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第20話 多忙な昼休み

約一名、登場していない人物が居ますが気にしないでください。

登場させる要素が思いつかなかったので。

黄巾党の話が終了したら、次の拠点パートでは彼女をメインで使いますので。

「うーん…………むむむぅ…………」



零治は一人自室に籠もり、机に広げられた街の地図と睨めっこをし、渋面を作り名がら唸り声を上げている。



「どうも最近、区画によって治安の格差が顕著に出てるよなぁ。特に西地区はかなり酷いからなぁ。やはり西地区は重点的に巡回を……しかし、そうすると他が手薄に……。もう少し人員を増やして、予算を割り振ってかないとな……」



零治は一人ブツブツと地図を前にして呟く。



「うーん……予算も人員も全然足りないな。やはり見直しが必要……だな。かといってあまり無理を言うと桂花の奴がうるさいからなぁ……。ああっ! いい案が全然浮かばねぇ!」



零治は一人部屋で怒鳴り声を上げ、髪をわしゃわしゃと掻き回し、不意に窓から太陽を見上げる。



「……ん、そろそろ昼時か。……そういえば今日は例の日だったな。いい案も浮かばねぇし、いったん区切って昼にするかな」



零治は一人そう言って部屋から出て行く。



「さーて、今日はどうするかなぁ?」



零治は一人廊下を歩きながら今日の昼食をどうするかブツブツと呟く。



「おっ、隊長。丁度ええところに」


「ん?」


「あっ、隊長。お疲れ様です」



廊下の反対側から、凪、真桜、沙和の三人がやって来て、凪一人だけ姿勢を正して敬礼し、零治に挨拶をする。



「おお、お疲れ。三人揃ってどうした?」


「えっとー、これからお昼に行こうと思うんだけど、隊長も誘おうと思って」


「ん、そうなのか?」


「私は止めたのですが……」



凪が伏し目がちに言う。



「いや、全然気にする必要はないぞ。部下と一緒に昼食をして親睦を深める事も出来るしな」


「そうですか。よかった」



零治の言葉に凪は安堵の笑みを浮かべる。



「で、お前らはなんか食いたい物とかあるのか?」


「では麻婆で」


「即答かよ!」



零治は思わず凪に裏券を入れつつツッコミをする。



「……なんですか?」



凪は零治のツッコミにキョトンとする。



「いや、一緒に行くのを遠慮してた割には食べたい物を即答したから、ついな……。しかし、麻婆とは意外だな」


「隊長、あんな! 凪の奴、激辛料理が大好きやねんっ!」



真桜が凪に背後から抱きつき、ほっぺをプニプニと突付きながら言う。



「なっ! やめろ真桜! 隊長の前だぞ! それに私は別に……」



凪が顔を真っ赤にして反論するが。



「はーい。凪ちゃんに質問その一。麻婆茄子と茄子田楽、どっちが好きー?」


「麻婆」


「質問その二。麻婆春雨と老麺ラーメンは?」


「麻婆」


「最後ー。唐辛子と茘枝ライチはー?」


「…………唐辛子」


「なっ?」


「ああ。今のでよーく分かった」


「隊長には誤解してほしくないのですが、私は決して辛い料理だけが好きとか、辛い料理ばかり食べているとか、そういう訳ではなく……」


「ああ、それは分かってるから、そこまで反論しなくてもいいだろう」


「はい……」


「ほんなら昼食べに行こかー」


「おーなの!」


「いや、わざわざ外に出て食べに行く必要はないだろう?」


「へっ? どういうこっちゃ?」


「ちょうど今から厨房に行く所だったんだ。お前らの分の昼飯も作ってやるよ」


「えっ!? 隊長って料理出来るが?」



真桜は眼を丸くする。零治が料理をするのがよっぽど意外と思ったらしい。



「何だその反応は……。オレが料理をするのがそんなに不思議か?」


「いや、だって……隊長が料理をする姿なんて、正直想像がつかんもん」


「こら、真桜。いくらなんでも失礼だぞ」


「えー。じゃあ凪ちゃんは想像出来るのー?」


「…………」



凪は黙り込んでしまう。その時点で考えは明白だろう。



