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第43話 全てを砕き破壊せし者

先に謝っておきます。すみません。

この回の話、零治のセリフのひらがなの部分を全てカタカナにしているため、非常に読みづらくなっています。

ですが異様さを表現する方法がこれしか思いつかなかったので、ご理解願います。

それと、今回の話が最後のバックアップの回となります。

次回から更新は完全に不定期となりますので、よろしくお願いします。

影狼と黒狼が激闘を繰り広げる中、突如として零治は未知なる力に目覚め、完全復活を遂げた。

だが、今の零治は全く異質の存在となっていて、明らかに危険な雰囲気を放っている。



魔王剣ディスキャリバーノ使イ手ヨ。貴様ハ忌ムベキ存在ダ。ソノ忌マワシキ元凶ノ片割レト共ニ……貴様ヲ砕ク!!」


(まずいわね。完全に叢雲に取り憑かれているわ……。今は黒狼に注意が向いているようだけれど……いつあの敵意が他の人達に向けられるか分からないし、非常に危険だわ。早く何とかしないとっ!)


「凄まじい魔力と殺気だな。これが叢雲に秘められた『アンリミテッドモード』というやつなのか……?」


恭佳きょうかっ! 恭……佳……っ! ぐっ! はぁ、はぁ……っ!」


「っ!? 亜弥!」



亜弥は青ざめた表情をしながら絞り出すような声で左手を零治の実の姉、恭佳に向かってを伸ばして呼びかける。

その姿に恭佳はすぐさま亜弥の下に駆け寄り、話をするために亜弥のすぐ横にしゃがむが、もはや亜弥本人は限界に近い状態である。



「亜弥! 無理に動いちゃだダメよ! アンタ、自分が今どれ程の重傷を負っているか分からない訳じゃないでしょう!」


「分かってます……よ。ですが……貴方に伝えなきゃならない事が……あるんです……っ!」


「何? 状況が状況だから、出来るだけ手短にね」


「彼を……零治を……止めて……っ! あのままでは……彼は……っ!」


「ええ。あの力が零治にとって危険な事はアタシも分かってる。なんとしても止めてみせるわ……」


「はぁ、はぁ……。お願いします。こんな状態でなければ……私も……手伝ってあげるんですが……」


「その気持ちだけで充分よ。……さて、まずはアンタを城まで運ばなきゃいけないんだけど……この状況でアタシがこの場を離れる訳にもいかないし、どうしたものか……」


「恭佳。でしたら、奈々瑠達を……ここに」


「奈々瑠達? あぁ、あの戦闘獣人バイオロイドの姉妹の事ね」


「そうです……」


「でもあの二人、会った事も無いアタシの事を信用してくれるかしら?」


「その点は心配ないかと。いざとなったら、私が……フォローしますから。……ぐっ!」


「分かったわ。だからもうそれ以上喋らないで。……そこの二人! 奈々瑠と臥々瑠だっけ! すぐにこっちへ来なさい!」



恭佳は黒狼の後方で未だに樺憐と激闘を繰り広げている奈々瑠と臥々瑠に鋭い声で呼びかける。

その声で奈々瑠と臥々瑠は闘いの手を止めて恭佳に視線を向け、そしてどういう訳か、樺憐もそれに反応するようにピクリと身体を震わせて動きを止める。



「動きが止まった!? 今なら……臥々瑠っ!」


「うん! 分かってるよ!」


「「でえええええいっ!!」」



その一瞬の隙を見逃すことなく、奈々瑠と臥々瑠は二人同時に樺憐の腹部に蹴りを叩き込む。



「うがっ!?」



完全に無防備な状態で攻撃を受けてしまった樺憐はそのまま一気に後ろに押し返されて完全に動きを止めてしまい、奈々瑠と臥々瑠はその場から一気に跳躍して恭佳の所まで着地する。



