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第42話 もう一人の影狼

ここの話は前回の面影がほとんどありません。

そしてまたもや新キャラ登場。

零治と銀狼、亜弥と金狼がそれぞれ身を置いている陣営の進退を懸けた激闘を繰り広げるが、一向に決着はつかず、勝負は膠着状態に陥る。

しかしそんな中、状況は最悪の方向へ動きだし、零治にとって宿敵である黒狼自らが出撃し、仮面で顔を隠した謎の人物を伴って零治達の前に姿を現した。



「金狼、銀狼。随分と手間取っているようだな……」


「手間取るだぁ? おいおい、黒狼。勝負はまだ始まったばかりだぜ」


「そうだよ。黒狼、僕達の勝負はまだ終わっちゃいないんだ。悪いけどアンタの出番はないと思うよ?」


「いいや、貴様らの役目はもう終わりだ。ここからは、私自らがやる……。お前達は本陣まで後退しろ」



黒狼は右手に魔王剣ディスキャリバーを呼び出し、戦闘態勢に入る。

だが、流石の金狼と銀狼も納得がいかないようで、なお食い下がる。



「おいおい。出撃しろって命令したのは黒狼だろうが。なのにオレ達の役目はもう終わりってか? そんなんでオレ達が納得すると思ってんのか……」


「同感だね。ようやく白狼と決着がつけれる機会が巡って来たのに……ここまで来てやめろって言うのかい?」


「貴様らの言いたい事も分かるが、時間が無いんだ。このまま無駄に時間をかけていては曹操軍の主力が戻ってきてしまうからな……」


「それがどうしたって言うのさ? この世界の人間なんか、僕達がその気になれば殲滅する事なんてたやすい事だろ……」


「かもしれんが、もう一つ理由がある……」


「何だよ?」


「コイツのテストを行いたいのでな……」



黒狼はチラリと隣に控えているカラスのくちばしのような形をした漆黒の仮面を着けている人物に視線を走らせる。

その人物は黒狼の隣で微動だにせず終始無言のまま佇んでおり、仮面のせいで表情も思考も全く読み取れなかった。



「……分かったよ。銀狼、行くよ」


「おい、金狼。テメェはそれで納得したって言うのかよ?」


「納得なんかしちゃいないよ。でも……黒狼に逆らってもロクな結果にはならない事ぐらい君も分かるだろ……」


「チッ! 分かったよ。下がりゃいいんだろ、下りゃ……」



黒狼の怒りを買う事がどれ程恐ろしい結果になるのか、金狼と銀狼は元居た世界で嫌というほど知っていたので、納得のいかない表情をしながらもしぶしぶ従い、本陣へと帰還していく。

それと入れ替わりに、黒狼と仮面を着けた謎の人物が前に進み出て零治と亜弥の前に対峙する。



「……亜弥。黒狼の隣に立ってる奴、誰だと思う……?」


「そんなの分かるはずないでしょう」


「フフフ。影狼、白狼。そんなにコイツの正体が気になるのか……?」



仮面で顔を隠している謎の人物を警戒しながら声を潜めて話し合う零治と亜弥の反応を、黒狼は面白がるように冷たい笑みを浮かべながら笑いを漏らす。



「……まあ、気にならないと言えば嘘になるな」


「安心しろ。コイツの正体ならすぐに分かるぞ……」


「どういう意味です……」


「それを今から教えてやる。……樺憐かれん、やれるな……?」


「イエス、マスター……」



黒狼の問いに樺憐と呼ばれた人物は機械的な返答をし、身に纏っていたローブを一気に脱ぎ捨てる。

仮面はそのまま着けていたが、ローブを脱ぎ捨てた事により隠されていた身体が露わになり、零治と亜弥の眼に見覚えのある物が飛び込んできた。



「なっ!? あ、あれは……!」


「おいおい。あの頭に付いてる犬耳にフサフサした尻尾。あの女……戦闘獣人バイオロイドなのかよ……」


「そのようですね。ご丁寧に服装まで奈々瑠達と同じですよ……」


「…………」



零治は目の前に立っている仮面を着けた正体不明の戦闘獣人を観察するかのように無言でまじまじと見つめる。



「どうしたんです。何か気になる事でも?」


「いや……デカいメロンの持ち主だなぁ、と思ってな」


「こんな時に貴方はどこを見てるんですか……」



自分達の危機的状況に対して零治があまりに場違いな事を言うので、亜弥は零治に非難するような視線を向ける。



「冗談だよ。だからそんな眼で見るんじゃねぇよ」


「どうだか。……見た所、成人女性が素体となっているようですね。しかし、まさか私達や一刀以外にもこちらの世界に転移していた人間が居たとは正直思いませんでしたね」


「そうだな。しかも相手は戦闘獣人という始末だ。見た所完全な格闘タイプのようだが……一人だけなら何とかなるだろう」


「クックック。影狼、白狼。コイツを量産型の戦闘獣人と同じとは思わない方が身のためだぞ……」


「何だと? それはどういう意味だ……」


「コイツは第一世代量産型の原点……つまりは、貴様らの所に居る戦闘獣人のプロトタイプというわけだ……」


「何っ!? アイツらのプロトタイプだと!?」


「なんて事だ……。零治、どうやら状況はかなり絶望的みたいですよ……」


「どういう事だ……」


「私も叡智の城ヴァイスハイト内のデータベースで記録を見た程度なので詳しくは憶えていないのですが……あの戦闘獣人は、その驚異的な戦闘能力が原因で神器が保管されていた地下区画に封印されていたんですよ」


