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第34話 官渡の戦い

袁一族、退場のお知らせ。

この話はまさにこの一言に尽きますね。

華琳が劉備達に領地の通行を許可したその日の夜、予想通り袁紹の軍勢が追撃に来たが、桂花の立てた作戦により華琳達はこれを難なく撃退。

その後、劉備達の案内役を命じられていた霞と稟も帰還し、袁紹達と本格的に事を構える計画が進められる事となる。その日の朝議の内容は、まさにその事が主だったのだが、計画は思わぬ形で変更する事となる。



「……敵軍が集結している?」



秋蘭からの報告を受け、華琳は半信半疑の表情で確認しなおすが、帰ってくる答えはやはり同じもの。



「はい。どうも袁紹と袁術の両軍が、官渡に兵を集中させているようです」


「……袁紹と袁術が考え無しで行動しているのは反董卓連合の時から理解しているつもりだったが……どうも認識が甘かったようだな」


「ですね。この状況で兵をまとめても、何の意味もありませんのに……」


「兵力は単純に倍になりますけど、指揮系統が整っていないと、ただ人が増えるだけになりますからねー」


「上手く連携が取れなかった場合、互いの足を引っ張り合って、むしろ味方の不利になる事の方が多い……と言うより、あの二人なら確実にそうなるわね」



桂花と風が、零治と亜弥の言葉に同意の意を表す。



「けれど、二面作戦を取らなくて良い分、少しだけ楽になったわね」


「……んーと」



華琳の言葉の意味が今一つ理解できていない季衣はしきりに首を捻りながら唸る。



「あはは、分かっていない顔だね、季衣」


「うん。……うー……どういう意味ですか、春蘭様ぁ」


(おい、季衣。訊く相手を間違っていないか……?)


「うむ。二面作戦を取らなくて良くなった分、こちらにとっては楽になったという事だ」


「……どう楽になったの?」


「そ、それは……おい音無! その辺についてちょっと説明してやれ!」



華琳に訊かれ、どう答えたものかと慌てふためく春蘭はとっさに零治に話を振る。



「オレがかよ」


「お前がだ!」


「ったく……最初の作戦だと、季衣と流琉は別々に行動する予定だっただろ? だが、今回は敵が一つにまとまってるから、季衣と流琉は一緒に戦えるようになったって事だ」


「あー。そういう事なんだー」


「それとは逆に、敵は仲の悪い奴が共同で戦う事になるから、連携が取れない分、状況がこちらに有利になったという事さ」


「仲が悪いって季衣と張飛さんみたいにですか?」


「おぉ、いい例えだな、流琉。まあ、そういう事だな。どうせ一緒に戦うなら、張飛より流琉の方がやりやすいだろ?」


「あんなちびっこと流琉を一緒にしないでよ。でも兄ちゃんの説明、すっごく分かりやすかった」


「お、お前……」


「なんだその眼は。……まさかオレを同類だと思っていたのか?」


「春蘭、零治はこう見えて結構頭はいいんですよ。それに、戦場で踏んできた場数も貴方より上ですからね」


(こう見えて……? 微妙にフォローになってない気がするんだが……)


「亜弥の言う通りよ。……春蘭も少しは零治を見習いなさい」


「……は、はぁい」


「そんな事より、オレが春蘭に同列視されていたのが非常に不快なのだが……」


「はいはい、そんなに拗ねないの。……ともかく、兵を集結させて戦えるというのなら、こちらに負ける要素は何もないわ。ただ、警戒すべきは……」


「……袁術の客将の孫策の一党かと」



秋蘭の言葉に首脳陣達は息を飲む。

孫策個人の強さは勿論の事、その兵法も見事なものである事は反董卓連合時に証明されており、この場に居る者全員がその事を理解していた。



「そういう事ね。だから袁術の主力には春蘭、貴方に当たってもらうわ。第二陣の全権を任せるから、孫策が出てきたら貴方の判断で行動なさい。零治、季衣、流琉は春蘭の補佐に回って」


「御意!」


「はいっ!」


「わかりました!」


(オレが春蘭の補佐かよ。これなら単身で敵軍を殲滅する方がまだ楽な気がするぜ……)