「……あの、貴方は誰ですか?」


「……あれ? ねえ、奈々瑠。この人……何か兄さんに顔つきが似てない?」


「い、言われてみれば……確かに」


「悪いけど自己紹介をしている余裕はないの。アンタ達、すまないけど彼女、亜弥を城まで運んでくれるかしら?」


「そ、それはいいんだけど……」



臥々瑠はそこで言葉を区切り、前方で黒狼の前に佇んでる異様な雰囲気を放っている零治に不安げな視線を向ける。



「アンタが言いたい事は分かるよ。大丈夫。零治はアタシが必ず止めてみせる……」


「…………」


「…………」



奈々瑠と臥々瑠は互いに顔を見合わせながらどうしたものかと考えるが、すぐに結論は出た。

初めて会う人だが、なぜかこの人は信用できる。だからこの場は彼女に任せよう、と。



「分かりました。誰かは分かりませんが、こっちは私達に任せてください。……あの、くれぐれもお気をつけて」


「ふふ。ありがと。優しいのね。……それから、亜弥は右腕を骨折しているから、動かす時は注意しなさいよ」


「はい。……臥々瑠、姉さんは私が運ぶから、アンタは門を開けてちょうだい」


「ラジャー」



奈々瑠は亜弥の下まで駆け寄り、臥々瑠は城門を開けるために門の前まで小走りで移動し、その場に待機する。



「姉さん、大丈夫ですか。さっ、私の肩に掴まってください」



奈々瑠は亜弥の左腕を自分の首に回しながら肩を貸して亜弥の身体を支えながらそっと立ち上がらせて、傷に響かないようにゆっくりとした足取りで城門の方へと足を進めていく。



「うぅ……くっ! き、恭佳……」


「何?」


「くれぐれも……零治の事を……頼み……うっ!?」



亜弥は意識が朦朧としている中、かすれた声で恭佳に自らの願いを伝えようとしたが、とうとう限界を迎えてしまい、そのまま意識を失ってしまった。

だが、恭佳にはその言葉はしっかりと伝わっており、意識を失った亜弥にちゃんと返事を返した。



「ええ。分かってるわ……」


「姉さんっ!? 急がないと! ……臥々瑠、早く門を開けて!」


「分かった!」



城門の前で待機していた臥々瑠は、門に両手を当てて思いっきり力を籠めて踏ん張りながら巨大な門を押し、ゆっくりと城門が開け放たれていく。



「樺憐、白狼を逃がすな。追撃しろ……」


「…………」



黒狼は追撃を命じるが、樺憐は俯いたまま何の反応も示さずに呆然と立ち尽くしている。



「樺憐、何をしている。早く追撃しろ……」


「……了解しました。追撃します」



黒狼の命令に樺憐は少々の間をおいて何変わらぬ様子で従い、亜弥達の追撃を開始。

一気に距離を詰めようと猛スピードでダッシュしてくるが、そうはさせまいと恭佳が間に割り込んでくる。



「そうはいかないわよ。アンタの相手はアタシがしてやるわ」


「樺憐。構うな。その女は無視しろ……」


「イエス、マスター」



樺憐はダッシュの速度を緩めずに恭佳の横を素通りしようとしたが、それよりも一瞬早く、恭佳が鋸刃を起動したソウルイーターを振り上げて行く手を阻んできたので、樺憐は即座に両腕をクロスさせて、身に着けている手甲を使ってその凶刃を受け止める。



