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第41話 五色狼同士の殺し合い、再び…

一部前回の会話劇がそのまま使用されてますが、話の内容上仕方ないのでご了承ください。

金狼、銀狼が零治達と対峙する十数分前の事。

零治の思惑通り関羽達を自分との対決に持ち込ませる事ができ、零治は奈々瑠と臥々瑠の借りを返すべく、不敵な笑みを浮かべながら指の骨をポキポキと鳴らし、関羽、張飛、呂布、星の四人と対峙している。



「音無よ。我ら四人を同時に相手にするなどとは……自らの武の強さに驕っているのか……」


「…………」



零治は関羽の語りかけに対して何も言わず、無言で不敵な笑みを浮かべながら関羽を睨み付ける。



「お前が強い事は知ってるのだ。だけど、それは鈴々達も同じなのだ! 降参するなら今の内なのだ!」



続いて張飛が零治に降参するよう言い聞かせるが、その言葉にも零治は何の反応も示さない。

それどころか、関羽達を嘲笑うように鼻で小さく笑い言い返す。



「フッ。言いたい事はそれだけか……?」


「何だと……?」


「御託など並べてないでさっさとかかって来いよ。貴様らでは、オレには逆立ちしたって勝てやしない絶対的な理由わけがあるのだからな……」



零治は右手の人差し指をクイクイと動かして関羽達を挑発する。



「っ!? どこまでも我らを馬鹿にしおって……っ! いいだろう! その減らず口を二度と利けぬようにしてくれるわ!」


「むっかー! お前なんか鈴々の蛇矛でちょちょいのぷーなのだ!」


「……恋も頑張る」


「…………」



関羽、張飛、呂布の三人は意気込みながら各々の持つ武器を構え零治に対峙するが、星は浮かない表情で龍牙を構える。



(ん? ……星の奴、随分と浮かない顔をしているな。まあ、どんな状況だろうがオレのやる事は変わらない……)



零治はゆっくりとコートの下に手を入れ、その中から軽く湾曲した金属の棒を一本取り出す。



「にゃ? お前、そんな小さな棒で鈴々達と闘うつもりなのか」


「フッ。まあ確かに棒に見えるわな。だがこれは棒なんかじゃないぜ……」



零治は右手にある金属の棒をクルリと一回転させる。

すると、グリップの間に収納されていた刃渡り二十㎝はあると思われる刃が現れる。



「なっ!? 刃が現れた!?」


「フフッ。便利だろう? コイツは折り畳み式の短剣さ。普段は刃を柄の間に収納してあるから鞘が不要で持ち歩くのにも困らない代物さ。まあ、コイツは自作だから本来の物よりも大型だがな……」


「音無よ。まさかその短剣で我らと闘うつもりなのか」


「そのつもりだが? それ以外にどう使えと言うのだ。これで散髪でもしてほしいのか?」


「我らも舐められたものだな。そのような短剣で勝てると本気で思っているのか……?」


「関羽。短剣を甘く見ない方が身のためだぞ……」


「何?」


「確かにコイツはお前らの持つ槍に比べれば長さはかなり短い。だがその分小回りが利くし、咄嗟の対応の動作も素早く行える。得物が長ければ有利などとは思わない事だな。近接戦闘では長物よりも短剣のような短い物の方が有利な場合もあるんだぜ……」



零治は自作のバタフライナイフを逆手に持ち、ナイフファイトの構えを取る。



「来いよ。短剣が単なる護身用ではないという事を今から教えてやる……」


「よかろう! 我らを侮った事をこの場で後悔させてくれるわ!」


「……口ではなく行動でそれを示してみろよ、関羽……」


「三人とも手を出すな。この男だけは……私の手で討つ!」


「なっ!? 愛紗! 馬鹿な真似はよせ!」


「我が魂魄を籠めた一撃、受けてみよ! でえぇぇぇいっ!!」



星の制止は関羽の耳には届かず、関羽は偃月刀を大きく振り上げながら零治に突進し、渾身の力を籠めて零治の首筋に狙いを定めて振り下ろす。



「フッ……それがどうした?」



しかし零治はナイフの刃を寝かせながら関羽の一撃を横に逸らしながら受け流す。



「何っ!?」


「安っぽい一撃だな。お前の魂魄はその程度なのかよ……」


「くっ! 一撃を躱したぐらいでいい気になるな! はあぁぁぁぁっ!」


「同じ手が通用すると思っているのか。少しは学習しろ……」



関羽は再び零治の首筋を狙うように偃月刀を振り下ろすが、零治はまたもやナイフの刃を寝かせその攻撃を受け流し、それと同時にナイフを持っている右手をそのまま後ろに引いていき。



「……ふんっ!」



関羽の首筋に狙いを定めながら、ボクシングで言うフックを打ち込むようにナイフを素早く振り抜く。



「なっ!?」



咄嗟に反応した関羽は素早くバックステップをして迫りくる凶刃を何とか躱すが、先端が髪の毛をかすめたので前髪が数本ハラリと地面に落ちる。



「ほお。良く躱したな。反応が後0.5秒遅かったら貴様の頸動脈は斬り裂かれていた所だぞ……」


(くっ! なんて奴だ! あのような短剣で我が一撃をいとも簡単に捌くどころか、そこから素早く反撃に転じてくるとは!)


「関羽、オレに本気で勝ちたいのなら生存本能を全開にし、オレがどう動くのか先読みして動け。でないと……死ぬぞ」


「愛紗ー! 鈴々も手伝うのだ!」


「ほお。次はチビの張飛が相手か……」


「鈴々はチビじゃないのだ! 人を見た目で判断していると痛い目を見るのだ!」


「面白い。ならばオレを文字通り痛い目に遭わせてみろよ……」


「望む所なのだ! 身の丈八尺の丈八蛇矛、受けてみろなのだーっ!」



張飛は自分の背丈よりもはるかに長い、殺傷能力を高めるために穂先が枝分かれしているのが特徴的な四mも長さのある蛇矛を眼にも止まらぬ速さで零治に向かって振り下ろす。



「何だ。お前も関羽と同じ手口か? そんな事ではオレは倒せんぞ……」



しかし零治はそんな攻撃はものともせず、身体を軽く揺らしていとも簡単にその一撃を躱す。



「にゃにーっ!?」


「どうした? それが貴様の本気か? それとも遊んでいるのか?」


「遊んでなんかいないのだ! だったら……これはどうなのだーっ!!」



次に張飛は高速の突きを零治の胸元に狙いを定めて放つ。

蛇矛の穂先がキラリと煌めきながら零治の目前まで迫りくる。



「今度は突きか。確かにそれこそが槍の最大の強みだな。だが…………ふんっ!」



零治はナイフを縦にして張飛の放った突きを受け止めるように拳を突出し、ナイフの刃を張飛の蛇矛の枝分かれした穂先に引っかけてその攻撃を難なく止めてみせる。



「にゃんだとーっ!?」


「お前の蛇矛の穂先は随分と枝分かれをしているからな。確かにこれなら殺傷能力はかなり高いだろうが……こうやって受け止める事もやりやすい。まあ、こんな芸当できる奴なんかそうそう居ないだろうがな……」


