第18話 黄巾の乱勃発 後編
メインストーリーの話が長くなりがちなのは前から変わってません。
読むのが煩わしいと思う方も居るかもしれませんが、どうかご容赦ください。
ちなみに私は長いのも短いのもどちらでもいけますが、皆さんはどっちが好きですか?
「秋蘭! 季衣! 無事かっ!」
春蘭が二人を心配する様子で街に駆け込んでくる。
「危ない所だったがな……まあ見ての通りだ」
「春蘭様ー! 助かりましたっ!」
「二人とも無事で何よりだわ。損害は……大きかったようね」
「はっ。しかし彼女らのおかげで、防壁こそ破られましたが、最小限の損害で済みました。街の住人も皆無事です」
「……彼女らは?」
華琳は義勇軍の三人娘に視線をやり、秋蘭に訊く。
「……我らは大梁義勇軍。黄巾党の暴乱に抵抗するために、こうして兵を挙げたのですが……」
「あー!」
楽進が華琳に説明をしている時、突然、李典が何かを思い出したように華琳を指差しながら大声を上げる。
「「あー!」」
続いて、春蘭と于禁が互いを指差し合いながら大声を出す。
「……何よ、一体」
「貴方は、あの赤毛の兄さん……音無って人と一緒に居た……。姉さん、憶えてませんか? 前に街でカゴ売りをしていた……」
「……思い出したわ。どうしたの、こんな所で」
「ウチも大梁義勇軍の一員なんよ。そっか……あの時の姉さんが、陳留の州牧様やったんやね……」
「姉者も知り合いなのか?」
「そうなのー。前に服屋でむぐぐ」
春蘭が慌てて于禁の口を塞ぎ、そっと耳打ちをする。
「そ、それは内緒にしておいてくれっ!」
「むぐぐ……んー? よく分かんないけど、内緒にしとけばいいの? 分かったの……」
「どうしたんですか? 春蘭様」
「い、いや、何でもないっ。何でも!」
「むぐぐー。内緒にするから、離してなのー!」
于禁が春蘭の腕の中でジタバタと暴れて解放するよう訴えかけるので、春蘭は即座に彼女を解放した。
「……で、その義勇軍が?」
春蘭達のやり取りをよそに、華琳は楽進に話の続きを促す。
「はい。黄巾の賊がまさかあれだけの規模になるとは思いもせず、こうして夏侯淵様に助けていただいている次第……」
「そう。己の実力を見誤ったのはともかくとして……街を守りたいというその心がけは大したものね」
「面目次第もございません」
「とはいえ、貴方達が居なければ、私は大切な将を失う所だったわ。秋蘭達を助けてくれてありがとう」
「はっ!」
「あの、それでですね、華琳様。凪ちゃん達を……華琳様の部下にしてもらえませんか?」
「義勇軍が私の指揮下に入るという事?」
「聞けば、曹操様もこの国の未来を憂いておられるとの事。一臂の力ではございますが、その大業に是非とも我々の力もお加えくださいますよう……」
「……そちらの二人の意見は?」
「ウチもええよ。陳留の州牧様の話はよう聞いとるし……そのお方が大陸を治めてくれるなら、今よりは平和になるっちゅう事やろ?」
「凪ちゃんと真桜ちゃんが決めたなら、私もそれでいいのー」
「秋蘭。彼女達の能力は……?」
「は。一晩共に戦っておりましたが、皆鍛えれば一廉の将になる器かと」
「そう……。季衣も真名で呼んでいるようだし……良いでしょう。三人の名は?」
「楽進と申します。真名は凪……曹操様にこの命、お預けいたします」
「李典や。真名の真桜で呼んでくれてもええで。以後よろしゅう」
「于禁なのー。真名は沙和って言うの。よろしくお願いしますなのー♪」
「凪、真桜、沙和。そうね……。貴方達、零治と亜弥は知っているわよね? 全身黒ずくめの服装をした男女二人組なんだけれど」
「はい。音無様と神威様の事ですね。存じております」
「さしあたり貴方達三人は、あの二人に面倒を見させます。別段の指示が有る時を除いては、彼らの指揮に従うように」
「お待ちください! 華琳様!」
それまで兵士達に周囲の警戒や追撃部隊への指示を出していた桂花が納得のいかない表情で声を上げる。
「あら、桂花。どうしたの? 作業の方はもう終わったのかしら?」
「はっ。周囲の警戒と追撃部隊の出撃、完了いたしました。住民達への支援物資の配給も、もうすぐ始められるかと」
「ご苦労様、桂花。で、何の話だったかしら?」
「音無の事です! 何であんなのに部下をお付けになるんですか! あんな変態に華琳様の貴重な部下を預けるなど……部下が穢されてしまいます!」
本人の居ない所で桂花は零治の事をボロクソに言うが、頭に血が上ってるせいか、ある二人の存在をどうも失念していたらしく……。
「誰が……変態ですって?」
「……もう一度言ってみなよ?」
「ひっ!?」
