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第26話 五色狼の実力と恐怖

所々、修正や変更などはしていますが、内容に関してはもうタイトル通りの内容です。

「まったく何を考えてるんですか、貴方は。劉備軍に喧嘩を売ってどうするんですか……」


「…………」



亜弥は零治の先程の行動を咎めるが、騒ぎを起こした当の本人は何も言わない。



「それに貴方、さっき一刀にも何か言ったでしょう……」


「なぜそう思うんだ……」


「とぼけないでください。貴方が先程放ってた殺気、私の所までヒシヒシと伝わって来たんですよ。彼に何を言ったのかは知りませんが、アレはいくら何でもやりすぎですよ……」


「……ああでもしないと、あのガキはオレに殴りかかりそうだったんでな」


「つまり、一刀をそれだけ怒らせるような事を貴方は彼に言ったという訳ですね……」


「この世界の事を全く理解していないクソガキに現実を知るためのヒントを教えてやっただけだ……」


「やれやれ。物は言いようですね」


「まあ、あの様子では理解できていないだろうがな」



二人はしばらくの間、果てしない荒野の道を練り歩く。

やがて、シ水関の巨大な城壁が見え、予定地点で待つ黒狼達が二人を出迎える。



「……来たか」


「あれがシ水関ですか……。大きいですね」



亜弥は目の前に聳え立つ巨大な城壁を見上げながら呟く。



「では作戦を説明するぞ」


「作戦だぁ? どうせ皆殺しにするだけだろうが」


「流石は殺人鬼の発想だな。いかにもクズのお前らしいセリフだ」


「んだとぉ!? テメェも同類だろうが!」


「何だと……?」



同類呼ばわりされた事が癇に障ったのか、零治の眼つきが殺気を帯びた物に変わり、双方ともに一歩も退かない様子で睨み合う。



「……話を続けても構わんか?」


「ああ……」


「ケッ!」


「言うまでも無いが、私達の目的はシ水関の攻略だ。関に籠もってる守備隊の将を引きずり出し、これを殲滅する……」


「引きずり出すって……どうやってです? こっちはたったの五人しか居ないんですよ。連中が兵を連れてもいない私達を相手にするとは思えないんですがね」


「それは問題無いんじゃない? 情報によれば、華雄は自分の武に誇りを持った猪武者で有名だからね。ちょっと挑発してやれば張遼はともかく、華雄は出てくるんじゃないか?」


