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第53話 麗しの狼夏 Part2

皆様、長い間お待たせして申し訳ありませんでした。

リアルがゴタゴタしてしまい、中々手を付ける事が出来なかったので。

とある日の昼下がり。

ここは洛陽の繁華街で女性専門の下着店を営む貂蝉の店。

店内では貂蝉が一人の常連客を相手にして品物の会計をしている最中である。



「はい。お会計確かに。ありがとうございま~す♪」



貂蝉は客から代金を受け取り、商品を紙袋に詰めて手渡し、営業スマイルを浮かべる。

しかし、貂蝉のナリがナリなので見ていて気持ちのいいものではなかった。



「ありがとう。……所で店主」


「なぁに?」


「以前いた、あの女性店員はどうしたの? 最近姿を見ないのだけれど。もしかして辞めちゃったの?」


「あ……あぁ、あの娘? 彼女いま体調を崩しちゃって休みなのよ」


「あら、そうなの。それは大変ねぇ」


「まあただの風邪みたいだから、そこまで騒ぐような事でもないわよん」


「そう。それを聞いて安心したわ。それじゃあね。また来るわ」


「は~い。毎度ありがとうございま~す♪ またのお越しを~♪」



貂蝉は立ち去る女性客を見送りながらペコリとお辞儀をして挨拶をする。

女性客が立ち去った事を確認した貂蝉は安堵の溜息を洩らした。



「はぁ……何とか誤魔化せたわね。それにしても、まさか零治ちゃんのあの女装姿がここまで人気を博すなんて。来る人みんなが同じ事を尋ねるし、誤魔化すにしても限界もあるし困ったわねぇ」



あの日以来、狼夏の噂はあっという間に街中に広まり、店に来る客は口を揃えて狼夏の事を貂蝉に尋ねる始末なのだ。

おまけに女性下着専門店なのに、その姿を一目見ようと男性の客まで来る始末。しかも一人でだ。

貂蝉は今まで適当な理由を並べ立ててその場を誤魔化し続けてきたが、それにも限界を感じており、何とかこの状況を打開したいと考えていた。



「やっぱり零治ちゃんにもう一度あの姿でここの店員をやってもらう必要があるわねぇ。でも彼、一人でここには絶対に来ないし、最近は亜弥ちゃんも来ないし困ったわね……」



こうなっては、零治にもう一度この店の店員をやってもらう以外に方法はないだろう。

だが問題はその零治本人だ。あの時は亜弥との賭けに負けて零治も嫌々ながらに引き受けたのだ。

しかし、今回はあの時とは事情が違う。仮に零治に頼んでも快く引き受けてくれる可能性はないだろう。

その事で貂蝉が頭を悩ませていた時、店の戸が開け放たれ、一人の女性客が来店してきたので、貂蝉は気持ちを切り替えて営業スマイルを浮かべて客を出迎える。



「いらっしゃいませ~ん♪」


「…………」


「あら。貴方は」



店に来たのは何と華琳である。

貂蝉と眼が合うなり、華琳は嫌そうに表情を歪め、無言で誰かを捜すように店内をキョロキョロと見渡した。

もうこの時点で何の目的でここに来たのかは明白である。捜している人物が見当たらないし、他に人が居ないので、華琳は貂蝉とは眼を合わせないようにそっぽを向きながら尋ねる。



「今日は彼女は居ないの?」


「彼女って?」


「狼夏の事よ」


「あぁ、彼女なら今はお休み中よ。なんか風邪を引いちゃったみたいなの」


「そう。いつ頃に復帰するの?」


「そ、それは……」



華琳の質問に貂蝉は言葉に詰まってしまう。

まさかいつ復帰するのかを訪ねてくるなどは予想も出来なかった。

貂蝉の様子を華琳は不審に思いながら尋問するかのように再度尋ねた。相変わらず眼は合わせてないが。



「何。別におかしな質問でないはずよ。それとも……私には教えられない理由でもあるのかしら?」


(ぬぅ。このおチビちゃん、相変わらず鋭い所を突いてくるわねぇ。この様子じゃ適当に言い訳しても納得しなさそうだし、仕方ないわ……)


「……この前連絡があってね。三日後には復帰できるそうよ」


「三日後ね。そう。なら、その日にまた来るわ」



貂蝉の言葉に納得した華琳はクルリと踵を返し、さっさとその場から立ち去って行った。

何とかその場を誤魔化す事は出来たが、問題はまだ解決していない。いや、むしろ悪化したくらいである。



「はぁ~。まいったわねぇ。誤魔化すためとはいえ、あんな事を言っちゃうなんて。あの様子だと彼女は間違いなく三日後にまた来るわね。何とかして零治ちゃんと連絡を取らないとまずいわねぇ……」



