第17話 黄巾の乱勃発 中編
チートキャラが無双するのは仕方のない事、というか当然の事だと私は思ってます。
でなきゃチートの意味がありませんもんね。
「急げ急げ! 急いで先遣隊に合流するぞ!」
零治達の先発隊が出撃した翌朝、華琳率いる本隊は先発隊に合流するために現在行軍をしている。
「あの……春蘭さん。馬上で休むんじゃなかったんですか?」
奈々瑠が疑問に思うのはもっともだろう。春蘭は昨夜徹夜で作業をしていたので普通は馬上で休むと思うだろう。にもかかわらず、当の本人はというと……。
「秋蘭達が死に物狂いで戦ってる時に、休んでなどいられるか! 進め! 進めぇいっ!」
ご覧のように気合が入りまくってる状態である。むしろ徹夜をしたからハイになってるのかもしれない。
「そんなに急がせては、戦う前に疲れてしまうわよ。春蘭」
春蘭は苦虫を噛み潰したような表情で唸りながら言う。
「う、うぅ……っ。華琳様ぁ。私だけ、先遣隊として向かってはダメですか?」
「ダメよ。目と鼻の先ならまだしも、今の距離でこれ以上隊を分けても効果は薄いわ」
「華琳様。秋蘭から報告の早馬が届きました」
「報告なさい」
「敵部隊と接触したそうです。張角らしき存在は確認していないようですが、予想通り敵は組織化されており、並の盗賊より手強いだろうとの事。……くれぐれも余力を残して接敵してほしいそうよ、春蘭」
桂花は春蘭に意味深な視線を向けながら、釘を刺すように言う。
「うぅぅ……」
しゅんとした顔で唸る春蘭。
傍らでそれを見ていた奈々瑠と臥々瑠は、春蘭に聞かれないように声を潜めながら言う。
「……さすが秋蘭。春蘭の事をよく分かってるね」
「ええ。ホントに……」
「数は?」
華琳が桂花に敵の数を確認する。
「夜間のため、詳細は不明。ただ、先遣隊より明らかに多いため、迂闊に攻撃はせず、街の防衛に徹するとの事です」
「そう。さすが秋蘭。賢明な判断ね」
「だそうですよ、春蘭さん。兄さん達は戦ってないようですし……現場で充分に戦えるように、力は抑えていきましょう。季衣さんにもそう言ってたでしょう?」
「……うむぅ、仕方ない」
そうは言うものの、春蘭がどこか不満げに見えるのは気のせいだろうか?
「張角本人が指揮を執っているか、とも期待したけれど……やはり、別の指揮者が居るのね。張角の才覚、侮れないわ」
「張角の才覚……それは、人を惹き付ける魅力ですか?」
「あら、良く分かってるのね。奈々瑠」
「私達の世界にも良い見本が居ましたからね。と言っても歴史上の話ですが……」
「恐らく張角はその能力が極端に高いのでしょう。それが野心に向かったか、暴走しているだけなのかは別にして……面白い相手である事には違いないわ」
不敵な笑みを浮かべながら華琳はそう言うので、春蘭が呆れたように口を挟んでくる。
「また悪い癖が……。よもや、張角達を部下にしたいと言うのではないでしょうね、華琳様」
「それは張角の人となり次第。利用価値のない相手なら、舞台から消えてもらうだけよ」
「曹操様! 曹操様はいらっしゃいますか!」
そこへ一人の兵士が切羽詰まった様子で駆けつけて来る。
「どうした!」
「あれ? お前は先遣隊の……」
「はっ! 許緒先遣隊、敵軍と接触! 戦闘に突入しましたっ!」
「……状況は?」
華琳は落ち着いた様子で兵士に報告の先を促す。
「数と勢いに押され、お味方に不利! 街に籠もって防御に徹してはいますが、戦況は芳しくありません! 至急、援軍を求むとの事!」
「え……? じゃあ、今頃……」
「バカを言うなっ!」
