は、目の前に居る敵を倒し、この状況を打開する事である。

恭佳と亜弥は胸の内の疑問を振り払い、改めて樺憐に対峙する。



「さーて。仕切り直しと行こうかねぇ……」


「ターゲットの設定を変更。ソウルイーターの排除を最優先とする……」


「なっ!? コイツ……アタシをその名で呼ぶんじゃねぇぇぇぇぇっ!!」



恭佳は樺憐に『ソウルイーター』と呼ばれた事に対し激昂し、我を忘れてソウルイーターを大きく後ろに振りかぶった体勢で低姿勢のまま一直線に突撃を仕掛けた。

と言うのも、恭佳は本名ではなくこの名で呼ばれる事を非常に嫌っているのだ。

いや、ある意味こちらも本名には違いないのだが、恭佳曰く、これは気持ちの問題だとか。

まあ、そちらについては正直何とも言えないが、今の恭佳の行動がとてもよくない事だけは理解できた。



「ちょっ!? 恭佳! 無暗に突っ込んでは危険すぎますよっ!」



亜弥が手を伸ばしながら声を張り上げて恭佳を止めようとするが、もう後の祭りである。

今の恭佳は完全に頭に血が上ってしまっており、亜弥の声も届かず、恭佳は怒りに身を任せたまま一直線に樺憐に突撃し、距離が目と鼻の先まで縮まった所で振りかぶっていたソウルイーターを大きく振りおろした。



「うおぉぉぉらぁぁぁぁっ!!」


「…………」



しかし、樺憐は恭佳の一撃に全く動じる事無く姿勢を低くして素早く恭佳との間合いを詰め、目前までソウルイーターの刃が迫った瞬間に、樺憐は一呼吸のというほんの一瞬の間に一発、二発と両手の拳を叩き込んでその凶刃を打ち上げた。



「なっ!?」



恭佳自身に物理的ダメージを与える事は不可能ではあるが、本体であるソウルイーターその物は話は別だ。

打ち込まれた樺憐の拳の衝撃は本体であるソウルイーターにはもちろんの事、そのダメージは具現化してある恭佳の身体にもダメージは伝わり、全身に駆け巡る痛みで咄嗟の対応の動作が遅れてしまい、両手に持つ鎌を打ち上げられた姿勢のまま恭佳は無防備な状態を晒してしまう。

そして樺憐はその一瞬の隙を見逃す事無く、恭佳に止めの一撃を浴びせにかかり、距離を更に詰めてきた。



「…………」


「っ!?」



恭佳との距離はさほど離れていないため、以前に見せたブーストの勢いを利用した技を使ってはこなかったが、大きく後ろに引いている拳には魔力による物と思われる淡い緑色のオーラが放たれており、喰らえばただでは済まない事ぐらい容易に想像が出来た。



「やらせませんっ!」



だが、こういう時のために後ろに亜弥が控えているのだ。

亜弥は素早く二本の矢を双龍に番えて水平に構えながら樺憐に瞬時に狙いを定め、二本の矢を同時に放った。

そして今の亜弥は眼鏡を外して戦闘を行っているので、その狙いは眼鏡をかけている時よりもはるかに正確である。

樺憐に迫りくる矢は確実にその首筋を捉えていた。だが……。



「フッ!」



樺憐は恭佳への攻撃を中断し、右手に装着している手甲を使って矢を一本は弾き飛ばしはしたものの、もう一本は防げず、顔に被っている仮面の先端部に直撃してしまい、その衝撃で仮面が外れて宙を舞った。



「…………」



樺憐は体勢を立て直すべく、所々にメッシュを入れたような茶髪が入り混じった長い黒髪を振り乱しながらバク転を数回繰り返して恭佳から距離を離し、ある程度離れた所で最後に大きく跳躍して空中で華麗な回転を決めて地面に着地をして、それと同時に宙を舞っていた仮面が地面へと無造作に転がり落ちる。



「ふぅ……」



樺憐は小さく息を吐きながら右手で顔を覆い隠し俯いていたが、しばらくして顔を隠すのをやめ、構えを取り直して恭佳達を見据えながら改めて対峙した。

始めて露わとなった樺憐の素顔はとても凛々しくて落ち着いた雰囲気をしているが、まるで宝石のルビーのように赤い瞳から放たれるその鋭い眼光はまさに野生の獣と表現するに相応しいと言える。

その美しさに恭佳は思わず見とれてしまい、感嘆の声を漏らした。



「お~。アイツの顔、初めて見たけど……こりゃすごい美人さんだねぇ。いやぁ、敵なのが凄く残念だわぁ」


「ん~……?」


「亜弥。どうしたの?」


「いや、彼女……どうも誰かに似ているような気がするんですよ」


「はっ? 似てるって誰にさ?」


「それが分かれば苦労しませんよ」


「まっ、気になる気持ちは分かるけど、それは後回しにしときなよ。今は戦闘中なんだからね」


「分かってます。それと恭佳。今度はあんな無茶な突撃はしないでくださいよ。この闘い、勝てるかどうかは貴方次第なんですからね」


「はいはい。その点は反省してるわよ。……さて、仕切り直しだ。奈々瑠、臥々瑠。引き続きサポートの方は頼むわよ」


「…………」


「…………」



奈々瑠と臥々瑠の二人は恭佳の言葉に何の反応も示さない。

二人は構えを取ったままだが、その視線は樺憐に釘着けとなっていた。

そしてその表情はとても青ざめていた。まるで、目の前に立つ人物をよく知っているかのように。



「ちょっと二人とも。どうしたの? まさかアタシのさっきの無茶に怒ってるわけ? それなら謝るから無視はしないでよ」


「ど、どうして……」


「ん?」


「どうして……どうして貴方がここに居るんですかっ!?」


「……こんなの嘘だよね? ねえ? 何かの冗談なんだよね……? そうだって言ってよぉ!!」


「奈々瑠、臥々瑠。貴方達、彼女を知っているんですか?」



亜弥の問いに奈々瑠と臥々瑠は無言で頷く。

そしてその疑問に答えるべく、奈々瑠が口を開くが、彼女の口から告げられた内容はとんでもない事実であった。



「あの人は……私達の……母さんです……っ!」


「なっ!?」


「はあっ!? ちょ! ちょっと待ちなよ奈々瑠! そりゃアレかいっ!? つまり……あの女はアンタ達の実の母親って事なのっ!?」


「はい……」


「……二人とも。念のためもう一度訊きますが……本当に彼女は貴方達の母親なのですか?」


「アタシ達が見間違えるはずがないよ! あの人は……間違いなくアタシ達のお母さんなんだよ!」


「はい。あの人の顔を最後に見たのは幼い頃でしたが……間違いなく母さんです!」


「……おいおい。亜弥。どうするよ? これってかなり厄介な状況になってない……」


「ええ。なぜ奈々瑠達の母親が娘を前にしても敵対行動をとるのかは疑問ですが……確かに厄介です。出来る事なら私も彼女達の実の母を殺すような真似はしたくありません……」


「アタシもそれには同意見だよ。で、どうするの?」


「……難しいかもしれませんが、まずは話をしてみましょう。上手く味方に引き込めれば、この状況を回避できるかもしれない」


「そう都合よくいくかね……」


「ですが他に方法はありません……」



可能性は決して高くはないが、樺憐との戦いを回避する方法は他にはない。

亜弥も恭佳も、奈々瑠達の実の母親を手にかけるのは本意ではない以上は、彼女を説得するしかないだろう。

そしてその鍵となる存在は、実の娘である奈々瑠と臥々瑠の二人だ。



「奈々瑠、臥々瑠。彼女の説得は貴方達に任せます」


「はい!」


「うん!」


「ですが、彼女が現時点ではまだ敵だという事も忘れないでください。だから下手に近づかずに話もそこから行う事。そして、決して感情的にはならないで落ち着いて行ってください」