「驚異的なって……あのプロトタイプってそんなに強いのかよ……?」


「ええ。アレの開発に携わった研究者達は運営の効率性などは全く考慮せずに、戦闘能力に重点を置いてかなり無茶な調整を施したそうですよ。記録によると、当時あのプロトタイプの演習の相手をした神器使いが死亡したそうですからね……」


「……マジ?」


「マジです。更に言えば、あのプロトタイプの厄介な所は戦闘獣人でありながら神器が使用できる点なんですよ……」


「神器……奴が身に着けているあの手甲と具足の事か」


「ええ。恐らく……」


「なるほど。確かに油断は出来んな。だが、オレ達のやる事に変わりはない……」


「はい。相手が何であれ、私達は負ける訳にはいかないのです」



零治と亜弥は各々の神器を構え直し、その瞳に黒狼と正体不明の戦闘獣人に対する闘志の炎を燃え上がらせる。



「話し合いは終わったか? ならば始めるか。……樺憐」


「…………」


「まずは貴様の実力を見せてもらおうか……」


「イエス、マスター。……対象二名を神器所有者と認識。戦闘モードへ移行。神器ディバイン・アームズ、ワイルドファングを起動。これより目標の殲滅を開始します」



謎の戦闘獣人、樺憐は機械的な口調で黒狼の命令に従い、己が持つ神器を起動させ戦闘態勢を取る。

その瞬間、その場の空気が瞬時にして変わる。



「来るか!」


「っ!?」



零治と亜弥は即座に身構え、それと同時に樺憐は眼にも止まらぬ速さで腰のあたりまで長さがある黒髪を振り乱しながら零治の懐まで飛び込んでくる。



「なっ!? 速いっ!」


「…………」



零治の目前まで迫り来た樺憐は無言で右ストレートを打ち込み、零治は咄嗟に両腕を交差させて防御する。

何とかその強力な豪拳を防ぐ事は出来たものの、両腕の骨がミシミシときしみ、零治は苦悶の表情になりそのまま後ろへと押し返される。



「ぐっ! くぅ……っ!」


「零治! 大丈夫ですか!?」


「大丈夫……じゃねぇ……っ! 何て一撃だ。両腕の骨が折れるかと思ったぞ……」



先程の一撃が堪えたのか、零治の足元が少々だがふらついている。

その隙を突くかの如く、樺憐は再び零治との間合いを一気に詰め、軽やかに跳躍して左脚で零治の側頭部に狙いを定めながら強力な蹴りを無言で放つ。



「…………」


「そうそう何度も……当たるかよっ!」



零治は上体を後ろに反らしてその蹴りを何とか躱すが、狼の後ろ足を模った具足の先端についている鋭く尖った三本の爪が零治の前髪をかすめて髪の毛が数本空中に散らされる。

空中で隙だらけになっている樺憐に対し零治は反撃に転じようとするが、樺憐は先程放った蹴りの勢いに身を任せながらクルリと身体を反転させ、今度は右脚を使って零治の側頭部に踵蹴りを叩き込んでくる。



「なっ!? くそ……っ!」



零治は忌々しげに側頭部に右腕を持ってきて樺憐が繰り出してきた踵蹴りを何とか受け止めるが、先程受けた右ストレートのダメージが残っていたせいで勢いを殺し切れずにそのまま横に弾き飛ばされてしまう。



「ぐああああっ!」



弾き飛ばされた零治は背中からそのまま派手な砂煙を立てながら地面の上を滑っていく。



「零治! 立てますか!?」


「ああ……。しかし何て奴だ。パワーは臥々瑠以上、スピードは奈々瑠以上だぞ……」


「まさにあの二人の長所を併せ持っているという事ですか」


「ああ。その上、欠点らしい欠点が全く見当たらない。こいつはマジでヤバいぜ……」


「…………」



樺憐は無言で零治と亜弥を見据えて、再び突撃を仕掛けるべく姿勢を低くして力を溜め始める。



(大したものだな。これ程とは私の予想以上だ。だが、このまま樺憐に独断行動を許すわけにはいかんな……)


「樺憐……」



突撃を仕掛けようとした樺憐は黒狼の声にピクリと反応して突撃の姿勢を解除し、無言で佇む。



「貴様の実力は良く理解できた。だが、影狼の相手は私がやる。貴様は白狼の相手をしろ……」


「了解しました。……ターゲットの設定を白狼に変更。これより攻撃を開始します」


「っ! くぅ……っ!」



標的を亜弥の一点に絞り込んだ樺憐は一気に間合いを詰めてきて猛攻撃を仕掛けてくる。

咄嗟に反応した亜弥は一気に後方へ跳躍し樺憐との距離を離して攻撃を回避するが、それでも樺憐は執拗に亜弥との間合いを詰めて攻撃を仕掛けてくるので反撃する余裕も無く、亜弥はバックステップで距離を取って回避するの繰り返しになり、結果的に零治とも離れてしまう。



「亜弥っ!」


「白狼の心配をしている余裕などあるのか……?」


「っ!?」


「上手く躱せよ? 影狼……」



いつの間にか零治との間合いを詰めていた黒狼は、零治の首を一撃で刎ね飛ばすかの如く魔王剣を一気に横に薙ぎ払うように振り抜いてくる。

その一撃を零治は上体を後ろに反らして迫りくる凶刃を躱しはするが、左頬に先端がかすめて一筋の斬り傷が走り、傷口から血が流れ出て一筋の赤い線が地面に向かって走る。



「ふむ。腕は鈍っていなようだな。そうでなければ面白くない……」


「…………」



零治は頬から流れ出ている血を右手の甲で拭い取り、黒狼を無言で睨み付けながら居合の構えを取る。



「来るか……」


(亜弥の援護に向かいたい所だが、この状況ではそうもいかないようだな。ならばオレがやるべき事は、今はアイツの事を信じて黒狼に集中するのみっ!)