兵士の報告を聞いた臥々瑠が不吉な事を言いかけたが、春蘭が大声を上げ、それを遮った。
「ええ。秋蘭の事だから、苦戦すると読んで、あらかじめ遣いを出したのでしょう」
「仰る通りです。ですが、自分が出された段階で、彼我の戦力差は非常に大きく……」
「秋蘭の予測を疑っている訳ではないわ。総員、全速前進! 追いつけない者は置いて行くわよ!」
「総員、駆け足! 駆け足ぃっ!」
号令と共に華琳率いる本隊が全速力で移動を開始する。
「貴方は殿について、脱落した兵を回収しながら付いて来なさい。以降は本隊と合流するまで、遊撃部隊として指揮を任せます。いいわね」
「はっ!」
………
……
…
「秋蘭様っ! 西側の大通り、三つ目の防柵まで破られました!」
「……ふむ、防柵は後二つか。どのくらい保ちそうだ? 李典」
秋蘭は季衣の報告を受け、街に居た義勇軍の一人、李典に聞く。
「せやなぁ……。応急で作ったもんやし、後一刻保つかどうかって所やないかな?」
眉間にシワを寄せながら李典は答える。
「……微妙なところだな。姉者達が間に合えばいいのだが……」
「しかし、夏侯淵様が居なければ、我々だけではここまで耐える事は出来ませんでした。ありがとうございます」
義勇軍のもう一人の少女、楽進が秋蘭に礼を言う。
「それは我々も同じ事。貴公ら義勇軍が居なければ、連中の数に押されて敗走していたところだ」
「いえ、それも夏侯淵様の指揮があっての事。いざとなれば、後の事はお任せいたします。自分が討って出て……」
「そんなのダメだよっ!」
季衣が楽進という名の、全身にある傷跡が特徴的な女の子を一喝する。
「……っ!」
「そういう考えじゃ……ダメだよ。今日は絶対に春蘭様達が助けに来てくれるんだから、最後まで頑張って守りきらないと!」
「……せやせや。突っ込んで犬死しても、誰も褒めてくれへんよ」
「……うむむ」
渋面を作りながら唸る楽進に、季衣は優しく言い聞かせる。
「今日百人の民を助けるために死んじゃったら、その先助けられる何万の民を見捨てる事になるんだよ。分かった?」
「……肝に銘じておきます」
「……ふふっ」
「あ、何がおかしいんですか、秋蘭様ー!」
「いや、昨日あれだけ姉者や音無に叱られていたお前が、一人前に諭しているのが……おかしくてな」
「うう、ひどーい」
季衣達のやり取りを零治と亜弥は、傍らに建てられている家屋の壁に背を預けながら見ている。
「…………」
「ふふ。季衣もなかなか言うようになりましたね」
「……ん? ああ、そうだな」
「ん、どうしたんです? 零治」
「いや……」
「んー?」
亜弥は先程から零治の視線が全く別の方向に向いているので、気になって視線の先を追ってみる。その先には……。
「ん? 彼女、李典がどうかしたんですか?」
「……いやな」
零治が言いかけた時、亜弥はニヤニヤと笑いながらその場に茶々を入れ出す。
「……はっは~ん。さては彼女の大きな胸が気になるんでしょう?」
「アホッ! 違うわっ!」
零治は、亜弥があまりにも的外れな事を言い出すので大声を出して言い返すが、亜弥はまったくやめようとしない。
「やれやれ。水臭いですねぇ。私に一言いってくれたらいつでも見せてあげるのに」
「だから違うって言ってんだろうがぁ!!」
「ハハハ。冗談ですよ。そう怒鳴らないでください。……で、何が気になるんです?」
「いや……この前、華琳達と街を視察しに行った時にな……」
「はいはい」
「ある事情で竹カゴを買うハメになってな……」
「ああ、そういえば言ってましたね」