「お前らがオレをどういう眼で見ていたのか、今のでよーく理解出来た。せっかくお前らの食いたい物を作ってやろうと思ったんだが、やめにするかな」



零治はワザとらしくそう言って、凪達の横を素通りして、一人、厨房に足を運びだす。



「あー、ウソウソ。さっきの言葉は取り消すき、そんなつれない事言わんといてぇなぁ!」



真桜が慌ててフォローを入れつつ、零治のコートの裾を引っ張って引き止める。



「……二度目は無いぞ? 分かったからコートを引っ張るな」


「あの……本当にいいんですか?」


「構わんよ。どうせ今日は厨房に行かなきゃならん理由もあるしな」


「……厨房に行かなきゃいけない理由ー? それってなんなのー?」



沙和が首を傾げながら訊いてくるが、零治は適当にお茶を濁す。



「なーに、大した事じゃないさ。ほら行くぞ。早くしないと昼休みが終わっちまう」


「あー! 隊長、絶対なんか隠しちゅうやろー。ケチな事言わんと教えてえなぁ」


「ホント大した事じゃないんだ。あまり要らん詮索をすると飯を作ってやらねぇぞ?」


「ちぇー……」


「真桜。隊長の前でみっともないぞ」


(こいつらに理由を話したら、絶対について来ないだろうからなぁ)



零治は内心苦笑しながら、数日前に城内の廊下であった、秋蘭とのやり取りを思い出す。


………


……



「オレが華琳の昼食を~?」



零治は眉をひそめながら秋蘭に訊く。



「うむ、そうだ。まあ、音無も仕事がある身だから、たまにで良いそうだが」


「秋蘭。オレが料理を作る点において致命的な欠点を抱えてる事は知ってるだろう」


「無論、華琳様もその点は承知している。その上でお前に作ってほしいと言ってるのだ」


「う~ん……」



零治は腕を組んで唸る。どうも乗り気ではないようだ。何しろ食事を出す相手が、あの華琳なのだから当然の反応だろう。



「なあ、華琳って相当の美食家で食通なんだろ?」


「ああ。それに華琳様ご自身もかなりの料理の腕前を誇っておられる」


「その華琳に昼食を作れって……正直難易度が高すぎるだろ」


「そうか? お前が以前作った炒飯の味は正直言ってかなりの物だったぞ」


「…………」


「少なくとも華琳様はお前の料理の腕を高く評価している。華琳様が他人の料理の腕前を認めるなんて事は滅多に無いぞ」


「まあ、それは嬉しい事だが……ここって、他に華琳個人に料理が作れる奴は居ないのか?」


「他には私ぐらいだな」


「……春蘭は?」


「……姉者が料理なんか出来ると思うか?」


「思わん」



本人の居ない所でボロクソに言われる春蘭もなかなかに気の毒である。



「だろ? それでどうなんだ?」


「うーむ……華琳に料理を作るって事は当然評価もされるよな?」


「だろうな」


「まあ、料理をする事自体は嫌いじゃないが……」


「なら引き受けてくれるか?」


「はぁ……分かった。引き受けよう」



諦めたように溜め息を吐き、零治は承諾した。



「そうか」


「ただし、一つ条件がある」


「なんだ?」


「味の評価をするんなら、オレの味覚と嗅覚が鈍いという点を踏まえた上で評価してくれ。でないと作る気がせん」


「分かった。伝えておこう。では昼食の件、よろしく頼むぞ?」


「ああ。……おっと、そうだ。大事な事を訊き忘れるところだった」


「大事な事?」


「華琳って苦手な食べ物とかあったりするのか? オレ、アイツの好みを知らないからさ」


「ああ、そうだったな。……華琳様は基本的に好き嫌いは無いが、唯一苦手なのが辛い食べ物だな」


「辛い物? それって基準はどの程度なんだ? 人によって苦手な辛さの度合いは違うから、それだけじゃ判断しにくいぞ。……例えば麻婆豆腐とかはどうなんだ?」


「……確か麻婆豆腐は普通の辛さでも大丈夫だったはずだ」


「……一応判断材料にはなるか。他には何かあるか?」


「いや、もう特には無いと思うぞ」


「そうか。なら、昼を作ってほしいときは連絡してくれ」


「分かった」


………


……



(はぁ……気が重いな……)