零治は霧散する雲ヴォルケ・フェアシュヴィンデットを発動して姿を消し、すぐさま黒狼の背後に宙に浮かびながら居合の構えを取った状態で現れて、叢雲を一気に振り抜こうとする。

しかしその事を黒狼は予測済みだったようで、すぐに後ろに振り返り、魔王剣を振りかぶる。



「あの時と同じ手が私に通用すると思っているのか……」



零治の行動を嘲笑うように黒狼は冷笑しながら魔王剣を零治に向かって振り抜く。

だが、零治は黒狼の一撃が目前まで迫った瞬間に再び姿を消し、黒狼の剣は空を斬る。



「何……?」



斬撃が空振りし、黒狼は眉をひそめながら零治が先程までいた空間を見つめる。

その直後に零治は黒狼の右手に出現し、今度こそ本命の一撃を浴びせにかかる。



「もらったぁ!」


「なるほどな。少しは考えて行動しているようだな。しかし……」



黒狼は身体を素早く捻って向きを変え、魔王剣を縦に振り、零治の斬撃を受け止めてそのまま鍔迫り合いに持ち込んでくる。



「チッ!」


「ククク。おしかったな、影狼。発想としては悪くはないが、私が相手では子供騙しにしかならなかったようだな……」


「そうかい! ならば次は貴様の反応速度を超えてやろうじゃねぇか!」


「……影狼。そんな事ではいつまでたっても私には勝てんぞ」


「何だと……?」


「貴様が叢雲の力を使わなければ私と対等に闘えないのは事実だが、貴様は私との闘いの際に叢雲の力に依存しすぎている。それは貴様の悪い癖だ……」


「…………」


「もしも……その力が使えなくなったら、貴様はどうやって私と闘うつもりなのだ……?」


「……『アレ』を使うとでも言いたいのか……?」


「さてな……」



双方一歩も譲らない姿勢で剣の刃を押し合い、擦れあう刀身の間から火花が散る。

その時、二人のすぐ左手の方角から地震と思わせるような地響きがしたので、零治と黒狼は何事かと地鳴りがした方角に視線を向ける。

その先には、未だに一進一退の攻防戦を行って対峙している亜弥と樺憐の姿。そしてその二人の間の地面には先程の地響きの原因と見られる大きなクレーターが出来上がっていた。



(くっ! 何なんだこの戦闘獣人は!? 一撃で地面にこんな大穴を作るなんて! 接近されたら私に勝ち目なんかない……っ!)


「…………」



巨大なクレーターを間に挟んで、樺憐は無言で徒手空拳の構えを取ったまま亜弥を睨み付けているが、様子見なのかそこから一歩も動こうとしない。



「樺憐……」



黒狼の声にピクリと反応した樺憐は首だけを動かし、黒狼に視線を移す。



「様子見はもういい。終わらせろ……」


「イエス、マスター……」



黒狼の命令に樺憐は忠実に従い、亜弥との闘いを終わらせるために奥の手を使うつもりなのだろうか、左手を開きながら前方に突出し、それとは反対に右手は力強く握りしめながら後ろに引いていき、身に着けている手甲と具足に魔力が溜まり始め、白く発光しだす。



(っ!? 今度は何をするつもりだ!?)



亜弥は樺憐の異変に対し、いつでも動けるように警戒して様子を窺う。

だが、その判断は間違いだとすぐに思い知らされる。



「魔力充填完了。ブースターユニット展開、起動」



樺憐の言葉に反応するように身に着けている右手の手甲の前腕部にあたる部分、そこに隠されていたハッチが開き、中から収納されていた三角形に連結している三本のブースターのノズルが姿を現し、更には両足の具足の脹脛の部分にも隠されていたハッチがウイング状に開き、そこからもそれぞれ二本ずつ長方形の形をしたブースターが姿を現し、ノズル内が次第に光を放ち始め、具足のブースターから溜められた魔力が一気に噴射され、その勢いを利用して樺憐は今までとは比べ物にならない速度で亜弥に詰め寄る。



「なっ!?」


「ターゲットを捕捉」



身の危険を感じた亜弥はすぐにその場から離れようとするが、樺憐との距離はもう目と鼻の先。すべては手遅れであった。



「ジェットスマッシュ」



樺憐は機械的な口調でスキル名と思われる名を口にし、右手の手甲に溜めた魔力をブースターから一気に噴射し、その勢いと自身の強力な力を合わせた鉄拳を放つ。



「くっ! ぐぅ……っ!?」



回避が不可能と判断した亜弥は咄嗟に右腕を盾にして防御するが、そんな事で勢いを止められるはずもなく、亜弥はまるで風に吹かれた紙のようにいとも簡単に吹き飛ばされてしまう。