この状況の打開策は零治にまた狼夏に扮してもらう以外に道は無い。そしてその期限は三日後だ。

つまり、あと二日以内に何とか零治に接触して彼を説得する必要があるが、零治は一人でこの店に立ち寄る事がないし、あるわけがない。

かといって貂蝉自身が城まで尋ねるわけにもいかないだろう。下手をすれば狼夏の正体がバレる可能性もある。

その時である。幸運の女神ともいえる人物が店にやって来たのだ。



「貂蝉。失礼しますよ」


「ん? あら、亜弥ちゃん。いらっしゃい。今日はどうしたの? また新しい下着でも買いに来たの?」


「いえ、たまたま近くを通りかかったので、巡回がてらついでに挨拶でもしておこうかと思いまして」


「あらあら。わざわざありがとねん。……所で亜弥ちゃん」


「何です?」


「それが新しく買った眼鏡なの?」


「ええ」


「とっても似合ってるわよ。知的な雰囲気の美人さんじゃないのん♪」


「ふふ。ありがとうございます」



亜弥は嬉しそうに会釈をして、右手の中指を使って眼鏡の鼻当ての部分をクイッと押して眼鏡の位置の調節をする仕草をした。

今この場に亜弥が来てくれたのは貂蝉にとって実に丁度いいタイミングである。

貂蝉はいま抱えている悩み事について亜弥に相談する事にした。



「ねえ、亜弥ちゃん。実は貴方に相談があるのよ。聞いてくれるかしらん?」


「私に相談? 何です? 店内で問題を起こす輩でも居るんですか?」


「いえいえ。そういう事じゃないのよ。……零治ちゃんの事なの」


「零治がどうかしたんですか?」


「ほらぁ。以前彼が女装してここの店員をやった事があったでしょう?」


「あぁ、あの時の事ですか。それが貴方の相談事と何か関係でも?」


「ええ。実はあの日以来、零治ちゃんのあの女装姿が話題になっちゃってねぇ」


「ふむ」


「来るお客さんがみんな口を揃えていうのよ、今日は彼女は居ないのかって」


「ふむふむ」


「おまけにその姿を一目見ようと、男の人が一人で店に来たりするほどなのよ」


「まあ、あの女装姿は言われないと分からないくらい完璧に仕上がってますからねぇ」


「ええ。あたしもそこは同感よ。それでね、ついさっきの事なんだけれど、貴方の所の主の曹操ちゃんも来てたのよ」


「華琳が? ……貂蝉。まさか彼女も」


「ええ。狼夏は居ないのかと訊かれたわ」


「…………」



貂蝉から聞かされた驚愕の事実に亜弥は唖然としてしまう。

確かに零治のあの女装姿は、女性である自分も見とれてしまうほどの仕上がりだとは思っている。

加えて言えば、この世界では珍しい服装のゴスロリドレスを纏っているので話題性は充分にあると言えるだろう。

しかし、まさか華琳まで虜になってしまうとは流石に予想できなかった様子だ。



「で、彼女の様子、適当に誤魔化しても納得しなさそうだったから、あたし三日後に復帰するってつい言っちゃったのよ」


「えっ!? ……あの、貂蝉。それで華琳は何と……?」


「三日後にまた来るって」


「はぁ~……何て事だ……」



亜弥は頭を抱えながら何度も首を横に振って項垂れ、そして理解した。

貂蝉が持ちかけてきた相談事の内容を。



「貂蝉。今ので理解しましたよ。要するに貴方は、私に零治にもう一度女装をしてもらい、ここの店員をするように説得して欲しいと、そういう事なんですね?」


「ええ。そうなの。亜弥ちゃん、何とかならない?」


「……あの時とは事情が違いますから、正直難しいですねぇ。しかもやる事の内容が内容なだけに」


「あたしも無理を言っているのは分かってるわ。でもお願い! 亜弥ちゃんだけが頼りなのっ!」



貂蝉は亜弥の右手を両手で握りしめ、頭を下げながら懇願してくる。

あの零治が任務のためならともかく、このような理由で女装する事を引き受けてくれる可能性は無いと言ってもいいのだが、人の良い亜弥はここまでされては断る事も出来ないので、仕方なく貂蝉の頼みを引き受ける事にした。



「はぁ。分かりましたよ。今日の夜、零治に話をしてみましょう。だから頭を上げてください」


「本当っ!? ありがとう、亜弥ちゃん! 恩に着るわ!」



亜弥が頼みを引き受けてくれた事に貂蝉は感謝の意を籠めて、握りしめている亜弥の右手を何度も上下にブンブンと振って喜びを露わにした。

対する亜弥の心境はそれどころではない。これから零治の説得をせねばならないのだ。しかも内容が内容だ。亜弥は思った。今まで経験した人生の中で一番の無理難題だと。


………


……



その日の夜。仕事を終えて零治の部屋を尋ねた亜弥は昼間に貂蝉に持ちかけられた相談事の話をし、事のいきさつを説明。

で、零治にもう一度女装をして貂蝉の店で店員をやってくれと頼んではみたのだが。



「嫌だね」



話を聞き終えるなり、零治はベッドに寝転がりながら亜弥の頼みを突っぱねる。

もちろん亜弥も零治がこう来る事は予測していた。だが引き受けた以上はこのまま引き下がる訳にもいかないので、亜弥は根気よく零治の説得を試みる。



「零治。そこを何とかお願いしますよ」


「何でオレがアイツのためにまた女装をしなきゃなんねぇんだ。冗談じゃない。もう人前で恥をかくのは真っ平だね」


「いや、正体がバレてなきゃ恥をかく事にはならないと思うのですが……」


「だから何だ。とにかくオレはやらん。貂蝉には自分で何とかしろと伝えとけ」


「…………」



零治はベッドに寝転がったまま亜弥に背を向け、これ以上話をするつもりはない意思を示す。

この様子に亜弥は困り果ててしまう。取り付く島も無いという状況である。

このまま正攻法で零治に話をしても堂々巡りになるだけである。なので、亜弥は少し攻め方を変えてみる事にした。



「いいんですか? このままじゃ狼夏の正体が貴方だとバレる可能性もあるんですよ、零治」


「何だ。今度は脅しか?」


「いえ、そういう訳では。ただ、話を聞いた限りでは華琳は間違いなく三日後に貂蝉の店にまた来るでしょうね。その時に狼夏が居なくてその事を問い詰められた場合、うっかり正体を喋っちゃう可能性があるかもしれないと言ってるのですよ」


「なら病状が悪化して来れなくなったって言えば済む話だろうが」


「それだと問題を先延ばしにするだけですよ。それに……最悪の場合、狼夏の住んでる場所を教えろと言うかもしれませんよ。華琳の性格を考えると」


「それも問題ないだろ? 雇い主が従業員の住まいを必ずしも把握しているとは限らんからな」


「むっ……」



零治の鋭い指摘に亜弥は言葉に詰まってしまう。そしてここぞとばかりに零治は最後のダメ押しをしてきた。



「何と言われようがオレはやらん。貂蝉にはこう伝えとけ。自分で撒いた種だ。自分で何とかしろ。そして正体をバラしたらお前の店を木っ端微塵に破壊してやる、とな」


(はぁ。予想はしていましたが、ここまで手を焼くとは。やはり一筋縄ではいきませんか……。ならば、奥の手を使うとしましょうか)



何か秘策でもあるのか、亜弥は背を向けたまま寝転がっている零治に向かって右手の人差し指をピッと立てながら口を開いた。



「分かりました。ならば零治、交換条件を出しましょう」


「何?」



予想もしなかった意外な言葉に零治はクルリと首を動かして視線を亜弥に戻した。

話しに食いついてきた零治に対し、亜弥はここぞとばかりに今の彼にとって魅力的な提案をしてきた。



「もし貴方がこの頼みを引き受けてくれるのなら向こう一ヵ月間、警備隊の仕事を休ませてあげましょう」


「はあ? おいおい。ならその一ヵ月のオレの穴は誰が埋めるんだよ?」


「私以外に居ないでしょう?」


「…………」


「どうです? 悪い話ではないはずですよ。貴方が一日、貂蝉の店で店員を務めるだけで一ヵ月も仕事が休めるんですよ?」


「…………」



亜弥から聞かされた条件の内容に零治の心は揺れ動いた。

警備隊の仕事は他の首脳陣達の仕事に比べれば楽な方だが、多忙なのもまた事実だ。

零治は与えられた仕事はキッチリとこなすが、人間である以上は人並みに怠け癖だって持っているし、たまには楽をしたいと思った事も一度や二度ではない。

そういう意味では、亜弥が出してきた条件は破格の内容と言っても良いだろう。



「零治。引き受けてくれますか?」


(むむむ……一ヵ月仕事が休みかぁ。確かに魅力的な条件ではあるが……)



一ヵ月間仕事が休み。ちょっとした長期休暇が出来る。その間は仕事には縛られず、自分のやりたい事が出来る。しかしその時、零治はふと思った。何をすればいいのだ、と。



「…………」



零治はベッドに寝転がったまま天井を見上げ、頭を働かせるが何も思い浮かばない。

ここは元居た世界と違い、自分にとって娯楽と言える物が全然ないのだ。

テレビも無いし、ゲーム機も無いし、ケータイも無いし、パソコンも無い。一応本はあるが、零治は亜弥と違ってあまり読書をするような人間ではないし、字の読み書きは既に習得しているので読む必要性を感じていなかった。

