第24話 反董卓連合結成
さて、いよいよ本作の主人公零治と原作の主人公の一刀が対面します。
まあ大した会話はさせてませんが、一刀に対する扱いを少しでも楽しめていただけたら幸いです。
季衣と流琉の一件が解決してから華琳達はすぐに移動の支度を整え、袁紹が指定してきた連合軍の集合場所を目指して移動を開始した。
もう既に相当の距離を移動したのだろうか、いい加減、地面に降りたい思う零治は馬上からタバコの煙を吹かしながら不満を漏らす。
「まだ着かねえのかぁ? もう馬の上で揺られるのはウンザリだぜ……。……フーー……」
「何だらしない事を言ってるの。もう乗馬には慣れたんでしょう? ……それから、馬上でたばこを吸うの、いい加減やめなさいよ」
「嫌だ」
「はぁ……」
「兄ちゃん、それって身体に悪いんでしょう? だったら華琳様の言う通りやめようよ」
「そうですよ、兄様」
「……なあ、流琉。この前から気になってたんだが」
「何ですか?」
「なぜに兄様なの?」
「え? 季衣のお兄様なら、私も兄様でいいかなぁ……と」
「そりゃまあ、季衣の兄貴分を名乗ったのは確かだが……」
「……ダメ、ですか?」
「まあ、好きに呼べよ」
「はい! 兄様」
「その理屈だと、私は姉様になる訳ですか?」
「もちろんですよ、姉様」
「まあ、構いませんがね」
「お前はどっちかと言うと女王様じゃねぇの? 鞭にハイヒールに網タイツをセットにしてさぁ……ハッハッハ!」
「…………」
亜弥は零治の隣に馬を寄せ、ムッとした表情のまま無言で零治の後頭部を思いっきりどついた。
「ってぇ!? テメッ何しやが……って、ああっ! オレのタバコがっ!」
零治は殴られた衝撃で吸ってる途中のタバコを地面に落としてしまう。当然ながら馬に乗って移動してるので拾いに行く事は出来ないし、それをやると後続者に迷惑をかけてしまうので諦めるほかない。
「自業自得でしょ」
「ハッ! 冗談の解らねぇ奴だな」
「貴方の場合、冗談に聞こえないんですよ……」
「華琳様! 袁紹の陣地が見えました! 他の旗も多く見えます!」
桂花が目の前に展開されている連合軍の陣地を指差しながら言う。
「やっと着いたか。……奈々瑠、臥々瑠。フードで頭を隠せ」
「……兄さん。やっぱり、コレ着るの嫌ですよぉ」
「我慢してください。貴方達のその耳と尻尾は只でさえ目立つんですから」
「う~……暑~い……」
奈々瑠と臥々瑠は、零治達から例の耳と尻尾を隠すように言われてるので、全身を覆い隠すようなフード付の布を身に纏っているが、本人達は不満を漏らしている。
「曹操様! ようこそいらっしゃいました!」
陣地の出入り口から、顔良が出迎える。
「顔良か。久しいわね。文醜は元気?」
「はい。元気すぎるくらいですよ」
「結構な事だわ。……で、私達はどこに陣を張ればいいのかしら? 案内してちょうだい」
「了解です。それから曹操様、麗羽様がすぐに軍議を開くとの事ですので、本陣までおいでいただけますか?」
「分かったわ。凪、真桜、沙和、奈々瑠、臥々瑠。顔良の指示に従って陣を構築しておきなさい。それから桂花は、どこの諸侯が来ているのかを早急に調べておいて」
「御意」
「分かったのー」
「私は麗羽の所に行ってくるわ。春蘭、秋蘭、それと零治と亜弥も私に付いてきなさい」
「……オレ達もか?」
「他の将の顔も見ておくといいわ。損は無いはずよ」
「そうですね。分かりました」
零治達は華琳の後に続き、麗羽、つまり袁紹の居る本陣に足を運ぶ。
………
……
…
「おーっほっほっほ! おーっほっほっほ!」
華琳達が本陣に到着するや否や、金色の派手な鎧を纏った、華琳にも勝るとも劣らない金髪のクルクル頭の女性が、左手を腰に当て、右手を水平にしながら顎に添えて軽く上体を逸らしながら高笑いをしつつ華琳達五人を出迎える。
「……久しぶりに聞いたわね。その耳障りな笑い声……麗羽」
「華琳さん。よく来てくださいましたわ」
「…………」
華琳は心底ウンザリしたような顔で、腐れ縁の袁紹を見据える。
「さーて。これで主要な諸侯は揃ったようですわね。華琳さんがびりっけつですわよ、びりっけつ」
(ちょっ!? 華琳になんつー事をっ!)
「……はいはい」
(……あれ、スルー? 春蘭は?)