「人の事を無視してんじゃないわよ。アンタの相手はアタシがしてやるって言ったでしょう……」


「…………」



樺憐は無言で恭佳の攻撃を受け止め続け、接触面から激しく火花が散る。

そこから次第に、樺憐がじりじりと後方に押し返され始めるが、樺憐は両脚に力を入れて何とか踏み止まるが。



「おらぁぁぁぁっ!!」


「っ!?」



そこから恭佳はソウルイーターを一気に振り抜いて樺憐を一気に黒狼の隣まで押し返し、亜弥達の安全を確保する。



「あれぇ~? どうしたの? 防ぐだけで精一杯なのかしら? さっきと比べると随分と弱くなったわねぇ……」


「私の結界が逆に仇となったか……。こうなったら私自ら……」


「何処ヲ見テイル! 貴様ノ相手ハ我ガシテヤル!」



黒狼が思案を巡らせている中、零治が口火を切って突撃し、叢雲を一気に横薙ぎに振り抜いてくる。



「むんっ!」



黒狼はその一撃を難なく受け止め鍔迫り合いに持ち込むが、異常な変異を遂げた零治の力は大幅に上昇しており、黒狼をじわじわと後方へと押し返していく。



「くっ! まさか……これ程とはっ!」


「砕ク! 砕ク! 砕クッ!! ソノ忌ムベキ元凶ノ片割レ諸共、貴様ヲ破壊シテクレル!!」



今の零治は一言で表現するならば、それはまさに狂気。

零治は内に抱える怒りと破壊の衝動をすべて黒狼にぶつけるかの如く叢雲を持つ両腕に更に力を籠め、黒狼を魔王剣ごと斬り裂こうとする。



「奈々瑠! 臥々瑠! まだなの!? 時間稼ぎにも限度ってもんがあるわよ!」


「分かってます! もう少しですから! ほら臥々瑠、早く門を開けなさいよ!」


「分かってるよ! こっちだって頑張ってるんだから急かさないでよ!」


「奈々……瑠? 臥々……瑠? ……っ! うぅ……」



樺憐は抑揚の無い声で奈々瑠と臥々瑠の名を呟く。

その直後、頭の奥でズキンと鋭い痛みが走り、樺憐は両手で頭を抱えて苦しそうに呻きだす。



「ん? なに?」


「樺憐、何をしているのだ。私の手を煩わせるつもりか……?」


「うぅ……くぅ! うああああああっ!!」


「な、何っ!? 何が起こってるの!?」



樺憐は頭の奥から全身を駆け巡る鋭い痛みに耐えきれず、頭を抱えたまま天を仰ぎ、悲痛な叫び声を上げる。

恭佳は思はず身構えながら樺憐から距離を取り様子を窺うが、特に何かが起こる様子もなかった。



(ちっ! 洗脳が不充分だったか。やむを得ん。今回のテストはここまでだな……)


「何だかよく分からないけど、今ならコイツを倒せるみたいね。……仕留める!」



これを好機と見た恭佳は樺憐との距離を一気に詰め、ソウルイーターを大きく振り上げながら樺憐との闘いに終止符を打とうとする。

だがその時、恭佳の脳裏に助けを求める女性の声が響き、恭佳は思わず足を止める。



(…………てっ!)


「っ!? ……これは……あの戦闘獣人の魂の叫び……?」


(……てっ! …………けてっ!)


「くっ! ダメだわ。声が小さすぎて聞き取れない……」


「ああああああああっ!! ……うっ……!?」



黒狼の横で未だに頭を抱えながら悲痛な叫び声を上げていた樺憐は、突然思考が途絶えてしまい、そのまま仰向けに地面の上に倒れて意識を失った。

それと同時に、臥々瑠が門を開き、人が通れるだけの隙間を作り亜弥を抱えながら奈々瑠と一緒に城内へと退避していき、門は再び閉じられた。



「どこまでも世話のかかる女だ。……おい、趙雲」



黒狼は零治と鍔迫り合いの状態のまま後方で闘いを傍観している趙雲に声をかける。



「……何だ?」


「すまんが樺憐をそっちに運んでもらえるだろうか。見ての通り私は影狼の相手で忙しいのでな……」


「承知した……」



星は小走りで駆け寄り、地面にぐったりと横たわっている樺憐を背中に背負ってそのまま後ろに下がっていき、諸葛亮に耳打ちをする。



「朱里よ……」


「はい?」


「私はこのままこの者と共に本陣まで後退する。大丈夫だとは思うが、万が一に備えていつでも動けるようにはしておくようにな……」


「分かっています。そのかわり……」


「ああ。本陣の事は任せておけ」


「お願いします」


「では、ここは頼むぞ」



星は諸葛亮に軽く礼をして、名残惜しそうにチラリと零治に視線を向けるが、すぐに前に向き直り樺憐を背負ったまま本陣まで後退していった。

闘いの場では未だに黒狼と零治が一歩も引かない様子で激しい鍔迫り合いを繰り広げている。



「さてと……これで残すは零治と黒狼だけね。しかしどうしたものかしら。何とか黒狼をこの場から追い出さなきゃいけないんだけど……」



恭佳は必死に頭を働かせながらこの状況の打開策を考えながら、鍔迫り合いを続けている零治と黒狼に視線をやる。

まず一番に優先すべき事は黒狼をこの場から追い返す事なのだが、だからと言ってあの場に割って入るような真似をすれば自分もただでは済まない。

状況から判断して、零治が黒狼を倒すまで待つ以外ないだろう。



「……フン!」


「むぅっ!?」



恭佳がそんな考えを巡らせている中、零治が鍔迫り合いに押し勝ち、黒狼を一気に引き剥がして叢雲を鞘に納め、鋭い視線で黒狼を見据えながら居合の構えを取る。



「忌マワシキ結界ダナ。マズハ手始メニ、コイツカラ破壊シテクレル!!」


「フッ……。面白い。やってみろ……」


「ハアアアアアアッ!!」



零治は己が魔力を極限まで高めて叢雲の集中させる。

叢雲の集まっていく魔力は次第に外にも溢れ出し、叢雲その物が禍々しい赤黒い色の光を放ち始める。



「砕ケ散ルガイイ!!」



零治は上空に向かって叢雲を薙ぎ払うように一気に振り抜く。

それと同時に刃に溜められていた魔力が三日月状の形で放たれて、赤黒い光で周りを照らし出しながら暗闇の結界に包み込まれた空を駆け抜けていき、結界のてっぺんに魔力の刃がぶつかると同時に接触面がまるで窓ガラスのように砕け散り、巨大な穴を作り上げた。