後やれる事と言えば、随分前に華琳の許可を得て酒蔵を建設してもらい、お気に入りの酒であるジンの製造に着手はしているが、アレも素人に毛が生えた程度の知識でやっているため上手くいっていないのが現状だ。



(うん。やりたい事が何一つ無いな)



散々考えたがやはり何も浮かばなかった。

かと言って一ヵ月間ただ自室でダラダラ過ごすようではただの引きこもりと同じだ。

更に気がかりな事があり、仮に休んだとしても、自分が休んでいる間は亜弥がその穴を埋めると言ってはいるが、恐らく身体が保たないだろう。もし亜弥が過労で倒れでもしたら自分が出張る事になる。そうなれば休みどころではない。

仮にそうならなかったとしても、休み明けに待っているのは仕事だ。

自分がやりたい事をやりきって休みを満喫できたのなら、気持ちよく仕事に励む事が出来るだろうが、何もせずに無意味な時間を過ごした後の仕事など怠いだけだ。休みが長期間続いていたのならば尚更だ。

恐らく怠け癖が身体に染みついて、仕事に身が入らないのがオチだろう。



「折角の魅力的な提案だが、お断りさせてもらう」


「えぇっ!? れ、零治。いいんですかっ!? 一ヵ月も仕事が休めるんですよ! 貴方はそれを断るんですかっ!?」


「確かに一ヵ月も仕事が休めるのは魅力的な内容だ。だがその間オレは何をしてりゃいいんだ? この世界でオレがやれる事なんてそんなに無いぞ」


「そ、それは、ほら。休んでる間に探せばいいじゃないですか。これを機に新しい世界の開拓でもするとか色々……」


「それはそれで面倒だからいい。それに、仮に休んだとしてもそれが原因でお前が過労で倒れでもしたらそれどころじゃない」


「…………」


「何より、連休明けの仕事ほど怠い物は無い。それが長期休暇となれば尚更だ。だから諦めろ」


(むぅ……まさかこの話にも乗って来ないとは。かと言ってこのまま引き下がる訳にもいきませんしねぇ。……仕方ない。とっておきの手を使うとしましょう)


「分かりました。なら別の条件を提示しましょう」


「まだ諦めないつもりか? 何を出されてもオレの考えは変わらんぞ」


「それは話を聞いてから判断しても遅くは無いでしょう? それに……この条件の内容は、ある意味ではさっきの内容よりも魅力的ですよ」


(……あれ? なんか嫌な予感がするんだが……)



今の亜弥は普段の姿とは打って変わり、何やら妖しい色気を纏い、妖艶な笑みを浮かべながらベッドの傍まで歩み寄り、ゆっくりとしゃがんで、顔を零治の耳元まで寄せて艶のある声でそっと囁く。



「零治……」


「っ!? な、何だよ……」



耳元で囁かれたため、零治はビクリと肩を震わせる。

おまけに今の亜弥の姿に妙な恐怖心を感じ、顔がすぐ近くにあるため息遣いがよく聞こえ、零治は背筋にゾクゾクと嫌な寒気を感じた。



「零治。私に買ってくれたこのメガネ。あの時……そのお礼に私が貴方に何をしたのかは憶えていますよね?」


「あ、あぁ……」


「それは良かった。で、話を続けますが……もしも貴方が私の頼みを引き受けてくれるのなら……」


「…………」


「あの時の続き……キスの先を貴方にしてあげますよ」


「…………はあっ!?」



亜弥から提示された次の条件のあまりにもぶっ飛んだ内容に、零治は口をあんぐりと開けて驚きを露わにする。

零治も男だから、亜弥が先程言った言葉の意味ぐらいすぐに理解できた。つまりは男女の営みである。



「亜弥……お前、気は確かか? それともヤケになってんのか?」


「私は至って冷静ですよ。貴方が相手ならば私も悪い気はしない……」



亜弥は自分の言葉が本気だと示すように羽織っているコートを脱ぎ捨て、下に着ているベストとカッターシャツのボタンを数個外して胸元をはだける。

その結果、下に隠れていた胸の谷間が露わになり、今にも服から零れ落ちそうだ。



「どうです? もしも頼みを引き受けてくれるのなら……私の身体を好きにして良いんですよ? それこそ、貴方が内に抱えている欲望、本能の赴くままに行動しても構わないんです……」



亜弥は零治の耳元で囁きながらそっと顔を近づける。

あと数㎝で唇が触れる距離だ。部屋がとても静かなため、互いの息遣いだけが聞こえ、それも非常に大きく聞こえる程だ。



(……やばい。コイツの眼は本気だ。しかしオレは……)