「馬鹿な! そんな事をすれば普通は短剣の刃が折れるはずだ!」


「生憎だったな、関羽。オレが使ってる短剣は、この世界にある金属よりもはるかに頑丈な物を使用しているのでな。少なくとも……この世界の武器で破壊するのは不可能だな……」


「うぬぬぬぬ……っ!」



張飛は零治のナイフを押し返そうと両腕に更に力を籠めるがビクともせず、ギリギリと金属の擦れあう音がその場に響くのみ。



「もう終わりか? 張飛……」


「……お前が強いのは分かったのだ。けど、鈴々にばっかり気を取られてていいのか?」


「何……?」



張飛が意味深な笑みを浮かべるので、零治は周囲に視線を走らせる。その場に一人姿が見当たらない人物がいた。



(呂布が居ない!?)


「恋! 今なのだ!」


「…………ふっ!」


「なっ!? 後ろかよっ! ちぃ……っ!」



不意に零治の背後に音も無く現れた呂布は、関羽や張飛の一撃とは比べ物にならないほどの速度で戟を振り下ろしてくる。

しかし素早く反応した零治は張飛の蛇矛を押し返し、クルリと身体を反転させてその一撃を何とか受け止めてみせた。



「…………止められた」


「ふぅ……。流石に今のは焦ったぜ。それにしてもとんでもない一撃だな。手が痺れてやがるぜ……」


「うりゃりゃりゃーーっ! これで終わりなのだー!」



今度は張飛が零治の背後から突きを繰り出し、この闘いに決着をつけようとする。



「ま、そう来るわな。だがなっ!」



零治は身体を捻りその突きを躱して、空いている左手を使って張飛の蛇矛を掴み取る。



「にゃにー!? また止められたのだ!」


「当然だろう。この程度で勝った気になるな……」


「二人とも! そのまま音無を押さえていろ! 音無! 今度こそ終わりだぁぁぁぁっ!」


「ちっ! やむを得ん……」



動きを封じられている零治は、迫りくる関羽の一撃を避けるために霧散する雲ヴォルケ・フェアシュヴィンデットを発動し、その場から姿を消す。



「なっ!? 消えただと!?」


「どこに行ったのだ!?」


「…………居た」



周囲をきょろきょろと見回していた呂布が零治が元居た場所を指さす。



(何だ今のは。零治殿はあのような術が使えたのか……)


「やれやれ。仕切り直しか……」


「またしても妖術などに頼るのか、音無」


「お前、逃げるなんて卑怯だぞー! 正々堂々と闘えなのだーっ!」


「逃げるのが卑怯だと? 張飛、貴様はバカか? 戦場とは生きるか死ぬかの二通りしかない場所だぞ。こっちも死にたくはないんでな……」


「貴様の言ってる事も分からなくはないが、そのような妖しげな術に頼るなど、武人の風上にも置けん男だな」


「関羽、それで挑発しているつもりなのか? 生憎とオレは武人ではないし、戦いとは殺すか殺されるかの二つしか結末が無い。勝つために手段をいちいち選んでいるような奴は戦場では生き残れんぞ……」


「…………」


「それにオレの行いが卑怯だと言うのなら、貴様らはどうなんだ? こっちの主力が不在の所を攻め込んでくるなどとは……そっちの行いの方がはるかに卑怯だとオレは思うがな……」


「何だと!?」


「……関羽、お前の戦う理由は一体なんだ?」


「何……?」



いきなり戦う理由を零治に尋ねられ、関羽は呆気にとられる。



「質問に答えろ。何の理由があってお前は戦ってるんだ……」


「知れた事を。私が戦う理由など、桃香様の理想を実現するためだ! それ以外に理由など無い!」


「つまり、『この大陸に生きる全ての人が笑って過ごせる国を作る』ためってわけか?」


「そうだ!」


「フッ……」



零治は力強く答える関羽の姿を見て、左手で顔を覆いながら俯き肩を震わせる。



「クックック……フフフ……ハーッハッハッハ!」


「なっ!? 何が可笑しいのだ! 音無!」


「これが笑わずにいられるか。全ての人が笑って過ごせる国を作るだと? そんなの無理に決まってるだろうが」


「なぜだ! 貴様は反董卓連合時もそう言ったな! なぜ無理だと断言できるのだ!」


「なら訊くがよ、お前らが言ってる『全ての人』ってのは一体誰の事を言ってるんだ?」


「何?」


「劉備が治める領地に住んでいる人々か? それとも文字通りこの大陸に生きる全ての人の事なのか?」


「貴様。何が言いたいのだ……」


「なら仮にだ、劉備がこの大陸を統一し平定したとしよう。結果この大陸は平和になり、劉備が治める領地に住む人々は心の底から笑って日々を過ごす事ができるだろう」


「…………」


「だが……そのために犠牲になった人々や兵士達の残された遺族達は本当に笑って過ごせるのか……?」


「何だと?」


「いくら世界が平和になっても、その隣に心から愛する人や家族や友人が居ない。そんな連中は必ず出る。戦争に犠牲は付き物だからな。……心に受けた傷は時間が経てば癒されるかもしれないが、全ての人がそうなるとは限らん。人間の心はそこまで単純に出来ちゃいないからな……。そいつらは果たして本当に心の底からこれからの日々を笑って過ごせるのか? いいや、無理だな。仮に笑っていたとしても、それは偽りの笑顔でしかない……」