零治はさっきの言葉で華琳が切れると想像したのだろう。だが、その反応は予想外のもの。
不思議に思い、零治が春蘭達に視線を向けると。
「…………」
「…………」
春蘭と秋蘭も黙ったまま。いつもの事だと言わんばかりの反応だった。
(こっちもかい……)
「それでは最初の軍議を始めますわ。知らない顔も多いでしょうから、まずはそちらから名乗っていただけますこと? ああ、華琳さんはびりっけつですから、一番最後で結構ですわよ。おーっほっほっほ!」
「……なあ、秋蘭。もしかして、アレが……?」
零治が声を潜めながら秋蘭に尋ねる。
「ああ。この集りの主催者の袁紹だ」
「アレが……ですか……?」
亜弥も半信半疑の眼で袁紹を見つめながら言う。
「どう見てもただのバカだろ……」
「言うな……。あれでも三公を輩出した名家の出身で、自身も司隷校尉だ。恐らく、ここに揃った一同の中では一番地位が高いはずだぞ」
「……亜弥、そうなのか?」
「ええ。華琳は西園八校尉。向こうは司隷校尉。確かに袁紹の方が上ですね」
「そこ。何をくっちゃべってますの!」
「むっ……失礼」
「……幽州の公孫賛だ。よろしく頼む」
連合に集まった諸侯たちが順に挨拶を始める。
「平原郡から来た劉備です。こちらは私の軍師の諸葛亮」
「よろしくお願いします」
劉備の脇に控え、大きな帽子をかぶった背の低い少女がぺこりとお辞儀をして挨拶する。
(諸葛……って、あのチビがか? それに、この時期はまだ三顧の礼は済んでないはずだが……)
「涼州の馬超だ。今日は馬騰の名代としてここに参加する事になった」
次に、茶髪のポニーテールと太い眉毛が特徴の、頭に鉢金を巻いた女性が名乗る。
「あら、馬騰さんはいらっしゃいませんの?」
「最近、西方の五胡の動きが活発でね。袁紹殿にはくれぐれもよろしくと言付かってるよ」
「あらあら。あちらの野蛮な連中を相手にしていてはなかなか落ち着く暇がありませんわねぇ」
「……ああ。すまないが、よろしく頼む」
「袁術じゃ。河南を治めておる。まあ、皆知っておろうがの! ほっほっほ!」
煌びやかな衣装を身に纏った、この場にはあまりにも不釣り合いな少女が袁紹に似たような高飛車な態度で挨拶をする。
「ん? 亜弥、確か袁術って……」
「ええ。袁紹の従弟……あ、いえ、この場合は従妹と言うべきですね」
「流石に血縁者だけあってか、どことなく雰囲気とかが似てるな」
「私は美羽様の補佐をさせていただいています、張勲と申しますー。こちらは客将の孫策さん」
孫策は黙って席を立ち、一同に軽くお辞儀をして、そのまま席に着いた。
「…………むっ」
「彼女が孫策か……」
「次、びりっけつの華琳さん、お願いしますわ」
「……典軍校尉の曹操よ。こちらは我が軍の夏侯惇、夏侯淵……それから、音無と神威」
零治達の名の聞き、他の諸侯達の間にどよめきが走り、その場に居る人間全員の視線が零治と亜弥の二人に集中する。
「ん? どうしました?」
「あーら。その貧相なお二人が、天からの遣いとかいう輩ですの? どこの下男と下女かと思いましたわ」
「華琳。これはどういう事だ……?」
「適当に噂を流しておいたのよ。まさか、皆が知っているとは思わなかったけれど」
「勘弁してくださいよ。只でさえ私達は目立つ存在なのに……」
と、その時。
「ほう。では、私達もその天の遣いと名乗った方がいいのか?」
「……誰?」
「零治、この声は……っ!」
「ああ。どうやら感動の再会のようだぞ」
零治達が居る軍議の場に、全身黒ずくめの服装をした三人組の男……黒狼、金狼、銀狼が、そしてその少し後ろからは、白が基調となった黒狼達とは全く正反対のカラーリングの、ポリエステル製の学生服を着た北郷一刀が現れる。
「…………」
「やあ、白狼。久しぶりだね」
「クックック。やっと会えたなぁ、影狼」
「黒狼……っ!」
(……ん? あの青年は誰でしょう。見た所学生みたいですが……)
「久しぶりだな、影狼……」
黒狼達の出現により、辺りに緊迫した空気が張り詰める。零治に至っては今にも黒狼に斬りかかりそうなほどだ。
「華琳様、もしやこやつらが……」
秋蘭は黒狼達に視線をやりつつ、華琳に顔を近づけて耳打ちをする。
「ええ。服装も零治達と同じだし、恐らく間違いないわね」
「しかし、何やら音無達の事を、影狼だの白狼だのと呼んでいますが一体何の事でしょうか? それに、音無が言っていた特徴と一致しない奴が一人いますが」
「それは本人達に後で訊けば良いだけよ。それよりも……貴方達、一体何者?」
華琳は凛とした態度で黒狼達に問いかける。
「ん? あぁ、軍議の邪魔をして失礼したな。私の名は黒狼。そこに居る、劉備達の下に降り立った天の御遣いだ」
「へえ~、劉備の下に……ね……」
華琳が劉備に興味深げな視線を向ける。
「え? あの、何か?」
「いえ、何でもないわ」
「貴様……っ! ぬけぬけとそんな事を……っ!」
零治の視線は黒狼の一点に集中し、険しい表情で睨みつけながら叢雲の鞘を握りしめ、禍々しい殺気を放つ。
「お、おい。亜弥……っ!」
零治のあまりの豹変ぶりに、春蘭は軽くたじろぎながら亜弥に尋ねる。
「何です?」
「音無の奴、一体どうしたのだ? あいつらが現れてから様子が変だぞ」
「うむ。さっきから今まで感じた事の無いほどの殺気を放ってるぞ。正直、味方である我らも恐怖を覚えるほどだ……。お前達とあ奴らはどういった関係なんだ?」
「……もう分かってるでしょうが、奴の名は黒狼。私達の元上官、そして、零治に戦い……つまり人殺しの術を教えた人物です」
「という事は、あの男は音無の師に当たる人物なのか?」
「まあ、そうなりますかね……」
「断じてそんな関係ではない! 少なくとも今はなっ!!」
会話が聞こえていたのか、零治は脇目もふらずに怒声を上げ、その場に居る諸侯全員が肩をビクッと震わせる。
「落ち着け、影狼。そんなに大声を出すな。皆が驚いてるぞ?」
「黙れっ! オレに指図するな!」
