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第21話 黄巾の乱勃発 完結編

ここだけに限った話じゃありませんが、メインパートは基本、修正の嵐ですね。

字数と相談しながら書いては消して書いては消しての繰り返し。

完成させた時の達成感はありますが、それと同時に疲労感も襲ってきますがね。

黄巾党との緒戦から数日。再び黄巾党が現れ、官軍が苦戦してるとの報を受け華琳は、春蘭、季衣、凪の三人を救援に向かわせた。それからしばらくして春蘭達が帰還し、その日の軍議で結果の報告を現在春蘭がしてるのだが……その内容が、要約すると『袁術の領地に踏み込んでしまい、そこの客将の孫策と協力して黄巾党を討伐した』という内容だ。



「……とまあ、そういう訳です」



春蘭の長い報告を聞き終え、華琳は呆れながら溜め息を一つ。



「……呆れた。それで、孫策に借りを作ったまま帰ってきたというの?」


「え、ええっと……連中の領に逃げ込んだ盗賊の退治は手伝ったのですから、差し引きで帳尻は……」


「合っていないわよ。他国の領に逃げ込む前に黄巾党を片付けておけば、差し引く必要すら無いじゃないの」


「……また面倒な事になっちまったな」


「ええ。孫策に借りを作ってしまった以上、どこかで返さないと余計面倒な事になりますからね」



傍らで話を聞いていた零治が呟き、亜弥もそれに同意する。

この世界において……いや、この世界だけに限らず、他国の人間に借りを作る事は決して軽い事では済まされないのだ。



「それが……私達が仕掛けた瞬間、もの凄い勢いで逃げられまして……。今思えば、あれも連中の策略だったのではないかと」


「……策略? 凪、それは本当なの?」



春蘭の言葉に、桂花が怪訝な顔で凪に訊く。



「私に訊けよ!」


「す、すみません。自分は官軍の撤退の支援をしていたもので……」


「なら季衣」


「訊けってば!」



この場にいる人間全員が、春蘭にその手の類の話をしても当てにならない事は充分理解している。そのため誰も春蘭に訊かないのは当然の事。まあ、日頃の行いが原因であるのは間違いないだろう。



「ええっと……それまでは都の軍を一方的に攻めてたんだけど……ボクと春蘭様が攻撃を仕掛けたら、ばーって撤退していって……」


「華琳様……」



秋蘭が渋面を作りながら華琳の方を見る。



「……ええ。春蘭や季衣相手だったとはいえ、黄巾党はそれだけの作戦を展開できる指揮官を得た事になる。その将を討てたのは幸いだったわね」


「だが、人材が増えてきてる事実は変わらん。これからは厄介な事になるな」


「そうね。これからは苦戦する事になるでしょう。以後、奴らの相手は気を引き締めるように。特に春蘭と季衣、いいわね!」


「はっ!」


「はいっ!」


「……それから春蘭。その孫策という人物は、どんな人物だったの? 確か、江東の虎、孫堅の娘よね」


「はい。風格といい、雰囲気といい、気配といい……袁術の客将を名乗っておりましたが、とてもそのようには見えませんでした」


「いや、春蘭……それ、全部意味同じですよ……」



亜弥は遠慮がちに春蘭にツッコミを入れる。



「う、うるさいぞっ!」


「そういう難しい言葉は使わなくてもいいわ。武人の夏侯惇としては、どう見たの?」


「……檻に閉じ込められた獣のような眼をしておりました。袁術とやらの人となりは知りませんが、あれはただの食客で収まる人間ではないでしょう」


「そう……。春蘭、その情報に免じて、今回の件についての処分は無しにするわ。孫策への借りは、いずれ返す機会もあるでしょう」


「……ありがとうございます」


「それでは、他に何か報告すべき意見はある?」



華琳は玉座の間に集まってるメンバーを見渡し、他に意見が無いか聞く。



「いえ、春蘭の件で最後です」


「黄巾党はこちらの予想以上の成長を続けているわ。官軍は当てにならないけれど……私達の民を連中の好きにさせる事は許さない。いいわね!」


「分かってます! 全部、守るんですよね!」



季衣が気合を入れながら言う。



「そうよ。それにもうすぐ、私達が積み重ねてきた事が実を結ぶはずよ。それが奴らの最後になるでしょう」


「……これで事が上手くいかなかったら、私達の苦労はパーですよ……」


「……ホントだよ。あんなにあちこち駆けずり回ったのは久しぶりだから、疲れちゃったよ……」



奈々瑠と臥々瑠が、今までの苦労をその場でポツリポツリと愚痴るので、零治と亜弥が苦笑しながら二人に労いの言葉をかける。



「ああ。二人には随分と苦労を掛けちまったな」


「二人ともお疲れ様です。……まあなんにせよ、その時が来るまでは今まで以上の情報収集と連中の対策が必要ですね」


「その通りよ。……民達の血も米も、一粒たりとて渡さない事! 以上よ!」



そして、その日の軍議は解散となった。


………


……



「凪、大丈夫か? ついさっき南から帰ってきたばかりだろ?」


「大丈夫です。鍛えてますから」



軍議が終わった後、零治は華琳の命で黄巾党の情報収集のため、凪、奈々瑠、臥々瑠を連れて森の中を探索している。



(いやー、生真面目だよなぁ、凪は。それに比べて真桜と沙和の奴は……はぁ……)



零治は二人の今までの行動を思い出し、心の中で溜め息をつく。



(根は悪い奴らじゃないんだが、仕事に対する真面目さはいささか欠けてるよなぁ……。あの二人は一度、厳しくしごいた方がいいのかもな……)


