第36話 犬耳姉妹の料理奮闘記 奈々瑠編
可愛らしい女の子に手料理を作ってもらう。憧れるシチュエーションの一つですなぁ。
ちなみに私はそんな経験は全くありませんっ!
「あれ? あれは……兄さん?」
中庭の東屋で自身の得物、千鳥の手入れをしていた奈々瑠の視線が城の吹き抜けの廊下を歩いている零治に止まる。
その姿が気になった奈々瑠は手入れを中断し、千鳥を鞘に仕舞い込んで零治の所まで駆け寄っていく。
「兄さん」
「ん? あぁ、奈々瑠か。どうした、何か用か?」
「いえ、別の用という訳では。……兄さん、どこに行くんですか? 確か今日は仕事は休みですよね?」
「あぁ……ちょっと昼飯を食いにな……」
零治はどこか疲れたような口調で答え、その言葉に奈々瑠は首を傾げる。
「お昼をですか? でも兄さん、厨房はそっちじゃありませんよ」
奈々瑠は零治が向かってる方向の反対側を指差す。
「あぁ、それぐらい分かってるぞ」
「ならどうしてそっちに向かうんですか? 兄さん、いつもお昼は自分で作ってるのに」
そう。零治は普段、自分が食べる分の昼食は自分で作っているし、その匂いに釣られてやって来る臥々瑠や季衣の分も作ってやったりしている。料理が趣味の零治にすれば、作る量が増えようが大した苦には思ってないのだが、その零治の口から思わぬ言葉が出てくる。
「……作るのが面倒なんだよ」
「えぇっ!?」
零治の言葉に奈々瑠は眼を丸くし、しばらくの間硬直してしまう。
(あの兄さんが……料理を作るのが……面倒っ!?)
「お~い、奈々瑠~。どうしたんだ? 大丈夫か?」
零治は目の前で眼を点にして硬直してる奈々瑠に向かって手を軽く振って呼びかける。
「はっ!?」
「どうしたんだ? いきなり黙り込んで硬直しやがるから心配したぞ。どこか具合でも悪いのか?」
「あ、あぁ……すみませんでした。べ、別にどこも体調は悪くないですよ……」
「そうか? まあ、別にどこも悪くないんなら構わないが、身体に異変を感じたらすぐに言えよ?」
「は、はい……」
「んじゃ、オレは街まで飯を食いに行ってくるから」
「はい……。い、行ってらっしゃい、兄さん……」
奈々瑠は手をひらひらと軽く振りながら街に向かっていく零治の後姿をぎこちない笑顔で見送る。
その姿を見送った後、顎に手を添えながら一人ブツブツと呟く。
「今の聞き違いじゃないわよね……? あの兄さんが……料理を作るのが面倒って……言ったわよね……。もしかして、仕事が忙しすぎて疲れているせいであんな事を……?」
奈々瑠の考えは的を射ていた。
近頃の零治は仕事が多忙なのと疲労が原因で食事は外食か厨房の人間に代わりに作ってもらって済ませていた。
ましてや、料理が趣味の零治の口から『作るのが面倒』などという言葉が出てきたのだ。これは重傷と言っても過言ではないだろう。
「う~ん……」
奈々瑠はどうしたものか腕を組んで首を捻りながら考え込む。
しばらく唸りながら考え続け、やがて名案が浮かんだのか、奈々瑠の頭上にピコーンと電球のマークが浮かび上がる。
「よしっ! やっぱりこれっきゃないわっ!」
力強く頷いた奈々瑠は両手をぐっと握りしめ、赤い瞳に決意の光を宿し、その場を後にした。
………
……
…
その日の夜、城の厨房にて顎に手を当てながら大量の食材と睨めっこをしている奈々瑠の姿があった。
「ここは一つ、兄さんに日頃の感謝も込めて私が料理を作ってあげよう。そうすれば兄さんも料理を作る楽しさを思い出してくれるはずっ! ……とは言ったものの……」
奈々瑠は目の前の調理場に積み上げられている大量の食材を前にしながら渋面を作る。
「作るのいいんだけれど、何を作ればいいのかな? こうも沢山の食材があると何にすればいいのか決められないなぁ……」
食材を目の前にして、奈々瑠は顎に手を当てながら一人ブツブツと呟く。
目の前に積み上げられてる食材は、海の幸、山の幸とさまざまな物が取り揃えられており、選り取り見取りである。ここまで来ると、無い物は無いと言っても過言ではないだろう。
「…………」
終始無言で考え込む奈々瑠。傍から見ればたかが料理如きでここまで深く考える必要は無いと思うのだが、作る相手が相手なだけに本人はいたって真剣そのものであった。
「あっ……」
ようやく考えがまとまったのか、奈々瑠は何かを思い出したように顔を上げて声を出す。
「そうだ。アレならいいんじゃないかな。兄さんが私と臥々瑠に初めて作ってくれた……」
「……奈々瑠さん?」
「うひゃあっ!?」
突然背後から流琉に声をかけられ、驚いた奈々瑠は普段の落ち着いた様子からは想像もできないような黄色い声で悲鳴を上げながら大きく飛び上がる。
「うわっ!? そ、そんなに驚かなくても……」
「……って、流琉さん? お、脅かさないで下さいよ……」
