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第50話 次なる戦地

久しぶりにオフィシャルサイトを覗いたらなんと恋姫の新作が発表とな!

いやぁ、ファンとしては嬉しいお知らせですねぇ。

中庭に漂ってくるのは空きっ腹に堪える良い匂い。

その正体は流琉が用意してくれた昼食だ。因みに中庭の東屋には季衣、恭佳、臥々瑠と大飯ぐらいの食う専が三人も居るため、流琉一人では大変だと思い、零治、亜弥、奈々瑠の三人も手伝ってあげてようやく出来上がった物である。



「はい。出来ましたよー」


「やったー! 流琉、早く早くっ!」


「はいはい。そんなに慌てなくてもちゃんと沢山あるから安心してよ」


「……ほれ。これは姉さんと臥々瑠の分な」


「おぉっ! これは旨そうだねー」


「うぅ……もう我慢できない! 兄さん! 早く食べさせてよっ!」


「ならアンタも皿とか出すの手伝いなさいよ。こっちの苦労も知らないで……」


「奈々瑠。こんなの今に始まった事じゃないんですから、そう毒づかなくてもいいじゃないですか」


「分かってますけど……やっぱり言わなきゃ気が済まないです」


「それにしてもすみません。兄様達にまで手伝わせてしまって」


「気にするな。ここには大飯ぐらいの食う専が三人も居るからな。人手は多いに越した事はない」


「と言っても、作ったのは零治と流琉の二人でしたけど。私と奈々瑠は材料を切るのとかしてたぐらいですし」


「いやいや。それだけでも充分に助かったさ。感謝してるぜ」


「おーい。いつまで待たせてんだい。早く食わせてくれよ」


「はいはい……」



恭佳が早くしてくれと急かすので、零治はお盆に乗せていた複数枚の取り皿を季衣達の前に置いて、開いているスペースに自分達の分の取り皿を置いて、各々に箸を手渡していく。