「……隊長、どうかしましたか?」


「ん? ああ、なんでもな……」



零治は不意に言葉を区切り、鋭い視線で目の前に生い茂ってる草木を睨み付ける。



「ん? 隊ちょ……」


「しっ!」



零治は凪に静かにするように制止し、すぐ目の前の道を挟んでる左右の茂みを指差しながら小声で話しかける。



「三人とも、あの左右の茂みに敵が居る……」


「はい。匂いで既に確認済みです。左右に三人ずつですね」



零治はコートの下からゆっくりと投擲ナイフを六本取り出す。



「オレがコイツを茂みに投げ込んで敵を追い立てる。三人は敵が飛び出してきた所を取り押さえろ」



三人は零治の指示に黙ってうなずく。



「…………フッ!」



零治は投擲ナイフを左右の茂みに投げ込む。すると……。



「ぎゃっ!?」


「ぐあっ!」



零治の投げつけたナイフが黄巾党達の腕や肩などに命中し、彼らは傷を押さえながら道端に倒れこむ。



「三人とも! 奴らを取り押さえろ!」


「はいっ!」


「オッケ~」


「はっ!」



凪達三人が倒れ込んでる黄巾党に飛び掛り、取り押さえ縄で縛り上げる。



「まだ敵が残ってる可能性がある! 残りの者は周囲の警戒と索敵を行え!」


「はっ!」



零治の指示を受け、兵士達が周辺に散らばっていく。



「お見事です、隊長」


「あの程度、大した事は無い」


「兄さん。敵の一人がこんな物を持ってたよ~」



臥々瑠が皺くちゃになった一枚の巻物を零治に手渡す。



「なんだこりゃ? ……手紙?」



開いた巻物には何やら地図らしきものと、汚い字で何かが書かれていた。



「……これは、集合連絡の場所!? なら、こいつらは連絡兵か!」


「これで、敵の主要地点が一つ分かりますね」


「いや、これはそれ以上に重要な場所が分かるかもしれんぞ」


「……どういう事ですか?」



零治の言葉に、奈々瑠は怪訝な表情になる。



「今まで連絡兵は何度も捕えていたが、どれも連絡は口頭によるもので、中にはいい加減な内容のヤツもあった」


「確かにそうでしたね」



凪が軽く頷きながら同意する。



「にもかかわらず、今回は連絡手段がしっかりしている。この場合、考えられる理由は二つ。学習したか、あるいは……この地図に記されてる場所が、絶対に間違えてはならない程の重要な情報であるかだ」


「……という事は、その地図の場所は」


「とにかく、戻ってすぐに華琳に報告だ」



零治達はすぐにその場を撤収し、城の帰還する。それからすぐに、零治達が見つけた連絡文章が最重要課題として取り上げられ、軍議が開かれる。



「大手柄ね、零治」


「そうか。それは何より」


「先程偵察に出した部隊が戻ってきました。連中の物資の輸送経路と照らし合わせて検証もしてみましたが、敵の本隊で間違いないようです」


「……では、張角もそこに?」


「ああ。張三姉妹の三人が揃っているとの報告も入っている」


「間違いないのね?」



華琳が念を押すように再度秋蘭に尋ねる。



「何というか…………三人の歌を全員が取り囲んで聞いていて、異様な雰囲気を漂わせていたとか」



秋蘭は困惑した表情で、偵察からの報告内容を華琳に言う。



「……何かの儀式?」



それを聞いた華琳の顔にも、困惑の表情が浮かぶ。



「詳細は不明です。連中の士気高揚の儀式ではないかというのが、偵察に行った兵の見解ですが」


「まるでライブだな」


「らいぶ?」



春蘭が零治の言葉に首を傾げる。



「あー、大人数で歌い手の歌を聴く集会みたいなものだ。オレの世界じゃ千や万人単位の集まりも普通にあったぞ」


「良く分からんな。そんな千も万も集まっては、号令や銅鑼ならともかく……歌声などまともには聞こえんだろう」


「確かに普通に考えるとそうなんですが、私達の世界では音声を拡大する機械……つまり絡繰が存在しているんですよ。それを使って大人数の聴き手にも歌声が聞こえるようにしてたんです」