奈々瑠と臥々瑠に背後から得物を首筋に突き付けられてしまう。ひんやりとした金属の冷たい感触が桂花の首筋に走る。
「はいはい、二人ともやめなさい。ウチの大事な軍師なんだから殺すような真似はしないでちょうだいね?」
「フンっ! 命拾いしたわね……」
「でも……次は無いよ……」
桂花は二人から解放され、へなへなとその場に崩れ落ちる。
「それで、貴方達三人の意見は?」
「あのお兄さん大丈夫なん? この間もウチの絡繰り壊してたけど……」
真桜はそう言ってはいるが、あれはどう見ても零治が壊したと言うより、整備不良による自滅だと思うのだが、作った本人は認めたくないのかもしれない。
「んー? 私は結構平気かもー。かなりカッコ良かったし♪」
「曹操様の命とあらば、従うだけです」
「なら決まりね。……ところで秋蘭?」
「はっ」
「零治と亜弥はどこに居るの? 姿が見当たらないけど……」
「呼びましたか?」
そこへ東側に居た瑠利亜が合流してくる。
「亜弥、一体どこに行ってたの? 姿が見当たらないから心配したわよ」
「いや、すみません。零治と二人で東側の防衛に当たってましたので」
「そう。ご苦労だったわね。それで、零治はどこに居るのかしら? まだ東側に?」
「ああ、それについては本陣で説明しましょう。今後の行動方針にも関わってきますから」
「分かったわ。……あぁ、それと亜弥」
「はい?」
「この三人、貴方と零治の部下という事になったから、しっかり面倒を見てあげなさいね?」
凪、真桜、沙和の三人が瑠利亜を無言でじーっと見つめる。
「まあ、それは構いませんが……」
「そう。なら三人とも、もう済んでるかもしれないけど、改めて自己紹介なさい」
「はっ! 自分の名は楽進。真名は凪です。以後は凪とお呼びください」
「ウチは李典。真名は真桜や。よろしゅうに」
「私は于禁なの。真名は沙和なのー。よろしくなのー」
「凪、真桜、沙和ですね。私は神威亜弥です。以後よろしく」
「はっ。こちらこそよろしくお願いします。隊長」
凪に隊長と呼ばれ、亜弥は苦笑する。
「隊長……それはどちらかと言うと、零治が該当しますね」
「ほんなら姉さんは副隊長やな」
「立場上そうなるんでしょうが……『副隊長』はどうも語呂が悪いですし……」
「えー。じゃあ、なんて呼べばいいのー?」
「普通に下の名前で呼んでくれて構いませんよ。事あるごとに、『副隊長』って呼ばれるのは嫌ですから」
「分かりました。では、亜弥様でよろしいですか?」
「歳も近いようですし、別に呼び捨てでも構いませんよ?」
「いえ。上官たるお方を呼び捨てする訳にはいきません」
「姉さん。凪はこういう所は絶対に譲らんき、諦めた方がええで」
「はぁ……分かりましたよ。好きにしてください」
「はーい。亜弥様、よろしくなのー」
「ええ。こちらこそ」
「話はまとまったわね? 物資の配給準備が終わったら一度本陣に戻るわよ。そこで軍議を行い、現状の再確認と今後の行動方針を決めるわよ」
「分かりました」
………
……
…
そうして軍議の時間はあっという間にやって来た。
「さて。これからどうするかだけど……。新しく参入した凪たちも居る事だし、一度状況をまとめましょう。……春蘭」
「はっ。我々の敵は黄巾党と呼ばれる暴徒の集団だ。細かい事は……秋蘭、任せた」
「早っ!」
「やれやれ……」
秋蘭がため息交じりにそう言いながらも、いつもの事と割り切ってるのか春蘭に代わり説明を始める。
「黄巾党の構成員は若者が中心で、散発的に暴力活動を行ってるが……特に主張らしい主張は無く、現状で連中の目的は不明だ。また首魁の張角も、旅芸人の女らしいという点以外は分かっていない」
「分からない事だらけやなぁ~」
「目的とは違うかもしれませんが……我々の村では、地元の盗賊が合流して暴れていました。陳留の辺りでは違うのですか?」
「同じようなものよ。凪達の村の例もあるように、事態はより悪い段階に移りつつある」
「悪い段階……? どういう意味ですか?」
春蘭は華琳の言葉に首を傾げる。
「ここの大部隊を見たでしょう? ただバカ騒ぎをしているだけの烏合の衆から、盗賊団やそれなりの指導者と結びついてまとまりつつあるのよ」
「……ふむ?」
どうも春蘭は桂花の説明が理解できていないようだ。
「要するに……今までのように、春蘭が大声で咆えたぐらいじゃ逃げ出さなくなるって事」
「ああ、なるほど」
春蘭は手をポンと叩き、納得したように頷くが、桂花は訝しげな顔で春蘭を見ている。
「……ホントに分かってるのかしら」
「秋蘭や季衣だけでは苦戦するという事だろう。それくらいは分かるぞ。バカにするな!」
(いや、それは分かってると言うんですか……?)