と、そこへ、匂いに釣られてなのか、華琳と秋蘭がその場に足を運んできた。



「あら。何か良い匂いがしているわね」


「華琳様!」


「秋蘭様!」


「……ん? おい、秋蘭」


「何だ?」


「お前……確か凪と沙和と一緒に馬騰の所に降伏の交渉に行ってたんじゃないのか?」


「馬騰の所に? ……ああ、あれは姉者だぞ」


「春蘭がぁ!?」



秋蘭の言葉に零治は驚きの声を出す。

それは当然だろう。何しろ交渉に出向いたのが、あの春蘭なのだ。

細々とした作業や書類仕事を嫌い、根っからの武人であり突撃思考の持ち主でもある。

その点をよく知っている零治、亜弥、奈々瑠、臥々瑠の頭の中はそんな人物に交渉など出来るのかという疑問で一杯だった。



「なあ。春蘭に交渉が出来るのか……?」


「出来るも何も、馬騰はれっきとした漢の将軍よ。その使者には同格の漢の将軍が行くのが礼儀というものでしょう?」


「それに、具体的な交渉は風が行うから大丈夫だ」


「ん? いや、それなら秋蘭も将軍だろ?」


「魏の中ではな」


「魏の中では?」



秋蘭の言葉の意味がいま一つ理解できない零治は不思議そうに首を傾げる。

その姿を見て、秋蘭は補足を加え、どういう意味なのかを具体的な説明を始める。



「都から見れば、ここに居る大半は華琳様の私的な部下という扱いなのだ。私にも宮中の地位が無いわけではないが、使者として馬騰と交渉できるほどではない」


「そうなのか。なら、流琉と季衣も?」


「都って、董卓討伐の時しか行った事ないです」


「ボクも……」


「私達の中で馬騰と交渉できるほどの官位を持っているのは、私と春蘭だけよ。その基準だけで見れば、秋蘭も流琉もさして立場は変わらないわ」


「……ふへっ!?」


「で、でも秋蘭様はボク達より偉いですよね?」


「華琳様の下では、一応な」


「なんかややこしいな……」


「まあ、音無達はさして気にする事もないだろう。お前達は我が陣営では、あくまで客将という扱いだからな。朝廷が力を持たない以上、既にこの官位とて形式以上の力は無い」


「ただ、その形式が必要な時だったというだけよ」


「他の陣営も似た感じなのか?」


「劉備の所も、漢の官位を持っているのは公孫賛と、せいぜい呂布くらいでしょうね。張飛や諸葛亮は劉備の私兵扱いだと思うわ」


「ふぅん……」


「なんだ。ちびっ子もボク達と一緒なんですね」


「多分ね」


「……なんか、五色狼時代のアタシ達みたいだね」


「あぁ、言われてみりゃ確かにそうだな」



横で華琳達の話を聞いていた恭佳が昔を懐かしむように呟き、零治もその言葉に同意する。

その話に興味心を刺激された季衣が零治にその事を訪ねてきた。



「そうなの? ねえ、兄ちゃんが居た天の軍隊ってどんな感じだったの?」


「ん~? 基本的な所は同じだぞ。軍属の人間にはそれぞれ階級が与えられていた。ただ……五色狼にはその概念は無かったな」


「つまり、貴方達が所属していた部隊には階級が無いって事なの?」


「ああ」


「……音無。それでは部隊をどうやって纏めるのだ。立場の上下関係が無いと黄巾党のように烏合の衆になるだけだろ」


「そうですね。だから部隊長だった私達には一定の階級と同じ権限が与えられていました。部下達もその事はちゃんと理解していたので、余計な混乱が起こる事はありませんでしたよ」


「へぇ~。やっぱり兄様と姉様って、天の国でも凄かったんですね」


「そうかね? 自分では正直わからんが」


「けど、分からないわね。権限は与えておきながら階級は無いなんて……。なんでそんなややこしい事をしていたのよ?」


「……黒狼がそういう風にしたからさ」



華琳の疑問に零治は遠い眼をしながら空を見上げ、昔を懐かしむようにポツリと呟いた。



「黒狼が?」


「ああ……」


「……聞かせてくれる?」


「…………」



華琳の問いに零治はしばらくの間、沈黙を守り、遠い眼をしながら空を見上げつつおもむろに口を開いた。



「奴は……五色狼を立ち上げる時、当時集めた人間全員をデカい部屋に集め、こう言った……」


「…………」


「『ここに集まった人間は私を含め、全員が同じ理想を目指し戦う同志だ。故にそこには生まれ、人種、立場、その者の過去、生い立ちなどは関係ない。意味を成さない。我らは対等な人間だ。この部隊に階級など不要なモノである。だが私は力ある者は評価するが、力無き者は切り捨てる。故に我らはある意味平等ではない……』」


「それは当然ね。軍は能力がなければ生き残れない世界ですもの」



華琳の言葉に零治も無言で頷きながら黒狼の言った言葉を続ける。



「『だがそれは、この腐りきった世界にのさばるクズ共が自分達の都合のいいように作り上げた規範にすぎない。敵は力の使い方も分からず権力を振りかざすだけの愚者だ。我らが住む土地を、そんな連中の好きにさせて良いのか? 良いわけがない。故に私は戦おう。敵を倒すために、そして下らない規範を破壊するために』」


「…………」


「『諸君も私に続き、戦え。愚かなる敵を討ち滅ぼし、我らの住む土地に再び平穏を取り戻し、そして……真に力を手にしていい者が誰なのかを、奴らに教えてやろうではないかっ!』……とな」