「零治……」



亜弥は艶のある甘い声で囁き、そのまま口づけに持ち込もうとするが。



「あぁ……もう! 分かったよ! 引き受けるからそれ以上はやめろっ!」



これ以上話を引っ張っては本当に足を踏み外してしまいかねないと思い、零治は理性を働かせ、亜弥を力任せに押し退けて頼みを引き受ける事にした。



「おっとっとっ!? ……零治。そこまで乱暴に押し退けなくてもいいでしょう」


「やかましい。ってか、お前こそさっさと胸を仕舞え」


「はいはい」



亜弥ははだけた服を整えて、床に脱ぎ捨てたコートを拾い上げ、それを羽織っていつもの服装に戻した。



「では、引き受けてくれるんですね?」


「ああ」


「なら三日後はよろしくお願いしますね。その日は仕事は休みにしておきますので」


「ああ。それとだ……報酬は一週間の休みだ。それで充分だからな……」


「おや。その程度でいいんですか? なんなら私が夜の相手をしても良いんですよ?」


「不要だ。用件は済んだんだろ。さっさと帰れ……」



亜弥の本気なのか冗談なのかいまいち反応に困る微妙なセリフを零治は適当に受け流し、シッシッと言わんばかりに猫を追い払う仕草をする。



「やれやれ。そこまで邪険にしなくてもいいでしょうに。なら、失礼しますね」


「……待て」


「ん? 何ですか?」



亜弥がドアノブに手をかけた所で零治が呼び止めたので、ノブから一旦手を離して後ろに振り返り、亜弥は零治と視線を交わす。

零治は無言でしばらく亜弥を見つめ、おもむろに口を開いた。



「亜弥。今後は冗談でもあんな真似はするな。正直笑えん……」


「……あんな真似とは?」


「色仕掛けの事だ……」


「あぁ……」


「あんな真似をしても喜ぶのはせいぜい……ウチの陣営のお盛んな野郎どもと、一刀ぐらいだろ」


「フッ。確かに私の胸に見とれてた彼なら喜ぶでしょうね」


「あのガキの事はどうでもいいんだよ。とにかく、冗談でも二度とあんな真似はしないでくれ」


「冗談……か。まあ、確かに半分は冗談ですね。こうでもしないと、貴方は引き受けてくれ無さそうでしたし」



亜弥はフッと小さく笑い、ドアノブに手をかけながら扉に視線を向けて零治には聞こえない小声で呟く。



「ん? なんか言ったか?」


「いいえ」


「そうか」


「フッ。貴方の言いたい事は分かりましたよ。お気に召さなかったようですし、もうしませんよ」


「分かってくれりゃいいんだ」


「……それに、私も想い人から貴方を取り上げる真似をしたくはないですしね」


「はっ? 何の話だ?」


「いえ、お気になさらずに。では失礼しますね」


「いや、おい……」



零治は引き止めようと声をかけるが、亜弥は意味深な言葉を残して部屋を後にした。



「……何だよ。想い人って何の事言ってんだよ?」



鈍感な零治は亜弥の言葉の意味が理解できず、考えても分からない事に頭を働かせても無駄と判断し、ベッドに寝転がって三日後の憂鬱な日に備えて身も心も休める事にした。


………


……



それから三日後。

約束の日が来たので、零治は昼前に街へと足を運び、貂蝉の店を目指す。

その間の零治の気分はとても鬱屈としたものだ。今から貂蝉の店でやる事を考えれば、いい気分など全くしなかった。



「まったく。何でオレがこんな目に……。これも貂蝉の奴が余計な事を言うから……っ!」



女装セット一式を詰め込んだ大きめの布袋を背に抱えながら、零治は一人で内に抱える苛立ちを吐き出すようにブツブツと独り言を漏らしながら繁華街の通りを練り歩き、やがて貂蝉の店が見えてきたので、零治はそこで迂回して店の裏側へと回り込んだ。



「貂蝉。入るぞ……」



一応、扉をコンコンと二回ノックをして、それから扉を開けて店内へと零治は足を踏み入れる。

それからすぐに音を聞き付けた貂蝉が姿を見せ、お得意の営業スマイルを浮かべながら零治を出迎えた。



「いらっしゃい、零治ちゃん。今日は来てくれて本当にありがとねん」


「ケッ! お前が余計な事を言ってくれたおかげでオレは今日一日、最悪の休日を過ごす事になっちまったがな……」


「それは悪かったと思ってるわよん。でもほら、今日一日を乗り切ればいい訳なんだし、機嫌を直してよ」


「分かってるからクネクネすんな。見てて気分が悪くなるわ……」



もうここまで来た以上は後には引けないのだ。

零治は諦めたように嘆息して背に抱えている荷物を裏に構えられている事務所に無造作に放り投げ、袋を逆さにひっくり返して中に入っている女装セットをドサドサと床の上に散らかす。

そして纏っているコートを脱ぎ捨て、女装セットの山の中からゴスロリドレスを手に取り、いざ着替えようとしたが、背後から視線を感じたので零治はゆっくりと後ろに振り返ると、自分の姿を興味深げに凝視している貂蝉と眼が合った。



「貂蝉……」


「な~に?」


「今から服を着替えるんだが……」


「あぁ、あたしは気にしないわよん?」


「お前は気にしなくてもオレは気にするんだよっ! 今すぐ出ていけぇ!!」



相手が相手なだけに着替えてる所など見られても良い気分などしない。

何よりその最中に何をされるのかも分かったものじゃないのだ。

まあ、零治にならば仮にそういった状況になっても即座に対処できるだろうが、やはり用心するに越した事はない。

零治は怒鳴り散らしながら店の表側を指さし、売り場に出ろと意思を示す。



「はいはい。分かったわよん。じゃ、用意が出来たらお願いね?」



貂蝉はヒョイッと肩を竦めながら売り場の方へと戻り、いつ来客があっても良いように会計台に設けている椅子に腰かけて待機する。

貂蝉が売り場に戻った事を確認し、零治は改めて着替えを再開する。



「ったく。あの筋肉達磨が。はぁ……」



零治は溜息を吐きながらシャツとズボンを脱ぎ捨て、ゴスロリドレスを身に纏い、ロングブーツを履き、付け毛を頭に着用して手鏡を片手にメイクセットで女らしく見えるように入念に化粧をする。

化粧が完了したら胸に詰め物をして、仕上げに自分の喉に右手をあてがいながら魔法をかけて女の声に変えて、ちゃんと声が変わっているのかを確認するために軽くを発声をした。



「あ、あー。あー。あいうえお。……よし。完璧だ。なら始めるかね……」



零治は大きな溜息を吐いて、背中に哀愁を漂わせながらゆっくりとした足取りで売り場へと進んでいく。

こうして零治の災難な休日第二幕は始まったのだ。


………


……



「いらっしゃいませー♪」


「すみません。下着を新調したいのだけれど」


「新しい下着ですか? でしたらこちらなどいかがでしょうか? 最近入荷した新商品ですよ」


「すみませーん。これの会計お願いしまーす」


「はーい。お買い上げありがとうございまーす♪」



いざ売り場に立ってみれば、初めはそうでもなかったというのにどこからか話が漏れたのか、まるで火が点いたような勢いでお客さんが次から次へと来店し、店の中は買い物客……一部は狼夏に扮した零治を見物に来ただけだが、でごった返しになり、今の店内はまさに猫の手も借りたいような状況に置かれていた。



「おい、見ろよ。アレが噂の……」


「だよなぁ。見た事ない服着てるし……」


「おい! お前ちょっと声かけて来いよっ!」


「ばっか! 俺には無理だよっ! お前こそ行って来いよ!」


「よし。なら三人で行こうぜ」


「おお! お前頭いいなぁ」


(ハッハッハ……。全部聞こえてんぞ。そこの三バカ……)



零治は出来ればこの状況下で男とは関わりたくないと思っている。

零治は売り場の手直しをしている貂蝉にチラリと意味深な視線を向け、視線を感じた貂蝉も零治に視線を合わせた。

零治はクイッと顎をしゃくって店の角っこでヒソヒソと話をしている三人の男性客を何とかしろと貂蝉に促した。



「はいはい」



零治の意図を理解した貂蝉はヒョイッと肩を竦め、パパッと売り場の手直しを終わらせて、三人の不審な? 男性客の所まで足を進め声をかけた。



「はいは~い。そこの御三方。何かお探しかしらん?」


「「「っ!?」」」



いきなり半裸の筋肉達磨に声をかけられ、三人の男性客達は表情を強張らせ、何やら危険な気配でも感じ取ったのか、冷や汗を顔からダラダラと流しながら硬直してしまう。

これだけでも充分に効果はあると思うが、それでは零治は納得しないだろう。なので貂蝉は最後のダメ押しをした。



「言っておくけどウチの店、冷やかしならお断りよん?」


「「「し……失礼しましたーーっ!!」」」



三人の男性客達は本能的に何か危険な物でも察知したのだろうか。

貂蝉の言葉を聞くなり脱兎の如く店から逃げ出し、他の買い物客も何事かと声がした方向に視線を向けた。

ひとまずの危機は去ったようで、零治は心の中で安堵の溜息を洩らした。



(ふぅ……。いい仕事ぶりだぜ、貂蝉。この状況で野郎とお近づきになんかなりたくないんでな)