「やれやれ。血気盛んな事だな……」
「……華琳、悪いがオレは陣に戻らせてもらう。これ以上ここに居ると……この場に血の雨を降らせちまいそうだからな」
「ええ、分かったわ。……零治、後で話を訊かせてもらうわよ」
「ああ……」
零治は苛立った表情でその場を後にする。
「華琳、すみませんが私も……。今の彼を一人で陣に戻らせるのは色々とマズイ気がするので……」
「ええ。そうしてちょうだい」
「あれぇ? 行っちゃうのかい、白狼。もっと僕と再会の喜びを分かち合わないかい?」
「……私に話しかけないでもらいましょうか、金狼……。では、失礼」
亜弥はチラリと金狼に殺気の籠った視線を向けるが、すぐに向き直り零治の後を追うようにその場から立ち去る。
「……姉者」
「ああ。ほんの一瞬だが……亜弥も音無と同等の殺気を放ったな」
「あの様子だと余程の深い因縁があるのだろうな……」
「では私達も失礼するか。旧友の顔も見た事だしな。……貴様ら、行くぞ」
「けっ! 影狼の野郎、オレを無視しやがって……っ!」
「そんなのいつもの事だろ?」
「……ん? あ、ちょっと!? 三人とも俺を置いてかないでくれよ!」
黒狼も金狼と銀狼を連れ立って軍議の場を立ち去り、一刀は慌てながらその後ろ姿を追いかける。
零治達が居なくなった事でその場に奇妙な沈黙が残る。
「……ウチの者が失礼したわね。麗羽、続きを」
「えっ? あ、ああ、そうですわね。……では、最後はこのわたくし……」
「それは皆知っているのだから、いいのではなくて?」
「だな。有名人だし」
華琳の言葉に公孫賛も同意する。
「そ、それはそうですけれど……っ!」
「軍議を円滑に進めるための名乗りだろう? なら、必要ないんじゃないか?」
馬超もこう言っている。袁紹は不服な顔をしながらも、しぶしぶ名乗るのを諦める。
「うぅ……三日三晩考えた名乗りですのに……。まあ、仕方ありませんわね。有名人なのですもの、わたくしの事は皆、とっくに熟知しているという事で」
零治がこの場に居たら間違いなくこう言っていただろう。コイツはバカだ、と。
「では、軍議を始めさせていただきますわ。僭越ながら、進行はこのわたくし! このわ、た、く、し、袁本初が行わせていただきますわ! おーっほっほっほ!」
「早く始めなさい」
華琳が苛立ちを交えて先を促す。
「では、最初の議題ですが……このわ」
「現状と目的の確認だろ?」
と、公孫賛が述べるが、袁紹は間違いなく別の言葉を言いかけていた。
とりあえず袁紹は一旦、自分が言おうとしていた言葉は置いておき、公孫賛が言った現状と目的について説明を始めようとするのだが……。
「え……ええ、そうですわ。このわたくしが集めた、反董卓連合軍の目的ですが……」
「都で横暴を働いているという董卓の討伐、でいいのよね。ただ、董卓という人物を私はよく知らないのだけれど、誰か知っている人間は居るのかしら?」
と、今度は華琳が代弁する。
もうこの時点で、この場に居る誰もが袁紹には一言たりとも喋らせたくないというのが見て取れる。
「妾も知らんのじゃ。どこぞの新参者か小領主と思うておったが、聞いた覚えのある者はおるか?」
「私も同じだ。本初は?」
「わ……っ、わたくし!? そんなどこの身分とも知らない者を、わたくしがいちいち知っているとお思いですの?」
「知らないんだな。なら、そいつの事は逐次情報を集めるって事で。異議のある奴は?」
公孫賛が周りの諸侯を達を見回しながら聞くが、誰も何も言わない。
「……特に無いようね」
「つっ、次は……」
「都までどうやって行くかじゃな」
「……そ、そうですわ。この大軍団をわたくしがどうやって率いるかですが……」
「後でクジか何かで順番を決めようぜ。その順で行軍すればいい。どうせ戦闘になれば配置は変えるんだから、問題ないだろ?」
「良いのではなくて? 経路は?」
「け……経……」
袁紹は口ごもる。
連合軍を結成した張本人であるにもかかわらず、軍勢を率いる道を選定していないのは明らかだ。
それを知ってか知らずでなのか、袁術が傍らに控えている張君に尋ねる。
「七乃。どういう道程になるのじゃ。皆に説明してたもれ」
「はい。この大人数ですから、街道に沿った移動になりますねー。間の大きな関所はシ水関と虎牢関になりますから、この辺り、もしくはその前後の広い土地で戦闘が起こると予想されまーす」
「そ、そうですわ。きっと、その辺りで戦闘になるはずですわ! それで……」
「関所の将は?」
「シ水関は華雄と張遼、虎牢関は呂布と報告が入っていますが、この連合が出来る前の調査ですから、間者を放って改めて調べる必要があるかと思いますけどー……」
「あのね、白蓮ちゃん。調査くらいなら私達でやるよ? 朱里ちゃんが、まずはこの辺りの小さな任務を引き受けて、様子を見た方がいいって言ってるし……」
「そうか? じゃあシ水関の偵察は私の所でやろう。機動力の高い兵も居るしな」
「なら、シ水関の調査は公孫賛達でいいわね。さしあたり必要なものは、そんなものかしら」
「ま、まだ、大事な議題が残っていますわ!」
「何だ?」
「シ水関を誰が攻めるか……かの?」
「それは調査のついでに白蓮さんの手勢で攻め落とせばいいんですわ」
「おいおい、そんな無茶な……!」
「あら。白馬長史の白馬軍団は、砦の一つも落とせない仰いますの? 所詮、蛮族を相手に野原を駆け回るの精一杯ですのねぇ……。おーっほっほっほ!」
袁紹に煽られ、公孫賛は悔しげな表情で袁紹を睨み付ける。その姿を見かねた劉備は必死に公孫賛をなだめる。
「白蓮ちゃん、落ち着いて……」
「……むー! 分かった! やればいいんだろ、やれば!」
一見軍議は何の問題もなく進んでるように見えるが、一同が袁紹に余計な事を喋らせたくないからか、協調性が無くグダグダに進行してるようにしか見えない。
「なら決定ですわね。白蓮さん、せいぜい頑張ってちょうだいな。というか、そんな事はどうでもいいんですわ」