「ごめんなさい、別に脅かすつもりはなかったんですが……。奈々瑠さん、一人で厨房に来るなんて珍しいですね。何か用でも?」
「えっと、それは……」
「どうしたの、流琉。……って、あら?」
「あっ、華琳さん」
「珍しいわね、奈々瑠。貴方が一人で厨房に来るなんて」
「……そんなに珍しいですか?」
自分の事だというのに奈々瑠は首を傾げる。
「ええ。私から言わせれば充分に珍しいわよ。それでどうしたの?」
(そうだ。私一人じゃ上手く作れる自信が無いし、ここは二人に相談してみようかな)
「華琳さん、流琉さん」
「はい」
「何?」
「あの、実はお願いがあるんですが、いいですか?」
「お願い? 私達にですか?」
「何? 言って御覧なさい」
「えっと……今から料理を作ろうと思ってたんですが、お二人に指導してもらいたいなぁ、と……」
「料理の指導ですか? それは別に構いませんけど」
「また随分と唐突ね。貴方が一人で料理を作るなんて。何か理由でも?」
「そ、それは……」
華琳の質問に奈々瑠は口ごもってしまい、頬を赤らめてもじもじする。
その反応を見た華琳はニヤリと意味深な笑みを浮かべて奈々瑠の考えを見事に言い当てる。
「ははぁん、なるほど。零治に手料理を振る舞いたいのね?」
「っ!?」
考えを言い当てられた奈々瑠は顔をゆでダコのように真っ赤にしてしまう。
その反応がよほど面白いのか、華琳は口元に手を添えながらくすくすと笑いを漏らす。
「ふふっ。相変わらず初々しい反応をする娘ね」
「あぁ、なるほど。確かに兄様が相手なら失敗はできないですね」
零治の料理の腕前を理解している流琉もうんうんと頷く。
「まあ、それもあるんですが、実はもう一つ重要な事が……」
「えっ? 何ですか、重要な事って?」
「今日の昼の事なんですが……二人は知っていますよね? 兄さんが基本的に食事は自分の手料理で済ませてる事は」
「ええ。私も何度かご相伴にあずかった事があるけれど、相変わらず見事な腕前よね。流石に料理を趣味にしているだけの事はあるわ」
「へえ~。兄様の料理の腕前は私も知っていましたけど、まだ私は一度も食べた事がありませんね。今度作ってもらおうかなぁ」
零治の料理の腕前を絶賛している二人に対して、奈々瑠は申し訳なさげに俯きながら話を続ける。
「あの、それが……今日の昼、街に出かけていたわけでもないのに、わざわざ兄さんは食事を外食で済ませたんですよ」
「……珍しいわね。あの零治が食事を外食で済ませるなんて」
「はい。私も気になって理由を訊いたら、兄さんの口から……料理を作るのが面倒だってセリフが……」
「……えっ?」
「……はい?」
「…………」
奈々瑠の口から告げられた思わぬ事実に素っ頓狂な声を出して硬直する華琳と流琉。
それからしばらくの間、厨房内に奇妙な沈黙が広がるが、やがて華琳が静かに口を開く。
「奈々瑠……」
「はい……」
「今の言葉は……冗談よね……?」
「華琳さん、信じたくない気持ちは分かりますが、残念ながらこれは事実です。この耳で確かに聞きましたから……」
「う~ん……奈々瑠さん。仮にその話が本当だとして、どうして兄様は突然そんな事を?」
「これは私の推測なんですが、兄さん、最近仕事が多忙で疲れてるからそんな事を言ったんじゃないかと……」
「なるほど。確かにそれは充分に有り得るわね。でも、その話と貴方が零治に料理を作ってあげるのがどう関わるというの?」
「えっと……私が作った料理を食べさせてあげたら、兄さんも料理を作る楽しさを思い出して、また前みたいに料理を作ってくれるんじゃないかと思って……」
「なるほど。……いいわ。協力してあげましょう」
「本当ですかっ!?」
「ええ。零治が料理を作らなくなるなんて、私達にとっても大きな損失だもの。流琉も構わないわね?」
「はいっ! 勿論ですっ!」
「二人とも……ありがとうございますっ!」
奈々瑠は大きく頭を下げて精一杯の感謝の意を二人に示す。
「ただし……」
華琳はピッと人差し指を上げて、いったん言葉を区切り奈々瑠を見据える。
「はい?」
「やるからには徹底的にやるわよ。いいわね? 私の指導は甘くはないわよ」
「はいっ! 兄さんからも厳しく指導されてましたから、むしろ望む所です!」
「ふふ。良い返事ね。ならさっそく始めましょうか」
「はい!」
「それで奈々瑠さん。話がまとまったようなのでお訊きしますけど、何を作るかは決めているんですか?」
「あ、はい。一応は」
「そう。それで、何を作るのかしら?」
「炒飯です」
「炒飯ね。分かったわ。……流琉、食材の用意を」
「はい。それでしたら、良い松坂牛がありますので、それを使いましょうか?」
「ふむ、それはいいわね」