「…………」


「何よりそんな幻想とも言える理想を掲げている劉備はいま何をしている? 全ての人が笑って過ごせる国を作ると言っていながら、平和的解決手段を模索するどころかやってる事は武力による侵略行為じゃないか。これで全ての人々が笑える国を作るだと? ふざけるな。口でそんな事を抜かしながら平気な顔をして他国を侵す奴にその理想を語る資格など無い……」


「黙れ! 桃香様の理想は必ず実現できる! 現に桃香様に共感した民達も、その理想を信じて我々に付いて来てくれている!」


「このご時世だ。そりゃ当然だろ。……だが貴様らは今、その理想を語りながら真逆の行為をしているじゃないか。これについてはどう弁解するつもりだ? ……いい加減に気付け。これがあの時オレが指摘した矛盾の答えだという事に……」


「黙れ! 黙れぇっ!! 桃香様は何も間違ってなどいない! 間違っていないからこそ、我らはここまで上り詰める事が出来たのだ!」



零治がこれだけ言っても、関羽はまるで駄々っ子のように喚き散らす。

零治の言葉が認められない、いや、劉備と同様に認めたくないのだ。

関羽にとって劉備の存在こそが戦う理由。だからこそ認めたくはなかったのだ。認めてしまえば、自分が信じて進んできた道の全てを否定してしまうかもしれないという恐怖心に囚われてしまってるのだから。



「やれやれ。ガキみたいに喚き散らしやがって。高すぎる理想は人の眼を曇らせると言うが、お前もそうみたいだな、関羽……」


「うるさい! 桃香様は私に戦う理由を与えてくれたお方だ! 桃香様の理想のために私は戦い続ける! 誰が何と言おうとだっ!」


「まあ、その考えは立派だと思うが……関羽、お前は劉備の存在、そしてその理想を神格化しすぎているな。その考え方は危険だ。本来ならこの場で排除すべきなのだろうが、己を見つめ直す機会ぐらいは与えてやらないとな……」


「ほざくな! 貴様にそのような事を言われる筋合いはない!」


「言ってろ。もう終わりにしてやる……。まずは……張飛、貴様から潰してやる」


「やってみろなのだ!」


「ああ。やってやるさ……」



零治は再び霧散する雲を発動し、その場から姿を消す。

そして次の瞬間、張飛の前に出現する。



「にゃにゃ!?」


「お前の持つ蛇矛の最大の長所はその長さだが、ここまで懐に潜り込まれるとその長さは逆に仇となる」



零治はそのまま張飛の腹部にボディブローを叩き込み、ふわりと宙に浮いた張飛の胸ぐらを掴みそのまま軽々と持ち上げる。



「くっ……あぁ……っ!」


「鈴々!?」


「いい勉強になったか? 張飛。何事も長所が短所にもなるという事を憶えておくんだな。……次はお前だ、呂布……」


「…………」



零治は呂布に鋭い視線を向け、呂布は戟を肩に担ぎながら向かってくるであろう零治に対し身構える。

しかし零治は予想に反する行動を取る。



「悪いな。この先の闘いのために力は温存しておきたいんで、貴様と正面からやり合うつもりなどない。……そらよ!」


「!?」



零治は掴み上げていた張飛を野球ボールでも投げるよな勢いで呂布に向かって投げつける。

あまりにも突然の出来事だったので呂布は対処できず、張飛の頭が自身の頭部に激突してその衝撃で卒倒し、意識を失った。



「恋!?」


「仲間の心配をしている余裕などあるのか?」


「おのれぇ! 来い! 返り討ちにしてくれる!」


「フッ。出来るものならやってみろ……」



零治は意気込む関羽の姿を嘲笑いながら、またしても霧散する雲でその場から姿を消す。



「ええいっ! またしても姿を消したか! だが、正面から来る事さえ分かっていれば、対処などいくらでも……」


「誰が正面にしか現れないと言ったんだ?」



音もなく背後に現れていた零治は不敵な笑みを浮かべながら関羽に語りかける。



「なっ!?」


「遅い」



零治は眼にも止まらぬ速さで左腕を伸ばし、関羽の胸ぐらを掴みそのまま軽々と持ち上げる。

結果、首元は締め付けられ、関羽は苦悶の表情になる。



「愛紗っ!!」


「関羽、これで理解できたか? これがオレと貴様らとの実力の差だ……」


「くぅ……っ!」



関羽は苦悶の表情で零治の手を振り解こうと手足をバタつかせて抵抗しているが、全く効果は無かった。



「あれだけオレに敵愾心を剥き出しにしていたというのに、この程度とは……つまらんな」


「く……っ! 私は……まだ……闘える……ぞっ!」


「フッ。口で言うだけならガキにだって出来る事だぞ、関羽……」


『さあ、そのナイフを使ってそいつを殺せ……』


(っ!?)



頭の奥で死神が関羽を殺せと囁きかける。

だが、零治はどうしたものかと関羽を見上げながら思考する。



『どうした。何を躊躇ってるんだい? その女はアンタの大事な家族を傷つけた敵なんだよ。情けなど無用だ。殺すんだ。そして連中に思い知らせろ。アンタを敵に回せばどんな結果になるかという事をね……』


「…………」



零治は無言でチラリと自分の右手に握られている自作のバタフライナイフに眼をやる。

今の状況ならば、このナイフを使って関羽を殺すなど造作もない事だろう。

零治は右手を自分の目線の高さまで持ち上げ、逆手に持っているナイフの先端を関羽の首筋に向ける。



『そうだ。殺れ。そいつで首を斬り裂くなり、突き刺すなり、心臓に突き立てるなりアンタの好きなように殺せばいい。ようやくアンタも本当の自分が分かってきたようだねぇ。カッカッカ……』


「オ、オレは……」



本当の自分。その言葉が零治の心の奥に引っかかる。

死神に言われた本当の自分、それは戦場で人斬りを楽しんでいたと言われていた自分だ。

今この場で死神の言う通りに行動すれば、死神に言われた自分の本性を認めてしまいそうな気がしてならない。そのため、零治の心の中で躊躇いが生まれていた。



『まだ自分を偽るつもりなのかい? いい加減に認めちまいなよ。……まさかアンタは、今まで大勢の人を殺してきたにもかかわらず、自分は残虐じゃないとでも言うつもりなのかい?』