「どうしたの、零治。何か不満でもあるのかしら?」


「いや、何でもない……」


「そう。……では、袁紹に相対する第一陣は霞が務めないさい。補佐で欲しい子は居る?」


「それなら、凪達三人がええなぁ。零治、貸してくれへん?」


「ん? まあ、三人が承諾するなら別に構わんが、問題ないか? 華琳」


「問題ないわ。では亜弥は、秋蘭と一緒に本陣に詰めてもらうとして、奈々瑠達はどうしようかしら?」


「でしたら華琳、彼女達も第一陣に回してください。例の秘密兵器ですが、二機建造させてますので、人出は多い方が良いでしょう」


「そうなの。……そういう訳だけど、二人ともそれで構わないかしら?」


「大丈夫です」


「問題な~し」


「……なんや秘密兵器って? どんな兵器なん?」


「秘密兵器は秘密兵器よ。それと霞達にはこの秘密兵器の講義を受けてもらうわよ。真桜が一緒だからちょうど良いわ」


「うーん……あんまり面倒なのは勘弁して欲しいんやけどなぁ……」



桂花から講義と言う単語を聞かされ、霞は苦虫を噛み潰したような顔をする。



「そう言わないで。……その秘密兵器の運用と護衛を第一陣に任せましょう。敵部隊には第二陣の春蘭が当たりなさい」


「ええーっ! なんでやねんっ!」


「はっ! ……ふふっ、すまんな霞。華琳様の命令ではどうしようもない」


「うわー……貧乏くじ引いたぁ~……」



霞はこの世の終わりでも告げられたかのように頭を抱えながらガックリと項垂れる。

霞も春蘭同様に根っからの武人なため、戦いに対する衝動が抑えられないのだろうから気持ちは理解できなくもないが、正直この反応は大袈裟と言えなくもない。



「袁術は作戦立案には顔を出さないはずだから、相手の指揮は恐らく袁紹が中心となるでしょう。桂花は袁紹の行動を予測して、基本戦略を立てなさい」


「御意!」


「稟と風は桂花を補佐し、予想が外れた時の対処が即座に出来るように戦術を詰めること」


「分かったのですー」


「了解です」


「他の皆も戦の準備を整えなさい。相手はどうしようもない馬鹿だけれど、河北四州を治める袁一族よ。負ける相手ではないけれど、油断して勝てる相手でもないわ。……これより我らは、大陸の全てを手に入れる! 皆、その初めの一歩を勝利で飾りなさい。いいわね!」



華琳の力強い号令と共に、全員が慌ただしく動き出し、戦の準備に取り掛かる。

今この瞬間より、華琳と袁一族連合との戦いの火蓋が切って落とされた。


………


……



一度方針が決まってしまえば、出撃までの時間などあっという間に経つもの。

二部隊分の準備がまとめてで良くなった分、出撃までの時間はさほど取られはしなかった。



「ところで、真桜」


「なんや? 姉さん」


「例の兵器ですが、ちゃんと組み立て式には……」


「言われた通りやっちゅうで。まあ、作り直すのは正直面倒やったけど……」


「まったく……初めから私の言った通りに作っていればあんな事にはならなかったんですよ? これに懲りたなら、これからは独断で勝手な事をするのは慎むんですね」


「へ~い……」


「真桜。そろそろ官渡よ。例のアレの準備を始めてちょうだい」


「ほいよ。じゃ、ちゃっちゃと組み立ててまうわ」



桂花の指示に従い、真桜は数人の兵と共に例の秘密兵器の組み上げ作業に取り掛かる。

組み上げられていくソレは、最初は基部に車輪が付いてるだけの櫓にしか見えなかったが、その上に巨大な回転軸とてこが取り付けられていく。秘密兵器の正体は投石機だったのだ。


………


……



「おーっほっほっほ! おーっほっほっほ!」



場所は変わってこちらは袁一族連合軍の本陣。

袁紹は反董卓連合時に見せた、上体を軽く後ろに反らし、右手を顎の下に添え、左手は腰に当てながら高笑いという成金などがよくやっている実にありきたりな笑い方を巨大な櫓の上で披露していた。



