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第19話 始動!音無警備隊

サブタイトル通り、この回は三羽鳥がメインの話です。

まあ、特に大きな変更点はありませんが。

「…………遅いな」



零治は主が不在の玉座の間で苛立ちを込めて呟く。



「……すみません。隊長……」



凪が申し訳なさそうな顔で零治に謝罪する。

というのも、凪、真桜、沙和の三人は今日から警備隊の一員として仕事に就く事となり、零治は三人に玉座の間に集合するように言っていたのだが、真桜と沙和は未だに現れる気配が無い。



「別に凪が謝るような事じゃない。悪いのはあの二人だからな」


「まあまあ。確かに遅刻は問題ですが、彼女達は警備隊としての初仕事なんですから、今日くらい大目に見てあげましょう。ようやく念願の優秀な人材が来てくれたんですから」



亜弥がそう言ってなだめるが、零治の苛立ちは収まる気配が無い。



「……まあ、優秀な点は否定せんが……」



と、その時。



「ごめーん。遅くなってもうた」


「やっほー。お待たせなのー」


「……やっと来たか。お前ら遅いぞ」


「いや、だからこうして謝っとるやんか」


「その割には悪びれてる様子が全く無い気がするのは、オレの気のせいか?」


「それは気のせいなのー」



沙和はそう言ってはいるが、二人ともへらへらと笑っており、息を切らしてる様子も無いので、急いでここまで来た気配は全く無い。つまり、今日の遅刻は確信犯と言っても過言ではないだろう。



「はぁ……。まったく二人とも、初仕事の日からそんな事でどうするんだ。だいたいお前達は昔から……」


「凪、その辺にしてやれ」


「ですが、隊長!」


「構わん。まだ不慣れな点もあるだろうから、今回は特別に大目に見てやる」


「おお。流石は隊長。話が分かるのー」



しかし、ただの遅刻と言えど、それを無償で許すほど零治は甘い男ではない。

零治はすーっと眼を細め、脅しをかける。



「ただし……次やったら始末書だからな……」


「うっ……。隊長、その始末書って、なんかヘマやらかしたらホンマに書かなあかんが……?」


「それはやらかしたヘマの内容によるがな。まあ、今日みたいなあからさまな遅刻は、本来なら始末書を書かせてるところだぞ」


「…………」


「…………」



真桜と沙和から先程までのにやけた表情は完全に消え失せ、強張った表情になる。

いつの時代でも、大量の謝罪文を書かされるのはやはり苦痛でしかないのだ。



「それが嫌なら今後は注意しろ」


「へ~い……」


「はーい……」



二人は何やら不満げな表情で生返事をする。



「はぁ……」



二人の態度に、凪は頭を抱えながら溜め息を吐く。



「さて、話がまとまったところで、説明を始めますかな」


「そうだな。……じゃあ、亜弥。頼む」


「そこは普通、隊長である貴方が説明するのでは……?」


「こいつらの説教で疲れた」


「はぁ……しょうがないですねぇ。……では説明を始めますよ。三人とも整列」


「はっ」


「ほいよー」


「はーい♪」



三人が零治と亜弥の前に、姿勢を正しながら横一列に並ぶ。



「えー、私達の主な仕事は街の治安維持です。貴方達三人は、華琳の命で私達と同じ警備隊に配属となりました。今日は私達と一緒に街の見回りを行いますが、三人は指揮官としても能力が高いので今後は小隊長として部下を率いて街の警邏に出てもらう事になるでしょう。いいですね?」