「……で、何」
「この連合を誰が取りまとめ、仕切るかですわ!」
袁紹に他の諸侯から呆れた視線が向けられる。その視線が、それこそどうでもいい事だと、語ってるのは火を見るよりも明らかである。
「はいはい。麗羽でいいわよ」
「もう何でもいいよ。他にやりたい奴は居るか?」
「なら、妾が……っ!」
袁術が名乗りを上げるが、周りからは完全に無視される。
「なら決まりね。麗羽、貴方がやれば?」
「そ、そうですか! 皆がそこまで言うのであれば、不肖この袁本初が務めさせていただきますわ! おーっほっほっほ!」
「……なら、大事な議題とやらも終わったし、これで解散という事でいいわね」
「そうですわね。なら、かい……」
「解散!」
袁紹の代わりに春蘭が解散の号令をかける。最後の最後まで袁紹は蚊帳の外の扱いであった。
「孫策!」
諸侯たちが解散する前に、春蘭は孫策を呼び止める。
「あら……久しぶりね。どうしたの?」
「うむ。我が主が挨拶したいと……」
「……陳留の曹操が?」
「私の名、知ってくれているのね。光栄だわ」
「黄巾の首謀者を討った曹孟徳の名くらいは、流石に知っているわよ」
「なら、話が早いわ。先日はウチの部下が随分と借りを作ってしまったようね」
「借りねぇ。……盗賊退治も手伝ってもらったし、楽させてもらったから別にいいんだけど」
孫策は苦笑する。本人にはそう言うつもりは無いようだ。
「そうもいかないわ。この借りは折りを見て、必ず返させてもらう。よく覚えておいて」
「……この戦いで?」
「さあ。この戦いか、この先の別の機会か……」
「そ。まあ、期待しないで待っておくわ」
「孫策! 何をしておる! 早よう来やれ!」
「ちっ……うるさいわねぇ……。……それじゃ、袁術が呼んでるから行くわ」
「ええ」
「華琳様……」
「流石は江東の虎の娘ね。春蘭の言った通りの人物だわ。良い眼をしている……。さて、陣に戻るわよ。零治達から話を聞かないと」
華琳達は零治から話を聞くため、自分達の陣へ足を運ぶ。
………
……
…
「あっ! 華琳様っ!」
「ん? 凪、そんなに慌ててどうかしたの?」
「いえ、その……。あの、華琳様、隊長と亜弥様……どうかしたんですか?」
「……軍議でちょっと、ね……。ところで、二人はどこに?」
「……あそこの天幕に……」
凪がすぐそばに立てられてる天幕を指差すのだが、なぜか天幕の入り口からモクモクと煙が立ち昇っていた。それこそ、中で焚き火でもしているのではないかと思ってしまうほどの勢いで。
「凪……」
「……はい」
「二人は……中で何をしてるのかしら……?」
「多分……たばこを吸ってるんじゃないかと……」
「……煙の量から察するに、相当吸っているんじゃないのか……?」
「はい。戻ってきてから、ずっとあの調子なんです」
と、その時。
「げほ、げほっ! いい加減にしてくださいよ! いくらイライラしてるからって、こんな狭い天幕の中で何本も連続でタバコを吸うなんて!」
煙でむせ返りながら亜弥が天幕から姿を現し、入り口から立ち上る煙を手と使ってバタバタと煽り飛ばす。
「うるせぇ! お前も吸ってただろうが!」
「はぁ……もう……」
「……亜弥」
「あ、華琳。……いや、すみません。お見苦しい所を……」
「気にしないで。それより、零治は……中に?」
「ええ。ですが、話をするんなら……中には入らない方が良いかと」
「そうね……。これじゃあ、天幕の中ではまともに話も出来そうに無いわね」
「でしょう? 今呼び出しますね。……零治、華琳が来ましたよ」
「聞こえてる。今出る……」
それからすぐに、零治も煙と一緒に天幕から出てくる。
「…………」
「……相当苛立ってるみたいね……」
「分かってるんなら訊くな……」
「……零治、彼らについての説明を頼めるかしら」
「……ここじゃマズイ。人払いを頼む」
「分かったわ。なら、私の天幕に行きましょう。……凪、悪いけど入り口の見張りを頼めるかしら?」
「分かりました」
「春蘭、秋蘭。貴方達も来なさい。構わないわね、零治」
「ああ」
「なら、行きましょう」
一同は華琳の天幕に移動し、凪を入口の前に見張りとして立たせ、華琳達は中で話し合いを始める。
「では零治、訊かせてもらおうかしら。彼らの事について」
「ああ。だが、こっちも何を話すべきか分からんのでな、悪いが質疑応答形式で頼む」
「分かったわ。……まずは、彼らとの関係を教えてくれるかしら」
「それは初めて会った時に言っただろ、敵同士だと……」
「それは分かってるわ。どうしてそうなったのかを訊きたいのよ」
「…………」
しばらく押し黙ったままだった零治はやがて重い口を開き、過去に何があったのか、そして何をしていたのか洗いざらい全てを話し始めた。
自分達の一度世界が崩壊した事や元居た世界での黒狼達との関係。叡智の城の存在。
奈々瑠達の正体、自分達が使っている神器の力。
そして、元の世界で黒狼が何をしようとして、零治達はどういう行動をとったのかを……。
「「「…………」」」」
華琳、春蘭、秋蘭の三人は零治の口から明かされた話の内容に呆然としていた。
世界が崩壊を起こし、大陸の地形が完全に変わってしまい、世界の人口の半数以上が死に絶えてしまった。
未来の出来事とはいえ、その内容は作り話だと言われても仕方いような話だ。だが華琳は零治の態度を真摯に受け止め、口を開く。
「そう。貴方の世界でそんな事が。……零治」
「ん?」
「話してくれて、ありがとう」
「別に礼を言われるほどの事じゃない……」
零治はそっぽを向き、ぶっきらぼうに答える。
「そう。……それから零治、まだ教えてもらってない事があるわよ」
「分かってる。あの時の事だろ。ちゃんと話すさ……」
「ん? 華琳様、あの時の事とは?」
「貴方達二人に無理やり休みを取らされた日の事よ。……秋蘭、零治に私の居場所を教えたのは貴方ね」
「はい。教えたと言っても、遠回しにですが。あの時に何かあったのですか?」