「うわ、何すか麗羽様このお立ち台」


「おーっほっほっほ! 素晴らしいでしょう。これだけ大きな櫓があれば、わたくしの威光もより遠くまで届くのですわ! おーっほっほっほ!」


「……どこにこんな資材があったんですか」


「違うよ、文ちゃん。これ、本当は弓兵を昇らせるために作ったの」


「弓兵……? ああ、なるほどな。矢を射るんなら、高い所からの方が有利だもんな」


「そういう事ですわ! おーっほっほっほ!」


「本音は?」


「あのこまっしゃくれたクルクル小娘を、上から見下ろしてやるんですわ!」


「……そんな事だろうと思った」



袁紹のあまりにも下らない本心に、文醜は呆れながらぼそりと呟く。

その呟きが聞こえたのか、袁紹はギロッと文醜を睨み付ける。



「何かおっしゃいまして! 小声だとここからじゃ聞こえませんの!」


「特に何も言ってませーん!」


「それより麗羽様ー! そこから曹操さん達の様子、見えませんかー?」


「しっかりはっきり見えますわよ! ウチや美羽さんの所に比べて……多くありませんわねぇ。この人数なら、勝ったも同然ですわ! おーっほっほっほ!」


「じゃあ、何人くらい居そうですかー? あと、陣形はどんな感じですかー?」


「沢山ですわー! 何だかばーっと並んでますわよー!」



顔良の問いに袁紹は物凄くアバウトな答えを返す。これで判断をしろなど無理な話である。



「……斗詩。悪い事は言わないから、その辺の兵士を昇らせな」


「……うん。そうするよ。はぁ……」


………


……



官渡に辿り着いた華琳達が見た物は、辺りを埋め尽くす袁一族の連合軍、そして弓兵用に作られた巨大な櫓の列だった。



「あの櫓は厄介ね。あそこから陣形を読まれたり、矢を射かけられたりしては堪らないわ」


「大丈夫です。この時のための秘密兵器ですから。真桜、用意は出来ているわね?」


「完璧や! まかしとき!」


「……華琳様、袁紹が出てきました。あの櫓も一緒です」


「……動くの!? あの櫓は」


「なんて無駄な所に手間をかけてるんですかねぇ……」



亜弥は呆れたように呟く。

本来の三国志の時代にはまだ存在していないが、移動式の櫓自体は実在しているので、その機能そのものは決して無駄ではないのだが、袁紹は完全に使い所を間違えているのだ。

歴史上の戦いで使用された移動式の櫓は攻城塔、または攻城櫓と言う名で存在しており、それは読んで字の如く攻城戦で使用する物だ。

だがここは果てしない荒野が続くだけの平原であり、目の前に攻略すべき城があるわけでもない。

更に言えば櫓自体を移動させるにしても人力である上、それなりの人数の人員を動員しなければ素早く移動させる事も出来ないし、ましてや互いの軍勢がぶつかり合う乱戦の最中にそんな事など出来る訳が無い。

そういった点から袁紹の行為は完全に無駄なのだ。



「……まあいいわ。行ってくるから、準備をしておきなさい。いつでも攻められるようにしておいてね」


「御意!」



華琳は袁紹と舌戦をするべく、袁紹の所まで足を運んでいく。


………


……



「おーっほっほっほ! おーっほっほっほ!」



袁紹の所まで足を運べば、袁紹本人は移動式の櫓の上から華琳を見下ろし、例の高笑いをしながら華琳を出迎える。

その姿が癇に障ったのか、華琳の米神に血管が浮かび上がり、ピクピクと痙攣を起こす。



「…………なんか腹が立つわね」


「既に勝ったも同然ですわ! おーっほっほっほ! 華琳さん、高い所から失礼いたしますわよ、おーっほっほっほ!」


「笑うだけしか能が無いのかしら? 随分と毛並みも悪くなっているようだし、もう年ではなくて?」


「なぁんですってぇ! 誰が眼尻に小じわの目立ってきたオバハンですってぇ!」


「……流石にそこまでは言っていないわよ」


「だまらっしゃい! たかが宦官の孫の分際で生意気ですわよ!」


「その宦官の孫の千ちょっとの手勢に、こないだいいようにされたのはどこのどなただったかしら?」


「……へ?」


「あら。気付いていなかったの? それは失礼。名門袁家の一族の眼は、家柄と家名しか見えない節穴だったのを忘れていたわ」


「な……な……な、な、なななな……っ!」



華琳のその一言に袁紹はわなわなと身体を震わせ、顔にも朱がさす。



「良いですわ! ここで貴方を叩き潰して、この櫓の上からそのクルクル髪を吊るしてあげますわ! もうクルクルには戻らないでしょうね! おーっほっほっほ!」


「残念。その前に貴方を打倒して、河北四州と袁術の領土、丸ごと頂く事にするわ。だから……そんな光景が見られるのは、貴方の歪んだ妄想の中だけになるでしょうね」


「本性を現しましたわね、性悪小娘さん! でも残念ながら、この大陸に覇を唱えるのはこのわたくし、袁本初ですわっ!」


「……本性を現したのはどちらだか。まあ良いわ。さっさと南皮を明け渡しなさいな」


「その言葉、そっくりお返ししますわ! 猪々子さん、斗詩さん! 櫓を用意! 弓兵に一斉射撃をお命じなさいっ!」


「あら、残念。撃ち方なら、こちらの方が……」



華琳はそこでいったん言葉を区切る。

それからすぐに、ひゅうぅぅんと、巨大な何かが落下するような音が聞こえる。そして次の瞬間……。



「…………へ?」



どごーんと、地面を揺るがすような轟音が鳴り響き、何事かと袁紹はポカンとした表情で音がした方向に視線を向ける。その視線の先にあるのは木っ端微塵に破壊された袁紹軍の櫓の一つ。