「へえ。その絡繰、貴方達の例の術で創る事は可能なの?」



華琳の眼に興味心の光が宿り、零治と亜弥に訊いてくるので、零治は腕を組み、唸りながら答える。



「うーん、部品は創れるかもしれんが、それを稼動する動力も必要だからなぁ。創ったところで使えないと思うぞ」


「そう。それは残念ね。……それで、その集まりは何かの宗教的な儀式なの?」


「いえ、ただの娯楽ですよ。ただ彼らの場合は士気高揚も兼ねてると思いますが」


「なるほど。ともかく、零治のおかげでこの件は一気にカタが付きそうね。動きの激しい連中だから、これは千載一遇の好機と思いなさい。皆、決戦よ!」



華琳は力強く声を発し、黄巾党との決戦の大号令をかける。


………


……



「れんほーちゃーん。おーなーかーすーいーたー」



ここは黄巾党本隊の張三姉妹が使用してる天幕。三姉妹の長女、張角こと天和が三女の張梁こと人和に、頬を膨らませながら空腹だとブーたれている。



「はいはい……。そんなに言わなくても、分かっているわよ」


「人和。私、もうこんな所に居たくないわよ。ご飯も少ないし、お風呂だってちょくちょく入れないし……何より、ずーっと天幕の中で息が詰まりそう!」



同じく三姉妹の次女、張宝こと地和も自身が置かれてる今の状況に不満を口にする。



「それも分かってるわよ。でも仕方ないでしょう……。曹操って奴に糧食が焼かれちゃったんだから」


「仕方なくないわよ。別の所に行けばいいでしょ。今までだって、うるさくなったら他の所に移動してたじゃない」


「……私達の活動に朝廷が眼を付けたらしくてね。大陸中に黄巾党の討伐命令が回ってるのよ」


「……はぁ? 私達、何もしてないわよ!」



地和が人和の言葉に驚きの表情を浮かべる。

そう。確かに地和が言うように彼女達は何もしていない。だが……。



「周りの連中がね……」


「え? じゃあ、今までみたいにいろんな国は回れないの?」


「連中が付いてくると、どうしても大きな動きになってしまうわ。彼らを連れて県境は越えられない」


「なら、置いて行けばいいじゃない」



地和が尤もな事を言う。しかし、それが出来ないから人和は頭を悩ませているのだ。



「出来るならとっくにやってるわよ。何度か試してみたけど……その度に、誰かが寄ってきて……一人来たら、百人来るんだから」


「まったくもぅ。何でこんな事になったのー?」


「姉さんが悪いんでしょっ! 『私、大陸のみんなに愛されたいのー』とか何とか……」


「えー。それだったら、ちーちゃんも『大陸、獲るわよっ!』とか言ってたじゃない!」


「そ、それは、歌で獲るわよって意味で……!」



そう。事の発端は二人のこの発言に有った。彼女達にその意図は無かったのだろうが、熱狂的な聴き手達は言葉のまま意味を解釈してしまい、このような騒ぎを引き起こした。

さらに悪い事に、今回の騒ぎに便乗して山賊や盗賊までもがどさくさ紛れに暴れていたため、事態は余計に悪化してしまい現在に至るわけだ。



「……はぁ」



人和は頭を抱えながら溜め息を吐く。



「張角様! 張宝様! 張梁様!」


「あ、ちょっと待ちなさい!」


「はっ!」


「……いいですよ」



三人は居住まいと口調を正し、訪ねてきた黄巾党を天幕に招き入れる。



「失礼しますっ!」


「どうしたの? 何か問題でもあったの?」



地和が落ち着いた口調で黄巾党に尋ねる。普段の態度からは想像もつかない見事な演技ぶりだ。



「はい。西方を追われた新たな会員が、合流したいと来ているんですが……どうしましょう?」


「それって、私達の歌を好きって言ってくれてる人なんですよねー?」


「はい!」



天和の言葉に黄巾党は大きく頷く。



「じゃ、いいんじゃないですかー?」


「そうね。応援してるコは大切にしないと」


「という事です。後はそちらで計らいなさい」


「はっ! 流石お三方! それでは、食料と装備を支給させます!」


「え、あ、ちょっと! 装備って……!」


「失礼しましたっ!」



黄巾党は人和が呼び止めてるにもかかわらず、話も聞かずに天幕から出て行った。



「…………」


「…………」


「…………」



取り残された三人の間に広がる沈黙。

やがて、呆れたように人和が口を開く。



「何……? 食料も装備も持たずに合流したいって……たかりに来てるだけじゃない」


「バカーーっ! なんで姉さん、あんな事言うかなぁ……!」



素に戻った地和がヒステリックな叫び声を上げる。



「えー。だって、ちーちゃんだって、応援してくれてるコは大切にしようって……」


「だって、あの場でああ振られたら、ああ答えるしかないでしょっ!」


「……はぁ。それにしても下も下よね。今の食糧状況を考えれば、これ以上の数は増やせないのは分かっているでしょうに」


「なら人和が上手く反論してよ……」


「世の中、建前といものが有るでしょ……?」


「あーもう! お腹空いたよぅ!」



天和は半泣きの表情で空腹を訴えるが、もはやこの状況はどうしようもないだろう。



「人和。本当に食料、なんとかならないの?」


「大きな経路は上の連中が封鎖を掛けてきてるし、小さな抜け道は野良犬みたいに食いついてくる奴が居るのよ……。あそこまで徹底的に潰されたら、どうにもならない」



今の黄巾党は、まさに八方塞がりの状況下に置かれていた。


………


……



「秋蘭。本隊が到着したそうだ」



零治達先発隊が黄巾党の本隊の偵察を終えた頃、伝令から本隊到着の報告を受ける。



「そうか……各隊の報告はまとまったか?」


「ちょうど終わったところやで。連中、かなりグダグダみたいやな」


「やはりな……。華琳様の予想通りか。では真桜、報告を聞かせたもらおうか」


「はいはい。まず、連中の総数やけど、約二十万」


「うはー。もの凄い大軍隊なのー」


「なにせ本隊だからな。数が多いのは当然だろう」


「それって……ボク達だけで勝てるんですかね?」



季衣が不安げに秋蘭に訊いてくるが、零治が余裕の表情で代わりに答える。



「問題ないだろう。で、真桜、実際に戦える数はどれぐらいなんだ?」


「おっ、流石は隊長、やっぱ気付いとったんやね。連中、戦えそうなんは三万くらいやと思うで」


「ふむ。そんなものですか」


「せや。大将の予想通り、武器も食料も全然足らんみたいや。それに、さっきもどっかの敗残兵みたいなのが合流しとったから……」


「さっきの大兵力は、その非戦力を合わせた上での数という事か」


「ああ。あちこちで内輪同士の小競り合いも見えたから、一枚岩ですらないみたいや。指揮系統もバラバラなんちゃうかな?」


「フッ。戦闘力を奪った連中を本拠地にまとめさせ、ワザと敵の頭数を大きくする。……華琳の作戦は上手く行ったな」


「ああ。受け入れる本拠地が無い以上、陣内に取り込むしかないからな。ここまで組織が肥大化すれば、おのずと動きも鈍くなるし、指揮系統も作らねばならん。そうなればこの程度の相手、そこいらの野盗と変わらんさ」


