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第56話 激突!影狼VS銀狼

この話、作品を投稿した時からずっとこうすると決めていました。

だから後悔はしていません。まあ、収拾をつけるのは非常に大変ですが。

「クックック。話を聞いた時はまさかと思ってたが、本当に来ていたとはな。影狼……」


「…………」



零治と銀狼は深い森の中でそれぞれの神器を片手に一歩も退かない様子で対峙し、零治はいつでも攻撃が出来るように居合の構えを崩さずに銀狼を見据える。

そんな零治の様子などお構いなしに銀狼は話を続ける。まるで昔を懐かしむかのように。



「なあ、影狼。憶えてるか? あの時の事をよぉ」


「一体いつの話だ。心当たりがありすぎて全く分からんな……」


「んなの決まってんだろうが。テメェにやられたこの傷、あの時の模擬戦の話だ……」



零治の態度が癪に障ったのか、銀狼は苛立ちの籠った口調で自分の右頬にある古い刀傷の跡、元居た世界でかつて零治と行った模擬戦時につけられた傷跡をトントンと左手の人差し指で叩く。

それで零治もようやくいつの事の話をしているのか理解し、納得したように軽く数回頷いた。



「あぁ、あの時の事か。それがどうしたというんだ……」


「オレはなぁ、アレがきっかけでテメェの事が憎くて憎くて仕方なかったのさ……」


「そんな事は知ってるが?」


「だが最初はそうじゃなかったんだぜ? 初めて会った時、オレは感じたのさ……」


「何をだ……」


「……『同類』の気配をなぁ」


「…………」


「分かるよなぁ? オレが何の事を言っているのかよぉ……」


「……オレが貴様と同じ『人殺し』だとでも言いたいのか」


「ククク。まさにその通りだ」


「…………」



零治は銀狼の言葉にデジャヴを感じた。

そう。銀狼がいま言っている言葉は、かつて死神に言われた言葉と酷似しているのだ。

そのせいなのか、零治の眼には銀狼の背後で死神が歯を打ち鳴らしながら自分の事を嘲笑ってるように見えた。



「昔のテメェはまさにオレと同じだった。オレと同じように人を殺す事に生きがいを、快感を感じていたはずだ。だから親近感さえ抱いていたんだぜ? なのに何だ今のテメェはよぉ。正義感ぶって自分は違うみたいな事を抜かしやがって……」


「何だと……?」


「あの模擬戦の時もそうだ。オレを負かした後、テメェはオレに蔑む様な眼を向けてこう言いやがった。……『所詮、人殺しの剣ではオレには勝てない』、とな」


「…………」


「何だそりゃ? まるで自分は人殺しじゃないとでも言いたいのか。あぁ? テメェのその人を見下したような態度も気に食わなかったが、一番気に食わねぇのは……そうやって自分を偽り続けている事だ」


「貴様……」



零治の心に怒りの炎がメラメラと燃え上がる。それと同時に疑問も感じた。

なぜ銀狼に同じ事を言われるのだ。なぜ死神と同じ言葉を言うのだ、と。

まるで今の銀狼は死神が取り憑いて銀狼の代わりに喋っているのではないかとさえ零治は思ってしまう。



「影狼。自分の本性をいい加減認めろよ。テメェはオレと同じなんだ。どうせ戦争が終わっても、その後のテメェにできる事なんか何一つ無い。なぜだか分かるか? それは……テメェがオレと同じ人殺しだからさ……」