櫓の残骸の中央には破壊の原因である巨大な石の塊があった。



「……少し早かったようね?」


「おーっ! 流石ウチの最高傑作や! よう飛ぶなぁ!」



華琳が居る位置から少し離れた場所で投石機が櫓を破壊したのを確認した真桜は満足げに頷きながら、グッとガッツポーズを取る。



「真桜。投石機の次弾装填、終わったぞ!」


「よっしゃ! 沙和、照準はどないや!」


「距離良し! 方向良し! 目標、次の櫓に合ってるの!」


「ほんなら、もういっちょ、撃てーーぃっ!」



真桜の合図と共に投石機から石が発射され、袁紹軍の櫓に向かって一直線に石は落下。

再び櫓は木っ端微塵に破壊された。



「命中や! これで半分くらい潰せたな。あと半分、気合入れて行きぃ!」


「ちょっと、姐さんも手伝うてぇな。この石、結構重いねんて!」


「えー。ウチ、箸より重い物持った事あらへんもーん。当たったかどうか見るから、な?」


「…………」


「ほら、凪を見てみぃ! 黙々と働いて……ええ子やなぁ。後でアメちゃん買うたるさかいな」


「……出来れば、ご飯の方が」


「うー。真桜ちゃーん、この石、重いのー!」


「ねえ、二人とも。そんなに重いんなら石を運ぶのアタシが代わりにやろうかー?」



いつの間にか凪達が受け持ってる投石機の所までやって来た臥々瑠が両手を頭の後ろに組みながらのんびりとした口調で話しかけてくる。



「あれ? 臥々瑠ちゃん。奈々瑠ちゃんと一緒に向こうの投石機を使ってたんじゃないのー?」


「んー? 向こうは一人で大丈夫だから、こっちを手伝えだってさぁ。……はいはい、真桜に沙和。石はアタシに任せて、射撃の方はよろしくねー♪」



マイペースの臥々瑠は石の前で悪戦苦闘している二人の間に割って入り、両手でがっしりと射撃用の石を掴む。



「いや、よろしくって……いくら臥々瑠でもその石を一人で持つのは……」



真桜が無理やろと言おうとしたが、その前に臥々瑠がひょいっと石を軽々と頭上に掲げるように持ち上げる。



「うん? なんか言った?」



普段となんら変わらぬ様子で話す臥々瑠の姿に凪達四人は絶句する。



「みんなどうしたの? ハトが豆鉄砲を喰らったような顔をして」


「いや、別になんも……。じゃあ臥々瑠……石を運ぶのは任せてもええか……?」


「はいは~い。お任せあれ~♪」



臥々瑠は石の重さを感じさせぬ軽快な足取りで投石機まで石を運び、それを発射台の上に乗せる。



「装填完了。発射いつでもどうぞ~♪」


「お、おう……あ、ありがとうな……」


「姐さん、奈々瑠が使ってる投石機の様子は……?」


「あれ見てみぃ……」



霞はすぐ横でもう一機の投石機を使用している奈々瑠を指さす。



「はい。装填完了。次は照準……距離、方角……共に問題なし……発射っ!」



奈々瑠は一人で石を運び、投石機に次弾装填し、照準合わせから発射まで一人でテキパキとこなし、次々と袁紹軍の櫓を破壊していく。



「凄いな。本当に一人で全部こなしているぞ……」


「びっくりなのー……」


「妹も充分凄いけど、姉の方も凄いんやな……」


「ねえみんな~。何をボーっとしてるのさぁ。早く撃ちなよ~。アタシ今、物凄く暇なんですけど~」


「あ……あぁ、悪かったな。……うし、照準合わせぇ! 向こうの一番奥の櫓、あれにするで!」


「照準、合わせたの!」


「なら、撃てーーーーっ!」


「ちょっと、ウチの台詞ーー!」



霞の合図と共に石が発射され、またもや櫓が木っ端微塵に破壊される。



「…………えーと」



自軍の櫓が次々と破壊されていき、袁紹は言葉を完全に失ってしまう。



「残念。自慢の櫓は役立たずのようね」


「あ、あんなの卑怯ですわっ! あんな遠くからでっかい岩を飛ばすなんて、どんな妖術を使ったんですの!」


「そんなものは使っていないわ。ただ、貴方達の所よりも少しだけ賢い子達が居ただけの事よ」


「くぅぅ……っ! なら、この決着は正面から着けさせていただきますわ!」


「はいはい。……ほら、そう言っている間に、櫓は全部使えなくなってしまったわよ?」


「むぅぅぅぅっ! 後で泣かしてあげますから、覚えてらっしゃい!」


「ふんっ、それが自分にならないようにね」



袁紹の捨て台詞に華琳は軽く鼻を鳴らし、満足げな表情でクルリと踵を返して本陣まで帰って行った。



「お疲れ様でした、華琳様」


「桂花、後で零治、亜弥、真桜の三人に褒美を与えておくように。あの投石機は大したものだわ」


「……神威はともかく、別に音無には褒美は与えなくても良いのでは?」


「桂花、あの投石機は亜弥だけじゃなく、零治の助言もあったおかげで出来たのよ。いいわね。ちゃんと零治にも褒美を与えておくように」


「承知いたしました……」



桂花の本音としては絶対に零治のは褒美をあげたくはないのだろうが、華琳にこうも言われては従わない訳にはいかない。桂花はしぶしぶ了承する。



「皆、これからが本番よ! 向こうの数は圧倒的。けれど、向こうは連携も取れない。黄巾と同じ烏合の衆よ! 血と涙に彩られたあの訓練を思い出しなさい! あの団結、あの連携をもってすれば、この程度の相手に負ける理由など有りはしない! それが大言壮語ではない事をこの私が保証してあげましょう!」



華琳の鼓舞により兵達の士気は最高潮にまで達し、兵士達は各々が持つ武器を天に掲げ声高らかに雄叫びを上げる。



「総員、突撃!」



秋蘭の合図と同時に華琳の軍勢は袁一族連合軍を目掛けて一斉に突撃を開始。同じく袁紹率いる連合軍も砂塵を舞い上げながら突撃を開始。たちまち官渡は乱戦の場と化す。

一人、また一人と双方の軍の兵士達がその命を戦場に散らしていく。しかし、袁紹率いる連合軍は予想通り黄巾の時と同様連携が全くと言っていいほど取れていないため、戦況は次第に華琳側の優勢へと傾き始めていったので、袁一族の連合軍が敗北するのも時間の問題でしかなかった。