亜弥は内心そう思う。一般常識で当てはめれば、今の言葉だけでは理解してるとは言い難い。
「ともかく、一筋縄では行かなくなったという事よ。ここでこちらにも味方が増えたのは幸いだったわね。……さて、亜弥。そろそろ説明してくれるかしら。零治がこの場に居ない理由を」
「分かりました。……零治は今、ある場所を捜しだすために単独行動をとっています」
「……ある場所? それは黄巾党の拠点か何かか?」
「そうです」
春蘭の言葉に瑠利亜は軽く頷き答える。
「しかし亜弥。連中は旅芸人のせいもあって、我々みたいに決まった拠点は持っていないと思うぞ」
秋蘭が尤もな意見を言う。そう。そこが華琳達が頭を悩ませている種でもある。
張三姉妹は旅芸人であるが故に特定の場所に拠点を持っていない。故に黄巾党の動きも掴みにくく、華琳達は常に後手の対応に回らされているのだ。
「そうですね。ですが……今日の大部隊を見たように、あれだけの数に膨れ上がったら、奴らも一時的にとはいえ持たなきゃいけない拠点がありますよ」
「……にゃ?」
「あれだけの数の部隊を動かすのに、食料や装備品を現地調達だけで補えるでしょうか? ……これだけ言えば分かりますよね?」
「……なるほど。つまり零治は今、物資の集積地点を捜してるという訳ね?」
「ええ」
「だけど、アイツ一人で捜しだせるの?」
桂花が眉をひそめながら訊いてくる。こっちの世界の常識で考えれば、そういった重要拠点を少人数の部隊で捜す事はあっても、単独で捜すなんて事は普通はしない。
「その点は大丈夫だと思いますよ。なにせ彼は今、黄巾党に変装して連中の中に紛れ込んで行動してますから」
「なるほど。なら、こちらも零治が戻ってきたらいつでも動けるように準備をしておいた方がいいわね」
「ええ。彼の事ですからそろそろ……」
「軍議中失礼いたします」
亜弥が言いかけた時、一人の兵士が軍議の場にやって来る。
「どうした?」
「はっ。音無様が帰還いたしました」
「フッ。噂をすれば何とやら……ですか」
「そのようね。……すぐに彼をここへ」
「はっ!」
兵士は一礼しその場を走り去り、それからしばらくして黄巾党の格好に変装した零治がやって来た。
「…………」
その場に居る人間全員が何かを堪えるように、黄巾党の格好をした、無言で佇む零治を見つめる。
「……言いたい事があるんなら言えよ……」
「アンタその格好……ウケ狙いでやってるの?」
「違うわ……。そんなに笑いたければ笑えばいいだろ……」
「ぷっ……くくっ……ふ……ふははははは! な、何だ音無、その格好はぁ! あははははは!」
零治の服装がよっぽど可笑しいのか、春蘭は腹を抱えて大笑いする。
「あ、姉者。あ……あまり笑ったら……失礼だぞ。……ふ、ふふふふふ」
「……そう言いながらも、お前も笑ってるじゃないか。秋蘭……」
「いや……ふふっ……すまない」
「ったく。どいつもコイツも……」
「に、兄ちゃん、あんまり気にしないで。そ、そこまで……酷くないよ」
「そ、そうですよ。結構……似合ってますよ……」
「う、うん! 凄く似合ってると思うなぁ……!」
季衣、奈々瑠、臥々瑠の三人は、そうフォローするのだが……。
「……三人とも……そう言ってる割には眼を逸らしてないか……?」
「き、気のせいです!」
「そ、そう! 気のせいだよ! これは……ほら! む、虫が飛んでるから! ねえ、季衣!」
「えっ!? あ、うん! そうそう……!」
二人はそう言って、ワザとらしく羽虫を追い払う仕草をする。
「はぁ……もういい……」
「アンタ、いっその事それを私服にしたら?」
桂花は春蘭みたいに大笑いこそしてはいないが、何やら人を小バカにするような悪意のある笑みを浮かべていた。
「うっせぇ……」
「…………」
凪は呆然とした表情で黄巾党の姿の零治を見つめていた。
「隊長、なかなかやるやん。体を張って笑いを取るなんて」
「あはは! ホントなのー!」
「こ、こら! 真桜、沙和! 隊長に対してなんて事を言うんだ!」
「なんや? じゃあ凪はアレ可笑しいと思わんの?」
「…………」
凪は何も言わずにプイッと顔を逸らす。
「な~んや。やっぱ凪も可笑しいと思うとるんやん」
「こ、声が大きいぞ真桜! 隊長に聞かれたらどうするんだ!」
「そこ……全部聞こえてるぞ……」
「っ!? い、いや、これは……その……」
「それと、隊長とか一体何の事を言ってるんだ?」
「ああ、それは後で私が説明しますから」
「あっそ……。それと、お前も笑うんじゃない」
「おや。これは失礼。……くくっ……!」
「ふふっ。零治、報告は後で構わないから、とりあえず着替えてきなさい。ふ、ふふふ……」
流石の華琳もこれは笑わずにはいられないようで、口元を手で隠しながら上品に零治の姿を見て笑っていた。
「言われずともそうするわ……。亜弥、オレの服はどこだ?」
「ああ、向こうの天幕の中に有りますよ」
「なら、とっとと着替えてくるわ。正直これ以上笑われたくないんでな……」
零治はそう言って、スタスタと天幕の中に入っていく。それからしばらくして……。
「ふぅ……。やっと落ち着いたぜ」
普段通りの服に着替えた零治が戻ってくる。
「ふふ。やっぱり貴方はその服装の方がしっくりくるわね」
「ああ。自分でもそう思う」
「では零治、報告を。ここに戻って来たという事は、黄巾党の物資集積地点を発見したという事かしら?」