「うわああああ!」



派手に吹き飛ばされた亜弥は受け身を取る事さえもできず、背後にある城壁に身体を激しく叩き付けられ、そのまま地面に座り込むように倒れ、ぐったりとしてしまう。



「目標の無力化を確認。戦闘モードを解除。通常モードへ移行します」



亜弥が動かなくなった事を確認した樺憐は全身の力を抜き、戦闘態勢を解除。

同時に、手甲と具足内から姿を覗かせていたブースターも内部に収納され元の形態に戻る。



「亜弥っ!?」


「影狼。私を前にしてよそ見などしていていいのか……?」


「くっ!」


「そろそろ貴様を試させてもらうぞ……」


「何だと! 一体何を言って……ぐっ!?」



黒狼は意味深な言葉を零治に聞かせ、有無を言わさずに鍔迫り合い状態から零治を一気に押し返して距離を取る。

それからすぐに黒狼は地面に魔王剣を突き立て、絶望を告げる言葉を発する。



王の支配ディ・ヘルシャフト・デス・ケーニヒス……」


「なっ!? しま……っ!」



零治は止めに入ろうとしたがもう遅く、黒狼を中心点に漆黒の波動がドーム状に広がっていき、その辺り一帯だけが夜でも訪れたのかと思わせるような暗闇に包まれる。



「うっ! く……っ!」



神器を封じる結界が広がり、その中に居る零治は奇妙な脱力感に襲われ、足元がふらついて思わず地面に片膝を突きそうになったので、叢雲を杖代わりにして何とか立ってみせる。



「なんだ……これは……身体が……重い……っ!?」


「ふむ。なるほどな。こういう効果があるのか……」


「貴様……何をした……!」


「何と言われてもな……。王の支配の付随効果ではないのか? スキルの封印と同時に身体能力の減退とかのな……」


「な……に……。封じられるのはスキルだけの……はず……」


「強くなったのが自分だけとは思わない事だな。私も昔とは違うのだぞ……?」


「くぅ……っ! くそ……力が入らな……っ!」



とうとう襲い来る脱力感に耐えきれず、零治は苦悶の表情で地面に片膝を突いてしまう。



「……貴様はいつからそんな浅はかな男になったのだ? あまり私を失望させるな……」



黒狼は地面に沈み込んでいる零治の所までゆっくりとした足取りで歩み寄り、サッカーボールでも蹴り上げるような勢いで腹部に強烈な蹴りを叩き込む。。



「がはぁ!?」



フワリと軽く宙に浮いた零治は腹部に走る激痛に苦悶の表情になりながらも何とか地面の上に着地して踏ん張って耐えるが、左手で腹部を押さえながらよろよろと後ろに数歩下がってしまう。



「今の貴様ではこの程度の蹴りも躱せんか。これが貴様の限界なのか……?」


「ぐ……っ! くぅ……!」


「やはりまだ無理なのか。いや、もう少し試してみるか……」



黒狼は一人でブツブツと何かを思案するように呟き、再度零治の前まで歩み寄り、今度は胸部に左ストレートを叩き込んで零治を殴り飛ばす。



「ぐあっ!!」



殴り飛ばされた零治は亜弥同様に紙のように吹き飛んでいき、城壁に身体を激しく叩き付けられてそのまま地面の上にズルズルと座り込むように沈んでいく。



「ぐぅ……っ!」


「れ……零……治」



すぐ隣で座りこんだ状態から動けない亜弥が絞り出すような声で零治に呼びかける。

城壁に叩き付けられた時に頭をぶつけたのだろうか、頭部から血が流れ出て自慢の銀髪の一部がどす黒い血の色に染めあがっていた。



「亜弥……。生きてるか……?」


「何とか……。ですが、さっきの一撃で……右腕が折れちゃいましたよ……。おまけに頭からも出血してますしね……」


「……こっちもあばらが……二、三本いっちまった……。マジでヤバいぜ。この状況……」



二人の様子などお構いなしに黒狼は零治の所まで歩み寄り、地面に座り込んで動けない零治を無言で観察するかのように見つめる。

しばらくして、黒狼は無表情で右手にある魔王剣を零治の左肩に深々と突き刺す。



「ぐあぁぁぁ!! ぐぅっ!」



左肩に走る激痛に零治は悲痛な叫び声を上げ、苦悶の表情で黒狼を睨み付けながら突き立てられてる魔王剣を引き抜こうと右手で刀身を握りしめるが、力が入らないためビクともせず、傷口から多量の血が流れ出てくる。



「兄さんっ!? ……臥々瑠っ!」


「うん! 分かってるよ!」



それまで城壁の上で零治達の闘いを傍観していた奈々瑠と臥々瑠は城壁に足をかけて身を乗り出す。



「なっ!? 二人とも! 何をする気なの!?」


「決まっています! 兄さん達を助けに行くんです!」


「何を言ってるの! 奈々瑠! 貴方は怪我をしているのよ! 零治ですら敵わない相手にそんな状態の貴方が勝てるはずないでしょう!」



華琳の言う事は尤もである。臥々瑠は無傷ではあるが奈々瑠は負傷している身。

その上、相手はあの黒狼。そして驚異的な戦闘能力を持った正体不明の戦闘獣人である。

勝てる可能性などありはしないだろう。しかしそれでも、二人の決意は揺らがない。



「そんな事は百も承知です。でも……」


「だからって、このまま兄さん達を見殺しになんか出来ないんだよ!」



奈々瑠と臥々瑠は城壁から身を躍らせ、一気に地面まで落下していく。



「奈々瑠! 臥々瑠!」


「華琳様ー。どうしますかー? 一応、動かせる兵は居るには居ますがー……風達も出撃しますかー?」


「……不要よ。私達がいま出ても、彼らの足を引っ張るだけ。今は零治達を信じるしかないわ……」


「御意ですー」


(こんな時に何も出来ないなんて……私はなんて無力なの……っ!)