「ん? 隊長、どうかしましたか?」


「ん? ああ、なんでもない。気にするな。それより早く厨房に行くぞ。もたもたしてると昼休みが終わっちまう」


「はい」



そうして一同は厨房に足を運ぶ。


………


……



「さーて、お前らは何が食いたいんだ?」


「そしたらウチは、麻婆豆腐と炒飯」


「沙和は麻婆茄子と炒飯と……後、餃子も食べるのー」


「餃子は何餃子がいいんだ? 焼き餃子、水餃子、蒸し餃子、どれにする?」


「へっ? 隊長、餃子は普通、蒸すか水餃子にするんちゃうが?」



真桜が怪訝な顔で零治に訊いてくる。



「ああ、そういえばこっちの世界には焼き餃子は無かったんだったか。オレの世界じゃ餃子は焼いて食うのが一般的なんだよ」


「へー。変わってますね」


「だったら、その焼き餃子を食べてみたいのー」


「あいよ。餃子は一人前でいいか?」


「うん。あんまり食べると太っちゃうのー」


「分かった。……で、凪は?」


「麻婆豆腐、麻婆茄子、辣子鶏ラーズージー、回鍋肉、全部大盛り、唐辛子ビタビタでお願いします」


「ぶっ!」



零治の問いに凪は即答するが、内容が内容なだけに零治は驚きの表情で吹き出す。何しろ頼んだ料理が全部、唐辛子を使った物のオンパレードなのだから。



「……どうかしましたか?」


「ああ……いや、本人が良いってんなら、別に良いんだ。好みは人それぞれだからな……」



流石の零治も反応に困ってしまい、ぎこちなく応対する。



「あははは♪ 沙和も始めて見たときは、そんなに食べて平気? って聞いちゃったもん」


「まあ、隊長の気持ちもよう分かるけど、凪やったら大丈夫やで。行きつけの店じゃいつもやっとる事やき」


「そ、そうか……。なら、調理を始めるかな」



そう言って零治はコートを脱いでその辺に適当に置き、前掛けを身に着け、厨房の一角に大量に置かれてる食材を手に取り調理を始める。



「凪。作る物の関係上、お前の分は最後になってしまうが構わないか?」


「はい。構いません」


「悪いな」



零治は凪に一言そう言い、餃子の餡作りに取り掛かる。



(しかし唐辛子ビタビタねぇ……。味を落とさずに辛くするのって結構大変だからなぁ。作るのは一苦労だな。ってか、味見はどうしよう……凪にやらせるか? オレ、あいつの好みの辛さを知らないし)