「ああ。連中はここから半日ほど行った所に有る廃棄された砦を利用していた。ただ、敵は既に物資の移動の準備を始めていたから、早めに手を打った方がいいだろう」
「判ったわ。……皆、聞こえたわね? すぐに陣を撤収するわ。急いで支度なさい」
「はっ!」
華琳の一声で周囲が慌ただしく動き出し、各部隊がそれぞれの隊の撤収作業に当たる。
「……で、亜弥。説明してくれるか? この三人の事を」
「ええ。この三人、貴方が単独行動をしてる間に私と貴方の部下という事になりましてね」
「それで隊長か……」
「そういう事です。ちなみにこれは、華琳直々の決定ですので」
「なら従うしかないだろう?」
「決まりですね。……では三人とも、彼にも改めて自己紹介をお願いします」
「はい。私の名は楽進。真名は凪です。よろしくお願いします、隊長」
「ウチは李典。真名は真桜や。よろしゅうにな、隊長」
「私は于禁なの。真名は沙和なの。よろしくね、隊長」
「凪、真桜、沙和だな。ではこちらも改めて名乗ろう。オレは姓が音無で、名が零治だ。真名は無い。三人ともよろしくな」
「零治、挨拶は済んだかしら?」
「ん? ああ、華琳。丁度済んだところだ」
「結構。なら、貴方は先頭に立って部隊を案内なさい」
「待て。じゃあオレの部隊の撤収はどうするんだ?」
「それは一番遅くなった隊にやらせるわ」
「ん、了解だ。なら行くとしますかね」
「ええ。……総員、可能な限り急いで撤収、終わった隊から零治の先導に続きなさい!」
「じゃあ、オレは先に行ってるぜ?」
「ええ。こちらも終わり次第すぐに合流するわ」
「ああ。……なら、みんな行くぞ! 撤収が終わった隊はオレに続け!」
華琳の軍勢は大急ぎで陣の撤収作業を終え、零治の先導に続き、本来なら半日かかる行程をわずか数刻で駆け抜け、零治達は山奥にポツンと立つ、古ぼけた砦の前にたどり着く。
「着いたぜ。ここがそうだ」
「なるほど。連中、良い場所を見つけたものだわ」
「敵の本隊は近くに現れた官軍を迎撃しに行っているようです。残る兵力は一万がせいぜいかと」
敵軍の偵察に行っていた凪が一同を見渡しながら、現在の敵の兵力数を報告する。
「官軍が来たから砦を捨てるんですか?」
「華琳様のご威光に恐れをなしたからに決まっているわ。だから、わざわざ砦まで捨てようとしているのだろう」
奈々瑠の言葉に、春蘭はまるで自分の事のように、上体を軽く逸らして威張るように言う。
「ふ~ん……なんかもったいないね」
臥々瑠は両手を後ろに組み、目の前の砦を眺めながら呟く。
「連中は捨ててある物を使っているだけだからな。そういう感覚が薄いのだろう。後一日遅ければ、ここはもぬけの殻だったはずだ」
「厄介極まりないわね……。それで秋蘭。こちらの兵は?」
「義勇軍と併せて、八千少々です。向こうはこちらに気付いていませんし、荷物の搬出で手一杯のようです。今が絶好の機会かと」
「ええ。ならば、一気に攻め落としましょう」
「華琳様。一つ、ご提案が」
桂花が軽く手を上げ、自身の考えを華琳に言う。
「何?」
「戦闘終了後、全ての隊は手持ちの軍旗を全て砦に立ててから帰らせてください」
「え? どういう事ですか?」
季衣は桂花の意図が理解できず、怪訝な顔で桂花に聞く。
「この砦を落としたのが、我々だと示すためよ」
桂花のその言葉に、秋蘭は腕を組み、納得したように頷いて、砦に視線をやる。
「なるほど。黄巾の本隊と戦っているという官軍も、本当の狙いは恐らくここ……。ならば、敵を一掃したこの砦に曹旗が翻っていれば……」
「……面白いわね。その案、採用しましょう。軍旗を持って帰った隊は、厳罰よ」
「なら、誰が一番高い所に旗を立てられるか、競争やね!」
「こら、真桜。不謹慎だぞ」
「ふん。新入りどもに負けるものか。季衣、お前も負けるんじゃないぞ!」
「はいっ!」
「姉者……大人気ない」
「そうね。一番高い所に旗を立てられた隊は、何か褒美を考えておきましょう」
「おいおい、華琳まで何を……」
「ただし、作戦の趣旨は違えない事。狙うは敵の守備隊の殲滅と、糧食を一つ残らず焼き尽くす事よ。いいわね」
「はっ!」
「あの……華琳様?」
それまで終始無言だった沙和が、小さく手を上げて口を開いた。
「何? 沙和」
「その食料って……さっきの街に持って行っちゃダメなの?」
「ダメよ。糧食は全て焼き尽くしなさい」
「どうしてなの……?」
華琳の言葉に沙和は納得のいかない顔で問いかける。
彼女としてはその食糧を街に持って行って住民たちに配りたいのだろう。
だが、それをやると生じる問題があった。桂花が沙和にその事を説明する。
「簡単な事。糧食を奪っては、華琳様の風評は上がるどころか傷付くの。糧食も足らないのに戦に出た曹操軍は、下賤な賊から食料を強奪して食べました、とね」
「けど……!」
まだ納得できない沙和。だが理由はこれだけではなかった。華琳がそれを補足する。
「……かといって奪った食料を街に持っていけば、今度はその街が黄巾党の復讐の対象になる。今よりも、もっとね」
「…………あ」
沙和はようやく華琳の考えを理解する。いくら街の人達を助けたいからとはいえ、相手が賊と言えど食料を奪い取ったりすれば、それはタダの火事場泥棒でしかない。
更にそれを被害に遭った街に持って行った事が原因で街を再び危険に晒しては元も子もないのだ。
「あの街には警護の部隊と糧食を送っているわ。それで復興の準備は整うはず。華琳様はちゃんと考えておられるのだから……安心なさい」