零治達が危ない時に対し、何も出来ない無力さを思い知らされた華琳は、その悔しさから胸を締め付けられるような想いに駆られ、ぎゅっと城壁を両手で握りしめながらした下唇を噛み、城壁の下を見下ろす。



「そこまでよ! 黒狼っ!」


「次はアタシたちが相手だ!」



地面の上に降り立った奈々瑠と臥々瑠は各々が持つ小刀を鞘から引き抜き、勇ましく進み出て黒狼に対峙するが、黒狼はチラリと小石でも見つめるような視線を向けるのみ。



「フッ。貴様らで私の相手が務まると本気で思っているのか……?」


「ぐるるるる……」


「がるるるる……」



黒狼の挑発的な言葉に反応するように奈々瑠と臥々瑠は牙を剥き出しながら地を這うような唸り声を出して、獣のような眼つきで黒狼を睨み付ける。



「まあ、その勇気は評価してやろう。……樺憐、私の代わりにコイツらの相手をしてやれ」


「イエス、マスター……」



黒狼のすぐ後ろで控えていた樺憐は命令に従い、再び戦闘態勢を取り、眼にも止まらぬ速さで踏み込んで黒狼と奈々瑠達二人の間に割って入ってきて、並んで立っている二人に狙いを定め、薙ぎ払うように回し蹴りを繰り出してくるが、一瞬早く反応した奈々瑠と臥々瑠は素早く後ろにジャンプして樺憐から距離を取る。



「なっ!? この戦闘獣人、私達より速い!」


「コイツ! 邪魔しないでよ!」


「…………」



樺憐は無言で再び奈々瑠達に突進し、二人を余裕で同時に相手取りながら黒狼から引き剥がしていく。

奈々瑠達も負けじと姉妹による連携攻撃で樺憐を押し返そうとするが、力の差は歴然としており、いいようにあしらわれるばかりである。



「さて……これで邪魔はされまい」


「ぐ……っ!」


「影狼、もう終わりなのか……? 貴様はこの程度だったのか……?」



黒狼は零治をいたぶるように右手に力を入れ、左肩に刺している刃を更に押し込む。



「ぐあああああ……!」


「……やはりトリガーとなる『きっかけ』が必要なのか……」


「ぜぇ、ぜぇ……。きっ……かけ……? 貴様、何を言って……」


「フッ。今の貴様にそれを答えるつもりはない……」


「ぐっ! ……ぐぁっ!?」



黒狼は零治の右肩を踏みつけながら左肩に突き立てている魔王剣を乱暴に引き抜き、軽く縦に振って刀身に付着している血を振るい落とす。

零治は息を荒くしながら右手で肩の傷口を押さえて黒狼を睨み付ける。

だが黒狼はその視線をどこ吹く風と受け流しながら亜弥に視線を移し、氷のような冷たい笑みを浮かべる。



「ちょうど良い。白狼を使うとしよう……」


「はぁ、はぁ……。な……に……?」


「貴様はそこで見ているがいい。白狼の死にざまをな……」


「なっ!? 貴様……っ!」



黒狼は魔王剣を煌めかせながらゆっくりと亜弥の方に足を進め始める。

零治は黒狼が着用しているコートを掴もうとするが手が届かず、そのまま地面の上に倒れ込んでしまう。



「くそ……っ! 動け……動けよ。オレの……身体……っ!」



意識が朦朧としているせいなのか、零治の視線の中にある光景の時間はゆっくりと動いている。

零治は必死に立ち上がろうとするが、身体は全く言う事を聞かずに動いてくれない。

城壁の上からもその光景はしっかりと見えており、華琳はすぐさまに風に指示を飛ばす。



「風! 出来るだけ多くの弓兵達をここへ! このままでは亜弥が殺されるわ! 急いで!!」


「御意ですー」



切羽詰まった状況だというのに、風は普段通りの間延びした口調で返事をし、弓兵達を連れてくるために城壁の階段を降りていく。



「くっ! お願い! 間に合って……っ!」



華琳は祈るような気持ちで城壁の上に両手をついて、爪を立てながら下の状況を見守る。



「華琳様ー。お連れしましたよー」


「よし!」



後ろを振り返れば、風が連れてきた十数人の弓兵達の姿がある。

決して多いとは言えないだろうが、敵は一人。華琳はこれで充分と判断し即座に兵達に指示を飛ばす。



「弓兵、前へ!」


「「「はっ!」」」



華琳の指示に従い、弓兵達は一糸乱れぬ動きで前に進み出て城壁の前に立ち、弓に矢をつがえ、弦を引き絞り射撃体勢に移行する。



「いいか! 敵は一人だが決して油断はするな! 狙うはあの男……黒狼ただ一人! 絶対に外してはならぬぞ! 撃てーーーっ!!」



華琳の指示とともに弓兵達は一斉に矢を放ち、撃たれた矢は全て黒狼に向かって飛来する。



「フッ。無駄な事を……」



黒狼はその状況にも慌てることなく、口の端を吊り上げて冷笑しながら魔王剣を宙に向かって大きく薙ぎ払うように振りぬいて剣圧を放ち、飛来してきた矢をまとめて吹き飛ばした。



「くっ! 怯むなぁ! もう一度だ! 亜弥を死なせるな! 何としても彼女を守るのだ!!」



弓兵達は素早く次の矢を弓につがえて、弦を一気に引き絞り、再度黒狼に狙いを定めて一斉に矢を放った。



「無駄だという事が分からんのか……」



しかしその矢が黒狼に届く事は無く、またしても放たれた剣圧で吹き飛ばされてしまい、矢は枯葉のように空中に舞い散るだけだった。

それでも華琳は諦めずに弓兵達に射撃を命じ続けるが、何度やっても結果は変わらずじまいだった。



(やめろ……オレは……もう、誰かを失いたく……っ! 頼む! 動け! 動けっ!!)