「なあ、隊長」


「ん? なんだ?」



真桜が話しかけてくるが、零治は料理に集中してるので、背を向けたまま返事をする。



「作り始めてから訊くのもなんやけど、そこにある食材って勝手に使ってええが?」


「ああ、それなら大丈夫だ。ここにある食材は全部オレ個人の金で買った物だからな。つまり、これはオレの私物なんだよ」


「えっ!? それ全部ですか!?」


「なんだよ? そんなに驚くような事か?」


「だって……量が量だし、驚くなって方が無理だと思うの」


「ああ、そういえば三人は知らないんだったな。……お前ら、臥々瑠は知ってるよな?」


「ん? えっと、あの犬耳姉妹の妹の方やったっけ? あの子がどないしたん?」


「ここにある食材は全部アイツのために買ったような物なんだよ」


「そうなんですか?」


「ああ。アイツは飯を食う量が半端じゃなくてな。恐らく季衣と同等か、それ以上だな」


「えーっ!? あんなに小さいのにー!?」


「なんだよ? それを言ったら季衣も小さいだろ?」



今の言葉、季衣が聞いたら間違いなく怒りだすだろう。



「なるほど。けど隊長、それでどうして隊長が食材を大量に買う必要があるんですか?」


「アイツは基本的にオレが作る飯しか食わないんだよ。まあ、一緒に外食もしたりするが、それでもオレの作る料理が一番好きらしい」


「へー、そうなんや。ひょっとして厨房に来る理由ってソレなが?」


「当たらずとも遠からずだな」


「じゃあ、一体なんながよ?」


「知りたければ自分の頭で考えろ。……よし、これで餃子の方は焼けば出来上がりだ」



零治は三人と話をしながらも、作業の手は止めずに餃子の餡作りから皮に包むまでの作業工程を終えていた。



「……凄いですね、隊長。私達と話をしながらも作業はちゃんとこなしてますから」


「そうか? 慣れればこれぐらい誰でも出来るだろ?」


「いや、普通そこまではでけへんやろ?」


「うんうん」


「そんなもんかぁ? ……さて、餃子と炒飯を一気に仕上げるか」



零治はそう言いながら、鍛冶屋で特注に作らせた焼き餃子用の小さな鉄板と中華鍋を火に掛け、黙々と調理を開始する。



「……凄い手際だ」


「ホンマやな。隊長に出来ん事って無いんとちゃう?」


「うん。沙和もそう思うのー」


「…………」



ただひたすら黙って調理をする零治は真桜と沙和の分の料理を完成させていく。そして最大の難関、凪の分の『唐辛子ビタビタ』の調理を始める。



「さて……最大の難関の攻略を始めるのだが……。なあ、凪」


「なんですか?」


「お前の行きつけの店の『唐辛子ビタビタ』って、どんなんだ?」


「えーっと……全部の料理に唐辛子を……そのまま山盛りに……」



凪は顔を赤くしてボソボソとした声で俯きながら言う。



「そ、そうか……」


(唐辛子そのまま入れるのかよ。てか、味するのかそれ? はぁ……作ってる最中に辛子の刺激臭で眼がやられたりしないか心配になってきたぞ……)



零治は心の中でそう思いながらも調理を始める。



「…………」



黙々と料理を作っていくのだが、油をひいた中華鍋の中に唐辛子を大量に、おまけにそのまま鍋に放り込んで炒めているのだ。

厨房内には唐辛子特有の刺激臭が漂い、零治の眼と喉には突き刺すような刺激が襲ってくる。



(くっ……! やはり辛いっ! 眼がイテェ! 涙が止まらん! ああっ、クソ! 喉にも来る……っ!)


「……ゲホッ!」



零治は目の前から漂ってくる刺激臭に耐えきれず、むせ返り咳き込んでしまうが、何とか凪が頼んだ分の料理を完成させた。



「隊長、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫だ……。それより凪、悪いが味見をしてくれるか?」