「へぇ~。……ねえ、兄ちゃん」


「何だ?」


「その黒狼って人、やっぱり華琳様みたいに、みんなが平和に暮らせるように戦ってたのかなぁ」


「……ですよね。でなきゃそんな事、普通言いませんし。兄様、その辺りの事はどうなんですか?」


「オレは黒狼じゃない。奴の考えは奴自身にしか分からない。それに……」



零治はそこで言葉を区切り、表情に影を落としながら俯いて、吐き捨てるように言った。



「いま思えば、アレはオレ達をいいように利用するための建前だったのかもしれん。でなきゃあんなバカな考えを実行しようとするはずが……」


「んっ! んぅ!」



これ以上零治に何かを言わせては折角の食事の雰囲気を台無しにしてしまいかねないと思い、亜弥がワザとらしく咳払いをして零治の言葉を遮った。



「……すまん。この話はもうよそう。それより早いとこ飯にしようぜ。華琳と秋蘭も食うだろ?」


「ええ。そうさせてもらうわ」



華琳と秋蘭も加えて、零治達は東屋でちょっとした昼食を始める。

各々は流琉と零治が作った料理の味に表情を綻ばせるのだが、零治だけはどこか不機嫌そうな表情をしながら黙々と箸を進めていた。

季衣はその様子を気まずそうに横からチラチラと窺い、声を潜めながら亜弥にその事を訪ねてみる。



「ねえ。姉ちゃん……」


「ん? どうしました?」


「ボク……兄ちゃんを怒らせるような事、もしかして言っちゃったのかな……」


「なぜ?」


「だって……さっきから兄ちゃん一言も喋ってないし、凄く機嫌が悪そうな顔してるから……」


「あぁ……。大丈夫です。別に季衣の事を怒っているわけじゃないんですよ。すぐに元の零治に戻りますって」


「う、うん……」



亜弥にそう言い聞かされ、季衣は少しだけ安どの表情を浮かべながら食事に箸を進める。

しかし、結局零治は食事が済むまで間、一言も喋る事はなかった。


………


……



「あーっ。食った食った」



食事を終え、恭佳は東屋の椅子に思いきりもたれながら満足げな表情で腹をポンポンと叩く。

食べた物が美味しければそういった事をするのも無理はないと思うが、この姿は女性としては褒められた姿ではない。



「やっぱり流琉のご飯は最高だねー!」


「もぅ。ちょっとはどこが美味しかったとか言ってよね」


「だってよ、季衣」


「姉さんもだ」


「……美味しい物は美味しいでいいじゃん♪」


「まあ、不味いって言われるよりはいいけどよ」


「あ、華琳様なのー」


「あら、沙和。凪も、遠征ご苦労さま」


「ただいま戻りました。隊長は……仕事の方は終わりましたか?」


「いいや。ありゃすぐには終わりそうにないから食休みさ。オレと亜弥が休んでいる間に整理しなきゃならん資料が山のように溜まってたし、お前らが居なかったから人手も足らんしな」


「申し訳ありません。私も仕事の合間を縫って少しずつ整理はしていたのですが、いかんせんそれよりも多くの量の資料が次から次へと舞い込んできたので……」



留守は責任を持って預かると啖呵を切っておきながら、結局零治達に苦労をかける事になってしまったため、凪は酷く申し訳なさそうに頭を下げながら言うので、零治がすかさずフォローを入れる。