「そう上手くいきますかね……」


「なんだい、僕の言ってる事が信用できないの?」


「もともと敵である貴方をどうやって信用しろと?」


「酷い事を言うなぁ。情報元は諸葛亮だから間違いないはずだよ」


「なら良いんですがね……」



亜弥はそう答えるが、あからさまに金狼に疑惑の視線を向ける。



「なら基本方針はそれで決りだな。配置はどうするんだ?」


「配置は私が正面、影狼と白狼は右翼、金狼と銀狼は左翼から潰しにかかれ」


「えー? 僕は出来れば白狼と一緒がいいんだけど?」


「ああ。オレも影狼と楽しみたいんだがなぁ?」


「ふざけるな……」


「お断りします」


「やれやれ。つれないなぁ」


「そんな事言って、オレが怖いんだろう? 影狼」


「今日のお前はやけに寝言を抜かすな。寝てもいないのに、一体どうやったらそんな器用な真似が出来るんだ?」


「あぁ? んだとコラ……」


「銀狼、いい加減にしろ。話が進まんだろう……」


「チッ!」


「次に神器についてだが……スキルの使用は禁止だ。いいな?」


「ああ? ふざけんなよ。そんな事したら戦闘に無駄な時間を食うじゃねぇか」


「やれやれ。分かってないなぁ、銀狼」


「何がだよ?」


「……風評、ですね」


「そうだ。この世界の人間から見れば、私達の術は仙術や妖術の類いに見られる。互いに仕えている主がそんなものに頼っている……などと民に知られでもしたら……」


「場合によっては劉備と曹操の評判はおろか、オレ達の立場も危うくなると……そう言いたいんだろ?」


「そういう事だ。……分かったな? 銀狼」


「何だよ……以前、盗賊どもを始末する時とかは普通に使っていたじゃねぇか……」


「今回は規模が違いすぎる。ここには他国の諸侯達も居るんだ。どこから情報が流れるか分からん以上は自制するに越した事はない……」


「チッ! 分かったよ……」


「それともう一つ、向かってくる兵はともかく、逃げる兵は出来る限り殺さないようにしろ。これもやり過ぎると風評に関わってくるからな。いいな? 銀狼……」


「なんでさっきからオレばっかりに訊くんだよ!?」


「……日頃の行いのせいだろ?」


「んだとぉ!?」


「影狼、あまりコイツを怒らせないでくれないか? 後で苦労するのは僕なんだからさぁ……」


「お前の事情などオレの知った事か……」


「……で? 他には何かあるんですか?」


「いや、無いな。誰か異論はあるか?」



黒狼が周りに尋ねるが誰も何も言わない。



「無いようだな。華雄への挑発は私が行う。では全員、配置に付け」


「ああ……」


「クックック。影狼、テメェと一緒に戦えないのが残念だが、せいぜい楽しもうぜ」


「言ってろ……」


「そういえば、こうして五色狼のメンバー全員が同じ戦場に立つのは初めてじゃないの?」


「そうですね。まあ、これが最初で最後でしょうがね……」


「貴様ら、無駄話をしてないでさっさと持ち場に向かえ……」



黒狼を除く五色狼のメンバーはそれぞれの持ち場に足を運んでいった。



「では、私も行くとするか……」



黒狼もゆっくりとシ水関の正面を目指して足を運び出す。


………


……



「華雄将軍。連合の先陣が現れましたが……」



シ水関の城壁の上で街道の様子を伺っていた華雄の副官が報告する。



「そうか。相手の数は?」


「……五人です」


「五人? 兵を率いてる将が五人という事か?」


「いえ、文字通りです。相手はたったの五人しか居ません……」


「何っ!? おい、それは何かの間違いではないのか?」