「分かってます」


「結構。ならお願いします」


「はい。……臥々瑠」


「うん」



奈々瑠と臥々瑠は互いに顔を見合わせながら一度軽く頷き、一歩だけ前に進み出て、闘う意思が無いという事も樺憐に伝えるために構えを解いて武器を収め、正面から樺憐の顔を見据え視線を交わし、まずは奈々瑠から口を開き、落ち着いた口調で話しかけた。



「母さん。お久しぶりですね。見た所……お元気そうですね。何よりです」


「…………」



樺憐は無言のままで、攻撃行動こそしないが、奈々瑠の言葉に対して何の反応も示さない。

だがここで感情的になってはダメだ。なぜ何も喋らないのか、なぜ敵対するのか、その点には触れないようにして次は臥々瑠が話しかける。



「お母さん。今までどうしてたの? お母さんまでこっちの世界に来てたなんて驚いたよ。苦労とか……してない?」


「…………」



樺憐は臥々瑠の言葉にも何の反応も示さなかった。

現時点では状況は平行線のままである。これに恭佳は一抹の不安を感じ取り、奈々瑠達の会話の邪魔をしないためにもと思い、念話を使って亜弥と会話を交わす。



『おい、亜弥。これホントに上手くいきそうなの? 正直アタシは見ていて不安なんだけど……』


『それは私だって同じです。ですが今は二人を信じましょう。幸い今の所、彼女は攻撃を仕掛けて来ようとはしていませんし、まだ最悪の状況にはなっていない様子』


『今はね。だけどアンタも分かってるだろ。現実はそこまで甘くはないって事くらい……』


『分かってますよそれぐらい……。私も最悪の状況を想定しつつ動くつもりです。ですが……それでも希望は捨てたくはありませんので』


『そうだね。アタシも奈々瑠と臥々瑠を泣かせるような真似はしたくはないからね』



恭佳の言う事は尤もである。

いま自分達は戦争で命のやり取りをしているのだ。戦場とは殺すか殺されるか、それだけの世界。

だがそれでも亜弥と恭佳の二人はほんの僅かな可能性に希望を持つ。

このような形とはいえ、奈々瑠達は実の母親と再会が出来たのだ。願わくば、樺憐をこちらに引き入れて彼女達を親子揃って日々を過ごさせたいと思っている。

亜弥と恭佳は最悪の事態を想定しつつもその胸に僅かな可能性の希望を抱きながら奈々瑠達の動向を固唾を飲んで見守る。



「母さん。最後に顔を見たのは幼い頃だから分からないのですか? 私ですよ。貴方の娘、奈々瑠です」


「…………」


「アタシもだよ。お母さんの娘の臥々瑠。忘れちゃったの?」


「…………っ! くぅっ! あぁ……っ!」



奈々瑠と臥々瑠の二人から聞かされた実の名。

それを耳にした途端、樺憐はまたもや両手で頭を抱えながら苦しみの呻き声を漏らし、苦悶の表情で身をよじり始めた。



「母さんっ!?」


「お母さん! どうしたの!?」



樺憐が突如見せた異変に、奈々瑠と臥々瑠は顔を青ざめさせて声を張り上げ、思わずそのまま駆け寄ろうとしてしまうが、亜弥が声を張り上げて二人を制止した。



「奈々瑠! 臥々瑠! まだ近づいてはいけませんっ!」


「姉さんっ!? で、ですが……っ!」


「そうだよ! どうして止めるのっ!?」


「二人の気持ちは分かります。ですがまだ安全と確定した訳ではないのです。ここは堪えて様子見に徹してください」


「……分かりました」


「うん……」



実の母が見せた異変。血の繋がった子が親を心配しない訳が無い。その点は亜弥も痛いほど理解している。

しかし、現時点ではまだ樺憐が味方になった訳ではないのだ。ならば不用意に近づくのは危険な行為に他ならない。

奈々瑠と臥々瑠もその点を理解しつつ、樺憐の身を案じながら不安げな表情でその姿を見守る。



「あぁっくぅ……っ! わ、私……は……私は……っ!」




樺憐は頭を抱えたまま俯いて、全身を小刻みに震わせながら呻き声を漏らしつつポツリ、ポツリとまるで自分に言い聞かせるように言葉を発し始めた。



「ん~? アイツ、一人で何をブツブツ言ってるの?」


「分かりません……」


「わ、私は……マスターの……命に……従い……全ての……敵を……殲……滅……する……者……っ!」


「マスター? 一体誰の事よ?」


「……考えられるとすれば、恐らく黒狼の事でしょうね。あの時も奴の事をマスターと呼称していましたし」


「あぁね。……しかしあの男がマスターか。まるで主従関係じゃないの」


「どうして母さんが黒狼に協力なんか……」


「アタシは信じない。あんなに優しかったお母さんがアイツに……黒狼なんかに協力するなんてアタシは信じないっ!」


「奈々瑠、臥々瑠……」



奈々瑠と臥々瑠は信じないし、信じたくはなかった。自分達にとって最愛の存在である母があの男に、黒狼に協力しているなどと。

亜弥も奈々瑠達の気持ちは理解している。だが現状を見る限りでは樺憐が劉備軍、黒狼の協力者であるのは事実としか言いようがない。

見知らぬ世界で行く当ても無く途方に暮れていた所を偶然劉備軍に拾われ、そのまま一員として協力しているのならば自分を押し殺して実の娘を前にしても敵対しているのだと納得できなくもないが、それではいま樺憐が見せている異変の説明がつかない。

亜弥はその点を疑問に思いながら、いつでも行動できるように警戒をしながら恭佳と共に樺憐の姿を静観する。



「あっぐぅっ! ……ち、違うっ! わ……わたくしは……そんな事……望んでないっ!」


「ん? 何だ? さっきと言ってる事が全然違うわね……」


「ええ。それに一人称が『私』から『わたくし』に変わってるのも気になりますね……」


「くぅっ! お、お願い……っ! わたくしを……止めて……っ!」



樺憐は左手で側頭部を押さえながら亜弥達に向かって右手を伸ばし、悲痛の表情で懇願してきた。

なぜ彼女は今になってこのような行動をとるのか。先程まで攻撃を仕掛けてきた人間が取る行動とは思えない。樺憐の不可解な行動に亜弥達の頭の中には疑問符しか浮かばなかった。



「んん~? 亜弥。アイツの行動、どういう意図があると思う?」


「……本心か、あるいは罠か。いずれにせよ、現段階では判断材料が無さすぎて見当がつきませんね」


「母さん……」


「お母さん……」


「お願いっ! 信……じて……っ! 早くしないと……また……っ! くぅっ……うあああああああっ!!」



樺憐が見せる更なる異変。それは以前劉備軍が攻め込んできた時に見せたモノと全く同じ。

両手で頭を抱え、天を仰ぎながら悲痛な叫び声を上げる痛々しい姿だ。



「またこれか。一体なんなのよ、あの女は……」


「…………」



亜弥は左手を顎に当てながら樺憐の姿を観察し、思考を巡らせる。

彼女の頭の中では樺憐の異変について一つの考えが浮かんでいるのだが、それはまだ仮説の段階でしかない。

なので、その事について確信を得るために奈々瑠達に疑問を投げかけてみた。



「奈々瑠、臥々瑠。貴方達の母親について質問があります」


「何ですか?」


「な~に?」


「彼女……もしや二重人格だったりとかはしませんか?」


「……亜弥。いきなり何を言い出してるのよ?」


「いえ。彼女の異変について私なりに考えてみたんですよ。先程見せた一人称の変化。わざわざ自分の一人称を変えたりする人なんて居ないでしょうし、そんな事をしても何の意味もありません。となると考えられる可能性は……」