「何だとっ!?」


「貴様ノ結界ハコレデ終ワリダ……」



零治の言葉通り、黒狼が創り上げた結界は終わりを告げる。

てっぺんに開けらた穴を中心点に周囲にも細かいひびが走り始め、結界内全域がひびで覆われた次の瞬間、辺りを覆っていた闇の結界は一瞬にしてガラス細工のように粉々に砕け散り、大地を白日の下に照らし出した。



(この力……やはり影狼の叢雲は、私の持つ魔王剣に対するアンチテーゼなのだな……)


「次ハ貴様ノ番ダゾ……」


「フッ……クックック……ハッハッハッハ……」


「何ガ可笑シイ……」


「大したものだな、影狼。まさか本当に王の支配を破るとは思わなかったぞ。しかし……これで勝ったとは思わない事だ。私は貴様の闘い方を熟知しているのだからな。まだ貴様が有利になったという訳ではないぞ……」


「我ノ前ニソノヨウナ知識ナド役ニ立チハセン!」



零治は狂気の笑みを浮かべながら再度叢雲で居合を放つ。

だが黒狼とは距離が離れすぎている。どう考えても無意味な行為だ。

しかし次の瞬間、黒狼の目の前に赤く光る細い筋状の無数の光が襲い掛かってくる。



「なっ!? これは! ……くっ」



黒狼は忌々しげに咄嗟に両腕を前にかざしてガードをするが、迫りくる無数の光は黒狼の腕や脚、脇腹などとあちこちに刀傷を付け、まるで鎌イタチに襲われたのではないかと思ってしまうような光景が繰り広げられた。

更にその刃は黒狼の後方に控えている諸葛亮の部隊にまで飛来して、部隊内の兵士達を次々と斬りつけていき、部隊内に多数の死傷者が続出する。



「ぐわっ!」


「ぎゃあっ!」


「ぎゃっ!?」


「おい。ギャラリーにまで手を出すのはやりすぎではないのか、影狼……」


「貴様ニ肩入レシテイル時点デ連中モ同罪ダ……。シカシ、ヨク耐エタデハナイカ……」


「今のは……魔力で形成された刃か。まるで鎌イタチだな……」


「面白イ例エダナ。……ソウ。今ノ我ハ触レルモノ全テヲ斬リ裂ク凶刃。ソシテ何者ニモ触レル事叶ワヌ存在。故ニ我ハ『叢雲』……」


「何者にも触れる事が出来ないだと……? 面白い。ならばこの私が触れてみせようではないかっ!」



その言葉が真実かどうか確かめるべく、今度は黒狼が反撃に転じて魔王剣を構えながら突撃をする。

だが零治はそれに対して防御の構えを取るどころか、叢雲を鞘に納めてゆっくりと前進し始める。



「っ!?」



零治のあまりにも常識はずれな行動に黒狼は面食らって攻撃の動作が一瞬遅れてしまい、咄嗟に身体を横にずらして零治との激突を避けて、そのまま零治の横をすり抜けて足を止めた。

しかし、零治の右側に黒狼の左肩が触れるが、その部分が接触する事は無く、雲の幻影ヴォルケ・ゲシュペンストを発動していたのか、黒狼の右肩が接触した部分は揺らめきながら辺りに霧散し、やがて元の状態に戻る。