「…………」


「どうした? 珍しく今日は静かじゃねぇか。図星を突かれて声も出ないってかぁ?」


「銀狼。感謝するぜ……」


「あぁ? 何をだ」


「貴様のその挑発的な態度のおかげで……今のオレは心置きなく貴様を殺す事が出来るからなぁ……」



零治は我慢に限界を感じ、叢雲の鞘と柄の境目を左手の親指でパチリと弾いて軽く剣を鞘から押し出す。

その姿に銀狼は心底嬉しそうな表情をし、狂気の笑みを浮かべながら村正の切っ先を零治に突きつけ、臨戦態勢を取った。



「おーおー。いいなぁ、その顔! まさにそれだ! それこそがテメェの本当の姿! これで心置きなく殺し合いが出来るってもんだぁ!」


「覚悟しろよ銀狼。この定軍山を……貴様の墓場にしてるっ!」


「来やがれっ! 影狼!!」


「フッ!」



零治は地面を蹴り、銀狼の懐まで一気に飛び込み、叢雲を素早く鞘から引き抜き、その首筋に目掛けて必殺の居合を放った。



「うおっとっ!?」



しかし、銀狼も素早く反応して、村正の峰に左手を添えて防御の構えを取り、叢雲の刃を受け止めてそのまま鍔迫り合いに持ち込んだ。

互いの刃がギリギリと擦れあい、接触面からは火花が散る。



「ククク。いい一撃だなぁ。やっぱ戦いはこうでなくっちゃ面白くねぇ!」


「一撃を受け止めたぐらいでいい気になるな! すぐにその減らず口を叩けないようにしてやるっ!」



零治は怒声を上げながら銀狼の村正を押し返すような勢いで更に叢雲を持つ両腕に力を籠める。

今の零治は珍しく熱くなっており、普段の冷静さが全く感じられない姿をしている。

やはり銀狼に言われた事が原因なのだろうか。



「どうしたんだぁ? 珍しく熱くなってるじゃねぇか。何がテメェをそこまで駆り立てるんだ?」


「…………」


「やっぱあれか? 図星を突かれて逆上してんのかぁ?」


「貴様……っ!」


「ケッ! まあいいさ。何にせよだ、今のオレのやる事に……変わりはねぇ!」



銀狼は膠着状態の鍔迫り合いの崩しにかかるため、零治の刃を受け止めたまま上体を大きく後ろに反らし、そのまま背筋をバネにして勢いを付けた頭突きを零治に喰らわせた。



「ぐあっ!?」



銀狼の突然の行動に零治は防御を行えず、完全に不意を突かれてしまい、左手で額を押さえながらヨロヨロと後ろに数歩後ずさる。

そして銀狼は素早く村正を鞘に納め、一気に勝負を仕掛ける。



「くたばれっ! 影狼!!」


「っ!? くっ……!」



銀狼は零治の首に狙いを定め、零治ほどの速度ではないが素早い居合を放った。

それからすぐに紫色の光の太刀筋が襲い掛かってきたが、零治は咄嗟に左側にサイドステップをしてその一撃を躱し、そのまま生い茂っている茂みの中へと飛び込んで銀狼から距離を取った。



「ふぅ……。今のはヤバかったな。……ん?」



樹に背を預けなが呼吸を整えていた零治は自分の右頬に違和感を感じたので左手を使ってその部位に軽く触れて、見てみればその指先は血で赤く染めあがっていた。



「チッ! かすったか。オレとしたことが銀狼如きに後れを取るとは……」


「影狼! どこに隠れやがったぁ! 姿を見せやがれぇ!!」



後ろから銀狼の怒声が聞こえ、森の中で木霊する。

それと同時に茂みの草木を踏み潰す音も一緒に鳴り響いており、それはどんどんこちらへと近づいて来ていた。



「ここでジッとしていても埒が明かないし、移動するか。ついでにさっきの仕返しをさせてもらうとしよう。今度はこちらが不意を突いてやる……」



零治は叢雲を鞘に納めてその場から軽く跳躍し、樹の枝の上に着地して出来るだけ葉が多く生えている樹を選定しながら枝から枝へと飛び移り、銀狼へと接近をしていった。



「畜生がぁ。あの野郎どこに隠れやがった……」



銀狼は未だに零治が見つからないため、苛立ちながら呟き、殺気の籠った眼をぎらつかせながら木々が生い茂った森の周囲を見回す。

辺りには零治の気配が感じられないので、銀狼は抜き身の村正を片手にその刀身を煌めかせながら考えも無しに足を進めていった。



「…………」



銀狼は足を進めつつ辺りを何度も見回しながら零治の姿を捜すが、こんな深い森の中で闇雲に捜し回っても見つかる訳が無い。



「チッ! まだそう遠くへは行ってないはずだ……」



銀狼は一度足を止め、忌々しげに舌打ちをして周囲に視線を走らせるが、やはり零治は見つからない。

その時だ。銀狼が立っている位置から左斜め後方にそびえ立っている大木の枝の上に零治が音も無く着地をして銀狼の背後を捉えた。



(フッ。そんな闇雲に捜したところでオレが見つかると思うなよ、銀狼……)



自分の事を闇雲に捜している銀狼の姿を嘲笑うかのように零治は冷笑しながら懐に右手を入れ、コートの下から一本の投擲ナイフを取出し、銀狼の首筋に狙いを定めて投擲の体勢を取る。