「あああっ! 猪々子さんと斗詩さんは何をやっていますの! 早く本陣に呼び戻しなさいっ! これでは負けてしまいますわっ!」



本陣にて劣勢の状況を兵から報される袁紹はヒステリックに喚き散らすがもう手遅れである。

緻密な作戦を立てた華琳の軍勢に対して、袁紹は何の考えもなく軍を一つにまとめてしまい、指揮系統も何も作っていなかったため、現状に対処しきれない状況下に置かれていた。



「……どう考えても、もう負け戦なのじゃ。のう、七乃」


「そうですねー。そろそろ逃げた方が良いかもしれませんよ、お嬢様ー」



同じく本陣に居る袁術と張勲は声を潜め、逃げる算段を企てる。



「何かおっしゃいまして!」


「いや、別に何も言ってないのじゃ。のう?」


「はいー。言ってませーん♪」


「ああもうっ! これだけの戦力差があれば華琳さんなんかチッチキチーのすぱーんだと思いましたのに! どこで計算が狂ったんですの……?」



本人はあれで計算をしていたつもりなのだろうが、計算も何も最初から作戦自体が破綻していた事は言うまでもない。



「七乃。ぼちぼち逃げるとするのじゃ」


「はーい、お嬢様。殿はいつも通りに孫策さんにお任せでいいですか?」


「うむ。そうと決まったら、さっさと孫策に伝令を送るのじゃ。妾達も撤退するぞ」


「わっかりましたー♪」



袁術と張勲は手早く逃げる支度を整え、袁紹に気付かれないよう素早くその場から逃げだしていった。



「やっぱりここは、一旦下がって戦力を立て直して……美羽さん、一旦兵を退いて、陣形を立て直しますわよ。だからその間の時間稼ぎを……って、あら?」



袁紹は袁術に呼びかけるが返事が無いので後ろを振り返るが、袁術達は既に逃げ出した後。

袁紹はその場に居ない袁術の姿を辺りをきょろきょろと見回して必死に探すが、その場から逃げだした人間など見つかるはずがなかった。



「美羽さん? 美羽さーーーーーん!?」



本陣に袁紹の叫び声が虚しく木霊した。


………


……



「はああっ!」


「くっ……! さすが夏候元譲……天下に響く勇名は伊達ではないという事ね!」



場所は変わって、ここは春蘭率いる第二陣の部隊。

その場では春蘭と孫策が激しく互いの剣をぶつかり合わせている。ちなみに零治も一緒に居るのだが、その零治はというと……。



「…………」



すぐ後ろで春蘭と孫策の闘いを退屈そうに眺めていた。春蘭から手を出すなと厳命されているため、何も出来ない状況に置かれているのだ。本人としては不満なのだろうが、第二陣の全権は春蘭にあるため従わない訳にはいかなかった。



「おい、春蘭。暇なんだが……」


「手を出すなと言ってるだろう! そんなに暇なら、周りに居る兵どもの相手でもしていろっ!」


「そう言われてもよ……」



零治は鞘にしまった状態の叢雲を片手に、周囲に居る孫策が率いている兵士達を見回す。

反董卓連合時のシ水関での出来事は既に知らない人間は居ないと言っても過言ではない。それ故、兵士達はその場から逃げだしこそしないものの、恐怖におののいて誰も零治に闘いを挑もうとしない。



「どいつもこいつもビビッてかかって来ないんだが……この場合はどうすればいいんだ……?」


「ならばそこで私の闘いを見ているんだな」


「まっ、今のところ楽させてもらってるから別に構わんが、いい加減終わらせてくれないか。あまりにも暇で居眠りしちまいそうだぞ……」


「策殿ぉ! 本陣の袁術から連絡が来た! 撤退する故、殿を務めろと!」



その時、孫策の仲間と思われる弓矢を装備した妙齢の女性が袁術から届いた命令を報せに駆け込んでくる。



「……そんな暇、ある訳ないでしょう! この状況を見ろっていうのよ……まったく」



孫策が歯痒そうに不満を漏らす。今繰り広げている春蘭との闘いを切り抜けるのも難しい中で殿をやれなど無理難題もいいとこである。しかし、その闘いは思わぬ形で終わる事になる。



「…………」


「…………え?」



春蘭は無言で剣を収め、その姿に孫策はキョトンとしてしまう。



「どうした。撤退するのだろう?」


「……見逃してくれるのかしら」


「貴様には黄巾の時の借りがある。いい加減返しておかねば、私の股間に関わるのだ」


「春蘭、それを言うなら沽券だろ……」



零治のツッコミと共にその場に奇妙な沈黙が広がり、空を飛ぶ一羽のカラスが、カーカーと春蘭を馬鹿にするかのように鳴き声を上げた。



「と、とにかく、撤退するならするがいい! 十数えるうちに視界から消えねば、追撃を仕掛けるぞ!」


「まあ、それは構わないんだけど……そっちの彼は大丈夫なの……?」



孫策がチラリと零治に視線を向ける。



「ん? 策殿、あの男はもしや……」


「ええ。噂の黒き閃光よ……」


(おいおい。その通り名は、あの時に真桜が適当に考えたものじゃなかったのかよ……。一体オレは他国の連中にどういう風に知られてる訳……?)