「はいっ!」


「ほーい」


「分かったのー」


「はい。みんな元気があってよろしいですねぇ。三人とも、何か質問はありますか?」


「はーい。亜弥様、しつもーん」



沙和が元気よく手を挙げ、亜弥に質問する。



「はい、どうぞ」


「休憩はいつ取れるのー? 後、休憩時間はどれぐらいなのー?」



沙和のあまりにも場違いな質問にその場の空気がしらけるのが分かる。



「沙和……いくらなんでも、その質問は無いやろ」



流石の真桜もツッコミを入れざるを得ない。



「えー。そんなことないよー。これはとっても重要な事だと思うのー」


「ハ、ハハハ……」



亜弥が乾いた笑い声を上げながら苦笑する。



「はぁ……。まあ、一通り担当区域の見回りを終えたら、お茶や食事休憩をするぐらいなら認めている。それと休憩時間は組み分けの時に決めた班長の判断に任せてある」


「おおっ! それはとってもすばらしいと思うのー!」


「ただし、過剰な休憩は始末書の対象だからな。そこの所は憶えとけよ」


「はーい!」


「ホントに分かってんのかぁ?」



零治は沙和を訝しげな表情で見つめる。初っ端から遅刻をしてきただけにやはり不安ではある。



「まあ、いいんじゃないんですか? どこかで息抜きをしないといつか爆発しちゃいますし。彼女の質問もある意味、間違ってはいないでしょう」


「まあ、確かにな。……他に質問はあるか?」


「いえ、私は特に」


「ウチも無いで」


「沙和も無いのー」


「そうか。なら、今から街の見回りに行くぞ」


「はっ!」


「了解や」


「はーい」



一同は玉座の間を後にし、街の見回りに出発する。


………


……



「……ん~?」


「隊長、むずかしー顔してどないしたん?」


「いや、どうも街の様子がいつも違う気がしてな……」


「ああ、言われてみれば確かに。……もうすぐ昼時で、通りに並ぶ店が盛り上がりを見せ始める点は変わらないんですが……」


「ああ。いつもなら周りの人たちも声をかけてきたりして来るんだが、今日は遠巻きにこっちを見てるだけだよなぁ……」



零治は街の人たちの反応がいつもと違うのを疑問に思いきょろきょろと辺りを見回す。



「あ」



零治の視線が凪、真桜、沙和の三人に止まる。



(そうだった。オレ普段は一人で出歩く事が多いが、今日はコイツらが一緒だったな。だからか……)


「隊長、不審者でも居ましたか?」


「えー、そんなの怖いのー」


「アンタが怖いゆうてどないすんねん。ウチらより、強い不審者なんて滅多におらんから安心し」


「……亜弥」


「はい?」


「今日のオレ達って、明らかに目立ってるよな?」


「そうですね。私達も武装こそしてますが、この世界の武官みたいに鎧までは身に付けてませんから、街の人達も比較的話しやすいんでしょうが……」


「この三人は武装もしてる上に服装も厳ついからな。街の連中も警戒するわな……」


「ん? 二人して何を話しとんの?」


「いや……オレ達、目立ってるなぁ、と思ってな」


「そう? そんな事ないやろ」


「いや、明らかに目立ってますよ。特に貴方達三人は」


「気のせいなのー。……あ、もしかして沙和に見とれてるのかな」


「はははっ! 無い無いー」


「そんなすぐ否定しなくたっていいじゃーん! 真桜ちゃん、酷いのー」


「…………不審者、不審者……」



のんびりな沙和とツッコミ役の真桜のやり取りをよそに、凪は一人真面目に不審者が居ないか辺りをきょろきょろと見回している。



「…………」


「なかなかに個性の強い子達ですね」


「はぁ……先が思いやられるぞ」



零治がため息交じりにそう呟いたその時。



「あーーー!!」



沙和が突然大声を上げ、数軒先の店先に駆け込んでいく。



「どうしたっ!?」


「もしや、不審者か?」



残りのメンバーも慌てて沙和の後を追う。



「新しい阿蘇阿蘇あそあそが出てるー!!」


「あ、阿蘇阿蘇?」


「そ、阿蘇阿蘇なの。ほら!」



沙和はそう言って、普通のより大きめの本のページを亜弥に広げて見せる。内容から察するに女性向けのファッション雑誌のようなもだろう。



「見て見てー! 社練しゃれん抜具バッグの新作が載ってるの♪ かわいー!」


「阿蘇阿蘇……ひょっとして、ama……むぐっ」



沙和が何かを言いかけた亜弥の口を塞ぐ。



「亜弥様、それ以上は言っちゃダメなの。ね、それよりほらー! 沙和、今月の恋愛運、二重マルみたいなのー! 亜弥様、隊長の誕生日って、いつなのー?」


「零治の誕生日ですか? 確か零治は……」


(……ふむ。やはり年頃の女ってのは、いつの時代、どこの国でも変わらないみたいだな。まあ……こういった空気はオレには縁遠いものだが……。って、凪と真桜はどこに行った?)