「…………」



銀狼は相変わらず殺気だった表情で周囲に視線を走らせてはいるものの、銀狼は零治が地上に居ると思い込んでいるらしく、他の場所、樹の枝などには視線を全く向けていない。

こういう時の思い込みは自分自身を危険に晒すだけでしかない。今の状況はまさにそれと言える。



(じゃあな。銀狼)


「…………」



零治が手に持っているナイフを銀狼に向かって投げつけようとしたその瞬間だ。二人はその時の体感時間を非常にゆっくりに感じた。

零治が今まさに、ナイフを投げようとした瞬間に銀狼は不意にゆっくりと後ろに振り返り、視線を上に向けた事で樹の枝の上に居る零治と眼が合った。



「なっ!? テメェ……っ!」


「死ね。銀狼……」



気付かれようがもはや関係ない。零治は既にナイフを投げる動作に入っているのだ。

零治は抑揚の無い声で銀狼に非情の言葉を投げかけ、ナイフを銀狼に投げつけた。

零治の手から放たれたナイフは空を斬り、刃を煌めかせながら銀狼に向かって一直線に飛来してくる。



「っ! 野郎……っ!」



しかし、銀狼も何とかそれに反応する事が出来て、身体を少し左に逸らしたおかげで直撃は避ける事が出来たので難を逃れはしたが、一瞬だけ回避の動作が遅かったので右頬をかすめ、一筋の切り傷を付けて飛来してきたナイフは地面に突き刺さった。



「チッ! 運の良い奴め……っ!」


「影狼ぉ!! 死ねぇ!!」



銀狼は怒声を上げながらお返しと言わんばかりに右手に持つ村正を大きく振り上げ、その場から零治が立つ樹の枝に向かって振り下ろした。



「まずいっ!」



このままでは銀狼の攻撃の直撃を受けてしまう。

零治はやむを得ず再度銀狼から距離を取る事にして、脚に力を入れその場から跳躍する事にした。

だがその時、零治にある異変が現れた。



(っ!? な、何だっ! 急に……脚から力が抜けて……っ!?)



零治が別の樹の枝へ飛び移ろうとしたまさにその瞬間の出来事だった。

脚に力を溜め、跳ぼうとした瞬間に脚から力が一気に抜け、まるで何かに押さえつけられたかのように零治の脚はカクンと崩れ落ち、その場から動けなくなってしまったのだ。

そしてその間も状況は刻一刻と進み、銀狼が放った次元斬ディメンション・スラッシュが襲い掛かってきたが、幸運にも銀狼も咄嗟に勢いよく村正を振りおろし、狙いまではしっかりと定めていなかったおかげで直撃は免れたが、その斬撃は零治が居る枝の根元を斬り裂き、零治は枝と共にそのまま地面へと落下していってしまった。



「くっ!」


「んだぁ? らしくねぇな、影狼。疲れてんのかぁ? まあ……オレはテメェの事情なんざ知った事じゃねぇがなぁ!!」



銀狼はこの状況を好機と見て、再度村正を大きく振りかぶり、零治を一文字に真っ二つにするかの如く振り抜いて空を薙いだ。



「ちぃっ!」



零治は忌々しげに舌打ちをして体勢を立て直して落下中の最中に、一緒に落ちている枝を踏み台にして大きく跳躍をして銀狼から一気に距離を離して難を逃れ、それと入れ替わりに零治が踏み台として使用した枝は銀狼が放った次元斬によって真っ二つに斬り裂かれて地面に落ちた。



「テメェ! また逃げる気か! 今度は逃がさねぇぞ!!」



銀狼は村正を片手に喚き散らしながら走りだし、地面に生えている小さな草木を踏み鳴らしながら零治が逃走した方角へと足を進めていった。


………


……



「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……っ!」



あれから零治は森の奥深くまで逃げ込んで銀狼から距離を離し、自分の腰くらいの高さまで茂っている草が周囲に生えた大木を背に預けながら乱れた呼吸を整え、体勢を立て直しつつ周りに注意深く視線を走らせながら警戒態勢を取っている。



「何だったんだ、今のは。いきなり脚から力が抜けやがったが……まさか疲労? いや、そんなはずはない。今まで休息は充分に取っていた。少なくとも疲れてはいないはず……」



零治はこの定軍山の件が劉備軍の罠だという事は事前に知っていた。

だからこそ万全の準備をし、相手の出鼻をくじく策も用意して常に優位に立ってはいたがそれに慢心はせず、夜にも備えて常に休息も充分に取っていた。少なくとも疲労が蓄積する要素は無いはずである。