「すみません。この商品の会計をお願いできる?」


「はーい♪ いま行きまーす」



目先の危機は去ったが状況は相変わらずだ。

来店客の買いたい下着の品定めに会計、落ち着いたら売り場の手直しなどなどとやる事は山積みだ。

まさにてんてこ舞い。一息つく暇すら与えられない状態であった。


………


……



「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……っ!」



あれから何とか大勢の買い物客達を捌き切り、ようやく店内も落ち着きを取り戻した。

今は誰も居ないので、零治は会計台の前にある椅子に腰かけて疲労困憊の様子で激しく息を切らしていた。



「狼夏ちゃん。お疲れ様。はいこれ。冷たいお水でもどうぞ」


「あぁ、悪いな……」



貂蝉が持ってきた冷水の入った湯呑を零治は引ったくるように取り、旨そうに水を飲んで喉の渇きを潤す。



「んっ、んっ、んっ。……あぁ~。生き返るぜ……。ありがとな」


「どういたしまして」



零治はぶっきらぼうに礼を言い、湯呑を貂蝉に返す。

そして、いま胸の内に抱いている疑問を投げかけてみた。



「おい、貂蝉。一つ訊きたい事がある」


「な~に?」


「お前の店、いつからこんなに忙しくなったんだよ? 前はあんなに客来なかっただろ……」


「う~ん……多分だけど、貴方のその姿が原因だと思うわよ」


「…………はっ?」


「だから、みんな貴方のその女装姿を一目見ようと押し寄せて来たのよ。で、そのついでに買い物って所だと思うわ」


「……頭痛がしてきた」



貂蝉から聞かされた予想だにしない事実に零治は酷い頭痛を憶え、右手で頭を押さえながら項垂れた。

まさか客が押し寄せて来た原因が自分、しかもこの女装姿だとは。

零治は今すぐにでも帰りたい気分になってるが、それとは対照的に貂蝉はとても上機嫌だ。

今日は零治が狼夏に扮して店員をやってくれてるおかげで普段の日の売上額を既に超えており、万々歳なのだ。



「ねえ、狼夏ちゃん。ウチの店で本格的に働かない? 給金は弾むわよ」


「死んでもお断りだね……」


「あん。もう。つれないんだから」


「……しかし、華琳の奴来ないなぁ。貂蝉。本当にウチの主は今日来るって言ったんだろうな?」


「ええ。確かに言ったわよ」


(ふむ。しかしもう随分な時間が経過してるが……。まっ、来ないなら来ないでこっちとしては助かる。それならさっさと引き上げる事が出来るしな)



だが、そう都合よくは行かないのが世の常だ。

こういうの噂をすれば影と言うのだろうか。その話題の中心人物である華琳が店についにやって来たのだ。



「失礼するわよ」


「いらっしゃいませー」


(あぁ、クソ……。噂なんかしたせいか? ついに来ちまったか……)


「久しいわね、狼夏」


「これは曹操様。いらっしゃいませ」



零治は内に抱えている鬱屈な気分を表に出さぬように気持ちを切り替え、愛嬌ある笑みを浮かべながら黄色い声で挨拶を交わし、狼夏を演じる事に集中する。

一番の目的は華琳との応対を乗り切る事なのだ。ここさえ凌いでしまえば後は問題ない。店の事など貂蝉に任せて自分は早々に引き上げる事が出来るのだから。



「狼夏。風邪を引いていたと聞いたのだけれど、もう大丈夫なの?」


「はい。見ての通り、本日より復帰する事になりましたので」


「そう。元気そうで良かったわ」


「ありがとうございます。……それで曹操様。本日はどういったご用件で? 今日も新しい下着のお買い求めでしょうか?」


「いえ、今日はそういった用件で来たのではないのよ」


「はい? では何の御用でこちらに?」


「狼夏。今日は貴方を私の城に招待したいのよ」


「は、はいっ!?」



零治は女の声のまま裏返った声で返事をしてしまう。

まさか華琳の目的が買い物ではなく、自分を城に招く事だなんて予想できる訳もない。

更に言えば、城に行くという事は自分が見知った人間達の前でこの姿をまた晒す事になるのだ。

その状況下でもしも正体が露呈してしまったら、一生笑い者として日々を過ごす事になるだろう。



「あのぉ、曹操様。それはどういう意味で……?」


「別に深い意味は無いわ。ただ貴方とお茶でも飲みながら少し話がしたいのよ」


「で、でした街にも茶店がありますし、別に曹操様のお城じゃなくても良いのでは……?」


「確かにそうだけど、街じゃ周りの視線もあるし、貴方と一緒じゃ静かに話は出来ないと思うわ」


(いや、それは城でも変わらん気がする……)


「それで、どうかしら?」


「え、えぇっと……」



零治はチラリと後方に控えている貂蝉に助けを求める視線を向けた。

しかし、貂蝉が言った言葉は零治が必要としている物とは正反対だった。



「いいじゃないの。幸い店の方は落ち着いてるし、今日はもう上がって構わないわよ。狼夏ちゃんはまだ病み上がりなんだから」


(おいテメェ!!)


「ふむ。店主の許可も下りた事だし、ならば行きましょうか、狼夏」


「そ、曹操様。少しだけ待ってもらえますか?」


「ええ。なら表で待ってるわね」


「はい」



華琳は上機嫌な様子で店の外に出いていき、それを確認した零治は貂蝉にギロリと殺気の籠った視線を向けながらズンズンと詰め寄った。



「おい。一体どういうつもりだ? お前はオレに何か恨みでもあるのか、貂蝉……」


「あらやだ。怖いお顔」


「話を逸らすな……」


「まあ、落ち着きなさいな。狼夏ちゃん。今この場であの話を断っても、恐らく問題の先送りにしかならないわよ」


「…………」


「だったら受けるしかないじゃない。貴方なら大丈夫よ。演技には自信が有るんでしょう?」


「まあな。はぁ……仕方ない。行ってくる。荷物は後で取りに戻るとしよう」


「その方がいいわね」


「……オレの留守の間に妙な事するんじゃねぇぞ」


「しないわよ。ほらほら。あまり女の子を待たせないの。早く行ってきなさいな」


「はいはい。はぁ……」



もはや後のは引けない。ここまで来た以上はやるしかないのだ。

零治は気持ちを切り替え、店の引き戸に手をかけ、表で待っている華琳と合流するのだった。



「お待たせしました。曹操様」


「いえ、大丈夫よ。なら行きましょうか」


「はい」



零治は愛嬌ある笑みを浮かべながら軽い会釈をし、華琳の後に続く。

当然ながら城の方角など分かりきっている。自分もそこに住んでいるのだから。

だが今は事情が違う。『零治』として城に帰るのではなく、『狼夏』として城に向かうのだ。

つまりは客人扱い。なので城に着いたら迂闊な事は言えない。振る舞いも細心の注意を払う必要があるのだ。

そんなこんなな理由から、零治はどこか緊張した面持ちで華琳の後に続き、城へと足を進めるのであった。


………


……



「さ、着いたわよ」


(はぁ。来てしまった。この姿で……)