零治が二人を探すように辺りをきょろきょろと見渡していたその時。



「おーーーっ!!」


「今度はなんですっ!?」


「オレが行ってくる」



向かいの店から真桜の叫び声が聞こえたので、零治は落ち着いた足取りで歩み寄る。



「おい真桜。どうかしたのか?」


「見てぇ! 発売中止になった超絶からくり夏侯惇!」


「…………なんだ、こりゃ?」


「え。隊長、コレ知らんの? ホンマに? からくり夏侯惇やで」


「まったく知らんな」



真桜の手の中に有るのは、からくり仕掛けの人形のようで、外観は言われてみると確かに、夏侯惇……つまり春蘭に見えなくもない。



「これはな、許昌のからくり師が勇名轟く春蘭様のからくりを是非とも作りたいっちゅー事で作られてんけど……」


「ふんふん……」


「大人気ない春蘭様は『こんな物は私では無い!』って怒ってもーて、あっちゅー間に発売中止になってん」


「……なるほどな。それでいつしか貴重な物になった訳か。春蘭も大人気ない奴だなぁ」


「せやねん~。こりゃ掘り出し物やで。好事家なら驚くような値を付けるはずや! ……な、おっちゃんこれナンボ?」


「おい、真桜。お前……買う気なのか?」


「当たり前やろ! この機会逃したら、次いつこんな巡りあわせがあるか分からへんやん!!」


「おい……今は仕事ちゅ……」


「おっちゃん、ナンボ!? ……は? あっかん! そら高い! ぼり過ぎやろ!」


「…………」



真桜は零治の言葉に耳を貸さずに、店主と値切り交渉を始めだす。



「うーむ……これはひょっとして、オレは舐められてるのだろうか? ここは一度厳しくしごくべきか? ……だがやり過ぎると逆に怯えられるし、そこの加減が難しいよなぁ。どうするべきか……」



零治が一人自問自答を繰り返してるその時。



「待てっ!!」


「今度はなんだっ!?」



今度は凪の叫び声が上がり、零治は声がした方角を振り向く。



「待てぇーいっ!!」


「うおっ!?」


「待てと言われて、止まる奴が居るもんかっ!」



すぐ近くの店先から飛び出してきた不審な若い男が、零治のすぐ隣を走り去っていき、その後を数メートル遅れて、凪が追いかける。



「何の騒ぎだ?」


「盗人だよ、盗人! 店の売り物、片っ端から盗んでいきやがったっ!」



被害に遭った店の店主と思われる人が零治に説明をする。



「なんだと!? 亜弥、オレは凪の後を追う! その二人の面倒はお前に任せた!」


「はっ!? ちょっ! 何を言って……」



零治は言う事だけを言って、亜弥の抗議には耳を貸さずに、凪の後を追いかけ始める。



「凪っ!! 絶対に逃がすな! 何としても捕まえろーー!」


「はい、隊長!」



凪は魏の将軍達の中でも、かなりの俊足の持ち主だが、相手の賊もなかなかにすばしっこく、街の狭い裏路地に入り込みちょこまかと逃げ回り、零治と違ってあまり裏道に慣れていない凪は見失わないようにするのが精一杯だった。