だからこそ零治は分からないのだ。先ほど自分に起こった変調の原因が何なのかを。



「……考えるのは後だ。今は銀狼の奴を何とかしないとな。それに……亜弥達の事も気になる」



今の零治は自分に起きている異変の事も気になるが、何よりも亜弥達の安否が気がかりなのだ。

銀狼が襲撃する直前に亜弥との通信が途切れてしまった。そこから考えられる事は、亜弥の身に何かが起こった。もっと正確に言えば、向こうにも襲撃があったと考えられる。

つまり、少なくとも敵は銀狼一人ではない可能性が極めて高いだろう。



「これ以上ここで足止めを食う訳にはいかない。今すぐに銀狼とのケリをつけて亜弥達と合流しなくては。だが……スキルの多用はマズイかもな。魔力の温存はしておいた方がいいかもしれん」



亜弥の所には恭佳達も一緒だから心配はないと思うが、向こうの状況がハッキリしている訳ではない。

ならばこそ、ここで銀狼一人のために時間を無駄に浪費するのではなく、早々にカタを付けて亜弥達と合流するのが最善だ。

乱れていた呼吸も整ったので、零治は叢雲の鞘を左手でしっかりと握りしめながら森林の中へと足を踏み入れ、銀狼に対して攻勢に出る事にした。


………


……



「……畜生。影狼の野郎……どこに行きやがった」



あれから銀狼はずっと考えも無しに森の中をひたすらに突き進みながら零治を捜し回っているが未だに発見できず、苛立ちを募らせていた。

捜し回っていると言っても別にまだ何時間も森の中を歩き回った訳ではないのに、気の短い銀狼はいま流れている時間を非常に長く感じており、その苛立ちは収まる事を知らずにいた。

その時である。銀狼の右眼の奥からズキンとした鋭い痛みが一瞬だけ走り、銀狼は思わず捜索の足を止めて左手で右眼を力強く押さえつけた。



「グッ! ……クソが。そろそろ限界か? 一旦解除して……いやダメだ。奴を追い詰めてんだ。ここまで来て解除なんかしてたまるか……っ!」



朱の眼ロート・アウゲンは長時間の使用は失明の危険があるというのに銀狼はあえてその危険を冒す。

というのもこの魔法には厄介な性質があり、一度解除してしまうとすぐに再発動できなくなってしまい、もう一度使うためにはしばらく時間を置く必要があるのだ。そして銀狼自身もそのためにどれだけの時間を要するのか正確に把握していないため、一度発動してしまうと迂闊に解除できないのだ。



「とにかく……これ以上時間を掛ける訳にもいかねぇ。次で仕留めてやるぜ……」


「……そのセリフ、そのまま貴様に返してやるぞ。銀狼」


「っ!? 影狼かっ! どこだぁ!?」



突如として銀狼の耳に零治の声が聞こえたので、銀狼は怒鳴り散らしながら辺りをグルリと見回し、そして先程の零治の奇襲の事も学習して周囲に生えている樹の枝の上にも注意深く視線を走らせるが零治の姿は無かった。



「…………」



銀狼はその場から微動だにせず、いつでも攻撃態勢に移行できるように村正を両手でしっかりと握りしめ、正面にかざしながら素人なりの見よう見真似の構えを取りながら辺りに視線を走らせるが未だに零治は姿を見せず、風が木々を揺らす音や小鳥のさえずり声が聞こえてくるのみ。

しばらくの間、銀狼はその場に留まって警戒をしていたが何も起こらないので、先程聞こえてきた零治の声も空耳だったのかもしれないと思い込み、少し……ほんの少しだけ張り詰めていた気が緩んだ。

その刹那、事態が動いた。零治はこの時を待っていたのだ。銀狼の気が緩んだほんの僅かな隙を突くかの如く、銀狼の背後に生い茂っている茂みの中から一本の投擲ナイフが飛び出し、銀狼に向かって飛来してきた。



「っ!? 後ろかっ!」



ナイフが空を斬り、茂みを突き抜ける音は銀狼の耳にもしっかりと入り、それに反応した銀狼は素早く背後に振り返り、村正を振り抜いてナイフを弾き飛ばし、その茂みに狙いを定めて村正を両手で大きく後ろに振りかぶり、薙ぎ払うように一気に振りおろした。