「…………」


『アンタはその背に今まで殺してきた連中、そしてその遺族や友人達の恨み辛みを背負っている事を忘れたのかい。それは即ち、アンタが今まで人を殺してきた証であると同時に……アンタの残虐性を物語ってるんだよ……』


「そ、それは……」


『別にいいじゃないか。今更殺した人の数が一人や二人増えたって大して変わらないじゃないか。あの劉備って女にもアンタは同じ事を言ったじゃないか。なのにアンタは自分は違うとでも言うつもりなのかい……?』


「…………」


『だからそろそろ認めなよ。自分の本性をさ。……それが出来れば、アンタは更なる力を手にする事が出来る。それこそ……黒狼に勝つ事も出来るほどのね……』


「黒狼に……勝てる力……っ!?」



その言葉に零治は過剰に反応する。今の零治にとってこの言葉はまさに悪魔の囁きともいえる。



『そうさ。欲しいだろ? あの男に勝てる絶対的な力が……』


「欲しい……」


『カッカッカ。素直でよろしい事で。……なら、いま何をするべきかは言わなくても分かるね……』



零治は死神の言葉に無言で頷き、冷酷な笑みを浮かべ、関羽の首筋に狙いを定めながらゆっくりと右手を後ろに引いていく。

だがその時、零治が今まさに、関羽の首筋にナイフを突き刺そうと右腕を動かそうとした瞬間に零治の頭の奥に死神とは別の人物の女性の声が響き、それを制止する。



『ダメよっ!!』


「っ!?」


『零治! そいつの言葉に従ってはダメ! アンタは騙されてるのよっ!!』


「な……に……っ!?」


『なっ!? この女! なぜだ!? 意識はとうに消滅したはずだぞっ!?』



姿は現わしていないが、今の口調から死神が慌てているのは理解できる。



『零治……』


「この声……まさかっ!? いや、そんなはずはない! 貴方は死んだはずだ! オレがこの手で殺したんだ! 生きてるはずがない!」



零治はその声に聞き覚えがあるのか、酷く動揺し、脇目も振らずに声を張り上げる。



『聞きなさい、零治っ!』


「っ!?」


『いい? 確かにそいつが言ってる事は本当よ。アンタの叢雲には、その気になれば黒狼を倒す事も出来る力が隠されてるわ……』


「…………」


『でも……その力を使えばアンタは間違いなく死ぬ事になる!』


「なっ!?」


『だからそいつの言葉に耳を貸してはダメ! そいつの目的は、その力を使わしてアンタを死なせ、魂を奪い取る事なのよ!』


『チッ! この女……余計な事を!!』


「おい。一体どういう事だ……」


『な、何でもないさ……。それよりもそいつの声なんか無視しろ! そいつこそアンタを騙してるんだ!』


「貴様のその慌てようからそうは思えんのだがな……」


『いい加減黙りなさい、死神……いえ、ソウルイーター!! そして……アタシのからだ)を返してもらうわよ!!』


『っ!? き、貴様! 何をするっ!?』



突如として零治の背後から黒い靄のような物が現れ、その靄の中から死神の姿が露わになる。

死神は両手で頭を抑えながら苦しそうな呻き声を漏らしていて、まるで劣化を起こした陶器のように全身に細かいひびが入り始め、そのひびの間から白い光が漏れ、次第にドクロの顔もボロボロと崩れ落ち始める。



『ぐっ! くぅぅ……っ! おのれ貴様ぁ! あと一歩の所で上質な魂が手に入ったと言うのにっ! ただの人間の分際でこの私にこんなぁ……っ!』


『生憎だったわね。今のアタシは人間じゃないんでね。貴様は忌まわしいその姿と共に、冥府魔道へ消え去りなさい!』


『ぐっ!? ぎぃやあぁぁぁぁぁっ!!??』



死神はこの世の者とはとても思えない、身の毛もよだつような断末魔を上げながら粉々に砕け散り、消滅した。

それまで事の成り行きを見守っていた零治は呆然と立ち尽くしていたが、左手に走る関羽が身を揺すって抵抗してくる感触と、苦悶の表情で漏らしている呻き声で現実へと引き戻される。



「くっ! くぅ……っ!」


「…………」



零治は掴み上げている関羽を見上げながら、無言で考える。そして……。



「ああああああっ!!」



零治は不意に関羽からパッと手を放し、大声で叫びながら無防備になっている腹部にコークスクリューブローを叩き込んで関羽を数m向こうに居る星のすぐ隣まで殴り飛ばす。



「愛紗っ!」


「ぐ……っ! くぅっ! あぁ……っ!」



関羽は腹部に走る激痛に悶え苦しみ、腹部を両手で押さえながら身体をくの字に曲げる。



「はぁ、はぁ、はぁ……っ! 関羽、奈々瑠と臥々瑠の借りはそれで帳消しにしてやる。殺されなかっただけでもありがたく思うんだな……」



零治は頭の奥で響いてきた聞き覚えのある声の主の事を振り払うように頭を軽く振って、気持ちを切り替えるべく数回深呼吸を繰り返し、右手に握られているバタフライナイフをクルリと一回転させてグリップの間に刃を収納して、それをコートの下に納めてゆっくりと星に視線を向ける。



「はぁ……。さて、星……」


「っ!?」


「残るはお前だけだが……どうする? このままオレとの闘いを続行するか?」


「…………」


「星、知り合いのよしみだ。特別に見逃してやってもいいんだぞ? ただし、このまま大人しく自分達の領土に帰るんならの話だがな……」


「……そうはいきませぬ。今の私は劉玄徳に仕えている身。故に……退くわけにはいかないのです!」



ここまで来た以上、もう後に引く事など出来はしない。迷っている場合ではないのだ。

いま自分が闘わねば、仲間達が危険にさらされる。それだけは何としても避けねばならない。

星は闘う覚悟を決め、龍牙を構えて零治に対峙する。



「いいだろう。向かってくるんなら容赦はせんぞ……」


(くっ! 何という殺気だ! これが……零治殿の本気なのかっ!? ……だが、私も負けはしないっ!)