零治はボロボロになってる身に鞭を打って立ち上がろうとするが、身体は全く言う事を聞かず動こうとしてくれない。

零治の奮闘も虚しく終わり、弓兵達の射撃も足止めにすらならず、黒狼は亜弥の前で足を止め、静かに口を開く。



「白狼。何か言い残す事はあるか……?」


「…………」



亜弥は無言で黒狼を見上げるのみ。その視線が何を語っているのかは明白である。



「私に聞かせる言葉など無いと、言いたげだな……」


「分かって……いるのなら……訊くだけ無駄なのでは……?」


「フッ……残念だよ、白狼。このような形で終わってしまってな……」



黒狼は亜弥に止めを刺すべく、ゆっくりと魔王剣を振り上げる。

その姿を前にした亜弥は自らの死を覚悟し、ゆっくりと眼を閉じる。



(すみません、零治。どうやら私はここまでのようです。先に逝ってしまう私を許してください……)


「やめろーーーーっ!!」


「さらばだ、白狼……」



黒狼は魔王剣を一気に振りおろし、亜弥に無慈悲な一撃が襲い掛かる。だがその時……。



「させない……」



亜弥の耳に聞き覚えのある女性の声が聞こえ、次の瞬間、何かの金属同士がぶつかり合うような軽快な音が響いた。

亜弥は自分がまだ生きている事を理解し、ゆっくりと眼を開いて状況を確認する。

その視線の先には、自分と黒狼の間に漆黒のローブを纏った何者かが割り込んでおり、その手に握られている大鎌で黒狼の魔王剣の刃を受け止めていた。



「誰……です……」


「なっ!? 貴様は……っ!?」



頭にはフードを被っているので亜弥からはその人物が誰なのかは分からないが、その者の正面に立つ黒狼はその人物の顔が見えたらしく、驚きの声を上げていた。



「死……神……?」



零治はその人物の見た目から、消滅したはずの死神と思い込み、ポツリと呟き、まじまじとその人物を見つめる。



「違う……アレは……死神じゃない。誰だ……?」



だがその人物はよく見てみると死神とは違う点があった。

顔はフードを被っているせいでよく見えないが、大鎌を握っている手が骨ではなく、血の通った生身の人の手をしているのだ。

その時、突風が吹き付けて、謎の人物のフードが風によって外され、素顔が露わになる。

その人物は零治と同じ蒼色の瞳をし、顔つきもどことなく零治にそっくりな所があり、更に頭髪の色も零治と同じ赤毛で亜弥の半分ぐらいの長さの後ろ髪が風に乗ってなびき、零治と同じような緩めのツンツンした前髪が揺らめいていた。



「なっ!? 彼女は……っ!?」


「そんな……まさか!」



零治と亜弥はその人物に見覚えがあり、二人揃って驚愕する。

そんな中、謎の女性は黒狼に対して静かに口を開いた。



「久しぶりね。黒狼……」


「貴様は……影狼っ!?」


「さあ、殺るわよ! ソウルイーター!!」



零治と同じコードネームを持つ女性の声に呼応するように、握られている大鎌の刃の間に隠されていた、獣の牙を連想するような形状をした鋸状の無数の刃が現れ、まるでチェーンソーのような唸り音を出しながら鋸刃が高速回転をして、ガリガリと凄まじい金属音を立てながら接触面から激しい火花を散らし、黒狼の魔王剣の刃を削り取ろうとする。



「ぬぅっ!?」


「斬り裂け! でりゃああああっ!!」



影狼は裂帛の気合いと共に大鎌もとい、ソウルイーターを大きく横に振り抜いて黒狼を一気に押し返して亜弥から引き剥がし、それと同時に鋸刃も回転を止め、耳障りな唸り音も収まり辺りは静かになる。