「死ねぇ! 影狼!!」



村正の動きに呼応するように銀狼の視線の先に生い茂っている茂みに紫色に発光する一筋の太刀筋が瞬時にして走り、斬り裂かれて辺りに葉っぱや小さめの無数の枝が宙を舞う。

銀狼の乱暴な一撃でその場の茂みは一瞬にして無くなったが、その先には零治の姿は無かった。



「居ないっ!?」


「貴様はバカか? オレがいつまでも同じ場所に留まっていると思うな。スナイパーと同じだ。常に移動しているに決まってるだろうが……」


「どこに居やがるっ! 隠れてないで出て来いっ!!」


「敵に出て来いと言われて素直に出てくる奴がどこの世界に居る……」



銀狼の怒声に対し、零治は挑発的な言葉を投げかけ、そのすぐ後に今度は銀狼の立ち位置から右側に茂っている茂みからナイフが一本飛来してきた。



「っ! そこかぁっ!!」



銀狼は素早く反応し、飛来してきたナイフを弾き飛ばしてその先にある茂みを斬り裂く。

だがやはり、そこに零治の姿は無く、辺りには虚しく葉っぱと細かい無数の枝が宙を舞うのみだった。



「クソがっ! また居ねぇ!」


「オレがさっき言った言葉の意味が理解できなかったのか? 少しは学習しろ……」



銀狼の行動を嘲笑うかのように零治は抑揚の無い声で言い放ち、再びナイフを茂みの中から投げつける。

そして銀狼はそのナイフを弾き飛ばし、飛来してきた方角に生い茂っている茂みを斬り裂くが零治の姿は無い。

その応酬がしばらく繰り返され、銀狼の立ち位置を中心点に周りの茂みは草刈り機でもかけたのかと思いたくなるほどに綺麗さっぱり無くなり、辺り一面は丸坊主と化していた。



「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……っ! ……これで隠れられる場所はそこだけだぜぇ! 影狼!」



銀狼は肩で激しく息を繰り返しながら疲労感を露わにし、目の前に生い茂っている茂みに向かって吠えた。

確かに今この場にある茂みはもうこれ以外にない。残りは全て銀狼が取り払ったのだ。単純に考えれば、零治が隠れていると思われる茂みはこれ以外に無い。

銀狼は乱れた息を整え、一度大きく息を吐いて高揚した気持ちを落ち着け、村正を鞘に納めて居合の構えを取り、狂気の笑みを貼り付ける。



「影狼。何か言い残す事はあるか……」


「…………」



茂みからは何の反応も無い。辺りはシンと静まり返り、聞こえてくるのは風が辺りを吹き付ける音のみ。

銀狼は零治が追い詰められ、恐怖に慄いているのだろうと思い込む。

もう待つ必要など無い。今やるべき事は、積年の恨み辛みを全てぶつけ、この因縁に終止符を打つのみなのだ。



「何も無いのなら構わねぇさ。影狼、今度こそ……死ねぇぇぇっ!!」



銀狼は森中に響き渡るほどの大声で叫び、村正を鞘から引き抜いて必殺の一撃の居合を放ち、空を一文字に薙ぎ払い、次の瞬間に目の前の茂みに光の太刀筋が走り、茂みを一瞬にして斬り裂いた。だが……。



「なっ!?」



そこには零治の姿は無かった。おかげで銀狼は思考が停止してしまい、居合を放った姿勢のまま硬直し、目の前の何も無い空間を呆然と見つめていた。理解できない。今の銀狼の頭の中にはそれしかなかった。

なぜ零治が居ないのだ。隠れられる場所はここしかなかった。樹の枝にも居ない。

ならば零治はどこに行ったのだ。もともと基本的に考え無しに行動する銀狼には今の状況に頭がついて行けず、ただただ呆然と立ち尽くしている事しか出来なかった。その時だった。零治が反撃に出たのは。



「フッ!」


「ん……? なっ!? テメェいつの間に!?」



突如として零治が背後から襲いかかり、居合の姿勢を維持したまま突撃してきたので銀狼は驚愕する。

零治は好機と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべ、銀狼との距離が目と鼻の先まで縮まった所で神速の居合を放ち、この闘いに終止符を打とうとしたが、何とかそれに反応した銀狼は村正でその一撃を受け止める事ができ、そのまま互いに一歩も退かない様子で鍔迫り合いへと持ち込んだ。