「神出鬼没の大熊も、太り過ぎればただの的、という事ですね」


「……太り過ぎたら……」


「……嫌な例えなの」


「……同感です」


「……大丈夫。大丈夫よね? 私……」


「にゃ?」


「ほえ?」



凪の例え話に一部の女性陣が過敏に反応する。まあ、女の身である以上は仕方ないのだろう。



「しかし……当初の予定通りの作戦で大丈夫でしょうか?」


「問題なかろう。華琳様の本隊に伝令を出せ。皆は予定通りの配置で各個撹乱を開始しろ。攻撃の機は各々の判断に任せるが……張三姉妹にだけは手を出すなよ。以上、解散」



ついに、黄巾党最終討伐の作戦が決行された。零治達先発隊はそれぞれ配置に付き、黄巾党の本隊に撹乱攻撃を開始する。



「張角様! 張宝様! 張梁様!」


「何? 慌ててるわね」


「すみません! しかし急用だったもので……!」


「なんなのー?」


「敵の奇襲です! 各所から火の手が!」


「何ですって! すぐに消火活動を!」


「各々でやってるようですが、火の手が多いのと誰に指示すればよいか分からず……!」


「く……っ。無駄に増えているから……!」


「どうしましょう!」


「ともかく、敵の攻撃があるだろうから、皆に警戒するように伝えなさい! 火事も手の回る者が消せばいいでしょう!」


「はいっ!」


「…………まったくもう」



人和は周りの慌てふためく様子を見て頭を抱える。もはや黄巾党は軍隊としての機能は失ったも同然だろう。



「れんほーちゃぁん……」


「人和……」


「……もう潮時ね。応援がどうこう言っている場合じゃないわ。……よっと」



人和がその場に隠していた大荷物を背負うので、天和が荷物を指差しながら訊く。



「何? その荷物」


「逃げる支度よ。三人分あるから……みんなでもう一度、一からやり直しましょう」


「……仕方ないわね。でも、二人が居るなら」


「そだねー。ちーちゃんとれんほーちゃんが居れば、何度だってやり直せるよね♪」


「そういう事。そうだ、これも……」



人和がそう言いながら荷物の中から一冊の古書を取り出す。それは……。



「太平何とか、だっけ……?」


「そうよ。コレを使って、またみんなで……」


「もうそんなのいいよ。二人が居れば何もいらないから、早く逃げようよー!」



張三姉妹は本陣の騒ぎのどさくさに紛れながら、数名の護衛を引き連れ、コソコソとその場から逃げ去った。


………


……



「華琳様、秋蘭達先発隊が行動を開始したようです。敵陣の各所から火の手が上がりました」



桂花が先発隊が行動を開始した事を華琳に報告する。



「秋蘭から伝令が届きました。敵の状況は完全に予想通り、当初の作戦通り奇襲をかけると。こちらも作戦通りに動いてほしいとの事です」



続いて春蘭が秋蘭から届いた伝令の内容を報告する。



「了解……。桂花、決めておいた通りに動きなさい」


「御意!」


「しかし、先日はあれほど苦戦したというのに……なんですか、今日の容易さは」


「それは春蘭がバカだからじゃないの?」


「なんだとぅ!」



春蘭は憤慨しながら桂花を睨み付け、怒鳴り散らす。



「少数の兵で春蘭程度を扱える器は居ても……あれだけの規模の兵をまとめ、扱える器は居なかった。ただそれだけの事よ」


「なるほど。私程度を……って華琳様! それは酷うございます」



春蘭は心底悲しそうな表情を浮かべながら言う。



「ふふっ、冗談よ」


「華琳様。そろそろ、こちらも動こうと思うのですが……号令を頂けますか?」


「あら、もう? もう少し春蘭で遊んでいたかったのだけれど……秋蘭達、張り切り過ぎではない?」


「向こうの混乱が輪をかけて酷いのでしょう。ともかく、こちらの準備は出来ていますので、お早くお願いいたします。急がなければ、張三姉妹がこちらではなく身内に殺されかねません」


「それはそれで問題ね……分かったわ」



華琳は後方に控えている兵達にゆっくりと向き直り、力強い声を発し号令をかける。



「皆の者、聞け! 汲めない霧は葉の上に集い、既にただの雫と成り果てた! 山を歩き、情報を求めて霧の中を彷徨う時期はもうおしまい。今度はこちらが呑み干してやる番! ならず者どもが寄り集まっただけの烏合の衆と、我らとの決定的な力の差……この私に、しっかりと見せなさい。……総員、攻撃を開始せよっ!」



華琳率いる本隊の兵達が、雄叫びを上げ、激しく大地を揺らしながら黄巾党本隊目掛けて突撃を開始する。



「凪。華琳達の本隊が来たぞ」


「流石は華琳様。予定通りですね……」



一糸乱れぬ動きで突撃する華琳の大軍団と混乱の極地にある黄巾党の大集団。その動きはまさに雲泥の差と言えるだろう。



「では、オレ達も合流するぞ。亜弥と臥々瑠、秋蘭と沙和の隊が右翼。オレ達は季衣と真桜と奈々瑠と合流して左翼担当だ」


「はい。後は三人が来るのを……」


「兄ちゃーん!」


「隊長、お待たせー」


「すみません。遅くなりました」


「おう、来たな。三人とも大丈夫だったか?」


「ぜーんぜん。なんや、こっちが一方的過ぎて悪いくらいやったわ」


「うん。で、華琳様も来たし、そろそろかなって真桜ちゃん達と」


「ああ。こちらも合流しようと思っていたところだ。丁度良かった」


「では隊長、号令をお願いします」


「オレが? まあいいが。……オホン……」



零治は後ろに控えている兵士達に向き直り、軽く咳払いを一つ。



「これより我らは本隊に合流、本隊左翼として攻撃を続行する! ただし張三姉妹は生け捕りにせよ! 総員、今までの借りを思う存分に返してやれ!」


「「「応っ!」」」


「全軍突撃ーーーーっ!」



零治達も突撃を仕掛けながら本隊に合流。以後、零治は最前線に出て叢雲を振るい、いつものように敵を斬り伏せる。



「…………」



零治は黙って、一人、また一人と黄巾党を斬り倒し続ける。

その最中、姿を現してはいないが、零治に取リ憑いている死神が背後から囁いてくる。



『ほぉら。どうだい、人殺しさん。やっぱり人斬りは楽しいかい……?』


(黙れ……)



零治は忌々しげに頭の中に響く声の主、死神に黙るように言い聞かせる。

しかしそれでも死神は黙ろうとせずに話を続ける。



『知ってるかい? 本来、兵士ってのは同じ人を殺す事に本能的抵抗を感じるものなんだが、聞いた話によればその内2%は抵抗を感じないんだってさ。怖いねぇ。……アンタはどうなんだい? 今この瞬間も、相手を殺す事に少しでも抵抗は感じているのかい……?』


(黙れ……っ!)


『あ、また一人死んだよ。相変わらずいい腕してるねぇ。一撃であの世送りだ。……どうだい? 本当は楽しいと思ってるんだろ? 飛び散る血や肉片、相手を斬った時の感触に断末魔。それらが快感なんだろ? 最高の殺戮ショーだもんなぁ』


(黙れっ!!)


『いつまで自分を偽る気でいるんだい。アンタは現に今こうして人斬りを……殺戮を行っている。“あの時”と同じようにね。まあ、違う所があるとすれば……殺した人数か。確かあの時は一人しか殺してなかったよねぇ……』


(っ!?)