「私がですか?」


「ああ。一応、それっぽくは仕上げたつもりだが、オレ、お前の好みの辛さを知らないからな」


「分かりました」



そう言って凪は、見た目からして一番辛そうな辣子鶏を口に運ぶ。



「あむ……」


「……どうだ?」


「…………」


「……凪?」



しばらく凪は固まったように黙り込んでいたが、やがて静かに口を開いた。



「隊長……」


「お、おう……」


「隊長、凄いです! こんなに美味しい唐辛子ビタビタは初めてですっ!」



凪は零治の右手を両手で握りしめ、眼をキラキラと輝かせてる。どうも、零治が作った料理の味に感動してるようだ。



「そ、そうか……。つまり、この辛さで……良いんだな?」


「はいっ!」


「凪があんなに喜んでる姿ら初めて見たで……」


「隊長が作った料理がよっぽど美味しかったんだねー」



凪の方を見てみれば、これは何を使って味付けをしただの、材料はどこの店のを使っただの、今度作り方を教えてくれだのとあれやこれやと零治に質問攻めしている。

零治は凪の意外な一面を見たと思う反面、あまりの勢いにタジタジになっていた。



「な、凪。分かったからとりあえず落ち着け。料理を卓に運ばなきゃならんから」


「あっ! す、すみません。つい、興奮してしまい……」


「気にするな。喜んでくれるのは、作った身としては嬉しいからな」



零治は凪の頭を軽くポンポンと叩いて、出来上がった料理を三人が座ってるテーブルの上に次々と並べていく。



「はいよ。三人とも待たせたな」



テーブルの上に三人の料理が運ばれ、辺りに湯気と食欲をそそる美味しそうな匂いが漂う。



「おおっ! メッチャ旨そうやん」


「凪、白飯はいるか?」


「はい。いただきます」


「……はいよ」


「ありがとうございます」


「んー? ねえ、隊長。この餃子の周りに付いてる薄い膜みたいのはなんなのー?」


「ん、羽の事か?」


「羽?」



凪が首を傾げる。



「ああ。そいつは羽付き餃子と言ってな、オレの世界の焼き餃子の一つだ。羽はパリパリしてて旨いぜ」


「へー、そうなんやぁ」


「さて、オレの分の昼を作るか。……ああ、三人はオレの事は気にせずに先に食ってて構わないぞ」


「えっ? ですが……」


「いいっていいって。オレの分なんかすぐに出来上がるからよ」


「凪。ここは隊長のお言葉に甘えようや。ウチらもあんま時間が有る訳ちゃうんやき」


「……そうだな。では隊長、先に頂いてますね」


「ああ」


「いただきまーす♪」


「…………」



零治は一人調理場に戻り、余った麻婆豆腐を自分好みの味に作り直し始める。



「悪い、凪。酢醤油取ってくれんか?」


「もぐもぐ……んぐっ、ん……はい」


「へへっ。おーきに。沙和、酢醤油要るやろ?」


「ありがとう。真桜ちゃんにしては気が利くのー」


「いやー、その餃子、酢醤油つけて食ったら旨いやろなと思うてなぁ」


「もー。素直に頂戴って言えばいいのに。じゃあ、一個あげるの」


「おーきにな」


「凪ちゃんも要るー?」


「あむ……ん、食べる……」


「はい、どうぞ」


「ありがと」


「おおう。ちょいと失礼するぜ?」



調理を終えた零治が凪たちのテーブルに、丼に盛り付けた麻婆豆腐を持ってやって来る。



「あっ。ちょっと待ってね隊長。今、間を空けるのー」


「おう。悪いな」



三人は自分の分の料理の皿を動かし、零治の分が置けるスペースを作る。

空いたスペースに自分の料理を置き、椅子に腰かけた零治は首の骨をコキコキと数回鳴らし、肩を叩いて疲労感を露わにした。



「ふぅ……流石に三人分、それも料理も別々となると疲れるぜ」


「ん? 隊長。昼飯、麻婆豆腐だけでええが?」


「ああ。まだ用があるから、オレは手早く済ませたいんだよ。それとこいつは、正確には麻婆豆腐ではなくて麻婆丼だ」


「麻婆丼? なんやのそれ?」


「名前通りさ。丼に盛り付けた白飯に麻婆豆腐をぶっかけた物だ」


「はぁ!? 麻婆豆腐を白ご飯にかけてるらて……気持ち悪っ!」


「邪道だよ、邪道~! 変なのー」


「もぐもぐ……もぐ……」



凪は何も言いはしないが、嫌そうに眉をしかめてる。



「そうか。こっちには麻婆丼は無いんだな。オレの世界じゃ至って普通なんだがな。食うの楽だし」


「そーなん? ウチらからしたら、なんや抵抗あるなあ……」


「旨いぞ、麻婆丼。……食うか?」


「うーん……じゃ、一口だけ」


「…………私も」


「ん~~~……ッッ、せやったらウチも!」



三人は零治が差し出した麻婆丼をレンゲで掬って、恐る恐る口に運ぶ。



「……どうだ?」


「おわわっ!? 旨いで、コレ!」


「うん、おいしー。何これビックリー!」


「……意外」


「だろ。もともと挽肉入りの餡と米の相性が良いから、不味いわけがないんだよ」


「今度、沙和もやってみるのー」


「やー、こんな事やったら炒飯やのーて、ウチも白ご飯にしときゃ良かったなー」


「…………やってみよ」



凪は零治に習い、自分の白飯に麻婆豆腐をかけて同じように麻婆丼を作り、真桜と沙和はもう一口と零治の麻婆丼をレンゲで掬い取る。



(ふむ。気に入ってもらえて何よりだ。さて、オレもさっさと昼を済ませるか)