「テメェ! 一体どこからっ!」


「あぁ? 貴様の背後からだが? 正面から来たように見えたのか?」


「んなのは分かってんだよ! どこに隠れてやがったって訊いてんだ! 茂みはあそこしか残ってなかったこの状況でだぞ! 樹の枝の上にも居なかったのにどこに隠れていやがったんだテメェは!?」


「ん? 樹の後ろだが?」


「樹の後ろだぁ!?」


「貴様は視野が狭いし単純すぎなんだよ。こんな深い森の中で隠れられる場所が茂みや樹の枝の上しかないと思ってるのか? 隠れられる場所なんか探せばいくらでもあるぞ」


「このオレが……単純だと!? テメェ、オレがバカだと言いてぇのかゴラァっ!!」


「あぁ、そうさ。この大バカ野郎が……」



鍔迫り合いの最中に零治は蔑んだような視線を銀狼に向けながら言い放つ。

銀狼にこんな事を言えばどうなるか。もちろん考えるまでも無い。

銀狼は非常に短気で好戦的な性格をした男だ。そして相手はあの零治。

自分が心の底から憎んでいる人物にこんな挑発的な言葉を言われて銀狼が我慢できるはずがない。



「影狼……テメェ……ブチ殺してやる!!」


「ほぉ、面白い。やってみな……」


「……この野郎っ!!」



銀狼は鍔迫り合いの状態を崩すべく、力任せに零治を押し返して村正を素早く鞘に納めて居合の体勢に入る。

対する零治は押し返された反動を利用しながら跳躍して銀狼から距離を取り、左手をコートの下へ伸ばし、一本の投擲ナイフを取り出してカウンターを狙うかの如く銀狼に投げつけた。

この時、またもや互いが感じる時間の流れが非常にゆっくりに感じた。零治はナイフを投げつけた体勢のまま後方へと下がり、地面に着地して反撃に転じようと叢雲を鞘へ納めようとするが……。



(っ!? なっ! またかよ……っ!)



零治にまたもやあの奇妙な脱力感が襲い掛かったのだ。

おまけに今度は脚だけではなく全身に脱力感があり、力も入らず足元がふらついて眼も霞んできた。

だからこそ……だからこそ起きた。起きてしまったのだ……。

零治は油断していた訳ではない。銀狼が相手だからといって慢心していた訳でもない。体調も万全だった。零治本人に落ち度は一切なかった。強いて言うなら、魔力の温存を選択し、叢雲特有のスキルを使用しなかった点。だがこれは許容の範囲内と言えるだろう。なのに起きてしまったのだ。

ならば、こう言うしかないのだろう。全ては運命の悪戯なのだと……。



「なんだぁ? 足元がふらついてるぜ、影狼……。まあいいさ。まずは…………その左腕を貰うぜぇ!!」



銀狼は口の端を吊り上げて狂気の笑みを貼り付け、零治の左腕に狙いを定めて居合を放って空を薙ぎ、それと同時に飛来してきたナイフを弾き飛ばす。

そして、零治の左の二の腕中央部に一筋の光の太刀筋が走り、彼の腕を……斬り飛ばした。



「ぐあああああああああっ!!」



切断された零治の左腕は宙を舞い、無造作に地面の上に転がり落ちた。

零治は悲痛な叫び声を上げながら叢雲を落とし、左肩を押さえながら地面に片膝を突く。

だが肩を押さえた程度で出血が止まるわけも無く、その間も切断面からは容赦なく血が溢れ出てくる。



「ヒャハハハハハハ! 良い声で鳴いてくれるじぇねぇか、影狼!」



銀狼は今の零治の姿がよほど可笑しい……いや、むしろ嬉しいのかもしれない。

村正の切っ先を突き付けながら声高らかに笑い飛ばし、森の中には銀狼の下卑た笑い声が木霊した。



「銀狼……貴様ぁぁ……っ!」


「ククク。影狼、今の気分はどうだ? 悔しいか? あ? 悔しいだろうなぁ。散々見下していた相手に痛手を負わされたんだ。悔しいよなぁ? ヒャーハッハッハッハッハッハッハ!!」