『そう。命令と自分に言い聞かせながら納得し、コイツら同様に迷わず殺したもんね。あの女をさ……。アンタは常日頃、殺せる的を心の奥底で欲しているのさ。そして相手が誰であろうと関係ないとも思っている。それが人斬りを楽しんでいる何よりの証拠じゃないか……』



その一言が引き金となったのか、零治はその場に居もしない死神に大声で怒鳴った。



「黙れぇぇぇぇっ!!」


「うわっ!? た、隊長どないしたんっ!? いきなり大声出したりして」


「はっ!?」



零治は真桜に声をかけられ現実に引き戻される。辺りを見渡せば黄巾党は既に全滅している。どうやら本人も気付かぬうちに全滅させていたらしい。



「…………」



零治は叢雲を握りしめたまま全滅してる黄巾党達を見つめ、呆然と立ち尽くす。



「隊長、大丈夫ですか?」


「兄ちゃん、もしかして具合が悪いの?」



凪と季衣が心配そうな顔で零治の顔を覗き込みながら言う。



「あ……ああ。大丈夫だ……」


「ですが……」


「本当に大丈夫だ。……それより、張三姉妹の捜索に当たれ。ここで逃げられたら元も子もないぞ」


「ああ、それは分かっちゅうけど……隊長、無理はせられんで?」


「ああ。分かってるから、早く行け」


「はい……」



凪、季衣、真桜の三人は納得のいかない表情をしながらも、張三姉妹の捜索に当たるため辺りに散っていった。



「……ふぅ」



三人を見送った零治は自信を落ち着けるように、大きく息を吐く。



「兄さん……」


「ん、なんだ? お前も早く行け」


「それは分かってます。ですが、さっきの事がどうしても気になって……」


「…………奴の声が」


「えっ?」


「戦ってる最中に……また死神に話しかけられたんだ……」


「…………」


「それで思わず声に出して怒鳴っちまった。それだけだ……」


「そう……ですか……」


「ああ。分かったなら、お前も捜索に向かえ」


「はい。……その前に兄さん、これだけは言わせてください」


「何だ?」


「アイツに何を言われたのかは分かりませんが、アレの言っている事なんて所詮はただの戯言です。あまり気にしないでください。兄さんが優しい人だって事を私はよく知ってるんですから」


「そう……だと良いんだがな……」


「そうですよ。兄さん、悩みがあるのなら一人で抱え込まないで、たまには可愛い妹を頼ってくださいね」


「……妹はともかくとして、自分で可愛いなんて言うか、普通?」


「む~……それって、私は可愛くないとでも言いたいんですか……」


「ハハハ。冗談だよ。お前はオレの大事な可愛い妹だよ」


「もう……。どうやらもう大丈夫そうですね」


「ああ。奈々瑠、ありがとう。お前のおかげで少しは気が楽になったよ」


「それならよかったです。なら、私も捜索に向かいますね」


「ああ」



奈々瑠も凪達と同様に捜索に向かい、零治がその場に一人取り残される。



「……ふぅ。『あの時』と同じように、か……。確かに言われてみれば、殺すその瞬間には迷いは一切なかったのかもしれない。なら、オレはやっぱり奴が言っているように……」