零治から放たれる殺気に星は思わず怯み、そのまま数歩後ろに下がってしまうが、腹に力を籠めて気合を入れ直し、何とか踏み止まる。



「ほお。よく耐えたな……」


「当然です。私とていつまでも昔のままという訳ではありませんのでな……。零治殿、全力で参ります!」


「フッ。ならばその全力とやらをオレに見せてみろよ……」


「…………」



双方が無言で対峙する中、辺りの空気に緊張が走り、零治と星の一騎打ちを見守る人々全員が、一瞬で勝負はつくだろう、そう思っていた。

だが、二人の闘いは思わぬ形で終わる事になる。



「……星、どうやらお前とは闘う必要がなくなったようだ。オレの本命が到着したみたいなんでな……」


「本命ですと?」


「あーあ……。これはまた随分と派手にやられたもんだねぇ」


「ったく。あの兵士、連絡に来るのがちと遅すぎやしなかったかぁ?」


「なっ!? 金狼、銀狼っ!?」


「はわわっ! お二人ともなぜここへ来たんですか!? 本陣はどうしたんですかっ!?」


「本陣には黒狼が待機してるから問題ないよ、諸葛亮。それにさ、僕達がここへ来た理由を説明する必要なんてあるの?」


「ああ。オレ達がここに来る理由なんざ一つに決まってんだろうが……。なあ、影狼……」


「…………」



零治と金狼、銀狼の視線がぶつかり、途端に辺りの空気は一変する。

息が詰まりそうなほどの緊張に満ちた空気がその場を支配し、劉備軍の一部の兵士達はその空気に耐えきれず腰を抜かす者や卒倒して気を失う者が続出する。



「クックック。いい殺気じゃねぇか、影狼。これな存分に楽しめそうだぜ……」


「なっ! ま、まさか……お二人とも、音無さんと闘うつもりですか!?」


「そのつもりだよ。まあ、僕の目当ては彼じゃないけどね。……それにさ、諸葛亮。この状況で僕達を使わずに勝てると本気で思ってるのかい?」


「そ、それは……」


「君の言いたい事も分かるんだけどさ、少しは状況を考えなよ。関羽、張飛、呂布の三人が彼に倒されて残っているのは趙雲だけなんだよ。正直言って部隊内から脱走者が出ていないのが不思議でならないよ。もう分かってるんだろ? 影狼達の相手が出来るのは僕達以外に居ないって事ぐらい。毒は同じ毒をもって制するって言うだろ?」


「…………」


「それとも君はこの戦いで劉備に負けてほしいのかい?」


「そんな事はありません……」


「なら答えは決まってるだろ? まあ、君達はそこで大人しく僕達の殺し合いたたかいを見ていなよ。きっと二度とお目にかかれないだろうからね……」


「……分かりました。お願いします……」


「おい、金狼。話は終わったのかよ?」


「ああ」


「なら行こうぜ。あの時の続きをしによ……」



話がまとまり、金狼と銀狼は各々が持つ神器を手にし、零治が地面につけた死の境界線の前まで足を進める。



「ん? 影狼、この線は何なんだい?」


「死の境界線さ……」


「ああ? だったらその線はテメェが踏み越えるべきなんじゃねぇのか? ここで死ぬのは影狼、お前なんだからな……」


「そのセリフ、そっくりそのまま貴様に返してやるぜ、銀狼……。さっさとその線を踏み越えて来いよ」


「けっ! 上等だぁ!」


「やれやれ、相変わらず短絡な奴だね。……そういう訳だ、趙雲。君はさっさとそこで倒れているお仲間達を連れて後ろに下がるんだね」


「…………」


「何? それともそこで僕達の闘いを観戦したいの? まあ、そうしたいんなら止めはしないけど……」



金狼はそこで言葉を区切り、ゆっくりと眼を閉じる。

だがすぐに眼を開き、ギロリと刺すような視線を星に向け、静かに口を開く。



「とばっちりを喰らっても僕らは一切責任を取らないからね……」


「っ!?」



その視線を受け、星の背筋に悪寒が走る。

金狼は口ではこう言っているが、その眼は全く別の事を語っている。

君がそこに居ても邪魔なだけだ。さっさと後ろに下がれ。でないと君も一緒に殺すぞ、と……。

本能的にその事を悟った星は、やむを得ず金狼の言葉に従う事にした。



「くっ! 承知した……。おい! すまんが誰か鈴々と恋に手を貸してやってくれ!」


「はっ!」



星は関羽に肩を貸し、張飛と呂布は兵士に肩を貸されながら諸葛亮の部隊内まで後退する。

その場に残されたのは零治、金狼、銀狼の三人のみ。



「さて、これで邪魔者は居なくなった。……白狼、君もそんな所で突っ立てないで降りてきなよ」


「…………」



亜弥は下から自分を見上げて呼びかけてくる金狼を無言で睨み付ける。

無論、彼女の中では既に答えは出ている。



「華琳……」


「ええ。行ってきなさい。必ず……零治と一緒に戻ってくるのよ」


「分かってます」



亜弥は城壁から地面まで一気に飛び降り、まるで羽毛のようにふわりと着地し、ゆっくりと零治の隣まで足を進める。

その場の緊張は更に高まり、劉備軍と華琳達はこれから始まるであろう御遣い同士の殺し合いを固唾を飲んで見守る。



「長かった。この日が来るのをどれほど待った事か……」



金狼は狂おしそうにゲイボルクをクルクルと振り回しながら構え。



「ああ。やっとあの時の続きが出来るんだなぁ……」



銀狼は狂気の笑みを張り付けながら村正を鞘から引き抜き。



「貴方達との因縁、今日で終わりにさせてもらいますよ……」



亜弥も双龍を鞘から抜き出し、剣首同士を連結させ弓形態ボーゲン・フォルムへ移行させ。



「御託など不要だ。来いよ。ケリをつけようぜ……」



零治は叢雲の鞘と柄の境目に左手の親指を押し当ててパチリと叢雲を弾き、鞘と柄の間から刃が姿を覗かせ、陽光を煌めかせる。

双方無言で睨み合い、その場の緊張はより一層高まる中、不意に金狼が零治に話しかける。



「ねえ、影狼。一つ訊いてもいいかい?」


「何だ」


「何で関羽を殺さなかったんだい?」


「……お前は奴に死んでほしかったのか?」


「そういう訳じゃないよ。ただ、関羽は例の戦闘獣人バイオロイドの姉妹の姉の方に傷を負わせたんだろ? あの二人に妙な愛着を持ってる君が関羽を殺さなかった理由が分からないから、その事をふと疑問に思ってね」