「抜かせぇ! ……はぁ、はぁ……っ!」



零治は腕に走る激痛を我慢し、何とか気力を振り絞って落とした叢雲を拾い上げて立ち上がり、出血で足元がふらついているにもかかわらず銀狼に対峙する。



「おっ? そんな状態でオレとやり合おうってのかぁ?」


「はぁ、はぁ、はぁ……っ! 言ってろよ。貴様の相手など……片腕でも……余裕だぜ……っ!」



零治はこう言ってはいるが、これが強がりなのは誰が見ても明らかだ。

腕を切断されたこの状況で闘うなど正気の沙汰ではない。今の零治がやるべき事は銀狼を倒す事ではなく、この場から一刻も早く逃げ出し、傷の手当てをする事だ。

このまま闘えば零治は間違いなく銀狼に殺されるだけだ。仮にそうならなくても遅かれ早かれ、出血多量でどの道死ぬだろう。もちろん零治自身もそれは分かっているし、この状況で闘うほど愚かではない。

何とかこの場から撤退するための隙を窺ってはいるが、いま銀狼に背を向ける訳にはいかないのだ。

今この場から逃げ出せば銀狼は間違いなく追って来るし、こんな状態で逃げ切れる可能性は低い。

だからこそ……だからこそ、今は一歩も退かないという姿勢を崩してはならないのだ。



「そこまで言ったからには覚悟してもらうぜ、影狼。楽に死ねると思うなよ……」


「はぁ、はぁ……っ! 御託なんか並べてないで……さっさと……かかって……来い……よっ!」


「いいだろう! 影狼! 望み通りズタズタに斬り刻んでやらぁ! 次は右腕を斬り落としてやる!!」


「くっ……!」



銀狼は村正を鞘に納め、再び居合の構えを取ったので零治は咄嗟に身構える。

しかしその時だった。今度は銀狼に異変が起きたのだ。



「っ!? グッ! クゥゥゥゥ……っ!」


「はぁ、はぁ……。な……何だ?」


「グゥゥゥゥっ! ぐあああああああっ!!」



いざ零治に攻撃を仕掛けようとしたその時、銀狼は苦しそうに呻き声を漏らしだしたと思いきや、いきなり天を仰ぎ、両手で自分の右眼を押さえながら悲痛な叫び声を上げ始めたのだ。



「め、眼が……痛ぇ! 眼が……オレの右眼が……っ! ああああああああ!!」



天を仰いだ体勢のまま銀狼は悲痛な叫び声を上げ、両手を右眼から離し、眼を見開いて空を見つめる。

銀狼の右眼からは血涙が溢れ、流れ出す。

そのまま血涙が流れ続けていたかと思えば、銀狼の右眼に更なる異変が襲い掛かった。

右眼の瞳の中央に一筋、ほんの一筋の小さな縦線がゆっくりと走り、そしてその線をなぞるように光の線が瞬時にして走り、銀狼の眼を……斬り裂いたのだ。



「ぎゃああああああああっ!!」



銀狼の眼の斬り口からは血が吹き出し、眼に走る激痛に銀狼は更なる悲痛な叫び声を上げて右眼を押さえつけ、地面に両膝を突いた。

だが、そんな事をしても傷口は塞がらないし血も止まらないし痛みも消えない。

彼は代償を払う事になってしまったのだ。朱の眼を使い続け、やがて起こるであろう失明の危険性。

今それが銀狼の身に起こった。彼の右眼は村正の力によって失われた。村正に『斬られた』のだ。



「眼がぁ! オレの眼がぁ! ああああああああ!」


「はぁ、はぁ、はぁ……っ! 失明……どころじゃねぇな。まさか自分の眼が……斬り裂かれる……とはな……」



だがこれは零治にとってはまたとないチャンスだ。今ならば間違いなくこの場から逃げられるであろう。

少なくとも、今の銀狼に脅威は無いのだ。そう。右眼を失ったという事は、銀狼にもう村正の力を使う事は出来ないのだ。



「はぁ、はぁ……っ! 左腕は……持って行かせてもらうぞ。コイツの始末は……自分でする……っ! だがその前に……」



零治は叢雲を鞘に納め、銀狼を睨み付け、コートの下から投擲ナイフを一本取りだす。そして……。



「コレは…………左腕のお返しだぁ! 受け取れぇ!!」



零治は左腕の借りを返すべく、銀狼に向かってナイフを投げつける。

ナイフは銀狼に向かって一直線に飛来し、刃を陽光で煌めかせながら銀狼の首筋に迫りくる。しかし……。



「ぐあっ!? 影狼……テメェ……っ!」


「チッ! つくづく……運の良い……奴だな……っ!」



地面に両膝を突いて眼を押さえていた銀狼の首筋まであと少しという所だったのだが、銀狼は右眼に走る痛みに苦しみながら身をよじったせいでナイフは彼の左肩に深々と突き刺さっただけに終わってしまい、仕留めるには至らなかった。