「亜弥。アンタまさか……さっきまでアタシらを襲っていたのは、あの女の中に存在する別の人格だとでも言いたいの?」


「現状を見る限りではその可能性が一番高いと私は推測しています」


「確かに可能性が無いとは言えないけど……どうなのかしらねぇ」


「それを今から確かめるんです。……奈々瑠、臥々瑠。どうなんですか?」



亜弥の問いに対して奈々瑠と臥々瑠は互いに顔を見合わせながら考えるが、浮かんで来る答えは一つだけしかない。

と言うより、過去に置かれていた境遇によりそれ以外に情報が無いのだ。奈々瑠は落ち着いた口調で亜弥の疑問に答える。



「えっと……すみません。正直、分からないとしか言いようがありません」


「それはどういう意味です?」


「アタシ達、子供の頃に叡智の城の研究員達にお母さんから引き離されちゃってたから、それ以降の事は何も知らないの……」


「そうですか。では、彼女が戦闘獣人だった事も?」


「はい。引き離されてからは母さんとは一度も会っていませんし、研究員の人達も何も教えてくれなかったので。……でもまさか……母さんまで実験体にされていたなんて……っ!」


「全く。あそこに居た連中はロクな奴らじゃなかったんだろうね。反吐が出るよ……」


「その点は同感ですが……まあ、その叡智の城に保管されていた神器を使って戦争の片棒を担いでいる私達に言えた義理は無いでしょうがね……」


「確かにそうかもしれないけど……って、話が逸れたね。で、亜弥。今の話しを聞いて得たアンタの結論は?」


「可能性は五分五分。平行線のままですよ……」


「そもそも本当にアイツは二重人格なの? アタシが知ってる限りじゃ、二重人格の発症の原因は子供の頃に受けた心の傷とかが原因なんだろ? だったら発症する時期だって子供の頃のはずじゃ……」


「一般的にはそうですが、子供の頃には発症せず、大人になってからそれが原因で発症する例も少なからずあるんです」


「なるほど。しかし、どっちにしても今は情報が無さすぎ。推測で議論しても意味はない。まずはアイツを止める方法を考えないとね」


「分かってます」



現状では亜弥の考えは推測の域を越えないし、その事で議論を繰り返して時間を浪費しても意味はない。

いま彼女達が成すべき事は、樺憐を殺す事無く、可能な限り無傷の状態で無力化する事だ。

どちらにしても闘いは避けられないだろう。しかもこの闘いは、奈々瑠と臥々瑠を悲しませないために勝利を収める必要がある非常に難しい闘いとなるであろう。



「あぁっ! ぐぅぅっ! わ、私は……マスターの命に従い……敵対する者……全てを……殲滅……する……っ! それが……私の……役目っ!」


「ち、違うっ! わたくしは……そんな事を望んでなんかいないっ! お、お前は……わたくし……なんかじゃないっ!」



樺憐は頭を両手で抱え、一方は黒狼の命令に従う従順さを示すような言葉を発し、もう一方は苦悶の表情でそれを否定し、頭を激しく左右に振ってそれを振り払うような様子を見せた。



「……何? 今度は口喧嘩? 亜弥。二重人格者ってあんな風になったりするの?」


「どうでしょう。主人格が副人格の存在を認識し、意思疎通を行う例も実際にありますが……私も専門家ではありませんからこれ以上は分かりませんね」


「やれやれ。仕方ない。ここは一つ、アタシが一肌脱いでやるとしようかね」


「何です。何かいい方法でもあるのですか?」


「ああ。今のアタシは死神の力も使える身だからね。アイツの魂を見てみれば分かるかもしれない。本当に人格が複数あるのなら、魂の色も複数あるはずだからね」


「恭佳。なんでそういう事をもっと早く言ってくれないんですか……」


「いやだって、まさか敵が二重人格者とかそんな話になるなんて思わないじゃん」


「はぁ……まあ確かにそうですね。では恭佳、お願いします」


「ええ。任せなさい。奈々瑠、臥々瑠。危ないから二人も後ろに下がってなさい」


「はい……」


「うん……」



奈々瑠と臥々瑠は恭佳の言葉に素直に従い、不安げな表情で樺憐を見ながら後ろへと下がり、恭佳の動向を亜弥と共に見守る。

数歩前へ進み出た恭佳は、その眼に全神経を集中し、未だに頭を抱えながら悶え苦しんでいる樺憐の姿を凝視する。

それからすぐに、恭佳の眼から入ってくる映像に変化が起こり、樺憐の周囲の景色が漆黒の闇に包まれブラックアウトして樺憐の姿もゆっくりと姿を消し、それと入れ替わるようにその位置には掌に収まるサイズの白く光り輝く球体が浮かび上がった。恐らくこれが樺憐の魂という訳なのだろう。



(ん~? 見たところ色は一色しかないわね。となるとやっぱり亜弥の考えは違う事になるわね。だったらアレは一体なんなのよ……)



樺憐の魂と思われる白く光り輝く球体状の物体はどこからどう見ても色は白一色で、別の色らしき物は影も形も無い様子だ。

少なくともこの事から、樺憐が二重人格ではないという事はほぼ間違いないだろう。

だがこうなってくるとますます分からなくなる。樺憐が先程から見せている異変は自問自答とも見れる一人会話である。



(はぁ……手がかりは無しか。仕方ない。亜弥にこの事を報告……ん?)



恭佳は発動している術を解除して、得た情報を亜弥に報告しようとしたその時だった。

白く光り輝いてるはずの樺憐の魂の光が急に鈍ったので恭佳は違和感を感じ、もう一度凝視してみたのだ。

見た感じでは何の変化も無いように見えたが、よく見てみると周囲に黒色の細い鎖の形状をした何かが樺憐の魂に巻き付いてギリギリと締め上げているのだ。



(何アレ? 鎖……?)



樺憐の魂に巻き付いている黒色の物体は、糸のように細いが間違いなく鎖の形状をしている。

漆黒の鎖は樺憐の魂をきつく締め上げ、締め付けられた魂は輝きを失い、それと同時に鎖から黒い影のような物が伸びてその魂を覆い尽くそうとするが、再び魂が輝きを取り戻し、伸びていた影らしき物は光に晒され、まるで手から零れ落ちる砂のように崩れて消滅した。

そして再び魂は輝きを取り戻すが、鎖が締め付けて光を失わさせ、影を伸ばし、それを拒むようにもう一度光り輝く。これを何度も繰り返していたのだ。



(何、あの鎖……。まるであの女の魂を侵食しているような……ん? 浸食……?)



恭佳が何気なく使った『浸食』と言う単語。その時、彼女の頭に一つの仮説が浮かび上がった。

樺憐の魂に巻き付いているあの鎖こそが、黒狼に従順している人格の正体だとしたら。そしてあれを植え付けたのが黒狼だとしたら、と。そしてそこから得られた結論、それは……。



(まさか……あの女、洗脳されてるのっ!? いや、よく考えたらそれなら納得がいくし、黒狼ならそれぐらいやってもおかしくはない! それにしても……あの野郎っ! どこまでも卑劣な真似を……っ!)