「嘘だと思うのでしたら、そこの城壁からご自分の眼で確認してみてください」


「う、うむ……」



華雄は部下の兵に言われ、シ水関の城壁から入口へと続く街道に眼をやり、そこに展開する黒狼達の姿を確認する。



「…………」


「言った通りでしょう?」


「あ、ああ……」


「いかが致しましょう?」


「連中の正体は?」


「斥候の情報によりますと、劉備と曹操の下に降り立った天の御遣い達だそうです」


「曹操は知ってるが……劉備は聞いた事のない名だな」


「最近売り出し中の人間らしいんですが、どうしますか? 華雄将軍」


「ふ、ふふふ……。我らも舐められたものだな。いくら天の御遣いとはいえ、たったの五人でこのシ水関に挑むとは……連合軍の総大将は余程の大バカらしいな」


「では?」


「ああ。総員、出撃準備! たったの五人で我らに挑む身の程知らずの御遣いどもを粉砕し、敵軍中央にそびえる袁家の牙門旗を堕とすぞ!」


「はっ!」



華雄の掛け声とともに、華雄が率いる部隊が出撃準備のため慌ただしく動き始める。



「ちょ……待ちぃや華雄! 賈駆っちの命令はシ水関の死守やで!? 出撃してどないすんねん!」


「ふん! 相手はたったの五人だぞ。我らの敵ではない!」



張遼は華雄を戒めるが、華雄は聞く耳を持とうとしない。



「いやまあ、気持ちは分かるけどよ、あんなん無視しときゃええやん」


「これほどの屈辱を前にして、無視を決め込むなど私には出来んな」


「……どうしても出撃するんか?」


「くどい!」


「分かった。ならウチはここで待機する。構わんな?」


「勝手にしろ」


「華雄将軍! 出撃準備、完了ですっ!」


「よし! 門を開けろ! 総員、出撃せよっ!」



シ水関の門が解放され、華雄の部隊は出撃する。外に居る五人組が恐ろしい相手とも知らずに……。



「あんの猪が……」



張遼は一人、天を仰ぎながらその場に居ない華雄に向かって一言毒づいた。


………


……



「ん……? 門が開いただと? 旗印は……『華』……華雄か。……フッ、前の外史でもそうだったが、こちらでもあの性格は変わらんようだな。まあいい、余計な手間が省けたというものだ……」



黒狼はそう言いながら、右手をゆっくりと前にかざし、自身の神器ディバイン・アームズ魔王剣ディスキャリバーを呼び出し、右手の中で数回クルクルと回転させて弄び、しっかりと握りしめて目の前の華雄の部隊に切っ先を突きつける。



「では、始めるか……」


………


……



「……あれ?」


「どうした?」


「いや……シ水関から華雄が出てきたんだけど」


「ああ? 黒狼がそいつを挑発したから出てきたんだろ?」


「いや、黒狼はまだ何もしてないよ。……ひょっとして、こっちが五人しか居ないから舐められてると思って飛び出したのかも」


「何だそりゃ? そいつバカじゃねぇのか?」


(その点については同感だけど、華雄も君にだけは言われたくないと思うんだけど……)



金狼は銀狼とは何度か元居た世界でも一緒に戦った経験があり、銀狼は戦闘が始まると周りの声には一切耳を貸さない非常に好戦的な性格をした男だ。

金狼は、そういう意味では華雄と同じ猪であると言いたげな視線で銀狼に語りかける。



「あん? 何だよ? 何か言いたげだな」


「いや、なんでもないよ。それより始めるよ、銀狼。あの勢いならすぐに接触するからね」


「ヘッヘッへ。分かってるさ。……さーて、楽しい殺し合いを始めるとするか……」


(はぁ……これだからコイツと一緒に戦うのは嫌なんだよ……)