「奴の事なら心配するな。手出しはさせん」


「……そう。なら、その返済、ありがたく受け取らせてもらうわ。……行きましょう、祭」


「うむ。さらばだ夏候元譲」


「……縁があればまた会いましょう、黒き閃光さん。貴方となら、楽しい闘いが出来そうな気がするからね。ふふふ……」



孫策は不敵な笑みを浮かべながら零治に意味深な別れの言葉を残し、祭と呼ばれていた妙齢の女性と共に、兵達を引き連れその場を去って行った。



「孫策……戦狂いという噂は本当だったんだな。やれやれ。星といい、この世界には厄介な奴が多すぎだな……」


「おい音無、何をしているのだ。早く季衣達の様子を見に行くぞ」


「ああ」


………


……



「袁術、袁紹とも、こちらが押し切れそうですね」



桂花は余裕の笑みを浮かべながら目の前の戦場を見渡し、華琳に状況を報告。

そもそも華琳達には負ける要素が無かった上に袁紹軍側の作戦が初めから破綻していたため、この展開は当然と言えるだろう。



「そのようね。袁術の側は撤退を始めているようだし……秋蘭、亜弥、袁紹が動いたら、そちらの追撃は貴方達に任せるわ」


「それは構いませんが、袁術達の追撃はどうするんですか?」


「それは春蘭に任せてある。上手くやるでしょう」


「念のため、伝令を出しておきましょうか? 春蘭の事ですから、戦に夢中になって忘れているかもしれませんし」


「……そうね。春蘭に“全権”を任せた事、もう一度伝えておいてちょうだい」


「袁紹側も撤退を始めたようですよー」



風がいつもの間延びした口調で状況報告をし、その報告を聞くと同時に秋蘭と亜弥は即座に出撃態勢に入る。



「なら華琳様。私も行ってきます」


「任せるわ」


「はっ! ……亜弥、遅れるなよ」


「ご心配なく」


「出られる者から我らに続け! この大戦の総仕上げ、我々の手で果たすぞ!」



戦の最後のダメ押しをするべく、秋蘭と亜弥は兵士達と共に大量の砂塵を舞い上げながら撤退していく袁紹軍の追撃に入った。


………


……



場所は変わって、こちらは現在、袁術の客将扱いをされている孫策の陣営。

そして、その孫策軍の頭脳、美週朗とも喩えられている、メガネをかけた理知的な顔をした女性軍師、周瑜が孫策の言葉に渋面を作る。



「なんですって?」


「袁術の軍は私達に殿を押し付けて、背中ががら空きよ。今なら、連中を討てるわ」


「……確かに御大将の言う通りじゃな。幸い、我らの軍はそれほど酷い損害を受けてはおらんしの」


「それは確かにそうだけれど……曹操の追撃はどうするの? 来るとしたらあの夏候惇よ」


「そうね。おまけに……噂の黒き閃光も一緒に居たわよ」


「黒き閃光……曹操の所に降り立った天の御遣いの一人、確か……音無だったか?」


「そう、それそれ」


「だったら尚更危険すぎるわ。雪蓮、あの二人は軍を二つに分けて対処できる相手ではない事ぐらい貴方も分かるでしょう」


「大丈夫。あの子達は来ないわよ」


「来ないって……雪蓮の勘?」


「ええ。けど、この勘はきっと外れないわよ」


「…………」



周瑜はどうしたものかと難しい表情で考え込む。

その姿に孫策は優しい笑みを浮かべながらそっと周瑜の真名を呼ぶ。



「……冥琳」


「……そうね。こういう時の雪蓮の勘が外れた事は無いものね。いいわ、袁術を追いましょう」


「そう来なくっちゃ。祭もいいわね?」


「それは問うだけ野暮というものじゃぞ?」


「よし……。我々はこれより撤退中の袁術を追撃、撃滅するぞ! 後方の追撃は放っておけ! 我らの土地を奪い返す千載一遇の好機、ただそれだけを追い、この手で掴み取るのだ!」