「曹操様。お帰りなさいませ」



城門の前まで辿り着けば、門の左右に立つ二人の見張りの兵士がビシッと姿勢を正し、華琳達を出迎える。

当然ながら零治もこの二人の兵士の事はよく知っている。街へ出かける時や帰って来た時に何度も顔を合わせているのだ。

だが今は違う。あくまでも今の自分は狼夏だ。何と言われようが赤の他人を決め込まねばならない立場にあるのだ。



「ん? 曹操様。この娘は?」


「彼女は私の客人よ。失礼のないようにね」


「初めまして。狼夏と申します。以後、お見知りおきを」



零治はドレスの裾の左右を両手で軽く摘まみながら持ち上げ、優雅な笑みを浮かべながら会釈をする。

その姿と優雅な笑みに、見張りの兵士二人は言葉を失いながら見とれてしまい、挨拶をするのも完全に忘れてしまう。



「貴方達。彼女がこうして挨拶しているのに、何も言わないつもりなの?」


「はっ!? こ、これは失礼いたしましたっ!」


「よ、ようこそいらっしゃいましたっ!」


「全く。客人の前なのよ。この私に恥をかかせないで頂戴ね」


「はっ! 申し訳ありませんっ!」


「分かればいいのよ。さ、狼夏。ついてきなさい」


「はい」



零治は華琳の後に続き城門を潜り抜け、城内へと足を運んでいく。

そしてその脇に立つ二人の兵士は首だけを動かし、その後ろ姿を見つめ、口を開いた。



「なあ。今の子、すっげぇ可愛かったなぁ」


「ああ。あの人……間違いなく神威様と同じくらいの美人だぜ」


「はぁ。俺の前にもああいう美人が現れくれねぇかなぁ……」


「だよなぁ。俺もいい加減、独り身は寂しすぎるぜ……」



二人の兵士はいつまで経っても独り身の状況を嘆きながら嘆息し、与えられている仕事に従事するのだった。


………


……



華琳と零治は城内の吹き抜けの廊下を練り歩きながら中庭を目指す。

いざ来たはいいものの、零治としてはやはり城内でこの姿は晒したくないのが本音である。

半ば無駄だと分かってはいるが、それでも狼夏として華琳に話しかけ、何とか城から抜け出す口実を探ってみる事にする。



「あの、曹操様。来てから言うのもなんですが、本当にいいのでしょうか? 私みたいな者が城に来ても」


「私が招いたのだから問題は無いわ。誰にも文句は言わせないから安心なさい」


(くっ! やはり無駄だったか。あぁもう! こうなったらなるようになれだっ!)


「華琳様。おかえりなさいませ」



と、その時、廊下の反対側から秋蘭が現れ、華琳の姿を確認し、姿勢を正して一礼した。



「ええ。ただいま」


「おや? お主は……確か狼夏だったな」


「どうも。お久しぶりでございます。えぇっと……」


「あぁ、そういえばあの時は名乗っていなかったな。私は夏侯淵だ」


「初めまして、夏侯淵様。以後、お見知りおきを」



零治は城門の前に立つ見張りの兵士二人に披露した優雅な挨拶を秋蘭にも見せ、秋蘭も軽く頷いて会釈した。



「所で華琳様。なぜ彼女が城に?」


「私が招待したのよ。少し話がしたくてね」


「左様でしたか」


「秋蘭。お客人にお茶と茶菓子を用意してあげて。私達は中庭の東屋に居るから」


「かしこまりました」


「さて、私達は中庭で待ってるとしましょうか」


「はい」



お茶と茶菓子が用意されるのを待つため、華琳達は改めて中庭の東屋を目指して足を進める。

中庭に到着してみれば、またもや見知った人物と鉢合わせしてしまい、その者は意外そうな様子で声をかけてきた。



「ん? おっ、あんたは」


「あっ。ど、どうも」


「ん? 霞。彼女を知っているの?」


「ああ。前に街でちょっと話をした程度やけどな。……なあ、姉ちゃん。あんたがここに居るって事は、ひょっとして……」


「あ、いえ。今日は客として来ただけですので」


「なんや、そうなんかぁ。ちぇ……」



霞はあの時に話をした侍女の件の事を期待していたのだろうか。

客として来ただけという事実を知るなり、心底残念そうな表情になった。



「二人して何の話をしているのよ?」


「なあ、華琳。この姉ちゃん知っとるっちゅう事は、どこで働いとるかも」


「ええ。知っているわよ。それがどうかしたの?」


「なあ、華琳。この姉ちゃん、侍女として雇う事は出来んか? 正直ウチはこんなええ子があんな化けもんみたいな奴の所で働いてるのが気の毒に思えてならんのよ……」


(ハッハッハ……。霞。オレも好きであんな奴の店で店員なんかしてるわけじゃないんだぜ……。あぁクソ。あの時の事を思い出してまた泣きそうだわ……)



前に貂蝉の店で店員をやってた時の事でも思い出したのか、零治は目頭を押さえながら俯いて涙をグッと堪える。

ここで泣いたりすれば華琳達も不審に思うだろうし、何より事態が更にややこしい事になりかねないのだから。



「ふむ。そうねぇ……」



華琳は零治に視線を移し、顎に手を添えながら頭のてっぺんから足のつま先までじっくりと観察する。

零治もこの行動が何を意味しているのかは分かっているつもりなのだが、正体を隠し通さねばならない気持ちから警戒するように数歩後ろに後ずさってしまう。



「な、何ですか……」


「そう警戒しないで。何もしないわよ」


「はあ……」


「確かに彼女ほどの人物なら、私も侍女として召し抱えてあげたいと思うわね」


「せやろぉ。なあ、姉ちゃん。どうや? 悪い話やないと思うで」


「……ありがたいお話なのですが、お断りいたします。私、今の仕事を結構気に入っているので」


「あら。残念ね。まあ、私も無理強いはしないし、貴方の意志は尊重したいと思うわ」


「すみません」


「気にしないで。……でも、こんな事言っちゃ悪いかもしれないけど、苦には思ってないの? あんなのが上司で……」


「あぁ、それはウチも同感やな。姉ちゃん、仕事中あれと一緒に居て何とも思わへんの?」


「まあ……お二人の言いたい事は分かりますよ。ですが彼も話してみればいい人なんですよ? 確かにその……変わった方ではありますが……」


「つまり、苦には思っていないのね?」


「はい。見た目云々はともかく、人としては嫌いではないですね」



と、零治は答えるが、これは零治としての本心と狼夏としての演技、半々と言ったところである。

確かに零治は貂蝉の事を決して嫌ってはいないが、かと言って進んで関わり合いたいとは思っていない。

現に今日の一件も発端は貂蝉が余計な事を言ってしまった所から始まっているのだ。

だがそれはあくまでも『零治』としての考え。今は『狼夏』としてこの場に居るのだから、狼夏らしい考えを述べて零治はその場をやり過ごした。



「姉ちゃん。あんたって見かけによらず強い精神を持っちゅうんやなぁ。ウチはとても真似できんわ」


「そうですか? 慣れればどうって事ないですよ?」


「いや……ウチは慣れたくはないわ」


「私も同感ね……」


(ハッハッハ。オレだって本音はそうだよ……)


「で、霞。貴方、仕事はどうしたの?」


「今から行く所やってん。出来ればウチも姉ちゃんと話したいんやけどなぁ」


「それは仕事を終わらせてからになさい」


「分かっとるって。ほなな、姉ちゃん。ゆっくりしていきや」


「はい。お仕事、頑張ってくださいね」



零治は狼夏として愛嬌ある笑みを浮かべながら会釈をし、霞に見送りの言葉を贈る。

その笑みに、霞は胸を打たれ、一気に気合いを充実させた。



「おうっ! いっちょ頑張ってくるでぇ!」


(……本気で欲しいわね、この娘。張三姉妹とは違う方向性で良い火付け役になりそうだわ)