「貴様……一体なんのつもりだ……?」


「…………」



黒狼はゆっくりと零治に向き直り問いただすが、零治は無言のまま横目で黒狼を見るだけだ。

だがその時、黒狼の右肩に異変が起きた。

突然、右肩部分に大きな刀傷がつけられ、傷口から鮮血が吹き出す。



「ぐっ! な、何だとっ!? いつの間にこの私に……!」



黒狼は左手で右肩を押さえながら驚愕する。

理解できない。自分はいつの間に攻撃されたのだと疑問しか浮かばない。

攻撃される瞬間があったとすれば、それは零治の身体に肩が接触した時だ。だが零治はその時なにもしてはいない。ただ歩いていただけなのだ。



「言ッタハズダゾ。今ノ我ハ触レルモノ全テヲ斬リ裂ク存在ダト……」


「……そういう事か。私はあの時すでに……肩が貴様に触れていた時に攻撃を受けていたのだな」


「ソウダ。故ニ今ノ我ハ何者ニモ触レラレズ、触レヨウトスル者ハ全テ斬リ裂クノミ……」


「なるほど。これはなかなかに厄介だな……」


「何ヲ言ッテイル。貴様ガマダ全力ヲ出シテイナイ事、我ガ気付カヌトデモ……?」


「…………」


「サア、見セテミルガイイ。貴様ノ真ノ力ヲナ!!」


「フッ。良かろう。確かにこの状況では使わざるを得んな……」



黒狼は冷たい笑みを浮かべながら魔王剣を構え直し、同じく零治も叢雲を鞘におさめて居合の構えを取り、双方無言で睨み合う。



「凄いですねー。まさかここまで強いとは、流石はお兄さんですねー」



それまで城壁の上から零治と黒狼の闘いを観戦していた華琳、桂花、奈々瑠と臥々瑠の四人は零治のデタラメな強さに完全に言葉を失い呆然としている中、風は普段と変わらないのんびりとした口調で感嘆の言葉を漏らす。