「っ!? まさか、音無! 貴様ぁ、華琳様がお休み中に何かよからぬ事を!」
何を想像したのかは分からないが、春蘭がとんでもない勘違いをしているのは誰が見ても間違いないだろう。
「んな事するか。それからな、今のオレはお前のおふざけに付き合えるほど心にゆとりが無いんだ。さっさとその剣を引っ込めろ……」
「なんだとぉ! この私がふざけているだと!」
「春蘭……」
「うっ……は、はい。申し訳ありません」
華琳はジロリと春蘭を睨み付け黙るように言い、その視線に気圧された春蘭はシュンとして黙り込む。
「はぁ。まったく……。で、話を戻すわね。あの時、零治があの場に現れたから私は寝たふりをしていたのよ。その時、零治が誰かと話をし始めたのよ。相手の声は聞こえなかったけれど」
「……それがどうかしたのですか? 別におかしな点はありませんが」
と、秋蘭は首を傾げながら言う。
確かにこれだけなら、なんらおかしな点は一切無いと誰もが思うだろう。だが問題はこの先にあるのだ。
「ええ。ここまでならそうね。それで私も気になって軽く眼を開いたら、零治はこちらに背を向けていたからちゃんと眼を開いてみたわ。でも……零治の向かいには誰も居なかった。なのに零治はその何も居ない所に向かって怒鳴り声をあげ、挙句の果てには剣を振り回し始めたわ……。そして、今でも憶えてるわ。零治が何度も『死神』という単語を発していた事を」
「……お、音無。お前まさか……心の病に……」
よりによって春蘭に言われてしまうとは。
不快に感じ取った零治はブスッとした表情で反論する。
「おい。人をそんな危ない奴みたいに見るな。オレの心は至って正常だ」
「零治。まさか……」
「ああ。また奴が現れたんだ……」
「やはり……」
「ん? 亜弥は知っているの?」
「ええ。実は……」
「いいんだ。自分で話す」
零治は亜弥を手で制し、黙るように言う。
俯いていた零治は軽く溜息をつき、口を開く。
「華琳、実はオレな……死神に取り憑かれてるんだよ……」
「……何ですって?」
「…………」
「……音無、それは新手の冗談か何かか」
春蘭が何を言ってるのだと言いたげな眼で零治を見ながら言う。
無論、春蘭だけに限らず、華琳と秋蘭も余りにも現実離れした内容に眼を点にしてしまい、三人とも信じられないと言いたげな顔をしている。
「三人とも、彼が言ってる事は本当です。実際に私もその死神の姿を一度だけですが見た事があります……」
「……本当なの、零治」
「…………」
零治は華琳を正面から見据え、無言で頷く。
華琳は思う。その雰囲気から嘘を、ましてや冗談を言っているようには見えないと。
それまで横で話を聞いていた秋蘭がおもむろに口を開く。
「音無。その……だ、その死神とやら……まさか我らにも何かするつもりとかは……」
「それは無いな。奴はオレ個人に用があるみたいだからな。まあ、ひょっとしたらいきなり姿を現して脅かすぐらいはしてくるかもしれんが」
「零治、そいつは今もここに居るの……」
零治はチラリと自分の背後に視線を向ける。だがそこには何も居ない。そして声も聞こえない。
「いや、今は居ないみたいだ。奴は気まぐれだからな……」
「そう……」
「なあ、音無。何か心当たりはあるのか? 取り憑かれた事について」
(……春蘭の奴、珍しくまともな質問をしてきやがったな。意外だ……)
「何だ。私の顔に何か付いているのか?」
「いや、何でもない。……そうだなぁ。心当たりは正直ありすぎて困るんだが……」
「……どういう事だ?」
「こっちの世界でもそうだが、オレは元居た世界で大勢の人に恨みを買うようなことをしてきたからな。そいつらの恨み辛みが寄り集まり、あの死神を形作ったのかもしれん……」
「零治、その死神とやらはいつ頃から貴方の前に現れるようになったの?」
「……オレが叢雲を手にしてからしばらく後だな。正確な日までは憶えてない」
「そう。なら零治、貴方はあの時、そいつに何を言われたの? あれだけ怒っていたのだから、よほどの事なんでしょう?」
「…………」
零治は華琳の質問に口をつぐんでしまう。
あの時、死神に言われた事。それは自分の本性についてだ。どうしたものかと零治は悩んだが、これは自分自身の問題なのだ。仲間を頼るのも確かに一つの手だが、自分の手で答えを見つけたい。
そういった想いから零治はあえて答えない事にした。
「すまん。こればっかりは言いたくない……」
「…………」
「華琳、あの時オレが言っていた言葉を憶えているのなら、ある程度は理由も分かるだろ。別にお前達の事を信用していない訳じゃない。だが……こればかりは自分の手で答えを見つけたいんだ。分かってくれ」
「ええ。分かったわ。……あぁ、そうそう。それから軍議の場に現れた連中だけど、零治、貴方は私と初めて会ったとき、三人と言っていたわよね」
「ああ」
「でも、あの場には四人いたわ。そのうち一人は、貴方が言っていた特徴と一致しない。これについては何か知ってるの?」
「……そんな奴いたか?」
零治は首を傾げる。
この様子だと零治はあの時、一刀の存在が視界内に全く入っていなかったという事になる。
「零治、貴方まさか見てなかったんですか……」
「すまん。黒狼があの場に現れて、完全に頭に血が上っていたから」
「やれやれ。貴方は黒狼の事となると周りが見えなくなる癖があるみたいですね。それ、今後のためにも今の内に直すようにしといた方が良いですよ」
「努力はする……」
「まったく。この分じゃ零治には訊くだけ無駄ね。亜弥、貴方はどう。何か知っているの?」
「いえ、私も彼については何も知らないです。服装から唯一分かるのは学生だという事ぐらいですね」
「がくせいって?」
「この世界で言うと私塾の生徒の事です。私が以前話した学校という所では、通学、要するに学校へ通うために専用の正装、制服が用意されるんですよ。彼が着ていたのは間違いなく学校の制服ですね」