黒狼の樺憐に対する非人道的な行為。恭佳はその事に対し激しい怒りを覚え、身体をワナワナと震わせる。

だが今はその事は一旦置いておくべきだ。確証があるわけではないが、樺憐の異変正体が分かったのならやるべき事は一つだけだ。恭佳は術を今度こそ解いて、分かった事を亜弥達に報告する事にした。



「亜弥……」


「恭佳。何か分かったのですか?」


「ええ。……彼女、恐らく黒狼に洗脳されてるわ」


「何ですってっ!? 確かなのですか……」


「確証は無いわ。でも、二重人格説よりこっちの可能性の方が高いわ……」


「なるほど。では、彼女を救う方法は?」


「…………」



亜弥の問いに恭佳は難しい顔をして黙り込んでしまう。

その姿に、奈々瑠と臥々瑠は不安に駆られてしまう。ここまで来て方法は無い、などと告げられでもすれば、二人の心は絶望のどん底へと叩き落されてしまう。

その事を知ってか知らずでなのか、恭佳は樺憐を正面から見据えながら重々しい口を開いた。



「方法はあるわ。だけど危険な賭けになるわよ。最悪の場合、彼女を殺してしまう恐れもあるわ……」


「まずは話を聞かせてください。それに……今回は決断を下すのは私ではないでしょうしね」


「やる事は難しくはないわ。アンタ達全員で、まずは彼女の動きを可能な限り止めてほしいのよ……」


「ふむ。その後は?」


「そのまま動きを封じ込めてくれれば構わないわ。ここからはアタシの仕事。アイツの動きが止まった隙を突いて、彼女の魂を縛っている枷をアタシのソウルイーターで斬る……」


「魂の枷? 何ですかそれは?」


「彼女の魂には鎖のような物が巻き付いているのよ。多分それが黒狼がかけた術の正体ね。それを文字通り、ソウルイーターで切断するのよ」


「……そんな事が可能なのですか? 貴方の神器は」


「ソウルイーターは文字通り魂を喰らう神器。つまり魂に干渉する力を持っているのよ。そのくらい造作もない事よ」


「なるほど。それで彼女は救えるのですね?」


「恐らくね」


「ならすぐにやりましょう! 恭佳さんっ!」


「うん! 動きを止めるのは任せといて! 必ずお母さんを助けるんだっ!」



恭佳から聞かされた樺憐を救う方法。

奈々瑠と臥々瑠の瞳に希望の光が宿り、すぐにでも実行しようと意気込むが、恭佳は難しい表情で首を左右に振り、二人を手で制止する。



「まだよ。話はまだ終わっていないわ……」


「なんです。まだ何かあるのですか?」


「亜弥。アタシがさっき言った事を忘れたの? 言ったでしょう。この方法は最悪の場合、彼女を殺してしまう恐れもあるのよ……」


「どういう事です……」


「さっき説明した方法だと、アタシがやる事は非常に繊細な作業になる。寸分の狂いも許されないね。もし失敗でもしたら……彼女の魂その物を斬ってしまうかもしれない。そうなれば彼女は間違いなく死ぬわ……」


「「っ!?」」



恭佳の口から告げられた危険性に奈々瑠と臥々瑠の顔は再び青ざめ、絶望の色へと染まる。

せっかく最愛の母を救える方法が分かったというのに、それに伴う死の危険性。

成功すれば母は救われるが、失敗すれば母は死ぬ。恭佳の言う通り、これは非常に危険な賭けである。



「奈々瑠、臥々瑠。どうするかはアンタ達二人が決めなさい」


「恭佳さん……」


「恭佳姉さん……」


「アタシは無理強いはしないわ。今ここで危険を冒してでも母を救うか、それともこの場で一度彼女を無力化して捕縛し、城に連れ帰って安全な方法を探すか……好きな方を選びなさい。もしも他に手立てがあるのならそれを選んでも構わない。どうするかは二人の自由にしなさい……」


「「…………」」



奈々瑠と臥々瑠は無言で互いに顔を見合わせて思考を巡らせる。

この場で危険を冒すも、安全策を選ぶも自分達の自由。他に方法があるのならそれを選んでも構わないと言われたが、そんな都合よくポンポンとすぐに思い浮かぶ訳がない。

ならば選択肢は二つしかない。そしてどちらを選ぶのかも、二人の中では既に決まっていた。

例え危険を冒してでも、今すぐに母を助けたい。ならば選ぶ選択肢は一つだけだ。



「恭佳さん。私達の答えは決まっています。例え危険を冒してでも、私達は今すぐに母さんを助けたいっ!」


「……本当にいいの? 下手をすれば母親を死なせてしまうかもしれないのよ」


「アタシ達は……恭佳姉さんを信じてるから。必ずお母さんを助けてくれるって!」


「アンタ達……」



奈々瑠と臥々瑠から向けられる自分に対する信頼。

その想いを受け、恭佳の胸の奥が熱くなる。下手をすれば母親を死なせてしまうかもしれないこの危険な方法に対し、奈々瑠と臥々瑠の二人は躊躇いも無く実行する決意を固めたのだ。

ならば自分がするべき事は、この二人の信頼に応えるべく最善を尽くす。恭佳は自分にそう言い聞かせ、ソウルイーターを構え直して樺憐に対峙し、不敵な笑みを浮かべた。



「フフッ。そこまで言われちゃアタシも期待には応えてあげないといけないわね。亜弥。アンタにもしっかりと働いてもらうわよ?」


「フッ。もとよりそのつもりですとも」


「オッケー。ならみんな……行くよっ!!」


「ええ!」


「はいっ!」


「うんっ!」



全員の目的が一つとなり、恭佳達は一斉に行動を開始する。

やるべき事はただ一つ。樺憐を黒狼の呪縛から解放して救い、この無意味な闘いに終止符を打つ事だ。



「ぐっ! ぐ……ぐるるるるる……」



黒狼の洗脳に負け、樺憐は野獣のような唸り声を出しながら構えを取り、鋭い眼光を恭佳達に向けて迎撃態勢を取った。

だが恭佳達はそれに怯む事も無く、正面から向かっていく。やる事は決まった。迷う必要は無い。

彼女達の中にあるのは、樺憐を助けるために最善を尽くす。それだけなのだから。



「亜弥っ! まずはアンタのお得意の射撃で彼女の牽制をっ!」


「任せてくださいっ!」



亜弥は恭佳の指示の下、双龍に矢を番え、一発、二発、三発と立て続けに速射を行い、樺憐の牽制と同時に動きの封じ込めにかかった。



「くっ! ぐぅっ! うがあぁっ!!」



樺憐は獣のように吠えながら両手の手甲を使って亜弥が放った矢を弾き飛ばしはするものの、そのたびに次の矢が空を斬りながら飛来し、防御をするだけで手一杯になりその場から一歩も動けなくなってしまう。今こそ好機。恭佳は次の手に出る。



「奈々瑠! 臥々瑠! 今よ! あの大木まで彼女を一気に押し込んでっ!」


「はいっ!」


「任せといて!」



続いて奈々瑠と臥々瑠がその場から一気に踏み込んで樺憐との距離を詰め、全身を使いありったけの力を籠めて樺憐の背後にそびえ立っている大木まで一気に押し込んでいく。



「ぐがっ!? があああっ! うがあああっ!」



樺憐は咆哮を上げながら奈々瑠と臥々瑠を引き剥がそうとするが、母を救いたいという想いのおかげなのか、今は二人の力が圧倒的に勝っておりどんどん後方へと押し返していく。

樺憐も負けじと両脚を使って踏ん張ろうとするが、全く止まる事が出来ず、地面には樺憐の両脚がつけた溝が出来上がっていき、ついには大木まで押し込まれてそのまま奈々瑠と臥々瑠は樺憐を動けないように押さえつけに入る。