「気にするな。あれだけの量をお前一人で整理しても限界はあるからな。後は……」



零治はそこで言葉を区切り、凪の横に立っている沙和にジト眼を向ける。



「…………」


「まっ、真桜と沙和に書類整理なんか任せるだけ無駄だわな」


「あーっ! 隊長! いくらなんでもその言い草は酷いのーっ!」


「華琳様。ただいま戻りました」



と、そこへ春蘭もやって来るが、その表情は浮かないものである。

これを見れば交渉の結果が何を示しているのかは訊くまでもない。失敗に終わったのが眼に見えて分かる。



「ご苦労さま。結果は……芳しくなかったようね」


「……申し訳ありません。詳しくは風の報告書を見ていただければと思いますが、馬騰は天子の臣であり、魏の旗の下には決して降らんと」


「構わないわ。あれほどの将、倒すのは惜しいと思っていたけれど……代わりに剣を交える楽しみができたという事ね」


「しかし、私が言うのもなんですが……討伐ならまだしも、交渉ごとは秋蘭に行かせた方が良かったのはないでしょうか?」


「ん? いや、秋蘭にできないからお前が行ってきたんだろ?」


「……そんなわけがあるものか。今回は秋蘭が忙しいから、私に回ってきたのだろう?」


「でもよ、この城じゃ、漢の官位を持ってるのは華琳と春蘭だけだと……」


「そうなのですか?」


「春蘭様、凄いのー」


「…………?」



当人の春蘭は何の事だと言わんばかりに首を傾げる。

この様子に零治はまさかと思い、声を潜めながら華琳に疑問を投げかけてみた。



「華琳。まさかとは思うが……もしかして春蘭の奴……」


「まあ、貴方がだいたい思ってる通りよ」


「……いくらなんでもこれは問題だろ。自分の立場をちゃんと理解してないなんてよ」


「別にいいじゃない。いつもの事なんだし」


「いや、それはそうだが……」


「それより隊長! 自分達だけ流琉ちゃんのご飯を食べてたのはずるいのーっ! 沙和も食べたいのー!」


「うむ。同感だな」


「いや、これオレも一緒に作ったんだが……」


「あの……まだ材料はありますから、食べるなら作りますけど……食べますか?」


「おう! なら食べさせてもらうとしよう!」


「なら、自分も……」


「ボクもまだ食べられるよー!」


「はいはい。分かった。分かりましたから……!」


「ふぅ。流琉。悪いがコイツらの分は任せたぞ。オレと亜弥は仕事に戻らなきゃならんのでな」


「あ、はい。分かりました。兄様、姉様。お仕事頑張ってくださいね」


………


……



それから翌日。

その日の軍議に出された報告は、きのう春蘭が言っていた話を更に詳しくした内容だった。

現在は玉座に腰掛ける華琳の前で風がその内容を事細やかに述べている。



「己は最後まで漢の臣である。……それが、馬騰のこちらに対する回答でした」


「そう。予想は出来てはいたけれど、残念ね。……で、馬騰はどういう人物だったの?」


(そういえば、馬騰は反董卓連合時はなんか西方の牽制があるとかで参加はしてなかったんだったな。代わりに参加していたのは馬超だったか)


「はい。公平にして勇敢、五胡の間にも勇名を轟かす豪傑……旅の間も噂には聞いていましたけどー。噂に違わない、高潔な人物という印象を受けましたー」


「伊達に涼州の諸侯を束ねる人物ではない、という事か。やはり……惜しいわね」



華琳はまだ心のどこかでは馬騰をこちらに引き入れたい思いが残っているのか、表情に影を落としながら残念そうに呟いた。



「西方の騎馬の民を相手にしているだけあり、戦慣れした騎兵が主体です。反董卓連合の時もそうでしたが機動力に関してはあちらに一日の長があるかと」


「ウチみたいな戦い方が基本になるわけか……」


「うむ。全軍、騎馬への対策を今まで以上に徹底させる必要があるだろうな」



軍議の内容はもはや涼州の制圧というのが基本方針として纏まりつつある様子だ。

だが現時点では敵は馬騰だけではないのだ。なので稟が疑問を投げかけてくる。



「しかし華琳様。どうして今のこの時期に涼州なのですか? 南方の孫策や益州の劉備も力を蓄えているという報告を受けていますが……」


「もしこの二勢力が共闘してきた場合、こちらも官渡以上の苦戦を強いられる事になります」



桂花も稟の横に並び、尤も危惧している事を華琳に述べる。

孫策と劉備が同盟を組み、共闘してこちらに攻め込んで来る可能性は極めて高いだろう。

なぜなら劉備の所には黒狼達という切り札がある。対して孫策の所には黒狼達と互角に戦える武将、あるいは天の御遣いが降り立ったという話は現時点では無い。少なくともこの状況で孫策が劉備を攻撃する可能性は無いに等しいのだ。