「ん? どうかしましたか、曹操様?」


「いえ、何でもないわ。さて、私達は東屋でお茶が来るのを待つとしましょうか」


「はい」



華琳に従い、零治は狼夏として演技をしつつ、東屋の椅子に腰かけて秋蘭が用意するであろうお茶と茶菓子が来るのを待つ。

それからしばらくして、二人分のお茶と茶菓子を秋蘭が東屋まで持ってくる。



「華琳様。お待たせしました」


「ありがとう」



秋蘭はお茶と茶菓子を東屋の台に一つずつ丁寧に置いて、お盆を持ったまま華琳の脇に控える。



(茶菓子は桃マンか。この茶は何だ? まっ、何でもいいか。早いとこ用件を済まさせて城から脱出しないとな)


「秋蘭。この桃マンは貴方が?」


「はい。姉者が食べたいと言い出したので。他の者達も食べるのではないかと思い、多めに作っていたので、それをお持ちしました」


「なるほど。なら、冷める前にいただくとしましょうか」


「はい。いただきます」



零治はおもむろに桃マンに手を伸ばそうとしたが、そこで手を止めて瞬時に引っ込めた。

今の自分の姿は少なくとも女性の姿なのだ。普段通りに飲み食いをしたら怪しまれる可能性がある。

なので零治は、まずはお茶の湯飲みに手を伸ばし、右手は側面に添え、左手で底を持ちながらゆっくりと口元まで近づけ、音を立てることなく上品にお茶を飲んだ。



「ふぅ。美味しいお茶ですね」


「気に入ってもらえてよかったわ」



華琳は狼夏(零治)がお茶を気に入ってくれた様子に満足げに頷き、同じよう上品に茶を飲み、桃マンに手を伸ばした。

零治も桃マンに手を伸ばし、右手で端の方を千切り取り、塊は皿に戻して欠片を頬張り口元を左手で隠しながら上品に食べてみせた。



「あら。随分と上品に食べるのね?」


「……んっ。両親から厳しく教育されましたので」


(フッ。我ながら言い訳が上手いね……)


「そう。素晴らしいご両親だったのね」


「今でこそ感謝はしてますが、当時は嫌で仕方が無かったですよ」


「ふふ。その気持ちは分からなくもないわ」


「それで、曹操様。私に話とは? 何か訊きたい事でもあるのでしょうか?」


「あぁ、その事。別に大した事じゃないわ。ただ、貴方と話がしたかっただけよ」


「はあ」


「でもまあ、気になる事もあるにはあるわ。訊いてもいいかしら?」


「はい。どうぞ」


「貴方……」



と、華琳が質問を投げかけようとしたその時だった。

吹き抜けの廊下で桂花が誰かを捜すように辺りをキョロキョロと見回し、華琳の姿を確認するなりこちらに向かって走ってきた。

この様子から、桂花は華琳に話があるのだろう。



「華琳様ー。こちらにおいででしたか」


「何か用。桂花……」



話の邪魔をされたせいなのか、華琳はどこか不機嫌そうな様子で口を開いた。

そんな華琳の心境を知ってか知らずでなのか、桂花は何かの資料らしき物を片手に話を進める。



「はい。実は……って、華琳様。誰ですか、この女は……」



華琳が知らない女性と一緒なのが気に入らないのだろう。

桂花の様子も華琳同様に不機嫌になり、狼夏に敵愾心が籠められた視線を向ける。



(あぁ、そういえば桂花は知らないんだったな)


「私が招いた客人よ。何。文句でもあるのかしら?」


「い、いえ。滅相もございません……」



桂花は口ではこう言ってはいるが、本音は文句があるのだ。

しかし、あの桂花が敬愛する華琳の前でそんな事は口が裂けても言える訳が無いので、本心を押し殺し、何とか嘘を貫き通す。

だが、それでも人間の心とは正直な物だ。先程からチラチラと桂花は華琳に気づかれないように女装姿の零治に向かって殺気の籠った視線を何度も向けていた。



(おーおー。分かりやすい奴だねぇ。まっ、桂花にしては頑張ってる方だが、あと何分保つかな?)



零治は胸の内で桂花の様子を嘲笑いながら観察していたが、その時に頭の中に一つの考えが浮かんだ。

今の零治は一刻も早く城から脱出したいと考えている。そして、その口実を作る格好の材料がいま目の前に居るのだ。



(そうだ。コイツを利用しない手は無い。桂花をダシにして、ここから逃げ出すとするか)


「初めまして。狼夏と申します。以後、お見知りおきを」


「…………」



零治は桂花にも恭しくお辞儀をし、丁寧に挨拶をするが、対する桂花はやはり気に入らない様子で無言で見据えて何も言おうとしない。



「桂花。客人がこうして挨拶をしているのに、貴方は何も言えない礼儀知らずなのかしら。それとも……この私に恥をかかせたいのかしら……?」


「い、いいえ。そのような事は決して……っ!」


「なら貴方も挨拶ぐらいしなさい」


「は、はい。……私は荀イクよ。よろしく……」



華琳に言われ、桂花は渋々ながら挨拶を交わす。

しかし、その姿にはどこか棘がある。自分では巧く偽っているつもりなのだろうが、傍から見れば本音が完全に表に出てしまっている。実に分かりやすい性格である。



(それで本音を隠しているつもりなのか? まあいい。このまま桂花の奴を煽って、城から出る口実を作るとしようかね)


「そ、それで、華琳様。お話の方が」


「はぁ。それは今すぐしなきゃいけない程の急用なのかしら?」


「い、いえ。そのような事は……」


「ならば後になさい。私は今、客人の相手をしているのだから」


「あの、曹操様。私の事はお気になさらずとも良いのですが」


「ほら。この娘もこう言ってますし、この者の相手は秋蘭にでも任せておけばよろしいかと」


「そうはいかないわ。彼女を招いたのはこの私なのよ。招いた本人が相手をしないようでは失礼極まりないわ」


「で、ですが……」



納得のいかない桂花はなおも食い下がる。余程に華琳から狼夏を引き離したい魂胆が見え見えである。

そして零治はそこを見逃しはしない。内心で不敵な笑みを浮かべながら、桂花の煽りを開始する。



「曹操様。もしかしたら彼女、構ってほしいのではないのでしょうか?」


「なっ!?」


「……そうなの。桂花?」


「い、いえ! そんな事はありませんっ!」


「違うのですか? 私にはそういう風にしか見えませんが」


「貴方……さっきから黙って聞いていれば、会ったばかりの貴方に私の何が分かるというのよっ!?」


「桂花。静かになさい」


「ですが華琳様! この娘、いくらなんでも失礼が過ぎます!」


「そう? 私は彼女の意見には非常に興味があるわ」


「なっ!?」


「狼夏。聞かせて。なぜ貴方は桂花が私に構ってほしいように見えるのかしら?」


「先程から荀イク様の言動ですが、曹操様を私から引き離して自分を見てほしいように仕向けてるようにしか私には思えないのですよ。どう見ても構ってちゃん特有の行動にしか思えませんね」


(なっ!? この女、どうしてそこまでっ!?)