「あ、すみませんが華琳さん、流琉さん。私が作りたい炒飯は肉は使わないんです」
「そうなんですか?」
「なら、奈々瑠。貴方はどんな炒飯を作りたいの?」
「私が作りたいのは……黄金炒飯です」
「黄金炒飯……」
「また随分と難しい物を選んだわね……」
華琳と流琉は顔をしかめる。
黄金炒飯とは具材が卵とネギだけの最もシンプルな炒飯なのだが、炒飯の中でも最も作るのが難しいとも言われているのだ。
「あえて黄金炒飯を選んだのには何か理由があるのかしら?」
「はい。……あれは、私と臥々瑠がまだ兄さん達に保護されたばかりの頃の事でした」
奈々瑠は昔を懐かしむように遠い眼をしながら華琳の質問に静かに答える。
「保護されたばかりの当時の私達は、今みたいに兄さん達にはなついていませんでしたし、信用もしていませんでした」
「そうなんですか? 今の姿からは正直想像もつきませんけど」
「奈々瑠、それには当然理由があるのよね?」
「はい。当時の私達は、昔の扱いが原因で重度の人間不信に陥っていましたから……」
「昔の扱い……一体何をされたの?」
「私達が兵器だという事は……二人とも知っていますよね?」
華琳と流琉は奈々瑠の言葉に無言で頷く。
「私達は兵器……つまり、戦うために創られた存在です。そのため、元居た世界では決して人道的な扱いを受けているとは言えなかった。……毎日毎日、戦闘訓練や実験に付き合わされ、次はこれをしろ、あれをしろなどと命令され、まるで道具のような扱いの日々が続いたんです……」
「奈々瑠さん、それだけ強いのに、その時は抵抗とかはしなかったんですか?」
「そんな事をすれば不用品として廃棄処分されるだけですから、従わざるを得なかったんです……」
「なるほど。確かに毎日そんな扱いを受けていたら、人間不信にもなるわね……」
「はい。ですから保護されてからの当時の私達は、兄さんと姉さんが話しかけてもいつも無視していました。そんな日々がしばらく続いていたんですが、ある日の事です。いつものように姉さんが話しかけている時に、兄さんが手料理を持ってきてくれたんです。兄さんはずいっと皿を突き出して、『食べろ』と、ただ一言だけ言いました」
華琳と流琉は、ただひたすら静かに奈々瑠の話に耳を傾ける。
「最初は食べる気は無かったんですが、当時の私達は保護された日から何も口にしていなかったものですから、臥々瑠が空腹に耐え切れず兄さんの料理を口にして、あまりの美味しさにあっという間に平らげてしまいました」
「ふふ。その時の光景が眼に浮かぶわね」
「はい。兄さんも眼を点にして、『一瞬で全部食いやがった』って言って唖然としていましたよ」
「それで、その時奈々瑠さんはどうしたんですか?」
「臥々瑠が、これ凄く美味しいから奈々瑠も食べなよって言うから、私も食べました。……とても美味しかったです」
「奈々瑠、もしかして零治がその時に作った料理は……」
「はい。黄金炒飯です」
「なるほど。黄金炒飯は貴方達にとって思い出の味なのね」
「はい。……兄さんは、料理を完食した私達にこう言ってくれました。『その料理を旨いと感じたのならお前達にも感情が、心がある証拠だ。つまり、そんな姿をしていても人間だ。その心でオレ達の事を見極めればいい。もしも、オレ達がお前達の事を兵器として利用しようしていると感じ取れたのなら、いつでもその牙でこの喉を噛み裂けばいい』と……」
「へぇ、零治がそんな事を。ちょっと意外ね」
「そのセリフを聞いた途端、涙が溢れてきました。こんな姿の私達をちゃんと人として扱ってくれたから。……その時に私と臥々瑠は思ったんです。この人達になら全てを捧げられる。この人達のためなら命を懸けて闘う事が出来る、と」
「あらあら。全てを捧げられるだなんて、零治と亜弥も健気な妹達を持てて幸せ者じゃないの」
「そうだといいんですが。私達が勝手にそう思い込んでるだけですから。……とまあ、こんな所でしょうか。私達の話は」
「ええ。ありがとう、奈々瑠。それから……辛い昔話をさせてしまって、ごめんなさい……」
「いえ、私は気にしてませんから。それじゃあ、そろそろ本題に移りたいのですが」
「そうね。ぼやぼやしていたら時間が無くなってしまうわ。では流琉、始めるわよ」
「はいっ! 兄様のためにも、頑張って最高の黄金炒飯を作りましょう!」
華琳と流琉の協力を得て、奈々瑠の料理作りが始まった。
「さて、奈々瑠。炒飯を作る際に一番大切な事は何か分かるかしら?」
「火力……ですよね?」
「その通り。さらに作るのが黄金炒飯となると、使う具材が少ない分調理に掛かる時間も当然短いわ。だから最初から時間との勝負よ、いいわね」
「はいっ! ……でも」
「何、どうしたの?」
「調理にはこのかまどを使うんですよね……?」
「ええ」