「ぐあああっ!! うがああっ!!」



押さえつけられた樺憐は喚き散らしながら首を乱暴に振り乱し、奈々瑠と臥々瑠を引き剥がそうとするが、その程度の事で二人は離れたりなどしない。

ならばと思い、樺憐は両手を使って奈々瑠と臥々瑠の頭部に手甲による打撃を何度も叩き込み始めた。



「ぐっ! くぅ……っ! 臥々瑠……絶対に離すんじゃないわよっ!!」


「分かってる……よっ! お母さんを助けるためだもん! このくらいの痛み……何でもないっ!!」



ガンガンと手甲による打撃を何度も叩き込まれている奈々瑠と臥々瑠の頭部には激しい痛みが走るが、二人は歯を食いしばり、その痛みに怯むことなく全力で樺憐を押さえつける。

その間も樺憐は容赦無く二人に拳を叩き込み続け、次第に奈々瑠と臥々瑠の額から血が流れ始め、樺憐が身に着けている手甲も赤く染めあがり始め、辺りに二人の鮮血を飛び散らせていた。



「恭佳っ! このままでは二人がっ!!」


「分かってるっ! ……奈々瑠、臥々瑠。もう少しだけ我慢しといてね……」



ここまでは順調。次はいよいよ恭佳の出番だ。

ここまで来たら失敗は許されない。自分を信じてくれた仲間達のためにも、絶対に成功させねばならない。

恭佳は眼に全神経を集中させ、再び樺憐を凝視する。それにより術が発動し、辺りの風景はブラックアウトし、樺憐の姿も漆黒の闇に消え、樺憐が居た位置には彼女の魂がぼんやりと浮かび上がる。

樺憐の魂は輝きが失われており、鎖の浸食のせいもあって純白から仄暗い灰色へと変色していた。



「…………」



恭佳は無言でソウルイーターを大きく振りかぶり、樺憐の魂に巻き付いている鎖に狙いを定める。

やる事は一つ。あの忌まわしき鎖の切断、それだけだ。言葉にすれば簡単そうに聞こえるが、決して簡単ではない。

切断するべき鎖は樺憐の魂に巻き付いているのだ。少しでも狙いが狂えば、間違いなく魂ごと鎖を斬ってしまうだろう。

その事に対するプレッシャーから、恭佳の顔には冷や汗が流れ、手にも震えが起こってカタカタとソウルイーターが小刻みに震え始めた。



(くっそ! こんな時に何を考えてるのよアタシはっ!? 落ち着け。余計な事は考えるな。今はあの鎖を斬る事に集中しないと……)



恭佳は気持ちを落ち着けようと何度も深呼吸を繰り返す。

だがそれでも恭佳の緊張が解れる様子はなく、未だに手の震えは収まろうとしなかった。



(くっ! ダメ! こんな状態じゃ間違いなく失敗する! だけどここまで来てやめる訳にはいかないっ! どうすれば……っ!)



緊張に縛られた状態の恭佳は眼を瞑って途方に暮れてしまう。ここまでなのかと諦め、彼女の心が折れかけたその時だった。恭佳の頭の中に、聞き覚えのある声が響いたのだ。



『大丈夫。姉さんなら出来るさ』


「えっ!? れ、零治っ!?」



恭佳は思わず声を出して辺りをキョロキョロと見回す。

だが周囲は見渡す限り漆黒の闇が続く異空間。零治の姿は無かった。



(今のは……念話……?)


『そうやってすぐに投げ出すのは姉さんの悪い癖だぞ。ほら。早く包丁を持てよ』


(はっ? 包丁?)



今この場で口にするにはあまりにも場違いな単語を零治に聞かされ、恭佳は首を傾げる。

別に料理をする訳でもないのになぜ包丁という単語が出てくるのか恭佳は理解に苦しんだが、しばらくして何かを思い出したように頭を上げた。今の台詞には聞き覚えがあるのだ。



(あっ……もしかしてこれ……あの時の?)



恭佳は何か思い当たったのか、両眼をそっと閉じてみる。

するとその脳裏には当時の出来事の映像が鮮明に蘇ってきた。


………


……



それは元居た世界で、まだあの悲劇が起こる前の出来事だった。

恭佳の料理の腕前が壊滅的という事が発覚したので、自分の食事事情のためにもと思い、零治自身が料理のスキルを身に着けてしばらくしてからの事。

零治の料理をする姿を見て、やはり自分もと思い、恭佳が零治に料理の練習のための講師を務めてくれと頼んだのだ。

零治はこれを快く承諾。なので西軍基地内の零治の自室に設けられているキッチンに零治と恭佳は立ち、ここに恭佳のための料理教室を行う事となった。



「いやぁ、今日は悪いわね、零治。折角の休日にこんな事に付き合わせちゃって」


「気にするなよ。姉さんが自分から料理を教えてくれなんて言ってきたんだ。引き受けない訳にはいかないさ」


「いや、それでもありがとね。……で? 今日は何を作るの?」


「急だったから材料の買い足ししてねぇんだよなぁ。何か残ってるかぁ?」



零治はブツブツと独り言を言いながら冷蔵庫の扉を開け、中をゴソゴソとあさり始める。

中には牛乳のパックや缶ビールなどや、食料品もチラホラとあるはするが、ほとんど残り物のレベル程度の物だった。



「あるのは……使いかけのシュレッドチーズに、食パンが一枚に解凍した冷凍物のエビぐらいか。後は大した物が無いな」


「その割にはビールはしっかり常備してるのね……」


「なに言ってんだよ。コイツは必要不可欠だろ?」


「いや、全員がそういう訳じゃないからね」


「はいはい。ここはこんなもんか。次は冷凍室を調べるかね」



冷蔵室にはこれ以上めぼしい物が無さそうなので、零治は次に下の段の引き出し式の冷凍庫を開けて中をゴソゴソとあさり始める。

そこにも大した物は無いが、どういう訳か青色の酒の瓶が一本収められており、ラベルには『GIN』と大きな字で書き記されていた。



「……使えそうな物は無いな」


「でもジンのボトルはあるのね……」


「…………」


「アンタ普段どんだけ呑んでるのよ……?」


「さあ? アル中ほどじゃないと思うぞ」


「それならいいけど……。で、何を作るか決まったの?」


「ちょっと待ってくれ。……ん~。野菜室にはキャベツとレタスにニンジンがあるな」



零治は冷蔵庫の前から離れ、今度は横の壁側に設置してある小さな棚の戸を開けて中をあさる。

棚の中には様々な調味料やその他諸々が収められており、零治はそれらと睨めっこをしながら右手を顎に当てて唸りなが思考を巡らせ、やがて考えが纏まったのか一度軽く頷いて恭佳に向き直った。



「お待たせ。何を作るか決まったぞ」


「そりゃよかった。で、何にしたの?」


「エビマカロニグラタンと野菜サラダに決まりだ」


「…………」



ようやく作る料理が決まったのに、なぜか恭佳は黙り込み、零治に恨めしげな視線を向けている。



「何だよ?」


「零治。アタシの料理の腕が初心者にもかかわらず何でそんなレベルの高い料理にするのよ。アタシに対する嫌がらせ……?」


「心配すんなよ。グラタンはオレが担当するから。姉さんはサラダの方に専念してもらう」


「ちょっと。それじゃ野菜を切って終わりじゃないの」


「姉さん。初心者にいきなり火を使う料理とかやらせるわけにはいかないだろ?」


「そこはアンタが横で指示すりゃ済む話じゃないの」


「ダメだ。姉さんにはまずは包丁の扱いに慣れてもらわなきゃならん。こればかりは譲らんぞ」


「……分かったわよ」


「分かればよろしい。なら始めるぜ。エプロン着用」


「はいよ」



零治と恭佳の二人はエプロンを身に着け、包丁を片手にキッチンに立ち、料理を開始。

ここに、零治の料理教室が始まった。


………


……



「…………」



いざ料理を始めたのは良いものの慣れてないせいもあり、恭佳は包丁を握ったまま、まな板の上に置かれているキャベツ、ニンジン、レタスと睨めっこをしたまま直立不動の姿勢を保って途方に暮れていた。