死神の言葉が心の奥で引っかかる零治は、空を見上げながら一人呟くが、すぐにそれを頭の中から振り払うようにブンブンと頭を左右に軽く振って気持ちを切り替える。



「よそう。今は奴の言ってた事を考えるような時じゃない。今のオレにはやるべき事があるんだ。いい加減オレも捜索に向かわないとな」



零治も張三姉妹の捜索に当たるため、移動を開始した。


………


……



「この辺りまで来れば……平気かな」



地和が後方を振り返りながら、周囲が安全かを確認する。



「もう声もだいぶ小さくなってるしねー。……でも、みんなには悪い事しちゃったかなぁ?」


「難しい所だけれど……正直、ここまでのものになるとは思っていなかったし……潮時でしょうね」


「けど、これで私達も自由の身よっ! ご飯もお風呂も入り放題ねっ!」


「……お金無いけどね」


「う……」



人和のその一言に、地和は苦虫を噛み潰したような表情になる。



「そんな物はまた稼げばいいんだよ。ねー?」



天和は普段と変わらず、能天気な口調で妹達にそう言い聞かせる。

今は彼女のこの能天気さが心のオアシスとなり、地和、人和の表情も明るくなり前向きに考えるようにしてくれた。



「そう……そうよ! また三人で旅をして、楽しく歌って過ごしましょうよ!」


「で、大陸で一番の……」


「そうよ! 今度こそ歌で大陸の一番に……っ!」


「……盛り上がってる所を悪いが、お前ら……張三姉妹だな?」



不意に背後から零治が声をかけてきたので、三人の顔に緊張が走る。



「な……っ!」


「く……っ、こんな所まで……!」


「どうしよう……もう護衛の人達も居ないよー?」


「大人しく付いてくるなら悪いようにはせんぞ」


「……付いて行かなかったら?」


「多少なりとも痛い目を見てもらう事になるな」


「ちょっと! まさか、その腰に下げてる剣で斬るつもりっ!?」



地和が零治の腰に下げられてる叢雲を指差しながら言う。



「安心しろ。手刀で済ませてやる」


「そういう問題じゃなくて!」


「張角様っ!」


「テメェ! 俺達の張宝ちゃんに何をしようとしてんだ!」


「やれやれ。人が事を穏便に済ませようとしてるのに、空気ぐらい読めよ。……だいたい、勇気と無謀を履き違えるようでは、長生き出来んぞ?」



零治はそう言って、二人組の黄巾党に眼にも止まらぬ速さで踏み込み、二人の鳩尾にボディブローを叩き込んだ。



「ぐふっ!」


「がはっ!」



黄巾党達は苦悶の声を上げ地面に沈み込む。



「な、何よアイツ!? 動きが全然見えなかったんだけどっ!」


「……諦めましょう、姉さん。あんな人を相手に逃げられるわけないわ。……いきなり殺したりしないよね?」


「ああ。その点は保証してやる」


「……ならいいわ。投降しましょう」



その言葉を聞いた姉二人は悲痛な表情になる。



「人和……」


「れんほーちゃん……」


「なら、付いて来い……」



零治は張三姉妹に歩くように促し、華琳の待つ本陣まで連行した。



「華琳様。敵部隊の追撃隊、出発させました」


「後で暴れられても困るものね。まとめて捕まえて、郷里に送り返させなさい」


「はっ」


「……で、貴方達が……張三姉妹?」



華琳は傍らに控えている秋蘭から張三姉妹に視線を移し、訊く。



「そうよ。悪い!」



捕らえられてる立場にもかかわらず、地和は高飛車な態度を取る。



「季衣、間違いない?」


「はい。ボクが見たのと同じ人達だと思います」


「あ、私達の歌、聞いてくれたんだねー。どうだったー?」


「すっごく上手だったよ!」


「ホント!? ありがとー♪」



季衣と天和が、まるで友達同士の会話のような感覚で、場違いな会話劇をする。

そのやり取りをよそに、亜弥が張三姉妹に尋ねる。



「で? どうしてこんな事をしでかしたんです。見たところ普通の旅芸人のようですが……?」


「……色々あったのよ」



亜弥の問いに、人和が答える。



「色々ねぇ……? ではその色々とやらを話してみなさい」


「話したら斬る気でしょう! 私達に討伐命令が下ってるのだって、知ってるんだから!」


「それは話を聞いてから決める事よ。それから、一つ誤解してるようだけど……貴方達の正体を知っているのは、恐らく私達だけだわ」


「……へ?」



華琳の言葉に、地和はきょとんとする。



「そうよね、桂花」


「はい。貴方達ここ最近、私達の領を出ていなかったでしょう」


「それは、あれだけ周りの捜索や国境の警備が厳しくなったら……出て行きたくても行けないでしょう」


「ですから現状、首魁の張角の名前こそ知られていますが……他の諸侯の間でも、張角の正体は不明のままです」


「……どういう事?」


「誰を訊問しても、張三姉妹の正体を口にしなかったからよ。……大した人気じゃない」


「そんな……!」



人和が驚きの表情を浮かべる。流石の彼女も、まさか華琳達以外の人間に正体が知られていないとは夢にも思っていなかったようだ。



「それに、この騒ぎに便乗した盗賊や山賊も、そもそも張角の正体は知らないもの。そいつらのデタラメな証言が混乱に拍車をかけてね……。確か、今の張角の想像図は……零治」


「……これか?」



零治は華琳に持つように言われた姿絵を三姉妹の前に広げて見せる。

そこに描かれていた姿絵は、お世辞にも人とは言えない。まず、身長は約三mぐらい有るヒゲモジャの大男である。おまけに、腕は八本、足は五本、更には角と尻尾まで描かれていた。誰がどう見てもこれは人ではなくただの化物だ。



「えー。お姉ちゃん、こんな怪物じゃないよー」



当の本人は頬を膨らませて憤慨する。まあ、当然の反応だろう。



「いや、いくら名前に角があるからって、角は無いでしょ……角は」


「まあ、この程度という事よ」


「何が言いたいの?」



華琳の意味深な言葉に、人和がメガネに手を当て、眉間に皺を寄せながら聞く。



「黙っていてあげてもいい、と言ってるのよ」


「……どういう事?」



華琳の真意が理解できていない地和は怪訝な顔で聞く。



「貴方達の人を集める才覚は相当なモノよ。それを私のために使うというのなら……その命、生かしてあげてもいいわ」


「……目的は?」


「ちょっと、人和!」


「私が大陸に覇を唱えるためには、今の勢力では到底足りないわ。だから、貴方達の力を使い、兵を集めさせてもらうわ」


「そのために働けと……?」


「ええ。活動に必要な資金は出してあげましょう。活動地域は……そうね。私の領内なら、自由に動いて構わないわ。通行証も出しましょう」


「ちょっと! それじゃ、私達好きな所に行けないって事じゃないのっ!?」


「……待って。ちぃ姉さん」


「何よ」


「……曹操。貴方、これから自分の領土を広げていく気なのよね」


「それがどうかした?」


「そこは私達が旅が出来る、安全な所になるの?」


「当たり前でしょう。平和にならないのなら、わざわざ領土を広げる意味は無いわ」


「……分かったわ。その条件、飲みましょう。その代わり、私達三人の全員を助けてくれる事が前提」


「問題ないわ。決まりね」


「ちょっと人和! 何勝手に決めて……! 姉さんも何か言ってやってよ!」


「えー。だってお姉ちゃん、難しい話って、よく分かんないし……」


「あーもう役に立たないわねっ!」


「…………」



三姉妹のやり取りを見ていた秋蘭が、春蘭に意味深な視線を向ける。



「……どうした秋蘭。なぜ私を見る」


「いや……何でもない」


(お前の気持ちはよーく分かるぞ、秋蘭)



秋蘭の心中を察するように、零治は心の中で大きく頷いていた。



「ちぃ姉さん。もともと選択肢なんか無いのよ。ここで断れば、私達はこの場で殺されるわ」


「むぅ……っ」


「生かしてくれる上に、自由に活動するための資金までくれて、自由に歌っていいなんて……正直、破格の条件だと、私は思う」


「……だって、コイツの領地だけなんでしょう」



地和は不満を口にする。生かしてくれるとはいえ、行動が制限されるのが彼女は不満なのだ。



「これから曹操が勝手に広げてくれるわ。それに、最終的には大陸全部が曹操のものになるのなら……安全になるまでは、曹操のために歌ってあげてもいいでしょう。……そういう考えで良いのよね?」