零治は黙々と食事を始める。と、その時。



「あら? 先客が居たのね」


「ん?」



零治達は厨房の入り口から声がしたので視線を向けると、そこには春蘭、秋蘭を連れ立った華琳の姿があった。



「か、華琳様っ!?」


「た、大将、なんでここに……!?」


「なんでって、昼食を食べに来たからに決まってるじゃないの」


「隊長……」



沙和はまるでロボットのようにカクカクとした動作で、首を横に動かして零治に視線を向け訊く。



「なんだ?」


「もしかして……厨房に行かなきゃいけない理由って……」


「ああ。そういう事だ」


「なんで教えてくれんかったがよっ!?」


「いや、教えたらお前ら来なかっただろ?」


「当たり前やん! 大将と一緒に昼を食うら恐れ多いっちゅうねん!」


「…………」



凪達は華琳が現れた事により、すっかり畏縮してしまっていた。



「ふふっ。私の事は気にしなくて良いから、貴方達はそのまま食事を続けなさい」


「は、はーい……」


「やれやれ……。華琳、もう少し待ってくれ。すぐに昼を済ませて、取り掛かるから」


「あら、別にゆっくりでも構わないわよ? こっちが無理を言って付き合わせてるんだから」


「本来ならそうしてるところだが、春蘭が早くしろって眼で語ってるからな……」


「……春蘭」


「姉者……」


「わ、私はそんな眼などしておりませんっ!」



本人はそう言ってるが、慌ててるという事は図星なのだろう。



「はいはい、そういう事にしとくわ。とにかく、零治が昼食を済ませるまで私達は席に着いて大人しく待ってるわよ」


「はい」



華琳達は空いてるテーブルに着き、零治が昼食を終えるのを待つ。



「…………」



零治は黙々と食事を続け、それを春蘭は黙って待ち続けるのだが……。



「……………………」



次第に春蘭は苛立ちを募らせ始め……。



「まだか音無!!」



堪え性の無い春蘭は、もう待ちきれないと言わんばかりに大声を張り上げる。



「そんなに怒鳴るなよ。もうすぐ済む」


「姉者。これから昼食を作ってくれる人間にその言い方はないだろう」


「それは分かっているが、これ以上待たされるのは……」


「はぁ……いい加減になさい、春蘭」


「うぅ……」


「……済んだぞ」



華琳達がそんなやり取りをしてる中、食事を終えた零治が三人の座ってる卓の前まで足を運んでくる。



「おおっ! ならば早く作れ!」


「……お前だけ昼は白飯一杯だけにしてやろうか?」



春蘭の言い方が気に障ったのか、零治は無愛想に言う。



「なんだとぉ!」


「やめないか姉者。あんな言い方をされたら、誰だって気分を害するに決まってるだろう?」


「そうよ。貴方はもう少し物の言い方を勉強するべきかしらね、春蘭?」


「むぅ……」


「まあ、冗談はさて置き、三人とも本日はなんにする?」


「そうねぇ……」



華琳の視線が凪達のテーブルに有る料理に止まる。



「な、なんですか……?」



凪は思わずうろたえてしまう。



「ああ、気にしないで。どんな料理が並んでるか見ていただけだから」


「は、はぁ……」


「……ふむ。見たところ、三人とも麻婆を食べてるようね」


「ああ。凪と真桜は麻婆豆腐、沙和には麻婆茄子を作ってやったが」


「そう。なら、麻婆豆腐をお願いするわ」


「はいよ。春蘭と秋蘭は?」


「華琳様が麻婆豆腐なら、私も同じ物を食べるぞ!」


「私も同じ物を頼む」


「はーい、麻婆豆腐三人前入りまーす」



零治はまるで飲食店の店員のような口調で言う。



「……何を言ってるの?」



華琳は奇怪な物でも見るような視線を零治に向けながら言う。