「くっ……ちょろちょろしおって……」



息も切らさず走り回りながら、凪は悔しげに眉根を寄せる。



「ええいっ! まどろっこしい!!」


「ん?」



走る凪の背に、メラメラと赤い炎が浮かび上がる。ちなみに凪の攻撃方法は素手による格闘術と氣弾攻撃だ。つまりこれは、凪の闘志が眼に見えてるのではなく、凪自身が氣を練り、攻撃準備をしている訳で……練り上げた氣が凪の右脚に集中する。



「ちょっ!? こんな街中で氣弾攻撃をする気かっ!?」



零治達が現在居る場所は、洛陽の中心街。多くの店が建ち並び入り組んでる場所だ。そんな所で威力抜群の氣弾を放てばどんな結果になるかは……推して知るべしだ。



「やめろ、凪! こんな街中で本気を出すなぁぁぁぁっ!!」


「はああぁぁぁぁーっ!」


「だああああああっ!!」



零治が止める間も無く、凪は裂帛の気合いと共に氣弾を放つ。蹴りから繰り出された氣の塊は、凄まじい騒音を上げながら街の店々を薙ぎ倒しながら、賊めがけて飛んでいく。



「ぎゃあぁーっ!」


「うわあぁー!」


「きゃああぁぁ!」



氣弾は街中を飛んでる訳だから、町人達が巻き込まれるのも当然なわけである。



「……あ……ぁ……あ……」



崩れ落ちる建物。逃げ惑う人々。ついさっきまで平和だった洛陽の街は一瞬にして阿鼻叫喚の地と変り果てる。



「泥棒一人捕まえるのに、なぜこんな事に……」



零治は地面に両手を付きガックリと項垂れる。



「げふっ!?」



数々の被害を生み出した末に、やっと本来の目的である若い盗人に氣弾が命中する。



「よしっ! 見たか!」



凪は賊に氣弾が命中したのを確認し、グッとガッツポーズを取り、脇目も振らずに倒れてる賊に駆け寄り、そのまま腕を捻り上げる。



「隊長。賊を一名、捕獲しました!」


「は、はい……ご苦労さん」



心底嬉しそうな笑みを浮かべ、満足げな凪。どうも彼女の眼には街の惨状は映ってないらしい。



「ちょっ!? 零治、何ですかこの惨状はっ!?」


「なんやなんや、どないしたん~?」


「街が大変~! 驚きなのー」



そこにようやく、真桜と沙和を連れ立った亜弥が合流する。真桜の手にはからくり夏侯惇、沙和の手には阿蘇阿蘇の本がしっかりと握られていた。



「お前ら……来るのが遅せぇよ……」



零治は三人に恨めし気な視線を向けながら言う。



「社練のお店は無事かなあー!? 今度、新作の靴が出るのに心配なのー!」


「いやー、ウチのからくり人形ちゃんは何とものうてホンマ良かったわ! はように買うとって正解や!」


「隊長! こやつはどこに連れて行きましょう?」


「もう……どこへでも好きな所に連れて行けよ……」


「…………」



流石の亜弥も目の前の光景を見て完全に言葉を失っていた。



「……亜弥」


「……なんですか?」


「オレ達……華琳に殺されるんじゃね……?」


「……そうならないように、せめて言い訳ぐらいは考えときましょうね……」


「…………ああ」



しかし、そんな事を言った所で、華琳が許してくれるとはとても思えないが。



「…………」


「…………」


「「はぁ……」」



二人は街の惨状を改めて眼にして、項垂れながら大きな溜め息をつく。

この後、城に帰還した零治達が華琳にこっぴどくお叱りを受けたのは言うまでも無い。

零治「この話、どこか変わってるのか?」


作者「いや、別に変更点は無いぞ」


亜弥「まあ、この話はこのままで充分でしょうしね」


奈々瑠「そういえば、拠点パートの話って凪さん達を使ってる事が多くないですか?」


臥々瑠「あ、言われてみればそうだね。登場率、一番高いかも」


作者「いや、三羽鳥は一番動かしやすいキャラしてるからな。コイツらを出すとサクサク書けるんだよ」


零治「それはいい事だが、あまり偏った書き方はするなよ? 他にも登場人物はいるんだから」

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