………


……



「ん? 零治、シ水関に動きがありましたよ」


「何? やけに早いな」


「どうも華雄の奴、黒狼が挑発する前に飛び出してきたようで……」


「はぁ? 何だそりゃ? そいつ守備隊としての自覚があるのか?」


「自覚があるんならあんなバカな事はしないでしょう? それより奴らを迎え撃ちますよ。あの速度ならすぐに接触しますからね」


「ああ。……華雄の奴、春蘭以上の猪だな……」


………


……



「へ……へ~っくしょんっ!」



零治の言葉が原因なのか、後方で待機している春蘭が大きなくしゃみをする。



「どうしたの、春蘭? 風邪でも引いたの?」


「ずずっ……。さあ? 私は風邪など引いた事は一度も無いのですが」


「そう。まあ、体調管理には充分に注意をしときなさいね」


「はい」


「華琳様、前方の凪達から報告が入りました。シ水関に動きがあり、音無達が戦闘を開始したとの事です」


「戦況は?」


「今の所は目立った動きはないそうです」


「そう。まあ零治達なら大丈夫でしょうけど……零治達だけじゃなく、あの三人……黒狼達からは眼を離さないように伝えておきなさい」


「はっ」


「春蘭、劉備達の反応は?」


「今の所は静観しているようです」


「そう」



華琳はそう返事をし、すぐ隣、と言ってもそれなりに離れた位置に展開している劉備軍に視線をやる。



「桃香様、黒狼さん達が戦闘を開始しました」


「どんな状況?」


「今の所は異常は無いそうです」


「そっか。あの人達なら大丈夫だと思うけど、万が一のためにいつでも動けるようにしといてね」


「御意です」


「春蘭、秋蘭。ここは構わないから、貴方達も黒狼達の戦いぶりを見てきなさい」


「よろしいのですか?」


「ええ。ついでに、シ水関が破られたら敵に追撃をかけるように凪達に伝えておきなさい」


「承知いたしました」



彼女達がそんな会話をしている時であった。黒狼達の居る戦場に変化が表れ始めたのは……。


………


……



「でえええいっ!」



華雄の部隊の兵士の一人が勢いよく黒狼に斬りかかる。



「フッ……弱者に用は無い……」



しかし、黒狼は向かってきた兵の攻撃をいとも簡単に捌き、魔王剣を兵士の胸に深々と突き刺す。



「ごふっ!?」



兵士は血反吐を吐きながら息絶え、それを確認した黒狼は魔王剣を兵士の胸から素早く引き抜き、続けて近くにいた別の兵士の首に目掛けて斬りかかり、首をはるか上空に刎ね飛ばされた兵はその場で噴水のような勢いで切断面から血を吹き上げながら地面に倒れこんだ。



「何とも他愛ない……」


「くっ! ひ、怯むなぁ! 敵は一人だ! 複数で攻撃に当たれええええっ!」


「「「おおおおおっ!!」」」



兵の一人が周りの味方に激を飛ばし、それに応じた兵士達は群がる蟻のように黒狼に突撃する。



「クックック。相手の力量も量れんとは愚かな連中だ。まあいい。……来る者は拒まず。刃向う者には死と絶望を与えん……」



黒狼は向かってくる兵達を嘲笑うかのような冷笑を浮かべながら一人、また一人と兵達を地面に斬り伏せていく。


………


……



「オラァァァっ! 死ねやあぁぁぁっ!」


「ぎゃあぁぁぁっ!」



銀狼は力任せに村正を振り回しながら敵部隊のど真ん中に突撃して兵達を次々と斬り倒していき、人垣に一本の道を作り上げていく。

斬り付けられた兵士達は身体から鮮血を噴出しながら断末魔を上げ、まるでドミノ倒しのような勢いで次々に地面に倒れて息絶える。



「ケッ! こんなもんかよ? つまらねぇ連中だなぁ」


「あー……銀狼といい、周りの兵達といい、うるさいったらありゃしない……」



前方で派手に暴れまわっている銀狼とは対照的に金狼は積極的に戦闘には参加せず、ゲイボルクを肩に担ぎながら後方で銀狼の戦いを傍観しながら面倒そうに呟いていた。



「くっ! こ、このぉ!」


「黙りなよ。僕は騒がしい人間が嫌いなんだよ……」



金狼は向かってきた目の前の兵士の胸に目掛けて高速の突きを放ち、胸部に風穴を開ける。



「がはっ!?」



兵士は血反吐を吐き、何が起こったのかも理解できないまま胸に開けられた穴を見つめながら地面に崩れ落ちる。



「なっ!? くそっ、よくも……っ!」


「おい、三人でいっぺんにかかるぞ!」


「おう! いくら強くても三人がかりならっ!」


「はぁ……バカな連中だな。それが何だって言うんだい?」



金狼は溜め息を一つ吐き、ゲイボルクを上空に掲げながらヘリのローターのように回転させ、右脚を軸にして身体をグルリと一回転させて、一歩分後方に下がって間合いを広げながら身体を正面に向け直すと同時にゲイボルクを一文字に薙ぎ払って、三人組の兵士達の喉元を穂先の先端でまとめて掻っ斬る。