「私、かまどなんか使った事が無いんで、火力の調整が上手くできるか自信が……」
「奈々瑠さんの世界には、かまどは無いんですか?」
「いえ、無い訳ではないんですが、使っていた地域はごく少数でしたね」
「なら貴方の世界では、料理をするときはどうやって火をおこしていたの?」
「私達の世界にはコンロと言う道具があるんですが、それを使って火を」
「……こんろ?」
「なんなのそれ?」
聞き慣れない言葉を耳にした華琳と流琉の頭上にポンとハテナのマークが浮かび上がる。
奈々瑠は難しい顔をしながら身振り手振りを交えてコンロについて軽く説明する。
「えぇっと……どう言えばいいのかなぁ。……これぐらいの大きさの台に火を点火する所が三つぐらいあって、ガス……可燃性のある空気を台に送り込んで火を点ける道具……とでも言えばいいのでしょうか」
「へえ~、天の国にはそんな物があるの。でも、それだと火力の調整はどうやってするの?」
「コンロ本体に丸いつまみが付いていて、それを使って空気を送る量を調節して火力の調整をするんです。それとコンロには大型もあれば、外に持ち出す事もできる小型の物もあったりしますよ」
「なるほどね。今度真桜に話をして、同じような物が作れないか試してみましょう」
(あれ? なんか華琳さん、何気にとんでもない事を言っているような気が……)
「ん? どうしたの奈々瑠。私の顔に何か付いてるかしら?」
「あ、いえ、何でもないです。……それで、かまどの件なんですが……」
「あぁ、そうだったわね。……では流琉、悪いけどかまどの火力調整は貴方がやってくれるかしら?」
「わかりました。お任せください」
「すみません、流琉さん。本来は私がやるべきなのに……」
「いえ、気にしないでください。それじゃあ始めましょうか」
「はい」
「では奈々瑠、まずはそこにある鍋をかまどの上に」
「……これですね。はい」
奈々瑠は華琳が指差す大きな中華鍋を華奢な細腕でひょいっと片腕で軽々と持ち上げ、かまどの上にセットする。
その姿に華琳と流琉は唖然とした表情で奈々瑠を見つめる。
「あの……二人ともどうかしましたか?」
「いえ……その大きな鍋をよくそんな細腕で、しかも片手で持ち上げれるわね。重くないの……?」
「はい。全然」
華琳の疑問にもケロッとした表情で奈々瑠は答える。
「華琳様。奈々瑠さん、ひょっとして季衣よりも力があるんじゃ……」
「そうね。私もそんな気がしてきたわ……」
「あの~、華琳さん。次は何をすれば……」
「えっ? あ、あぁ、ごめんなさいね。……オホン。では、少量の水を零せばすぐに蒸発するくらいに鉄の鍋を熱して、その間に具材の下ごしらえをしなさい」
「はいっ!」
奈々瑠は炒飯に使う卵を器の中に割って入れ、手早くかき混ぜて溶き卵を作り上げる。
次に包丁を手に取り、ネギを手際よく刻んでいき、厨房内にトントンと小気味よい音が響く。
「へえ~、良い手つきじゃないの、奈々瑠。流石に零治の指導を受けているだけの事はあるわね」
「いえ、私なんか兄さんに比べればまだまだですよ」
「そうでしょうか? 私から見れば充分上手いと思いますけど。それだけ慣れていれば一人でも料理は出来るんじゃないんですか?」
流琉の言う通り、奈々瑠の手つきはとても手慣れたものだ。
これなら一人でも充分に料理は出来ると思えるが、奈々瑠は首を横に振り、それを否定する。
「そんな事はないです。私は料理に関してはまだまだ未熟ですよ。それに……失敗はしたくないんです。兄さんは料理の事に関してはとても厳しい人ですから」
「厳しい? どんな風に?」
「まず、料理を作ってくれた相手が女であろうが子供であろうが不味い物は、はっきり不味いと言って容赦なくバッサリと斬り捨てますし、お世辞とかは一切言わない人なんです」
「……男でそこまではっきりしてる人間は珍しいわね。大抵の男は料理を作った相手が女性なら、例えそれが不味くても世辞の一つぐらいは言うはずでしょうにね。まあ、美食家がお店で食べているんなら話は別でしょうけど」
「でも……」
「ん?」
「その反面、兄さんは出された料理がどんなに不味くても必ず完食はしてくれるんです」
「どうして不味い料理をわざわざ完食する必要があるの?」
「兄さん曰く、例え出された料理がどんなに不味くても最後まで食べなければ料理に対して、何より作ってくれた人に対して失礼だから、だそうです。あと、食べ物を粗末にするのは人として最低の行為だとも言っていましたね」
「なるほど。確かに食べ物を粗末に扱うのは人として最低な事だわね。でも、あの零治がそこまで言うなんて……料理に対して何か特別な思い入れでもあるのかしら?」
「思い入れがあるかどうかは分かりませんけど……兄さん、料理に対する冒涜行為を嫌ってる人なんですよ」