「奈々瑠、臥々瑠。零治のあの力は一体……」


「わ、分かりません。私達もあんなの初めて見ましたよ……」


「なら、あの女は何者なの? いきなりあの場に現れたけど……」


「すみません。私も彼女については何も。ただ、兄さんと姉さんの事を知っているみたいでしたが」


「そう。……それにしても、あの力は凄いわね。これなら勝てるかもしれないわね」



状況が自分達に有利に傾き始めたので、華琳の表情に希望の光が宿る。

奈々瑠と臥々瑠もその点には同意こそするが、浮かない表情で零治の姿を見つめる。



「そうですね。でも……」


「どうしたの?」


「何だか……今の兄さん、とても嫌な感じがするんです」


「嫌な感じ?」


「はい。とても禍々しい雰囲気を放っていて、近寄るもの全てを斬り捨てるような感じがして……」


「うん。アタシもそう思う……。正直、今の兄さんには近寄りたくない……」


「…………」



奈々瑠と臥々瑠の言葉に思考を巡らせながら、華琳も零治に改めて視線をやる。

そして思う。確かに今の零治は近寄りがたい禍々しい雰囲気を纏い、その姿はまさに悪鬼修羅。

その時、亜弥に聞かされた神器の危険性についての言葉が脳裏をよぎり、華琳の心に一抹の不安が宿る。



「華琳様! 地平の向こうに大量の兵が!」


「敵の増援か!?」


「さすがにこの状況で増援は……」



城壁に集う華琳達の間に緊張が走り、全員こわばった表情で桂花が指差す方向に顔を向ける。

その先には大量の砂塵を巻き上げる部隊、それも百や二百などではなく、とても大規模な騎馬の群れである。



「うろたえるのはよしなさい! ……桂花。新たな部隊の旗標を確認なさい」


「旗は……何あれ、こんなに大量の旗って……どこかの連合軍なの!?」


「……まさか西の部族連合か……!?」


「んーと……」



桂花に並んで風も城壁から身を乗り出し、眼を細めて新たに出現した部隊の旗に視線を走らせる。

それからすぐに一通り旗の確認を終えた風は首を横に振る。



「旗標は夏候、楽、許、郭……それに紺碧の張旗。みんなお味方の旗ですねー」


「えぇっ!? で、でも春蘭さん達は明日の朝までかかるって……!」


「うっしゃ! 間に合うたみたいやな!」


「急いだ甲斐がありましたね」



まずは霞と稟が到着し、馬上から霞はグッとガッツポーズをする。



「まったくや。稟もええ道選んでくれて助かったで! ご苦労さん!」


「当然の事をしたまでです。それに、礼ならこの戦に勝ってから言ってください」


「なんや、つまらんやっちゃなぁ……。ま、ええわ。この戦いに勝ったら、一杯おごったる!」


「ふふっ……はい。楽しみにしていますよ」


「春蘭様! 城の旗は健在ですよ! 華琳様達はご無事です!」


「当ったり前だー! 我らの華琳様だぞ! そう簡単に負けるはずがあるまい!」


「はいっ!」



続いて春蘭と季衣が到着。季衣が嬉しそうな表情で城壁の上に翻る旗を指さす。



「だが窮地である事に変わりはない! 急げ急げ! 一刻も早く、華琳様を劉備の包囲網からお救いするのだ!」


「ちょっと、春蘭様ー。そんなに急いじゃ、みんな疲れちゃいますよー!」



ただでさえここまで大急ぎで走ってきたというのに、春蘭は更に速度を上げようとするので季衣が苦言を呈する。

指揮官クラスならともかく、これ以上速度を上げては兵士達がばててしまい戦うどころではなくなってしまう。



「なら、疲れない程度に全速力だっ!」


「無茶言いなや!」



にもかかわらず、春蘭が無茶苦茶な事を言うのですかさず霞がビシッとツッコミを入れる。



「秋蘭様、城から反応がありました。あれは」


「うむ。城の側もこちらの動きに同調し、突撃を掛けてくださるのだろう」



そこから更に秋蘭が流琉と共に合流し、城からの反応を流琉が秋蘭に報告する。



「さすが秋蘭様。全てお分かりなんですね」


「……すまん。今のは全部私の勘だ」


「え……そうなんですか」


「だが、華琳様の事だ。ご健在である以上、こちらの動きを見れば全てを理解してくださるさ」


「そうですね。なら、こちらも……」


「うむ。稟の作戦に従い、連中の背後から一気に叩くぞ!」


「はいっ!」



そして最後に凪、真桜、沙和の三人が合流し、魏の主力が一気に結集する。

状況はこれで完全に逆転し、ついに反撃の時が来る。



「あ、あそこに居るの、隊長みたいなの! おーい、たいちょー!」


「あー……確かにあの黒い服装は隊長みたいやけど……まさか、今まで一人で闘っとったんか!?」


「隊長! 待っててください! すぐにそちらに行きますから!」


「いや、流石にこの距離じゃ聞こえへんやろ。……それにしても、こんなに早く着くなら、先に言うてくれればええのに。みんないけずやで!」


「遅めに伝えておけというのは、秋蘭様と稟様の共通した指示だったのだ」


「もし周りから邪魔が入って遅れたら、華琳様達の士気に関わるってー」


「ああ、なるほどなぁ。確かにかなりしんどかったもんなぁ……。それでみんなが遅れたら、確かにガタガタや」


「ごめんなのー」


「でも、桂花の指示で探しに行って、すぐにアンタらが見つかった時はメッチャ嬉しかったで!」


「華琳様ー。作戦はどうしますかー?」



予想以上に早く主力陣営が遠征から戻ってきたので、すぐに反撃の一手を打つべく、風が華琳に作戦の指示を仰ぐ。



「秋蘭と稟が上手くやってくれるだろうから、それに合わせるわ。桂花と風は全体の動きを見失わないようになさい」


「はいっ!」


「皆、戦闘準備は出来ているな!」



秋蘭が周りの将達に呼びかける。そして、全員が力強く頷く。



「おう! 待ちくたびれたわ!」


「我らはこのまま一気に突撃を掛け、劉備達の背後を叩く! 霞と秋蘭はその隙を突き、崩れた相手を根こそぎ打ち砕くのだ!」


「二人とも、頼むぞ」


「わかったの!」


「まかせとき!」


「我らが目指すはただ一つ!」


「劉備を打ち払い、我らが主をお救いする事だ!」


「はい!」


「わかってます!」


「ならば行くぞ! 総員、突撃ぃぃぃぃぃぃっ!」



春蘭の号令と共に兵士達は砂塵を舞い上げながら、劉備軍の背後に突撃を仕掛ける。

劉備軍にもまだ余力があるとはいえ、零治のよって関羽、張飛、呂布の三人は倒されていたので状況は劣勢を強いられてしまい、防戦に徹するので精一杯になってしまう。



「…………」


「チッ! いらぬ邪魔が入ったか。興が冷めた……」



一騎打ちに横槍を入れられてしまい、黒狼は完全に闘いに対する意欲を無くし、その右手から魔王剣が消え、クルリと踵を返す。



「何処ヘ行クツモリダ……。貴様ハ此処デ死ヌノダ!!」



零治は怒声を上げながら黒狼に向かって一直線に突撃して、その背後に必殺の居合による一撃を放とうとする。



(くっ! もうやるなら今しかない! これ以上長引かせたら零治が危険だわ!)



それまで零治と黒狼の一騎打ちを傍観していた恭佳は、黒狼が引き上げようとするこの絶好の機会を逃すまいと、間に割って入り、零治が放った凶刃をソウルイーターで受け止める。



「何!?」


「……どういうつもりだ。なぜ貴様が私を助けるのだ……?」


「生憎とアンタを助けたつもりなんか毛頭ないわよ。ただ……これ以上アンタにこの場に居てほしくないだけなのよ。零治を助けるためにも、アンタは邪魔なの。さっさとこの場から失せなさい……」