「そういう事。糧食は全て焼くのよ。米一粒たりとも持ち帰る事は許さない。それがあの街を守るためだと思いなさい。いいわね?」
「分かったの……」
桂花と華琳にそう言い聞かされ、ようやく沙和も納得した。
「なら、これで軍議は解散とします。先鋒は春蘭に任せるわ。いいわね? 春蘭」
「はっ! お任せください!」
「なら、この戦をもって、大陸の全てに曹孟徳の名を響き渡らせるわよ。我が覇道はここより始まる! 各員、奮励努力せよ!」
華琳は手を、バッと正面に突き出して戦闘準備の号令をかける。
「……さて、オレ達も行くか」
「あの、兄さん」
「なんだ?」
「華琳さんがさっき言ってた、旗を高い所に挿す件はどうするんですか?」
「んー? まあ、やれって言うんならやるまでさ。お前らは嫌なのか?」
「ううん。そんな事ないよ。それに、どんな内容でも勝負事には負けたくないし」
「私は出来れば勘弁願いたいですね。あんな重たい旗を抱えて高い所に登るのは疲れますから」
「まっ、オレは正直褒美には興味がないが……一番高い所には挿しといてやるかな」
「まっ、私はどこかその辺にでも適当に挿しときますよ。勝負する気すらないので」
「フッ。好きにしな。……さて、無駄話はこの辺にして、オレ達も配置に付くぞ」
「ええ」
「はい」
「フッフッフ。ここではおもいっきり暴れてやるぞ」
臥々瑠は不敵な笑みを浮かべながら、指の骨をポキポキと鳴らす。前の戦いで出番が無かったのでその憂さをこの場で晴らすつもりなのだろう。
「やれやれ……。程々にしてくれよ、臥々瑠」
………
……
…
「…………」
零治は指定の場所に配置に付き、黙って砦を見つめている。
「隊長。楽進隊、布陣完了しました」
「ん、ご苦労」
「はっ」
「…………」
「…………」
二人して黙り込んでしまい、その場を沈黙が支配すが、やがて零治が口を開く。
「なあ、凪」
「なんですか?」
「ちょっと訊きたい事があるんだが、いいか?」
「はい。自分に答えられる事でしたら」
「沙和の事なんだが……」
「沙和がどうかしましたか?」
「いや、どうしてあんな優しい奴が義勇軍なんかに入ったのか疑問に思ってな」
「沙和の事は沙和に訊いてみないと分かりません」
「そうかもしれんが……付き合いは長いんだろ?」
零治のその言葉に、凪は気まずそうに俯きながら言う。
「確かに付き合いは長いですが、その……自分は空気を読むとか察する事が苦手ですので……」
「そうか」
「ただ一つ言えるのは……沙和が決めたの事なら、沙和は後悔しないだろう、という事です」
「そうか。信頼してるんだな」
「はい」
「なんや二人して。何話しとるんや?」
そこへ、隊の布陣が完了した真桜が会話に入ってくる。
「何、大した事ではない」
「あー、隊長もしかして凪の事口説いてたん? それでふられたんやろう?」
「なっ!? 真桜、いきなり何を言い出すんだっ!」
真桜がニヤニヤ笑いながら茶々を入れてきたので、凪は顔を真っ赤にして反論する。
「そんなんじゃないさ。……つーか、真桜。お前、部隊の布陣は完了したのか?」
「その報告に来たに決まっとるやん。で、何の話しとったん?」
「沙和の事だ。どうしてアイツが義勇軍に入ったのか、隊長が疑問に思ってな」
「そんなん沙和に訊けばええやないの。呼ぼか?」
「いや、そこまでしなくてもいいさ」
「まっ、隊長が思ってる子やないで、あの子」
「ん? どいう意味だ」
「沙和が自分で決めた事やもん。それをいちいち後悔するようなタマやないで、あの子は」
「フッ……」
「なんや? 一人鼻で笑ったりして」
「いやな、凪と同じ事を言うから、ついな」
「そうなん?」
真桜は怪訝な顔で凪に聞き、凪はふふっと、軽く笑って答える。
「……まあな」
「あー! 三人でなに話してるのー! ずるーい。沙和も混ぜてー」
「なに。他愛もない世間話をしてただけだ。それよりも、沙和は隊の布陣は終わったのか?」
「うん! バッチリなのー!」
「そうか。ご苦労だったな」
「隊長。沙和には訊かないんですか?」
「構わん。二人の話を聞いて充分理解できたからな」
「そうですか」
「……まだ時間はあるようだな。なら……」
零治はいつものようにタバコを懐から取り出し、火を点けて煙を吹かし始める。
「フーー……」
零治のタバコを吸う姿を、凪達はきょとんとした顔で見つめている。
その視線に気づいた零治は三人に声をかける。
「ん? 三人ともどうした?」
「隊長。なんやの、その口にくわえちゅう物は?」
「ん? ……あぁ、タバコの事か」
「たばこ? それは天界の言葉ですか?」
「まあな。コイツはオレの世界では、ごく一般的な嗜好品だ」
「へー。どうやって使うのー?」
「んー? ただ火を点けて煙を吸うだけだが?」
「煙を吸うって……そんな事して何かええ事があるん?」
「とりあえず気分が落ち着く」
「へー。……ねえ、隊長。沙和もそれを吸ってみたいのー」
「ダメだ」
「えー。どうしてなのー?」
「タバコの煙は身体に悪いんだ。それに麻薬と同じで依存性が高いから、一度吸い出すとタバコが無いとイライラするようになる。吸ってもいい事なんか一つも無いぞ」
「……あの、隊長」
「凪、お前が言いたい事は分かる。だから言うな」
「いえ、それでも言わせてもらいます。隊長、身体に悪いと分かっていながら、どうしてそんな物を吸っているんですか……」