「でだ、そのカゴ屋の露天商をしてたのが李典だったんだよ……」
「なんとまあ……。いや~、世間は意外と狭いですねぇ」
「だな。オレもまさかこんな形で再会するとは思わなかったからな」
二人がそんな会話をしてる時、メガネをかけたおさげの女の子の于禁が慌てた様子でやって来る。
「夏侯淵様ー! 東側の防壁が破られたのー。向こうの防壁は、後一つしかないの!」
「……あかん。東側の最後の防壁って、材料が足りひんかったからかなり脆いで。すぐ破られてまう!」
于禁の報告を聞き、李典の顔が青ざめる。
傍らでそれを聞いていた零治は、表情は普段と変わらないが、低い声で亜弥に呼びかける。
「……亜弥」
「ええ、分かってます。ここが正念場ですね」
「ああ。……幸いここに来てる黄巾党の連中は、ドサクサ紛れに集まった野盗どもだ。今までの町人達と違って手加減する必要は無い……」
「ですね。では、連中には地獄を見てもらうとしましょうか……」
「決まりだな。……秋蘭」
「なんだ?」
「お前達はこのまま西側の防衛に専念していろ。オレと亜弥で東側に群がってるクズどもを潰してくる……」
「なっ!? いくらなんでも二人だけでなんて無茶ですっ!」
楽進が声を上げて反論する。まあ、彼女は二人の強さを知らないから当然と言えば当然の反応だろう。
「……大丈夫なのか?」
秋蘭が不安げな顔で訊いてくる。
以前の盗賊団討伐の時に、零治が無茶を平気でする男だと言う事を嫌というほど知らされているだけに余計に不安のようだ。
「オレが信用できないか?」
「……分かった。だが、くれぐれも無茶だけはするなよ」
「フッ。分かってるさ。また華琳に怒鳴られるのはご免だからな」
「ふふ。どうやら要らぬ心配だったようだな。なら、そっちは任せる」
「夏侯淵様っ!?」
「楽進。あの二人なら大丈夫だ。なにせ、彼らの強さは別格だからな」
「……分かりました。お二人とも、お気をつけて」
「ああ。東側は任せておけ」
「零治。私はあの建物の上から援護します」
「ん、どれだ?」
「アレですよ。アレ」
亜弥はそう言いながら、通りに有るやや大きめの二階建ての飲食店を指差す。
「あの屋根の上なら、東と西の大通りの両方を見渡せます。私はあそこから援護射撃を行いますね」
「了解だ。必要になったら合図を送る。連中に殺人蜂の一刺しをくれてやれ……」
「分かりました。では、行動開始といきますか」
「ああ」
そう返事をした零治は猛スピードで東側の防壁を目指して走り出した。
「秋蘭も援護が必要なときは言ってください。幸いあの位置なら何とか声も聞き取れますので」
「うむ。承知した」
「では、私も行ってきますかね…………ハッ!」
亜弥はその場から一気に跳躍し、建物の屋根の上に着地する。
義勇軍の三人の少女は、零治達の異様な身体能力を目の当たりにし、呆然と見つめていた。
「秋蘭様。兄ちゃん達……大丈夫ですよね?」
「今は二人を信じるしかあるまい。さあ、我らも西側の防衛に当たるぞ」
「はいっ!」
季衣は気合を入れ直し、力強く頷きながら返事をする。
「あの……夏侯淵様……」
楽進が恐る恐るの声で秋蘭に尋ねる。
「ん、どうした?」
「……あの二人は……一体何者なんですか?」
「うんうん。あの銀髪のお姉さん、ここから一気にあの建物の上に跳んで行ったし……」
「ほんまやで。あの赤毛の兄さんも、なんやとんでもない速さで東側へ走ってったし……」
李典と于禁も楽進の疑問に同意し、それぞれ疑問を口にする。
「貴公らの疑問も尤もだが、その説明は後回しだ。今はここを守り抜く事に専念するぞ」