「ぎゃっ!」


「がっ!?」


「ぐがっ!」



兵達の喉の傷口からは勢いよく鮮血が吹き出し、兵士達は手に持っていた武器を落として自分の喉を押さえながら地面倒れ、物言わぬ屍と化した。



「おい金狼! テメェ、何オレより目立とうとしてやがんだぁ!」


「うるさいなぁ。目立ちたくてやってるんじゃないんだよ。それよりも目の前の仕事に集中しなよ……」


「ケッ! テメェに言われるまでもねぇ!」



金狼、銀狼の激しい攻撃により、その場には次々と死体の山が出来上がっていく。


………


……



「フッ!」


「ぎゃあっ!」


「せいっ!」


「ぐあっ!」



零治達の担当区域も凄まじい攻防戦が繰り広げられ、兵達は次々と二人の手によって地面に斬り伏せられていく。

二人は互いに背を預け、自分達の周りを取り囲みながら向かってくる兵士だけを確実に倒していく。



「亜弥、お前ホントに前に出て大丈夫なのか?」


「ご心配なく。この程度の相手なら近接戦でも大丈夫ですから。伊達に貴方にしごかれてきたわけじゃないんですよ?」


「それなら良いんだが、危なくなったらすぐに言えよ?」


「分かってますよ」



シ水関攻略戦の戦況は一気に五色狼側の優勢……と言うより一方的な虐殺の展開になり、勝敗はもはや決したも同然だろう。


………


……



「…………」



張遼は一人城壁に背を預け、無言で空を見上げている。

城壁の向こうからは兵達の悲鳴交じりの雄叫びが聞こえては来るが、表が戦場になっているのであればそれは当然の事と張遼は思っているので、外の状況に眼を向けようとはしなかった。