「ええ。貴方達は、私の広げた領土の中で自由に歌ってくれればいい」


「用が済んだからって、殺したりしないわよね?」


「用済みになったら支援を打ち切るだけ。でも、その頃には大陸一の歌い手になっているのでしょう? せいぜい私の国を賑やかにしてちょうだい」


「……面白いじゃない。それは、この張三姉妹に対する挑戦とい事でいいのよね?」



華琳の言葉に、地和が不敵な笑みを浮かべる。



「そう取るのなら、そう取ればいいわ」


「よし! なら決まりだわ!」


「……えーっと。結局、私達は助かる、って事でいいのかなぁ……?」


「それに、また大陸中を旅して回れるのよ! 今度こそ、あの太平何とかって本が無くても、大陸の一番を獲ってみせるわよ!」


「え、やったじゃなーい♪ またみんなで歌って旅が出来るんだね♪」


「……これがあの黄巾党の長、ですか……」


「ホントこの世界じゃオレ達の知ってる歴史は当てにならんな……」



傍らでやり取りを見ていた、零治と亜弥は、自身が想像していた張角の人物像とあまりにもギャップが有ったので唖然としていた。



「……ちょっと待ちなさい」


「何?」


「さっき、太平何とかって……」


「太平要術?」


「貴方達、それをどうしたの!」



華琳が凄まじい剣幕で詰め寄り、鋭く叫びながら三姉妹に問いかける。



「んー。応援してくれる、って人に貰ったんだけどー。逃げてくるときに、置いてきたの」


「私達の居た陣地に置いてるはずだけど……恐らく、もう灰になっているはず。……それがどうかしたの?」


「いえ。……そう、あの書は灰になったのね」


「華琳様。探して参りましょうか?」



春蘭がそう言うが、華琳は首を横に振る。



「……不要よ。それよりあの陣にもう一度火を。誰かに拾われて悪用されては、また今日のような事態になりかねないわ」


「承知いたしました」


「おい、いいのか? ずっと探していたのに」


「いいわ。それがあの書の天命なのでしょう」


「そうか。……ところでその話で思い出したんだが、あの件はどうなった?」


「例の三人組の男の事?」


「ああ」


「ごめんなさい。情報は集めさせてるんだけど、未だそれらしき話は聞かないわ」


「……そうか。ま、居ないなら別にそれでもいいんだがな」


「零治。その三人との間に一体何があったの?」


「いつか話してやる。あの時の事も含めて全部な……」


「そう。なら、気長に待っててあげるわ。なら、帰りましょう」



こうして黄巾の乱は終結し、零治達一同は帰路に着くのだった。



「…………ふぅ」



城まで目前の帰り道。凪は小さく溜め息を吐く。



「凪。お疲れさん」


「ああ、隊長、みんな……」


「凪ちゃん、今回は大活躍だったねー。華琳様もすっごく褒めてたの」


「そんな……私なんて隊長に比べれば……」


「そう謙遜しなくてもいいだろ。もっと胸を張れよ」


「はい……」


「うーむ、どうも表情が硬いですねぇ。こういう時は笑顔が一番ですよ?」


「亜弥様の言う通りなの。ほら、凪ちゃん、もっと笑顔になるのー! ほら、むにむにー♪」



沙和が凪を笑わせようと頬をむにむにと引っ張る。



「こ、こら、沙和……やへふぇ、やめふぇっへ!」


「お、沙和ぁ! こっちもうちょっと、引っ張った方がええんちゃうか?」



真桜も悪乗りして、加わってくる。



「ひゃへー! ひゃへろ、たいひょたひゅけへ!」



凪は零治に助けを求めるが……。



「ん? 凪はもう少し笑うようにした方がいいぞ。なあ、お前ら」


「そうなの。凪ちゃんはもっと笑った方がいいの」


「せやろ。意見もまとまったところで……! 沙和、やってまえ!」


「おー! ほらほら、こっちもこうやってー」



沙和はさらに凪の頬を引っ張り出す。



「やめひぇー!」


「さて、なら華琳から褒賞も受け取りましたし、城に着いたら隊のみんなで宴会でもしましょうか。華琳は軍議は次の日にすると言ってましたし、急ぎの荷解きだけ済ませて、残りは明日にしましょう」


「おおー! さすが華琳様、話が分かる!」


「わ、わひゃひは……っ」


「主役の凪が来ないんじゃ意味が無いでしょう。真桜、沙和、今日は凪を絶対に逃がしてはいけませんよ。これは上官命令です!」


「任せときぃ!」


「沙和にお任せなのー!」


「ひょんなー!」


「……宴会……か……」



亜弥の口から発せられた、宴会という単語を聞いた零治の表情に影が差す。ノリノリの亜弥とは対照的に、零治は乗り気ではないように見える。



「零治、貴方も当然来ますよね? 今回の戦いの一番の功労者なんですから」


「あ、あぁ……」


「奈々瑠、臥々瑠。貴方達もどうですか?」


「えっ!?」


「えっと……アタシ達は……」


「んー? なんや二人とも。警備隊じゃないからって、別に遠慮する事無いで」


「そうだよー。宴会は大勢でやった方が楽しいのー」


「そ、そうです……ね。なら……私達も」



奈々瑠がぎこちなく返事をする。



「決まりですね。なら、早いとこ用事を済ませちゃいましょう!」


「おーなの!」



亜弥達三人は凪を連行するように引っ張りながら、零治達を置き去りにして一足早く城に向かっていく。



「……やばいな」


「はい。何か手を打たないと死人が出るかもしれませんよ……」


「……兄さん、どうするの? アタシ……まだ死にたくないよ~!!」



臥々瑠は今にも泣きそうな顔で零治にすがり付く。



「ええいっ、落ち着け! 大丈夫だ、まだ希望はある」


「……へっ?」


「アイツも決して酒に弱いわけじゃない。そんなすぐに酔ってあの状態になったりはしないだろう」


「それは、そうでしょうが……でも、酔った時はどうするんです?」


「心配ない。もし、そうなりそうになったら……」


「うん」


「……睡眠薬入りの酒を呑ませて眠らせる」


「…………」


「……兄さん、それはあまりにも……」


「じゃあ、お前らは酔ったアイツの相手がしたいのか?」


「「嫌です(だ)……」」


「決まりだな。……オレ達も行くぞ」



零治達も亜弥達の後を追うように城に向かい、到着したら荷解きを手早く済ませるはずだったのだが……。



「……ええと、だ」



零治達は荷を解く暇もなく、広間に招集をかけられた。真桜に沙和はもちろん、他のメンツ、特に亜弥はあからさまに不満げな表情である。



「華琳。今日は会議はしないはずじゃなかったのか?」


「私はする気はなかったわよ。貴方達も宴会をするつもりだったんでしょう?」


「宴会……ダメなん?」



真桜が不安げに華琳に訊く。



「バカを言いなさい。そのために褒賞を貴方達にあげたのよ? ……私だって春蘭や秋蘭とゆっくり閨で楽しむつもりだったわよ」


(頼むから、そういう事はもっと小声で言ってくれ。聞かされるこっちの身にもなれよな……)