それとは対照的に零治はというと、その横でグラタンの要であるベシャメルソースの調理に取り掛かっており、火にかけたソースパンに溶けかけのバターに小麦粉を加えた物を木べらで混ぜ合わせ、牛乳を少しずつ加えながら仕上げに取り掛かっていた。

その際にチラリと恭佳に視線を向けると手が止まっていたので、調理中にもかかわらず零治は声をかけた。



「姉さん。手が止まってるぞ。早くしてくれよ。エビを捌くのにオレもまな板を使うんだから」


「いや、分かってるよ。……零治」


「何だよ?」


「この野菜、どんな風に斬ればいいの?」


「……いま字がおかしくなかったか?」


「気のせい気のせい」


「そうかぁ? ……まあ、キャベツとニンジンは千切りにすればいいさ」


「レタスは? ざく切りにでもするの?」


「レタスは手で適当なサイズに千切るんだよ」


「何で?」


「知らないのか? レタスは包丁で切ると切り口の細胞が押し潰されて、破壊された細胞質が空気に触れやすくなるから酸化反応を起こす。そうなると色が赤く変色して見た目も悪くなるし、味も落ちるんだよ」


「そうなの? でもそれって、手で千切っても変わらないんじゃないの?」


「確かに手で千切った場合も細胞の繋がりは切断するが、破壊が包丁で切る場合よりも少ないから変色に加速がかからない。だからレタスは手で千切るのが基本なんだよ。分かったか?」


「ええ。よく分かりましたよ、先生」


「先生はいいから早く作業を終わらせてくれよ。こっちはベシャメルが出来上がっちまったぞ」



話をしている間も零治はしっかりと作業の手は進めていたようで、ソースパンの中にはとろみの付いた真っ白のベシャメルソースが完成しており、湯気を立ち上らせていた。



「わ、分かってるわよ。ここはいいから、アンタはグラタン作りに専念しなさいよ」


「はいはい。……エビを捌くのは後になりそうだな。先にマカロニを茹でておくかね」



零治はベシャメルの入ったソースパンを空いてる未使用のコンロの上に置き、次に鍋を取出して中にたっぷりの水を張りそれを火にかける。

その間に零治は一旦その場から離れ、調味料類を仕舞ってある棚の中から乾燥マカロニの入った袋を取出し、鍋の前まで戻ってきて水が沸騰するのをジッと待つ事にする。

その際にようやく恭佳が動きだし、まずはキャベツのの千切りから始める事にした。



(え~っと、まだ慣れてないからあの方法でやろうかね)



恭佳はまずキャベツの葉を一枚手で千切り取って慣れない手つきで芯を切り取り、次にそれをクルクルと丸めて葉巻のような形にして左手でしっかりと固定し、右端に包丁の刃をあてがった。



「へぇ~。姉さんも少しは野菜の切り方に心得があるみたいだな」


「……もしかしてバカにしてるの?」


「いやいや。褒めてるんだよ」


「ならいいけど……」



恭佳はなんとなく腑に落ちない気分だったが、今はそれよりも野菜を切る事に専念しよう思い、覚悟を決めて包丁を動かそうとした。

が、恭佳があるミスをしていたので、零治は横から口を挟んで注意を促した。



「姉さん。左手、左手」


「ん? 左手がどうかしたの?」


「どうかしたのじゃない。猫の手になってないぞ。そのままじゃ自分の指も一緒に切っちまうぞ」


「へっ? ……あっ!」



零治の指摘を受けて恭佳は自分の左手に視線を落として声を上げた。

確かに零治の言う通り、恭佳の左手の指は伸ばしっぱなしで猫の手の形をしていない。もしも零治が止めていなかったら、恭佳は間違いなく自分の指ごとキャベツを切っていただろう。



「全く。危なっかしいったらありゃしない。勘弁してくれよ。血の味がするサラダなんかオレは食いたくないからな……」


「あ、あはははは……」



零治の指摘に恭佳は引きつった笑みを浮かべ、乾いた笑い声を出しながら左手で後頭部を掻いて誤魔化す。

初っ端から自分の指を切るなんてミスをすれば零治から包丁を取り上げられかねない。

恭佳は左手をちゃんと猫の形にしてキャベツの葉を軽く押さえ、ぎこちない手つきで少しずつキャベツのカットを始める。

微妙に危なっかしい手つきだが、今のところ問題は無さそうなのと、鍋の水が沸騰してきたので零治は中にマカロニをブチ込み、茹で上がるのを待ちながら恭佳の手つきを注視する。

しばらく恭佳の悪戦苦闘は続いたものの、何とかキャベツの千切りを終える事が出来た。



「はぁ~。何とか終わったわ」


「ああ。キャベツだけな……」


「…………」


「オレならマカロニが茹で上がるまでに終わらせれたのに、まだキャベツだけとはな」


「言いたい事は分かってるわよ。でもしょうがないじゃないの……」


「はいはい。そうでしたね。レタスはオレが代わりにやるから、姉さんはさっさとニンジンの千切りをやってくれよ」


「え、ええ……」



このままではいつ料理が完成するか分かったものじゃないので、見かねた零治は手伝う事にして、ヒョイッと左手を伸ばしてレタスの球を鷲掴み、右手で葉を適当な大きさに千切りとって皿の上にポイポイと落としていく。

それに対して恭佳はまな板の上に置かれたニンジンを前にまたしても作業の手が止まり、どう行動したものかと頭を悩ませていた。



(次はコイツの千切り……って、あれ? そういやニンジンの千切りってどうやるの? 千切り自体は見た事あるけど、よく考えたらやり方を知らない。ってか、千切りに出来るの? こんなバットみたいな形の野菜を。……考えても仕方ない。また零治に何か言われる前に、手を動かさないと)



このまま突っ立ったまま何もしない訳にはいかない。とりあえず恭佳は分かる範囲で作業に取り掛かる事にする。

まずはニンジンのヘタの部分を切り落とし、次にピーラーを使って皮を剥き取り、横に寝かせたニンジンの中央に包丁を入れて半分にカットする。

ここまでは順調。しかし問題はこの先である。恭佳は半分にカットしたニンジンの太い部分をまな板の上に立ててまたもや睨めっこを始める。



(え~っと、千切りにするにはこっからどうすればいいんだろ?)