「ホンマやで。隊長、言っとる事とやっとる事が矛盾しとるやん」
「あー、はいはい。この話はもう終わりだ。……フーー……」
零治は凪達の言葉を適当にあしらい、残りのタバコを一気に吸い、吸殻を携帯灰皿の中に捨てた。
「……隊長って変わってるねー」
「そうかぁ?」
「そうだよー」
「なあ隊長。もう一つ質問してええか?」
「今度は何だよ?」
「さっきのたばこ……やったっけ? アレどうやって火を点けたん?」
「ああ、確かに気になりますね。火打石を使ったようには見えませんでしたし……」
「ああ、それはコレを使ったんだよ」
零治はそう言って、懐から愛用してるジッポライターを取り出す。
「なんなのー? この小さな金属の箱は?」
「これはライターと言って、オレの世界に有る着火器具の一つだ」
「……らいたぁ……?」
聞いた事のない言葉に凪は面食らう。
「しかも着火器具って……隊長、ホンマにこんなんで火が点けれるがぁ?」
真桜は疑惑たっぷりの視線をライターに注ぎながら零治に聞く。
「点けれるさ。じゃあ三人とも、こいつをよく見とけよ」
三人は零治に言われ、じーっとライターを凝視する。三人の行動に零治は内心苦笑しながらライターの火を点けてみせる。
「っ!? こ、これは!?」
「うわー、すごーい! ホントに火が点いてるのー!」
凪と沙和はライターに火が点いた光景に純粋に驚いた反応をするが、真桜だけ二人とは違う反応をする。
具体的に言うと、眼の中に好奇心が宿り、興味心をくすぐられるような反応をしている。
「……なあ、隊長」
「ん、どうした?」
「それ……ちょっとの間、ウチに貸してくれへん?」
「……何をする気だ」
零治は不審に思い、ジト眼で真桜に聞く。
「いやー……バラして構造を調べたいなー、と思って……」
絡繰を作るのが趣味の真桜としては、やはりその点が非常に気になるようだ。
「冗談じゃない。コイツが使えなくなったらタバコが吸えなくなっちまうだろうが」
「そこをなんとか! ちゃんと無傷で返すき、お願いや!」
「絶対ダメだ」
「…………」
少し離れた位置で、華琳は零治達のやり取りを無言でジッと見つめてる。
「……何をしてるのだ、あ奴らは?」
「さあ? 戦闘前の気合でも入れ直してるのではないの?」
「華琳様! 秋蘭隊、布陣完了しました!」
「そう。なら、行くわよ」
「御意。……銅鑼を鳴らせ! 鬨の声を上げろ! 追い剥ぐ事しか知らぬ盗人と、威を張る官軍に、我らの名を知らしめてやるのだ! 総員、奮闘せよ! 突撃ぃぃぃぃっ!」
春蘭の大号令と共に全部隊が突撃を開始し、黄巾党の殲滅戦が始まる。
「合図だ。凪、真桜、沙和! お前達の働きに期待させてもらうぞ!」
「はっ!」
「おう! 任しときや、隊長!」
「沙和も頑張るのー!」
「よしっ! 真桜と沙和は東側から攻め込め! 凪はオレと一緒に来い! 正面の敵を殲滅するぞ!」
「了解です!」
「おっしゃあ! ほんなら行くでぇ、沙和!」
「あっ! 真桜ちゃん、待ってなのー!」
真桜は愛用してる得物、穂先にドリルの絡繰が取り付けられた、螺旋槍と名付けている槍を構えながら一人突っ走っていくので、沙和も二本一組の剣、二天を手にして、その後ろ姿を慌てて追いかける。
「ふふっ。威勢がいい事だな。凪、オレ達も行くぞ!」
「はいっ!」
「うわわわっ!? て、敵襲! 敵襲だーー! 応戦しろーー!」
不意を突かれた黄巾党達は大混乱に陥り、応戦こそするものの、華琳達の敵ではなかった。
「しっつれ~い♪」
身軽な臥々瑠がいち早く砦内部に侵入する。
「うわっ!? な、何だテメェは!?」
「うるさいよ~」
臥々瑠は目の前の黄巾党を、両手に持っている得物、鵜丸を交差するように横に振り抜いて喉元を搔っ斬る。
「ぎゃっ!?」
「へへ~ん。いっちょあがり~」
「ちょっと臥々瑠。アンタ一人で突っ走りすぎよ」
追いついた奈々瑠が、先走る臥々瑠を姉としてたしなめる。
「いいじゃん。こんな連中、アタシ達の敵じゃないもん」
「そうかもしれないけど、油断はしちゃ……」
「このガキがっ! 死ねぇ!」
「黙りなさい……」
「ぐえっ!?」
奈々瑠は背後から襲い掛かってきた黄巾党に素早く反応し、鳩尾に強烈なボディブローを叩き込む。
黄巾党は苦悶の声を上げ、腹を押さえながら蹲ってしまう。
「終わりよ」
奈々瑠はそのまま蹲ってる黄巾党の脳天に千鳥を突き刺し、黄巾党は声も上げずに息絶えた。
「フンッ!」
「…………」
「ん? どうかしたの? 臥々瑠」
「奈々瑠……今のはやり過ぎじゃないの……?」
「こんな連中に慈悲なんか不要よ。それより残りの敵を片付けるわよ」
「うん。オッケ~♪」
二人は砦のさらに奥へ進み残りの敵の殲滅に当たる。戦況は華琳達の一方的な展開となり勝敗が決するのも時間の問題であった。
………
……
…
「はああああああっ!」
凪が裂帛の気合いと共に氣の弾を目の前の黄巾等に放ち、直撃を受けた数名の黄巾党が派手に吹き飛ぶ。
「隊長! 周囲の掃討、終わりました!」
「…………凪」
「はい?」
「今のは……何だ?」
「何と言われましても……ただの氣ですが」
「ああ、あれが氣なのか」
「……隊長と亜弥様も氣を使われてるのではないのですか?」
「いや、オレと亜弥のは正確には氣じゃないんだ。まあ、似たようなモノには違いないが」
「そうなのですか。……隊長、私は周りの確認に行ってきます」