「……すまんな。みんな疲れとるのに集めたりして。すぐ済ますから、堪忍してな」



そこに、胸にはさらしを巻き、上に羽織をまとい袴に下駄と、かなり特徴的な服装をした女性が謝罪しながら広間に現れる。



「貴方が何進将軍の名代?」


「や、ウチやない。ウチは名代の副官の張遼や。よろしゅうな」


「なんだ。将軍が直々にというのではないのか」


「アイツが外に出るわけないやろ。クソ十常寺どもの牽制で忙しいんやから。……ほれ、陳宮。さっさと用件を済ませんかい」


「分かっているのです。……呂布様のおなりですぞー!」



その名を聞いた零治と亜弥の顔に緊張が走る。



「なっ!?」


「呂布だとっ!?」



桂花よりも小柄な、中央にパンダのマークが入った学生帽のような帽子をかぶった少女が広間に現れ、その後方から、言い方は悪いが、頭頂部にまるでゴキブリの触角のように髪の毛がピンと二本跳ねた、どこか幼さを感じさせる長身の女の子がやって来る。



「…………」


「曹操殿、こちらへ」


「はっ」



陳宮に促され、華琳は呂布の下まで歩み寄り、片膝をつき、頭を垂れる。



「…………」


(……何も喋らねぇぞ、呂布の奴)


「えーっと、呂布殿は、此度の黄巾党の討伐、大儀であった! と仰せなのです!」


「……は」


「…………」


「して、張角の首級は? と仰せなのです!」


「張角は首級を奪われる事を恐れ、炎の中に消えました。もはや生きてはおりますまい」


「…………」


「ぐむぅ……首級が無いとは片手落ちだな、曹操殿。と仰せなのです!」


「……申し訳ありません」



非難する陳宮の言葉に、華琳は淡々と言葉を述べる。



「亜弥……アレ、本当に三国最強と言われた、あの呂布か……?」


「……のようですね。正直そうは見えませんが……」


「だよな。……秋蘭、呂布が代理を務めてる奴って何者だ?」


「軍部の頂点に居るお方だ。朝廷での地位で言えば我々どころか華琳様すら足元に及ばん」


「何進といってね。皇后の兄で肉屋のせがれよ」


「肉屋のせがれが軍部の頂点かよ……」


「仕方ないのでは? この時代では、皇帝の奥さんの身内ってだけで、いい地位に就けるぐらいですし」


「……確かにな」


「…………」


「今日は貴公の功績を称え、西園八校尉が一人に任命するという陛下のお達しを伝えに来た。と仰せなのです!」


「は。謹んでお受けいたします」


「…………」


「……ホント何も喋りませんね、彼女」


「ああ。陳宮が代りに代弁してるが、ホントに呂布の言葉なのか疑問だぞ」


「…………」


「これからも陛下のために働くように。では、用件だけではあるが、これで失礼させてもらう。と仰せなのです!」


「…………ねむい」


「……おい。今、眠いって言わなかったか?」


「ええ。確かに言いましたね……」


「ささ、恋殿! こちらへ!」


「……ま、そういう訳や。堅苦しい形式で時間取らせてすまんかったな。後は宴会でも何でも、ゆっくり楽しんだらええよ」



将軍の代理で来た三人は用件を終え、広間を立ち去って行ったのだが……。



「…………」



華琳は決していい気分ではなかったようで、わなわなと肩を小さく震わせている。



(……怒ってる。間違いなく怒ってるぞ、アレは……)



他のメンバーもそれを悟ってか、広間に集まってる人間の視線が零治に集中する。



(で、なんで全員オレを見るわけ? ……ええい、オレに話しかけろってか!?)



零治は意を決して華琳に話しかけるのだが。



「か、華琳……?」


「話しかけないで!」



華琳は普段の立ち振る舞いからは想像もつかないようなヒステリックな叫び声を上げる。



(怖っ!)



あまりの迫力に零治は思わず身震いしてしまう。



「悪いけれど、今なにか話しかけられたら、そのまま斬り殺してしまいそうなのよ……少し黙っていて」


「華琳様……」


「春蘭、秋蘭。閨に戻るわよ! 気分が悪いったらありはしない! 今日は朝まで呑み直すわよ!」


「はっ」


「零治達も今日は休みなさい。作業は明日からで構わないわ。明日は二日酔いで遅れてきても眼を瞑ってあげるから、思い切り羽目を外すと良いわ」


「……そうさせてもらう」



この時、広間に集まってる人間全員が思った。華琳が怒るような、こういう出来事は二度とあってほしくないと。

余談だが、警備隊の人間の間で行われた宴会は、零治の作戦により無事に事なきを得たという。

作者「ふぅ。黄巾編の終了だぜ」


零治「で、次は反董卓連合なのだが……」


作者「何だよ?」


亜弥「私達と一刀が顔を合わせるのはやはりここなんでしょう?」


作者「だな」


奈々瑠「で、どういう話をさせる予定なんですか?」


作者「んー? 基本的には真面目な内容だぞ。拠点パートで一緒に出てくるわけじゃないんだし」


臥々瑠「なんか面白くないなぁ、それ」


作者「何で?」


臥々瑠「だって、アタシ原作での一刀って、基本バカな事をやらかして周りからフルボッコにされるイメージしかわかないもん」


零治「それは仕方ない。なんせ原作じゃアイツは種馬だからな」


亜弥「ですね」


奈々瑠「正直、私はお近づきになりたくないですね」


零治「ったく。お盛んなガキだな……」


作者「あ、今のセリフ、劇中でも言うよ」


零治「マジで?」


作者「ああ。ま、楽しみにしといてくれ」

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