「何ですか。料理に対する冒涜行為って?」
「さっき言った食べ物を粗末にするもそうなんですけど……一番嫌っているのは、料理を一度も作った経験がない素人が周りから教えも請わずに料理をし、本来の調理法には無い余計な工夫を加える事ですね」
「何、余計な工夫って?」
「今作っている炒飯で例えるなら、本来なら使う事のない食材……トカゲの黒焼きを入れるとか」
「……そんな物を炒飯に入れる人なんて居るの……?」
「だから例えですよ、あくまで例え。ホントにそんな物を使う人が居るんなら見てみたいくらいですよ」
「……あ、奈々瑠さん。鍋の方そろそろいいみたいですよ」
「あ、はい」
「では奈々瑠、鍋に油を多めにひいて、まずは溶き卵を入れて半熟になるまで炒めなさい。ここからは速度が命よ。卵が半熟になる瞬間を見誤らないようにね」
「はいっ!」
奈々瑠は鍋の中に溶き卵を流し込み、右手にお玉、左手に鍋を手にし、溶き卵を手早くかき混ぜながら調理を開始。
「卵が半熟になったら冷やご飯を投入。かき混ぜる際にご飯を潰さないように注意するのよ」
「はい! 投入しますっ!」
続いて鍋に冷や飯を投入し、奈々瑠は大きな中華鍋を振り、お玉で冷や飯と卵を混ぜ合わせながらさらに具材を炒めていく。
「卵とご飯が均等に混ざり合ったら、そこに刻んだネギを入れて、塩で味を調える。手早くなさい」
「……華琳さん、胡椒は入れないんですか?」
「入れないけど……貴方の世界では入れてるの?」
「はい。普通に使ってますけど」
「ならば胡椒も入れなさい。それで貴方の世界の炒飯の味に近づくわけなのだから」
「はいっ!」
奈々瑠はひたすらに鍋を振るい続け、振られた鍋から中の具材が軽く宙を舞う。
その姿に華琳は感心の言葉を漏らす。
「大したものね。指示通りに動いているだけとはいえ、この手際。見事だわ」
「華琳様……」
「ん? どうしたの、流琉」
「あれ見てください。奈々瑠さんの尻尾が……」
「尻尾?」
「ふ~ん♪ ふふ~ん♪ ふふんふ~ん♪」
奈々瑠の後姿に視線をやれば、鼻歌交じりに奈々瑠は楽しそうに鍋を振るい、それに応じるようにふさふさの毛並みの尻尾がフリフリと左右に揺れ動いていた。
「……尻尾を振っているわね」
「ひょっとして楽しいからなんでしょうか……?」
「まるで犬みたいね……」
「あのぉ、華琳さん。次の指示は……?」
「えっ? あぁ、ごめんなさい。……味が馴染んだようならここからは一気に仕上げよ。まずは醤油を鍋肌にかけ回しながら入れる。ただし色は付けない。あくまで香りづけだから入れすぎなように」
「はいっ!」
「次にご飯と卵がふわっと仕上がるようにお酒を入れる。これも入れすぎない事」
「はいっ!」
「後は鍋を振る! 振る! 振る!」
「振る! 振る! 振る!」
奈々瑠は力強く、しかし中の具材がこぼれないよう丁寧に鍋を振るう。
「振る! 振る! 振る!」
「振る! 振る! ふ……あっ! 華琳さん、ご飯がパラパラになってきました!」
「よし! 火の通り具合は米の色を見なさい! 透けているようなら、しっかりと米に火が通ったという事よ!」
「……大丈夫です! ちゃんと透けています!」
「ならば完成よ! すぐにお皿に盛りなさい!」
「お皿はこっちに準備してあります! 奈々瑠さん、ここにどうぞ!」
「はいっ!」
奈々瑠は大きな中華鍋を片手に持ち上げ、中の炒飯を零さないようにお玉ですくい取り丁寧にお皿に盛りつけていく。そして……。
「で……できたあぁぁーーーっ♪」
お皿の上に綺麗に盛り付けられ、黄金炒飯が出来上がる。
奈々瑠は歓喜の声を上げながら、グッとガッツポーズを取る。
「ふむ。見た目は完璧ね。でも奈々瑠、そこで満足してはダメよ」
「あっ! そ、そうでした。見た目も確かに大事ですが、一番大事なのは味ですよね……」
「こだわりの食材に、私と流琉の補佐を受けて作った炒飯よ。味に間違いはないはずよ」
「あの~、華琳さん、流琉さん。すみませんけど……」
「分かっています。味見をしてほしいんですよね?」
「まあ、ここまで来たんですもの。ちゃんと最後まで協力してあげるから、安心なさい」
「はい。では……お願いします」
「ふむ、どれどれ。……はむ」
「……あむ」
華琳と流琉は奈々瑠の作った黄金炒飯をレンゲですくい取り、口の中に運び、味見をする。
奈々瑠はそれを不安げな表情で、両手を胸の前で握りしめながら祈るように見守る。
「どきどき……」
「……奈々瑠」
「は、はいっ!」
静かに口を開いた華琳に対し、奈々瑠はビクリと肩を震わせながら上ずった声で返事をする。
「私と流琉の補佐があったとはいえ、よく頑張ったわね。この炒飯、とても美味しいわよ。そうよね、流琉」
「はい。これなら兄様もきっと喜んでくれますよ!」