「貴様がそれを知る必要性があるのか?」


「いや、別に無いけど……」


「なら答えるつもりはない」


「やれやれ。つれないなぁ……」


「敵である人間と馴れ合う必要性が一体どこにあると言うのだ……」


「そうだぜ、金狼。オレ達の間に言葉なんかいらねぇんだよ。……影狼! 行くぜえぇぇぇぇ!」



痺れを切らした銀狼が零治に向かって一直線にダッシュする。

零治との距離が目と鼻の先まで縮まり、銀狼は村正を大きく振りかぶり横に薙ぎ払うように振り抜いてくる。



「オラァ!」


「フッ、それがどうした!」



しかし零治はその攻撃に対して落ち着いて対処し、叢雲を鞘から半分だけ引き抜いて銀狼の一撃を受け止める。



「ククク。よく止めたじゃねぇか、影狼……」


「貴様に褒められても嬉しくないな。それにその程度の攻撃などオレじゃなくても止められるぞ……」


「んだとぉ!?」


「確かにお前の太刀筋はこの世界の人間と比べれば遥かに速いさ。だがそれだけだ。攻撃の軌道が直線的だから、その気になればこの世界の武将、そうだな……指揮官クラスの人間になら止める事ぐらいは可能だろうな……」


「テメェ……オレがこの世界の人間よりも弱いと言いてぇのかぁ!」


「違うのか?」



その一言で銀狼の中で何かがプチンと音を立てて切れた。

もともと短気な銀狼からすればキレるには充分な一言である。



「影狼……テメェ、マジでブッ殺す!!」


「そのセリフは聞き飽きた。銀狼、貴様こそこの場で死ね……」



零治は銀狼の無防備な腹に蹴りを叩き込んで引き剥がし、叢雲を鞘に納め居合の構えを取る。



「がはぁ!? ……テメェやりやがったなぁ!!」


「銀狼。見よう見まねの剣術なんかでオレに勝てると思うな。今から貴様に本物の剣術を教えてやるよ。授業料は……貴様の命だ!」


「面白れぇ……。殺れるもんなら殺ってみやがれぇ!!」



頭に血が上った銀狼は再度零治に突撃し、力任せに村正を振り回して攻撃を仕掛ける。

対する零治は銀狼の乱暴な一撃一撃に冷静に対処し、無駄のない最小限の動作で、まるで舞でも舞ってるかのようにヒラリ、またヒラリと躱し、そこからカウンターを狙うように村正の刀身に神速の居合を打ち込んで銀狼の攻撃を弾き返したり、銀狼を挑発するようにワザと攻撃を外したりして見せる。



「ヒュー。相変わらず影狼の戦闘術には恐れ入るね。それに対して銀狼はまるでなっちゃいないよ。あんな力任せな攻撃をしたって勝てるはずないのに。……ねえ、白狼。君もそう思うだろ?」


「…………」


「あれ? ノーリアクション?」


「貴方と話す事など私には一切ありませんよ……」


「おいおい。せっかくの再会なのに随分な物言いじゃないか」


「言いたい事はそれだけですか……? ならば……」



亜弥は瞬時に一本の光の矢を右手に生成し、双龍につがえて金狼の不意を突くように即座にその矢を放つ。



「おっと!」



しかし金狼は慌てる様子など一切なく、ゲイボルクをクルンと回転させて矢を弾き飛ばし、弾かれた矢はまるでガラス細工のように粉々に砕け散り霧散する。



「まったく……不意打ちとはやってくれるじゃないか……」


「いえいえ。貴方には負けますよ」



戦闘中だと言うのに、亜弥は普段と何一つ変わらない穏やかな笑みを浮かべながら毒のある言葉を金狼に送る。

その言葉が癇に障ったのか、金狼の眉がピクリと動き、その表情に影が差す。



「生意気だね。五色狼最弱の分際で……」


「金狼。私をいつまでも昔のままと思わない方が身のためですよ……」


「いいだろう! おふざけはここまでだ! 白狼、今日こそその息の根を止めてやるよ!」


「それはこちらのセリフです! 金狼、ここを貴方の墓場にしてあげますよ!」



そのセリフを合図に亜弥と金狼の一騎打ちのゴングが鳴らされる。

金狼はゲイボルクを片手に亜弥との間合いを一気に詰め、お得意の高速の連続突きを浴びせにかかる。

それに対し亜弥はバックステップでその攻撃を躱しながら金狼との間合いを離し、一瞬の隙を突くように一発ずつ矢を放って狙撃を行うが、金狼のゲイボルクに叩き落され、双方決定打に欠けた一進一退の攻防戦が続く。