恭佳は思考を巡らせ、あれやこれやと考えてはみるが一向に千切りのやり方が思い浮かばない。

因みにこの場合は、ニンジンを縦に薄くスライスしていき、それを重ね合わせて切る方法がセオリーである。

が、恭佳は常識では考えられない方法を思いついてしまった。



(もしかして……ここから眼にも止まらぬ速さで包丁を振って細切れにするとか? いや、きっとそうに違いない。包丁と言えど刃物。なるほど。歴代の剣の達人はこうやって日々鍛錬をしていたのね。いや~、料理も奥が深いのねぇ。まさか剣術の鍛錬にも繋がっていたとは……)



一体どういう思考回路を持ったらこんな考えに辿り着くのか理解に苦しむ。

料理で剣術の鍛錬など出来る訳が無いし、それ以前に包丁と剣では長さが全く違う。

出来るとすればせいぜいナイフファイトぐらいだが、料理にそんなスタイルを取り入れる人物など居やしないだろう。

しかし恭佳は一人で納得したようにうんうんと頷き、順手に包丁を持ってナイフファイトの構えを取る。

因みに零治はというと、レタスを千切り終え、食器棚から耐熱皿を探している最中なため恭佳の挙動には全く気付いていない。



(フッフッフ。覚悟しなよ、ミスターキャロット。今からアンタはアタシの手で千切りになるんだよ……)



恭佳はまるで戦闘時のような顔つきになり、不敵な笑みを浮かべながらまな板の上にあるニンジンを見つめる。

零治は未だに食器棚をガチャガチャとあさりながら耐熱皿の在処を調べている真っ最中だ。

こうなってはもはや恭佳を止める事は出来ないだろう。

恭佳は一度大きく息を吐いて精神を落ち着け、包丁をまるで刀のように両手で持ちながら大きく振り上げ、ニンジンを凝視しながらついに動いてしまった。



「はぁぁぁぁぁ……」


「ん……?」



恭佳が低い声を出しながら闘志を高めている様子を零治は感知したので、何事かとそちらに視線を向ける。

だが時すでに遅し。恭佳は既に包丁を振り下ろす体勢に入ってしまっている。もはや止めるのは不可能だ。



「チェストォォォォォォっ!!」


「ちょっ!? 姉さん何してんだっ!!」



いきなり裂帛の気合いを放ちながら恭佳は包丁を眼にも止まらな速さで何度も縦に振りおろしてニンジンを滅多斬りし始めたので、零治は慌てながら背後から羽交い絞めにして恭佳を止めるが遅かった。

目の前のニンジンは確かに千切りの形はしていたが、やり方がやり方だったのでまな板には包丁を叩き付けた傷が無数についていて、すっかりボロボロになってしまっていた。



「どうだい零治! アタシもやるときゃやるのさ。見事な千切りだろぉ?」


「…………」



自分のバカな行動に対して悪びれるどころかやりきったと言わんばかりの満面の笑みを見せる恭佳。

確かに彼女の言う通り、まな板の上にあったニンジンは綺麗な千切りになってはいるが、明らかにやり方が常識外れである。

本来ならここは怒って注意すべきなのだろうが、恭佳の笑みを前にして零治は怒る気力を失い、呆れたように首を横に振って口を開いた。



「確かに綺麗な千切りだが……姉さん、一つ質問がある」


「何?」


「今さっき……何をしたんだ……?」


「何って、ニンジンの千切りだよ?」


「オレにはどう見ても滅多斬りしているようにしか見えなかったぞ……」


「えっ? でもニンジンって、ああやって千切りにするもんなんでしょう? 剣術の鍛錬も兼ねて」


「……はっ? 姉さん。いきなりなに言ってんだ?」


「いやだって、あんなバットみたいな形をした野菜を千切りにするなんてそれしか考えられないじゃん。剣を振る要領で包丁を眼にも止まらぬ速さで振って、料理をしながら剣術の鍛錬も行う。まさに一石二鳥。いやぁ、歴代の剣の使い手もこうして自分を強くしていたんだと思うと感心するよねぇ」


「……一体どこの世界にそんなバカな方法の訓練をする奴が居るんだ? いや、現に目の前に一人いるが……」



恭佳が当然のように答えた話を聞かされた零治は心底呆れたと言わんばかりに項垂れた。

一体どこでどう間違えたらそんなバカな結論に達する事が出来るのか、零治の頭の中はその事で一杯になり、恭佳と料理を始めた事を後悔しそうになった。



「えっ? もしかしてアタシ……間違ってる?」


「もしかしては不要だ。完全に間違ってるよ……」


「ええっ!? じゃ、じゃあどうやって切るのよ!?」


「はぁ……まだニンジンは残っているな。なら説明してやるから、姉さんは言われた通りに手を動かせよ?」


「えっ? アンタが手本を見せてくれるんじゃないの?」


「本来ならそうするべきなんだろうが、もうニンジンはこれしかない。だからオレが横から指示してやるから、姉さんはその通りに手を動かせばいい」


「…………」



恭佳はとんでもない間違いを犯してしまったとようやく理解し、零治が残りのニンジンを使って手本を見せてくれると思っていたのだろう。

しかし、零治から告げられた言葉は違い、口頭による指示だけ。ニンジンを切るのは自分自身。

それを聞かされた恭佳はまな板の上に残っているニンジンの片割れを嫌そうに見つめる。



「ほら。姉さん、やるぞ?」


「はぁ~……や~めた」



恭佳は零治の促しに従うどころか無造作に包丁をまな板の上にポイッと投げ、両手を頭の後ろに組んでクルっと踵を返し、ユラユラと身体を左右に揺すりながら調理台から離れていく。

これが何を意味しているのかは考えるまでも無い。恭佳は料理を途中で投げ出したのだ。

かといってこのまま恭佳を放置するわけにはいかない。講師を引き受けた以上は最後までやらせなければ意味が無いし、何より恭佳本人が教えてくれと頼んできたのだ。これでは本人のためにはならないから零治は恭佳を背後から呼び止める。



「おい。姉さん、戻るんだ」


「もういいよ。やっぱアタシに料理は向いてないんだ。やるだけ時間の無駄だよ。零治、悪いけど後は任せたよ」


「あぁ……また始まっちまった。そうやってすぐに投げ出すのは姉さんの悪い癖だぞ。ほら。早く包丁を持てよ」


「いいよ。アタシにこれ以上なにかさせたら……キッチンが爆発しちゃうかもよ……?」


「んな事あるか。大丈夫。姉さんなら出来るさ」


「どうしてそう言い切れるのよ……」


「だってこのニンジン、まあやり方には問題があったが綺麗に切れてるじゃないか。まな板は傷だらけだけど……」


「…………」


「少なくとも姉さんは刃物の扱いは上手いんだから、やり方さえ間違えなければ問題は無いさ。なっ? だから最後までやって、二人で旨い飯を食おうぜ」


「……はぁ。分かったわよ。その代わり、何かやらかしても文句は言わないでよ?」


「それは姉さん次第だな」



恭佳は諦めたように嘆息し、零治の説得にも何とか応じてくれ、一度は投げ出した料理に再チャレンジする事を決め、調理台の前に戻って包丁を手に取り、残ったニンジンの前に対峙して料理を再開。

横で指示する零治の言葉に耳を傾けながらぎこちない手つきでニンジンの千切りを開始した。


………


……



「あぁ~、懐かしいわねぇ。あれから何とか料理も無事に完成して、零治と二人でビールを呑みながら食べたんだったね。旨かったなぁ。あのグラタン」



恭佳はこの状況にもかかわらず、遠い眼をして軽く上を見上げながら零治と二人で作った料理に想いを馳せるが、なぜか自分が作ったサラダには全く触れようとしない。こういう場合は、やはりそっとしておくのが一番なのかもしれない。

まあそれは置いといてだ、なぜこのタイミングで過去の出来事がフラッシュバックしたのかは分からないが、恭佳はこう考えた。

これはもしかしたら、零治が諦めかけた自分に対して応援をしてくれているのだと。

そのおかげなのか、先程まであった緊張は完全に解れ、手の震えもいつの間にか止まっていた。

今ならやれる。恭佳はそう確信し、己の力量を信じて役目を果たす決意をした。



「そうだよね。やる前から諦めるのはアタシの悪い癖だ。でも……もう迷わない! アタシは自分を信じて彼女を、奈々瑠と臥々瑠の母親を助けるっ!」



恭佳は正面にぼんやりと浮かび上がっている樺憐の魂を見据え、ソウルイーターをしっかりと握りしめながら構え、集中力を高めながら樺憐の魂に巻き付いている忌まわしい鎖に狙いを定める。