「ほ、本当ですかっ!?」
「私達は料理の事で嘘や世辞は言ったりしないわよ。そんなに不安なら貴方も食べてみなさい」
「はい。では……あむ」
「どう?」
「……お、美味しい」
「これで納得した?」
「はい! あの、二人とも……ありがとうございました! 何とお礼を言えばいいのか……」
「はいはい。お礼は後で構わないから、早くそれを零治の所に持って行ってあげなさい。時間も夕飯の頃合いだから、ちょうどいいはずよ」
「はいっ!」
「あ、奈々瑠さん。持って行くんなら、この蓋も使ってください。持って行く間に冷めちゃうといけませんから」
「はい。ありがとうございます」
奈々瑠は流琉から受け取った皿蓋を炒飯が盛られた皿の上にかぶせ、それを手に取り零治の自室まで足を運んでいく。
「奈々瑠、慌てて転ばないように注意しなさいよ」
「はーいっ!」
背を向けたまま奈々瑠は返事をし、走り去っていくその姿はあっという間に見えなくなった。
「奈々瑠さん、すごく楽しそうでしたね」
「ええ。彼女があんなに楽しそうにした姿を見たのは初めてだわ。……流琉、せっかくだし、私達も今日の夕飯は黄金炒飯にしましょうか」
「はい。では、すぐに取り掛かりますね」
………
……
…
場所は変わってここは零治が使用している自室。
部屋の主である零治は何をするのでもなく、気怠そうにベッドの上で仰向けに寝転がりながら無意味な時間を過ごしている。
「あー、もう夜か。晩飯どうするかなぁ。また街に出かけて……しかしそれはそれで面倒だよなぁ。かと言って自分で作る気にはなれねぇし……誰かに作ってもらうか。しかし誰に頼もうか……」
しばしの間、無言で天井を見つめながら零治は考える。
やがて考えがまとまったのか、零治は上体を起こすが、彼の口から出てきた答えは全く違うものだった。
「いや、いっそ今日はもうこのまま寝るか。人間、一日飯を抜いたぐらいじゃ死にやしねぇんだ。そうだな、そうしよう」
人として物凄くダメな事を言いながら零治は一人うんうんと頷いて納得し、ロウソクの明かりを吹き消して、ベッドにゴロンと仰向けに寝転がり、布団にくるまる。
しかしその時、部屋の扉がコンコンとノックされたので、零治は気怠そうにムクリと起き上がり、ライターを使って再度ロウソクに火を点けて部屋に明かりを灯す。
「兄さん、居ますか?」
「ん? その声は奈々瑠か。開いてるぞ。入れよ」
「失礼します……って、兄さん何をしてるんですか……?」
「いやぁ、今から寝ようかと思ってな」
「……いくらなんでも早すぎませんか……? それに夕飯は食べたんですか?」
「いや、もう飯を食うのもメンドくせぇからこのまま寝ちまおうかと……」
(はぁ……。これは重傷だわ……)
「所で奈々瑠、その皿は一体なんだ?」
「やっと気付いてくれましたか。兄さん、そこの椅子に座ってください」
奈々瑠は呆れたように嘆息し、零治が普段仕事時に使用している机を指差す。
しかし零治はベッドから降りたくないのか、物凄く嫌そうな顔になる。
「いや、だからオレは……」
「いいから座ってください」
「…………」
「早く!」
「わ、分かった。分かったからそんなに怒鳴るなよ……」
奈々瑠が珍しく大声で怒鳴るので、零治は諦めたようにノロノロとベッドから降りて椅子に座る。
「にしても、今日のお前はやけに強引だな」
「こんな姿の兄さんを見れば強引にもなりますよ。……はい、これをどうぞ」
奈々瑠は机の上に皿を置いて皿蓋を外し、皿の上に盛りつけられた黄金炒飯から湯気が立ち上り、食欲をそそられる美味しそうな香りが部屋に広がる。
「これは……黄金炒飯じゃないか」
「兄さん、ちゃんと朝昼晩と食事をとらないと翌日に響きますよ。今日の夕飯はこれを食べてください」
「あ、あぁ。ありがとな。……所で、この炒飯はお前が?」
「はい。お口に合うかは分かりませんが……」
「なら、冷める前に頂くとするか。……あむ」
「…………」
零治は目の前に置かれてる炒飯をレンゲで掬い取り、口に運んで味を噛み締める。
その姿を奈々瑠は無言で見守る。
「…………」
(ど、どうなんだろ……? 私も味見はしたし、作り方も間違ってなかったから大丈夫だと思うんだけど……兄さん、さっきから黙ったまま食べてるから不安だなぁ……)
零治は終始無言のまま一口、また一口と炒飯を口に運ぶが、その姿が奈々瑠の不安を煽ったようで、奈々瑠の表情が曇る。
やがて零治は半分ぐらい炒飯を食べ、レンゲを皿に置き、静かに口を開く。
「奈々瑠……」
「は、はい……っ!」
「上手に作れてるじゃないか、この炒飯。とても旨いぜ」
「ほ、本当ですかっ!?」
「ああ。オレが料理の事でお世辞を一切言わないのは知ってるだろう」
(や、やった……。やったぁっ! 兄さんが喜んでくれた!)