零治と銀狼、亜弥と金狼の間で繰り広げられてる闘いに華琳達、そして劉備軍の人々は言葉を失い、完全に見入ってしまう。



「凄い。これが……零治達の本気の闘い……」


「お兄さん達の噂は前々から聞いてはいましたが、確かにこれは凄いですねー」



城壁の上から零治達の闘いを見下ろしている華琳は自分達の危機的状況など完全に忘れ、感嘆の言葉を漏らし、隣で一緒に闘いを見ている風も同意する。



「ええ。……でも、互いに決定打に欠けているわね。このままではいつまで経っても決着がつきそうにないわね……」


「そうですねー。ですが、お兄さん達の事ですからその辺りもきっと上手くやってくれると風は思いますよー」


「華琳さん……」


「ん……? な、奈々瑠、それに臥々瑠も!? 貴方達、起きても大丈夫なの!?」


「大丈夫です。と言っても、こうして肩を貸してもらわないと歩くのも辛いですけど……」


「アタシも何とか。もう起きても平気だと思うよ」



臥々瑠に肩を貸してもらい、右手で胸の傷を押さえながら奈々瑠は答える。

胸に巻かれている包帯が何とも痛々しい姿である。



「華琳さん。兄さん達は?」


「あそこよ……」



華琳は顎をしゃくり、城壁の向こう側を見るように促す。



「金狼に銀狼……」


「ちょっと前から嫌な気配を感じてはいたけど、やっぱりあの二人だったんだね……」


「奈々瑠。まさかその身体で二人を助けに行くなんて言ったりしないわよね……」


「こんな状態であの二人と闘うほど私はバカじゃありませんよ」


「ならどうしてここに来たの?」


「その……何だか奇妙な感じを受けて……」


「奇妙な感じ?」


「上手く言えないんですけど、なんだか懐かしい気配を感じたような気がして……」


「気配? それは一体……」


「影狼ぉ!!」



奈々瑠の曖昧な返答に華琳は訊き返そうとしたが、銀狼の怒声によってそれは遮られ、華琳達は城壁の下に視線を走らせる。



「うるせぇなぁ。そんな近くで怒鳴るんじゃねぇよ……」


「テメェ、さっきから人の事をおちょくるような攻撃ばっかしやがって……。やる気あんのか!」


「ならオレを本気にさせてみろよ……」


「いいだろう! ……朱の眼ロート・アウゲン、開眼!」



銀狼は零治の挑発の応じるように朱の眼を発動し、朱色に光る右眼をぎらつかせながら銀狼は口の端を吊り上げて狂気に満ちた笑みを浮かべる。



「影狼。覚悟しろよ。ズタズタに斬り刻んでやるからな……」


「フッ、やってみろよ。貴様の持つ村正とオレの叢雲の相性が最悪な事は知ってるはずだろう。無駄な努力だと思うがな……」


「クックック。それぐらいオレだって知ってるさ。だがな、影狼。テメェこそ一つ忘れちゃいねぇか? テメェの叢雲の力の一つ、雲の幻影ヴォルケ・ゲシュペンストは燃費が悪いから、発動してから三十秒程度しか維持できないって事をなぁ……」


「…………」


「テメェの魔力が尽きた時が、テメェの最期だ!」


「やってみろよ。……雲の幻影、発動……」



零治は右手を軽く上げてパチンと指を弾く。

見た目には何の変化も見られないが、術自体は発動したのだろう。普通の人間から見ると何も起こっていないように見えるが、何かしらの変化を感じ取った銀狼は零治の行動を嘲笑うように冷笑する。



「おいおい。自分から首を絞めるような真似をするとは、テメェもいよいよヤキが回ったかぁ?」


「言いたい事はそれだけかよ。…………そろそろ三十秒経ったぞ。ほら。自慢の次元斬ディメンション・スラッシュでオレを斬り刻んで見せろよ……」



零治は不敵な笑みを浮かべながら自分の首筋をトントンと叩いて銀狼を挑発する。



「ケッ! いいだろう! 望み通りとっておきの技でブッ殺してやるよ!」



銀狼はその挑発に応じるように村正を背に背負うように大きく振りかぶり魔力を高める。

高まっていく魔力は村正の刀身に集中し、禍々しい紫色のオーラを周囲に放ち始める。



「ほお……。そんな事ができるようになっていたとは……少しは成長したようだな……」


「言い残す事はそれだけか? ならば死ね! 大……次元斬!!」



銀狼は渾身の力と零治に対するありったけの恨みを籠めて思いっきり村正を振り下ろす。

次の瞬間、その太刀筋が巨大な光の筋となって現れ、零治とその後ろの城壁に大きな斬り傷を残した。

城壁は派手な音を立てながら斬り裂かれたが、零治は雲の幻影のおかげで無傷で済み、真っ二つに斬り裂かれていたように見えた身体はゆらゆらと揺らめきながら元の状態に戻った。



「なんだとぉぉぉぉっ!? どういう事だぁ!?」



銀狼は眼を見開いて驚きの声を上げる。

周りの人々も銀狼の先程の一撃に驚き、声を失っているが、一番驚いているのは銀狼本人である。



「ククク。残念だったな、銀狼。貴様のとっておきの技も無駄に終わってしまったようだな……」


「バカな! 確かに三十秒以上経っていたのに、何で無傷なんだ!?」


「銀狼、貴様が言うように、確かに雲の幻影は魔力の消費が激しい。『昔』のオレなら三十秒以上は維持できなかっただろうな……」


「昔の……だと!?」


「まさかオレが今まで何もしていないと思っていたのか? この日のために魔力の底上げはちゃんとしてきたさ。今のオレなら、そうだなぁ……恐らく五分ぐらいは維持していられるぞ……」