「ああ、頼む。……ふぅ……流石に疲れたなぁ……」
零治はそう言いながら、城壁に背を預け肩をトントンと叩いて身体を休める。
「あっ、隊長。お疲れなのー」
「おう。沙和もお疲れさん」
「火を放て! 糧食を持ち帰る事、まかりならん! 持ち帰った者は厳罰に処すぞっ!」
春蘭の指示で、中庭に集められた糧食に兵士達が火を点け、モクモクと煙が立ち上り始める。
「あーあ。やっぱり、勿体ないの」
「気持ちは分かるが……だからって、あの街に持ってく訳にはいかないだろ」
「みゅぅぅ……」
悲しげに唸る沙和。零治は沙和の気持ちを理解しながらも、華琳の心中を聞かせる。
「華琳も悩んだ末に下した決断なんだ。彼女もどうするかかなり悩んだと思うぞ?」
「うん……分かってるの」
「目的は果たしたぞ! 総員、旗を目立つ所に挿して、即座に帰投せよ! 帰投、帰投ーっ!」
秋蘭が大声で周りに散っている兵達に帰投の指示を出す。
「さて。帰投命令も出たし、旗を挿して帰るぞ」
「分かったのー。ねえ、隊長はどこに挿すのー?」
「オレは……そうだなぁ……。おおっ。あそこにするか」
「えー、どこー?」
「ほら。アレだよ、アレ」
零治はそう言いながら、一番高い正殿の屋根を指差す。
「隊長。アレはいくらなんでも無理なんじゃあ……」
「無理じゃないさ。こうやって…………フッ!」
零治は自分の軍旗を肩に担ぎながらしゃがみ込んで両脚に力を溜めて、その場から大きく跳躍し、正殿の屋根に着地する。
「…………」
「おーい、沙和ー。ここにおったんか。早く旗をその辺に挿して帰るで」
「ん? 沙和。隊長はどこに行ったんだ? さっきまでここに居たはずなんだが?」
「……えっと……あそこに居るの」
「ん? どこや?」
「アレ……あの正面の大きな建物の屋根の上なの……」
沙和はそう言いながら、正殿の屋根を指差す。凪達は沙和の指が差してる方向に視線をやり、眼を凝らして、屋根の上に居る、豆粒程度の大きさの零治の姿を発見し言葉を失う。
「…………」
「…………」
「…………」
「なあ、沙和……」
しばらくして、真桜が口を開いた。
「なーに……?」
「隊長……どうやってあそこに登ったん……?」
「……ここから一気に跳んでったの……」
「それって……亜弥様が街でやったようにか……?」
「うん……」
「…………」
「……天界の人って、みんなああなんやろうか……?」
三人はそんな会話をしながら呆然と正殿の屋根を見つめていた。
「っとぉ。瓦とはいえ足元には注意しないとな。……じゃ、この辺にでも……って、何だ。先客が居たのか」
「あっ、兄ちゃん」
「よう。季衣もここに旗を?」
「うん。一番高い所って言ったらここじゃん」
「まあ、そうだな。所で季衣。お前どうやってここまで来たんだ?」
「にゃ? 普通に登ってだけど?」
零治の質問に季衣は首を傾げ、さも当たり前のように答える。
「……マジ?」
「うん。ボク木登りが得意だから」
(いや、木とこの建物は全くの別物だと……よそう。気にしたら負けだ)
「それより兄ちゃん。早く旗を挿そうよ」
「ん? ああ、そうだな」
二人は正殿の屋根の適当な場所に自分の軍旗を挿し込む。
「よし。目的も果たしたし、帰るか」
「うん」
「……あれ? 兄さん?」
「ん? おお。お前達もここにしたのか」
「はい。一番高い所はここしかありませんし」
「まあ、確かな。ところで二人とも、亜弥はどうした? 一緒じゃないのか?」
「姉さんは旗を城壁の適当な所に挿して、さっさと砦の外に行っちゃったよ」
「やれやれ、張り合いが無いな。まあいい。なら、お前らもさっさと旗を適当な所に挿せよ。あまり華琳達を待たせる訳にもいかないからな」
「はい」
零治に言われ、奈々瑠達も自分の軍旗を適当な場所に挿す。
「よし。じゃあ戻るか」
「はい。兄さん、先に行ってますね」
「ああ」
そう言って奈々瑠達はその場から軽く跳躍し、屋根から飛び降りる。
「わっ!? に、兄ちゃん! 奈々瑠と臥々瑠、飛び降りちゃったよ! 大丈夫なのっ!?」
「大丈夫さ。ほら、下を見てみろよ」
「んー……? あっ!」
季衣の視線の先には、無事地面に着地し、普段と変わらぬ様子で歩いてる奈々瑠と臥々瑠の姿があった。
「なっ?」
「う、うん。改めて思ったけど……あの二人って凄いんだね」
「まあな。それよりオレ達も降りるぞ。ほれ、季衣。オレにおぶされよ」
「えっ? 兄ちゃん、何するつもりなの?」
「いや、お前を背負ってここから飛び降りるんだよ。どうせお前一人だと、ここから地道に降りてくしかないんだろう?」
「う、うん。それはそうなんだけど……」
今からやる事の内容が内容なだけに、流石の季衣も不安なようだ。
「大丈夫だ。オレを信じろよ」
「うん。分かったよ」
季衣はそう言って、零治の背中によじ登り首に両腕を回す。
「しっかり掴まってろよ。いいか、行くぞ?」
「うん」
「せー……っの!」
零治も奈々瑠達同様、屋根から軽く跳躍して飛び降りて、凄まじい速度で地面に落下していく。
「うっ、うわわわわぁぁぁっ!!」
あまりの落下速度に、季衣は思わず零治の首に回してる腕に力を込めてしまう。
「ぐえっ!? ちょっ!? 季衣! 首を絞めるなっ!」
「あっ! ごめんっ!」
「口を閉じてろ! もう着地するぞ!」
零治はあっという間に地面に到達し、大地を踏みしめるようにしっかりと着地する。その際、爆音にも似た轟音が鳴り響き、着地地点を中心に石造りの床にひびが入る。