「フッ。いいだろう。もとより私もこれ以上この戦いに付き合う気は無い。まあ、強いて言うならば、貴様と影狼の姉弟喧嘩が見れないのは少々残念ではあるがな……」


「うるさいわよ。そもそもこれは姉弟喧嘩じゃないし……」


「フッ。せいぜい頑張るがいいさ。初代影狼。……諸葛亮、撤退するぞ。殿は私が勤めてやる」


「は、はい。お願いします」



黒狼は後方で待機していた諸葛亮の部隊と合流して、そのまま殿を務めながら撤退を開始。

その場には、未だに激しい鍔迫り合いを続けている恭佳と零治だけが取り残される。



「邪魔ヲスルナ、ソウルイーター! コノ機ヲ逃シテハ奴ヲ破壊デキン! 貴様ハ奴ヲ見逃スツモリナノカッ!?」


「アタシをその名で呼ぶんじゃないよ! アンタこそいい加減に剣を収めないか! もう充分暴れただろうがっ!!」


「否! 我ハ奴ヲ完全ニ砕クマデ戦イヲヤメハセヌ!」


「そのためにアンタは自分の主を死なせるつもりなのか!? もしも弟が死ぬまで戦うと言うのなら……このアタシが貴様を破壊するわよ! 叢雲!!」


「貴様ァ……奴ニ肩入レスルトデモ言ウツモリカ!」


「違う! アタシはただ弟を助けたいだけだ! 死なせたくないだけなんだっ! あの男と闘う機会はまた必ずくる! だからもうやめてくれ!!」


「…………」



悲痛な表情で訴えかける恭佳を零治は無言で見据えながら思考を巡らせる。

やがて結論が出たのか、零治は刃を退き、そのまま鞘に納める。



「イイダロウ。我モコノ者ヲ、主ヲ死ナセルノハ本意デハナイ……」


「…………」


「コノ者ガ居タカラコソ、今ノ我ガアルノダ。ソノ点ハ感謝シテイル。恩ヲ仇デ返スヨウナ真似ナドシタクハナイ」


「なら、さっさと弟を解放しなさいよ……」


「ウム。……ソウルイーター。モシモ主ガ先ノ闘イヲ記憶シテイタラ、我ノ代ワリニ詫ビノ言葉ヲ伝エテオイテクレ……」



叢雲の支配から解放された事で、零治の中から不穏な気配は完全に消える。



「だからその名で呼ぶなと……って! おっと!?」



叢雲から解放された零治は意識を完全に失っていたので、立つ事すらできない状態にあり、フラフラと目の前に倒れてきたので、恭佳は慌てて倒れ込んできた零治を抱き止める。



「零治! 零治ったらっ! 眼を開けなさいよ!!」


「……うっ。うぅ……」



恭佳の呼びかけに応じるように零治は呻き声を漏らしながら眼を覚まし、ゆっくりと両眼を開いて恭佳に顔を合わせる。



「姉……さん? オレは……一体今まで何を……」


「零治、憶えてないの?」


「何をだよ? ……ってか、何でオレは姉さんに抱き止められてんだ……? それに……なんかいつの間にか春蘭達が到着してるし……一体なにがあったんだよ?」


「いいの。憶えてないのなら、それで構わないわ……」


「はぁ? 何だよそれ? っていうか、いつまでこうしてるつもりなんだよ。いい加減に離してくれよ」


「あら? 折角の姉弟の感動の再会なんだし、もう少しこのままでもいいでしょう?」


「そんなの後にしろよ。まだ敵も居るんだからマジで離せよ」



零治は恭佳の両肩に手を当て、思いっきり押し返しながら抱き付いている恭佳を引き剥がした。

零治のその行動に恭佳は不満を感じたのか、年甲斐も無く頬を膨らませて文句をブー垂れる。



「何よもう。別に誰も見てないんだし、恥ずかしがらなくてもいいじゃない……」


「いや、そういう問題じゃねぇし」


「はいはい。そういう事にしとくわ。……それよりも零治。どう? 身体に異常とかは無い?」


「……いや。怪我をしている点以外は特に何も……」


「そう」


「どうしたんだよ?」


「いえ、いいの。アンタが無事ならそれで構わないんだから……」


「変な姉さんだな」


「あっ。アンタ、実の姉に向かって変とは何よ。変とは」


「フッ……変と思ったから変って言っただけさ」


「ちょっ!? 今度は鼻で笑ったわねぇ! 零治! こっちに来なさい! 昔みたいに一発ぶん殴ってやるわっ!!」


「ふふ。それは遠慮させてもらうぜ」


「まったく。……フフフ」



昔みたいに姉弟同士の触れ合いが出来たせいか、戦場に居るにもかかわらず二人は無邪気な笑みを浮かべながら互いを見合わせる。



「さて、アタシ達はひとまず城に行くわよ」


「ああ。……うっ!? ぐぅ……っ! あぁっくぅ!」



城に足を進めようとしたとき、零治の胸に激痛が走り、零治は胸を押さえながら地面に両膝を突いてしまう。



「っ!? 零治! どうしたの!?」


「ぜぇ、ぜぇ……! わ、分からない。急に胸に……痛みが……っ!」


(なっ!? まさか……今になって影響が……っ!?)