「張遼様っ!」



その時、張遼の副官が慌てながら張遼の下にやってくる。



「ん? どないしたんや、そんなに慌てて? 華雄がまたなんかやらかしたんか?」


「違いますっ! アレを見てください!!」



副官が城壁の下の戦場を指差しながら言う。



「んー? ……なっ!?」


「…………」



二人の視線の先には、五色狼のメンバーに一方的に責め立てられ次々と兵を失っていく華雄の部隊が眼に飛び込んでくる。



「な、なんやあれはっ!? ひょっとして、こっちが押されとるんか!?」


「押されてるどころか、こっちが一方的にやられています! このままでは華雄様の部隊は持ちませんよ!」


「…………」



張遼は無言で下の戦場を睨み付けながら思案する。だが考えるまでも無く、結論は一つしか無かった。



「張遼様、ご指示を!」


「くっ! しゃあない。シ水関を放棄すんで! アンタはウチの隊を纏めて、動けるもんから順に虎牢関に撤退せえっ!」


「張遼様はいかがなさるのですかっ!?」


「ウチは華雄を連れ戻してくる! 分かったらはよ撤退の準備にかかるんや!」


「はっ! 張遼様、お気をつけて!」


「おう!」



副官は部隊を纏め撤退の準備のために奥へ、張遼は華雄を連れ戻すために城門から単身で戦場に飛び出し、華雄の所に大急ぎで走り出す。



「華雄、死ぬんやないでっ!」


………


……



「くぅっ! 一体どういう事だ!? たった五人を相手に何をやっているのだっ!」



華雄は苛立ちを露わにしながら周りの兵達に怒鳴り散らす。まさか五人の敵を相手に自身の部隊が劣勢に立たされるなどとは夢にも思っていなかっただろう。

だが、相手が悪すぎたのだ。この結果は必然としか言いようがない。



「華雄将軍! 前曲、及び中曲、右翼、左翼、共に壊滅状態! これ以上の戦線維持は不可! 撤退の指示の要請が出ています!」



華雄の副官が戦況状況を報告し、その内容に華雄は驚愕する。



「なっ!? ……バカな! これは何かの間違いだ! こんな事があるはずが……っ!」


「ですが我が部隊の兵は既に半数以上がやられています! このままでは全滅してしまいます! 華雄将軍、撤退の指示をっ!」


「…………」



華雄は突きつけられた目の前の現実を受け止める事が出来ず放心状態になってしまう。と、そこへ。



「華雄っ!」


「……張遼!」


「お前、何をボーっとしとるんやっ!? 早く撤退の指示を出さんかい!」


「なっ!? ふざけるな! たった五人の敵を相手に背を向けろと言うのか!?」


「どアホ! 状況見てモノ言えや! あの五人が手に負えん相手ぐらいもう分かりきっちゅうやろうがっ!」


「くっ!」



華雄は悔しげの表情で下唇を噛みながら目の前の戦場を睨み付ける。

それからすぐに、決心がついたようで張遼に視線を戻した。



「張遼、お前の隊は?」


「ウチの隊の連中は既に虎牢関に向けて撤退させとる」


「判った。……総員、シ水関を放棄する! 撤退だ! 虎牢関に向けて撤退しろーーーっ!!」


「はっ!」



華雄の部隊は虎牢関に向けて撤退を開始。だが、それを黙って見逃すほど五色狼のメンバーは甘くはなかった。



「ん? 兵が退いていく……フッ、撤退するか。これだけ痛めつけてやったのだから恐らくシ水関は放棄するつもりなんだろうが……どうせやるのなら、徹底的に叩いてやろうではないか」



黒狼は魔王剣をブンッと軽く振って、刀身に付着している血を振り落とし、華雄の部隊の追撃を開始する。


………


……



「ん? 連中、撤退を始めたようだね」


「ああ? 何だよ、もう終わりかぁ? つまらねぇ奴らだぜ……」


「黒狼は……追撃するみたいだね」


「だったらオレも行くぜ。正直まだ殺し足りねぇからな」


「やれやれ。なら僕も付き合うよ」


「あん? 珍しいな。お前がオレの意見に同意するなんてよ」


「……ただの気まぐれだよ」


(と言っても、本音は君がバカをやらないように眼を光らせなきゃならないんでね……。まったく、嫌な役回りを押し付けられたものだよ……)


「おい、何やってんだ金狼。さっさと行くぞ!」


「はいはい……」



金狼、銀狼の二人も黒狼に続き、追撃を開始する。


………


……



「ん? 零治、連中、撤退していきますよ」


「そうか。黒狼達の反応は?」


「……どうも追撃するつもりみたいですね。私達はどうしますか?」


「勝敗はもう決しているから、これ以上奴らに付き合う義理は無いが……黒狼達に手柄を取られるのも癪だ。オレ達も追撃するぞ」


「分かりました」



そう言い、零治達も追撃を開始。

五色狼のメンバーが走り去っていった戦場には、彼らによって倒された兵士達だけが取り残され、その場に乾いた風が、まるで志半ばにして散って逝った者達の魂をあの世へと誘う鎮魂歌レクイエムを奏でるように吹き付けて、辺りに漂う血の臭いと共に砂埃を舞い上げた。