「ふう……季衣、もう降りても大丈夫だぞ」
「う、うん」
零治はその場に屈みこんで季衣を地面に降ろす。
「兄ちゃん……足、何ともないの?」
「ん? ああ。平気だ」
心配そうに季衣は零治に尋ねるが、当の本人は涼しい顔で答える。
季衣は改めて零治の凄さを目の当たりにした。
「……兄ちゃんも凄いね……」
「まあ、否定は出来んな。それより早いとこ外に出ようぜ」
「そうだね」
二人は華琳達の所に合流するためその場を後にした。
………
……
…
城までの帰り道。華琳は主要な人物を集め簡単な会議のようなものを開いている。
「作戦は大成功でしたね、華琳様!」
「ええ。皆もご苦労様。特に凪、真桜、沙和。初めての参戦で、見事な働きだったわ」
春蘭の言葉に華琳も同意するように満足げに頷き、皆に労いの言葉をかける。
「ありがとうございます」
「おおきに」
「ありがとうなのー」
「さしあたり、これでこの辺の連中の活動を牽制する事が出来たはずだけれど……」
「はい。しばらく大きな動きは出来ないでしょう。ただ、もともと本拠地を持たない連中の事。今回の攻撃も、時間稼ぎにしかならないはずです」
「でしょうね。だから、連中の動きが鈍くなった今のうちに、連中の本隊の動きを掴む必要があるわ」
「どうやってだ? 連中は本拠地が無いのに」
華琳の言葉に零治が疑問を投げかけ、桂花がそれに答える。
「地道に情報を集めて回るしかないでしょう。補給線が復活すれば、優先順位が高い順に補給を回していくでしょうし」
「なるほど……。それを追跡して、優先的に物が回る場所が奴らの重要拠点という事ですね」
亜弥が桂花に視線をやりながら言う。
「そういう事。しばらくは小規模な討伐と情報収集が続くでしょうけれど、ここでの働きで、黄巾を私達が倒せるかどうかが決まると言っても良いわ。皆、一層の努力奮闘を期待する! 以上!」
「はいっ!」
華琳の言葉に、季衣が力強く頷いて返事をする。
「ああ、そうだ。例の、旗を一番高い所に飾るという話だけれど……結局誰が一番だったの?」
それからすぐに華琳は思い出したように、旗を高い所に挿す件を話題に持ち出した
「あーっ。なんか忘れてると思うたら、それか!」
「はっはっは。初めての戦で、そこまでの余裕は無かったか! まだまだ青いなぁ!」
「くぅぅ……! 置いて帰るんで精一杯やったわ」
真桜は悔しそうに唸り声を出す。
「……そういう春蘭は大人気がなさすぎるぞ」
「な、なんだとぅっ!」
「で、誰なの?」
「…………」
零治が黙ったまま軽く手を上げる。
「あら、零治。貴方なの?」
「ああ。後、季衣に、奈々瑠と臥々瑠だ」
「そう。どこに挿したの?」
「ええっと……城の真ん中に有る一番大きい建物の、屋根の上ですけど」
華琳の問いに、季衣は渋面を作り思い出すように答える。
「正殿の屋根に突き刺さっていた、あれか!?」
「…………どうやって挿したの」
季衣の答えに、春蘭は驚きの声を上げ、華琳も信じられないという表情で季衣に聞く。
「ボク、木登り得意なんですよ」
季衣はいつも通りの明るい笑顔で答えた。
「…………」
「…………」
春蘭、秋蘭は完全に言葉を失ってしまう。そもそも、正殿は木登り感覚で登れるような建物ではないのだから当然と言える。
(まあ、当然の反応だよなぁ)
「……ならその勝負は零治、季衣、奈々瑠と臥々瑠の勝ちで良いわね。貴方達、何か欲しい物はある?」
「うーん……特に、何も無いんですけど……」
「私も特にこれといって……」
「オレはそもそも興味が無い」
「揃って欲の無い子達ね。……臥々瑠、貴方は?」
「あっ! じゃあ、アタシは美味しい食べ物が欲しいー!」
「そう。なら臥々瑠は食べ物で決まりね。……貴方達三人は? 何でも良いのよ?」
「何かあるだろう。食べ物とか、服とか……」
「え? どっちも、今のままで十分ですし……」
「私も……」
「フーー……」
零治はいつの間にか一団から少し距離を取り、華琳の話を聞かずにタバコを吸い始めていた。
「領地までは流石にあげられないけれど……何か無いの?」
「そんなものいりませんよー」
「ホント、私も特に何も無いですから」
「まあいいわ。なら、貴方達三人には一つ貸しにしておくわね。何か欲しい物が出来たら、言いなさい」
「はいっ! ありがとうございます!」
「分かりました」
「零治、聞こえた?」
「ん……? ああ。ちゃんと聞いてたさ。まっ、適当に考えとくわ」
「はぁ……まったく。まあいいわ。なら、話はここまでにして、帰るわよ」
「ああ」
こうして黄巾党との緒戦は華琳達の勝利で終わり、一同は帰路に着くのだった。
零治「なあ、いっつも思ってたんだが」
作者「うん?」
零治「お前の小説、結構、誤字脱字が目立つよな」
作者「うっ……」
亜弥「おまけに、いま掲載しているのは当時載せていたヤツのバックアップを修正したやつですよね」
奈々瑠「そして、その修正前のバックアップの中から誤字や脱字が見つかってますよね?」
作者「…………」
臥々瑠「おまけに当時はそれに気づかないまま掲載してたんだよね? ……チェックが甘すぎなんじゃない?」
作者「すんません。これでも気を付けてはいるんですが、どうしてもやっちゃうんです……」
零治「まあ、人間だれしも間違いはある。これからはもっと入念にチェックする事だな」