「いや、その場のノリで言ってみただけだ。……昼は麻婆豆腐だけでいいのか?」


「あら、他にも作ってくれるの?」


「餃子ぐらいならすぐに作れるが?」


「餃子?」


「ああ。沙和に作ってやったんだが、材料が余っててな」


「そう。ならお願いするわ」


「二人も食うか?」


「ああ」


「うむ」


「なら、調理に取り掛かるとしよう」



零治は調理場に移動し、華琳達の昼食の調理を開始する。



「しっかし隊長、よう大将の昼を作る気になったなぁ」


「うんうん。華琳様って、すっごい美食家だもんね。普通は作る気になれないよねぇ」


「…………」


「て、凪はいつまで緊張しとんねん。別に相席しとるわけちゃうやろ」


「あ、ああ……それは分かってるんだが……」


「…………」



零治は黙々と調理を続け、華琳はその姿をジッと見つめている。



「……そんなにジッと見て何が楽しいんだ?」



その視線に気づいた零治は、背を向けたまま華琳に話しかける。



「いえ、見事な手際だと思ってね」


「ふ~ん……」


「うぅ……私だってあれぐらい……」


「出来るのか?」


「うぅ……しゅう~ら~ん」


「よし、餃子はこんなもんか」



零治は餃子を鉄板に乗せ火に掛ける。



「えっ?」



零治の行動に華琳は素っ頓狂な声を出す。



「ん? どうした?」


「音無……一体何をしてるのだ?」



続いて春蘭が怪訝な顔で零治に訊いてくる。



「何って、餃子を焼いてるんだが?」


「音無。餃子は普通、蒸すか水餃子にする物だろう?」



更に秋蘭も零治の行動に疑問を抱き、そう言う。



「ああ、オレの世界じゃ餃子は焼いて食うのが一般的なんだよ」


「へえ。変わってるわね」


「気に入らないんなら作り直すが?」


「いいえ。気になるから、そのまま続けてちょうだい」


「はいよ。じゃあ、この間に麻婆豆腐を作り上げるとしよう」



と、その時、厨房に新たな来客がやって来る。



「くんくん。美味しそうな匂いがする」


「ちょっと臥々瑠、やめなさいよ。はしたないじゃない。早く立ちなさいってば」



臥々瑠がまるで犬のように四つん這いになって床の匂いを嗅ぎながら厨房に入ろうとするので、姉の奈々瑠が後ろから肩を掴んで立ち上がらせようとするのだが、臥々瑠一向にやめる気配を見せない。



「ん? おお、やっぱり来たな」


「兄さん。ご飯作ってー」


「分かった分かった。華琳達の分が出来たら作ってやるから、席に着いて大人しく待ってろ」


「は~い」


「すみません、兄さん……」


「別に謝るような事じゃないさ。お前も食うだろ?」


「はい」


「おーい。二人ともこっちおいでやー」


「こっちで一緒にご飯食べよー」



真桜と沙和が奈々瑠達にそう呼びかけてくる。



「うん。行く行くー」


「あの、兄さん。私は手伝った方がいいんじゃ……」


「いいって。ほら、お前も行って来いよ」


「はい」



と、更に。



「すみませーん。何か食べる物は有りますかー?」


「あーっ! みんなでご飯食べてる、ずるーい! ボクも食べたーい!」



亜弥と季衣が厨房に姿を現した。



「なんだよ。今日は随分と来客が多い日だな」


「おや? 今日は随分と大所帯なんですね」


「二人もどっか適当に座っとけ。華琳達の分が出来たらまとめて作ってやる」


「……零治」


「なんだ?」



零治は返事はするものの、料理に集中してるので亜弥の方は見ていない。



「臥々瑠と季衣が居ますし、私は手伝った方がいいんじゃないですか?」


「あっ、それなら私も」


「……すまん、頼む」


「いえいえ」


(やった! 兄さんと一緒に料理が出来る!)