「はっ!」
「了解や!」
「分かったのー!」
「もう少しで春蘭様達が来てくれるはずだから……みんな、がんばろー!」
………
……
…
「攻めろ攻めろ! 戦況は俺達が優勢だ! このまま一気に攻め落とせぇ!!」
「「「おおおおおおっ!!」」」
黄巾党達は東側の最後の防壁を破壊しようと、怒声を上げながら執拗に攻撃を仕掛けている。
「…………」
零治はただ黙って防壁の前に佇む。そして……。
「防壁が崩れるぞ! 全員離れろーー!」
最後の防壁が轟音を立てながら崩れ落ちた。
「……ん? なんだアイツ?」
「おいおい。まさかアイツ、一人で俺達全員を相手にする気かぁ?」
「おい兄ちゃん。悪い事は言わねぇ。そこをどきな。そうすりゃ悪いようにはしないぜ」
「…………」
指揮官らしき男が零治に呼びかけるが、零治は黙って黄巾党達を睨み付ける。
「おい! 聞こえてんのか、てめぇ! それとも死にてぇのか!!」
「バカが。死ぬのは貴様らの方だ……」
「この野郎! 言わせておけば! お前らぁ! やっちまえ!!」
指揮官の一声で、黄巾党達は雄叫びを上げながら各々が持つ武器を構え、零治に向かって突撃する。
「フン! クズどもが……。貴様らの地獄への道案内役……このオレが引き受けてやろう!」
零治はそう言い、叢雲を構えながら黄巾党の一団に突撃する。
「死ねっ!」
黄巾党の一人が零治に曲刀を振り下ろす。
「フッ……甘いなっ!」
しかし零治はそれをひらりとかわし、胴体に目掛けて叢雲を横に薙ぎ払い相手を真っ二つにし、相手の男は断末魔を上げる事さえ許されずに、切断面から勢いよく血を吹き出しながら通りに転がり、物言わぬ屍と化した。
「なっ!? この野郎よくも!」
「黙れ……」
零治は立て続けに近くに居た黄巾党に向かって、右手を捻って刃の向きを反転させ、下から上へと弧を描くように叢雲を振り上げながらその身体に一太刀を浴びせる。
「ぎゃあああああっ!」
斬り付けられた黄巾党は断末魔を上げ、身体から血を噴出しながら息絶えた。
「ええいっ! たった一人相手に何やってんだ! 数で攻めろ!!」
「「「おおおおおおっ!!」」」
後続の黄巾党達が雄叫びを上げながら続々と街になだれ込んで来る。
「フッ……頃合いだな。……亜弥! 殺れっ!!」
零治はそう叫び、左手を天に掲げ指をパチンと弾き鳴らした。
建物の上で待機して眼を閉じ、耳を澄ませていた亜弥は合図をしっかりと聞き取り、カッと眼を開く。
「むっ! 合図ですね。……では、連中に殺人蜂の一刺しを浴びせてやるとしましょうか」
亜弥は右手に魔力を集中させ、通常の矢よりも大きい、まるで破魔矢を連想させるようなサイズのオレンジ色に発光する矢を創り上げる。
「…………」
亜弥は双龍に矢をつがえ、無言でゆっくりと狙いを定める。
「夏侯淵様。アレは一体……?」
西側の防衛に当たりつつ、瑠利亜の様子を窺っていた楽進が秋蘭に聞く。
「分からん。彼女も私と同じ弓使いだそうだが……ああやって矢を創り出せるのか……」
「でも、矢にしては大きい気がするのー……」
「せやな。あの矢……どう見ても普通の矢より明らかに一回りはでかいで」
「あれ……? あの矢……前に使ってたヤツと違う……」
「ん? 季衣。違うとはどういう意味だ?」
「いえ……。前の戦いで姉ちゃんが使ってた矢って、青白く光ってたんですよ。あんな夕焼けみたいな色の矢じゃなかったんですけど……」
「……それに、狙いを上空に付けてるのも気になりますね……」
「確かに……。一体何をするつもりなんだ?」