奈々瑠の表情がパァッと輝き、心の中でガッツポーズをする。
「だが、これはお前一人で作ったんじゃないよな?」
「あ、はい。作ったのは私ですけど、華琳さんと流琉さんに指導してもらいながら作りました」
「だろうと思ったよ。だが、それは正しい選択だ、奈々瑠。そういう意味合いでも、この炒飯は合格点を与えられるな」
「別に合格点が欲しくて作った訳じゃないんですが……」
「ん? なんか言ったか?」
「いえ、別に何も」
「そうか。……しかし、なんだってまた突然料理なんかしようと思ったんだ?」
「兄さん、昼間街に出かける時、私に言った事を憶えていますか?」
「あん? オレなんか言ったっけか?」
零治は一体何の事かと首を傾げる。
その姿に奈々瑠は額に手を当てながらまたしても呆れたように溜息を吐く。
「はぁ……本当に憶えていないようですね……」
「何だよ。そんなに呆れるような事なのか……?」
「兄さん。昼間私にこう言ったじゃないですか。『料理を作るのが面倒だ』と……」
「あ、あぁ。そういえばそんな事を言ったな。だがオレだって四六時中料理をしている訳じゃないぞ。面倒だって思う時もあるさ」
「それはそうですけど、兄さんはなんだかんだで口では面倒だなんて言いながらも私達に手料理を作ってくれてたじゃないですか。それに、食事はやはり自分の手料理が一番だとも言っていました。なのに、兄さんの口から料理を作るのが面倒だなんてセリフが出てくるなんて……兄さん、料理を作る楽しさを忘れてしまったんですか?」
「…………」
「それに……」
「ん?」
「私に料理を作る楽しさを教えてくれたのは兄さんじゃないですか。もし兄さんが料理をしなくなったら、私はこの先、誰から料理を学べばいいんですか……?」
「おいおい。オレは二度と料理をしないとは言った憶えはないぞ。それに仮にそうなってもここには優秀な教師が他にも……」
「私は兄さんに教わりたいんですっ!」
「っ!?」
奈々瑠は涙眼で声を張り上げ、零治の言葉を遮る。
「他の人から教わるなんて私は嫌です! 私はもっと兄さんから色々な事を学びたいんです! だから……そんな悲しい事、言わないでください……っ!」
零治の口から告げられた無神経とも言える言葉が余程ショックだったようで、奈々瑠の赤い瞳からぽろぽろと涙があふれ出る。
(やれやれ。大事な妹を泣かすなんて、兄として失格だな)
零治は気まずそうに俯きながら頭を掻き、視線を奈々瑠に戻す。
「分かった分かった。さっきの言葉は取り消すから、泣かないでくれよ。これからはちゃんと飯も食うし、面倒でも自分で料理をするからよ」
「……本当ですか?」
「ああ」
「本当に本当ですか?」
「本当に本当だ」
「なら……これからも私に料理を教えてくれますか?」
「ああ。お前にその気があるんならいつでも教えてやるよ」
(……よかった。いつもの兄さんに戻ってくれた)
奈々瑠の当初の目的は無事に果たされたようなので、奈々瑠は眼をごしごしと擦り、安堵の笑みを浮かべる。
「ん? 何を笑ってるんだ?」
「いえ、何でもないです。ほらほら、それよりも早く私が作った炒飯を食べてください。冷めちゃいますよ?」
「ん? あ、あぁ。……あぐあぐ」
奈々瑠に急かされた零治は皿を手に取り、残りの炒飯をかきこむように一気に食べ始める。
「がつがつがつ。……ふぅ、ごちそうさまでした」
「はい。お粗末さまでした」
奈々瑠は持ってきた皿を片付け、零治に軽く会釈をしてその場を足し去ろうとするが、零治がその前に奈々瑠を呼び止める。
「奈々瑠」
「はい。何ですか?」
「ちょっとこっちへ」
「はい?」
「いいから」
「はあ……」
零治がちょいちょいと手招きをするので、奈々瑠は首を傾げながらも零治の下に歩み寄る。
「奈々瑠……」
「わっ!? に、兄さん!?」
零治は奈々瑠の頭に手を優しく乗せ、わしゃわしゃと乱暴に撫でまわす。
「奈々瑠、ありがとな。またお前の料理、食わせてくれよ」
「もう、兄さん。撫でるんならもう少し優しくしてくださいよ……」
「ははは。悪い悪い」
「じゃあ、今度こそ行きますよ」
「ああ」
「それじゃあ、失礼しました」
奈々瑠は扉の前で一旦振り返って零治に礼をし、零治の部屋を後にした。
「ふ~ん♪ ふふんふ~ん♪」
とても上機嫌な奈々瑠は鼻歌を歌いながら皿を片付けるために厨房まで足を運ぶ。
「兄さん、いつも通りに戻ってくれたし、料理の事も褒めてくれたし、とっても嬉しい♪」
「奈々瑠」