孫策の力強い激に兵達は各々が持つ武器を上に掲げながら雄叫びを上げる。

その兵達の姿に満足げに頷いた孫策はクルリと背を向け、苦笑しながら呟いた。



「……ま、借りのお返しにしてはお釣りが多い気がするけど、ここはありがたく貰っておきましょう」


「どうした、雪蓮」


「何でもないわ。……孫呉の兵どもよ! 我らの悲願を今こそ達成する時が来た! 行くわよ! みんな!」



孫策軍は自らに殿を押し付け、撤退を開始している袁術軍を目指し、大量の砂煙を巻き上げながら追撃を開始。今この瞬間、孫策軍の反乱劇が始まった。


………


……



「やれやれ……。麗羽のしょぼくれた指揮のおかげで酷い目に遭ったのじゃ」


「ホントですねぇ。ま、殿はいつも通り孫策さんに押し付けだから、一安心ですよ♪」


「そうじゃな。せっかく飼ってやっておるのじゃ。こういう時に役に立ってもらわねば困る」



その孫策が自分達に対して反乱を起こしたなどとは知りもせず、袁術はそれが当たり前かのように口にする。だがその時、一人の兵士が慌てた様子で袁術の所に駆けつけてくる。



「た、大変ですっ!」


「何じゃ、騒々しい。孫策が敗れでもしたか?」


「ち、違いますっ! 孫策がこちらに攻撃を仕掛けてきました!」


「な、なんじゃとぉっ!?」



兵の報せを聞いた袁術は眼を皿のように丸くし、驚きの声を上げる。



「お嬢様ぁ! さっきの戦いのせいで、こっちに迎撃できる戦力なんて残ってませんよぅ!」


「うむむむむ。後はお主らで何とかせよ! 七乃よ、妾達はさっさと逃げるのじゃ!」


「はーいっ!」



袁術と張勲は脱兎の如くその場から走り去り、全てを兵士達に丸投げし、現場を放棄する。



「え、あ、ちょっと……袁術様ぁぁ~~っ!?」



報せを持ってきた兵だけがその場に取り残され、情けない叫び声がその場に虚しく木霊する。


………


……



「春蘭様ぁ」


「何だ」


「袁術の追撃、しなくていいんですかー?」


「せんでいい。今は戦闘態勢を保ったまま、指示を待て!」



逃げ出している袁術軍を前にして未だに待機したままの現状を不安に思った季衣が尋ねるが、春蘭は首を横に振り力強く答える。



「春蘭様。本陣から、追撃の催促が来てますけど……どうしましょうか?」


「それは華琳様のご命令か?」


「いえ、桂花さんです」


「ならば捨てて置け」


「いいんですか?」


「私は華琳様から第二陣の全権を預かっているのだ。華琳様が動けと命令せん限り、私は動かんと伝えておけ」


「んー……兄ちゃん、本当にいいのかなぁ……?」


「春蘭がああ言ってるからいいんだよ。……ま、今の伝言を本陣に持っていったら、桂花の奴が顔を真っ赤にして怒り狂うのは間違いないだろうがな……」


「あー……ですね」


………


……



「なんですって……!」



本陣では春蘭の第二陣からの伝令の報告を受け、零治の予想通り桂花は顔を真っ赤にしながら怒りで身体をわなわなと震わせている。



「華琳様! 春蘭がこちらの追撃命令を聞かず、待機しているようです!」


「そう……」


「この機会を逃しては袁術を討てません! 華琳様の御名において追撃命令を!」


「……不要よ」


「ですが……!」


「春蘭には全権を預けてある。あの子が最善と判断したのなら、それが最善なのでしょう」


「うぅ……」



納得のいかない様子の桂花だが、華琳にこう言われてしまっては何も言えない。桂花は渋々ながらもそれに従うほかなかった。

続いて稟が偵察から入った報せをつぶさに報告する。



「華琳様、偵察から連絡が入りました。孫策が袁術を裏切り、背後から攻撃を仕掛けているそうです」


「そう。春蘭は?」


「未だ動いておりません」


「了解。ふふ……これで気が済むでしょう。……さて、霞」


「なんやー。ウチ、開店休業中やでー。投石機のお守の後は本陣詰で、ええとこなしやー」


「そうふてくされないの。袁紹を追い払ったら、一気に南皮まで進撃するわよ。兵の準備、しておいてちょうだい」


「なんや、それを早よう言うてぇな!」



本陣の隅で体育座りをしながらふてくされていた霞だったが、華琳からの指示を受け、ぱぁっと表情が光り輝き、霞は休んでいる部下達を蹴り起こし、即座に出撃準備に入り始める。