「…………」
亜弥は全神経をつがえてる矢に集中させる。そして……。
「射殺せ…………殺人蜂の矢!!」
亜弥は東側の大通り上空に目掛けて矢を放った。
「……ん? アニキ、ありゃ何ですかね?」
「あん? どれだ?」
「ほら、あれですよ。あの光……」
黄巾党の一人が上空に有るオレンジ色の一筋の光を指差しながら指揮官に聞く。
「クックック……。アレはな……貴様らに死をもたらす光だ。今の内にお祈りでも済ませとくんだな……」
「はあ? 何言ってんだコイツ。頭がおかしくなっちまったのか?」
「さあ、殺人蜂達よ……。かの者どもに雨の如く降り注げ」
零治が立っている位置の手前上空まで飛んできた矢は、亜弥の声に反応するようにピシピシと音を立てながら亀裂が走る。そして……。
「さあ、ショータイムだ……」
零治のその一言が引き金となったかのように矢はそのまま砕け散り、小さな矢へと形を変え広範囲に拡散し、弧を描きながら黄巾党達に雨の如く降り注ぎだす。
「う、うわあああっ!? に、逃げろーー!!」
「どうだ。これで少しは追われる側の気持ちが理解できたかぁ? まあ、お前らの足じゃその矢が内包する魔力が尽きて消滅するまで逃げるのは不可能だろうがな。せいぜい、矢が急所を外れてくれる事を祈っておくんだな……」
「ぎゃっ!?」
「ぐあっ!? い、痛てぇ!」
「ぐえっ!」
降り注ぐ矢は次々と黄巾党の人間に突き刺さり、腕や肩、足などに走る痛みで悲痛な叫び声をあげながら地面をのた打ち回る者、運悪く喉や胸に矢が突き刺さり絶命する者達で溢れかえり、東側の大通りは一瞬にして阿鼻叫喚の地と化した。
「ふむ。まずまずの結果ですね」
楽進、李典、于禁の三人は唖然としてしまう。
「……まさか一本の矢が無数の矢に変化するとはな……」
「秋蘭様……。という事は、東側の黄巾党は……」
「ここからでは分からんが、恐らく東側の敵は殆ど片付いたと判断すべきだろうな」
「しゅうらーん! そっちは大丈夫ですかー?」
亜弥が大声で西側の秋蘭達に呼びかける。
「大丈夫だ。今のところ問題ない」
「そうですか。では、私は零治の様子を見に行ってきますのでそっちは任せます」
「分かった」
亜弥はその場から大きく跳躍し、東側の通りへ向かって行った。
「……真桜ちゃん」
「なんや……?」
「沙和……ひょっとして夢を見てるのかな……?」
「奇遇やな。今ウチもそう思ってたところや……」
あまりの非現実的な光景を目の当たりにした李典と于禁は軽い現実逃避に走ってしまう。
「二人とも。気持ちは分かるが、現実逃避するのはよくないぞ」
そんな中、三人の中で一番のしっかり者の楽進が二人にそう言い聞かせる。
「ああ……やっぱ現実なんやな。うぅ……もし、あの姉さんが敵やったらと思うとゾッとするわ……」
「確かにな。だが、今はそんな事を言っている時ではない。この勢いに乗じて敵を一気に押し返すぞ!」
「はいっ!」
「報告です! 街の外に大きな砂煙! 大部隊の行軍のようです!」
楽進の報告に、全員の顔に緊張が走る。
「なんやて!」
「えー……また誰か来るの?」
「敵か! それとも……」
その時、街の外から激しい銅鑼の音が響き渡る。
「お味方です! 旗印は曹と夏侯! 曹操様と夏侯惇様ですっ!」
………
……
…
「鳴らせ鳴らせ! 鳴らしまくれ! 街の中に居る秋蘭達に、我らの到着を知らせてやるのだっ!」
春蘭の指示に、銅鑼を担当している兵士が更に力強く銅鑼を叩き、銅鑼の音を辺りに響き渡らせる。
「敵数の報告入りました! 敵数、およそ三千! 我ら本隊の敵ではありません!」