華琳もその点は理解しているが、それよりも危険な可能性を述べて稟と桂花の言葉を跳ね除ける。



「そうね。けれどそこに、西方からの奇襲を掛けられたらどうなるかしら? 彼らの機動力なら、数日もあればここまで辿り着くでしょうよ」


「…………むぅ」


「恐らく、最後の相手は劉備か孫策のどちらかになるはず。あるいはその両方か。その妨げとなる戦力には今の内に退場してもらう必要がある……そういう事よ」


「承知いたしました」


「皆も良いわね。桂花達は騎馬に有効な戦術を準備しておきなさい。霞の戦い方が参考になるでしょうから、霞もそれに加わって」


「おう。まかしとき!」



基本方針も纏まり、首脳陣達が戦に備えて慌ただしく動き始める。

零治も話は聞いていたが、一人で別の事をひたすらに考えており、どうするべきかについて決断を下すべく、玉座の間を立ち去ろうとしていた春蘭を呼び止める。



「春蘭」


「ん? 何だ?」


「お前にちょっと訊きたい事があるんだが」


「私にか? まあ、別に構わんが。で、何が聞きたいのだ?」


「馬騰の事だ」


「馬騰がどうかしたのか?」


「……会った時の様子を聞かせてほしいんだよ」


「…………」



零治の質問になぜか春蘭は口を噤んでしまう。

別に変な質問ではないはずなのだが、春蘭はどう答えたものかとしきりに頭を働かせている。



「春蘭?」


「……ちょっと来い」


「ん? あ、あぁ……」


………


……



春蘭がついて来いと促すので、零治は言われるがままに一緒に玉座の間を後にして、春蘭の後ろに続く。

城内をひとしきり歩いて、連れてこられたのは中庭の東屋だ。お互いに椅子に腰かけて、春蘭は周囲に人が居ない事を確認するためキョロキョロと何度も辺りを見回した。



「……大丈夫そうだな」


「おい。何だってこんな所に連れてきたんだよ。おまけに随分と周りを気にしてるが……誰かに聞かれたらマズイのか?」


「まあな」


「なあ。そういう事なら無理に訊きはしないが」


「いや、お前なら話しても良いだろう。だが念のために言っておくが……誰にも言うんじゃないぞ」


「……華琳にもか?」


「できれば華琳様にも言わないでほしい。あの方の御心がこの話を聞いて揺らぐ事は無いと思うが、万が一という事も考えられるからな……」


「分かった……」



珍しく真剣な表情で春蘭は言ってくる。

この様子では、春蘭が今から言おうとしている事はそれだけ重要な内容なのだろう。

零治もその事を理解し、重く頷いた。



「これは噂で聞いた話なのだが……」


「…………」


「どうも馬騰は病に侵されているらしいんだ……」


「病に?」


「ああ」


「……確かなのか?」


「会った時の様子も、かなり無理をしていたように見えた。恐らく間違いないだろうな」


「なぜ治療しないんだ?」


「……馬騰が患っている病は、どうも不治の病らしいのだ」


「にもかかわらず、馬騰はこちらには降伏せず、戦いを挑むつもりなのか……」


「うむ」


「……そうか。すまんな、春蘭。妙な事を訊いちまって」


「気にするな。それともう一度言っておくが……」


「分かってる。誰にも言わねぇよ」


「ならいい。では、私も戦の準備があるから行かせてもらうぞ」


「ああ」



春蘭が立ち去り、一人その場に零治は残り空を見上げながら考える。春蘭から聞かされた馬騰の事についてを。



「馬騰が病に。それも不治のか……。その状況で戦い、もしも敗北すれば馬騰は恐らく……」



零治はそこで口を閉じて先の言葉を飲み込んだ。

今の状況で零治はある考えを浮かべていた。そしてそのためには協力者が必要である。

そしてその人物にも零治には心当たりがあった。



「……もしかしたらアイツなら。うし、今から街に行くかな」


「何? どこかにお出かけかい?」


「だあぁ!?」



背後に音も無く姿を現していた恭佳が立っていて、いきなり声をかけてきたので零治は驚きの声を出しながら大きくその場から飛び上がってしまう。