………


……



「信じられんな……」



後方で五色狼の戦いぶりを見ていた春蘭が、愕然とした様子で呟く。



「ああ。あれだけの数の大部隊が全く相手になっていないからな……」



秋蘭も姉の言葉に頷く。流石の彼女達も、いや、連合の諸侯全員がここまで一方的な展開になるなどとは予想もしていなかっただろう。



「あれではもはや一方的な虐殺ですね……」


「アレが……隊長の本気なんやろうか……?」


「分かんないのー。春蘭様、どうなんですかー?」


「分からん。私もあいつが本気を出した所は見た事が無いからな」



春蘭達は改めて、零治達の強さを思い知らされる。



「ん……? 春蘭様、秋蘭様。隊長達が追撃を始めたようです」


「そうか。ならば予定通り我らも追撃し、シ水関に一気になだれ込むぞ」


「はっ」


「先頭は私が行く。秋蘭達は私の動きに合わせながら後に続け」


「分かった」


「総員、移動開始だ! あの門が閉まるまでに無理矢理ねじ込むぞ!」



春蘭の号令と共に、魏の軍勢が五色狼に続き移動を開始。こうしてシ水関は連合の手に落ちたのだった。


………


……



連合がシ水関を落とし、それからすぐに今後の方針を決める軍議が開かれた。当然ながら、華琳は零治と亜弥にも来るように言っている。

しかし、二人は出来る事なら参加はしたくなかった。なぜなら……。



「ちょっと黒狼さん! 一体どういう事ですの!」



軍議を開いた張本人の第一声がこれである。袁紹のヒステリック叫び声が辺りに響く。



「何の事だ?」



黒狼は涼しげな顔で答える。



「話が違うではありませんか! 予定では貴方達は戦闘が終わったら退いて、追撃は他の者達に任せる手はずだったはずでしょうに!」


「当初の予定ではそのつもりだったが、あまりにも事が上手く運び過ぎたのでな。追撃も私達で行おうと現場判断したまでだが……問題でもあったか? 確かに連絡がそちらに行き届いてなかったのはこちらの不備だが、連絡しようにも兵を連れていなかったのでな……」


「キーッ! 上手い事言って! どうせ、シ水関を一番で抜けたかっただけなのでしょう!」


(あー……ウゼェなコイツ……。てか、よく黒狼を相手にここまで言い合えるものだな。ある種の大物だな、コイツ……)


「……シ水関に一番乗りしたのは影狼だから、その事は私に言われても困るのだが。それにだ、状況によっては現場の判断に任せると貴公も言っていたではないか。私はその指示に従っただけにすぎんぞ……」


「ま、まあ、二人とも落ち着いて……。結果的にシ水関は落とせたんですからいいじゃないですか」


「劉備もこう言ってるのだし、それでいいんじゃないかしら?」


「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬぬ…………っ!」



華琳と劉備はそう言って袁紹をなだめるが、袁紹は納得出来ていないようで、唸り声を上げながら黒狼を睨み付けるが、黒狼はそれを無言でどこ吹く風と受け流す。



「どうしてもと言うのなら、次の虎牢関攻略は私達が指揮を執っても構わないけれど?」


「良いでしょう。なら、追撃はわたくしが引き受けますわ! 虎牢関の一番乗りは譲ってもらいますからね!」


「……分かったわ。なら、それでいいわね」


(やれやれ。まるで学級会ですね……)