「部隊の展開は!」
「完了しています! いつでもご命令を!」
「さて、中の秋蘭はちゃんと気付いてくれたかしら……?」
「華琳さん。街の砦らしき所から、矢の雨が放たれたとの報告が来ました。砦の旗印は夏侯。秋蘭さんは気付いてくれたみたいですよ」
「流石ね。なら、こちらが率先して動くわよ! 秋蘭と季衣は呼応して動いてくれるでしょう!」
「後々、敵の本隊と戦わなければなりません。ここは迅速に処理するべきかと」
「判ったわ。……春蘭!」
「はっ! 苦戦してる同胞を助け、寄り集まった烏合の衆を叩き潰すぞ! 総員、全力で突撃せよ!」
春蘭の号令と共に本隊が一斉に突撃を開始し、敵の掃討戦が始まる。
………
……
…
「零治。今の銅鑼の音は……」
「ああ。華琳達の本隊が到着したみたいだな」
「うっ……! く、くそ! 撤退だ! 撤退しろー!」
亜弥の攻撃を受け、傷を負いながらもなお生き残った黄巾党達が自分達の不利を悟り撤退し始める。
「ふぅ……。何とか追い返せましたか。……って、零治。貴方、何をしてるんですか……?」
零治は自分と背丈が同じ位の黄巾党の死体から身に纏ってる服を脱がせていた。
「……亜弥。コレをしばらく預けるぞ」
素早く黄巾党が着ていた服に着替えた零治はそう言って、着ていた自分の服と叢雲を無造作に放り投げ、瑠利亜は投げられた服一式と叢雲を慌てて受け取る。
「おっと!? ……何です。コスプレでもするつもりですか? てか、全然似合ってませんよ」
「うるせぇ。それより亜弥、奴ら……黄巾党の強みはなんだと思う?」
「奴らの強み……? そうですねぇ……我々みたいに特定の拠点を持たず各地を転々としてる可能性が高いですから、そのせいで官軍に動きが掴まれにくい点……とかですかね」
「そうだな。だが、あれだけの数に人数が膨れ上がったら、連中でも必ず持たなきゃいけない拠点がある」
「……ああ、なるほど。物資の集積地点ですね?」
「そうだ。あれだけの大部隊になったら、装備品と食料は現地調達だけでは賄えないからな。今から奴らの中に紛れて、その場所を見つけてくる……」
「……ふむ。私はてっきり張角を暗殺してくるのかと思いましたよ」
「今の所それはしないさ。まあ、この騒ぎを張角本人が煽ってるのなら話は別だがな……。じゃあオレは連中を見失う前にそろそろ出発する」
「ええ。華琳には私から説明しておきますので」
「ああ。頼むぞ」
零治はそう言い、黄巾党の追跡を開始し、小走りにその場を後にした。
「……さて、私も華琳達の所に合流しに行きますかね」
亜弥は華琳達に合流するため西側の通りに足を進める。
残されたのは亜弥の放った矢によって息絶えた黄巾党の死体のみ……。
その光景がまさに、街の防衛戦が華琳達の勝利で幕を下ろした事を物語っていた。
作者「流石は亜弥さん。いい腕してますねぇ」
亜弥「貴方に褒められても嬉しくないのはなぜでしょうね……?」
零治「オレのとこも、何か微妙にセリフが変わってたな」
奈々瑠「あぁ、あそこの事ですね」
臥々瑠「そうそう。あの、いかにも悪役って感じだったセリフね……」
零治「いま思えばそうだよ。何で当時はあんなセリフにしやがったんだよ……」
作者「その場の勢いで……」
奈々瑠「小説は場の勢いで書く物じゃありませんよ……」
臥々瑠「うんうん。その通り」
作者「いや、反省はしてますよ! だからそこは修正したんじゃないか!」
零治「はぁ……この先も不安だわ」
亜弥「それは今に始まった事ではありませんよ……」