「構ってちゃん? それはどういう意味なの?」


「あぁ、構ってちゃんとは私の国で、構ってほしいがために迷惑行為や奇行を行う人の事を指します。あまり良い意味では使われませんが」


「ふむ」



零治の指摘に華琳は顎に手を添えながら桂花に視線を向ける。

その視線を受け、桂花はビクリと肩を震わせるが、何とか視線は逸らさずに正面から華琳を見据える。



「桂花。私の客人はこう言ってるけど、どうなの?」


「そ、そのような事は決してありません! 全てその娘ので、デタラメですっ!」


「その割には今の貴方、口調に落ち着きが感じられないわね。もしかして図星なんじゃないの?」


「…………」



華琳の鋭い指摘に桂花は思考が上手く働かず、言い訳の言葉が思いつかないため、何も言えずに俯いてしまった。

華琳はその姿を面白がるように鼻で小さく笑い、狼夏に視線を戻す。



「狼夏」


「何でしょう?」


「貴方、中々に鋭い観察眼を持っているようね。どう? やっぱりここで働かない?」


「なっ!? 華琳様っ!?」


「曹操様。それは先程も申しあげたようにお断りすると……」


「そ、そうです華琳様! このような娘が我が軍で役立つとは思えません!」


「あら桂花。何も私は彼女を将や軍師として迎えるとは言ってないわ。ただ侍女として雇いたいだけよ」


「じ、侍女なら充分に居るではありませんか!」


「そうね。でも、彼女の鋭い観察眼は中々の物よ。きっと役立つはず」


「私はそうは思えません! こんなどこにでも居そうな小娘が一体なんの役に立つと……っ!」


「桂花。私の客人にそれ以上の暴言を言うつもりなら……お仕置きするわよ?」


「うっ……!」



華琳の鋭い視線の前に、桂花は委縮して口をつぐんでしまう。

そして零治はこの展開を好機と見て、即座に行動に移した。



(フッ。これだけやりゃ充分だな。では、退散するとしようかね)



零治は落ち着いた表情で湯呑を手に取り、上品に残りのお茶を飲み干し、そっと卓の上に湯呑を置いて静かに息を吐きながら席を立ち、口を開いた。



「ふぅ。曹操様。私、どうもこれ以上この場に居てはいけないような気がしますので、これでおいとまさせていただきますね」


「そうね。このような空気では折角のお茶も美味しくはないでしょうしね……」


「あっ、桃マンは持って帰らせてください。食べ残しては夏侯淵様に失礼ですから」


「そう。なら包みを用意させましょう」


「いえいえ結構です。食べながら帰りますので」


「あら、それは少々下品ではなくて?」


「曹操様。私は一人の時も上品に振舞う訳じゃないのですよ?」


「ふふ。冗談よ」


「それでは曹操様、夏侯淵様、荀イク様。これで失礼いたします」



零治はドレスのスカートの裾を軽く摘まんで持ち上げ、そっと頭を下げ優雅なお辞儀をし、その場を後のしようとする。



「狼夏。最後に出口まで見送りをさせてちょうだい」


「はい」


「秋蘭。狼夏と一緒に先に行っててもらえる? 私もすぐに行くから」


「承知いたしました。では、狼夏。参ろうか」


「はい」



秋蘭の案内に従い、零治は中庭を後にする。

その場に残されたのは華琳と桂花のみ。華琳はゆっくりと桂花に視線を移し、冷たい口調で静かに話しかけた。



「さて、桂花……」


「っ!? は、はい……」


「私が何を言いたいか、分かるわね……?」


「…………」



氷のように冷たい威圧的な視線、じわじわと怒りを感じさせる冷ややかな口調。

今の華琳に何を言っても聞き通してはくれないし、そんな事をしても怒りの炎に油を注ぐだけにしかならない。

桂花はただ押し黙る事しか出来ず、主の怒りに対する恐怖に怯えながら華琳が口を開くのを待つ。



「話は客人を見送ってからにするわ。貴方はそれまで自分の部屋に居なさい。いいわね」


「は、はい……」



今の桂花に言い訳の余地など無い。ここで何か言い訳などすれば、華琳を余計に怒らせるだけだ。

桂花は華琳の命に素直に従い、トボトボとした足取りで自分の部屋へと帰っていき、華琳も狼夏を見送るために城門まで足を進めた。


………


……



「曹操様。今日はお招きいただいてありがとうございます」


「いえ。こちらこそ、ウチの家臣が失礼を言って済まなかったわね」


「私は気にしていませんのでお気遣いなく。もとはと言えば私が余計な事を言ってしまったせいですし……」


「例えそうだとしても、最終的に桂花はムキになって貴方の言葉に過剰に反応して食って掛かるような真似をしたわ。だから貴方は気にしなくていいのよ」


「そう言っていただけると助かります。では、私はこの辺で」


「あぁ、待ちなさい。もうじき日も暮れるわ。この時間帯を女一人で街まで帰るのは危ないでしょう。秋蘭、悪いけど彼女を街まで送ってあげて」


「はっ。お任せください」


「最後までお手を煩わせてしまって申し訳ありません、曹操様」


「気にしないで頂戴。狼夏。機会があればまた招待してあげるわ。その時は、桂花は部屋にでも閉じ込めておくから」


「それはやりすぎな気がしますが……はい。機会があれば、また。では、そろそろ失礼させていただきます」


「ええ。気を付けてね」


「はい。夏侯淵様。道中よろしくお願いいたします」


「うむ。では華琳様、行ってまいります」


「ええ。くれぐれも狼夏をお願いね」



零治は何とか正体を露呈する事無く、城からの脱出に成功。

街に向かう間も秋蘭と他愛もない世間話をしながらその場をやり過ごし、最後まで正体を隠し通す事が出来た。

因みにこの後、城の方では桂花が華琳にキツーいお仕置きをされていたのはまた別の話である。

亜弥「おや? 零治が居ないですよ?」


作者「オレが休みにした。また殺されかけるのはご免なんでな」


奈々瑠「あぁ。確かにあの時、貴方兄さんに殺されかけましたもんね。首を絞められて」


臥々瑠「だねぇ。あれはホントに死んじゃったのかと思ったよ」


恭佳「しかし……クックック。零治が……女装……アハハハハハ!!」


亜弥「恭佳。いくらなんでも笑いすぎですよ」


恭佳「だって可笑しいに決まってるじゃん! あの零治が女装だよ! しかも女物の下着店の店員なんかしてさぁ! アーハッハッハ! お腹が痛いわぁ!!」


作者「いやはや。酷い姉を持ったもんだな。ウチの主人公殿はよ」


奈々瑠「元凶である貴方がそれを言いますか……」


作者「オレの珠玉のネタに何て言い草しやがる」


臥々瑠「ねえ。気になってたんだけど、このネタ、まだ続いたりするの?」


作者「フッフッフ。実はもう一回書く予定だ」


亜弥「……そんな事したら今度こそ零治に殺されますよ」

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