「なるほど。なら、あの男も貴方達と同じ世界から?」
「いえ、それなんですが……彼が着ていた制服、私も初めて見る物だったんですよ。単に私が知らないだけという可能性もありますが、もしかしたら……」
「もしかしたら?」
「私達とは別の世界、いえ、もっと正確に言えば、私達が居た時代とは別の時代から来た可能性があります」
「なるほど。華琳達にとってはそいつは未来から来た人間だが、オレ達にとっては過去、あるいは未来の時代の人間になる可能性があるわけか」
「その通りです。これについては本人から直接話を訊くしか知る術はありませんが……しかし、面倒な事になりましたね……」
「ああ。奴らが劉備の下に付いたとなると、劉備軍の動きには常に細心の注意を払っておく必要があるな」
「そうね。この事は桂花にも伝えておきましょう。後は……」
「華琳様、今よろしいでしょうか?」
「……零治、もういいかしら?」
「ああ。話すべき事は全て話したつもりだ」
「分かったわ。……いいわよ、凪。入りなさい」
凪が一礼して天幕の中に入ってくる。
「失礼します。華琳様、連合軍が移動を始めるそうですので、撤収作業を始めたいのですがよろしいでしょうか?」
「ええ。頼むわ」
「はっ。では、失礼します」
「なら、私達も手伝いに行きますかね」
「ああ」
零治達は作業の手伝いをするため、外に出始める。
「そうだ。三人とも……」
「なに?」
「さっきの話を聞いたから理解してると思うが……間違っても奴らと闘おうなどとは思うなよ……」
「ええ。分かってるわ」
「春蘭、お前もだぞ?」
「…………」
零治は釘を刺すように、春蘭に言い聞かせるが彼女は何も言わない。
やはり、武人として闘いを放棄するような真似はしたくないのだろう。
「姉者」
「……ああ、分かった」
「それと、華琳……」
「ん? まだ何か?」
「……軍議の場ではすまなかった。つい頭に血が上ってしまって……」
「ええ、まったくよ。おかげで恥をかいてしまったわ」
華琳は厳しく零治を咎める。
「返す言葉も無い」
「でも……さっきの話を聞いて、あの時の貴方の気持ちは理解したつもりよ。だから特別に許してあげるわ」
「すまん」
「華琳様」
「あら、凪。今度はどうしたの?」
「はっ。劉備軍の者が華琳様に面会を求めているのですが、いかがいたしましょう?」
「私に面会? 相手は誰なの?」
「はっ。黒狼と名乗っていましたが……」
その名を聞き、一同の顔に緊張が走る。
「なんだとっ!?」
「隊長?」
「零治、気持ちは分かりますが、ここは落ち着いて」
「……ああ」
「どうなさいますか? 華琳様……」
「……零治、罠の可能性は?」
「恐らく無いだろう」
「なぜそう言い切れるんだ?」
「奴はそんな回りくどい事はしませんよ。私達を本気で潰すつもりなら、正面から向かってくれば済む話ですからね……」
「つまり……あの男にはそれだけの実力が有るという事か……」
「そうだ」
「分かったわ。……凪、その者をこちらに通しなさい」
「はっ」
凪は一礼し、その場を後にする。それからしばらくして。
「華琳様。お連れいたしました」
凪に連れられて、黒狼と、どういう訳か一刀も一緒にやってきた。
「お目通りしていただき感謝する。曹操よ」
「凪。貴方は下がっていいわ。他の者の作業を手伝いなさい」
「はい」
「…………」
零治は警戒するように黒狼を無言で睨み付け、いつでも行動が起こせるように左手には叢雲の鞘がしっかりと握られている。
「フッ。そう睨むな影狼。私はお前達と事を起こすために来たわけではないぞ?」
「そうだろうな。少なくとも……今はな……」
「零治……」
「ああ。話の邪魔をして悪かった」
「それで、私に一体何の用かしら?」
「何、そんな難しい話をしに来たのではない。ただ、シ水関の攻略で提案があってな」
「提案?」
「そうだ。私は一部の諸侯達の下らん権力争いに付き合っていられるほど暇ではない。それは貴公も同じであろう? 曹操……」
「…………」
華琳は黙って黒狼の言葉に耳を傾け、黒狼は淡々と話を続ける。
「貴公も気付いているはずだ。この戦いの裏に袁紹が絡んでいる事に……」
「そうね。しかし、それがさっきの話とどう関わってくるというの?」
「この戦いで董卓自身がどうなろうが私の知った事ではないが、袁紹のバカが提案する作戦に付き合うつもりも無い……。あの関の攻略を、公孫賛の軍に任せるには荷が重すぎるのでな。そこでだ、シ水関の攻略は私達が引き受けようと思ってな……」
「貴方も劉備軍の一員なのだから、それだと大して変わらないのでは?」
「いや、攻略に当たるのは正確には劉備軍ではない。……我ら、五色狼だ」
「五色狼……? 零治、一体何の事なの?」
「オレ達が所属していた部隊名の総称だ……」
「なるほど。……それはつまり、シ水関の攻略に、零治と亜弥を貸してほしいという事かしら?」
「そうだ」
「……もし断ったら?」
「別にどうもせん。その時は私と金狼、銀狼の三人で事に当たるさ。ただ、攻略時間の短縮のためにその二人を貸してもらいたいだけなのでな。他意は無い……」
「一つ訊いてもいいかしら?」
「何だ?」
「そちらはどの程度の兵力で攻略に当たるつもりなの?」
「……なぜ兵を使う必要があるのだ」
「なんですって?」
「兵など居ても邪魔なだけだ。シ水関の攻略は、文字通り我らだけで行う……」
「それは……仮に零治と亜弥を貸した場合、たったの五人で戦うつもり……?」
「そうだが?」
「…………」
「はんっ! 貴様どうかしてるんじゃないか? たったの五人でシ水関が落とせると本気で……」
「夏侯惇、貴公には訊いていない。話の邪魔をしないでもらおうか……」
それまで黙っていた春蘭が会話に割り込むが、黒狼が凄まじい威圧感を放ち春蘭を黙らせる。
それはまさに、一刀が黒狼に探りを入れ、一刀を黙らせるために放ったものと同等の威圧感だった。
(くっ! 何だ、この威圧感はっ!?)