「ぐ……っ!」


「対する貴様はどうなんだ? 朱の眼を五分以上も維持していられるのか? どうだ、試してみるか……?」



完全に形勢が逆転してしまい、銀狼は打つ手を失い忌々しげに歯ぎしりをしながら零治を睨み付ける。



「やれやれ。あの様子じゃ銀狼は完全に手詰まりみたいだね」


「ほお。貴方は違うと言うつもりですか? 金狼……」


「白狼。僕をあんな奴と一緒にしないでくれる。僕だって昔のままってわけじゃないんだよ……?」


「それは興味深いですね。では貴方もとっておきの技でも?」


「ああ。君を殺すために編み出した新技の一つくらいあるさ」


「面白い。ならば文字通り私を殺してみなさいよ……」


「フッ。ではご希望通りに……。はあぁぁぁぁ……」



金狼はゲイボルクを逆手に持ち、穂先に左手を添えながら両眼を閉じて魔力を高めていく。

次第にゲイボルクは深紅の光を放ち始め、禍々しさが増していく。



「……たあっ!」



カッと眼を見開いた金狼はその場から大きく跳躍し、まるで槍投げ選手のようにゲイボルクを大きく構えて狙いを定める。



刺し爆ぜるゲイ……死翔の槍ボルク!」



金狼は地面に向かってゲイボルクを思い切りよく投げつける。

飛来してきたゲイボルクは零治と亜弥の立っている位置の間に深々と突き刺さった。



「……まさかこれで終わりですか?」


「金狼。槍投げがしたいんならよそでやれよ……」



地面に着地した金狼は零治と亜弥の言葉を嘲笑うように口の端を歪める。そして……



「爆ぜろ!」



金狼の命令に応じるようにゲイボルクから無数の針が現れる。その姿はまるでハリネズミを思わせるかのようである。

そして次の瞬間、ゲイボルクは破裂でもしたかのように爆音を立てて周辺に鋭く尖った針を撒き散らし、零治と亜弥に襲い掛かってくる。



「何っ!?」


「っ!?」



零治は雲の幻影を発動した状態だったのでその場から一歩も動かずに飛来してくる針をやり過ごす。

亜弥は連結させている双龍を分離させ、二刀流に持ち替えて両手の剣をぶんぶんと振り回し針を弾き落としていく。

だが、全て捌き切る事ができなかったのか、亜弥の左頬に一筋の傷が走り、そこから血が流れ出る。

亜弥は左手の甲を使って血を拭い取り、金狼を睨み付ける。



「おしい。もう少しだったのになぁ……」



金狼は残念そうに呟きながら右手を上空に掲げる。

すると、その手の中に赤い無数の小さな光が収束していき、次第に一本の槍の形を構築し始めて、やがて元のゲイボルクの形に戻った。



「金狼。女の顔に傷をつけるとは……ただじゃおきませんよ……」


「あれ? 君って女だったの?」



金狼の悪意あるその一言で亜弥の堪忍袋の緒がプチンと切れて、金狼に対する殺気はますます膨れ上がり、口調にも変化をきたす。



「金狼! 貴様を殺す!」



亜弥は双龍を再び連結させ弓形態に移行させ、右手にオレンジ色に発光する巨大な一本の矢を創り上げて、双龍にそれをつがえ、金狼に狙いを定める。



「おいおい、白狼。気でも狂ったのかい? 殺人蜂の矢プファイル・キラー・ビーネンは単体相手には発動しない事ぐらい僕だって知ってるんだけど。まさか……後ろに兵士達と一緒に僕を殺るつもりなの? それって凄く非効率的だと思うけど……」


「…………」



亜弥は何も言わない。ただ静かに、獣のような眼つきで金狼に狙いを定めるのみ。



「まあいいや。勝手にしなよ。無駄だろうけどね……」


「射殺せ…………殺人蜂の矢Ⅱプファイル・キラー・ビーネン・ツヴァイ!」



金狼の挑発的な言葉に亜弥は応じるように矢を放つ。

放たれた矢は亜弥と金狼の間の中間まで差し掛かった時、瞬時にひび割れて円を描くように砕け散る。



「何だと!?」



金狼は眼を見開いて驚愕する。だがそんな様子の金狼の事などお構いなしに砕け散った矢は金狼が立っている位置に向かって収束するように飛来してくる。



「ちぃっ!」



金狼は忌々しげに舌打ちをし、ゲイボルクをグルグルとヘリのローターのように回転させ、無数の矢をすべて弾き飛ばす。

そのうちの何本かの矢が運悪く銀狼が居る位置に飛んでしまい、銀狼は慌ててその矢を避ける。



「うおっとっ!? 金狼! 何しやがる! 危ねぇだろうが! テメェ、ワザとやったのか!」


「バカ言うなよ。事故だよ事故……。それにしてもやってくれるじゃないか、白狼。まさか君も新技なんか持っていたとはね……」


「ふん! そのまま死んでくれればよかったんですがね……」


「ったく。完全に仕切り直しだな……」



双方一歩も引かない激闘を繰り広げるが未だに決定打に欠け、戦況は完全な膠着状態であるが、劉備軍や華琳達は目の前で繰り広げられる常識外れの闘いにどう反応していいか分からず、ただただ呆然と見つめる以外になかった。



「…………」


「華琳、口は閉じた方がいいんじゃないの?」


「えっ? あ、あぁ……そうね」



ポカンと口を開けた間抜けな状態を臥々瑠に指摘され、華琳は慌てて顎を手で押して口を閉じる。



「それにしても……とんでもない闘いね。零治達もそうだけど、あの金狼と銀狼も同じくらいデタラメな力を持っているわね……」


「そうですね。特に……銀狼のあの攻撃には私達も驚きましたよ。下手をしたら私達も巻き添えを喰らっていましたからね……」


「そうね。……しかし、未だに決定打に欠ける闘いね。まあ、時間稼ぎは出来てるからこのままでも問題は無いのでしょうけれど……」


「そうですね。でもどうせなら、あの二人をこの場で倒せた方が一番なんでしょうけれど。……っ!?」



突然奈々瑠の顔色が青ざめ、顔には冷や汗も浮かび上がり、何かに対する恐怖心を抱きながら地平線の向こう側を見つめる。



「ん? 奈々瑠、どうしたの? 顔色が悪いわよ」


「奈々瑠ちゃん。やっぱりお部屋に戻って寝ていた方がいいんじゃないんですかー?」


「まったく。怪我人は怪我人らしく奥に引っ込んで休んでなさいよね」



華琳達の言葉は奈々瑠には届かず、奈々瑠は青ざめた表情のまま地平線の彼方に視線をやっている。



「臥々瑠。アンタも感じてるわね……」


「う、うん。この禍々しい気配、忘れたくても忘れられないよ……」


「貴方達、さっきから何を言ってるの?」


「華琳さん、どうやら形勢はこっちが不利な状況になったようです……」


「何ですって?」



華琳は怪訝な表情で奈々瑠と臥々瑠の視線を追うように地平線の向こう側を見つめる。

その時、劉備軍の間に何やらどよめきが走り、兵達が何かに道を譲るように二手に分かれていき、人垣の中に一本の道が出来上がっていく。



「零治……」


「ああ。奴自ら来たようだな……」



零治達は闘いの手を止め、劉備軍の兵の間からゆっくりと歩いてくる二つの人影を緊張に満ちた表情で見つめる。

やがてその二つの人影は零治達の居る所までやってきて、一時たりとも忘れる事のない人物、黒狼と例のカラスのくちばしのような奇妙な仮面を着けた人物が戦場に姿を現す。



「…………」


「来たか……黒狼!」


「フッ……」



零治と黒狼の視線がぶつかり火花を散らし、その場の空気の緊張は極限まで高まる。

まもなく、御遣い同士の殺し合いの第二ラウンドが始まろうとしていた。

作者「さようなら、死神さん」


零治「えっ? アイツの出番、マジでこれで終了なのか?」


作者「う~ん……微妙」


亜弥「何です。その意味深なセリフは?」


作者「まあ、それについては次の話で分かるぜ」


奈々瑠「ひょっとして、兄さんを止めたあの謎の声ですか?」


作者「…………」


臥々瑠「あっ。その顔は図星だね」


作者「否定はしません」


零治「てことは、またキャラが増えるのかよ」

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