恭佳は不安げな表情で零治の横にしゃがんで介抱するが、症状が回復する様子は無く、むしろどんどん悪化していく一方だ。

零治の額には脂汗が浮かび上がり、顔色も悪くなっていき、苦しそうに口で激しく呼吸を繰り返している。



「何なんだよ……っ! はぁ、はぁ、はぁ……っ!」


「零治! しっかりして! 落ち着いて! ゆっくりと息をして!」


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ! 言われなくても……やって……ぐっ! がはぁっ!?」


「零治っ!?」



零治はいきなり血を吐き出して目の前の地面が吐血によって真っ赤に染めあがり、激しく咳き込み始め、それと同時に口からは大量の血が出てくる。



「げほ! げほっ! げほ……っ!」



零治は右手で口を塞ぐがそんな事をしても咳が収まる事は無く、その間も容赦なく右手の指の間から大量の血が溢れ出てくる。



「零治!」


「くっ……うぅ……」



ようやく咳と吐血が収まったが、今ので零治は体力を激しく消耗してしまったため、そのままうつ伏せに地面に崩れ落ちてピクリとも動かなくなってしまった。



「零治! しっかりしなさい! 零治っ!!」


「兄さんっ!!」


「兄さん! 大丈夫!?」



そこへ兵士達が入り乱れる混戦の戦場を疾風の如く駆け抜けてきた奈々瑠と臥々瑠が駆けつけてくる。

二人は地面に倒れている零治を仰向けにして、口の周りについている大量の血を見た奈々瑠と臥々瑠の表情は青ざめる。



「に、兄さん……どうしてこんなに大量の血を吐いたりなんか……っ!?」


「兄さん! 兄さん! しっかりしてよ!!」



臥々瑠が不安げな顔で零治を揺さぶるが、零治からは何の反応もない。



「ど、どうしよう!? ねえ、どうしたらいいの!?」


「落ち着きなさい! 臥々瑠! とにかくアンタは城に戻ってここに何人か人を連れてきなさい!」


「わ、分かったっ!」


「奈々瑠! アンタはアタシと一緒に零治に呼びかけるのよ!」


「は、はいっ!」



臥々瑠は恭佳の指示に従い、助けを呼ぶために猛スピードで城まで引き返していき、その間に奈々瑠は恭佳と一緒に懸命に零治を揺さぶりながら呼びかけを続ける。



「兄さん! 兄さん! お願いですから返事をしてください! 兄さんっ!!」


「零治! 眼を開けなさい! 零治ったらっ!!」


「…………」


「兄さん……お願いです! 死なないでください! 兄さんっ!!」


「生きるのよ零治! アンタはまだ死んじゃいけないのよ! アンタの事を待ってる人が沢山いるんだから! 折角の感動の再会をこんな形で終わらせるつもりなのかい!?」



恭佳と奈々瑠の懸命な呼びかけにも零治は反応せず、二人の心は絶望に染めあがっていく。

だがそれにくじける事も無く、奈々瑠は赤い瞳から大粒の涙を流しながらも、嗚咽交じりの声で零治を抱きかかえながら必死に呼びかけ続ける。



「兄さん……っ! 兄さんっ! お願いですから……眼を……開けてくださいっ! 兄さーーーーん!!」



奈々瑠の悲痛な叫び声が戦場に虚しく木霊する。

劣勢の状況にありながらも、劉備軍との熾烈を極める戦いは何とか華琳達の勝利に終わった。

だが、その戦によって受けた傷は決して小さいとは言えないものだった。

零治「で、何だあのオレの壊れっぷりは……?」


作者「…………」


亜弥「前回投稿した時と完全に変わってるじゃないですか……」


作者「…………」


奈々瑠「そのくせ、オチは変わらずですか……」


作者「…………」


臥々瑠「黙ってないで何か喋ろうよ」


作者「言い訳はしません! でも反省もしません!」


零治「よし。そのケンカ買ったぁ!!」


作者「いや、買わないでよ!」


恭佳「…………」


亜弥「あ、そういえば貴方も今回からここのレギュラーメンバーでしたね。これからよろしくお願いしますね」


恭佳「ねえ……」


亜弥「はい?」


恭佳「ここって……いつもこんな調子なの……?」


亜弥「ん~。大体は」


恭佳「マジ? なんかやってける自信が無いわ……」


奈々瑠「大丈夫です。私達も初めはそうでしたよ」


臥々瑠「そうそう。何事も慣れだよ、慣れ」

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