(普通に話しているだけなのに、どうやったらこれほどの覇気が纏えるのだっ!?)
「……大したものね。口だけで春蘭を黙らせるなんて……」
春蘭と秋蘭は黒狼の纏う覇気に完全に気圧されてしまい、息が詰まりそうな緊張感を憶えるが、華琳はそれに臆する事も無く、黒狼を正面から見据えながら一人の王として振舞う。
「はて。なんの事かな?」
「……先程の話だけど、麗羽にはこの事は?」
「ああ、袁紹の事なら心配はいらん。既に私が話をつけてきてる」
「へえ~……一体どうやってあの麗羽を納得させたのかしら?」
「そんな事はどうでもよかろう。して、返答は?」
「…………」
「フッ。まあそう結論を急ぐ必要もないが、シ水関に着くまでには返答を聞かせてもらいたいな」
「分かったわ」
「話は終わりだ、私は失礼する……」
「……待てよ」
黒狼が一刀と共にその場を立ち去ろうとしたので、零治が背後から二人を呼び止める。
足を止めた黒狼はゆっくりと零治の方向に振り返り、口を開く。
「何だ。私に何か用でもあるのか……」
「貴様には無い。オレが用があるのは……連れの方さ」
「えっ!? お、俺!?」
いきなり指名された一刀は自分を指さしながらうろたえる。
一刀は黒狼に置いてかないでくれよと無言の視線を向けるが、黒狼がその頼みを聞き入れるはずもなかった。
「フッ。だそうだ、北郷。私は向こうで待っているぞ……」
「なっ!? ちょっと待っ……!」
一刀は一瞬、黒狼のコートを引っ張ってでも引き止めようかと考えたが、それをやった瞬間に自分の腕が斬り落とされるんじゃないかという恐怖の未来像が脳裏をよぎったため、それも出来ずにその場に取り残されてしまった。
一刀は非常に居心地の悪い空気を感じ取る中、恐る恐るの口調で零治に話しかける。
「え、えーっと……お、俺に何の用ですか……?」
「華琳、悪いが席を外してくれないか。オレ達だけで話がしたいんでな」
「いいでしょう。ただし……」
「分かってる。ちゃんと報告はするさ」
「結構。……春蘭、秋蘭。そういう事だから、行くわよ」
「はっ!」
「御意」
零治に言われ、華琳は春蘭と秋蘭を連れて、自軍の撤収作業の指示をするべく、その場を後にする。
残されたのは、零治と亜弥、一刀の三人のみ。しばらく互いに黙ったままだったが、おもむろに零治が口を開く。
「お前、名前は?」
「な、名前かい? えぇっと、俺は北郷一刀」
「そうか。オレは音無零治。こっちは神威亜弥」
「よろしく」
「あ、えっと、こ、こちらこそ」
零治は相変わらず無愛想な態度のままだが、亜弥は丁寧なお辞儀をし、一刀も慌ててお辞儀をする。
お辞儀から姿勢を元に戻した一刀はまじまじと亜弥の顔、というより、服の下からも主張をしている大きな胸に視線が釘着けになる。
(うわ~……この人、すっげぇ美人だなぁ。それに……あの胸。服装のせいで分かりにくいけど、間違いなく……大きいっ!!)