「って、姉さん。脅かすなよ……」


「はは。悪い悪い」


「ったく。て、あれ? 姉さん、その格好」


「ん? あぁ、これね。いつまでもあのローブ姿じゃアレだし、昔の服装にしたのよ。どうだい? 昔を思い出さないかい?」



今の恭佳の服装は漆黒のローブ姿ではなく、かつて五色狼時代に纏っていた物。

つまり、零治と同じロングコートを着用した全身黒ずくめの服装だ。

恭佳はその場でクルンと一回転してコートをなびかせてビシッとポーズを決めてみせる。



「ああ。確かに昔を思い出すよ」


「だろ?」


「……所で姉さん」


「何?」


「さっきの話……もしかして聞いてたのか?」


「アタシは基本、実体化していなかったらアンタの後ろに憑いているからね。嫌でも聞こえちゃうのよ……。心配しなさんな。誰にも言わないから」


「ならいいが」


「で、アンタは街まで何しに行くのさ?」


「はぁ。聞かれた以上は仕方ない。姉さんにも協力してもらうぞ」


「んん? まあ、アンタの頼みなら協力は惜しまないけど。それで? 街へ何をしに行くのよ?」


「華佗を捜しに行くんだよ」



零治は恭佳にニヤリと不敵な笑みを浮かべながら言い、そのまま街まで足を運ぶ事にした。


………


……



「さて、着いたはいいが華佗の奴、どこに居るんだ?」


「零治。どこに居るかも分からないのにどうやってあの男を捜しだすのさ?」


「すぐに見つかるかは分からんが、華佗はこの街にしばらくは滞在すると言っていたんだ。少なくともどこかの宿には居るはずだ」


「つまり、この街にある宿を片っ端から当たる気なの……?」


「他に方法があるか?」


「…………」



零治から聞かされた手段に恭佳は心底嫌そうな顔になる。

大きな街ともなれば宿の数も一件や二件では済まない。おまけにその宿全部を徒歩で当たらねばならないのだ。そうなれば時間もかかるし、当然疲れもする。

恭佳は今すぐにでも帰りたい気分になるが、それを読み取った零治が痛い所を突いてくる。



「協力は惜しまないと言ったよなぁ?」


「……分かってるわよ。はぁ……」


「なら、近場から順に当たってくぞ」



項垂れている恭佳を伴い、意気揚々と捜索を開始しようとしたその時である。

思わぬ形でその捜索は早くも終了してしまった。



「……あれ? そこに居るのはひょっとして零治か?」


「ん? って、アンタは……」


「……まさか捜していた人物が向こうからやって来るとはな」


「ん?」


「華佗。ちょうど良かった。実はアンタを捜していた所なんだよ」


「俺を? 何か用か? ……あっ、まさかまた身体に異常が……っ!」


「いや、そうじゃない。オレは至って健康さ。アンタに話があって来たんだ」


「俺に話? 分かった。なら、俺が泊まってる宿まで案内する。そこで聞くとしよう」


「ああ。頼む」



零治と恭佳は華佗の案内に従い、彼が泊まっている宿まで足を運ぶ事とする。


………


……



「まあ入ってくれ。茶でも飲むか?」


「いや、用件が済んだらすぐに戻るから結構だ」


「そうか。なら、その話とやらを聞かせてくれるか」


「ああ」



華佗、零治、恭佳の三人は部屋に設けられている円形のテーブルとセットになっている椅子に腰かける。

零治は椅子にもたれながら天を仰ぎ、大きく息を吐いて華佗に視線を戻し、おもむろに口を開いた。



「華佗。まずは話の前に、あの時の礼を改めて言わせてほしい。助けてくれて感謝する」


「あぁ、それはもういいって。前も言ったように、俺は医者だ。当然の事をしただけさ」


「いや、華佗。アタシからも礼を言わせてくれ。あの時アンタが居なかったら弟は死んでいた所だ。零治を助けてくれて、本当にありがとう」



あの時、礼を言いそびれていたので、恭佳はテーブルに両手をつき、大きく頭を下げて零治を助けてくれた事に対する感謝の言葉を華佗に述べる。



「弟? じゃあ、ひょっとしてあんたは」