「ん? あぁ、臥々瑠。アンタいつ帰ってきたの?」
「ついさっきだけど……奈々瑠、いま兄さんの部屋から出てきたよね。何してたのさ?」
「別に大した事じゃないわよ……」
「ふ~ん。じゃあ、その手に持ってる皿はなんなの?」
「ふふ~ん。内緒♪」
「えー? いいじゃんかぁ、教えてくれてもぉ」
「ダーメ。いくらアンタでもこればっかりは教えてあげないわよ。私はこの皿を片付けなきゃいけないから、もう行くわよ。じゃあね」
奈々瑠は詰め寄って追求してくる臥々瑠を適当にあしらい、普段と変わらぬ様子でその場を立ち去る。
臥々瑠はその後姿を顎に手を当てながら疑惑たっぷりの視線で見つめる。
「怪しい。絶対に怪しい……。こうなったら……」
臥々瑠はギラリと零治の自室の扉に視線を走らせ、タタタと廊下を一直線に走り、バンと勢いよく部屋の扉を開く。
「兄さんっ!」
「な、何だぁ!?」
突然部屋の扉がノックもされずに勢いよく開けられたので、零治は思わず身構える。
そんな様子の零治をよそに臥々瑠はドドドと激しい足音を立てながら零治に詰め寄る。
「兄さん、さっきここに奈々瑠が来たよね!? 奈々瑠の奴、何しにここへ来たの!?」
「……臥々瑠、人の部屋を訪ねる時はまずノックをしろと何度も……」
「そんな事はどうでもいいのっ!」
「いや、良くはないだろ……」
「それよりも教えて! 奈々瑠は何の用でここに来たの! 奈々瑠にも訊いたけどなんにも教えてくれないんだよ!」
「はぁ……ったく。別に大した事じゃねぇよ。オレに手料理を持ってきてくれただけだよ」
「……へっ? ご飯を?」
零治の答えに臥々瑠は首を傾げながらキョトンとする。
「ああ」
「それだけ?」
「ああ。それだけだ」
「…………」
「まだ何かあるのか?」
「あ、ううん。別に」
「あっそ……」
「う~ん。ご飯を持ってきただけなのに、何で隠したりするんだろ?」
臥々瑠はまたしても顎に手を当てながらブツブツと独り言を言いながら深く考え込む。
「おい、臥々瑠。用は済んだんじゃないのか?」
「あ、そうだった。騒いだりしてごめんなさい。じゃあね~」
臥々瑠はドタバタと賑やかな足音を立てながら零治の部屋を立ち去って行く。
「おい臥々瑠、部屋の戸ぐらい閉めて……あぁ、行っちまいやがった。ったく……」
零治は仕方なく自分で部屋の戸を閉めようと扉に手を掛ける。
「……ん? あれ? 閉まらねぇぞ?」
零治は扉を閉めようと押してみるが、扉は全く動かない。
不審に思った零治は扉の蝶番に眼を向ける。
「……蝶番が歪んでやがる。どんだけ勢いよく開けてるんだよ、アイツは……。はぁ……真桜に直してもらうか……」
零治は溜息を一つ吐き、扉の修理を頼むため真桜の部屋まで足を運んで行った。
「う~ん。兄さん、嘘を言ってるようには見えなかったしなぁ。じゃあ何で奈々瑠はあんなに上機嫌だったんだろう? う~ん……」
腕を組み、ブツブツと一人ごちながら臥々瑠は廊下を歩いていく。
いつになく真剣な表情で考え込みながら臥々瑠は自室に戻る間も奈々瑠の様子の事を考えるが、彼女の考えがまとまる事はなかった。
作者「女の子に手料理を作ってもらうとか……羨ましい限りだねぇ……」
零治「クリスマスの時といい、今回といい……また僻みかよ……」
亜弥「そんなに羨ましいんなら、貴方も誰かいい人を見つけなさいよ」
作者「フッ。悪いがオレはもう悟りを開いてるんでな。男は女が居なくたって生きていけるんだよ」
奈々瑠「なら僻む理由なんか無いのでは? ……それにしても、何で思い出の料理が炒飯なんですか?」
作者「それは恋姫の世界で作れる物じゃないといけないのと、何よりオレの好物だから」
臥々瑠「卵とネギだけしか入ってない炒飯がそんなに好きなの……?」
作者「おいおい。黄金炒飯をバカにするなよ。世の中にはシンプルイズベストって言葉があってだなぁ……」
零治「はいはい。炒飯談義はそこまでにしとけ。……でだ、今回の話、タイトルに『奈々瑠編』と書いてたが、もしかして次は……」
作者「ああ。次はお前がメインだぞ。犬耳妹」
臥々瑠「ほえ? アタシ?」
亜弥「しかも料理奮闘記って、臥々瑠は料理が出来るようなキャラなんですか?」
奈々瑠「どっちかと言うと、食べる専門でしょ?」
作者「まあ、そこはちゃんと考えてあるから、楽しみにしとけ」
零治「おいおい。原作みたく、怪しげなキノコが入った炒飯とか、威力抜群の杏仁豆腐とかは勘弁してくれよ……」