「ん? 私の顔に何か付いていますか?」
「あっ! い、いえ。何でもないです……っ!」
一刀はバタバタと両手を振ってその場を誤魔化すが、零治が容赦なく亜弥のどこを見ていたのかを指摘してくる。
「ケッ! どうせコイツのデカい胸に見とれていたんだろ? お盛んなガキだな……」
「っ!?」
「ふむ。……以後は貴方の事、ゲスと呼んでも?」
「ごめんなさい。それは勘弁してください……」
「ったく。……おい、お前の事、一刀って呼んでいいか? オレの事も下の名前で呼んで構わん。どうせお前にも真名は無いんだろ」
「お前もって事は……じゃあ、君達も……」
「ええ。貴方と私達は同じ境遇なんですよ。私の事も下の名前で呼んでも構いませんので」
「そうなのか。……じゃあ、改めてよろしく。零治、亜弥」
「ああ。で、だ、一刀。お前に幾つか訊きたい事がある」
「何だい?」
「まず、お前自身についてだ。見た所、学生みたいだが……どこの学校の生徒だ?」
「俺の学校? 聖フランチェスカ学園。俺はそこの二年生だけど」
「聖フランチェスカ学園……?」
「そんな学校、聞いたこと無いですね……」
一発目の質問から零治と亜弥の頭上にハテナのマークが浮かび上がる。
「嘘だろ? 結構有名なはずなんだけど……」
「……出身はどこだ?」
「出身? 東京都台東区の浅草だけど」
「トーキョー? アサクサ?」
またしても零治の頭にハテナマークが浮かび上がるが、亜弥は知っているらしく、零治に補足を加える。
「東京とは私達の世界にかつて存在した、確か日本って呼ばれていた国の首都名ですね。浅草はそこの地名です」
「なるほど。という事は、一刀はオレ達にとっては過去の時代の人間になるわけか……」
「なあ、その反応から察するに、君達はもしかして……」
「ええ。貴方にとって私達は未来の人間になるんですよ」
「やっぱり。黒狼の事も知っているみたいだし、彼と同じ時代の……?」
「認めたくはないがその通りだ」
「なあ。俺も質問してもいいかな?」
「ああ」
「俺の出身地を聞いて、零治は分からなさそうな反応をしてたんだけど……君達の時代では、日本はどうなってるんだい?」
「……知らない方が良いと思うぞ」
「なんでさ? こっちはちゃんと質問に答えたんだ。そっちだけ答えないってのは不公平だと思うんだけど……」
「確かに貴方の言う通りですが……その歳なら世の中には知らない方が良い事もあるという事ぐらい分かるのでは……?」
「……そんなにヤバい内容なの?」
「かなりな……」
「…………」
「それでも訊きたいか?」
「……いい。やめておく」
「それが正解だ。……一刀。もう一つ訊きたい事がある」
「何?」
「お前、この世界に来る直前の出来事の記憶は?」
「えーっと……確か学校に遅刻しそうになって、全速力で通学路を走ってたら何かにぶつかって……多分、気絶したんだと思うけど、それで気がついたらこの世界に……」
「何かってなんだよ?」
「それが分かれば苦労しないよ」
「……私達とは全く状況が違いますね」
「ああ。もしかしたら何か共通点があるかと思ったんだが……当てが外れたな」
「そっちはどんな状況だったの?」
「まあ細かい説明は省くが、オレ達はいきなり白い光に包まれて意識を失ってな。で、気がついたらこの世界にな」
「……随分とファンタジーな展開だね」
「うるさい……」
零治はチラリと亜弥に目配せし、その視線に気づいた亜弥は首を軽く横に振り、これ以上は話を訊いても意味が無いだろうという意思を示す。
「……引き止めて悪かったな、一刀。もう行っていいぞ」
「はぁ。よかった。何とか質問には答えれたけど、正直これ以上ここに居ると気がどうかなりそうだったからさ」
「なら尚更早く立ち去るんだな。ウチの陣営には血の気の多い奴が一人いるからな」
「うっ……そうするよ。それじゃ!」
零治に聞かされた言葉に一刀は顔を青ざめさせ、足早にその場を立ち去って行った。
「……ふぅ。華琳、済んだぞ」
と、零治はその場を立ち去るふりをして、近くに積まれている資材の陰から様子をうかがっていた華琳達に声をかける。
「あら? 気付いてたの?」
「元暗殺者を舐めないでもらおうか。さっさと出て来いよ」
隠れていたのが完全にばれてしまい、華琳は優雅な笑みを浮かべながら春蘭、秋蘭と共に物陰から姿を現し、零治達の所まで歩み寄る。
「やれやれ。覗き見とはあまりいい趣味じゃありませんね……」
「安心なさい。盗み聞きまではしてないわよ」
「いや、そういう問題じゃありませんから」
「過ぎた事をいつまでも気にしないの。……それでどうだったの? 何か有益な情報は得られたかしら?」
「いいや。分かった事といえば、アイツがオレ達にとっては過去の時代の人間で、同じ境遇だって事ぐらいだな……」
「この世界に来た経緯はどうだったの?」
「それも訊いてはみたんですが、私達とは状況が全然違いますし、共通点も一切ありませんでしたよ」
「そう。……なら、王として貴方達に訊くわ。あの男は今後、私達の脅威となり得るの?」
「いや。アイツは普通の学生……どこにでも居る平凡な男だ。戦場に立つなんて事はまずあり得んな……」
「ま、強いて言うならば……恐らく彼もこの世界について、私達同様に知識としては知っているはず。その点は注意しておいた方が良いかもしれませんね」
「そう。分かったわ。肝に銘じておきましょう。……では話は変わるけど、零治、黒狼が言っていた話、貴方はどう思ってるの……」
「シ水関の事か?」
「ええ。あの男は本気で兵も使わずにシ水関を落とせると思ってるの……?」
「……奴なら出来るさ」
「断言するのね」
「少なくとも、この場に居る人間で奴の事を一番よく知っているつもりなんでな」
「で、どうするんです? 黒狼の提案を受けるんですか?」
「……零治、亜弥。貴方達はどうしたい? 敵同士の人間と共同戦線を張りたいの?」
「個人的には嫌だが……華琳の判断に従うさ。それに仮に共闘するのなら、奴の真意を確かめる事が出来るかもしれないしな……」
「私も同意見ですね」
「分かったわ。とにかくこの事を桂花にも話して、それからどうするか決めましょう」
「ああ」
のちにこの話は連合の諸侯全員に広まり、誰もが思った。そんな事は不可能だと。
だがこの後、全員が知る事になる。五色狼の実力と、その恐怖を……。
作者「なっ? 言った通りだろ」
零治「ああ。確かに言ったな。『お盛んなガキ』と」
亜弥「おまけに私はゲスと言ってましたし」
奈々瑠「貴方、彼に何か恨みでもあるんですか?」
作者「別に無いぞ」
臥々瑠「じゃあ、一刀のアレは何なのさ? 姉さんの胸に見とれてたとか……」
作者「原作での一刀の行動を考えれば当然だと思うんだが」
零治「だな。種馬だもんな」
亜弥「種馬ですし」
奈々瑠「種馬ですもんね」
臥々瑠「うわ~……ここに居るわけでもないのにこの言われよう。何だか可哀想に思えてきた……」
作者「別にいいんじゃね? 原作でもこんな扱いだぜ」