「おい、お前らー! すぐに進撃の準備や! 秋蘭と亜弥は優秀やから、あっちゅー間に袁紹なんか追い散らしてまうで!」


………


……



「うぅ……酷い目に遭ったぁ……」


「文ちゃん、これからどうしよう……?」



あの戦場からボロボロになりながらも命からがら逃げ延びた文醜と顔良は、乾いた風が吹き付ける荒野を彷徨いながら途方に暮れていた。



「本陣も夏侯淵と神威にやられてたしなぁ……。袁紹様、大丈夫かなぁ」


「うー。大丈夫じゃないかも」


「そっか……。惜しい人を亡くしたなぁ」


「勝手に殺さないでくださいます!?」



突如として袁紹は音も無く、まるで瞬間移動でも使ったのかと思わせるように文醜と顔良の間に姿を現す。



「うわっ! 出た!」


「ひゃあっ!」


「うう、麗羽様。もう麗羽様の悪口なんか言いませんから、大人しく成仏してくださいませ……なむなむなむなむ……」



文醜と顔良は袁紹が化けて出たとでも思いこんだのか、必死の形相で両手を合わせて拝む仕草をして見せる。



「だ、か、ら。勝手に殺さないでくださいます?」


「へ? あ……足がある……」


「なんだ……良かったぁ」


「良くありませんわ! 本陣もあのクルクル小娘に陥とされてしまうし、美羽さんの軍も孫策とかいうのに裏切られて陥ちたというではありませんの!」


「さっき、張遼さんの騎馬隊が北に向かってるのを見ましたし、もしかしたら……」


「……南皮も陥ちたな、こりゃ」


「な、なんですってぇ~……! なら、これからわたくしはどうすればいいんですの!」


「どうするって言われても、なぁ……」


「とりあえず……ですね」



文醜と顔良は互いに顔を見合わせながら、後方から迫りくる砂煙を指さす。



「居たでっ! 袁紹や!」


「ここから逃げる事、考えませんっ!?」


「追えー! 逃がすなーっ!」


「待つのー!」


「待てって言われて待つ馬鹿が居るもんかーっ!」


「顔良さん、もっとお急ぎなさい!」


「何で麗羽様、こういう時だけ早いんですかぁっ! あぅ、ちょっと待ってくださいよーーーーーっ!」



迫りくる音無警備隊の三羽鳥の追跡から逃れるために、袁紹、文醜、顔良の三人は猛スピードでその場から逃げだす。



「な、何やあの逃げ足の速さはっ!? あんなに足が速い奴、警備隊にもそうはおらんでっ!」


「感心している場合か! このままでは取り逃がしてしまうぞっ!」


「三人とも、ここは私と臥々瑠に任せてください」


「えっ? 奈々瑠ちゃん、何か秘策でもあるのー?」


「はい。……二本の足がだめなら……」


「四本の足で追いかけるっ!」



奈々瑠と臥々瑠は走りながら、まるでプールにでも飛び込むような姿勢でその場から跳躍し、二人の身体はゆっくりと黒い靄に包まれる。それからすぐに狼の姿に変身した奈々瑠と臥々瑠が姿を現し、二人は袁紹達に向かって先程以上の速度で走りだす。



「なっ!? お、狼に……変身した!?」


「た、隊長から話は聞いとったけど、ホンマやったんか……」


「す、凄いのー……」


「ぐるるるる……」


「がるるるる……」



奈々瑠と臥々瑠は地を這うような唸り声をあげながら、袁紹達のすぐ後ろまで迫り寄る。



「ひいいいっ! れ、麗羽様ー! なんか狼があたいらの事、追っかけてきてるんですけどー!」


「なんですってぇ!?」


「一体どこから現れたのよーーっ!?」


「ひえええっ! あたいなんか食っても旨くないから、あっちに行けーーっ!」


「ちょっ!? 奈々瑠、なんかコイツら足がさらに速くなってない!?」


「た、確かに……って、感心してる場合じゃないわっ! 私達も速度を上げるわよ! このままじゃ引き離されちゃうわ!」



突然背後から二頭の狼が出現したため、袁紹達は逃げる速度がさらに加速する。

これがいわゆる、火事場の馬鹿力というやつなのだろうか。


………


……



「……そう。麗羽は逃がしたか」


「すみません、華琳さん。私達も奥の手を使ったんですが、向こうの速度がこっちの想像を上回っていたので……」


「ごめんなさ~い……」



奈々瑠と臥々瑠は揃ってぺこりと頭を下げる。あれから結局、袁紹達には逃げられてしまったようだ。



「構わないわ。ここまで兵を失っては、再起は困難でしょう。だから二人とも頭をあげなさい」


「すみません。そう言ってくれると助かります」


「よかった。てっきり怒られるのかと思っちゃったよ」



奈々瑠と臥々瑠はホッと安堵の溜息を漏らしながら胸を撫で下ろす。



「さて、軍を撤収させるわよ。半分は私と共に南皮へ進撃。残りは桂花と共に、城に戻って事後処理をしておきなさい」


「御意!」


「それから……春蘭」


「はっ……」


「……何が言いたいか分かるわね?」


「は。いかような処罰でも……」


「いずれ孫策とも戦う事になるでしょう。……自分のした事に後悔はない?」


「私はあ奴に預けたままだった借りを返したに過ぎません。この後に奴と交える刃は、全て華琳様の意志によってのみ振るわれるでしょう」


「ならいいわ。南皮への指揮は任せるから、先行した霞と共に見事制圧してごらんなさい」


「はっ!」



この後、春蘭はあっという間に袁紹の本拠地の南皮を陥落させ、北方四州は華琳の支配下に置かれる事になった。

そしてこの瞬間、袁紹、袁術の二名は群雄割拠の表舞台から退場する事となったのだった。

作者「う~ん……」


零治「何を唸ってんだ。悩み事か?」


作者「いや、ちょっとした疑問が」


亜弥「何です?」


作者「袁紹、文醜、顔良の鎧って何で出来てんのかと思ってさ。アレ見た目が金ピカだったじゃん」


奈々瑠「言われてみれば、確かにそうですね」


臥々瑠「……やっぱ純金なんじゃない?」


零治「それは無いだろ。金ってめちゃくちゃ重いんだぜ」


亜弥「それに他の金属と違って耐久性も低いですから、防具としては役に立たないですね」


臥々瑠「そうなんだ~。……じゃあもしかして……実はメッキとか?」


奈々瑠「何でこの時代にメッキがあるのよ……」


作者「恋姫七不思議の一つとか……?」


零治「そんなの聞いた事ないんだが……」

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