「ああ。そういえばまだ自己紹介してなかったね。アタシの名は音無恭佳。零治の姉だよ。恭佳って呼んで構わないよ」


「ああ。よろしくな、恭佳」


「さて……なら本題に入ろうか」



零治はテーブルに両肘を乗せ、口元の前で手を組んで真剣な表情でここに来た目的を語り始める。



「華佗。実はな、アンタに頼みたい事があるんだ」


「俺に頼み?」


「ああ。華佗。アンタの五斗米道に治せない病気とかはあったりは……」


「我が五斗米道に治せぬ病など有りはしない! どんな病であろうと必ず治してみせる!」


「そうか。実はアンタに治療してほしい人が居るんだが……少し遠出をする事になると思うが、問題は無いか?」


「俺の助けを必要としている人が居るのならば、どこにでも行ってやるぞっ!」


「それはよかった。近々その人が居る所に出発する事にはなるだろう。いつ発つのか正確な日取りはまだ決まってないから、それが分かったらまたここに来るよ」


「分かった。その時はいつでも来てくれ」


「ああ。じゃ、オレ達はこの辺で失礼するよ。姉さん、行くぜ」


「あ、あぁ……。それじゃあね、華佗」


「ああ」



話を終えた零治は恭佳を伴って、早々にその場を立ち去り、城へと帰る事にする。


………


……



「さて。華佗の方は問題ないとして、後はどうやってアイツを連れていくかだなぁ」


「…………」



城への帰り道、一人思考を巡らしながらブツブツと呟いて歩いている零治の姿を隣から見つめる恭佳。

華佗との話を横で聞いていて、恭佳には一つの考えが浮かんでいたので、その事について尋ねてみる事にした。



「零治……」


「ん? 何だよ?」


「アンタのさっきの話だけど……華佗に治してもらいたい人って、まさか馬騰なのかい……?」


「……ああ」


「やっぱりか……。まあ、何かの考えがあっての事なんだろうけどさ……分からないね。なんでわざわざ敵を助けるのさ?」


「…………」



恭佳の言う事は尤もである。

今の状況下では、馬騰は倒すべき敵である。華琳も倒すのは惜しいと思い、この前春蘭達を使者として向かわせ、降伏するように呼びかけたのだがそれは失敗に終わっている。

となればもはや戦う以外に道は無い。その上で助ける事に何の意味があるのか恭佳には全く理解できないから、零治に疑問を投げかけてみたが、当の本人はしばらく黙って間を置き、やがて口を開いた。



「すまない。悪いが今は姉さんにも言えないんだ……」


「…………」


「別に信用していないわけじゃないが、どこから話が漏れるか分からないんでな。だから目的はまだ明かせないんだ。分かってくれよ」


「はぁ……。いいわよ。乗りかかった船だし、アンタの考えに従うさ」


「ああ。しっかりと協力してもらうぜ、姉さん」



零治はニヤリと不敵な笑みを浮かべながら恭佳に肩を組んで城へと帰っていく。

そしてそれから数日後、戦の準備を終え、華琳達は馬騰に戦いを挑むために涼州へと出発をしたのだった。

作者「恋姫、新作が来るどーーーーっ!!」


零治「おい。それ今回の話とは一切関係ないだろ……」


亜弥「まあ、ファンなら喜ぶ気持ちは理解できますけどね」


奈々瑠「今度はどうなるんでしょうねぇ?」


臥々瑠「なんか結構キャラも増えてたしね」


恭佳「だねぇ。名前しか出てこなかった、あの孫堅もついに出るしね」


作者「個人的にはそっちよりも気になる事が」


零治「何だよ?」


作者「華雄」


亜弥「彼女がどうかしたんですか?」


作者「いやぁ……アイツの真名、明かされたりとかするのかな?」


奈々瑠「あっ。確かにあの人、真名が未だに無い状態ですよね」


臥々瑠「確かにそうだけど、華雄に真名があっても需要はあるの?」


作者「意外にファンは居るみたいだぜ。オレもネタキャラとしては嫌いじゃないし」


恭佳「……それ以前にそいつ出てくるの?」


零治「さあ?」

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