「チッ! おしかったわね。もう少しでその首を斬り落とせたのに……」


「……どういう事だ。なぜ貴様が生きているのだ……?」


「…………」



影狼は黒狼の疑問には答えようとはせず、亜弥の下まで歩み寄り、ゆっくりとしゃがんで声を掛ける。



「亜弥。しっかりして。大丈夫?」


「ぐっ! ……どうして貴方がここに。貴方は……死んだはずでは……」


「その事は後で説明してあげるわ。立てそう?」


「……すみません。今はとても……」


「わかったわ。私は零治の状態を確認してくるから、アンタはそのまま休んでなさい。大丈夫。何かあっても私が守ってあげるから」



影狼は亜弥に優しく微笑みながらその場を立ち、今度は零治の下まで足を進める。

影狼は地面にうつ伏せに倒れている零治を傷に障らないようにゆっくりと仰向けにして、両腕で抱きかかえながら優しく抱き起す。



「零治。大丈夫?」


「…………」



零治は何かを呟いたのか、口を動かすが声が全く聞き取れないほどの小声だったので、影狼は首を傾げながら耳を零治の口元まで近づける。



「ん? 何?」


「……ありえない」


「えっ?」


「ありえない。貴方は死んだ。オレがこの手で殺したんだ。あの時の感触は今でも鮮明に憶えている……」


「…………」


「だから貴方が生きてるはずがない! 幻なら今すぐに消えてくれ!」


「零治!」


「っ!?」



半ば錯乱気味の零治を影狼が一喝し、それにより零治は冷静さを取り戻して口を閉じる。

影狼はそんな姿の零治をしばらく無言で見つめ、優しい口調で静かに語りかける。



「零治、アタシは幻なんかじゃない。現に今こうして、アンタの前に存在しているわ」


「…………」


「確かにアタシはアンタに殺された。でもアタシはこうしてちゃんと生きている。……いや、厳密に言うと生きていると表現するのは微妙かもしれないけど……」


「なら、貴方は一体何なんだ……?」


「それについてはこの戦いにケリを付けたらちゃんと教えてあげる。だから、アンタはそこで休んでいなさい」



影狼は零治の上体を起こして、城壁の前に座らせる姿勢にさせてゆっくりと手を離し、ソウルイーターを肩に担ぎながら黒狼に向き直る。



「行ってくるわね、零治。アタシの大切な弟……」


「姉さん……」



影狼はゆっくりと足を進め、黒狼の前に対峙し、怒りの籠った視線で睨み付けながら口を開く。



「待たせたわね。黒狼……」


「…………」


「黒狼。随分とアタシの弟を可愛がってくれたじゃないか。えぇ……? この代償は高くつくわよ……」


「威勢のいい事だな、影狼。いや、この場合……『初代』影狼と言うべきか……」


「その呼び名も随分と懐かしいわねぇ。まっ、アンタみたいな奴には本名で呼ばれたくもないし、そっちの名で呼んでくれる方が助かるわ。さて……」



影狼はそこで言葉を区切り、肩に担いでいるソウルイーターを両手で持ち、後ろに振りかぶるように構えながら黒狼を睨み付けて戦闘態勢を取る。



「黒狼。死ぬ準備はよろしくて……?」


「そのセリフ、そのまま貴様に返してやろう。どうやって生き延びたのかは疑問だが……この際そんな事はどうでも構わん。私自らが、今度こそ貴様に引導を渡してやる……」


「黒狼。一つ忠告しといてあげる。逃げるのなら今の内よ。今のアタシは……誰にも殺す事なんか出来やしない。例えそれが、五色狼最強と言われたアンタでもね……」


「何だその意味深なセリフは。まるで……今の自分が不死身だとでも言いたげだな……」


「ええ。その通りよ」


「クックック。再会にして別れの言葉が下らぬ冗談とはな……」


「言いたい事はそれだけ? さっさとかかって来なさいよ……」



影狼は不敵な笑みを浮かべながら左手の人差し指をクイクイっと動かして、黒狼にかかって来るように挑発をする。



「フッ。この私に対して挑発をするとはいい度胸だな。では……望み通りあの世に送ってくれる!」



滅多に感情を表に出さない黒狼が珍しく口火を切り、桁外れの速度で影狼の懐まで踏み込み、一気に間合いを詰める。



「…………」



しかしそれに対し影狼は構えの姿勢のまま微動だにせず、黒狼の攻撃に全く備えようともしない。



「何だ? 何もせずに座して死を待つつもりか? ならば希望通り殺してやる……」



黒狼は冷笑しながら影狼の胴体に目掛けて魔王剣を一気に振り抜いた。

しかし、その一撃は影狼をすり抜け、空を薙いだだけで終わり、薙ぎ払われた胴体は煙のように揺らめきながら元の状態に戻った。



「何だとっ!?」


「だから言ったでしょ? 今のアタシは……誰にも殺せないってねぇ!!」



影狼は怒声を上げ、ソウルイーターの鋸刃を唸らせながら黒狼の首筋に狙いを定め、お返しと言わんばかりに一気にソウルイーターを振り抜いて仕留めにかかる。



「ぬうっ!」



素早く反応した黒狼はすかさず魔王剣を正面にかざしてその一撃を何とか受け止め、両腕に力を籠めて押し返そうとする。

しかし、影狼も負けじと両腕に力を籠めて押さえつけているので、その凶悪な一撃は耳障りな唸り音とガリガリと金属が削れる音を立てながらじわじわと黒狼の首筋まで迫りくる。