このまま止めを刺してもいいのだが、今は応急処置をするのが最優先と零治は判断し、地面に転がり落ちている自分の左腕を拾い上げ、この場から撤退する事にする。



「はぁ、はぁ……っ! 今日の所は……これで勘弁してやる。だが忘れるな。この腕の借りは……必ず返すからな……っ!」



零治はまるで悪役のような捨てゼリフ銀狼に向かって言い放ち、最後の力を振り絞ってその場から大きく跳躍をしてその場を後にした。



「影狼! 待ちやがれ! まだ勝負は終わってねぇ! オレはまだ闘えるぞ! 戻って来やがれぇ! 影狼! 影狼ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



銀狼は右眼を右手で押さえながら零治が逃げた方角に左手を伸ばすが、そんな事をしても届きはしないし、零治も戻ってくる訳が無い。

銀狼は天を仰ぎ、悔しそうに零治のコードネームを大声で叫び、森中にその声は木霊した。


………


……



「はぁ、はぁ、はぁ……っ! クソが! まさか……こんな事に……なるとはな……っ!」



あれから零治は銀狼から一気に距離を離し、安全な場所まで逃げのびてその辺に生えている大木に背を預けながら残った左腕上部を見つめながら忌々しげに呟く。

とりあえず腕の方はコートの一部を破り、それを使って切断面をきつく縛り付けて応急処置は済ませたが、それでも出血は勢いが収まっただけで止まるには至っていなかった。



「はぁ、はぁ……っ! とにかく……亜弥達の所へ……戻らないと。考えるのは……それからだ……っ!」



零治は斬り落とされた左腕を片手に、切断面から全身へ駆け巡る激痛と失血による体力の消耗に耐えながらフラフラとした足取りで亜弥達の所へと足を進める。

零治自身もまさかこのような事になるなどとは想定もしていなかった。だがこれは現実だ。

零治も銀狼同様に代償を払う事になってしまったのだ。だが、秋蘭を助けるためとはいえ、その代償はあまりにも大きな物だった……。

奈々瑠「…………」


臥々瑠「…………」


恭佳「…………」


作者「……おかしいなぁ。なんか前にもこんな事があったような気がするんですが。あの……なぜそんなに怒っているのでしょうか? 御三方……」


亜弥「零治に重傷を負わせたからでしょう?」


作者「だから演出にいちいち怒らないでくれよっ! こんなんじゃこの先オレはどう話を書けばいいのさっ!?」


恭佳「やかましいっ! この野郎! よくも零治の腕を斬り落としてくれたねぇ!!」


奈々瑠「今回ばかりは勘弁なりません! 死んで償いなさいっ!」


臥々瑠「ついでにアンタの腕も斬り落としてやるっ!!」


作者「いや、腕を斬ったのはオレじゃなくて銀狼でしょうがっ!!」


恭佳「アンタがそうするように仕向けたんだろうが!」


零治「どうどう。三人とも落ち着けよ」


奈々瑠「えっ!? 兄さんっ!?」


臥々瑠「……あれ? 腕があるっ!?」


零治「……木製の義手だけどな」


恭佳「あぁ……アタシの可愛い弟がこんな痛々しい姿に。待ってな零治。すぐにアタシが恨みを晴らしてやるからね……」


作者「だからマジでやめてっ! ソウルイーターを振り上げないでよっ!!」


亜弥「はいはい。その辺で許してあげなさい。彼も考え無しにこんな展開にしたわけじゃないのですから」


奈々瑠「でも姉さん! 腕の切断ですよっ!? これってかなりの大事じゃないですかっ!!」


臥々瑠「そうだよ! それに原作の世界じゃ、義手だってせいぜい木製のを作るのが限界だと思うし……」


零治「まあオレもその点には同感だな。おい。これマジで大丈夫なんだろうなぁ?」


作者「大丈夫だ。ちゃんと考えてあるさ」


亜弥「なら銀狼の方は? あっちもかなりの大事になってましたが」


作者「そっちも考えてあるよ」


恭佳「……本当だろうね? 銀狼はどうでもいいけど……零治の方はちゃんと収拾つけなかったら……分かってるだろうね……?」


作者「分かってますから、恭佳さん。とりあえずソウルイーターを首筋から引いてくれませんか……?」


零治「……あぁ。しかし、まさかこんな目に遭うとは。オレこの先どうなっちまうんだろう……?」

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