亜弥は華琳達のやり取りを見て呆れながら思う。これを軍議と言っていいのだろうか、と。


………


……



それからすぐに、華琳は自分の陣地で虎牢関攻略の細かい打ち合わせをするため首脳陣を集め軍議を開く。



「予定通り、虎牢関攻略の指揮権は引き受けてきたわよ。これで良いのよね、桂花」


「はい。ここで呂布と張遼を破れば、華琳様の名は一気に高まるでしょう。それは華雄如きの比ではありません」


「ただ……そのぶん強敵なんですよね?」



奈々瑠が不安げに訊く。



「呂布の武勇は天下無双。飛将軍の名は伊達では無いな。それに張遼の用兵は神出鬼没と聞く。恐らく、董卓の軍で最強の武将は奴ら二人だろう」


「……欲しいわね、その強さ」


「また悪い癖が……華琳様」



春蘭がまたかと言わんばかりに困った顔になり、秋蘭も華琳を諌める。



「今回ばかりはお控えください。張遼はともかく、呂布の強さは人知を越えております」


「ほお。そうなんですか?」


「用兵はともかく、個人の武では桁が外れていると聞いている。中央に現れた黄巾党の半分、約三万は、呂布一人に倒されているそうだ」


「一人? それって一部隊でって事なの?」



臥々瑠が首を傾げながら訊く。普通ならそう思うだろう。

だが、秋蘭は首を横に振る。



「いや、文字通りの一人、だ」


「秋蘭、それは確かなんですか?」


「情報元は人和よ。中央で一番有力な武将の名を訊いた時、一番に出て来た名前が呂布だったもの。その次が張遼だったわね」


「へえ。こっちの世界にもそんな事が出来る奴が居たとはな」



零治は桂花の話を聞いて、感心したように言う。



「……零治、貴方なら呂布を倒せるのではなくて?」


「華琳様っ!」


「春蘭は黙っていなさい。私は零治に訊いてるのよ」


「……はい」



華琳に言われ、意見しようとした春蘭はしぶしぶ黙る。



「どうなのかしら? シ水関での戦いぶりは報告で聞いてるから、貴方なら可能ではないの?」


「……出来なくはない。ただ……」


「ただ?」


「秋蘭のさっきの話が本当なら、仮に戦うとなると、本気を出す事になるかもしれんぞ……」


「何が言いたいの?」


「華琳、貴方なら分かるでしょう? 私達が本気で戦うと言う事は、神器の力を全て使うと言う事です。ですがこの世界の人間から見れば私達の術は仙術や妖術の類いに見られます。そんなものを他国の諸侯が集まってる連合内で使ったりしたら……」


「間違いなく、お前の風評に影響を及ぼす。それでも良いと言うのならやるが?」


「……分かったわ。……呂布は諦めましょう。でも張遼だけならどうなのかしら?」


「張遼の強みは個人の武よりも用兵に有ります。兵を奪い取った上で捕らえろという命であれば、兵は桂花が。張遼は姉者が何とかしてくれるでしょう」


「お任せください!」


「わ……私か!? また無茶を……」


「あら、してくれないの? 春蘭。桂花はしてくれるようだけれど?」


「……ふふん」



桂花はバカにしたような眼で春蘭を見ながら軽く鼻を鳴らす。

桂花のその態度が癪に障った春蘭は唸り声を出しながら、高まった気合いと共に意気込む。



「くぅぅ……っ! 張遼如き、物の数ではありません! 十人でも二十人でも、お望みの数だけ捕らえて参りましょう!」


(おいおい……。数が増えていないか?)


「音無、何だその眼は! 何か言いたい事でもあるのか?」


「いや、別に無いけどよ」


「けど何だ! 言いたい事があるならハッキリ言えばいいだろう!」


「いや、お前は華琳が本当に大好きなんだなぁ、と思ってな」


「当たり前だ! 既にこの身も心も華琳様に捧げているのだぞ。これ以上何をもって華琳様への忠誠を示せと言うのか!」


「なら、張遼は春蘭と桂花に任せるわ。見事、捕らえて見なさい」


「はっ!」


「お任せを」


「……気をつけろよ、春蘭」


「貴様に心配されるまでもない。華琳様の信頼を頂いたこの私に……敵などおらん! そう! 今の私は無敵!」


「分かった、分かったから。鼻息を荒げながら詰め寄るな、暑苦しい」


「ふふ、楽しみにしてるわよ、春蘭」


「はっ!」


「では桂花。全体の動きの指示を」


「はっ!」



一同は軍議を終え、虎牢関に向け移動を開始。

間もなく、連合の第二戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

作者「……この話には正直あまりいい思い出が無い」


零治「あぁ、そういや当時はコイツを投稿したその日に事件が起きたんだったな」


亜弥「そうですね。確かにあれは酷い出来事でしたね」


奈々瑠「人の事を悪く言う趣味はありませんが、ああいった事をする輩達の人間性を疑いますね」


臥々瑠「確かそれが原因で二か月くらい更新もストップしたよね?」


作者「したよ。だけど、あんな事言われりゃ誰だって書く気なんか失せるじゃん……。確かに当時のオレにも原因はあったけどさ」


零治「そうだな。まあ、それに関しては今もストップする可能性があるがな」


作者「今の所それは大丈夫だと思うが……バックアップのストックも残り少なくなってきたからなぁ」


亜弥「あと何話です?」


作者「十数話……」


奈々瑠「という事は、それが尽きたら」


作者「ああ。一から書き始める事になるから、今まで以上に更新に時間がかかるのは間違いない」


臥々瑠「まっ、あんまり待たせないように気楽に頑張りなよ」


作者「そうだな。それが一番だよな」

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