「よしっ! 完成だ」



零治は出来上がった麻婆豆腐と焼き餃子を華琳達のテーブルに手早く運ぶ。



「はいよ。お待たせしたな」


「ほお。これは旨そうだな」


「ん? 零治。この餃子に付いてる膜みたいな物は一体……」


「すまん華琳。質問と味の評価は後で聞く。次の調理に取り掛かりたいからな」



零治はそう言って再び調理場へ戻る。



「こら音無! 華琳様の質問にちゃんと答えんかっ!」


「後にしろって言ってるだろぉ! ここから更に四人分、そのうち二人の分は大量に作らなきゃいけないんだからよ!」



流石の零治も作業の手を止められるのに苛立ってか、思わず春蘭に怒鳴り散らす。



「なんだとぉ!」


「ほら春蘭。零治の邪魔をしちゃダメでしょ」


「そうだぞ。それに、音無は後で聞くと言っていたではないか」


「むぅぅ……」


「さっ、せっかく零治が作ってくれた手料理なんだから、冷めないうちに戴きましょう」


「はい」


「後から来た四人、お前らの昼飯は麻婆丼に決定だ。反論は認めん」


「にゃ? ねえ、臥々瑠。麻婆丼ってなんなの?」



季衣は聞いた事のない料理の名前に面喰い、首を傾げながら臥々瑠に訊く。



「えーと、麻婆豆腐を白ご飯にかけた物だよ」


「えー、それって美味しいのー?」


「季衣ちゃん、それがね、信じられくれない美味しかったのー」


「えっ、そうなの?」


「ウチらもさっき隊長が作ったのを食べさせてもろうたんやけど、ゴッツ旨かったで」


「へえー」


「兄さん、アタシ特盛で~」


「あっ、じゃあボクも」


「はいはい。……亜弥、奈々瑠。お前らは材料を切ってろ。味付けはオレがやる」


「分かりました」


「……中華鍋、一つで足りますかね?」



亜弥が不安げに言う。何しろ、今この場に超が付くほどの大飯食らいが二人も居るのだから。



「足らんな。もう一つ出さないと」



零治は中華鍋をもう一つ取出し、両方火にかけてタレの下ごしらえを始める。



「奈々瑠。豆腐の下ごしらえは私がやっておくので、零治を手伝ってあげてください」


「はい。……兄さん、お手伝いします」


「ん、ならこっちの鍋のタレ作りを頼む。分からない事があったら聞きな」


「はい」


「ふふっ。大忙しね」



華琳は食事をしながら、料理でてんてこ舞いの零治の後ろ姿を見ながら、どこか楽しげに呟く。



「そうですな。……しかし、相変わらず見事な腕前ですな、音無の料理は」


「そうね。この麻婆豆腐は、単純に辛いのではなく、素材の味を引き立てるように辛さを上手く調整してあるわ。正直言って、味覚と嗅覚が鈍いという話が信じられないわね」


「同感ですな。それに、この餃子もなかなかどうして」


「うむ。確かにこれは旨いな!」


「ええ。ただ焼いてるだけなのに、ここまで変わるものなのね。この餃子の周りに付いてる膜と皮が良い食感を出してるわね」


「零治。豆腐の下ごしらえ、終わりましたよ」


「おう。ならこっちに回してくれ」



零治は亜弥から仕込が終わった豆腐を受け取り、中華鍋の中に放り込み最後の仕上げに入る。零治が担当してる鍋は明らかに豆腐が奈々瑠の鍋の倍以上入っている。恐らく、臥々瑠と季衣の分だろう。



「……凄い量ですね」


「んな事より、丼を用意してくれよ。二つは一番でかいやつな」


「はいはい」


「兄さん。それ……重くないですか?」


「ん、平気だ。それより鍋から眼を離すな」


「あっ、はい」


「兄さ~ん。まだ~?」


「もうちょっとで出来るから大人しく待ってろ」


「は~い……」


「もう。あの子ったら……」



不満そうに返事をする臥々瑠に、奈々瑠は呆れ果てる。



(ちくしょー! 昼休みなのに、なんでこんな忙しい目に遭わなきゃいけないんだっ!? これじゃ休憩になりゃしねぇ!)



料理をする事自体は嫌いじゃない零治も、これだけの大人数分、しかも昼休みの時間に作るとなると流石に苦痛に感じてしま、内心では叫び声を上げる。

こうして零治の昼休みは、厨房に来た来客たちの昼食と作るという多忙な形で終わってしまったのだった。

零治「なあ。一人、姿を見せてない奴が居ないか?」


亜弥「ああ、桂花ですか?」


作者「だって、登場させる要素が無かったからさ」


奈々瑠「そんな事言って、ホントは嫌いだから出番を与えなかったんでしょう?」


作者「んな事するか」


臥々瑠「でも桂花の事、あんまり好きじゃないのは事実じゃん」


作者「まあ、他のキャラに比べるとあまり好きじゃないのは否定できんな」


臥々瑠「ほら、やっぱり」


作者「だが安心しろ。次に書く拠点パートでは桂花メインでやるつもりだ」


零治「ほお。そうなのか?」


作者「ああ。そこの姉妹。お前達も大きく絡んでくるから、そのつもりでいろ」


奈々瑠「……私達が?」


作者「そうだ。期待してろ」


亜弥「あの顔、また何かろくでもない事を考えてますね……」


零治「そうだな……」

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