「いつまで保つかしらねぇ? いくらアンタの魔王剣でも、これ以上迫り合いなんか続けたらただじゃ済まないわよ……」


「くっ! ……むんっ!」


「おっと!?」



黒狼は渾身の力を籠めて魔王剣を滑り込ませるように振り抜いてソウルイーターの刃を弾いて影狼を押し返し、そこからバックステップをして一気に間合いを離す。



「おやおや? アンタが逃げる姿なんて滅多に見れるもんじゃないわねぇ。いやー、これは面白いわ」


「貴様……一体何をした……」


「……何の事?」


「とぼけるな。私の先程の攻撃、どう見ても貴様の身体をすり抜けたぞ。あれではまるで……」


雲の幻影ヴォルケ・ゲシュペンストみたいだとでも言いたいのかしら……」


「…………」


「残念ね。確かに見た感じはそう見えるけど違うわよ。まあ、正解を教える気も無いけどね」


「疑問はもう一つある」


「何よ? アタシがなぜ生きているのかって?」


「違う。……貴様、なぜ私の結界内に居ながら神器が使えるのだ。王の支配は絶対のはずだ……」


「あぁ、そっちの事。……さあねぇ。何でかしらねぇ? 不思議よねぇ……」


「…………」



影狼は黒狼の疑問に対して分からないそぶりを見せるが、その態度がいかにもワザとらしい。

これでは誰がどう見ても答えを知っているのは間違いない。

黒狼は何も言いこそしないが、その態度が癪に障ったのか、魔王剣を握りしめる右手の力が一層強くなり、ピクピクと小刻みに震えていた。



「フッ。もうアンタの事も充分におちょくってやったし、そろそろ終わりにさせてもらうわよ。早いとこ弟と友人の手当てもしたいんでね……」



影狼は両手で持つソウルイーターを左側に持ってきて、先の方を黒狼に突きつけるように水平に構え、ゆっくりと腰を落とし、大きく息を吐く。そして……。



「フッ!」


「っ!?」



影狼は地面を蹴り、黒狼に向かって一直線に突撃する。

黒狼との距離が中間あたりまで迫った時、突然ソウルイーターの刃が上向きに持ち上がって稼働し、まるで槍のような形状へと変化をしてその刃に魔力が集中し、赤く発光し始める。



「刺し貫け……スティンガー・レイ!!」


「なっ!?」



影狼はその場で高速の突きを放ち、その動きに呼応するように刃から禍々しく赤く光るスピアの形状をした光が一気に伸びて、黒狼の首を刺し貫こうとする。



「ぐぅ……っ!」



黒狼は咄嗟に上体を横にずらしてその一撃を躱しはするが、一瞬だけ反応が遅かったため光の先端が左肩をかすめ、肩の肉が軽くえぐられてしまった。



「くぅ……! やってくれるではないか……」


「チッ! なに避けてんのさ。そのままくたばればよかったのに……」


「…………」



零治は唖然とした表情で実の姉と黒狼の激闘に見入っていた。

自分じゃ歯が立たない黒狼を相手に善戦しているその展開に、完全に言葉を失っていた。



「スゲェ……姉さん、いつの間にあんなに強く……。だいぶ痛みもマシになってきたな。よし。オレも姉さんの援護に向かうか」



零治はこの戦いを終わらせるべく、姉の手伝いをしようとその場から立ち上がろうとする。

その時、右手に握られていた叢雲の刀身に、左肩の傷口から滴り落ちた一滴の血が付着し、そのままスゥッと溶け込むように消えていく。その瞬間、零治の身体に異変が起きる。



「ぐっ!? くぅ……っ! な、何だ……胸が……痛む……っ!!」



突然、胸に激しい痛みが走り、零治は苦悶の表情で左手で胸を押さえつけながら片膝を突く。

心臓は激しく鼓動を繰り返し、その鼓動に応じるように叢雲も脈を打ち始め、その刀身も美しい白金から禍々しい深紅へと変色し、まるで黒狼の魔王剣のような外観へと変化する。



「ぐぅっ! くっ! ……ぐあああああああ!!」



零治はその痛みを誤魔化すかのように天を仰ぎながら鋭い叫び声を上げる。

その声に何事かと、その場の人間全員の視線が零治に集中する。

その間も叢雲の真っ赤な刀身からは魔力波と思われる赤みががった細長い光を周囲に走らせ、やがて臨界点に達したのか、零治を覆い包むように赤黒いオーラが全身から放たれ、爆音にも似た轟音を立てて周囲に砂煙が巻き上がり何も見えなくなる。



「なっ!? 零治!?」


「むぅ……これは……!?」


「まさ……かっ!? アレが……発動……してしまったのか……!?」



亜弥、影狼、黒狼の三人は青ざめた表情で零治の方向に視線をやる。

相変わらず周囲は巻き上がった砂煙のせいで何も見えない。

だが、その砂煙の中からゆらりと人影が、そしてその右下からは赤い光がぼんやりと浮かび上がり、その人影はゆっくりと影狼と黒狼の居る所まで近づいてくる。

その時、突風が吹き付け、それにより辺りを覆っていた砂煙も吹き飛ばされ、人影の姿が露わになる。



「…………」



人影の正体は零治だった。

だがその姿は普段の零治とは明らかに異質なものである。

その表情はとても険しく眼つきも野生の獣のようになっていて、右手に握られている叢雲は刀身が禍々しい深紅に変色しており、その周囲からは赤黒い光があふれ出ていて、刀身そのものにも電流にも似た細長い赤黒い光がバチバチと音を立てながら走っていた。



「零治……アンタ、まさか……っ!?」


「影狼……」


「我! 全テヲ砕キ破壊スル者!!」



零治は黒狼に叢雲の切っ先を突きつけながらこの世の者とは思えない声で鋭く叫ぶ。

狼達の殺し合いはついに最終局面を迎えるが、誰が見ても、この後繰り広げられる戦いが最悪なものになりかねない可能性をはらんでいるのは容易に想像できた。

作者「まさかのお姉さんが登場」


零治「オレって姉が居たんだ……」


亜弥「これはリメイク中に考えたんですか?」


作者「いや、姉が居たって設定は前回から考えてた。まあ、当時は会話に存在が出てくるだけで終わらせるつもりだったんだが」


奈々瑠「じゃあ、死神を登場させたのって」


作者「そう。この話のための伏線」


臥々瑠「そうだったんだ~。……あっ。じゃあもしかして次回からはここにも?」


作者「ああ。来てもらうよ」


零治「マジかよ……」


亜弥「なんかますますここの展開がカオスになりそうな気がしますねぇ……」

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