大丈夫、自分になら出来る。恭佳は自分にそう言い聞かせて集中し、そして……ついに動いた。



「でやあぁぁぁぁぁっ!!」



恭佳は地面を蹴って一気に踏み込み、目の前に浮かんでいる魂との距離を詰める。

距離が目と鼻の先まで縮まった時、恭佳は左足を使って踏み止まるように自身にブレーキをかけて勢いを殺し、そして後ろに振りかぶっているソウルイーターを、樺憐の魂に巻き付いている鎖に向かって大きく振りおろした。



「うおぉぉっ! 斬り裂けぇぇぇぇっ!!」



振り下ろされたソウルイーターの刃の先端は見事に鎖を捉え、魂を傷つける事無く斬り裂いた。

斬り裂かれた鎖は軽い金属音を響かせて砕け散り、呪縛から解放された樺憐の魂は元の輝きを取り戻し、今まで以上の白い光を放ち始める。

あまりの眩しさに恭佳は思わず眼を瞑り、左手を顔にかざして光を防ぐがすぐに輝きは収まり、耳に聞き覚えのある声が聞こえてきたおかげで現実へと引き戻される。



「母さんっ! 母さんっ! しっかりしてください!!」


「お母さん! お母さんっ! 眼を開けてよ! ねえ! お母さんってばぁ!!」



恭佳の眼に飛び込んできた光景は、意識を失い地面に仰向けに倒れ込んでいる樺憐。そしてその両脇を挟むように涙目で身体を揺さぶりながら嗚咽交じりの声で必死に声をかけている奈々瑠と臥々瑠の姿だ。

目の前の光景に恭佳は一瞬失敗してしまったのではないかと不吉な結末が脳裏をよぎったが、頭を左右に振ってそれを振り払う。

大丈夫だ。失敗はしていない。間違いなく成功したのだ。恭佳はそう信じて大きく息を吐き、手に持つソウルイーターを肩に担いだ。



「恭佳。成功……したのですか?」


「大丈夫。彼女は生きているわ。その証拠に……ほら」


「…………うっ。うぅ……」



恭佳が顎をしゃくって樺憐を見るように促すので、亜弥も視線を向ける。

彼女の方を見てみれば、意識をようやく取り戻したのか、樺憐の口から呻き声が漏れ、両眼をゆっくりと開く。

初めの内は視界がぼやけていたが、やがて意識もはっきりとして視界も鮮明になり、奈々瑠と臥々瑠に視線を合わせた。



「奈々……瑠? 臥々……瑠?」


「母さん!? もしかして……分かるのですかっ!?」


「ええ。分かるわよ。貴方は……わたくしの大事な……娘ですもの」


「お母さん! 元に……本当に元に戻ったのっ!?」


「そうよ、臥々瑠。大きくなったわねぇ。お母さん……ビックリしちゃったわぁ」



不安げに覗き込んでくる奈々瑠と臥々瑠を安心させるように樺憐は優しく声をかけ、ニッコリと穏やかな笑みを浮かべる。

その姿は紛れもなく愛娘に向ける母親の笑顔だ。これを見て、恭佳達は樺憐が黒狼の呪縛から解放されたのだと確信する。



「か、母さん……母さぁぁぁぁぁんっ!!」


「お母さん……お母さーーんっ!!」



奈々瑠と臥々瑠の両眼からは涙が溢れ、二人は泣きじゃくりながら樺憐に抱き付いた。

こんな形とはいえ、実の母と再会する事が出来たのだ。嬉しくない訳が無い。

樺憐はよしよしと二人の頭を優しく撫で回し、涙を流しながら静かに語りかけ。



「二人とも……ゴメンね。ゴメンね……っ! お母さん、貴方達に酷い事を……っ!」


「いいんです! いいんです! 母さんは悪くありません! 母さんが無事なだけで私達は嬉しいんですから……だから泣かないでください……っ!」


「うん! うん! お母さんは何も悪くないから。……ひっく……お母さん。これからはずっと一緒だよね? もう離れ離れになったりしないよねっ!?」


「勿論よ、臥々瑠。これからわたくし達は……ずっと……一緒よ」


「母さん……うあああああああん!!」


「わああああああん!! お母さーーーんっ!!」



奈々瑠と臥々瑠はありったけの感情を吐き出すように脇目も振らずに大声で泣き喚いた。

今の状況下で大声を出すのは決していい事ではないが、親子の感動の再会なのだ。それに水は差すまいと思い、恭佳と亜弥は穏やかな笑みを浮かべてその姿を見守った。



「ふふっ。何だか良いですね、こういうの」


「そうだね。ここが戦場じゃなきゃもっと良かったんだがね」


「それは言わないお約束です。……ふぅ」



亜弥は小さく息を吐き、上空を見上げる。とりあえず樺憐を止める事は出来たがまだこれで終わりではない。劉備軍が残っている以上はまだ戦闘は続くだろうし、何より気がかりな事があるのだ。



「亜弥。どうしたのさ?」


「いや……零治の事が気になって」


「あぁ……」


「無事だと良いのですが……」


「アイツなら大丈夫さ。なんたってアタシの弟なんだからね」


「フッ。そうでしたね」


「……っと。そうだ。亜弥、悪いけどタバコを一本貰える?」


「珍しいですね。貴方がタバコを吸いたがるなんて」


「久々に吸いたくなったのさ。大仕事の後の一服は格別だからね」


「まあ別に構いませんが、私のタバコ、銘柄がジョーカーじゃありませんけどいいんですか?」


「構わないよ。今はとにかく煙が吸いたい気分なんでね」


「はいはい。分かりましたよ」



亜弥は双龍を鞘に納め、懐からタバコの箱を取り出してトントンと上部を指の腹で叩いてタバコを一本取りだして恭佳に手渡す。

それを受け取った恭佳はタバコを口にくわえ、亜弥が手をかざしながらライターに火を灯し、恭佳はゆっくりとタバコの先を火に近づけて静かに息を吸い、タバコに点火した。



「……フーー……。あぁ、久々に吸うと頭がクラクラするわ」


「死人がヤニクラなんか起こすんですか?」


「フッ。さあね。……フーー……」



恭佳はニッと口角を上げて亜弥に笑みを見せて、空に向かって煙を吹き出す。

上空を揺らめきながら漂う煙を見つめながら、恭佳は誰にも聞こえない小さな声で呟く。



「零治。ありがとう……」



あの時の出来事があったからこそ、あの時零治に言われた言葉があったからこそこの作戦は成功したのだと恭佳は思った。だから感謝の言葉を零治に送った。別の地で戦う弟の身を案じながら。

作者「いや~。予想以上の字数。それに時間がかかってしまったぜ」


零治「まあ、それは今に始まった事じゃないが。しかし……まさか樺憐が奈々瑠達の母親とはな」


亜弥「あっ。この流れだともしや彼女も?」


作者「ああ。次回からここに来てもらう」


恭佳「また人が増えるのかよ。カオスに更に拍車がかかりそうね」


奈々瑠「所で修正の方は?」


作者「そっちはまだだ。が、行動方針は纏まったぞ」


臥々瑠「うん? どうするの?」


作者「まずは定軍山の話を終わらせる。修正作業はその後に始める。まあ、余裕があったらちょこちょこそっちも進めるつもりだが」


零治「なるほど。で? 定軍山の話はいつ頃に終わるんだ?」


作者「それは訊くな。オレも多忙の身だから大変なんだよ。樺憐の設定も書かないといけないし……」


亜弥「ちなみにそれはいつのタイミングで投稿を?」


作者「それも定軍山の話が終わってからだ。恭佳さんと同じパターンだな」


恭佳「あっそ。ま、せいぜい頑張んなよ。あの件も含めてね……」


作者「恭佳さん。さりげなく脅しをかけないでくれませんか……」

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